読切小説
[TOP]
潰れた目と開かれた目
 ある夜のこと……蛇神を祀る祠にて……
「んあああああああ♥」
 一人の魔物娘が、儀式によって産声をあげた。しかし、その魔物娘は少々変わっていた。
「あれ? 何かしら、この腕……?」
 儀式の手伝いとして参加していたラミアの一人が不思議そうな声を上げる。新たに魔物娘となった彼女の腕は鳥のような羽毛が生えていた。蛇神の儀式によって生まれるラミア系の魔物娘ではなかなか見られない現象だ。
「尻尾先もふかふか……腕の先も蛇とは違うウロコね……本当に何かしら?」
 同じく手伝いとして参加していたメデューサも戸惑っている声だ。彼女が述べた特徴も普通のラミア系ではまず見られない。
 しかし、新たに生まれた魔物娘は確かにラミア系の魔物娘だ。その証拠に、生まれたままの姿をしている彼女の腰から先は大蛇のソレとなっている。
「なるほどね……」
 儀式を施行したエキドナだけは合点が行ったように頷いた。伊達に人より悠久の時を生きている訳ではない。このような現象が起こることは聞いてはいたし、実際に自分で見たことも指で数えるほどだが、ある。
「バジリスクになったのね……」

 バジリスク……彼女らもまたれっきとしたラミア系の魔物娘である。他のラミアと違い、身体の一部が鶏のような羽毛に覆われているが、その一番の特徴は、メデューサとはまた違う、強力な魔眼だ。彼女たちの魔眼は、その視線にさらされるだけで身体を毒で蝕まれる、恐るべき魔力を持つ。旧世代では、そのひと睨みだけで多くの命を奪ったものであった。だが今は淫魔が魔王に就いた時代……その魔眼も相応の淫らな物になっている……

「エミリー・レイン……ようこそこちらの世界へ。どうかしら? 見えるかしら?」
 荒い息を整えつつあるバジリスクに、エキドナは優しく呼びかける。しかし、エミリーの声はやけに冷ややかだった。
「おそらく見えるわ……でも、私がバジリスクになったと言うならその目をすぐに開くつもりはないわ」
 すっとエミリーがこめかみに手をやる。キラリその手元が光り、次の瞬間には彼女の顔上半分は蛇の一つ目を模した仮面に覆われていた。
「ちょ、急に何言っているのよ?」
「旧世代の魔物じゃないんだから、別にその目は……」
「あなた達魔物娘が、以前の私達が考えていたような邪悪な存在でないことは知っている。私の潰れた目を魔物化によって治してくれたことに感謝もする……」
 驚いたラミアとメデューサの声をバジリスクは静かに遮る。
「でも、あとはそっとして置いて欲しい……」
 静かで有無を言わさぬ強さがありながら苦しげで絞り出すような声……その声に儀式を行ったラミア族の魔物娘は顔を見合わせる。ラミアが恐る恐ると言った感じで声をかける
「でも……」
 言葉は最後まで続かなかった。エミリーがラミアの方を向く。仮面越しでも彼女の視線に灼かれたかのようにラミアは感じた。そのくらい、彼女の周囲からは怒気のような物が放たれている。これ以上言ったら、相手が誰であろうとただではおかないと。
「……」
 メデューサから差し出された羽織のような服を来て、ずりずりと蛇の胴体をくねらせながらエミリーは無言で出て行った。後には三人の魔物娘が残された。
「なんか感じ悪いわね」
「ほんとほんと、同族とは言え、ちょっと頭に来たわ」
 ラミアとメデューサがくちびるをとがらせる。その二人の頭をエキドナはそっと撫でる。
「まあまあ、そっとしておきなさい。バジリスクは確かに冷静過ぎる上に陰険なところもあるし、彼女の場合はもとが教団の人間だからちょっと性格に難があるかもしれないけど……悪い娘じゃないわよ。それに……」
「それに……?」
 ラミアが訊ねる。小さくなってもう見えないエミリーの背中を見るともなしに見ながら、エキドナは優しげに微笑んだ。
「私達が心配しなくても上手くいくわ……どんな人間でも気持ちに嘘はつけない……ましてや魔物娘なら、ね……」

 エミリー・レイン……もともとはセントラクル王国出身の魔法剣士であった。いずれは勇者の仲間の一人となって、その剣術と魔法で魔王討伐の力になるであろうと言われていた。だがある時、不幸な事故があって彼女の目は光を失った。視力がなくとも戦う力はあったエミリーであったが、勇者の仲間として戦うのは不十分であろう。エミリーは故郷を逃げるように捨て、今の村に流れてきた。かれこれ十年前の話だ。
 彼女が流れ着いた村は蛇神を祀る親魔物の村であった。村の男や魔物娘は彼らを温かく迎え入れたが、もともと教団の息がかかったエミリーだ。その態度は極めて固かった。村人と打ち解けるのに四年もかかった。その四年の間に、エミリーの魔力はかなり強力であること、蛇神の儀式によってかなり強力なラミア族になれることが分かった。そして意外にもエミリーは自分からその儀式を自分から受けたいと言ったのだ。エミリーが村に馴染んでから三年ほどした時のことだ。魔物化によって目も治るというのであれば、と。だが、それ以外に関しては彼女は黙して何も語らなかった。

 こうしてバジリスクとなったエミリーは、村の外れに与えられた小さな一軒家にて静かに暮らしていた。そこで彼女は男と番になることなく、蛇神の巫女として一生を終えるつもりであった。しかし、人は一人で生きているわけではない。多くの者が関わりあって生きている。ゆえに、一人の意思がそのまま通るということはないのが世の常である……






 エミリー・レインがバジリスクになってから三年が過ぎたであろうころある静かな夜のことであった。エミリーは馴染んだ気配を感じ、眉を寄せた。その気配を感じてまもなく、ドアがどんどんと強く叩かれた。相手が名乗るより先にエミリーの鋭い声が飛んだ。
「来るな! お前の知るエミリー・レインはもうこの世にいない!」
「んなわけあるか! そんな答え方している時点で姉さんだろ!」
 そしてドアの叩き方が変わった。回数こそ少ないが、重たい音。同時に扉がミシミシと悲鳴を上げる。相手が何をしようとしているか気付き、エミリーは悲鳴に近い制止の声をあげた。
「やめろゲイリー! やめてくれ! そっとしておいてくれ!」
「いやだ!」
 そして次の瞬間、ドアがついに破れ、ゲイリーと言われた青年がそこに立っていた。エミリーは仮面をつけているがゆえその姿は直接見ていないが、魔力と熱探知、そして懐かしい気配で彼がそこにいるのを感じた。

 エミリーには年が十ほど離れた弟がいた。それがゲイリー・レイン……やがては勇者になるであろうと言われた少年であった。ゲイリーはエミリーから剣術と魔法を教わり、その実力は二桁もいかない年齢でありながらエミリーに迫ろうとしているレベルであった。
「大きくなったらオレ、ねえさんをなかまにさそうよ!」
「ははは、ゲイリーが大きくなるころには私はどうなっているかな?」
 故郷ではこのような会話をしたものであった。しかし、ある時不幸が起こってしまう。
 訓練中のとき、ゲイリーの剣が折れてしまい、その剣がエミリーの目を深く傷つけたのだ。すぐに癒し手が魔法を唱えたが、あまりに深すぎた傷は治らず、彼女は片目を失った。そればかりか、つられるように反対側の目も混濁していき、やがて彼女は光を失った。エミリーが盲目であったのはこのためであった。
 自分がこのまま国にいたら、ゲイリーの心を傷つけてしまう。かと言って魔物討伐のパーティーに誘われることもないだろう。エミリーが国を、家族を捨てたのはこのためであった。そして今、勇者候補と言われていた青年と、魔物の姿で向き合っている。

「ゲイリー……」
「……」
「はは、失望したか? そうだ、私は主神教団の者達がもっとも嫌う、魔物になったのだ。自分の目が惜しいがためにな」
 もっとも、目は回復したわけではないが、と何も言わない弟に対してエミリーは自嘲的に笑いながら言う。ゲイリーは何も言わない。
「熱や魔力でしか分からないが……だいぶ見ない間に大きくなったな、ゲイリー。立派な勇者になれたと見える。私を討伐に来たか?」
「……」
「稽古の延長で久しぶりに戦うというのもありかもしれんな……」
「うるせえ! 何言ってんだ姉さん!」
 エミリーの声を遮ってゲイリーは叫んだ。こちらに踏み出してくる気配にエミリーは大蛇の下半身を動かしてずりずりと後ずさった。
「来るな、来ないでくれ!」
「何も言わずに俺の前から去りやがって! 十年! 十年だぞ! 俺は死ぬほど寂しかったんだぞ!」
 バジリスクの制止の声を無視し、ゲイリーは歩みを進める。二メートルほど離れたところで止まったが、その距離は跳躍すればすぐにでもエミリーに掴みかかれる距離。対してエミリーの背には壁が当たっていた。
「だけど! 俺は頑張って勇者になった! なんでか分かるか!?」
「……」
「姉さんを探すためだ!」
 その答えは分かっていた。腹立たしいが、心の何処かで期待している自分すらいた。だが……
「だけど、私は魔物娘だ……勇者と魔物娘は相容れないぞ?」
 静かなエミリーの声に、感情を爆発させていたゲイリーの声も押し殺した物に変わった。
「……だろうな。姉さんならそう言うと思っていた……だから」
 だから、で続こうとするゲイリーの言葉。やはり自分は彼と戦うことになるだろうか。それなら喜んでこの身体を捧げよう。そうエミリーは思っていた。だが
「……だから姉さんは魔物娘になったんだろう? 俺から逃げるために……そう言って断るために……」
 心臓がひっくり返ったかのようにエミリーは感じた。図星であった。
 視力はあったほうが便利に越したことはないが、七年も視力に頼らず過ごしてきた。その気になればそのまま一生を過ごすこともできた。だが、それでも魔物化を自ら望んだ理由……それは視力の回復ではなく、勇者になるであろう弟が自分を探しに来た時、そのまま殺されるようにするためだった。
 十年も離れていたはずの弟がそれを言い当ててきた。さすがのエミリーも冷静ではいられず動揺した。
「どうして……?」
「どうして!? どうして分かるかって!? どうして分かったかって!? 決まっているだろ!」
 再び感情的になるゲイリーの声。その感情を爆発させた声が、彼の思いを乗せてエミリーにぶつけられる。
「姉さんが好きだからに決まってるだろう!」
 言い切る弟を前にエミリーは胸を押さえる。その奥で激しく打つ心臓の鼓動は今にも破裂しそうなほどに強く早くなっていた。ゲイリーの言葉はただの弟が姉に送る慕情のようなものではない……決して色恋には詳しくない彼女であったが魔物娘の本能でそれを察する。
 −−大きくなったらオレ、ねえさんをなかまにさそうよ!
 子どものころからこのように言っていて姉を慕っている様子はあったが……まさかここまで彼に言わせるとは。いや、あるいはそう言っていた時から彼の中では姉を女として想っている気持ちがあったのかもしれない。
『だから……』
 だから、今までは自分自身ですら気づいていなかったが、弟のその気持ちに向きあおうとせずに魔物化して、勇者と魔物という関係を作って弟から逃げようとしたのではないか……エミリーは自分自身をそう考察する。
 しかし考えられたのはそこまでだった。ゲイリーがさらに一歩、足を進めた。エミリーはびくりとしたが、その背はすでに壁が当たっている。
「ま、待ってゲイリー……」
「待てない……十年も待たされたんだ。おまけにもう数秒、なんて話はナシだぞ」
 そのままゲイリーはエミリーに抱きついた。十年前と同じように。身体の大きさこそ変わったが。真正面から弟は姉に抱きつき甘える。
「んんっ♥」
 エミリーが声を上げる。驚いたというのもあるが、理由がもう一つある。
「ずっとこうしたかった……今だけは、数年分くらいこうさせてくれよ、姉さん……」
「だめっ……本当に、だめ……」
 バタバタともがくエミリーの羽毛に包まれた手には力が入っていない。そして声にはやけに艶が混じっていた。抱きついた時は久しぶりの姉の感触に酔っていたゲイリーであったが、さすがにエミリーの変化に気づいた。抱きつく力をゆるめ、彼は姉の顔を覗き込む。
 訓練の時は凛々しいエミリー・レイン。その顔はゲイリーが見たことがない表情を浮かべていた。口はだらしなくゆるみ、よだれすらこぼれかけている。開かれたそこからは熱い吐息がひっきりなしに出入りしていた。肌はゲイリーがこの家に押し入った時と比べると上気しておりうっすらと桜色に染まっている。
「姉さん?」
「仮面を、つけて……いると……刺激が、強いから……ダメなのに……」
 荒い息の下でエミリーは切れ切れにそう言う。
 魔眼の力を封じるために視界を仮面で覆っているバジリスク……その分、彼女らは他の感覚器官が発達している。熱探知と魔力探知だけではない。男の声や息を感じ取る聴力、男に触れられる触覚……淫らな魔物娘でもあるバジリスクは男の存在を敏感に感じ取るやいなや、身体はその男と交わる準備を整えてしまうのだ。
「姉さん……」
 そして勇者と言えども、そんな姉の発情した姿を見て無反応でいられるゲイリーではなかった。もともと勇者になったのも姉を探しに行くためと言う邪な考えが元にあった彼だ。海綿体には血液が集まっていき、熱を持っていく。バジリスクはそれを鋭敏に探知する。
「ゲイリー、これは……?」
「し、仕方ないだろう!? 姉さんがエロいんだから!」
「な!? 私のせいにするか!?」
「……」
「……」
 姉と弟、女と男、互いに相手に対して発情している状態。勇者は股間をいきり立たせ、魔物娘は股間を濡らしている。だが何も言わない。ふたりの間に複雑でありながら間抜けな空気が流れていた。
 その空気に耐え切れず先にやぶったのは、はじめから勢いがあり、この家に踏み込んできたゲイリーの方だった。
「良いよな、姉さん……」
「ま、待て待て待て待て! 何が良いよな、だ! そんな……んんっ♥」
 エミリーの抗議の声は途中で途切れる。ゲイリーの腕が再び彼女の身体に回っていた。勇者はそのままバジリスクの耳元に口を寄せる。
「姉さん……好きだ……もうがまんできない。姉さんが欲しい……」
「……!?」
 耳元からくすぐったさにも似た快感が全身に広がり、エミリーは身体を震わせた。腰布の奥で、濡れてきている膣壁がジュンと音を立ててさらに愛液をにじませる。
「ああ、姉さん……んっ」
「ひああああっ♥」
 もう声が抑えられなかった。不意に耳に落とされたくちづけにエミリーは嬌声を上げた。姉の反応に気をよくした弟の行動はさらに大胆になる。耳に熱い吐息を吹きかけ、ふたたびくちづけを落とす。それだけでは終わらない。片手はエミリーの身体を抱いているが、もう一方の手が空いている。その手が降りて行き、胸元でたわわに実っている白い膨らみをそっと握る。
「ああ、やわらかい……子どものころ、何度触ってみたいと思ったか……」
「こ、このふしだらな……!」
「ふしだらなガキだったから仕方がないし、もうガキじゃない」
 嘯きながら無遠慮に弟は姉の乳房を揉みしだく。そのやわらかな感触を堪能し、触られるたびに小さく声を上げて身体をよじる女の反応を楽しむ。
 行為はさらにエスカレートし、ゲイリーはバジリスクの羽織をずらして、胸のいただきを覗かせる。固く凝ったそれをぷるぷると指で弾いてみせる。魔物娘の身体の震えが大きくなった。
「だめ、ゲイリー……本当にダメ……」
「なに言ってんだ姉さん、そんなにエロい姿をしておきながらその言葉は説得力ないよ。それに……本当にダメなら俺を突き飛ばせばいいだろう?」
 彼の言うとおりであった。男に近づかれると発情してしまうバジリスクであるが、男であれば誰でも良いと言うわけではない。すでに番がいたり心に決めた男がいれば、発情することなく全力で抵抗する。バジリスクほどの実力であれば一端の戦士一人くらいであれば朝飯前であしらうことができる。
 しかし突き飛ばすこと無くゲイリーの愛撫に身を任せているエミリーは……つまりは
「と言うか、俺の足に尻尾を巻きつけているじゃないか……姉さんもまんざらじゃないんじゃないか」
「う、うう……」
 発情以外の理由でエミリーの頬が赤くなる。つまりはエミリーもまたゲイリーを求めているのだ。結局のところ、エミリーが逃げていたのはゲイリーの気持ちからだけではない。自分の気持ちからも逃げていたのだ。
「んひぃいいい♥」
 不意にエミリーは声を上げ、身体をのけぞらせた。いつの間にか弟の手は自分の腰布をどけており、奥に潜んでいた大事な部分に沿わせたのだ。どくどくと蜜を垂らしている花園。仮面をつけているがゆえその感度は上がっており、撫でられるだけでアクメに達しそうであった。
「こんなに濡れているんじゃないか。姉さんはエッチだなぁ」
「し、知らない♥ こんなの、私の身体じゃない♥」
「恥ずかしがることないじゃないか。俺だって姉さんの姿を見てこんなになっているし」
 姉の手を弟は自分の股間に這わせる。先程から熱が集まっていたその器官はさらに熱を持ち、張り詰めていた。自分を求めてここまで熱り勃っている……その事実が魔物娘の子宮をきゅんと疼かせる。
 そして、ゲイリーの指が姉の中に入り込んだのはその時であった。
「っ!? くぅうううう♥」
 片腕と大蛇の下半身で姉は弟の身体にしがみつく。達していた。かなり強い力で締め付けられたことになるが、勇者として鍛え上げられている彼はその程度ではびくともしなかった。
 やがて絶頂の嵐が過ぎ去り、エミリーの身体は脱力する。ぐんにゃりと彼女は崩れ落ちた。
「姉さん、イッちゃった?」
「はぁ、はぁ……バカ……どこで覚えてきたんだ、こんなの……♥」
 弟からの答えはない。若干、眉が不機嫌そうに寄っている。すまないと、エミリーはつぶやいた。そして偶然目の前に突きつけられている弟の一物を見てみる。ピット器官でみるまでもなく、布越しですらそこは熱を持っていることが分かり、今にも爆発しそうであった。そしてそこからは魔物娘を魅了してやまない、想い人の精の匂いが漂っている。その匂いを嗅いだだけでエミリーの意識は飛びかけた。

 絶頂直後にさらに精の匂いを嗅いで意識がもうろうとしている姉は、弟によってその衣服を剥がれ、生まれたままの姿にされ、ベッドに横たえられた。だらしなく弛緩している魔物娘の上に、同じく衣服を脱ぎ捨てた勇者がまたがる。しとどに濡れそぼったソコに、自らの分身を押し当てた。
「いいよね、姉さん……」
 答えはない。バジリスクは口を結び、顔を背けている。その頬は紅潮している。仮面で隠されているが、潤んだ目は今か今かと挿入を待ちわびて男の方を見ていることだろう。蛇の尾は、ぐずっているようであれば自分から挿入させると言わんばかりにちゃっかりと彼の腰に回されていた。
 弟は姉の身体に身を沈めた。バジリスクもまた尾を使ってその挿入の手助けをした。ずぶずぶと肉棒が肉壷に潜り込む卑猥な水音が部屋に響き渡る。
「うあ、あ……」
「んああああああ♥」
 男女の嬌声が響き渡った。姉と弟、魔物娘と勇者、女と男……想い人は繋がりあった。
 その肌をあわせる面積をさらに増やそうとばかりにゲイリーは身体を倒した。手は抱え込むようにしてエミリーの頭の横に置く。そしてエミリーの耳元でうわごとのように囁く。
「好きだよ、姉さん……ああ、気持ちいい……温かくて、ぬるぬるしていて、それでいてひだがたくさんあって……締め付けてきて気持ちいいよ……ああ、これが姉さんのナカなんだね……」
「……!」
 囁かれたエミリーの身体がびくびくと波打つ。ゲイリーに挿入の快感とゲイリーに囁かれたことによる吐息、その内容だけで達したのだ。そして波打ったのは身体だけではない。その膣内も大きくうねっていた。男を射精させるべく。慌ててゲイリーは道連れにされないように腹筋に力を込める。
 エミリーの顔半分は仮面で覆われており、分かるのは頬と口だけだ。その口はだらしなくぽかんと開いており、熱い吐息がひっきりなしに出入りしている。自分がそうさせているのだという満足感に浸ったゲイリーは、その口にみずからの口を重ねた。そしてストロークを開始させる。
「んんっ♥ んんんん♥」
 エミリーのくぐもった嬌声がゲイリーの口の中に送り込まれた。しばらくすると息が苦しくなり、ふたりはくちびるを離したが舌はつながったままだった。くるくると舌が踊るようにして互いのそれを舐め回す。
「あ、あはぁ♥ ゲイリー♥」
「姉さん……」
 その間にもゲイリーの抽送は止まらない。肉と肉がぶつかり合い乾いた音をたて、粘肉と粘肉がこすれあい水音を立てる。
 エミリーは尾と腕を使ってゲイリーの身体にしがみつく。仮面を着けたままが故に感度が跳ね上がっている彼女の媚粘膜と子宮口は、弟の圧倒的な存在感を感じ取る。そしてより敏感に感じ取ろうと粘液を分泌させ、ぎゅうぎゅうと締め付ける。ヴァギナの螺旋状の襞がペニスにからまりつき、単一ではない存在感と快感を肉棒から男の身体に送り込む。それに耐えるかのように、ゲイリーもまたエミリーの身体にしがみついた。
「だめぇ……♥ またイクぅ……イッちゃうぅう♥」
 再びの絶頂の予感に、バジリスクは甘えた声でうわ言のように口走る。
「ようやく素直になってきたね、姉さん……」
 涼しげに言ってみせる勇者だが、先ほどは我慢できた彼も、今度は無理そうであった。腰の奥がじんわりと温まり、目の前の魔物娘に種つけをしようと準備を整えている。
「中に出すよ、姉さん……一緒にイコう……」
 答えを待たずにゲイリーはエミリーの口を塞ぎ、ラストスパートをかける。それに応えるように、姉も下から腰を左右に揺すって弟を刺激する。
 やがて射精が始まった。子宮口に叩きつけられる想い人の精を受け、魔物娘の身体はよりそれを求めようと男性器を締め付ける。口と口、胸と胸、性器と性器、脚と尾……限りなく二人は肌の面積を合わせたまま、アクメの快感を二人で味わった。
「はぁ、はぁ……」
「あんっ♥ あ、あはぁ……」
 しばらく二人は口を聞けなかった。それだけ激しい快感であった。初めてのセックスでここまで上り詰めることができるのも、二人が姉弟ゆえの相性からか。
 だが、弟には不満があった。まだ彼は彼女から「好き」と言う言葉を聞いていない。そして……
「姉さん……その仮面はつけたままなのか?」
 少し呼吸が落ち着いたところで、しかしつながったまま、ゲイリーはエミリーに訊ねる。え? とエミリーの口が尋ね返す。その上は仮面に覆われており、表情は伺い知れない。
「その……ここまでほぼ全部を見せているんだ。少なくとも俺は身も心も全部姉さんに見せた。だから俺も、姉さんのすべてを見たい」
「……ワガママな奴だな……私のすべてを見たいと? この仮面の下も?」
 エミリーの目は剣のかけらで深々と見るに耐えないレベルで痛々しく傷ついたのだ。光を失ったのも大きかったが、それだけの傷を年頃の娘が負ったというのも大きい。その傷は、半分はゲイリーのせいと言える。
 それをゲイリーは見せて欲しいと言うのだ。醜い部分を見せろというワガママ。だが、目は口程に物を言うとも言われる。その目を見ることができない不安と言うのは理解できる。また、自分が作った傷を直視し、受け止めようとする……ゲイリーのその覚悟がエミリーには分かった。
「……」
 そっとエミリーは両手を目元に持って行った。そして、蛇の一つ目を模した仮面を外した。人間の間の四年間、バジリスクになってから三年間、誰にも晒されなかった、エミリーの素顔が、愛する弟の前に晒される。
 刀傷は残念ながら魔物化してもなお、くっきりとまぶたを縦断する形で残っていた。それだけ深い傷だったのだ。自分が作ったその傷……その傷からゲイリーは目をそらさず、受け止める。
「引いていないか?」
 仮面は外したが、エミリーはまだ目を閉じていた。魔力と熱だけでゲイリーの様子を伺っている。故にゲイリーの細かな表情は分からない。
「んなわけあるか。姉さんならどんな姿でも、どんなことになっていても受け止める。だけど……この傷は本当にすまなかった……」
 そっとゲイリーはエミリーのまぶたを撫でた。同時に彼の目から一粒、涙がこぼれ、エミリーの頬に落ちた。
「泣いているの? ならその言葉には嘘はなさそうだな」
「うぇ!? う、うっせえ! 泣いてなんかいないぞ!」
「その言葉は嘘だな……熱探知だけでも泣いているのは分かるが……どれ、十年ぶりの弟を拝顔するとするか……覚悟することだな」
「え?」
 どういうことかと訊ねるより先にエミリーの目が十年ぶりに開かれた。彼女の瞳は人間であったその時とは違い、金色に輝き細い一本線が縦に入っていた。まさに蛇の目。その目はしっかりと、弟の顔を映し出し、彼女に視覚情報として脳に送っている。傷こそ残ったものの、エミリーの光は取り戻されていたのだ。そして、その目はもう一つのもともと持っていた仕事をする。
「……しばらく見ない間に立派になったな。姉として嬉しい限りだ」
 一つ瞬きをしたその目からこぼれ落ちるしずく……弟と再会し、愛され、そしてその姿を見た歓喜が、涙と言う形で溢れ出た。エミリーの目は復活していた。
 だが、ただ復活しただけではなかった。
「う、あ、ねえさ……」
 がくりとゲイリーの身体が崩れ落ちる。ぐったりとしており、エミリーに全体重を預けることになっていた。それだけではない。
「あっ、あっ……なんで……アソコが……たって……あつく……」
「効いてきたようだな……バジリスクの視線を受けて無事でいられると思ったか?」
 にんまりと笑ってエミリーはゲイリーの身体の下から抜け出し、逆に組み敷いた。
 旧世代では、そのひと睨みだけで命を奪い去っていたバジリスクの魔眼。その魔眼は現世代になってからどうなったか。その視線を受けた獲物は全身が弛緩し身動きが取れなくなると共に、発情効果と発熱を引き起こす。本人では如何ともし難いくらいに、思考がおぼつかなくなるくらいに。
 それだけではない。その視線を受けた男は、身体も変化する。具体的には精を放ちやすくなる。毒を何とかして排泄するかのように。そのため、男性器も普段以上に熱り勃つ。
「ほぅら……♥」
 魅せつけるようにエミリーは少し腰を上げて見せた。姉の陰唇に舐められながらずるずると引き出された愛液まみれの弟のペニスは、普段以上に太くなっており、びきびきと青筋が走っていた。
 エミリーは腰を打ち付ける。そのワンストロークだけで、勇者はバジリスクに屈服した。どくどくと、精液が姉の胎内に重力に逆らって注がれていく。
「あはぁ……♥ せーえきぃ♥ 可愛いゲイリーの精液……♥」
 もうエミリーは止まらない。逃げていた弟の気持ちと自分の気持ちを受け止め、その気持ちを偽らず、解放する。そしてその気持ちは身体を突き動かす。
 エミリーの腰が踊り出した。愛する男を気持ちよくするため、その精を受けるため、そして自らが気持ちよくなるため。
「ねえさ……はげしす……ぎぃい!」
「気持ちいい? 気持ちいいゲイリー? 私はすごく気持ちいいぞ♥」
 身体を起こし、魔眼でゲイリーを見下ろしながらエミリーは腰を揺らす。魔眼に晒され続けている勇者はバジリスクに犯され続ける。先ほど自分が精液を注いだ螺旋状の襞の膣肉にしごきぬかれ……
「ああああっ!」
 弛緩している身体が跳ね上がる。オスの本能がメスに種付けしようと突き動かしたのだ。三度目の精液がバジリスクの蜜壺に注がれていく。だが彼女は満足しない。過去の、稽古をつけていた凛とした姿をかなぐり捨て、ぐちゃぐちゃと卑猥な音を立てながら、姉は弟の上で淫らに踊る。
「まだ出るだろう? このくらいでへばるゲイリーではないことを私は知っているぞ♥ ほらほら♥ 金玉の中身が空っぽになるくらい出して貰うからな♥」
「ひっ、ひっ……」
 暴力的な快感と姉の横暴的な言葉にゲイリーの顔が引きつる。その顔にエミリーは少し心配を覚える。身体を少し倒し、弟の顔を覗きこむ。
「私のことが好きではなかったのか? こんな姉だとは思わなかったか?」
 ゆっくりとゲイリーは首を振った。バジリスクの視線で身体は弛緩していたが、彼の意思が身体を動かさせた。そして言葉が紡ぎだされる。
「好きだ、姉さん……愛している……」
 熱に浮かされたような、それゆえに彼の口から出た愛の言葉。その言葉がエミリーの身体を燃え上がらせる。
「私も、愛している……ゲイリー……」
 初めて口にされた、バジリスクの、姉の、エミリーの愛の言葉であった。
「もう私は逃げないし、お前も逃さないぞ……♥ 愛している……愛している、ゲイリー……♥」
 言った言葉を実践するかのようにバジリスクの尾は弟の身体を縛り上げた。
 目と目をあわせ、性器と性器でつながりあい、身体をこれ以上になく密着させ、二人は上り詰めていく。
「ねぇさん、また……」
「私も、も……♥」
 バジリスクの視線でもうろうとしながらも、弟は射精が近いことを姉に訴える。姉の方も、我慢ができなくなっていた。仮面を外して少し刺激に強くなってはいたが、自分と弟の愛の言葉で高ぶっていた。だらしなく長い蛇の舌をつきだしている。
 そしてその時が二人の身体に訪れた。
「ねえさ……うあああああ!」
「ゲイリー……♥」
 互いの名前を呼びながら、姉弟は果てた。





 その後、ゲイリーの毒が抜けるまで二人は交わり続けた。今、ゲイリーは疲れ果ててしまい、眠っている。さすがの勇者もバジリスクとの交わりは身体にこたえたようだ。姉の胸に顔を埋めるようにして眠っている。彼にとっては十数年ぶりの姉による添い寝だった。大きくことなるのはふたりとも裸ということか。
「……こんなところは十年前と変わっていないんだな……」
 自分を凌ぐほど強かったのにワガママで甘えん坊な弟に姉は苦笑する。その腕で、尾で姉は弟の身体を包み込むようにしていた。
「十年か……」
 その時は長く、少年を男に変えるのに十分な年月であった。見れば見るほどゲイリーは様変わりしていた。顔つきは面影を残しつつも引き締まっている。身長は六フィート近くだろう。肩幅は自分より広い。無駄な贅肉などなく、裸であるのに革鎧を着ているのではないかとすら思わせる。この身体が自分と交わり、自分の中に精液を注いでくれたのかと思うと、また股間が濡れてくる。しかもこの男は自分の弟なのだ。普通であれば結ばれることはなかったであろう。
「……そう考えると、この傷も悪くはなかったかもしれないな……」
 そっと彼女はまぶたを撫でる。不幸にしてできた傷……だが周り回って、潜在意識のうちに男として愛してしまった弟と結ばれるきっかけになった傷……
「十年か……」
 もう一度、エミリーはつぶやいた。長かった。だが、これから二人で暮らす時を考えれば、ほんの遠回りしただけの時間だ。
「その時間をめいいっぱい使うためにも、今は眠らないとな……」
 そっとエミリーは魔眼を閉じる。久方ぶりの、仮面を着けないでの睡眠であった。
 仮面を着けていない彼女の寝顔は安らかであった……
16/03/10 23:46更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)

■作者メッセージ
ラミア「なるほどねぇ……そんなことがあったのねぇ」
メデューサ「母さまはこのことも見越していましたか?」
エキドナ「まあ、ね。伊達に永く生きているわけではないのよ」


というわけで、見つめ合っていちゃらびゅなセックスが書きたくて、肉体的に忙しくて辛い時期ではありますがSSを一本書き上げました。ええ、他の原稿とか企画とか動画とか全部うっちゃって(ダメだろ、それは)
お口に合えば幸いです。

そういえば今ちらっと「動画」と言いましたが、魔物娘図鑑の魔物娘がTRPGのSW2.0で遊ぶ『魔物娘ga TRPG-魔女とバフォ様のSW2.0-』をニコニコ動画で公開しております。健康クロス先生も紹介しているので、よかったら御覧ください。
新しい章も近日中に投稿を目指しております。

それにしても匂いを嗅いだり耳元で囁かれるだけでへたっちゃうって可愛すぎだろバジリスクちゃん……

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33