連載小説
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キキーモラの世界
 メッセシアの街は、『聖都』から約50マイル離れたところにある交易の街です。

 主要産業は、土精霊の祝福を受けた土壌で育つ美味しい野菜。『聖都』でもかなり高額で取引されており、教皇様や貴族の方が召し上がると、母から聞かされたことがあります。


 メッセシアの街を治めるベッカー家は、私の仕える由緒正しき首長の家です。
 街の人たちからの支持も厚く、『聖都』への献上も欠かしたことはありません。

 高い城壁がありますから、魔物の脅威におびえることもありません。
 教会もありますし、ベッカー家の雇った傭兵がいますから、魔物が街に入り込んだことなど、本当に数えるほどしかないそうです。


「……ふっ、わぁぁっ」

 私があくびをしていいのは、メイド用に割り当てられた廊下に並ぶ私の部屋の中のみです。
 つまりは、私が家から持ってきた、擦り切れた寝巻きに身を包んでいる時のみなのです。


「……ええと、今日は庭の手入れと洗濯、でしたね」

 私は壁にかけられた鉄製のボードと、頭の中の記憶を照らし合わせます。
 このボードはご主人様のアイデアで、翌日の仕事に対応した色の札をかけておくものです。今日は『掃除』の赤い札と、『ご予定』の白い札がかかっていました。
 臨時のお仕事がないことをまず確認し、安堵します。

 私は立ち上がり、廊下の手洗い場で顔を洗います。あたりはまだ静かです。早起きだけが取り得と昔から言われている身ですから、メイド長のテレサさんよりも早起きなのです。とはいえ、ほんの五分か、その程度の差なのですが。

 水精霊の入った硝子の容器を叩くと、精霊が石に開いた穴から水を出します。清浄な水に一度感謝を捧げ、顔にばしゃりとかけます。

「……?」

 そこで私は、両手に違和感をおぼえました。なんだかぐっしょりと、濡れた布を巻いたような感触です。

 両手を広げると、あかぎれの酷い手の下、手首が灰色の毛皮のようなもので覆われていました。そこが濡れていたのです。

「こんな飾りをつけた覚えはないのですけど……」

 ギイッとベッドが軋む音が耳にはいって、私は慌ててもう一度顔を洗いました。
 テレサさんが起きようとしている。本心で言えば、あまり鉢合わせしたくはないのです。


 手早く顔を洗って部屋に戻り、寝巻きを脱いで着替えます。すぽんと上下を脱ぐと、なんだか、ツンとするにおいがします。
 汗のにおい、と似ていますが違います。

「……今日、洗っておきましょう」

 メイドの洗濯物は、家の方々とは当然別です。くしゃくしゃと寝巻きを部屋の隅にまとめて置いて、壁にかかったメイド服を取ります。胸についた三本の鉤の紋章が、誇り高きベッカー家の家紋です。

 ベッカー家の紋章がついたものを、私のようなメイドすら着用を許されるというのは、ひとえにご主人様や当主様のご理解の賜物です。

 いつもでしたら、一度この紋へと感謝を捧げるのですが、本日は違いました。

「は、外れない……?」

 ごわごわとした獣のような毛は、私の腕全体と足元、そして腰周りを覆っていました。引っ張るとなんだか皮膚まで引っ張られているような気がします。
 それを外そうと苦闘したのはほんの数十秒でした。私は構わずメイド服を纏い、髪を整えます。

 朝はとても忙しいのです。当主様やご主人様の起床時間の前に、すべてを終えなければなりません。庭の掃除も例外ではないのです。当主様は朝起きてすぐ、庭を散歩されるのですから。


 あたふた、わたわたと身なりを整え、廊下に出ます。テレサさんがぱたぱたと走っていくのが見えます。少し遅れたようです。
 私は掃除のための用具をとって、庭へと走りました。

 体のあちこちがごわごわとして、とても痒かったです。




 私――エリス=トーランドットは、貧民です。
 もう今はないテスの村で生まれ、家族のためこの街まで来たのですが、何もかも要領が悪く、仕事はままなりませんでした。
 特に動物が苦手で、農業などもってのほかでした。

 そんな私を拾ってくださったベッカー家の方には本当に、命にかえても足りぬほどの恩を感じています。
 一生懸命に仕事を覚え、言葉を覚え、文字を覚え、ようやくメイドの一人として認められ、畏れ多くもご主人様――ベッカー家次期当主である、現当主のご令息――の身の回りのお世話を任されるようにまでなりました。

 生来のおっちょこちょいもようやく治ってきたとは、思ったのですが……



「わ、ひゃぁっ!?」

 どすーん、と音をたてて庭で転んでしまいました。立ち上がるとき、何かを踏んづけたのです。なぜかお尻のあたりがとても痛いです。

「い、いた、いたいっ……」

 そこをさすると――なんだかごわごわとした毛皮があります。
 痛みが一瞬だけ職務意識を忘れさせ、それが何かおかしいと、はっきり思いました。

 体のあちこちにまるで獣のような毛皮がついている。
 いえ。これは……生えている、のでしょうか……?

「いけないいけない。早く終わらせないと……」

 ここはベッカー家の屋敷の周りを囲む庭園です。
 薔薇園とは別の、お散歩用の庭であり、私が毎日整える場所でもあるのです。草むしりやたまに出る害虫の駆除、小さな花壇のお花のお世話などです。

 なんとかお尻をおさえて立ち上がり、草をむしり、タワシで花壇の縁石を磨きます。


「――おお。ご苦労」

 少ししゃがれた声で私は慌てて立ち上がり、姿勢を正しました。背筋を伸ばして、頭を下げます。

「と、当主様! おはようございます!」

「うむ。お早う」

 屋敷の裏口から出てきた当主様は、私へと優しい微笑を向けてくださいました。
 プラチナ色の髪は眩しく、それ以外の服装も、背筋もすべて、誇り高きベッカー家の当主としての威光が輝く姿です。

 ベッカー家は確かに屋敷を持ってはいますが、その中では倹約を家訓としています。禁欲的に、慎ましく生きることは主神様への信仰の篤さ故なのです。
 当主様の寝巻きも、貴族然とした絹織りではなく麻で編んだものです。私たちメイドのそれとあまり差はありません。

 外に見える部分は威光ある姿に。外に見えない部分は慎ましやかに。
 本当に、素晴らしいお方だと思います。

 当主様は私から目線を外して、晴れ渡る空や先ほどまで整えていた庭の木々を眺めつつ歩きます。私は内心、ほんのわずかな粗相が見つからないかと恐怖しています。
 縁石を眺める少し皺のよった双眸を、私はじいっと見つめます。

 いいえ。粗相があるのは寧ろ私のほうです。なんだか体全体がごわごわとくすぐったくて、もじもじと足や手を動かしてしまうのです。
 お尻のあたりに手を当てると、何か細長いものを掴んでしまい、「うひゃぁ」と声をあげてしまいました。

「ん? どうしたんだい」

「い、いいいいえっ!! な、何でもございません!!」

 私は後ずさるように屋敷の壁に背をつけ、体をこすりつけかゆみを取ろうとします。当主様が不思議そうに私を見たのは三秒ほど。また朝の散歩に戻られました。

               ※※※

 メイドたちは太陽も少し傾いた昼下がりに昼食を摂ります。

 食堂は外から来たお客様が使うこともありますから、私たちはそれぞれのメイドの個室で賄いを頂くのです。
 今日はお昼から教団の司祭様が来られていて、そのランチの残り物です。
 私のような貧民だと、半年働いてようやくありつけるような分厚いステーキの、親指の爪ほどの切れ端と炊いた白米一膳でした。

「主神様……恵みを感謝します。そして当主様。私のようなものに、これほどのものを……」

 厳密に言えば、教団の教義では主神様と司教、大司教様以外を並べることは不敬であるとされています。
 ですが私にとっては、当主様は本当に、神様のような方なのです。

 昼の時間は三十分。素早く食べ、食器を洗い職務に戻らねばなりません。

 ですが、私の体に生えた――そうとしか思えないごわごわした毛皮が、白米の中やステーキについて大変邪魔なのです。

「ううー、ああもうっ」

 私は錆びた髪留めをもってきて、腕の毛皮をまとめました。痛いです。髪の毛を引っ張られたような痛みがあります。

「……病気、なのでしょうか……」

 病気、と呟いて私はさあっと背筋が冷たくなりました。

 主の健康管理もメイドの務め。それが伝染病を媒介したとなれば、死んでお詫びしてもまだ足りないほどです。
 勿論、解雇は免れません。

「はわわわっ。はわわわわ」

 途端に焦って、膝に乗せた賄いのトレイを落としかけてしまいます。落ち着け、落ち着けと繰り返して、体の震えを少しずつ減らします。

 私は医術の知識など全くありませんが、これを放置して当主様や、そのご令息(ベッカー家の次期当主)であらせられるご主人様に奇病を移してしまっては、私の命だけでは到底償いきれません。

 今日のお仕事が終わったら、医者にいこうと決意しました。


 ……このときにはまだ、そう思うだけの理性があったのです。


               ※※※


 昼も下がった頃、私はご主人様――当主様のたった一人のご令息にして次期当代、アレン=ベッカー様のお部屋へ参ります。
 アレン様に本日のご予定を伝え、お掃除をするためです。

 私のような仕事について日も浅いメイドがどうして、このような大役を仰せつかったのか疑問に思ったこともあります。
 当主様にそれとなくお聞きしたところ、「歳が近いから、同年代のほうがアレンも気を遣わないだろう」とのことでした。

 確かに私は、今年で十六歳であり、ご主人様は十三歳です。
 メイドの中では最年少である私。


 しかし兎にも角にも、私はご主人様を年下の男の子等と見られるわけはありません。
 その挙動一つ一つにある気品を目の当たりにしては、そのような愚かしい感情を抱けるはずもないのです。


 コンコンコン、と私はご主人様のお部屋の扉をたたきます。

「どうぞ」

 その声がなんとなく、いつもより快い調子の声にきこえ、私はぶるりと体が震える程でした。
 まるで天使のような――神託の時に舞い降りる戦乙女のごとき声です。

「し、し、失礼しまひゅっ!」

 私の声はひどく上ずっていました。体がぶるぶる震えて、心臓が異常な速さで鼓動しています。顔を上げられず、廊下からご主人様のお部屋の赤絨毯を見たまま扉を開け、滑り込むように入り扉を閉めます。

「……? エリス、どうしたんだい」

「あ、し、しつれいしましたっ!」

 私は慌てて顔を上げました。なんと無礼なことをしたのでしょう。ご主人様の顔すら見ずにお部屋へお邪魔するとは。
 もう見慣れた、ご主人様らしい実用主義の飾り気の少ないお部屋が目に入ります。勉強机につき、私のほうを見て、ご主人様は笑っておられました。

 短めに切り揃えた金髪、完璧すぎるほど整ったお顔、そして当主様と同じく質素な部屋着。挙動一つ一つ、いや、息をする動作すらも気品があります。

「あ……アレン様。ほ、本日のご予定をお伝えにま、参りました」

「ああ。ご苦労様。……どうしたんだい? 顔が赤いけど、風邪でも?」

「そ、そそそんなことは決して滅相もありません!」

 どうしてか体は熱いですし心臓は異様に脈打っています。


 ……先ほどご主人様のお部屋に近付こうとした時からそうなのです。
 私自身が奇病を抱えており、これを移してはならないという緊張かと思いましたが、それだけではありません。
 しかしとにかく体全体が熱く、頭の中がぐるぐるするのです。

「あ、あああ、ええと、ご、ご予定は……」

 先ほどお部屋に入る前にメモを見て覚えたはずなのですが、何も思い出せません。私はメイド服のポケットを漁り、メモを取り出します。汗で濡れていました。

 私は読んでそれを覚えようとするのですが、全く頭に入ってこないのです。

 そして奇妙なことに……これを読んで覚えるよりも、このかざした紙の向こうにいらっしゃるご主人様を見たいと思いました。

「……エリス?」

「あ、あああっ! あ、アレン様っ。え、ええと、ええと……」

 私は両手の毛皮が見えないよう紙ごとぐしゃりと袖の中に手をおしこめました。そして、ふらふらと、アレン様に近付きます。

 近付くほど鼓動が早くなり、口の奥が乾きます。しかし私の顔は自然と笑うのです。


 ご主人様が手を止めて、立ち上がります。心配そうに私を見ています。
 それがたまらなく私には気持ちいい。私を。

 私を見て。
 私を見て!

「……エリス!」

 鋭い声が飛んで、私の体がぴたっと止まります。狂熱がさあっと引きます。

 ご主人様が私の前まで来て、私の額にその手を当てました。

「……エリス、どうやら熱があるみたいだね。休んで」

「え、し、しかし」

「不調を押してまで仕事をするのはよくない。父様には僕から言っておくから」

 ご主人様はにこりと笑いました。私はようやく、今自分がしていたことを理解します。
 私はご主人様に予定を伝えるという仕事を放り出し、なぜかご主人様に近付いていたのです。伝染病を持つかもしれない身で!

「あ、あ…………。も、申し訳ありませんっ!!」

 私は腰が折れそうなほど頭を下げて、一目散に自分の部屋へ帰りました。


               ※※※


 メイド長のテレサさんからのお説教はありませんでした。
 しかしこれは、メイド失格と言っても過言ではない醜態です。

「し、信じられません……。どうして、あんなことを……」

 今日はわけのわからないことばかりです。
 体に生えた毛皮、ご主人様を前にしての異常な行動。



 メイド服を着たまま、ベッドで布団を被っています。
 まだ体が少し熱いです。

「ご主人様……」

 目を瞑ると、ご主人様――アレン=ベッカー様のお顔が浮かびます。
 また体が熱くなり、なんだか服を脱ぎたくなりました。

「はぁ……あぁ……」

 私は立ち上がり、メイド服を脱ぎました。両手に生えた毛と――腰から生えた、まるでリスの尻尾のような大きな毛皮が目に入ります。これを私は朝踏んで転んだのです。

 しかしそれを見ても私はそれほど驚きませんでした。いえ、驚くより、私の手はメイド服を取り落とし、下着を脱ぎにかかりました。
 貧相な乳房を覆うものと、秘所を覆う下着。それを私は脱ぎ、粘液が秘所から伝い落ちていると気付きます。

「あ、あぁ……ご主人様……ご主人様の、せいですね……」

 私は、アレン様に欲情していると理解しました。
 私のようなメイドが、天使のごときアレン様に欲情するなど、例えるなら乞食が大富豪と同じ席で物を食べようとするが如き、打ち首にされてもおかしくない不敬です。しかし、体の火照りは止まりません。
 私はベッドに体を投げ出し、両手の指で膣口をこじあけます。そこに指をいれ、ぐるぐるとかき回します。

「あぁっ……! あ、アレン様ぁ! アレン様ぁ!」

 私は劣情のままに暴れる獣のようでした。今はまだメイドは仕事の時間ですから、私の声を聞くものはいません。
 それが私の欲望をかきたて、アレン様への気持ちを漲らせます。

「あぁ……この卑しいメイドを……エリスを犯してください! ご主人様……」

 気のせいか、乳房が大きくなった気がしました。乳房をいやらしい粘液に濡れた指で掴み、勃起した乳首を引っ張ります。その指がアレン様の指であると思うと、子宮が疼くのです。
 どくん、どくん、と、精子を求め、私の――生理の時以外意識すらしない子宮が、狂えるほどに震えているのです。

 まるで腹の中から突き上げるように。私が、メイドではなく、女であることを私自身に思い出させるがごとく。

 じゅるぅ、と膣から分泌液のはじける音がします。指に触れるヒダの感触で分かるのです。膣口が開閉を繰り返しています。
 まるでそれは、獲物を求めし獣のようだと、熱に狂う体とは遠い部分で認識していました。

 体がむちゃくちゃに動いて、恐ろしい熱を発します。穢い私の指が、天使のごとき姿のアレン様の指だと思い込むことで、指はまるで蟲のように膣の奥、子宮口まで這いずりそこを叩きます。

「ああぁぁっ――――はっ、はぁあぁっ…………」

 絶頂、でした。
 びくびくと腰が震え、指が膣口から取り出され――体の熱が収まったあとに気づいたのは、下半身全体のねっとりとした不快感と、汗のようなにおい。
 それはつい最近嗅ぎました。今朝の、私の寝間着にまとわりついていたのはこの――潮のにおいなのです。

「は、あ、あぁ……な、なぜ。私は、こんなことを……」

 思考回路が滅裂な動きをしていました。もう不敬を懺悔するとか、そういったまともな思考は出来ないほど、私は、自分がわかりませんでした。

 体に生えた獣のような毛。
 アレン様への性欲。


 ぱちんと頭の隅で何かがはじけた気がしました。それは私に一つの答えを与えました。

「……ま、魔物、ですか?」

 私は魔物など見たことはありません。人が魔物になることは幼いころ母に聞かされましたが……。
 しかし私は今魔物になっていると、その時はっきり理解したのです。まるで神託や啓示のように。

 もちろん主神様は魔物の存在すら許してはいません。しかし私は裁きの雷を受けているわけではありません。
 まさか、邪神と呼ばれる何かの神託なのでしょうか?

「あぁ…………」

 ぼうっと天井を眺め続けて数分が経ったかもしれません。私はひどく気だるげに起き上りました。ぬめっとした愛液がベッド全体を汚して、このにおいは取れそうにないと思いました。
 ぐるりと首を回し部屋の鏡に映ったのは――淫乱に光る膣や伸びっぱなしの陰毛が見える程股を開き、呆けた顔でこちらを見る、人間としての尊厳すらないけだものの姿でした。

 しかしそれが間違いなく自分であるということは理解しました。

 まともな思考などとうにできなくなっていましたが、私は自死などしません。

「……か、隠し通すしか、ありませんね」

 私は邪神の加護すら受ける魔物です。どうしてか、魔物になってしまったのです。

 だからもう嘘をつくしかないのです。アレン様と一緒にいるために。

 私の前にあるのはもはや、メイドとしての職か解雇か、ではありません。

 メイドとしての職か、処刑です。



 アレン様と私がお会いするのは朝と、そして夜のお食事の一瞬のみです。

 昼の間の掃除や洗濯(主に私たちメイド衆のものです)は、いつものように訓練通り行うことができました。何一つドジもなく、メイド長のテレサさんに「今日は妙に手際がいいわね」と言われるほどに。

 私の頭はお仕事の間ひどく冴えていました。体が意識のままに動くような、いえ、意識を越えて体は動いていました。
 いつもは二時間かかるお屋敷の応接間の掃除も、わずか一時間で終えました。

 異常な手際でした。しかし驚きはしませんでした。
 それがおそらく魔物の力なのです。
 私のような愚鈍な女が……突然、有能なメイドとなれるのは、魔物の力に違いないのです。


 そんな私がいつもの私のような、醜態を晒すまいと綱の上を渡る私に戻るのは、アレン様にお食事を運ぶ時でした。

 私はアレン様のお食事の毒見係でもあり(調理は私より年長の方がされています)、アレン様の前にお食事を並べ、そのうち一切れを私が毒見し、一礼して立ち去るまでがお仕事です。


 調理担当のフレジアさんからアレン様のお食事を受け取り、カートに乗せ、運びます。ベッカー家の家訓に合った、薄いステーキとライ麦のパンにサンチュを添えた質素な食事です。
 その両端にフォークとナイフを添え、からからとカートを運びます。私の後ろには私より年上の二人のメイドがいます。


 私は――カートからそっと片手を離し、フォークを握りました。そしてそれを口に咥え、舌で冷たい銀食器を舐めました。
 執拗に。私のにおいを擦り付けるように。

「……ふぁ、アレン、様ぁ……」

 太ももを生暖かい液が伝います。スカートの内側が見えなくてよかったと、ひどく冷静に思います。しかし体は熱に狂い、少しでも私のにおいをアレン様に届けようと、フォークを咥えたままカートを押すのです。
 ばれるか、ばれないか。後ろのメイドとの距離は五歩もありません。そして後六歩でアレン様や当主様、奥様のいらっしゃる部屋なのです。しかし唇はもごもごとフォークを咥え、私の唾液を染みるはずのない銀食器に擦り付けるのです。

「んーっ……ひゅぅふ……」

 あと二歩。一歩。
 そこで私はぐっと片手に力を込めて、フォークを口から抜きました。唾液が弧を描いて、ステーキの上に落ちました。
 それを見ただけで私の体はまた、強烈な熱に支配され、思わず股を擦ってしまいます。


「……エリス?」

「ひゃっ!? あ、も、申し訳ありませんっ!」

 後ろの先輩方から声をかけられ、私はフォークを置いて扉をあけました。当主様、奥様、アレン様が私たちをご覧になります。
 当主様を主神様だとするのならば、アレン様は美しき天使でした。森の隙間から見える光芒のような、煌きをまとっているのです。

「あ、あ、お、お食事をおも、お持ちしましたっ!」

「うむ。ご苦労様」

 当主様は苦笑しているように見えました。どうして私のような新米メイドが、他の先輩を差し置いて先頭を歩いているのか、今も不思議ですが、何にせよそれはありがたいことでした。
 カートを押して移動する間、目線を下へ向けると、私の唾液でぬらぬらと光るフォークが見えます。それを見るだけでまた私の顔には笑顔が浮かんでしまい、すぐにアレン様の前へ着きます。

「エリス。もう調子はいいかい?」

「えっ、あ、あ、は、はいっ! お気遣い、あ、ありがとうございますっ」

 私は震える手でアレン様の前へお食事を置きます。そして、フォークを取り、サンチュの一切れを刺して食べます。とても美味しいものでした。
 私の貪欲な体は、離れるフォークのその先にまで舌を絡め、ねっとりとしたフォークをアレン様の前へ置きました。

 後から考えればそれは、不敬極まりないことです。ですがアレン様は「今日もゆっくり休みなさい」と笑って、私の手を軽く撫でてくれました。


 今日のすべてのお仕事が終わり、部屋へ戻ることを許された私は、部屋に戻りすぐに全裸になりました。

「アレン様……アレン様ぁっ!」

 濡れそぼった秘所はぱくぱくと開閉しアレン様の――あろうことか、男根を求めています。太ももから膝にかけて、粘つく分泌液で濡れて異臭を放っていました。
 全身がびくびくと痙攣し、私は腰から伸びた土色の尻尾を、自分の膣へと挿入しました。尻尾もまたびくびくと震え、それがまるで男根のようなのです。

「ふうぅーっ……はぁあーっ……アレン、さま。私を、犯してください……!」

 ぐりぐりと尻尾をねじ込むだけで、私の膣は潮をふいて絶頂へと達しました。そこでわずかに意識が戻り、震える手で寝間着を取ります。

 この後は、ベッカー家の方々がお風呂に入られた後、就寝なさる予定です。
 今はちょうど、最後に入るアレン様がお部屋に戻られた頃でしょう。


 つまり――


 私はメイド用の浴場に行くふりをして、ベッカー家の方々用の大浴場へ動きます。
 脱衣所の洗濯籠には、アレン様のお召し物がまだ入っていました。


 素早く壁に掛けられた時計を確認します。八時五十分。ここを担当するフレジアさんが洗濯物を回収にくるのは九時丁度のはず。


 私は洗濯籠を漁り、アレン様の――下着を取り出しました。簡素な麻で作られた、局部を覆うための小さな下着。
 私はちょうど、男根がおさまっているであろう場所に舌を這わせました。異常に敏感になった舌は、そこに男性特有の――精子の味を感じとりました。

 どくん、と心臓が大きく鼓動します。

「はぁぁ……くちゅっ……ちゅうぅ……」

 私は口をすぼめ、じゅるじゅると涎を弾けさせながらそこに残ったわずかな精子を――アレン様を味わいました。

「はぁー…………」

 広い脱衣所で一人、絶頂の後のような長い息を吐きます。
 恐ろしい背徳と甘美の間に揺れて、また私の寝間着の臀部を愛液が濡らしていました。
 私はぺたんと座り込み、濡れた私の寝間着にアレン様の下着を擦り付けました。アレン様の下着に少し、ねっとりとした私の愛液が絡みつき、指で弄ぶと糸を引くのです。

「アレン様っ。おっ、お慕い、申してあげておりますっ。どうかっ。どうかこのエリスを、おっ、おそばにっ」

 私は寝間着を脱ぎ、濡れて固まる陰毛へとその下着を押し当て――ようとした途端に、脱衣所の入り口が開く音がしました。

 私はその時、恐ろしいほどの速さを見せました。その下着を籠へ放り込み、寝間着を着て立ち上がったのです。フレジアさんがそんな私を見て「あれ、エリス?」と声を上げます。

「今日の当番あんただっけ。あたしのはずなんだけど」

「あっ、あ、あの。……そ、そうです。今日のお洗濯は私です。フレジアさんはお休みになってください」

 フレジアさんは「そうだっけ……」と悩んでいましたが、私が「大丈夫です。えっと、これも修行のうちです」と言うと、フレジアさんはやれやれと笑って「あんまり無理しすぎないようにね」と言いました。

「テレサさんも、あんたのこと褒めてたよ。急に手際がよくなったって。少しお給金も弾むんじゃない?」

「あ、あっ、そ、そうですね。お給金……」

 私の頭には無数の銀貨が浮かびました。それは私の命を繋ぐためのものであるはずなのですが……今の私にはそれは、アレン様の下着ほど価値のあるものには思えなかったのです。

 フレジアさんが「もし無理だったら言ってね」と私を気遣いつつも出て行ったのを見計らい、私は寝間着を脱ぎました。汗で濡れた毛皮にアレン様の下着を擦り付け――私のにおいを、何度洗濯しても落ちないほどに擦り付けるのです。

「アレン様……ああ……」

 私はそれから十五分もの間、二度の絶頂をアレン様の下着で経験しました。



 三日経ち、私の獣じみた興奮は――――不思議なことに、おさまってきました。

 昼の間は手際の良いメイドとして。掃除、洗濯、そして最近任されるようになったアレン様がお外に出られる際のお見送り。


 私の体調が回復した――と判断したアレン様は再び、私が朝の庭掃除の後、アレン様のお部屋に入ることをお許しになりました。
 そこに入り、恭しく礼をして、良く通る声でアレン様に本日のご予定を伝えます。

「――――以上になります。ご主人様」

「ご苦労様。エリス」

 名前を呼ばれても、もう数日前のように取り乱しはしません。アレン様はゆっくりと立ち上がり、クローゼットまで歩きます。私はその後ろにつき、クローゼットを開け、アレン様のお着替えを手伝います。

 その間、もちろんアレン様が下着だけになり、隠されてはいますが立派な男根を意識することもあります。しかし、私は平静を保つのです。
 決してそこでアレン様の下着をおろし、男根をこの唇で貪ろうとはしないのです。

 アレン様が外出用の豪奢なコートに着替え、退出なさった後は掃除をします。埃一つ残さないように。お昼に帰られる時までに。


 お食事を持っていく際も、もう食器を舐めることはしません。瀟洒に――という言葉があるようですが、それを私は体現できているのかもしれません。


 そしてすべての仕事が終わり、部屋に戻り部屋着へ着替えます。
 その部屋着は私の――獣のような女のにおいが強くしみついて、特に股のところは糊で固めたようになっています。

 私はベッドをどかし、そこから小さな水晶玉を取り出しました。それに触れると――アレン様のお部屋が見えます。

 アレン様はお勉強をしておられました。

「あぁ……アレン様。今日も、美しい……」

 お勉強の後は、そのまま寝間着へ着替え、就寝されました。水晶玉に触れると、ベッドのすぐ上に仕掛けた装置が見る映像へと切り替わります。
 まるでアレン様に跨っているような視界。何か淫乱な夢を見ておられるのか、男根が盛り上がっていることがわかります。

「ほぉぉお……あああぁ……しゃぶりたい……しゃぶりたいです」

 私は服を脱ぎ、アレン様のお姿を拝見しながら自慰をします。
 ひくひくと糸をひく膣に、今日はアレン様の使っている羽ペンを入れました。こそばゆい感覚と、アレン様のお勉強での汗がしみついていることを思うとすぐに気持ちは高ぶり、絶頂が近づきます。

「あっ、アレン様っ。ああっ――――!」

 私は股を大きく開き、水晶玉へ向けて勢いよく潮をふきました。

『んっ……ああっ……』

 アレン様の顔に、私の潮がかかっていました。ほんの少量ではありますが、それは確かに私の愛液なのです。

「はぁあぁ……アレン様……」

 私は水晶玉にかじりつくようにして、そこに濃厚なキスをしました。これは届きませんが、唾液の一滴ぐらいは届いたのかもしれません。



 昨日私は――――お休みを頂き、魔女と呼ばれる存在と出会い、取引をしました。

 この『瀟洒な瞳』も、魔女が作り出した道具です。事前に仕掛けた装置を介して遠方を見ることができるほか、魔力のこもった液体――つまり愛液や唾液でしたら、少量ながらそこに送ることができるのです。

 私は決して、アレン様への愛を忘れたわけではないのです。

 ただ、あらぶる気持ちを制御し、昼はメイド、夜は女として生き分けることができるようになったのです。



 しかしこれで私は終わりません。私の滝のような性欲はおさまっていません。
 とうに消灯時間を過ぎたころ、私は部屋を出て、アレン様のお部屋へまっすぐ向かいます。この体は夜の闇の中すら見渡せると魔女から聞いたのですが、それは本当なのでした。

 アレン様のお部屋に入り、私はアレン様のお口に薬瓶を近づけ、数滴垂らします。これはアレン様の眠りを深める薬だと聞いています。

 私はアレン様の服を脱がし、自分も服を脱ぎました。屹立する男根を前にして、私はためらわずそれにしゃぶりつきました。

 皮を唇でどかし、固くいきりたったカリ首をぐるりと回すように舌で包みます。唇をすぼめ、ぎちゅっ、と音を立てて頭を引きました。

「んっ……」

 アレン様の表情が歪みます。たった一度の口淫で、深い眠りの中ですら感じさせることができる。こんな性技、人間にはありません。
 だからこそ私は、魔物なのです。

「くぅぅ……ちゅぱっ…… アレン、様。お慕い、申し上げて、おります……」

 アレン様のたくましい脚に、私は自らの乳首をこすりつけます。腫れぼったく勃起した乳輪からじんわりと、暖かい快感が全身へ流れていきます。
 アレン様は脛毛の手入れはされていませんでした。それは貴族としてはひどく珍しいことなのですが、実利のあることを大切にするベッカー家ならではことです。
 とがった毛が私の乳首を撫でるたびに、何も触れるもののない膣口からどろりとした液体が流れ落ちます。それは私の膣から恥丘へ流れ、陰毛をじんわりとぬらしたことを知覚しました。

 普段は愚鈍な私が、情事の時だけ恐ろしく鋭敏な感覚を持っていました。これも魔物のなせる業なのでしょう。
 舌の先のひだ一つ一つが、何千もの黄金にすらかえられないアレン様の男根をしゃぶり尽くそうとうごめいていることすら錯覚します。
 ただ、その中にある、アレン様の子種――そして、精を得るために。

「っつ……ううっ」

 アレン様の腰が少しだけ持ち上がり、裏筋がぷくりと膨れます。私は口を大きく開き、鈴口から飛び出た精液をそのまま喉へ流し込みます。

 ねっとりとしていて、それらは喉に触れるたびに熱く焼けて消えていきます。

「んっ……」

 ごくん、と私は精液を飲み干しました。

「ふわぁぁ……」

 真っ暗な部屋の天井を見上げ、私は呆けていました。今見つかればどうなるかなど、その時は完全に忘れていました。それほどに、それは美味だったのです。


 その天上の蜜のごとき味に私は確信したのです。
 私にとって生涯の夫とは間違いなく、アレン=ベッカー様であると。





 メイドの仕事は滞りなく進み続け、私はいつしか、多くの仕事を任されるようになりました。
 メイド長、ではないのですが、メイドの中でも、当主様のお部屋のお掃除など、名誉ある仕事を任されるメイドなのです。

 しかしそうやって、段々とアレン様と触れる時間が増えるにつれ、私の貪欲な女の部分は、我慢ができなくなってきているのです。

 毎晩アレン様のお部屋へ行き、精液をしゃぶり尽くすだけでは。


 アレン様をいつもいつも見続けるだけでは。

 アレン様と性交し、子どもを作りたい。


 もしかすると、いつもの予定をお伝えした後に、「今夜、お会いできませんか」とお聴きしたら、そのまま性交できるかもしれないのです。
 あるいはその場でスカートを脱ぎ、濡れた膣口を晒せば犯してもらえるかもしれないのです。
 魔物の本能はそう言っています。そうに違いないのです。


 薄汚れた女だった前の私ではなく、今の私は精練された美を得ています。アレン様に釣り合うはずなのです。


 しかし、私は踏み出せないのです。
 それはおそらく、私の中に残った「人間」としての部分。メイドとしてそんなことは絶対に許されないという、神経の底まで刻みつけられた常識です。


 どんなに悩もうと体は動き、良きメイドとしてあり続けました。


 しかしそれが途絶えたのは――――私が魔物になって二十五日目の夜でした。



 世界のどこかには、極光と呼ばれるものがあるようです。
 七色に輝く空に、巨大な蛇が揺らめくように見えるモノのようです。

 私はその夜、アレン様のお部屋へこっそりと向かう途中に見たのです。


 空を赤黒い蛇が覆い、うねうねとうごめいていました。
 それは私に降り注ぎ、私はその場にしゃがみこんでしまいました。

 自分の体の中に入らないはずのものが無理やり入り込んだような、そんな状態です。


 しかしすぐに私は起き上りました。視界がばちばちと爆ぜて、蹴り破るようにアレン様のお部屋を開け、アレン様の服を脱がし、屹立した男根と私の膣口を、何のためらいもなく合わせたのです。

 私は狂える獣のように、アレン様の上で踊りました。アレン様を抱き、その唇を貪りながら。


 アレン様の上で踊る、半獣の女。
 まるで影絵の舞台を、私は一人で袖から見ていたようでした。
 その私はおそらく、人間として残っていた最後の私なのです。

 人間の私は気が付くと服を脱ぎ、その貧相な体を自分で慰めはじめました。


 気が付くと傍観していた私は、アレン様の上にいました。アレン様は目をさまし、驚いていました。

「え、エリス……? ど、どうして、そんな恰好を……」

「…………アレン=ベッカー様。私は、アレン様を愛しています。もう止められないのです。ですから、アレン様の子種を、この身体に宿してしまったのです」

 既にアレン様は二度の射精を終えていました。私の膨れ上がった子宮の中は、どろりとした精液で満たされていました。

「…………すべて、白状します。私は――」


 私は、キキーモラという魔物であるという事。
 私はどうしようもなくアレン様を愛しているということ。
 私を正妻としてそばに置いてほしいということ。



 アレン様は「そうか」と言いました。そして全裸の私を抱き上げ、ベッドへおろしました。

「……父様が帰られたら、お話ししてみよう」

「……魔物を、お許しになられるのですか?」

「わからない。僕も本物の魔物を見るのは初めてだからね。ただ、君の好意を無下にもしたくない。だから、話すんだ」



 ――――私は我慢できず、アレン様と当主様のお話を、例の道具で盗み聞きしました。

 当主様は昨日観測された「魔力嵐」という現象について、街の研究者の方と夜通しお話をされていたようです。

 魔物が活気づく恐ろしい現象。ベッカー家にも魔物狩りの命令が下っていると当主様はまずおっしゃいました。

 しかしそんな流れでも、アレン様は私のことを当主様へおっしゃいました。



 返事はわかりきっていました。
 私の名前を出すと、当主様はとても悲しそうな顔をされていました。
 あのエリスが、魔物の牙にかかってしまうとは……と、主神様の像を見ておっしゃいました。


 当主様は、私を解雇することになるかもしれないとおっしゃいました。
 アレン様は、悔しそうに顔をゆがめておられました。



 キキーモラは有能なメイドです。主人以外には一切手を出さず、他の魔物のように人間を襲うこともないのです。
 しかしそれを説得することはしませんでした。

 私はあくまでメイドなのです。主人の命令に逆らうわけにはいきません。



「んっ……え、エリスっ、何を、考えてるの……!?」

 ……しかし私はどうして、メイド長であるテレサさんのお部屋に入り、テレサさんに濃厚なキスをしているのでしょうか。

 私の口の中には、魔女から得たキキーモラの魔力薬が詰まっています。それを口移しで、テレサさんへ飲ませているのです。

 テレサさんの気丈な目は段々とうつろになり、私が唇を離すとその場に倒れ込みました。両手が獣の毛に覆われ、メイドのスカートから尻尾が現れます。


 私は、屋敷中のすべてのメイドをキキーモラへ変えました。
 何も罪悪感などありはしませんでした。


 私と同じ魔物になった彼女たちは、当主様のもとへ向かいました。


 私がメイドとしてあり続けたうえで、アレン様と一緒にいられる方法を考えると、自然とこれが頭に浮かんだのです。

 だって私は魔物なのですから。



 ――何十もの裸のメイドに囲まれた当主様は、とても幸せそうでした。


 サキュバスへと変えてあげた奥様が嫉妬するほどでしたが……当主様らしく、メイドたちはあくまでメイドであるべきだと宣言しました。


 かくして私たちメイドは、その淫乱な本性をおさえ、ベッカー家の繁栄のために働き続けるのです。
 仕事の合間に自慰をしながらも、仕事は欠かさないのです。


 アレン様が望めば、私はいつでもメイドから一人の妻へと変わります。
 それで私は、幸せなのです。



「魔王様……この身体を与えてくださり、ありがとうございます。そしてご主人様。私の夫となっていただいて、ありがとうございます……」

 もう給金はありません。ですがそんなものは欲してはいません。
 私はただ、アレン様のためだけにあるのです。



 キキーモラの世界。
 それはメイドと妻。二つの顔を持つ存在。

 私は生涯、ご主人様のためにあり続けるのです。
14/06/29 20:08更新 / 地味
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■作者メッセージ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

非常に遅れて申し訳ありません。もしまだ最初の作品から読み続けて頂いている方がいらっしゃれば、この上ない喜びです。

キキーモラという魔物は、実はこのクロビネガさんで初めて知りました。
いわゆるブラウニーというやつなのでしょうか?

とりあえずやりたかったのは、子どもを観察してそれをネタに自慰をする女の人というネタです。
なので今回はいつもよりストーリーが雑なような…。

最後のシーンですが、アレンを連れて逃げるという結末がもっとも自然と思いましたが魔物化をテーマにした話ですし、このほうがいいかなと。
本来、同族を増やす力を持たない魔物にも魔物化の力を持たせているので、不快に感じた方は申し訳ないです。


このオムニバス形式の作品ですが、一応「終わり」と言えるものは用意しています。
ネタ帳のストックにある魔物娘は残り3体ほどなので、それらが終わったら終わりへと物語を進める予定です。


それでは、このへんで。
次回もご覧いただけると幸いです。

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