連載小説
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3.エルフ(弓道家)
ここはとある大学のキャンパス

ギリギリギリ・・・・シュパァーン!・・・・カン!!

休日の午前ということもあり、運動系のクラブがグラウンドや体育館で活動している以外は普段の喧騒はなく、大学内は静かである。

ギリギリギリ・・・・シュパァーン!・・・・カン!!

その一角「弓道場」と書かれた施設から音がしている

ギリギリギリ・・・・シュパァーン!・・・・カン!!

この規則的に音を立てている元は「和弓」と呼ばれる弓である。西洋で使用されていた長弓(ロングボウ)よりも長く、力の無い者でも引くことができる日本独自の弓である。先程からの音はこの弓を引き、矢を放ちそれが命中する音なのである。

ギリギリギリ・・・・シュパァーン!・・・・カン!!

おおおおお〜〜〜〜〜パチパチパチパチ!!!!!!!!

4回目の矢の当たる音と共に歓声と拍手が上がった。


「すっげえ・・・いとも簡単に(※)皆中をやってのけたぜ・・・」
※すべての矢(全四本)をすべて的に当てる事
「さすがは日本代表だな・・・」
「はあ・・・・小笠原先輩・・・ステキ・・・///」
ギャラリーであった男女弓道部員達からは感嘆の声が上がっている。この弓道衣を来た人物の和弓の技術は勿論だが、矢を放つまでの一連の動作、当ててからの動作すべてに人をひきつける魅力がある。
「ふう・・・これくらいは出来なければ人に教えるなんてできないからな」
「お疲れ様です。小笠原先輩」
僕は先程まで矢を射っていた人物へタオルを渡す。

この人は小笠原 早矢(おがさわら はや)先輩
彼女はエルフという種族の魔物である。この大学の弓道部OGであり、僕の一個上の先輩であった。種族の特徴通り弓の扱いに長けており、弓道部のエースとして小笠原先輩は在学中抜群の実力で4年連続全国大会個人種目で優勝をした弓の達人である。それだけにとどまらず小笠原先輩は様々な弓術競技も得意としアーチェリー(洋弓)では日本代表に選ばれている。さらに数年後のオリンピックの指定強化選手にも選ばれているこの大学弓道部の伝説的人物であった。その実績を引っさげ昨年公務員試験に見事合格し、卒業後は警察官となって現在は市民の平和を守るために尽力されている。
「ああ、ありがとう本多」
そう呼ばれたのが僕こと本多 達人(ほんだ たつと)
小笠原先輩の後を引き継いで弓道部部長を務めている。
「相変わらず惚れ惚れする弓術ですね」
「ふふっおだてても何も出ないぞ?」
「ははっわかってますよ先輩。さて、デモンストレーションは終わりですね。全員集合!!」
僕の掛け声に小笠原先輩の弓術に魅入っていた男女部員達が一斉に集まる。
「いよいよ昨年の雪辱を果たすための大会が間近に迫ってきている!本日は御多忙の中我が弓道部OG小笠原先輩を特別講師としてまねかせていただいた!!またと無い機会なのでどんどん先輩から技術を学ぶ様に!!」
「はい!!!!!!」
「ではまず男子は走りこみ、女子は弓道場にて打ち込みをそれぞれ交互に行なう。練習開始!!」
「はい!!!!!!」
僕がひとしきり今日の予定を告げると各自練習の準備の為に散り散りになっていった。
「ふふ・・・少し見ないうちに随分部長らしくなったじゃないか・・・」
「はははっさすがに慣れましたよ」

こうして弓道部の練習が開始された・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夕方になり、一連のメニューをすべてこなして本日の弓道部の活動は終了した。それぞれの部員は既に帰宅しているが、まだ弓道場には人影が残っていた。そこには・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・」
弓道衣を着たままの小笠原先輩が正座をし、「何か」を待っていた・・・
「お待たせしました先輩。部員はすべて帰宅しました」
「・・・そうか・・・」
「今日来ていただいたのは他でもありません。もうすぐ全国大会が始まります。僕も含めて部員全員が昨年の雪辱を果たすべく一丸となっています。だから部長である自分が昨年の自分より成長しているのか今一度知りたいのです。だから先輩、僕と勝負してください!!」
「ああ、最初からそれが目的だったんだろう?いいだろう。お前がどれくらい成長したか確かめてやろう。」
「ありがとうございます」
「よし、では勝負だ本多!手加減は一切しないからな」
「はい。本気の先輩を倒さなければ何の意味もありません」
「ふふ、言うようになったじゃないか。」
「・・・先輩のおかげですよ」


そう、今の僕があるのは「あの日」の先輩のおかげなんだ・・・

あれは丁度一年前・・・









「ううっ・・・ぐすっ・・・」
あの日僕は会場の片隅でひたすら泣いていた。4年生の小笠原先輩をはじめとする先輩方の最後の全国大会の団体戦決勝。同点のまま最後までもつれ、最後の一射勝敗を分ける"命矢"を僕が射ることになった・・・
けど僕はプレッシャーに負け、的を外してしまった。その後相手が的へ命中させた為、僕たちは負け、小笠原先輩の個人・団体総合優勝という目標を僕のせいで台無しにしてしまった・・・

「・・・本多、ここにいたのか」
「ううっ・・・小笠・・・原・・先輩・・・」
「何を泣いているんだ?もうすぐ表彰式がはじまる。さあ、行くぞ」
「うぐ・・・僕のせいで負けてしまいました・・・すみません・・・」
「そんな事は気にするな、あれは団体戦なんだ。誰が悪い、悪くないではない」
「でも・・・でも・・・!!」
「ではそうやっていつまでも泣いているつもりか!!!」
先輩は力まかせに僕の弓道衣の胸倉をつかみ引き寄せる
「!!!」
「甘ったれるな!悔しいなら次は必ず当てられる様に心も体も鍛えろ!!誰にも負けないくらい腕を磨け!!わかったか!!!」
ウジウジしていた僕を先輩は一喝した。けど、その瞳にはうっすら涙が浮かんでいた・・・
「・・・先輩・・・わかりました・・・」
「よし・・・さあ、行くぞ」
「はい・・・」


最後の大会を終え、引退を迎えた4年生の先輩方最後の挨拶の日がやってきた

「今日で我々4年生は引退となる頼りない部長であったと思うが、今までついてきてくれて本当にありがとう・・・」
またこの日は次の新体制での部長が決まる日でもある。伝統として引退する4年生全員で話し合いをして新部長を決め、挨拶の場で発表するのだ。
「そして、引退後の部長についてだが・・・引退する4年生らとの話し合いの結果、本多に引き継いでもらうことにする」
「え・・・僕が・・・ですか・・・??」
予想もしていなかった発表内容に僕は驚きを隠せない
「ああ、お前が部長だ。責任感の強いお前が適任だ」
「そんな・・・僕が部長なんて務まるわけ・・・」
「・・・・・」
部長が僕の前に歩み寄り、ポンッと肩に手を乗せる
「本多、もっと自信を持て。お前は自分を過少評価しすぎている。私達4年生の話し合いの中でも誰も異論は無かった。それにお前の同期や後輩達も異論はなさそうだが?どうだみんな??」
「ああ、本多なら部長に適任だな」
「そうね、本多君なら小笠原先輩の後を引き継いでくれそうね」
「本多先輩は僕も適任だと思います!」
「私も」「俺も!!」

振り向くと僕以外の同期3年部員や後輩達も僕が部長になることに賛同してくれていた・・・
「みんな・・・」
「どうだ?みんなお前を支持している・・・大丈夫だ。お前になら・・・できる」
「・・・はい!」
「・・・よし、決まりだな。これで安心して引退できるな」
小笠原先輩はニッコリと微笑んでくれた。今までみた先輩の最高の笑顔だったと僕は思った・・・

こうして僕は小笠原先輩の後を継ぎ弓道部の部長となったのだ。

僕は・・・僕は強くなる・・・絶対に・・・!!

その後僕は約束を胸に部長として部全体の統括と自身の鍛錬に日々明け暮れた。はじめはなかなかうまくいかなかったり、いざこざも多々あったが、それらを乗り越え確実に僕、いや僕達は成長していった。

それから一年後再び我ら弓道部は全国大会へ駒を進めた。僕達は昨年の雪辱を果たすべく総合優勝をする為に・・・





もうすでに月が見える時間となった頃、決着は着いた。

「・・・私の負けだな・・・強くなったな・・・本多・・・」
「先輩・・・ありがとうございました。」
「もう私の力など借りなくても大丈夫だ。全国大会、頑張るんだぞ」
「はい・・・」
「では、私はこれで・・・」
「あの、先輩!待ってください!!」
「どうした?」

「僕は・・・僕は・・・せっ先輩の事が好きです!!だから付き合ってください!!」

「なっ何を突然!?」
「ずっと先輩にあこがれていたました!いろんな人から声をかけられていた先輩は高嶺の花だと思っていました。でも、先輩が僕を励ましてくれて僕を部長に指名して、そして自信をつけさせてくれたからここまで自分は強くなることができたんです!そして同時に先輩へのあこがれではない好きだという自分の本心に気づきました!!こんな勝負までしていただいて、くだらない事を言っているということも分かっています。拒否していただいても構いません!!でも、でも・・・!!!」
ガシッ・・・
「え・・・」
「・・・もういい、もういいんだ本多・・・何も言うな・・・」
自分の想いをぶちまけていた僕は突然、小笠原先輩に抱きしめられる。
「わっ私も・・・私も本多の事がすっ好きだ///」
「え・・・?ええ!?」
「まったく・・・お前って奴は・・・つくづくかわいい奴だな・・・口にはださなかったが、在学中も私なりにお前に結構アプローチは掛けていたつもりだったんだぞ・・・」
先輩は少し不機嫌そうな顔をして僕を見つめる・・・
「・・・」
思い出せ僕・・・自分の記憶を掘り返してみる・・・ああ、そう言われると弓の指導をしてもらう時、先輩の胸が当たってたり・・・先輩が飲んだ後のドリンクを渡されたり・・・引退後も部への差し入れって何故か僕だけ専用のがあったり・・・まさか・・・
「ここまで鈍感とは予想外だったが、そこがお前のいいところだからな。私も在学中は部長という立場上おおっぴらにお前に告白もできなかったかしな。だから去年引退をする最後の大会の後に・・・と考えていたんだ。だが、あの大会の事もあって、お前を本当の意味で成長させるチャンスだと私は考えた・・・だから言わなかったんだ・・・お前の成長を見届ける為に」
「・・・先輩・・・そこまで僕の事を・・・」
「結果お前は私の見込んだ通りに成長し、そして私を超えてくれた・・・本多・・・いや達人、お前は私の理想の男だよ・・・」
「先・・輩・・」
「達人、これから先輩はなしだ。"早矢"と呼んでくれないか?///」
「でっでは・・・はっ早矢さん///」
「・・・なんだかこそばゆいな///」

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

お互いどれくらい抱き合っていただろうか、いつまでも続けばいいのにと思っていた僕の視界は突然弓道場のからみえる月と夜空の景色へと移り変わった。
「・・・えっ?」
突然のことで理解できずにいたが、視界に先輩、じゃなくて早矢さんが入ったことで僕は早矢さんに押し倒された状態だということを理解した。
「・・・早矢さん?あの・・・」
「すまない・・・もう"我慢"できそうもない・・・」
「がっ我慢ってまさか・・・」
早矢さんの顔は普段の凛々しい顔つきではなく、まるで獲物を捕らえた肉食獣の様に喜びに満ちた表情をしていた。
僕はイヤな予感走り、背中から汗が湧き出るのがわかった
「はぁ・・・ずっと我慢してきたんだ・・・好きな男が目の前にいるのに私はお預け同然のことを自分に強いてきたんだ・・・それなのに、お前からそんな事を言われたらな・・・じゅるり♪」
先輩は舌なめずりをするとあっという間に僕の着ていた弓道衣を脱がせつつ、自分も徐々に脱いでいるため、早矢さんの美しい裸体がさらされていく・・・
「はっ早矢さん!?ちょっそんな僕、まだ心の準備が!?」
「はぁ・・・はぁ・・・ふっまだまだだな達人♪弓道の基本は動作に入るまでの準備と常に平常心である事だ・・・これからは達人の"コレ"もいつでも「射」れる様にしておかなくてはなあ♪特別に今日は私が準備をしてやろう♪♪♪」
「あっちょっ!はっ早矢さんまっt・・・」





「「ああああああアアアアアアアァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」」



誰もいない大学の弓道場で二匹のケモノの叫び声だけが夜通し木霊していたのだった・・・





〜後日談〜

そんなこんなで僕らは結ばれ、その後行なわれた全国大会は弓道部一丸で挑み、見事念願の個人団体総合優勝をする事ができた。かけつけていた応援団の中には小笠原先輩・・・ではなく、早矢さんもおり、僕達の優勝を涙を浮べつつ祝福してくれた。その後僕達4年生は弓道部を引退し、すでに新部長のもと新生弓道部が始動している。

それからしばらく時間が経過しようとしていた・・・



「あの・・・早矢さん・・・」
「ん・・・何だ?達人」
今日は早矢さんの仕事がオフの日なので、デートに出かけている。
「あの勝負の時、もし僕が告白しなかったら、どうなっていたんでしょうか?」
もし、あの時僕が負けていたり、想いを打ち明けなければどうなっていたのだろうか?正直考えたくもない未来ではあるが、ふと思い立つときがあるのだ。
「ああ、あの時か・・・」
「はい、その事を考えるとなんだか怖いなって」
「そうだな・・・」
早矢さんは少し考えてから
「あの時は本当に全力で勝負したからな。お前が勝とうが負けようがそれは関係なかった。ただ、どんな結果であれ、お前の最後の大会が終わったらお前に好きだって告白するつもりだったんだ。」
「そっそうだったんですか(ホッ)」
「だが、正直あの時お前に勝てる気がしなかったんだ。」
「え?何故ですか??」
早矢さんはおもむろに自分の胸に手を置いて

「勝てる訳がないさ・・・もうその時既にお前に私の"ここ"を射抜かれていたんだからな・・・///」

照れながらも嬉しそうにそんな事を言う早矢さんに僕も「射抜かれた」のは言うまでもない。

〜おわり〜
12/05/08 00:39更新 / KOJIMA
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■作者メッセージ
弓道衣の女の子ってカワイイよね(キリッ)
知ってるかい?弓道衣(女)はスキマだらけなんだぜ・・・?
よし、すぐに大学にいk(ぎゃっ?!どっどこらかともなく痺れ矢が・・・ガクッ)
ども!KOJIMAです〜性懲りもなく3話目投下してしまいました(泣)
とりあえず主人公はモゲてほしいですな(キリッ)
今回は学生生活という視点でお送りさせていただきました^^
そろそろ化けの皮がはがれはじめそうですが、まったく皆さんの御意見とりまとめ切れておりませんので、そろそろリクエストにお答えする様努力いたしますm(__)mまたよろしくお願いいたします><

さて、以下は本編のNGシーンとなっております↓

本編NGシーン

ギリギリギリ・・・・シュパァーン!・・・・カン!!

ギリギリギリ・・・・(ピシッ!)シュパァーン!・・・・カン!!
おおおおお〜〜〜〜〜パチパチパチパチ!!!!!!!!
(・・・今弦が先輩の耳に当たったよな・・・)
(ああ・・・当たったな・・・痛そうな音がしたな・・・)
(でも痛いはずなのに顔色一つ変えないなんてさすが小笠原先輩だわ!ステキ///)
「お疲れ様です小笠原先輩」(痛かっただろうな・・・エルフの耳は長いから弦が当たりやすいんだよな・・・)
「ああ、ありがとう本多」
僕はとっさに部員の視界を遮る様に立ち、先輩は汗を拭いていると見せかけて必死で痛みをこらえ、渡されたタオルで涙をぬぐうのであった・・・(終)

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