連載小説
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雨降り宇宙恐竜 ヴェルザー一族最後の刺客
 ――アイギアルム・クレア宅――

「……」

 寝室の窓よりゼットン青年は外を覗くが、天気はあいにくの大雨。普段やるはずの鍛錬も今日はやらずに、ぼんやりと過ごしている。

(クレアは無事かな…)

 クレアが出立してより数日経つが、未だその動向は伝わってこない。ディーヴァたる彼女に心配は不要――と言いたいところだが、やはり心配にはなる。
 彼は日頃の鍛錬は欠かさぬタチで、晴れならば屋外、雨ならば屋内で運動を行う。しかし妻の身を案じる今、そんな気分で鍛錬をしたところで身が入らないであろうと思ってやっていない。

(行方は気になるが……俺に出来ることは待つだけだ)

 残念ながら、ゼットン青年の戦闘の実力はクレアに遠く及ばぬ以上、連れて行っても足手まといになるだけ。それは悔しいが事実であり、さらには夫の身に危険を及ばせぬための妻の配慮を無駄にしたくなかったゼットンは、潔くこの街に残っていた。
 しかし二人の同棲より七年、離れ離れになるのは今回が初めてとなる。それが彼の心を乱し、どこか大きな喪失感をもたらしていた。

「ま…こういう日も悪くないか……」

 クレアの事は気になるが、今の自分ではここに残る以外選択肢はない。だが、考えてみれば彼女は魔王軍の精鋭たる“ディーヴァ”の称号を持つ女である。己如きが心配するのがそもそもおこがましい事かもしれない。
 考えを巡らせていたゼットンだが、やがてそう結論づけると、今日は何もせず過ごそうと思い、椅子に座ってくつろいでいたのだった。

「…だ〜れだ?」

 普段のやかましい姿から一変、死んだように静かな夫。しかし、その生気の無さが気に入らないのか、ちょっかいを出す者がいた。
 彼女は夫を刺激するべく、そのたわわに実った二つの果実でゼットンの頭を挟み込み、そのまま埋めたのである。

「…ミレーユ」
「ピンポ〜ン♪ でも、なんで分かった?」
「大きさと柔らかさだけじゃなくて、程良い弾力のあるおっぱい」

 『声で分かった』は無粋だとゼットンは考えた故、背後のオーガの乳房の質を答えとした。

「なんだ〜、バレバレじゃ〜ん」

 ミレーユは嬉しそうに微笑むと、夫の頭から乳房を離す。

「何か用?」

 気怠そうに振り返って尋ねるゼットン。いつもと違い、熟れた魔物娘を見ても全くの無反応である。

「何ふてくされてんだよ」

 そんな夫の様子に腹立たしさを覚えるミレーユの顔から笑みが消える。
 何故自分のような極上の魔物娘が目の前にいるのにもかかわらず、欲情しないのか。笑みの消えた顔からは代わりに、『やる事が無いならば、妻と交わるのが一番だろう』という不満が表に出ている。

「いや何…クレアと離れるのは初めてのせいか、どうしても心配でな」

 何を考えているかはこのオーガに大方ばれているだろう。故にゼットンは隠しても無駄だと思い、ミレーユへ素直に心中を吐露する。

「ハッ、心配いらない。アイツは長いよ」

 彼の心配を杞憂だと言わんばかりに、ミレーユは鼻で笑う。

「……まぁ、普段はそう思ってるけどさ」

 うるさい羽音を立てて飛び回り、口を開けばやかましく、食事の際はその短躯に見合わぬほど食いまくり、性交では十回中出しされてもまだ求める。加えていびきはうるさい、気まぐれで我儘、腕っぷしが強く暴力的という有り様で、途轍もなく好き勝手に生きている。
 そんな女が戦場でいきなり死ぬと思えないのは、夫であるゼットンも同意せざるをえない事である。どれだけ贔屓目に見ても、あの女の寿命は桁外れに長いとしか思えないのだ。

「……相手が相手だからな」

 しかし、相手は悪名高き『エンペラ帝国』。この悪党どもが例えディーヴァであるクレアでも一筋縄ではいかないことは、彼等に一時期操られていたゼットン自身がよく分かっている。
 彼等は当時の魔王軍と相討ちになってより五百年余り、その再起を志して歴史の闇に隠れ続けてきた。そして、長年の努力が実を結び、主たるエンペラ一世が復活。復讐の時が来たとばかりに、彼等はついに表舞台に現れ、魔に侵されつつあるこの世界に戦いを挑んだ。
 手始めに教団圏最強国たるフリドニアを一週間ばかりで征服、返す刃で追討に来た教団圏連合軍をあっさり叩き潰し、今はもう眼中にないという有り様。しかし、彼等の復讐の炎はそれで収まるはずもない。一連の戦で準備体操は済んだとばかりに次は世界中の魔族領に侵攻、破壊と殺戮の嵐を巻き起こした。
 従来の人間の常識を超える桁外れの実力を誇るエンペラ帝国軍の前に、不意を打たれたとはいえ各地の魔物娘は大いに苦戦を強いられている。

「…まぁ、その気持ちは分かるけどさ」

 夫の不安になる気持ちはミレーユも首肯せざるを得ない。彼女もまた帝国残党と戦ったが故に、連中の強さは身をもって知っているからだ。
 
「でも、アンタがいくら悩んだところで状況は変わりゃしないだろ? もう送り出しちまったんだしよ」

 しかし、ミレーユが指摘する通り、もう後の祭りではある。ゼットンが今更嘆いたところで、クレアはすぐに帰ってくるわけではない。

「分かってるよ…」

 言い返すことが出来なかったためか、ゼットンは不機嫌そうにそっぽを向く。

「今日一日、そんな調子で過ごすつもりか? そして明日も明後日も明々後日も、そんなザマじゃないだろうな?」
「………………」

 ミレーユは半ば呆れた様子で尋ねるが、ゼットンは答えなかった。

「はぁ〜〜〜〜……ん?」

 情けない様を見せるゼットンにオーガは失望するが、考えてみれば彼は他の女のことで悩んでおり、あまり親身にアドバイスする必要もないかとも思い始めた。

(…考えてみれば、これってチャンスなんじゃない?)

 クレアに対して同情的なミレーユだったが、好機であると気づいた途端に悪辣な笑みを浮かべる。
 ゼットンがクレアを案ずる気持ちは分からなくもないが、そもそも彼女は魔物娘でも強者たるディーヴァであり、飛行速度に関しては随一であるベルゼブブである。例え砲弾の雨だろうと当たるはずもなく、正直あまり心配する必要もない気がしてきた。
 ならば、やることは一つである。さらには一石二鳥なことに、それは今腐り果てている夫に『忘れさせる』ことにも繋がる。

「ほら、立て」
「おっ?」

 思い立ったら早いミレーユは、早速思いつきを実行する。夫の側まで近づくと、彼の両脇を持って立ち上がらせたのである。

「何?」
「そらっ」
「え?」

 ミレーユはゼットンを前屈みにさせると、左脇に彼の頭を挟み込む。そして右腕で彼の右腿を掴み、逆さまになるように真上へ軽々と持ち上げた。

「え!?」
「……」

 ゼットンが驚くが、一切無視。ミレーユは彼を逆さまに持ち上げたまま、無言で部屋のベッドまで歩いて行く。

「これってもしかして…」
「滞空式ブレーンバスター♪」
「な、なにィ〜〜ッッ!?」

 ゼットンの叫びが響くのも束の間、ミレーユはベッド目がけ、夫を背中から投げ落とす。

「…うおっ! 思ったより痛い!」

 ミレーユによって、ベッドへ背中から投げ落とされたゼットン青年は、微妙に痛がった。
 ベッドという物は、実はそう柔らかくない。ましてや滞空式のブレーンバスター、長時間持ち上げられたおかげで受け身を取るタイミングが探りづらいのも功を奏したのだろう。

「……!?」

 それでも、多少痛いだけだ。起き上がるのに何の不都合はないが、そう思ったのも華麗な動きでバック転をしたオーガが尻から落ちてくるまでであった。

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」
「なんでぇ、だらしない」

 予期せぬ衝撃を受けたゼットンは声にならない悲鳴をあげる。だが、それを見てもミレーユは容赦も躊躇もせずに夫の腰の上へ跨り、両足で彼の下半身をベッドにガッチリ固定した。

「痛い?」
「痛い痛い!」
「じゃあ、それで頭はいっぱいだよな? これで他に何も考えられない…」

 痛がる夫を見下ろし、魔物娘らしからぬ物騒な発言をするミレーユ。彼女はオーガながら、その顔には鬼でなく悪魔じみた、美しくも禍々しい笑みを浮かべている

「でも、もう心配はいらない。悩みは痛みで消えて、痛みは快楽で消えるんだよ」

 ミレーユはそう低めの声で呟くと自らの腰をずらし、夫の両足の間に体を滑りこませる。そして、すぐさま夫のズボンと下着をずり下ろして脱がせると、そのまま部屋の隅に投げ捨てる。

「はむっ!」

 そうして露出した夫の逸物を、オーガは慣れた様子で口に咥える。

「うぅっ!」

 青年は得も言われぬ突然の快感に体をびくりと震わせると、ミレーユの口内で分身を見る見る内に膨張させる。

「♪」

 魔物娘である以上、口内の構造も竿を扱う技術も人間の女の比ではない。ましてや愛する夫の逸物、尚更愛欲をもって扱うというもの。
 ミレーユはジュポジュポと口から淫らな音を立てながら頬を卑猥に凹ませ、夫のガチガチに勃起しきった巨根へ奉仕する。時には裏筋に舌を回し、時には先端を軽く甘噛し、時には喉の奥まで呑み込むと共に、夫の睾丸を優しく手で転がし続ける。

(うぅ……頭がシビれる……それに腰が…もっていかれそうだぜ……っ!!)

 頭に強い電流が流れたような甘美でもどかしい快楽を剛直に与えられ、ゼットンは何度も体を硬直させる。そして、その様を見たミレーユはさらに興奮して逸物を舌で苛み、上下する口から漏れる水音をさらに激しくさせる。
 そして前述の通り、強力な吸引力で吸い上げるだけでない。たまに鈴口の辺りまで口を戻し、そこをチロチロと舌先でほじくる。さらには口から逸物を抜き、竿全体に舌を這わせたりする。

「♪」
「!」

 時には前でなく上を見上げ、ミレーユは夫に自らの顔を見せる。それは、奉仕している方の立場でありながら、される方よりも遥かに乱れ、蕩けきった淫靡な顔。目にハートマークが浮かんでいそうなその顔に夫は当てられ、さらに興奮を深める。

(そ、そういえば…見た目と違って技巧派だった……)

 ゼットンがそう心中で独白する通り、力任せな魔物と思われるオーガでさえ、これほどの技術を持ち合わせている。彼女は家に棲む他の魔物娘に負けず劣らずのテクニシャンなのだ。
 もっとも、あくまで『やろうと思えば』であり、普段のミレーユは闘争じみた乱暴な犯し方を好む。そういう気分なのか、今回は趣向を変えているだけだ。

「や…べっ…!」
「んっ!?……ん〜〜〜〜〜〜っっ♪」

 オーガの口内奉仕が五分も続いたところで、ゼットンは耐え切れず彼女の口、いや喉の奥に出してしまう。一方、ミレーユは大量の射精にもかかわらず、吐き出される子種を酒でも一気飲みするかの如く、喉を鳴らして吸い上げている。

「早いな……ま、それはそれで嬉しいんだけどさっ」

 精を飲み干したミレーユは唇周りの白濁液を舐め取り、満足気にニンマリ笑う。普段の夫の保ちはもっと長いのだが、今日の彼はそれだけ感じてくれたのであろうと結論づけた。

「うへ…」

 間抜けな声を漏らしながら、若干腰を痙攣させるゼットン青年。ミレーユは卓越した技で竿全体を舐めるだけでなく、魔物娘故に強烈な吸引力をも有し、尿道ひいてはそのさらに下からも吸い上げるかの如くであった。

「おいおい、これは前戯だよ…?」

 主導権を握っていたかと思われたミレーユだが、夫の剛直をしゃぶる内にもう我慢出来なくなっていた。興奮した彼女はすぐさま申し訳程度に自身の胸を覆う薄布を脱ぎ捨てると、その豊満な乳房が勢い良く跳ね上がる。

「本番はこれから。ここを使わなきゃなっ」

 さらにミレーユは下の腰布にも手をかけ、乱暴に剥ぎ取る。

(ただでさえジューシーな体でエロいのに……ッ!)

 露わになったのは、しとどに濡れほぐれたサーモンピンク色の女陰。それを目にしたゼットン青年は思わず息を呑むが、それは彼女の水音が聞こえそうなほど蕩けた女陰を見たからではない。ミレーユが普段のオーガらしからぬ、あまりに妖艶な表情を見せたからだ。
 オーガ達は美しいが、それは力強さを伴うものであって、蠱惑的なものではない。だからこそ、彼女の見せた笑みがとても新鮮に感じられるのだ。

「…♪」

 夫が見惚れていたのを見たミレーユは、それを肯定と受け取った。そして、立ち膝のまま前進して軸を合わせた彼女は遠慮なく、夫のそそり立つ巨根を秘裂にあてがう。

「んっ…♪」
 
 そのまま腰を沈めたオーガは、愛しい夫のものに自らの秘部をみちみちと押し広げられていく感触に酔いしれ、甘い声をあげる。
 インキュバスだけあり、侵入する逸物は焼けた鉄棒の如き熱と硬さを持ち、童子の腕を思わせるほど太く、長く、大きい。そんな禍々しい物を、このオーガの粘つく淫穴はやすやすと呑み込んでいったのだった。

「どう…?」
「……聞くまでも…ねぇだろ」
「ふふっ……そうだな」

 オーガの中は肉厚でありながら、即座に逸物全体を包むように変形するほど柔らかく、加えて無数の襞が絡みついて絶妙な刺激を加えてくる。さらには心地良い弾力も持ち、にもかかわらず呑み込んで放さないほど力強い。
 そして、夫が彼女の膣の味に、歯を食いしばるほどの快楽を感じたのを見たミレーユは再び艶っぽい笑みを浮かべたのである。

「嬉しいねぇ……これはサービスしないと…なっ…!」

 ゼットン青年の反応を見たミレーユは感謝の気持ちとばかりに、激しく腰を上下させ始める。

(きっ…効くっ……!)

 もたらされる快感は、暴力的と言ってもよいほど激しいもの。敏感なカリ首と竿を、愛液に包まれた無数の襞が包み込み、オーガ種の強靭な括約筋によって締めつけられた肉壁がそれを扱く。それを当然、インキュバスの敏感な体が感じないはずもない。
 さらに、ミレーユの痴態は視覚的にもかなり刺激が強い。
 110cm近い爆乳は腰が上下一往復する度に大きく跳ね上がり、絶え間なく破裂音を響かせる。
 エメラルドグリーンのきめ細かな肌は性交の快感によって紅潮して汗にまみれ、艷やかに光る。
 大きな臀部は夫の体にぶつかる度、柔らかく弾む。
 そして何より、夫の怒張が子宮口に突き刺さる度、彼女は荒々しくも甘い息を漏らす。オーガの扇情的な肉体はもたらされる至高の悦楽を味わい、牡と繋がる牝としての悦びに震えるのだ。

「…イイッ♪ イイッ♪ やっぱりこのデカチンポスゴくイイーッ!!!!」

 しかし、攻め立てていたはずのミレーユだが、すぐに余裕が無くなりつつあった。愛する夫の肉棒からもたらされる快感はあまりに強すぎ、このオーガの頭から冷静な思考力を奪っていったのだ。
 始めこそ妖艶ながらも強気な笑みを浮かべて夫の胸板に両手を突き、ゼットンの肉竿を肉穴で激しく扱いていたが、それは諸刃の剣でもあった。彼女は夫を犯していたはずが、逆に自らの許容量を超えた快楽で侵してしまっていたのである。

「んいギィぃ♪ ダメッ♪ しきゅうこうブチュブチュされてっ、あたまばかになっちまうのぉぉ♪」

 そうして挿入されてから十分も経たない内に、快感に耐えかねたオーガはついに狂い、『速オチ』してしまう。彼女は十分ほど前に見せた妖艶な笑みとは真逆、文字通り知性皆無のアヘ顔をさらしながら、尻を振って夫の怒張を扱き、ひたすら射精を待ち望むだけの女となってしまったのだ。
 その無様さは普段の男勝りな性格からは想像も出来ないほどで、クレアが見れば腹が捩れるほど笑っていただろう。

「………………」

 このオーガと一体何回交わったのか、もう数えるのも面倒になってしまったが、その過程でゼットン青年は理解した事がある。

「んぎゅぃイッ!?」

 それは『オーガとのセックスは即ち戦い』だという事。例え相手が意味不明のことを口走るような状態に陥っても、ひたすらその攻めを止めてはならないという事。
 彼女等は性行為で勝負する以上、それで勝たなければならない。そして、相手のオーガを己の逸物で屈服させ、『目の前の男の物』であると思い知らせなければならない。例え、このオーガがその本能通りに攻められない落伍者であってもだ。

「だ、ダメっ! おっぱい吸っちゃダメぇぇッ!」

 今こそ反撃とばかりに、ミレーユの頭が馬鹿になってグラインドがゆるくなってきた隙を突き、ゼットンは上半身を起き上がらせた。そして彼女の左乳房におもいきり吸いつき、左手で彼女の右乳房を揉みしだく。

「あっ……あっぁぁッ♪」

 強くも甘い快感を恐れたのか、オーガは涙を浮かべて懇願するが、夫は無視して乳を強く吸い続け、さらに手慣れた様子でもう片方の乳房を弄り続ける。 このようにミレーユの両乳を堪能すると共に、多量の愛液の分泌を続けて滑りが良くなった膣目がけ、犯されていた先ほどとは逆に彼自身が腰を激しく使った。

「んっ♪ んっ♪ あっ♪ やんっ♪ うぅんんっ♪」

 体を密着しての対面座位で膣奥をねちっこく攻められ、ミレーユは甘い声を漏らし出す。このように主導権を握られるのはオーガ種としては非常にまずい状態なのだが、最早今の彼女にとってそんな事はどうでもよい事。ただ夫の体ともたらされる快楽に身を委ね、『御褒美』を今か今かと待ち続ける。
 一方の夫もまた、その力強い締りと程良い弾力、柔らかさを持つ膣のうねりによって強烈な快楽を感じていた。腰の動きによって誤魔化していたものの、少し気を抜けば射精してしまいそうになるほど、その快感は凄まじい。
 そして何より、彼の目の前にぶら下がる二つの大きな果実もまた魅力的であり、いくら吸いついても全く口の動きが止まりそうになかった。
 エメラルドグリーンの乳房の中央で勃起した桃色の突起を青年は甘噛し、ぷっくり膨らんだ乳輪をねぶる。さらには口いっぱいに吸い上げるが、その柔らかさと弾力はとても満足のいくもので、それだけで幸せな気分にひたれるものだった。

「ちょうらいっ♪ ゼットンのアツいのいっぱい、あたしのなかにっ!」
「……」
 
 しかしながらゼットン青年はまだその時でないのか、妻のおねだりを無視して乳を下劣な音を立てて吸い上げ、子宮口を突き上げ続けるばかり。
 だが、限界の迫るミレーユはその事を不満に思うまでもなく、今度は髪を振り乱しながら夫の唇に濃厚な口づけを行い、進んで絶頂を迎えようとする。

「……んえっ?」

 けれども、突如ミレーユが間抜けな声をあげて、夫の口から離れる。ゼットンは何故かミレーユの腰を掴んで固定し、グラインドを行えなくしたため、驚いたからである。

「な、なんでぇ…」
「……」

 もう少しで絶頂を迎えられるかと思いきや、そこで留められてしまったため、ミレーユは夫に哀願の視線を向けるが、ゼットンは無言のままである。

「勝手にイクんじゃねぇよ…」

 ゼットン青年は苛立ちの混じった呟きを放ち、ミレーユを押し倒す。

「あ…♪」

 ゼットンとしては、この女が勝手に絶頂を迎えるのは面白くなかったため、自らが果てるのと同時に達するよう求めた。
 一方、寸止めをくらったミレーユも、夫の真意を理解し、再び快楽に蕩けた笑みを浮かべる。

「俺と一緒にイけっ!」
「うんっ♪ うんっ♪ 一緒にイカセてぇぇぇぇえっ!」

 100kgを超える夫の巨体に正常位でのしかかられながら、ミレーユは全く気にしない。その豊満な乳房を押しつぶされ、遠慮なく膣を上から叩きつけられてはいるものの、彼女は両手両足をゼットンに回し、彼の唇に愛おしそうに口づけをし、さらには舌を絡め合う。
 このように、ゼットン青年はミレーユに牝としての立場を理解させるかのような、完全に男性本位である暴力的なピストンを与え続ける。にもかかわらず、このオーガはそれを不快に感じるどころか得も言われぬ悦びに包まれていた。
 その証拠に、夫に一突きされる度、彼女は軽く潮を噴いている。それ故にベッドの上は既に彼女の潮と愛液で水浸し、さらには二人の体も淫液まみれとなっていた。

「あっ、あぁっ、も、もうダメェっ!! あたし、あたしぃ……もうクルっ! きちゃううぅぅっ!!」
「………………うぅっ!」

 やがて、ついにこの牝鬼は快感に耐えかね、夫の体に四肢を絡み付けて褒美を懇願する。彼女の締めつけが最高潮に達し、同時に今まで一番の膣の蠢きによって、青年の方もまた絶頂を迎える。

「んぎイイぃぃっ! でてるぅっ、あたしの中に、いっぱいぃぃっ♪」

 自らの牝だと主張せんばかりの、音が聞こえそうなほど大量の膣内射精。オーガ、いや魔物娘にとっての最高の瞬間にミレーユは大きな嬌声をあげて潮を噴き、舌をだらしなく伸ばした歓喜のアヘ顔を浮かべるが……

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! 骨が折れちゃうぅ〜〜〜〜ッッ!!!!」

 子宮がいっぱいになるほどの射精が終わっても尚、彼女の抱擁は力を増すばかり。そのせいで、勝利をもぎ取ったはずの牡は悲鳴をあげたのだった……





「し、死ぬかと思った……」
「てへ、ゴメン☆」

 息も絶え絶えのゼットン青年に、照れた様子で舌を出すミレーユ。腹上死、とは呼べないものの、危うく死にかけた夫を慌てて解放したのである。

「いやぁ、あたしってイッちゃいそうになるとついつい力入っちゃって…☆」
「性交の度に殺されかかっちゃたまんねーよ!」
「だから悪かったって」

 憤慨する夫を、ミレーユはどうにかなだめるが、夫の怒りは晴れない。ゼットンも別に彼女も殺意があって行なっているのではないのは解ってはいるが、さすがに殺されるのは御免であり、それに射精の快感を邪魔されるのも面白くなかったからだ。

「じゃあさ、次はこうしておくれよ♪」

 ミレーユは申し訳なさそう――には到底見えない顔で四つん這いになると、ゼットン青年にその大きな尻を向ける。

「次は後背位で犯してくれれば、あんたは気にせず射精出来るだろ?」

 ミレーユはオーガらしくない、まさに男へ媚びる顔で尻を振り、夫を誘う。

(まったく反省していない…)

 ゼットン青年は呆れるが、変わらず濡れた秘裂は精液と愛液の混ざった、性交直後の淫らな匂いを嗅がされ、否応なしに再び分身を勃起させてしまう。

「なぁ、それでオシオキしておくれよぉ…♪」

 今ここで本能のままに襲い、後ろから突きまくったところでミレーユは喜ぶだけ。それでは何の罰にもなりはしないが、この下半身の昂ぶりも放置するには少々きつい。どうすればよいか、悩ましいところである。

「ちょーっと待った!」
「御主人様、次は私達の番ではないですか!?」
「ミレーユさんばっかりズルいニャ!」
「いや、ここは私がやるべきです!」
「売女どもは引っ込んでろ! ここは私がやるべきだ!」

 四つん這いのミレーユを捨て置いて思案していたゼットン青年だが、突如部屋になだれこんできた魔物娘達によって、それも中断されてしまう。
 二人が性交に及んでいたのを嗅ぎつけた彼女達は、途中から悶々とした様子で覗いていたのだが、やがて我慢出来なくなって乱入したのである。

「あちゃ〜…」
「なんだい、お前等! 次もあたしのターンだろ!」

 二人は気づきこそしなかったものの、別に驚く様子はない。しかし、ミレーユは納得がいかないらしく、彼女等に食ってかかる。

「あんな声を聞かされたら、仕事なんて手に付かないニャ!」

 興奮した様子でリリーが吠える。ミレーユは遠慮なく嬌声をあげていたが、それが他の魔物娘達も刺激してしまったのだろう。皆顔を赤らめ、発情した様子であった。
 そして彼女等は自分も夫に犯してもらうべく各々服を脱ぎ出し、その発情した女性器をゼットンの前に晒す。

「はぁ!? だからあたしの番だっての!」
「………………」

 抗議するミレーユだったが、麗羅は無言で数本の尻尾を伸ばし、それを彼女の首に巻きつける。

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!??」

 そうして、ミレーユは十秒もしない内に絞め落とされ、泡を吹いて倒れた。さらに、これはこの妖狐なりの配慮なのか、精液が漏れないように気絶したオーガの膣に持参した張形を詰め込むと、そのまま部屋の隅に運び出したのである。

(こ、怖い…!)

 ゼットン青年が怯える通り、その時の麗羅の表情はまさに冷酷冷血冷徹、勃起していた怒張もつい縮み上がってしまうものだった。

「あら? 怖がらなくていいのよ」

 恐ろしさにガタガタ震えるゼットンを見た麗羅は彼に微笑みかけると、そのまま抱きついて押し倒す。

「ちょっ!」
「私も!」

 麗羅に負けじと、残りの者達も続いて抱きつき、唇や胸、あるいは性器を夫の体に押し付けてくる。

「じれったいわね。ここは乱交とイキましょ♪」
「「「「さんせ〜♪」」」」

 争うのは不毛だと判断したのか、麗羅の提案に皆即答し、夫と体を絡める。

(あれ、俺なんでこんなことしてるんだっけ?)

 さっきは何か大切なことを考えていた気がするが、淫臭と柔肉に包まれたゼットン青年の頭では思い出すことは出来なかった。
 ただし、その状態でも一つだけ確信しているのは、クレアが帰ってきたらしばかれるだろう、ということである。










 ――エンペラ帝国領フリドニア――

「ご機嫌うるわしゅう、皇帝陛下」
『……貴様とまた相まみえるとはなぁ、リリムよ』

 再び対峙するエンペラ一世とデルエラ。
 ただ前回と異なるのは、皇帝が普段着である古代ローマ風の帝衣でないことだ。彼は桁外れの暗黒の魔力を放つ、黒く禍々しい甲冑に身を包み、その上からさらに絢爛豪華な漆黒のマントを羽織っていた。

「陛下自ら私達を歓迎していただけるとはまことに恐縮至極、光栄の極みですわ」

 片や『魔王の第四子』、此方『エンペラ帝国皇帝にして、人類最強個体』。お互いの間に交差する鋭い視線を始め、怒気、殺気、魔力、圧倒的重圧――あらゆる激情が飛び交う。
 それらはリリムの背後に居並ぶ殺気立った魔王軍の精鋭ですら萎縮し、その戦意を些か衰えさせるものであった。

『待て。貴様等が何用で来たか、まだ聞いておらぬ』
「では、前回と同じく単刀直入に申し上げましょう――――貴方様の治めるエンペラ帝国を滅ぼしに参りました」

 柔和な笑みを浮かべていた前回とはうって変わり、デルエラの黒い眼球には夥しい数の血管が浮き上がり、その怒りの深さを示していた。
 しかし皇帝もまた、リリムの妄言ともとれる発言を受け、その顔を不快感と怒りで歪めたのである。

『冗談が下手だな』
「いいえ、冗談ではありませんよ。
 とはいえ、別に貴方達を殺すわけではありません。ただ帝国を解体し、貴方達も国民も皆私達の一員となっていただくだけです」

 エンペラ帝国の侵攻は、世界各地の魔物領へ凄まじい被害をもたらした。その強さと最新鋭の装備もさることながら、突如大挙して現れ、如何なる卑怯で残虐な手段も厭わず、さらには圧倒的な憤怒と怨念を向けて遅いかかってくる彼等に、魔物達は当初為す術がなかったのである。
 しかし、彼女等がいつまでも手をこまねいて見ているはずもない。
 怒りに燃える魔王はこの身の程知らずどもを今すぐ打倒し、傷ついた同胞を救うべく、引退したディーヴァを駆り出してまで援軍を各地に送り込んだのだった。
 その中でも最大の勢力が、かつての教団圏第二位の“元”宗教国家レスカティエに君臨するリリム、デルエラの率いる『フリドニア攻略軍』であった。
 彼女は魔物娘、そしてインキュバスへと変化したレスカティエの精鋭を引き連れ、この反攻作戦に加わっていたのだ。

『フン…正気か? しかし、そのつもりならば、我が帝国も随分と甘く見られたものよ』
「私も可愛い部下の頼みは無下に断れませんので。それに、彼女等の心情も理解出来ないわけではありませんしね」

 普通なら、デルエラほどのリリムが、こんな軍事作戦に加わるなどはありえない。しかし、部下からの頼みを無下に断るほど、彼女は冷徹ではなかった。
 先立ってのエンペラ帝国軍の攻撃目標より、幸か不幸かレスカティエは逃れていた。しかし自分達は助かっても、エンペラ帝国軍の蛮行によって犠牲となった者の中には、レスカティエの魔物娘達の両親や兄弟姉妹、大切な友人達もいた。
 大切な家族や友人を殺されて悲しんだ配下の魔物娘達は、彼女等のような犠牲を増やすまいと考え、デルエラにエンペラ帝国の討伐の必要性を訴えた。
 そして、それをデルエラ本人も理解し、快く応じたのである。それからの彼女の行動は早かった。
 元々が優秀な戦士が多かったために強力無比だったレスカティエの魔物娘より、さらなる精鋭を選抜。同じく全世界より集めた魔王軍の戦士達を加えた討伐部隊を編成し、フリドニアへと向かったのである。

『なるほど、殺し合いは避けられぬか。
 ならば前回の約束、守ってもらえるのだろうな?』

 デルエラが動いたことに、さすがのエンペラ帝国も驚いたが、あれだけの数の部隊を一斉に世界各地へ送り込んでいた以上、大規模な反撃を受ける可能性も想定内。彼等の行動もまた素早く、動揺はなかった。
 そして、それはフリドニア城下街の眼前に迫る魔王軍を、皇帝自らが出迎えたことにも表れている。

「貴方を満足させる相手など、魔王軍には残念ながらおりません。故に…私自らが相手しましょう」
『別に無理をする必要はないのだぞ?』

 相手が見つからないため、デルエラ自ら皇帝の相手をするという。この申し出を受け、不快感に満ちた顔から一転、皇帝はデルエラを嘲笑うかのように口元を歪める。

『貴様等の寿命は無駄に長いが、今この場で終わらせる必要はあるまい』
「……こちらの方こそ甘く見られたものですね」

 リリムは皇帝を恐ろしい目つきで睨むが、睨まれた彼はどこ吹く風、全く気にも留めない。

『別に嘘でもあるまい。余にとっては、今も貴様等が雑魚以下のプランクトンであるという事実は変わらぬ』
「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」

 なんたる侮辱か、と萎縮していたレスカティエ軍は激怒する。

『おや、違ったか? それはすまなんだ』

 一方、皇帝は激昂する魔物娘達を見て、おかしそうに笑いを噛み殺す。

「成程、なかなか煽るのがお上手なようで」
『だから、事実だと申しているであろう』

 どうやらこれは冗談でなく本音を言っただけのようで、その証拠に皇帝は不本意そうな顔であった。

「…では、これでも?」
『?――――――――――ッッ!!』

 突如、デルエラの姿が消える。そして、それを認識した次の瞬間には、皇帝はデルエラの魔力を帯びた右脚によるサマーソルトキックを胸に叩きこまれ、遥か天空の彼方まで蹴り飛ばされていた。

『む――――――――――――〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!????』

 くぐもった声をあげるが、その声すらすぐに下へ落ちていく。
 皇帝は高速で回転しながら空気を引き裂き、重力の鎖を引き千切りつつ、一体どれほどの高さか分からぬ高度までかち上げられていった。

『!』

 やがて、かち上げられた男は、なんと成層圏近くまで飛んで行く。そして、それほどの高速回転、空気の薄い高々度でありながら、皇帝の鍛えられた動体視力は、やがて自身の頭上で待ち受ける影を捉えていた。

『ぬっ!?――――ぬっおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッ!!??』

 そして頭上の影は体を縦に超速回転させ、破壊力を絶大に増した左踵落としを繰り出し、今度は皇帝を下界に叩き落とす。皇帝は絶叫をあげながら、今度は隕石の如く落下していったのである。

『――――ちっ!』

 しかし、いつまでもやられっぱなしではない。
 落下の途中で皇帝は全身より魔力を噴射して体勢を整え、さらには空中に己の体を押し留める。

「あらあら〜? 雑魚以下のプランクトンに、こんな真似が出来るのかしら?」

 そうして、どうにか落下を防いだ皇帝の前に、美しくも皮肉気な笑みを浮かべたデルエラが青みがかった白い翼を広げ、その姿を現す。

『……成程、さすがに甘く見過ぎていたようだ。
 詫びとして貴様の位を、“雑魚以下のプランクトン”から、“雑魚”に格上げしてやろう…』
「…!」

 しかし、皇帝もまたデルエラ同様、冷笑を浮かべたのだった。

「口は減らないようね…」
『お互いにな』

 減らず口を叩き合うが、両者の間に交差する殺気は一向に衰えない。しかし、皇帝にはそのままで戦いを続けられない、懸念すべき事があった。

『しかし、いつまでも貴様とお喋りをするつもりはない。
 なにせ、魔物というのは狂暴で、かつ貪欲で残虐極まりない。そんな輩をいつまでも余の国の中に留めておくのは危険すぎる。
 しかし、余の力というのは強すぎるが故に、振るえば同様に国は無事で済まぬ』
「へぇ、ならばどうするおつもりかしら?」
『決まっておろう…』

 そう呟くと、皇帝の両目が妖しく輝く。

「!!」

 そしてデルエラがそれを認識した時には、既に両者の体と周りの世界は、燃え盛る炎に包まれていた。





「う、ここは…?」

 気がついたデルエラは目を開ける。しかし、そこに広がる光景は皇帝と戦った天空でなく、冷たい風と砂埃が吹き荒ぶ、辺り一面の荒野であった。

『ようこそ、【ダークネスフィア】へ!!』
「!!」

 そして、デルエラの前の空間が揺らめくと、そこよりエンペラ一世が現れる。

「…まんまと引きずり込まれた、というわけかしら?」
『仕方あるまい。貴様等にあそこで暴れられるのは、フリドニアを治める者として困る。
 とはいえ、ここなら関係ない。貴様等と存分に雌雄を決することが出来よう』

 魔王軍との決着を先延ばしにしたところで、いずれ戦う相手である。ならば、いくらかの戦力を潰せるこの時を逃す手はない。

「ふぅん…ここには魔物娘は私しかいないようだけど?」

 雌雄を決すると語ってはいるが、辺りを見回してもこの異界には皇帝とデルエラの二人しかいない。言葉の割には、あまりに寂しい光景である。

『案ずるな…』

 皇帝はニヤリと笑うと、右手の指をパチンと鳴らす。

「「「「「「「「うわわわわ!?」」」」」」」」

 するとその途端、デルエラの後ろには引き連れていた魔物娘達がまとめて喚び出されたのだった。

「へぇ、余裕ね。援軍をわざわざ入れてくれるなんて」

 そう言うが、このリリムは率いていた魔物娘達の無事を知り、安堵の表情となる。

『なぁに、まとめて殺した方が手間が省けるではないか』

 一方、此方の顔に浮かぶは快闊ながらも残虐な笑みである。

「「「「「「「「………………」」」」」」」」

 余裕の表れだろうが、敵を全員わざわざ招き入れるとはあまりに軽率。これが後で苦境を招くに違いないと、魔物娘達は皆一様に考えたのだった。

『さて、そろそろ始めたいのだがな…』
「あら? 貴方がお喋りを続けるから、相手をしてあげていたのに」

 そう言うなりデルエラは美しくも禍々しい笑みを浮かべ、皇帝の目の前から姿を消す。そして、次の瞬間には遥か天空に姿を移動していた。

(被害の及ばぬ場所まで移動し、念のため防護結界を最大出力で!)
((((((((了解!))))))))

 飛び上がったデルエラはすぐさま配下の魔物娘達に念話で指示を下す。すると彼女等は早速、一斉に転移魔術でその場より姿を消してしまったのだった。

『逃げたか……クク、少しは寿命が伸びたな』

 哀れな下等生物達の辿るであろう末路を想像し、実に愉しそうな皇帝。
 逃げたとはいえ、ダークネスフィアの中にいるのは変わらない。エンペラ一世の支配下にあるこの異界より逃げ出すのは、あの程度の下等生物の群では所詮不可能である。

「よそ見とは余裕ね」

 皇帝がデルエラの配下が逃亡したであろう方角に目を向けた隙を突き、その膨大な魔力を己の頭上へと収束させる。

「でも、それが命取りになることもあるのよ?」

 右手を天に掲げるデルエラ。その掌のすぐ上では放出された魔力が唸りをあげ続ける。
 そうして、やがてそれは小天体を思わせるほど大きくなり、一分もしない内に巨大な真紅の破壊光球となって結束したのである。

『…貴様相手では、別にそうは思わぬ。雑魚と申したのはそういうことだ』
「…!」

 しかし、これだけの魔力の塊を見ても尚、皇帝は全く動じない。

『快楽と性交の事しか考えられぬ腐った脳味噌だとは分かっているが……少しは理解してくれると、ありがたいのだがな』
 
 デルエラを相手に尚、放言して憚らないエンペラ一世。その傲岸不遜極まりない態度には、享楽と好色だけを好むリリムですら虫酸が走るが、その言葉の一つ一つに何故か無視出来ない重さを感じ、僅かに戸惑ってもいた。

「撃つのだろ? さっさとやらなくてよいのか?」
 
 皇帝はクイクイと右手人差し指を曲げ、デルエラに光球で攻撃するよう催促する。

「…その図太さには、敬意すら覚えるわ!」
『ほう、そうか。余は逆に、貴様には嫌悪以外に何の感情も湧かぬのだが』

 皇帝の言葉に不快さを感じながらも、デルエラは攻撃体勢に移行する。瞬時に10km以上の距離を移動し、光球の真上に現れたのだ。

「…シュートッ!」

 デルエラは普段の妖艶らしからぬ素早くトンボを切ると、その右足を光球の真上に叩きつけ、地上目がけて真紅の小天体を蹴り飛ばす。

『………………』

 迫る小天体だが、これは物質でなく爆発性の魔力の塊。当然、地上に着弾した瞬間に爆発し、辺り一帯を魔力の爆風が覆うことになるだろう。
 その衝撃たるや、大国一つを滅ぼすに十分過ぎるものである。

『……フン』

 皇帝は気怠げな様子で鼻を鳴らすと、デルエラとは逆に左手を天に掲げる。

『相変わらずひどく臭う魔力だ。姿は美しくなろうと、これだけは昔と何も変わらぬ』

 唸りをあげながら、血の如き光の雫を撒き散らして落下する小天体。それと比べれば、地に立つ男のなんと小さいことか。
 ……だがしかし――

『なればこそ、貴様等の存在はこの世界に不要!!
 ――“天地を揺るがす破壊の波よ、その全てを押し潰せ!!”』

 目前に迫る真紅の小天体を見据え、皇帝は詠唱する。

『さぁ、唸れ!! 【エンペラインパクト】!!』

 衝突寸前で男の左掌に魔力が収束し放たれた、異界全体を震わせるほどの衝撃波。それは小天体に衝突後、すぐさま押し戻し、ついにはデルエラの元へと送り返したのである。

「!?」
 
 跳ね上がった魔力球はやがて爆発するも、衝撃波に押し返されて爆風は全てデルエラへ向かってきた。直撃する寸前、彼女は瞬時に全身を覆う防護結界を張り巡らして難を逃れたものの、爆風は曇天の雲全てを吹き飛ばし、空模様を一気に変えてしまった。

「な、なんて威力…!」

 あの技は所詮小手調べ、あくまで示威としてデルエラに放ったにすぎない。だが、それでも尚その威力はまともに喰らえば、リリムの半身が千切れかねないものであった。

「!」

 しかし、一瞬気が緩んだ瞬間、デルエラの体に続けて赤黒い破壊光線が直撃する。

『ほう、これも防ぐか』
「危ないわね…!」

 防護結界は効力を失っておらず、ダメージはない。だが、デルエラの瞳には怒りによって再び血管が浮き上がる。

『ほぉ〜、大分昔に戻ってきたな…』

 エンペラ一世はデルエラの姿を見て昔を思い出し、嘲りつつもどこか懐かしむ様子を見せる。
 彼の知る時代とは違い、今の魔物は雌しかおらず、皆一様に美しい。しかし、今のデルエラは美しくも、どこか五百年以上前の魔物に近い禍々しさも溢れていた。

『さて、もう少し化けの皮を剥がしてやるか』

 エンペラ一世は虚空に魔方陣を描き出すと、そこから愛用の双刃槍を召喚する。

『ぬんっ!』

 そして続けて赤黒い魔力に包まれ、その姿を眩ませたのである。

「!」

 直後に皇帝はデルエラの背後より現れ、大上段より双刃槍を振り下ろした。

「はぁっ!」

 しかし、デルエラはこれを見事な真剣白刃取りで受け止める。さらにはその圧倒的なパワーで穂先を押さえつけ、これ以上刃を進ませない。

「ダメだわ〜、女の子を背後から武器持って襲っちゃあ!」

 力が入りまくっているせいか、凄絶な笑みを浮かべながら語るデルエラ。
 このリリム的には襲われるのはいつでもOKだが、その時は殺害でなく性交や恋愛目的で襲ってきて欲しかった。ただし、目の前の男は血生臭すぎて好みでないのが悲しいところではあったが。

『然り』
「でしょ?」
『だが…』
「?――――――〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!??」

 短い問答を続けるデルエラと皇帝。だが、それも突如槍の穂先より照射された直径15m近い光線にリリムが呑み込まれたことによって、無理矢理終わらせてしまった。

『貴様は少女と言える歳ではあるまい!』

 最早女の子と言える年齢ではない。皇帝は憤慨し、業火に包まれて落下するリリムへそう答えてやったのだった。





「うぅ……」

 全身が焼け焦げたデルエラは、荒野に寝かされていた。

「あの男の魔力が入り込んでいるから、見た目以上に再生には時間がかかるわね…」
「だらしない。それぐらいすぐに回復してみせたらどうだ、王女よ」
「ウフフ……助けてもらったあなたにそう言われては、文句も言えないわ」

 傍らに侍る人物へ厳しい言葉をかけられながらも、リリムは気丈に微笑む。

「だから、私が殺してやると言っただろう」
「いいえ、それはダメ。あんな男でも、私は殺す気はないわ」
「それが甘いのだ。そんなあんたの態度が、数えきれぬほどの悲劇を生むのだぞ」
「それが難しいところね。けどそれでも…曲げるつもりはないのよ」

 それがデルエラの信念であり、そして彼女の母の信念でもある。母に心酔し、その志を同じくする彼女は、これをどうあっても曲げるつもりはない。 

「仕方ない。ならば、そこで寝ていろ」
「何をするつもり?」
「決まっているだろう。私が諸悪の根源を断ってやる」
「……素直じゃないわね。本当の理由があるくせに」
「別にいいではないか。私は我が『ヴェルザー一族』の仇が討て、アンタは悩みの種が一つ減る。
 それの何がいけないのだ?」

 押し問答になるが、二人とも譲る気はない。しかし、こちらの人物の意志も非常に固かった。

「止められなさそうね。いいわ……行きなさい」
「ほう、リリムの許可が出た。これで誰に憚ることなく奴を殺せる」

 そう呟くと、この人物は怒りと憎悪の入り交じる、美しくも恐ろしい笑いを浮かべる。

「殺すのは許可していないわ。あなたに許可したのは、あくまで私が戦うまでの足止め」
「無駄なことだ、来る前に奴は死ぬ。“竜王”たる私の前では、あのエンペラ一世と言えども敵ではない!
 その結果を招きたくなくば、せいぜい回復に努めることだ」
「……命は無駄にしてはいけないわ、バーバラ・ヴェルザーさん」
「私一人だけで戦うなら、まるで死ぬとでも言うような口ぶりだな。
 面白い。それならあんたのその予想を覆してやろうじゃないか!」

 そこまで語ると、この雌ドラゴンは背中の翼で飛び上がり、上空に待ち構えているであろうエンペラ一世の元まで飛んでいったのだった。
15/07/20 15:59更新 / フルメタル・ミサイル
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■作者メッセージ
備考:ヴェルザー一族

 最高位の魔物たるドラゴンの中でも、名門中の名門と言われる一族。その始祖にして家名の元となった邪竜ヴェルザーは、当代の魔王とその地位を争ったという強大なドラゴンで、その子孫たる彼等もまた並の竜を歯牙にもかけないほどの強者揃いだったという。
 実際、過去に何度も魔王を輩出したほどの家柄で、ここ数千年は全ての竜族の指導者的存在となっており、一族の長は代々竜族の王者『竜王』を名乗った。代々の魔王も彼等に一目置いており、魔族に対して常に高い権力と影響力を持ち続けたという。
 だが、彼等は五百年前に突如滅び去る。それは彼等の縄張りにある時、エンペラ帝国という巨大国家が都市を造り始め、それにヴェルザー一族が怒ってそこに攻め込んだせいだった。しかし、迎え撃った男『エンペラ一世』と部下達によって、彼等は皆殺しにされてしまったのだ。
 こうして一族の者五十余頭は殺された後に首を刎ねられ、死体は野原にさらされた。さらには指導者の一族を失ったことで竜族は混乱し、権力闘争が起きて余計な血が流れたが、やがてそれは一体の雌ドラゴンが現れたことで終結する。
 彼女の名はバーバラ・ヴェルザー。エンペラ帝国との対決時に、まだ生まれたばかり故に参加させられず、皮肉にもそのせいで生き残ったヴェルザー一族最後のドラゴンであった。

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