連載小説
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後編
 手早くシャワーを浴び、デニムのショートパンツとピンクチェックのキャミソールといった格好に着替える。時刻は夜の9時を回ろうとしている。お腹が空くわけだ。とりあえず何か作ろう……そう思って私は冷蔵庫のドアを開けようとした。
 その時だった。がしゃんと外で何か大きな音がしたのは。まるで、自転車か何かが倒れたかのような音であった。いや、実際に倒れた音なのではないか?
 それからしばらくして玄関のベルが鳴った。こんな時間に誰だろうか。微かに私は眉を寄せた。警戒心を高めながら私はインターホンのモニターを見る。そして驚いた。
 玄関の前にいたのは久保田知城であった。先ほどの自転車の音も彼の物だろう。傘も差さずに自転車を飛ばしたようだ。濡れている。
 いきなりドアを開けずにインターホンを押したのは夕方とくらべて大変結構だが、こんな時間に、それも雨の中どうしたと言うのだろう。私はインターホンの通話のボタンを押した。
「はい」
「……こんな夜分に恐れ入ります。か……玲亜さんの友達の久保田ですが……」
「私よ」
 意外に流暢に離す知城に少し呆れながら私は応える。いや、よく考えてみたら弓道の先生や、学校の先生には普通にしゃべっているのだから当たり前なのだけれども。
 私の声を聞いた知城の表情と声が硬くなる。が、彼はすぐにまた話しだした。
「加賀美……夜遅いけどどうしても直接会って話したいんだ。開けてくれないか?」
「ちょ、ちょっと待って……」
「待てない」
 すぐに返ってきた言葉に私は息を呑んだ。夕方のときのはっきりしない態度とは明らかに違う。こんな時間に来たことといい、これもキューピットの矢の影響だろうか。
 押し問答をしていても仕方がないし、彼を求めたのは確かに私だ。この時間に来ることまでは望んでいなかったけど。私は玄関のドアを開け、彼を家に上げた。
「……!」
 瞬間、緊迫した空気が張り詰めた。廊下で突然知城が私の行手を阻むように、壁に手をついたのだ。彼の顔が目の前に迫っていた。背中には壁、目の前には彼、右手側には彼の左手……そのままでは逃げられない。だが彼が私の腕を掴んでいると言うことは、私の腕だって届く距離。その気になれば私は彼の顎や体幹や下半身に一撃でも加えて逃げることができる。でもパニックに陥ったか、私は覆いかぶさるようにして立っている彼の前で縮こまった。それでも、何のつもり、と訊ねることはできた。
「……加賀美、お前……"あの矢"を使ったろ……」
 知城が訊ねる。その声は絞りだすかのように苦しげであった。心なしか、身体が震えているようにも見える。寒さで? いや、それとは何か違う気もする。そして私も、あまりの事に微かに身体を震わせていた。
「え、ええ……そうだけど……」
「くそっ……! 早まったことを……!」
 悔しげに彼は顔を歪める。やはり、他に好きな人がいるところに私の矢を打ち込んだのはまずかったか……
 それでも、私は彼を振り向かせたかったのだ。例えその先にどんな悲劇や修羅場があったとしても。
 手放したくなかったのだ。そうしないとその先すらなくなってしまうのだから。
 だから私は、悪魔の囁きに耳を貸した私は彼やその好きな人のことなど考えずに、私の欲望に身も心も任せた。
 知城の口が開かれる。きっと、私をなじる言葉だ。好きな人がいると知っていながら、キューピットの矢を使って強引に私に思いを向けさせようとした事に対しての。確かに、それは私が悪かった。
 しかし、それとは別に彼の罵倒の言葉や恨みの言葉を真正面から受け止める勇気は、私にはなかった。身勝手に矢を打ち込んでおきながら、卑怯きわまりない。私は知城から逃れようと彼の右手から抜けようとした。だが彼は電光の速さで私の手首を掴み、強引に振り向かせた。そして言った。
「いいか、もう抑えが効きそうにない。一度しか言わないからよく聞け……」
「いやよ……」
 耳を塞ぎたかったが片手が封じられては彼の声を遮断できない。せめてもとばかりに私は目を強く閉じた。そんな私に言われた言葉は……
「加賀美……俺はお前が好きだ……! 矢を撃たれたとか関係なく……!」
「……え?」
 思わず閉じていた目を開く。そこには矢のように真っ直ぐに私を見据えている久保田知城がいた。目を爛々と輝かせていてちょっと怖いけど、それでもその目に嘘偽りは無さそうだった。
「だって、あなた……好きな人が出来たって……」
「だからそれがお前……すまな……もう無理だ……!」
「え? 何が……んむぅう!?」
 訊ねようとした私の口は封じられていた。彼のくちびるによって。そう、私は彼に強引にくちづけされていた。何の準備もなく、私のファーストキスは彼に奪われた。それでもその初めてが彼に捧げられたことに、幸福感があったのも事実だ。彼に包まれている私は、壁によりかかったまま力なく崩れ落ちそうになる。それを防ごうと知城は私の背中に手を回し、強引に私を起こして抱きしめてきた。彼に密着して私は気づく。彼のアソコが勃っていることに。
「んぷ……知城、どうしてこんなに……」
 キスの合間に私は知城に訊ねる。怒ったような声で答えが返ってきた。
「お前の矢のせいだろ……」
「ち、違う……キューピットの矢にそんな効果は……あっ……」
 私のお腹に彼の物がぐいっと押し当てられる。先程は勃っていることだけが分かったが、今度はその程度までが分かってしまった。ガチガチになっている。
 彼が私を求めてくれている……その事実に私は身体をびくりと震わせた。同時に、シャワーでクールダウンしていたはずの身体にまた火がついたのを感じる……私も、彼が欲しいと。
 そこまで思い至って私は気付いた。どうして知城がこのようなことになったか。
 キューピットの矢は確かに恋文のようなものだ。確かに。射られた男に、その想いは口にしなくても伝わる。だが、その想いがあまりにも大きく、強かったらどうなるか? その場合、射抜かれた男の心は射手の心に同調し、恍惚状態になったり、強烈な愛欲が呼び覚まされたりすることになる。
 知城に矢を放った私は直前までオナニーをしていた。それでも満たされない心を持って、彼に矢を放った。彼がこうなるのも当然と言えた。
「こんな……俺だってこんな……強引なことしたくないのに……なのに……!」
「分かってる……分かってるわよ……それに……」
 私は自分から腕を伸ばして彼の首に回し、抱き寄せる。雨に濡れた彼の服は冷たかったが、その下の身体は熱かった。
 知城が険しい顔つきに反して優しい性格であるのは良く知っている。だから、キューピットの矢に突き動かされて私を犯すことにためらいを感じている。でも、それに抗えない……分かっている。
 こうなったのは私の責任だ。私がそれを望んで、矢を放ったのだから……だから……
「私の矢を受けたのでしょう? なら私の気持ちも分かるでしょう?」
「……」
「……」
 二人の間に沈黙が漂う。だけどそれは決して不快な物ではなかった。もう、二人の気持ちは分かっているのだから……
 廊下で私たちは、互いにくちづけを交わした。


 その場で事に及びたいほど我慢が辛かったが、搾りかす程度に残っていた理性がそれを咎めた。幸い、私の部屋は玄関から入ってすぐだ。
 私は引っ張って彼を部屋に招き入れ、彼も抵抗なしにそれについてくる。部屋に入った私たちはそのままもつれ込むようにしてベッドに倒れこんだ。二人分の体重を受けてベッドが悲鳴を上げたがなんとか持ってくれた。そもそも、私たちはそれに気づけないくらい、互いに夢中になっていたのだけれども。
 ベッドの上で私たちは身体を寄せ合い、キスをする。だが今度は先ほどまでのキスと違うところがあった。手があちこち動き回っていた。私は彼のワイシャツのボタンを外したり手のひらで彼の勃起をさすったりし、彼は私のショートパンツのヒップとそこから伸びている脚を撫でる。
 少し私の身体を押して、知城は私を仰向けにした。太ももの外側を撫でていた彼の手が、内側にも伸びた。
「すげぇすべすべしてる……」
「そう……」
 知城に魅力的だと言ってもらえ、嬉しかった。返事は短くてそっけなく、伝わりにくいだろうけど。それでも彼は分かってくれたらしい。私に構うことなく太ももを撫で続けている。それどころかその手は少し上の方に伸びた。
 思わず私は脚を閉じようとした。男の人のアレと違って女のアソコは興奮しているのが分かりにくいだろうけど、彼の興奮しているペニスをさすっていた私は、自分の発情が感付かれそうで恥ずかしかったのだ。今更だけど。
「濡れてる?」
 そんな私にわざわざ彼は訊ねてくる。意地悪だ。それを訴えようと私は知城を見たが、知城は私の顔を見返すだけで何も言わない。その顔は情欲に綾取られていること意外はいつも通りの顔だ。ニヤニヤと笑っていない。意地悪をして訊いているわけではないのだ。ただ純粋に私の興奮を訊ねているのだ。そのほうが「バカ」と言い返せないから、なおさらたちが悪い
 無言で知城は私のデニムショートパンツのホックを外した。恥ずかしくなった私は彼の胸に顔を埋める。だけど抵抗はしない。恥ずかしくても、望んでいるから。
 ファスナーまで下ろした彼は、上から強引にショーツの中に手を挿し入れてきた。その指はすぐに私のアソコをとらえた。
「んっ……!」
 快感と羞恥心に思わず私は彼に強くしがみつく。声も漏れてしまった。知城の動きが止まる。
「……痛かったか?」
「……うぅん。もっと、触って……」
 その気持ちが嘘でないことの証明に、私は自らショートパンツとショーツを下ろした。これで私の下半身は何もない。今、私が身につけているのはピンクチェックのブラキャミソールだけ……その裾に手をかけて私は訊ねる。
「……上も脱いだほうがいい? 胸、見たい?」
 ややあって知城は頷いた。強面の彼が、女の身体を見たいと言う欲求に、幼子のようにこくんと頷く様子はぞくぞくする物があった。彼の視線を感じながら私はキャミソールを脱ぎ捨て、すべてを晒した。ごくりと知城は喉を鳴らした。
「……どうかしら、これが私だけど……」
「……すごく、綺麗だ……」
 うわ言のように彼は呟いた。彼の目は私の身体に釘付けだ。そのまま吸われるかのように知城は私の胸に手を伸ばし、顔を寄せた。両手でむにゅりとその柔らかさを堪能し、口で先端を吸いたてる。
「んっ、んんんっ!」
 これまで自分で胸を揉んだり乳首を指で転がしたりすることはあっても、吸ったり舐めたりすることはなかった。初めての感触に私は身体をぴくんと跳ねさせ、声を漏らした。
 私の反応に気を良くしたのだろう。すげえ柔らかい……と呟きながら彼は夢中になって私の胸を思うがまま弄び、赤子のように吸う。オナニーでは得られなかった快感に、私は彼の頭を抱え込み、嬌声を上げた。
 これだけでも気持ち良いのに、私の矢で情欲を駆り立てられている彼はさらに行動を起こしてくる。知城は胸から右手を離して下肢に伸ばそうとした。またアソコを攻めてくれる。私はそっと脚を広げて彼の手を受け入れやすくした。腟口がぬるりと撫で上げられる。
「あぁあ!」
 それまでにない、大きな声が私の口から出て、腰が跳ねた。少し私の反応に驚いた知城だったが、さっきのように完全に止めたりはしない。慣れてきたのと、私の矢の影響で抑えが効かないからだ。にちゃにちゃといやらしい音を立てながら彼は割れ目に沿って指を動かし続ける。
 やがて知城は私が最も感じる部分を探り当てた。そこを集中的に攻めてくる。激しい快感に私は声を上げ、腰を浮かせた。だが彼の指は影のようにぴったりと私のクリトリスにくっついてきて、小刻みに転がしてくる。
「やっ、ダメ……! そんなにされると……!」
 自分で触るのと比べて加減がない。だが彼に触られていると言う事実が、オナニー何かと比べ物にならないくらい私を天国へと煽る。
「くっ、うっ! うぅううう!」
 知城の首にしがみつきながら、私はイッた。腰を震源地にがくがくと身体が痙攣する。これまでに感じたことがないくらいのアクメだった。
 私が落ち着いたところで知城は私の身体から離れた。ぐったりとベッドに裸身を横たえたまま、私はそれを呆然と見る。その時、私は彼がまだ服を着ていることに気がついた。
「あなたも、脱いで……」
 彼はまだ服を着ているのに、私ひとり裸で乱れてイッてしまった。それは少し恥ずかしかったし悔しかった。
 知城は頷いてはだけたワイシャツを脱ぎ、ズボンを下のトランクスごと脱ぎ捨てた。濡れて肌に貼り付いていたためやや苦労したようだが、それでも彼は私の要求どおり全裸になった。そして、イッたあとでぐったりとしている私の側に横向きに寝転んだ。
 細身でありながらたくましく引き締まった身体……その中央では、ぎんぎんにアソコが硬くなって立ち上がっている。彼が細身な分、いやに大きく私の目にうつった。
 こんなに大きいのが入るのだろうか……少し不安に思いながらも私は熱いペニスをそっと握り、上下に動かしてみた。知城が少し声を漏らした。
「……痛かった?」
 彼が私に聞いたように、私は訊ねていた。知城は首を横に振る。痛くない、むしろ気持ち良いと。ただ、あんまり触られると射精してしまいそうだとも言った。
 心のなかで私はニンマリと笑う。さっきは散々に弄られ、恥ずかしい思いをさせられたのだ。ここはちょっとくらい反撃したい。
 知城のモノを握った手を私は少し早く上下に動かした。私の行動に知城は目を見開く。やめて欲しいようだがやめてあげない。
「うっ、あっ、加賀美、それ……やば……」
 女ほどではないものの、情けない声を知城は上げる。その彼を見ながら私はペニスをしごき続けた。
「……ねえ、気持ちいいの?」
「ああ、気持ち良い……加賀美の手、柔らかくて、あっうあ……!」
いつの間にかその動きはかなり激しい物となっていた。私の動きを制しようとしたのか、知城は私の肩を掴む。腰を引こうと彼はしたが私は彼の脚に自分の脚を絡み付け、逃げられないようにする。痛がる様子がないなら容赦しない。
「加賀美、本当に……本当に出るから……」
「……いいわよ、出して……」
 その言葉が引き金になったみたいだった。不意に知城は短く声を上げて身体を震わせた。次の瞬間、彼は射精した。握っていたペニスの先端から白濁液がどぷりと噴き出す。勢い良く飛び出た精液は目の前にいた私の、お腹にかかった。
「……いっぱい出したわね。そんなに溜まっていたのかしら?」
 お腹にかかった精液を見て、それを掬って私は訊ねる。かなりの量だった。加えて、私の肌は褐色に近い。その上に乗っている白濁の液は色の都合でとても鮮やかに見えた。
「……まあな。だけどな……」
 ぼそりと呟いた知城は身体を起こした。彼のペニスは一度絶頂を迎えたと言うのに萎えておらず、剛直を保っていた。本来の目的を果たすために。
 私だってこれで終わるつもりはない。私は仰向けになり、両肘をついて上体を起こす。そして脚をはしたなく、カエルのように広げて彼を受け入れる体勢を取った。その脚の間に彼は身体を割り入れた。
 入り口を探り当てるのに知城は少し手間取っていたようだったが、やがてぴたりと、亀頭が腟口にハマりこんだ。ちらりと彼が私を見る。情欲に目を爛々と輝かせながらも不安そうな様子が浮かんでいた。私は無言で頷いた。
 知城が腰を押し進める。ずぶずぶと、彼の身体の一部が、私の中に入っていく。上から見るとそれがよく見える。
「あ、あ、あああ……!」
 中を押し広げられる感覚に私は嬌声を上げた。私の中に、私のアソコに知城が入ってきている。それがはっきり感じられる。オナニーなんかではとても真似できない、その快感……
 彼も気持ちよさそうに身体をプルプルと震わせている。だけど、彼が身体を震わせているのは別の理由もあった。
「加賀美……大丈夫か? 痛くないか?」
 私を気遣う知城。本当は思いっきり腰を動かしたいのだろう。動いて私のアソコでおちんちんを扱いて気持ちよくなりたいだろう。しかし私を気遣ってくれている。必死に動くのをこらえている。
 快感と彼の優しさに、私は思わず涙する。勘違いしてしまったか、彼は慌て出した。
「や、やっぱり痛かったか? 抜いたほうが……」
「だめ」
 反射的に私は手を伸ばして知城の首にかじりついた。そのまま自分の方に引き寄せる。彼の腰も私に引かれ、より奥に進められた。ぐにっと、私の子宮の入り口が亀頭でつつかれた。圧迫される苦しさがちょっとあったが、それを上回る快感が私の身体を駆け巡る。
「お願い、抜かないで……せっかく……繋がったのだから……」
「加賀美……」
「動いて……私だって、シテ欲しいんだから……!」
 弾かれたように知城は腰を振り出した。喉を突き出し、身体を仰け反らせて私は声を上げる。彼を抱きしめ、抱きしめられ、膣肉すべてを擦られ、奥を突かれる感覚は想像以上であった。
 首を曲げて私は結合部を覗き見た。大きく開いた股の中央で、知城のペニスが出入りしている。そのペニスは私の愛液で濡れ光っていた。
「ああ、繋がってる……私、知城と……一つに……!」
 その歓喜に私の子宮が、膣がきゅんきゅんと締まる。ずっとその様子を見ていたかったが、快感のあまりもう腕が持たなかった。私は体重のすべてをベッドに預ける。
 追いかけるかのように知城の身体が倒れこんできた。でも体重はかかってこない。私の頭の横に両腕をついていた。そのまま私の頭を包み込み撫でてくる。
「加賀美……すごくだらしない顔している……」
 腰の動きを止めないまま知城が言った。ああ、確かに今の私はとてもだらしなく淫らに緩んだ顔をしているだろう。普段のすまし顔はどこへやら。
 けれど、それは知城も同じだった。年頃の男の欲望と私の矢に振り回されて猛然と腰を動かしている彼。だけど彼とて無事なはずがないのだ。私のアソコでペニスをしごきぬかれている彼の顔も、普段のすまし顔はどこへやら、だ。
「あなたこそ……」
「……」
 それ以上は彼は何も言わなかった。もともと口下手なのだ。今のも言葉責めと言うよりただ感想を言っただけだ。それに、快感で何かを考えて言う余裕がない。私もそうだ。
 マンションの一室にはベッドがギシギシときしむ音、知城の荒い息遣い、そして私の嬌声が響いていた。
 いつまでも彼にこうして包まれていて、気持ちよくありたい……そう思うが、その思いは一区切りの終わりを今迎えようとしていた。
「加賀美……俺、もう……」
 切なそうに知城が訴える。限界が近いようだった。いよいよ待ちに待った彼の愛が、私の中に注がれる。私は愛の天使、キューピット。彼の愛であれば、すべて受け止めよう。
 そして私も知城と同じだ。イキそうになっている。犬のようにだらしなく舌を突き出すほどよがっていた。あまりの快感に言葉を紡ぐのが大変であったが、私は頷いて言う。
「いいわ……だして……私の、ナカに……! 全部受け止めてあげるから……!」
 かなり我慢をしていたようだった。その言葉で知城は我慢の鎖を解いた。
 私の最奥に腰を突き入れて彼は動きを止めた。どくりとペニスが脈打ち、私の体内で、射精が始まる。
「あっ、ああっ、あ……!」
 熱い飛沫が私のお腹の中で弾け散る。その飛沫を感じながら、私はイッた。オナニーなんかでは決して得られないエクスタシーだった。


 一人用のベッドで二人並んで寝転がる。手をつないで。あのあと、さらに二人でもう一戦した。さらに一回シたかったところだったのだが、私のお腹が鳴ったので中断となった。そう言えば、夕飯を食べずに事に及んでいたのだ。それはお腹が空く。
 かと言って、すぐにキッチンに行って二人で何かを食べる……と言う気にはなれなかった。そのようなわけで私たちはベッドの上で、甘い余韻に浸っていた。
 この時間をピロートークと言う。だけど、私たちは何も口にしない。でも、こうしているだけでも楽しかった。知城がいるからこそ感じられる幸せな時間。両親は帰って来ないので、心置き無く、誰の邪魔もされることなく、彼と朝まで過ごせそうだ。
「ねえ……」
 黙っているのも良かったのだけれども、ふと私は思い立って知城に話しかけてみた。返事はない。だけど、こちらの話を聞いているのは雰囲気で感じられた。私は話を続けることにする。
「なんであんな言い方をしたの? 『好きな人ができた』って……」
 私の事が好きだったのなら、そう言えば良かったのに。おかげで誤解をしてしまった。廻り回って一周してこうなったから良かったものの……
 知城は困ったようにため息を一つついた。そして答える。
「ああ言えば……加賀美がアドバイスに自分の事を教えてくれると思っていた……」
 ……なるほど『加賀美は何かしたことないのか』と食い下がったのは、それが理由だったか……ストレートに訊ねればいいのに、口下手だからそんな苦し紛れの、周りくどいことをしたようだ……おかしくなって私は軽く笑った。少し知城はむっとしてしまったらしい。
「何かおかしいか?」
「……いえ、やっぱり似ているんだなと……」
 恋があんなに苦しいものだと思わなかった。そんな苦しみを竜田や貝原に振りまいていた私だったけれども……どうやら、彼もまた同じ苦しみを抱えていたらしい。それに、私と同様に口下手で感情の表現も下手……似ているなと思った。
 さて……どんなに口下手でも、これは口に出して言った方が良いだろう。セックスへの激しい雰囲気に流されて言えなかったけど。キューピットの矢に乗せて思いは伝えたけど。
「知城……」
「なんだ?」
「私もあなたが好きよ、知城……」
 感情表現が苦手だから、あまり言えないけど……本当はもっともっと好きだと伝えたいのだけれども……
 あなたと結ばれて、私は幸せです。愛しています。
15/06/08 22:26更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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■作者メッセージ
まあ、沈黙の天使のSSなのdす。こうして結ばれるのです、めでたしめでたし。

そんなわけでいかがだったでしょうか、沈黙の天使の愛の天使のSS。
お口に合えば幸いです。

それではまた違うお話しで。ごきげんよう。

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