読切小説
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やっぱ牛乳っしょ
「働かねぇんなら来るんじゃねぇよ」
「マジ、先輩とシフト入るのみんな嫌がってますよ。仕事全部押し付けられるって」
「言った事しかやんねぇ、やらなきゃいけないことしかやんねぇで、仕事してると思ってんの?言っとくけどさ、バイトっつっても今の時代フリーターなんて腐るほど居んの。すぐにでも君よりマシな人雇う事だって出来んだよ?    なぁ〜にブツブツ言ってんの?不満?もういいよ。来なくていい。今週のシフト最後にしとくから。今日はもう帰んな。さいなら」





やっぱ牛乳っしょ





――PiPiPiPiPiPiPiPiPiPi♪

「うをっ!39度1分…。こりゃ完全に風邪だな……」

俺はとりあえずベッドに横になることにした。
部屋の床を見れば空き缶と空きボトルの山。
原因は間違いなくこれだろう。
今朝起きた時、俺は猛烈なけだるさと、カサッカサの喉の痛みに見舞われた。
そしてその時の服装はこの季節の寝間着としちゃあ薄過ぎるくらいのタンクトップにスウェット1枚と言う格好。
飲んでた時は熱かったから朦朧とする意識の中どんどん脱いで行ったんだろう。
結果がこの熱だ。
ついでに言やあ飲んでた理由はヤケ酒。
3年間ずっと働いてたバイト先。
まぁ、それなりに働いてたつもりだったが、地区順4位の強豪店って奴で、はじめっから何かと厳しく、俺としちゃあ1年目から居づらい場所ではあった。
そこを辞めないでいたのはなんと言うか、流れって奴で。
どこの熱血な部活かは知らないが、辞めるときはお別れ会までやり、寄せ書きまで書いて送りだす。
そんな見送られ方してる先輩ら見てると俺がそんなんされるのも面倒くさいし、オーナーも何度かやめようとする話をすると「今は待って」的な話で引き留めようとする。
しかし3年間の間に何人かの店員と雇われ店長と、俺の間にはどんどん溝が出来ていった。
結果が昨日の論争だった。
ああ〜。面倒くさい。
思えば俺はずっとこんな感じだった。
中学校は頭がいいと先生に褒められたりしたが、がんばって受験した結果入った進学校では正直付いていけず。
部活に入っても「頑張ってる」奴らと全然そりが合わない。
気がつけば3流の大学入って、就職も狙い合わせたような不景気で決まらず。
親になにも報告しないでフリーターしてた。
月5万の仕送りが去年から入らなくなったのはきつかったが、アパートもそれなりなところだったのでバイト代だけで最低限の生活は続けられていた。

「次のバイト先どうすっかなぁ? まぁ、どこ行ってもあそこよりは全然稼げるっしょ…」

ほんっと。めんどくせ。
クリスマスやらハロウィンイベントごとに仮装したり、ギフトやケーキの販売に回ったり。
面倒くさいことばっかやらされた。
営業成績がどうとかでオーナーに説教くらって会社の真似後とみたいなこともしてた。
ほんっとヤになる。
大っ嫌いすぎて昨日は帰ってから家にあった酒を飲み続けた。
悔しいなんて思いたくなかった。
あの時ムカついて言い返したい気持ちもあったけど、正論気取られちゃあ何言っても無駄になる。
だからずっとかみしめて。
まぁ、どう考えても俺が悪いんだろうが…。
まぁ。こんなもんなんだろうな。

「もう昼か…腹減ったな」

俺は冷蔵庫とジャーの中を確認する。
冷ご飯が少々と…後はなし。

「風邪って何食えばいいんだっけ? 粥? ああ、そう言えば小さい頃はよく母さんがミルク粥とかって作ってくれたっけ…」

なんだかその懐かしい味が食べたくなった。
俺はとりあえずスウェットの上にダウンを着て、外に買い出しに行くことにした。
そして玄関を出た時に気付く。

「あ…」

そうか。
俺の家から一番近い店ってあのコンビニなんだっけ…。
俺は何となくあの店の前を通りたくないと思い、反対方向の商店街の方に向かった。

「ぬぉ…頭痛までしてきやがった…」

やべぇ、しぬ。
俺は朦朧とする意識の中、学生のころに何度か行ったことのある記憶を頼りに歩き続けた。

「あれぇ?こんなに遠かったっけ?」

思えば見慣れない建物がいくつもある。

「ああ…もう、さいっ悪!」

頭痛がひどくなる。
けだるさが重さに変わる。
なんで俺、牛乳買うだけでこんなつらい思いしてんの?
バイト先のコンビニで買えば2分で買えたじゃん。

「俺、もう、駄目かも…」

その時、不意に目に入った、「牛乳」の文字。
見れば、寂れた感じの牛乳屋。
店先の冷蔵ケースの中に懐かしい形の200ml牛乳瓶が並んでいる。

「あれ?俺、まだ駄目じゃねぇ。イケる気がする…」

俺はふらふらとその店に入り。

「いらっしゃあ〜〜い〜〜」

何とも間延びした女性の声を聞いた瞬間、意識を失った。





「ん?あれ?ここはどこだ?」

目を覚ます。土壁の臭いのする和室。4畳半。狭い。
俺はそこに敷かれた布団で眠っていた。
枕もとには水の張られた桶と風邪薬。
身体を起こすと額から湿ったぬるい手拭いが落ちた。

「あ〜ら〜。寝てなきゃメ〜ですよ〜。牛乳屋だけどメ〜」

そう言って部屋に入ってきたのは白髪に黒のメッシュの入った肩ぐらいのミドルヘアにぶかぶかのキャスケット帽を被った女性だった。
見るとタイトなブーツカットジーンズにニットのセーター、その上に少し汚れたエプロンをしていて、帽子には「クルミ牛乳店」の大きめの缶バッチが付いている。
ああ、そっか、俺、店ん中入って倒れて、この人が助けてくれたのか。

「………あ、ども」

どう反応していいかわからず、とりあえずあいさつをしておく。

「あぁ〜ん。ここは笑うとこなのよぉ〜」
「あ、すんません」
「もぉ〜。だめじゃなぁ〜い。ねてなさぁ〜い」

そう言って女性に上半身を倒され、俺は再び布団をかけられた。

――たゆんっ

覗き込むように見ている女性。
俺の目線は女性の胸へ。
デカイ…。
牛乳屋だから?

「お熱測るわよぉ〜」
「……うっす」

彼女のたわわな胸が右腕に押し付けられ、左わきに温度計を挟まれる。

――たぷん
――むにゅ
――っむにぃ〜

そうか、ここ、天国なのか。
此処は死後の世界で、この人は天使なのだろうか?
エプロンには「クルミ牛乳店」のプリントがされているが、きっとこれは天使の白衣なのだろう。
部屋の隅に空の牛乳瓶のケースが置かれてるが、たぶんあれは天使様が幸せを運ぶための器に違いない。

「…って、んな訳ないか…」

一人ノリツッコミ。

「ん〜?どぉ〜したのぉ〜?」
「ここ、牛乳屋さんですよね?」
「ええ〜そうよぉ〜」
「おねぇさんはここの人?」
「ええ〜。わたしがこのお店のてんちょ〜さんだよぉ〜。えっへん〜」
「お店、いいんですか?」
「ええ〜。どぉ〜せぇ〜午後の分の宅配も終わったからぁ〜」

そう言われ、柱に付いている時計を見ると、もう夕方だった。

「すんません。ご迷惑かけちゃいましたね。家、たぶん近くなんでそろそろ帰りますよ」

そう言って、俺は立ち上がろうとする。

「だぁ〜めぇ〜。まだ寝てなきゃぁ〜」

そう言って女性が俺の腕を抱きしめて止める。

――むにぃ〜

あ、胸が…。
しかし、立ち上がった瞬間の強烈な立ちくらみのせいで俺は感触を味わう間もなく転げそうになり、とっさに手をついた。

――むぅにぃっっ!

手がやわらかぁ〜い感触に包まれる。
一瞬なんだ?と思ったが、見ると、俺の手が着地した地点は女性の巨大な胸だったらしい。

「あ、やわらかぁ〜い。 って、すんません! もののはずみで!」
「あぁ〜ん〜。 うれしぃ〜わぁ〜」

何故だか喜ぶ女性、もとい、牛のような乳をした牛乳店店長。

「え?あの?」
「じゃぁ〜。わたしもおかえしぃ〜」

そう言って胸を再び押し付けてくる女性、もとい、推定Jカップ級巨乳美女。

落ち着け、これは罠だ! 後で強姦されたとかって言って高額な慰謝料を請求…。

――むにゅ〜〜
――たゆんたゆん
――むにぃ〜

…俺は罠にだって平気で飛び込んでいくような男なんだぜ!

俺は再びそのたわわな胸を揉んでみた。

「あぁ〜うぅ〜。うれしぃ〜。わたしもあなたなら歓迎するよぉ〜」

そう言って、女性、もとい、悩殺巨乳美人店長に抱きしめられて俺は布団の上に倒された。

「うふふぅ〜。今日はお熱があるからぁ〜。これぐらいにしましょうねぇ〜」

そう言って女性、もとい、エッチなお姉さんはエプロンとその下に来ていたニットのセーターを脱いだ。
あれ?ブラは? 先生、ブラが行方不明です。

「わたしのぉ〜、おっぱい、どぉ〜かなぁ〜?」
「と、とても、大きいです…///」
「うふふぅ〜。好きなだけ触ってもいいよぉ〜」
「…えっと、じゃあ…」

――ぷに
――むにぃ〜〜〜

うおぉぉぉぉ!!ど、どこまでも沈みこむ!
なんだこれ?底なしおっぱい?
吸い込まれる。
やばい、この感触…。
ぅおぉっぷぁぁぁいぃ!ぅぉぉおっぷぅぁぁぁああいぃっ!
おぉ〜るぅふぁあいる゛ぅぅ、ぅぉおっぷぅぁあいぃぃ!!

「あぁ〜ん。ひゃぁう〜。きもちいぃ〜〜よぉ〜」

あれ?おれ、なんでこんなことになってんだ?
風邪ひいて熱出て、ミルク粥作ろうと牛乳買いに行って…。
なんで俺、牛乳屋の店長さんと乳繰り合ってんの?

「本当に、いいんですか?」
「うん〜。すきんしっぷだよぉ〜。すきんしっぷぅ〜」
「こ、これが!?」
「うん〜。今日は貴方弱ってるからぁ〜。おっぱいだけだよぉ〜」
「…ゴクン」

店長さんが甘えたような瞳で言う。
なんだろう。こんなに大人っぽい身体をしてるのに、どこか童女のような瞳で。
でも、どことなくすごく年上の人のような俺自身をすべて見透かすような瞳で。
かわいい。

「あぁ〜ん〜。もっといっぱい揉んでぇ〜。モォ〜すぐなのぉ〜。モォ〜すぐくるのぉ〜」
「なにがくるんですか!?」
「いいからぁ〜。あぁ〜。モォ〜くるぅ〜〜。吸ってぇ〜。わたしのおっぱい、すってぇ〜〜〜」

俺は無我夢中でそのおっぱいの頂点に吸いついた。

――ぴゅる〜〜

あっまぁあぁぁぁぁぁぁぁぁい!
母乳だ!これ母乳だよ。
すげぇ。練乳のように甘い感じがするのに全然しつこくなくて喉の奥に吸い込まれていくみたいだ。
こ、これは…。

「ミルクのハイブリットカーやぁ〜!!」
「あぁ〜〜〜〜むぅ〜〜〜。もっとすってぇ〜〜〜」

俺がミルクを吸うたびに気持ちよさそうに唇をキュってして瞳を潤ませる店長。
やばい。かわいい。
かわいすぎる。
最初は派手な髪の色だし、ヴィジュアル系バンドのファンなのかとも思ったけど、メイクはしてないくらい薄いし、何より帽子が落ちてから見えている角と耳と相まってホルスタインカラーで可愛い。
…………ん?
耳と、角?
あれ?…これ、コスプレ?

「ちょ、ちょっと失礼しますね」
「ん〜〜?」

俺はおっぱいを揉む手を止め、店長さんの頭に手を伸ばした。

「いたいいたいぃ〜〜!」

角と耳を引っ張ったら店長さんが痛がった。

「え…、これ、ホンモノ?」
「そぉ〜だよぉ〜? あぁ〜!!いつの間にか帽子落ちてるぅ〜。あぁ〜うぅ〜。わたしが魔物だってばれちゃうよぉ〜〜」
「魔物?」
「あぁ〜うぅ〜。ばれちゃぁ〜しょうがないぃ〜。責任とってぇ、わたしと再婚してぇ〜」
「せ、先生。意味がわかりません!」
「大丈夫よぉ〜。わたし、あなたのことすっごぉ〜っく気に入ってるしぃ〜。あなたのためだったら毎日ミルクだってのませてあげるよぉ〜〜?」
「…………えっと…。ちょっと、お時間頂いていいですか?」
「ん〜〜?いいよぉ〜」


(ホルスタウルス説明中…)


「っでぇ〜。そんな感じでわたしと前の旦那のるぅ〜くんはぁ〜熱烈な恋に落ちてぇ〜」
「ふむふむ…」


(巨乳美女説明中…)


「そしてぇ〜せかいのききを救ったわたしたちはぁ〜〜」
「……zz…はっ…ふむふむ…」


(乳説明中…)


「でぇ〜夫が若くして亡くなった後はぁ〜このクルミ牛乳店をぉ〜女手一人で切り盛りしてたのよぉ〜」
「zzzzzzzzz…(パチン) はっ! そ、そうだったんですか…」

やばい。ドラクエみたいな話になった辺りから覚えてない。
ってかあれ?4時間近く経ってない?
ログ、ログっと…なに?この超大作ストーリー?
と、とりあえず覚えてる範囲だと異世界に迷い込んだこっちの一般人で元サラリーマンの夫と、魔物でミノタウロスの亜種みたいなホルスタウルスって言う種類のクルミさん(店長)が恋に落ち、異世界からこっちに帰ってくるために悪い魔女を倒しに行ったら、魔女がロリっ子で、クルミさんのおっぱいで抱きしめたら改心して、魔法でこちらの世界に戻って来たけど、なぜかクルミさんも付いてきちゃって、こっちで人間の振りをしながら二人でつつましくも幸せに牛乳(クルミさんのミルク混入)店をやっていたら、あまりにも好評と成り、この街を当時牛耳っていたヤクザの目に停まり、難癖をつけられ営業権をかけた抗争の末、店は規模縮小を迫られ、………(中略)………で、夫が3年前に白血病で亡くなって、未亡人と成ったクルミさんは女手一つでこのお店を切り盛りしている。と言うことらしい。

「って、なげぇ〜よ!」
「おぉ〜〜。ナイスツッコミぃ〜」
「ってあれ?なんか、話聞きながら寝てたせいか、頭が痛いのが…治った?」
「ん〜ちょっとまってねぇ〜。お熱お熱ぅ〜」

クルミさんがそう言いながらまたも胸を押しつけながら俺のわきに体温計を挟んだ。

――PiPiPiPiPiPiPiPiPi

「ん〜さんじゅ〜ななどぜろぶ〜。どうやらだいぶ下がったみたいねぇ〜」
「風邪薬の効果か?」
「ん〜。たぶん〜わたしのミルクの効果だよぉ〜。じよぉ〜きょぉ〜そぉ〜に効果てきめぇ〜ん♪」
「あ、そう言えばそんなこと話してましたね」
「ってことでぇ〜。あなたはぁ〜わたしのしょ〜たいをぉ〜しっちゃったから〜」
「から〜?」
「結婚してぇ〜」
「ちょ!なんでそんな話に!ってか、あなた異世界から来たんでしょ!?な、なら戸籍とかもないし結婚なんて!?」
「だぁ〜いじょぉ〜ぶぅ〜♪ この街のヤクザさんたちにねぇ〜和解したときにぃ〜ちゃぁ〜んと偽造してもらったからぁ〜」
「ぎ、ぎぞu…。で、でも、そんなんでクルミさんはホントにいいんですか!? おれ、言っときますけど自分が善人だとは保証できませんよ?すぐに怠けるし、なんでも楽しようとしますし。できた人間からはほど遠いっすよ」
「うふふぅ〜。自分のことそんな風に言える人がぁ〜、悪い人のはずがないじゃないぃ〜」
「……しりませんよ」
「いいのよぉ〜。夫がね、言ってたの。「お前が幸せになれると思う人生を生きなさい。私は、もう、お前の傍にいてやれないけど、ずっと、ずっと愛s(中略)aから、愛してるよ、クルミ」って」
「……zzzzzz はっ! あ、まだ1時間ですね。また四時間かかるのかと…。あ、とても感動的でしたよ。特にミスチルのくるみ一曲熱唱するあたりとか」
「でしょぉ〜〜。モォ〜だぁ〜りんったら、ろ〜まんち〜すとぉ〜♪」
「…そっすね」

バカップル…。





こうして、なぜか俺は牛娘、もとい、ホルスタウロスのクルミさんとお付き合いすることになった。
アパートも引っ越し、クルミさんの店の二階に下宿して、クルミさんと一緒に店を経営している。
決して裕福ではないが、幸せな日々だ。
親もどうやら認めてくれたようだし、今度正式にあいさつに行く。
もちろん魔物と言うこともその時打ち明ける気でいる。
それを思うと、色々と不安になる。
でも、クルミさんがいれば、どうにかなる気がする。

「だぁ〜りぃ〜ん♪」

――むにむにぃ
――たゆんたゆん

「…可愛いっす。クルミさん」
「うふふぅ〜♪」

――むにゅ〜〜
――たぷんたぷん
――ぷにぷにぃ〜



ああ、また俺は流されて結婚まで決めちまった。
世間一般では俺みたいな奴のことをダメ人間って言うんだろう。
でも、…まぁ、いっか…。
09/12/16 11:25更新 / ひつじ

■作者メッセージ
ほんとはレイニーレイニーに入れようと思ったんですが、思いのほか長くなったので(テーマの雨もスルーしちゃったし)短編にしました。
風邪で寝てたら思いつきました。
ずっとこのお話の主人公のような状態で書いていたので誤字脱字とか文章とかいろいろアレなことになってるかもしれませんが、そこは生易しく見守ってください…。

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