読切小説
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スーパーウルトラハイパーミラクルロマンチック
 日が沈み夜の闇が深くなった頃、とある国の繁華街の裏通りで男女二人が歩いていた。男性の方は人間であり、その隣で男の腕に抱き着いている女性は人間の姿に似ているが、耳と尻尾が生えていた。魔物娘と呼ばれる彼女たちは娘という言葉が付く通り性別は女しかいない。そんな彼女たち魔物娘は様々な種族が居る。例えば今二人の世界に入ってこれから宿屋で愛を確かめ合う予定の彼女はワーキャット。ゴロゴロと喉を鳴らして、甘えながら歩いている。
 魔物娘との共存によって繁栄しているこの親魔物国家では珍しくもない光景で、なんなら表通りでも魔物娘の姿をよく見かける。生涯の夫を探していたり、深夜のデートをしていたりと様々。
 ワーキャット夫妻はデート中に気分が盛り上がり、裏通りにある宿屋へ直行している最中だった。今にもコトを始めてしまいそうな程の空気で、そんな二人を見つめる視線には全く気付かずにすれ違う。
 視線の主は闇に溶け込む程の黒い髪が手の入っていない樹木のようにぼさぼさになっている。彼女もまた魔物娘で、種族はサキュバス。人間と酷似した姿をして角と尻尾、そして腰から翼が生えている。非常に好色な種族であり、獲物と決めた男性を性的に捕食してしまう。三度の飯よりも相手の男性とセックスをする事が何よりの喜びとしているのが特徴。
 しかし彼女はただのサキュバスではなかった。
 怠惰を極めた。その気もなかった筈なのに極めてしまった。
 衣服や化粧、お洒落という概念を何十年も前に一度やったきり、諦めてしまった。
 干物だった。そんなものになろうとした訳ではなかったのに、干物になってしまった。
 親の"そのうちいい人が見つかる"という発言が、彼女の免罪符となった。
 起きる、飯を食う、寝る、飯を食う、入浴する、寝る。そんな生活が当たり前になり早数十年。
 心優しき両親の施しを受け続けていた彼女の中に眠るあるものが、恐るべき姿へと変貌したのだ。
 理性など、これまで横着に過ごしていた彼女にはあってないようなものだ。魔物娘でも特にサキュバスの場合は特に強く積もり続けていく、そのアイデンティティとも呼べる欲求。
 ──セックスがしたくて、堪らなかった。
 誰でもいい……とにかくこのだらしのない怠惰の権化のような肉体に宿る、溶岩のように煮えたぎった性欲を受け止めて欲しかった。
 そう、誰でもよかった。
 しかしながら、偶然通りがかった一人の男性は、サキュバスをまるで怪物や幽霊か何かと勘違いして逃げてしまった。
 そこで彼女の理性は多少回復した。
 何故悲鳴を上げられた?
 己の身体を改めて──とても久しぶりのように感じた──見下ろす。
 胸、そして鼠径部と尻を強調するセックスアピールに適した、露出の激しいビキニのような衣装。それに乗っている肉という肉。胸肉も、尻肉も、腹肉も。
 ……ぽっちゃりしてきたなぁ。
 鏡に写る自分の身体を見て、最初にそう思ったのはいつだった? ぽっちゃりしてきた、それを認識していながら対処をしてきたか?
 答えは目の前にある。彼女は恐る恐る自分の腹に手を伸ばした。誰にも揉まれた事のない大きな胸で足元が見えていなかったが、胸の下には、しっかりと、つまめるだけの腹肉があった。続いて太ももを揉む。ぐにゅう、という感触。では尻は? ……もはや言わずもがな。
 泣けてきた。
 いや、もう泣いていた。
 誰が悪い? 自分だ。
 怠惰の積み重ねは年月だけではなく、肉体にも起こっていたのだから。それを全く気にしなかった。むしろ忘れようとしていた。
 そしてその答えがこれだ。積もりに積もった性欲を受け止めて貰える男性が逃げた。怯えるように、恐ろしいものを見たように。
 実際問題、深夜にいきなりこんなものを見ては悲鳴を上げるというものだ。
 悔しさと自分憎しで、涙は零れ続けた。
 声を上げて泣いた。こんな肉体をした女が、大声を上げて泣いていれば誰も近づこうとはしないし誰も止めなかった。
 考えが甘かったのだ。性欲に身を任せて夜に飛び出せば、きっと好みの男性が見つかると。何せ母親はそうして相手を見つけ、今でも仲睦まじくお互いの性器をまさぐり合っているのだから。しかし、当時の母親と自分では違う。逃げられ避けられ、一人で号泣している。
 情けないとわかっていても、どうしようもなかった。この悲しい気持ちが少しでも晴れるまで、泣きたいという感情に任せていた。
 
 それからやっと涙が枯れた頃、二人の男性が現れた。
 ……気付けば、欲求を口走っていた。
 ちんちん触らせろ。
 懇願でもなく、命令してしまった。
 すると彼女と目が合った一人の男がもう一人の男をかばうように──と言うよりもむしろ見せないようにしていたかのように見えた──立ちふさがってみせたではないか。
 二人して逃げるのではなく、自分を犠牲にと。
 そもそもサキュバスは運動不足である。逃げられてしまえば間違いなく追い付けない。
 だというのに男は友人からサキュバスを守るように行動したのだ。
 一方、もう一人の男は戸惑いながらも小走り程度に逃げていった。勿論しっくりくる筈もなく、小首をかしげながら。
「……行ったか」
 友人の背中が見えなくなり、男は改めてサキュバスを見た。
「うぉ、ふっと……」
「太いっ!?」
 自己評価と他人からの評価は別だ。
 自分に対してはいくら言っても、ただの優しい自虐のようなものであるが、他人から同じことを言われてしまえば、そのダメージは段違い。
 枯れてきた涙がまた零れそうになる。
 それを見た男は慌てて両手を振り弁明する。
「あっ、違うんです、マジで足とか太いですけど、俺の好みなので」
「ほへぇ!?」
「それよりもちんちん触りたかったんですよね、近くの宿屋に行きます?」
 男は先程の慌てようとはうって変わり、むしろ見せる気満々だった。
「えっ、あの、あぇ……?」
 サキュバスは戸惑いつつも男の差し伸べた手を取る。男はそっと手を握りエスコートし始めた。確かに最初に声をかけたのはサキュバスの方からだ。しかし男の方も男の方でとても乗り気であった。サキュバスにはそれが何故なのかわからなかった。
 連れてこられたのは小綺麗な宿屋。男が宿の料金を先払いすると、パリッとしたスーツ姿の男性は何も言わずに、しかしながらにこやかに部屋の鍵を渡し、一礼した。
「えっ、あ、あ……? ここ、お高いんじゃないのかな……」
「こういう時の為にお金を貯めてたので」
「こっ、ここ……こういう……」
「こっちですよ」
 男は優しくサキュバスの手を引く。
 誘われるがまま、宿屋まで来てしまった。
 てっきりその辺の茂みで、理性や尊厳も失いただただケダモノのような行為をするのかと思っていた。そしてあっという間にサキュバスの初体験が終わり、今日という日もまた遠い過去となるのだろう、などと考えていた矢先のこれだ。
 理解が追い付かないままに、シンプルでありながらもしっかりと広いベッド、そしてソファがある部屋に入った。
「……わぁ、綺麗な部屋」
「そうですね。……と、その」
 少し恥ずかしげに男は言う。
「…………触ります?」
「ぴぅ」
 サキュバスらしからぬ鳴き声を発してしまう。それもまた無理のない事であった。
 サキュバスは本来好色。性行為で男の精液を搾る事に関してはとても積極的なのが一般的。その為には標的を見定め、魅了などの手段を用いてそれに至る。至る、のだが。
 この女は両親に可愛がられていた。何せ中々授からなかった大事な命。魔物娘と人間の子供は産まれにくいのが現状である。何度も何度も繰り返した子作りを経て、ようやく産まれた尊い命。
 サキュバスである母親と人間からインキュバスへと変化した父親からの寵愛は行きすぎていた程に大きかった。
 結果、こうである。
 干物、喪女、怠惰、駄肉。
 自覚がありつつも抜け出そうとしない、世にも奇妙なサキュバスが爆誕。そして貯まりに貯まりすぎたサキュバス本来の性交本能が火山の如く噴き出した。
 故に彼女は処女ビッチサキュバスなのだ。
 見た事もない、しかしながら存在は知っている。そんなちんちんを触ってみたい欲望を発露したのはいいが、実際に見て触るのとでは違う。一般的なサキュバスであれば即答と笑顔のおまけつきで答えるだろう。……もっと言えば、出会った時点で男の服を破り捨て犯しているほうがより一般的なサキュバスなのだが。
「あっ……もしかして、その前にお風呂入った方がいいですか?」
「それは大丈夫。あたし、魔法で綺麗なままだから。それに君の匂いを落とすなんてもったいないよ。それにおちんちんも……ふひ……」
「わかりました……」
 わざわざ匂いを落とすなど。折角上手に焼けたレアのステーキを一旦水洗いして食べるようなものである。彼女はここでようやくサキュバスらしい考えが出た。
「じゃあ……あの……どうぞ」
 男はベッドの端に座って少し股を開いた。サキュバスは腰を落とし、だんだん荒くなってきた呼吸を抑えきれないまま、手を男の股間部分に手を伸ばし、そして。
「あっ、あ……あぇ……? なんか……ふひ……違う、かも……」
「……え?」
 ズボンの上から触ってみたそれは、サキュバスの想像とは全く違っていた。なんというか、存在感があまりない。
 彼女が思うちんちん、というのはとても扇情的で、まさに男の欲望というものを形にしたような、大きく脈打つ状態だった。
「ちょっと、脱いでみてくれる……?」
「あ、はい」
 すんなりと脱いで、改めて見る。目の前にあるものは力も感じられない。へたりこんだような、小動物感のあるものだった。
「あれぇ……?」
 そっと触れて、確かめるように揉んでみる。やはりそれは柔らかくて小さかった。確かにちんちんを触りたいと心から願ったのだが、昔学んだものとは大いに違った。
 そこではっとする。男の性器というのは常に怒張しているのではなく、興奮したりいじってみたり、時には何もしていなくても勝手に勃起したりする。
 実際に指先で押してみたり揉んだりしても、なんの反応も示さないのだ。もしやこれは……。彼女の脳裏にひとつの仮説が浮上する。
「……ごめん、もしかしたら、あの、あたし……可愛くないし綺麗でもないからおちんちんおっきく出来ないのかな……とか……へへ、えへへ…………」
 自嘲しながらうなだれる。
 これが現実だ。いくら口で言おうと、身体は正直なものである。もしかしたらここまで、彼は親切心や慈善的な気持ちだったのかもしれない。こんな哀れな女に、手を差し伸べてくれただけでも……。
「…………ごめんなさい」
「あっ、謝らなくても、その……。あたし、触らせてって言ったから、ね、うん。ほら、目的達成ー、って、なんて…………ね……」
「とても緊張してます、俺」
「ふへっ!?」
 聞き直すようにサキュバスは男の顔を見上げると、彼は恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに、顔を背けていた。
「……初めて、なので。すみません、俺、童貞です……」
「………………。あ……あたしも……処女だから」
「えっ、そうなんですか」
「サキュバスだけど、ね。あの、こういうの、初めて……。おちんちん見たのも、初めて……へ、へへ、えへ……えへ……」
 胸の内にじんわりとした温かさが広がった。どちらも初めて。その共通点が、彼女にはくすぐったくて心地よかったのだ。
 つい嬉しくなって、また彼の男性器を指で弄ぶ。
「もう、何度か女の人と寝たのかなって、思ってた」
「そんな、本当に初めてで」
「ううん、疑ってないよ。……そっか、そっかぁ…………ふふ、さっきまでも……頑張って、くれていたんだ…………ありがとうね」
「うっ!?」
「ふひっ!?」
 急激な成長だった。小動物のようで可愛かった筈のそれは、みるみるうちに力を得る。サキュバスの手の中で肥大化し硬化するモノに目が離せない。
 もはや小動物など見る影もなく、女に飢えた獣の象徴であった。
「……すごい」
「今のお姉さんの顔、凄く、ぐっと来ちゃって……」
「ひぅあ!? お、お姉さんとか、あひ、恥ずかし……ちょっと年上なだけだし……たぶん……」
「あはは……ですよね、人とサキュバスは寿命も違いますもんね」
「そうそう、そうなの。――あの、君、何歳?」
「三十路、ですね」
「若っ!? あたしなんてひゃ──三十五だよ……ちょっとお姉さん……だね……」
 サキュバスはサバを読んだ。
「いや、あの、まぁ五歳差なんてあんまり変わりませんよ……ね……はは」
 男は空気を読んだ。
 微妙な空気が流れ始め、そしてそれを誤魔化すように、
「おっきくなったおちんちん、あったかいね……でもこの先のところは、ぷにぷにしてるんだ……ふふ、ふひ……」
 そう言って嬉しいという感情を隠しきれずに、微笑みを通り越した多少気味悪い笑いをこぼしつつも男の男性器を触り、さすり、つついた。
「……」
 初めて見るのだから物珍しいのはわかる。
 だが、男にとっては生殺しでしかなかった。自分の手ではない、好みの肉体をしたサキュバスが触っているのだから興奮は継続しているのだが、そろそろ何かしらのアクションをして欲しい。……という欲求を抑える。
 彼女がこれまでどういった生活をして、今に至っているのかは受け答えと容姿で何となくわかる。それに夜は長い。ここはあくまでも紳士的に──
「ひゃあ……こっちも、なんか不思議な感触するね……んふ……ふふっ、君のおちんちんも、たまたまも、なんだか可愛いね……えへ、えへ」
「それは、どうも……うっ」
 相変わらず変な笑いをこぼしつつも、サキュバスは袋を揉みつつ竿部分に頬擦りする。風呂にも入っておらずかなり気恥ずかしいのだが、彼女には全く気にならないようだ。
「もしかしたら、というか絶対臭いと思う……んです、けど……」
「んぅー……? んふ、えへ。えっちな匂いはするねぇ……すんすん……うん、君の匂い。いっぱい嗅がせて……くんくん、えへっ。くんくん……えへえへ」
 場所を変えつつサキュバスは男性器を嗅ぎ続けた。その度に満足げな吐息がかかり、くすぐったい。男にとっては軽い拷問だった。
 握ってしごいて欲しいとか、いっそのこと口に含んで舐めて欲しいとか、快楽を求めたいのだが、ぐっと堪えた。ここで一気に攻めてしまっては、最悪逃げられる。もしくは怯えられるか。深夜に出会ったこの偶然、絶対に手放してはならない。
「夢中に……なっちゃう……ふふ。君のえっちな匂い、好きだよ。……ふひひ……くんくん……」
 別の事を考えて凌ぐか、いやこんな初めての事を目に焼き付けずしてどうするという葛藤。
 触られてはいるが快楽は全く得られない。もしやこういう調教でも受けているのではないか? とすら思える。
「……はぁ……すんすん……あのねぇ、おしっこの臭いと君のおちんちんの臭いが混ざってね……たまらないんだぁ……えへへへ。じゅる……ごめんねよだれでちゃう……」
 なら是非とも味わっていただきたい。
 という欲求もまた喉から出かかるが、飲み込む。
「あっ、透明な……あたし知ってるよ、これ……我慢汁……だよね? 我慢してるのぉ?」
「そう……ですね、少し」
「えへ、えへへ。我慢しないで出していいのに……可愛い」
 実際のところ全く出る気配はなく、さっきからずっともどかしいのが続いており、これでは拷問だと叫びたくなる。上下にしごくという、明確な快感を与えるようなものではなく、あくまでも形を確かめるように触っているだけ。
「……あの、ね。お願い、いいかなぁ」
「何でしょう……」
「このお汁、舐めたいな」
「どうぞ遠慮なく!!」
「あっ、うん、そう? 嬉しい、な……んふふふ」
 待ってましたとばかりに少々声が大きくなってしまった。だが先程から続くソフトタッチだけよりは大きく前進した。
「じゃあ、いただきまーす……ん……ちゅ」
「……っ」
「……美味しい」
 たった一度口をつけて我慢汁を吸っただけ。
 サキュバスは幸せそうににっこりとしているのだが、男はというと悶えたい衝動を堪えていた。たったそれだけなのか。もしや射精管理をしているのだろうか。だとしたらもっと前から伝えて欲しい。やっとフェラチオをしてもらえるのかと思ったらこれである。
「たぶん、まだ出るかも……です」
「そうなのー……? えっちなんだねぇ」
 今さらそんな蠱惑的な笑みを向けられると、サキュバスの頭を掴んで口内に突っ込んでやろうかとすら思う。
「そんなところも可愛いな、なんて……ふひひ……」
「……あはは。その、僕もなんかしたいな、とか」
「へう!?」
「あの、シックスナインとか」
「しっ!!?」
「だめ、ですかね」
 男からすれば手持ち無沙汰のままであり、それでかつ焦らされ続けている。このままでは衝動に身を任せてしまい、サキュバスに消えない傷、トラウマを負わせる可能性がある。一時の快楽を得る代償があまりに大きすぎる。無責任にそんな事知ったことかと思うほど男はクズではなかった。さらに、先程からサキュバスに感じているのは庇護欲である。今は初めて見る男性器に夢中だったが、こうして次のステップに移行しようとすると途端に慌てる。
 こんな可愛らしいサキュバスは見たことがない。見たことがあるサキュバスと言えばお互いの手を股間部分に突っ込ませて歩いているとか、繋がったままで買い物をしていたりと、他人の目を気にしない、とにかく快楽を味わっていないと気が済まないイメージしかなかったのだから。
「えっと、あのぉ」
「……お願いします」
「ひうぅ……でも、あたし、あの…………汚いし」
「そんなこと」
「あるんだよぉ……だって、だってぇ」
 首を振りいやいやするサキュバスは、両手で股間部分を隠す。
「………………もん」
「え?」
「一度も、整えたりとか、した事ないもん…………あぅぅ…………」
 とどのつまり、"ボーボー"である。
 この女、サキュバスは既にご存知の通り干物であり喪女だった。恋人を探したい気持ちはあれど、もっとも単純な欲求の二つ、睡眠と食事を優先してしまったが故に、お洒落すら知らない。伝統的なサキュバスの衣装は着ている。だがこれを着たのも一体いつぶりであったかすら定かではない。家に居る時はゆったりとした大きめのシャツ一枚を着用しており、局部が見えないので下半身は裸。そんな状態であった。
 出掛けることもなく裸を見せるような相手もおらず、怠惰を重ねれば、自然と生える陰毛は生まれ持った体質のままに延び続け、今やパンツ部分を越えてはみ出て──
「ひぃあああ!? あたしこんな状態で出てたの!?」
 はみ出ていた事に、たった今気付いた。
 無理もない話である。豊満な胸と駄肉の腹、それによって見えなかった部分である。鏡を見るか体勢を変えねばわかる筈もなく。
「あっ、やっぱり気付いてなかったんですね」
「言ってよ!? あそこの毛をはみだしながら、あたしおちんちん見せろとか言ってたの!? さっきまで外歩いてたし、受付の人にも見られてたって事でしょ!!?」
「もしかすると僕の趣味だったと思われてたかもですけど」
「うう、ううう…………そ、それで、あの、ちなみに、なんだけど……あのあの……こういうのって…………き、きらい?」
「趣があっていいと思いますよ」
「えぇ……?」
 この男、サキュバスの肉体を見たときからホルスタウルスかと見まごう程にでかい胸から目が離せず、さらにサキュバスの衣装からはみ出ている駄肉を見ては良い……と思う程にむちむちが好きであった。勿論、初対面から陰毛がはみ出していたのを見逃しておらず、サキュバスが劣等感に苛まれている部分にことごとく興奮していた。
「見てみたい、なぁ」
「ぴぃ!?」
「出来れば間近で」
「ぴぎゅ!?」
 まるで子供のハーピーのように鳴き、サキュバスは硬直。
「だめですか?」
「だっ──」
「……」
「めじゃ、……ない、です……はい……」
 そして男の真剣な視線に圧され、彼女の尻尾も両翼もへたってしまった。
 まず男がベッドで仰向けになり、サキュバスは男の顔にまたがった。
 そして男の視界には湿り気を通り越し、たった今土砂降りに打たれたのかと疑うほどに濡れたパンツ。凄まじい濡れ方に思わず感嘆の息を漏らしたが、すぐに視界が何かで覆われた。
「あの」
「はひ!?」
「尻尾で目隠しをするのは一体……」
「はっ、はじゅかし……」
「……なるほど」
「ひゃああぁぁうううっ!!?」
 尻尾の先を指でこねくりまわされ、未知の感触にサキュバスは背中を反らし、そして倒れてしまった。
「いまのしらない、なにしたのぉ……」
「尻尾の先をこう、こねこねしてみました」
「ばか、ばか……」
「敏感でしたか。勉強になりました。覚えておきますね」
「いやぁ……忘れてよう……うう……」
 これで障害はなくなった。晴れて男はサキュバスのパンツ部分を一気に剥いだ。
「ひゃぁっ!?」
「…………」
 解放された局部。漂うは極上の発情した雌の臭いと、今なお滴り落ちる愛液。糸を引いて垂れるそれが男の顔に落ちる。人間の女性であれば多少の不快な臭いもするのだろうが、そこは男を誘惑し性的に捕食するサキュバスなのか、全くそんな要素はなく一瞬くらりとする程の、媚薬の香を嗅いだかのような感覚だった。
 さらに、彼女の発言通り陰毛の密集具合と濃さで完全に女性器が見えない。愛液でべったりと貼りついているのだ。
「あの、見ないでぇ……お願いだから……」
「完全に隠れてますね」
「言わないで、言わないでぇぇ……」
 首を振りいやいやするサキュバス。だが初めて見た女性の股間部分に男は目が離せない。
「でもびしょびしょなのはわかります。ほら、太ももに伝ってるくらい」
「もう、もう……っ!」
 力なく尻尾で頬を何度か叩かれるが全く痛くなかった。
「じゃあ早速」
「へっ? なにして──……〜〜っ!?」
 男はサキュバスの陰毛を手で掻き分け、ようやく発見した女性器に舌を這わせた。すると腰がびくんと反応した。
 サキュバスからすれば、指では絶対に得られない舌先の愛撫は腰が引けてしまう程の快感だった。その本能的に逃げようとする動きを男は逃さず、尻を両手で鷲掴みにしてホールドしてきた。悲鳴にも似た声が漏れ、さらに内のヒダをなぞったかと思えば陰核を弾かれる。サキュバスの視界がパチパチとして、下腹部の奥から何かが押し寄せる。彼女にはそれが怖くなった。勿論絶頂の波である事は理解しているし、幾度かの自慰で経験もしている。
 何よりも、こんなにも早く絶頂をしそうなのが恐ろしかった。ただ一度、舌で女性器を舐め上げられただけでこうなのだから。敏感にも程がある。やめてと声を出したくとも、続けて男からの舌の愛撫は続いている。喘ぎと悲鳴の混じった反応は男からすれば新鮮だ。初めてで、しかもこんなにもわかりやすく感じているというのは、大いに喜ばしいものだった。
 実際の彼女はというと強い快感に襲われており、一瞬で余裕などなくなっているのだが。
「ひゃ、め、あううっ!! ひぁぁううっ!」
「……いいですよ」
 優しい声と一緒に尻を撫でる。サキュバスの溢れだしそうなそれはもう堪えられない。熱を帯び、制御出来ず、背中を大きく反らし、限界点を越えた瞬間、サキュバスは男の顔に潮を吹きかけてしまった。
「〜〜〜〜っ!! ぅああうっ!! あぁッ、うううっ!! ……ぐす、ふぇぇええ……」
「えっ、ど、どうしたんですか……」
「だって……かけちゃった……君に……」
「いやぁ……まぁ、驚きはしましたけれど」
「ごめんね、ごめんねぇ……」
「それよか潮吹きしたのが僕にはなんか嬉しいです」
「ふへぇっ!?」
「気持ち良かった、のかなって……」
「き、きもち……よかった、です……はい……」
「それはよかった」
「恥ずかしい……」
「……あはは、可愛いです」
「もう、からかわないで……あたしだって……」
 二人の体勢はお互いの性器を見せつけ合うような状態、いわばシックスナインと呼ばれるものだ。当然サキュバスの前には男のモノ。先程のお返しとばかりに、裏筋部分から根元、カリ首を全体的に舐めてはキスを繰り返す。
 彼女の柔らかな指の感触もよかったが、舌や唇による快楽は格別なものだった。やはり控えめな動きであるのは変わりないが、彼女の口による奉仕という事実に酔えるほど男にとっては心地よかった。
「あ、ん……ちゅぷ……逃げないで……」
 攻守交代。腰の反応によって揺れた男性器をサキュバスは手で固定させ、まさしく愛すると呼ぶに相応しい優しい口淫を続ける。唇を這わせると同時に舌先で舐めていく。
 負けじと男もサキュバスの女性器を舐め始めた。またびくんと跳ね、逃げるように動くが、尻を鷲掴みにされている為か全く効果はなかった。サキュバスの口淫も一度は止まるも、すぐに再開される。
 部屋に入ってからすぐに行為に入ったおかげで、お互いの性器は明かりに照らされ丸見えだ。そんな中、弱く敏感な場所を探すように唇と舌を駆使する。しばらくはそのままであったが、やがてサキュバスは声が抑えられなくなったらしく、時々動きが止まるようになってきた。
「ま、って……あたしの、番なの……」
「……わかりました」
 消えてしまいそうな小さな抗議を男は受け入れ、名残惜しいが口を離す。と同時に健気さも感じ取れて、愛しさによって心が温かくなる。
「ありがと……ん、れろ……はぁ……むっ」
 カリ首を舌で一周したと思うと、大きく口を開けて男の性器を一気に奥まで飲み込み、
「げほっ!? う、うぅ、えほっ、ごほっごほっ!」
 盛大にむせてしまった。自身の限界を測る前に勢いで全て飲み込もうとしたせいである。
「だ、大丈夫ですか」
「ごめんねぇ……サキュバスなのに下手くそで……」
「いえ、それはもうお互い様ですから」
「でも、さっきの君みたいに上手くやりたかったよぅ……」
「なんというか、探り探りだったのであれが上手かと言われるとわからないですよ」
「……うう、もう一度、頑張るね」
 気を取り直して、今度はゆっくりと咥える。
 まるで女性器に挿入したかのようなねっとりとした感触に男はうめく。こんなものを知ってしまうと癖になる。サキュバスが嫌でなければまたお願いしたいほどに気持ちがよかった。
「ん、く……おっひぃ……」
「それは、どうも……」
「んふ……おいひい」
 サキュバス、いや、魔物娘にとって人間から得られる精は他に代えられるものがないという。魔力と似ているらしいが、彼女らは精を自らの身体には生成できず、得ようとするなら人間から奪う他ない。
 特に、人間の男性からは極上の精が出る。実際、サキュバスはこれまで口にしたものの何よりも美味だった。これでまだ我慢汁が出ている程度なのが、より貪欲さを加速させる、このまま射精したのなら、もっともっと濃く美味なものが味わえるのだから。自然と笑みが溢れ、控えめだった口淫は急に激しくなってしまう。
「うっ、すごい……」
「えへ……もっと……させてね……はぁぁ……む」
 なるほどこれが快感を与える喜び。ならば男がサキュバスの性器を夢中に舐め続けたのもわかるというもの。そしてこのまま絶頂まで導いてあげたい、という感情が芽生えるのも理解出来た。
 作法もわからないが、愛しさと欲望の入り交じったものがサキュバスを動かす。そして本能は唾液の分泌を増やし、あっという間に男の性器はどろどろになる。滑りが良くなり、舐め吸い上げる音がより激しくなり卑猥さを増す。疲れなど忘れて、早く精液を飲みたいという感情に支配され、フェラチオを続ける。
「やば、マジ、出そう……」
「んふふ……いーよぉ……らひて……」
 返事をした後、さらに吸引を加えてストロークを続ける。まるで魂ごと吸われてしまいそうな快感に、サキュバスの尻を掴む手に力が入ってしまう。尻肉に這わせた指は容易に沈みこむ。
 限界はすぐそこまで来ている。そして無意識のままに腰を突き上げ、サキュバスの喉奥へと大量の精液を連続で解き放った。
「んぅっ!!? んっ、ん……ん……。ごく、ん、ごく……ちゅ、ちゅ……」
「うぁぁ、その吸うの、やば……」
「んふっ。……ちゅうぅぅ……ぷぁ。えへ、ごちそうさま……」
「お粗末さま、です……」
 射精後の気だるくも心地よい余韻に浸るのも束の間、サキュバスはまだ足りないとばかりに先を舌で舐めては吸ってくる。
「あの、お姉さん?」
「……もっと飲みたいなぁ」
「えっ、と言われても……うぉぉ……っ」
「じゃあ復活するまで、優しく包むねぇ……?」
 手でもない、口でもない、柔肉に挟まれる。
 栄養を蓄え続けて際限もなく成長したサキュバスの乳による奉仕、いわゆるパイズリであった。
「おっきくなぁれ……おっきくなぁれ……」
「やわらか……なんだこれ……」
「そんなにいいの?」
「おっぱいの感触マジ、やばいです」
「お口よりもいい?」
「いや、それはもう、甲乙つけがたい……です」
「どっちも好きって事?」
「そうなりますね」
「欲張りさんだね……えへ、えへへ」
「……じゃあ、もっと欲張らせてください」
「え? あぁンッ!?」
 とろとろに濡れそぼった膣口に指を一本侵入させ、弱点を探す。不意の指の愛撫にサキュバスの甲高い声があがる。
「んんんぅぅっ!?」
「……ここかな」
 やがて見つかってしまった箇所を指先でなぞられる。ざらざらとしたそれはいわゆるGスポット。先程絶頂と共に潮を吹いたのも、もしや。
「だめぇ、そこ、やぁ……っ」
「もしかしてここ、よく触ってました?」
「ふひっ!? そ、そんな、こと、ない、よ?」
 とは言いつつサキュバスの膣内は男の指をきゅうきゅうと締め付けている。身体は正直という言葉は本当であると教えているようで、少し噴き出してしまった。
「笑わないでぇ……」
「すみません、でも、可愛いですよ。一人で触っていたんですか」
「うっ……。…………うん……。そしたらなんか……潮、吹いちゃうの癖になっちゃった……」
「お姉さん、いやらしいなぁ」
「ううぅぅっ! もう、あたしばっかりいじめないで……君もおちんちん早く、復活させてよぅ」
「一応、頑張っては……あっ」
「あっ。…………えへ、えへへぇ。このまましちゃおうね……」
 既に唾液で滑りはよくなっている。故に胸で挟み、上下にしごくのもまた容易だった。すっぽりと男性器が隠れるほどにたわわな胸から与えられる優しい圧は再度勃起した男の性器には丁度いいものだった。
「負けませんよ」
「ひゃぁぁんっ!? 指と舌、だめ、クリ舐めないでぇ……」
「なるほどじゃあ同時にしますね」
「いやぁん!?」
 いくら言っても止まる気配はなく、快感の大きな波にまたさらわれてしまいそうになるが、サキュバスは両胸で挟んだ男性器への圧力を強くし、さらに飛び出る亀頭部分を口内でしゃぶりはじめた。男への奉仕を続ける事でなんとか紛れようと結論付けた。とはいえ、先程のように弱点を攻められては分が悪い。既にGスポットを指先でなぞられ、さらには陰核を舌で転がされているのだ。何度か軽い絶頂をしていながらも、なんとか潮だけは我慢できている。いくら嬉しいと言われても、そんなものを顔にかけるというのが恥ずかしすぎる。
 一方、彼も彼で愛撫を駆使する事によって集中を股間ではなくサキュバスの性器に向けようと努力はしている。しているのだが、パイズリとフェラチオの合わせ技を受けている。つい先程射精したばかりの敏感な状態でなんとか持ち直そうとした矢先のこれである。あっという間に絶頂へ登り詰めてしまいそうになる。
 この勝負、サキュバスの方が不利気味に見えて、男の方がそれを上回るほどの不利である。それは男と女の身体の構造が違う事で、男は絶頂を迎えれば射精をし、その後にまた休息時間を経てやっとまた再度勃起状態となる。だが女の方は、絶頂を迎えようとさらに続けて快感を受ければ、次なる絶頂へとすぐにシフト出来るのだ。勿論、男と女ではそもそも快楽の受ける度合いは違う。断然、女の方が感じやすいものだ。さらに分が悪いのは、相手が魔物娘のサキュバスである点。いくら干物の彼女でも、やはりサキュバスなのは変わりない。
 故に。男の取るべき行動は、とにかくサキュバスを絶頂させ続けて疲れさせる。幸い体力はあまりない。既に弱点は発見済みなので、あとは攻めるのみ。――いつの間にこんな競い合うような事になったのかはもうわからなくなっているのだが。
「……て、手加減、してぇ、さっきから……あっ、んんんぅぅうう!! イッて、る……のぉっ!」
「じゃあもっと、イッてください、よ……く、うぅっ!」
「もう、もういっぱいイッた、のにぃぃ! あうぅぅ、ふぇぇん……あんっ、気持ちイイよぅっ!」
 泣き声混じりの悦楽の声は、一瞬男の手を緩めさせたが、すぐさま持ち直した。掻き回された膣内からは白濁液が漏れている。
「じゃあ、一緒は……だめですか」
「……っ、うぅぅっ、あっ、あンッ! うん、うん、それが、いいよぉ、いっしょがいいっ!」
「もう僕もだいぶ危なくて……っ」
「えへ、えへっ……。あたし、も……おっきいの、くるの……っ!」
「このまま、一緒に……っ」
「うん、うん……! あたしもう、もうほんとにだめ、いく、いくの……っ! あっ、ああぁぁっ!」
 尻の穴に力を入れて絶頂を堪えていた男は、サキュバスのより大きな声と仰け反る背中を見て、力を緩めた。よくもまぁあんな乳圧に耐えられたと自分を褒めたくなるが、堪えていた分のツケが返済され、そんな感想も消し飛んだ。
 舌の愛撫での絶頂よりも勢いのある潮を吹き、サキュバスは男の精液を受けつつも痙攣を繰り返した。自慰ではこんな大きな絶頂を迎えた事はない。せいぜい一度絶頂すれば満足して終わりだった、それと、絶頂と潮吹きがセットになってからは後処理が面倒になったというのもある。
「あ……っ、あひ、こんな、イッたの……はじめて」
「僕だって、連続で出したのは初めてですよ……」
 互いにぐったりとしながら――男はサキュバスの体重を感じつつ――余韻に浸っている。まるで激しい戦闘の後のようだが、前戯で盛り上がってしまっただけである。
「これ、前戯……なんですよね」
「へ……? う、うん……そうだね……?」
「本番、死んじゃいません?」
「ぴぅ!?」
「……?」
「……え、えっ、えっ?」
「どうしたんですか」
「あたしとえっち、してくれるの……?」
「いやむしろさせてくれるんです?」
「え、ええっ、ええっ!? っていうかごめんね、あたし君の上に乗りっぱなしだった」
「いやいや、お肉が柔らかくて心地よく」
「えぇ……?」
 それは本当である。サキュバスの彼女からすれば、胸は出ており腹はくぼみがあり、尻はそれなりの大きさというのが理想である。しかし現実では胸は理想通りだが、腹はくぼみなどわからぬほどにあり、尻もまた無駄についている肉で後ろから見ればパンツ部分が見えていないのではと疑うほどである。そんな彼女にとってはひどい肉体だが、男からすればそれ全てが好みであった。
 自分の身体に押し付けられ潰れる胸の感触、指がどんどん沈む程にボリュームのある尻。まさにムチムチ体型と呼ぶに相応しい。
「ほんと、お姉さんの身体は僕の理想で……すみません、出会ったばかりでこんな気持ち悪い事言って」
「ううん、嬉しいよ。あたしはあんまりなんだけど、理想の身体って言われて喜ばないサキュバスなんていないもん」
 男の横に寝そべり、サキュバスはえへへと顔を綻ばせた。
「――……ほんと、笑うと可愛いですね」
「ふへぇっ!?」
「あっ、つい」
「お姉さんをからかわないでよぉ……」
「からかいじゃなく、本当に心の声が漏れたんですよ……見れば見るほどタイプです」
「うぅぅぅ〜〜っ!」
 顔から火が飛び出る程に恥ずかしくなったサキュバスは、男から逃げるように背を向けた。
 そんな反応もまた男には可愛く見えてしまうもので、そっと後ろから腕を通した。優しく抱き締められる形になり、サキュバスは少しばつが悪そうに手を握る。
「……どうしてそんな優しいの?」
「まぁ……知り合ったばかりなのはありますけれど、お姉さんの事、離したくないので」
「またそういうっ! ――好みじゃなかったら、どうしていたの?」
「丁重にお断りしてそのままさようなら、ですかね」
「……ふぅん」
「?」
「あたしの見た目は好きっていうのはなんとなくわかったよ、ちょっと不本意だけど」
「信じてもらえました?」
「うん……魅了使ってないのに、ここまでしてくれるなんて人いないもん」
 そう話ながら、サキュバスは男の手の甲をさすったり、指を絡ませたりした。
「というか魅了の使い方忘れちゃったし」
「えぇ……」
「だってずぅっとぐうたらしてただけだし」
「そんなに長くやっていたんですか」
「多分何十年もやってたよ」
「歴戦のひきこもりですね……」
「全然嬉しくないよぅ」
 男の手に少し噛みつき、そして噛んだ箇所を手で撫でる。
「そこまでずっと引き込もっていたのは何でなんです? 何か嫌な事とか……」
「んーん。何にも。あたしの親がとっても優しくて親バカってやつだから。あたしはそれに甘やかされっぱなしでいたの」
「……それでも暇じゃないですか?」
「寝てばかりいたよ? お腹いっぱいにご飯食べたら眠くなっちゃう」
「赤ちゃんみたいな生活してますね……」
「むぅ」
 その一言は全く否定出来ない。ただ惰眠を貪り、怠惰を極め、干物であり続けていた彼女は、それでも年下にそんな事を言われると少しむっとしてしまった。
「むちむち赤ちゃん」
「むうぅ!」
 親指の下の肉をがじがじと噛む。そうやってただ噛むのが子供っぽいを通り越して幼児のようであるとは、さすがの男も指摘という名のツッコミはしないでおいた。
「僕にはそんな生活出来ないですね、暇をもて余しているくらいなら、何かをしていたいです」
「そうなんだ。何かしているの?」
「……まぁ、仕事をしたらあとは疲れのままに寝てるだけですけど。休日は寝てばかりですし」
「あたしと変わんないよぉ」
「いやいや、僕は働いているので」
「そうだけどぉ」
「……家に帰ったら、こんな人が待っている生活もいいとは思いますけどね」
「へっ?」
 不意の言葉にサキュバスは振り返る。すると胸の中へと招くように抱き締められた。
「その。……一緒になりませんか」
「……」
「貴女は何もしなくていいんです。稼ぐのもご飯を用意するのも、僕がやりますから」
「……」
「どう、でしょうか」
 男の一世一代の告白に、サキュバスの胸が苦しくなるかのような、それでいて心地いいような、そんなものを感じた。これが、ときめいたという感覚なのだろうか?
 果たしてそれが本当なのかは確信はない。しかしこの人なら、自分の事を嫌わずにいて一緒に居てくれるかもしれない。そんな信頼も生まれていた。出会ったばかりだが、これまでの振る舞いなどを鑑みれば、彼にならついていってもいい。それに本来サキュバスという種族は性交から始まる恋愛が一般的であり、それはこの世界に存在する多種多様な魔物娘にも言える話だ。
 恋心、愛情も、ここから育んでいく。
「……うん、一緒に、いよ?」
「はい、はいっ。……よかった」
「あたし何にも出来ないのに、それでいいの?」
「いいです」
「ゴロゴロばっかりしちゃうよ?」
「もちろん」
「……やっぱ、あたしも何かする」
「え?」
「君にばかり、ずっとさせてあたしだけこれまで通りなのは、なんか……だめ」
「少しずつ一緒にやっていきましょう。ご飯も、掃除も、全部」
「――うんっ」
 そしてサキュバスは男の唇にそっと口づけした。
 どちらかが出来るようにする、ではなく一緒にやる。それならきっとこれからの生活を二人でやっていけるだろう。
「ね、したい」
「はい、僕も……」
 感情の高まりで二人とも完全に性交をしたいという欲求に駆られた。――筈が。
「あっ」
「?」
「……あたしと君の初めてなのに、あたしのあそこが処理してないのって、やっぱ嫌かな……?」
「そんな」
「気を使ってくれなくていいんだよ? あたしはなんていうか……ごめん、あたしが嫌かも。君を言い訳に使ってる」
「本当に僕は今のままでもいいんですけどね」
 と、そこまで言ってから男に天才的な閃きが舞い降りた。確かにこのまま本番となっても構わない。しかしサキュバスがそれを申し訳なく思っているのなら、その気持ちには応えるのがお互いに幸せになれる。
 つまりは、未処理のままの彼女の陰毛を全て剃ってしまい、そして今度は丸見えになって恥ずかしいという姿を見るのだ。幸い、まるで陰毛の密林であった状態は先程のシックスナインでこれでもかというほど凝視させてもらった。では是非とも、パイパンになっていただこうではないか。
「わかりました、処理しちゃいましょう」
「うん、焦らすみたいでごめんねぇ……」
「いえいえ。お風呂場に行きましょうか」
 サキュバスの手を引き、風呂場へ向かうと、ボディーソープやシャンプーなど、一通り揃っていた。そしてその中に剃毛クリームとT字カミソリもあり、何故か農具の毛刈り鋏まで用意されていた。
 流石は魔物娘と人間の夫婦向けの宿屋なだけはあり、他にもプレイマットやローションもある。サキュバスの陰毛で泡立てて洗ってもらう泡姫プレイも脳裏に浮かんだが、また今度の機会に。
「……あの、笑わないで聞いてくれる?」
「どうしましたか」
「出来る事なら自分で処理したいんだけどね? あの、見下ろしてもおっぱいで見えないし、鏡に写ったのを見ながらだと手が滑っちゃいそうで、怖いの……だから」
「僕におまかせください」
「う、うん。お願い……」
 嘘である。
 この女、陰毛処理プレイをただしたいが為に甘えている。本当に彼女本人がやるのなら、さっさと処理出来る。しかしながらもう男とは将来を約束し合った仲となったのだから、と早速これまで無駄に極めた怠惰ぶりを発揮している。家事や食事などは手伝う。手伝うがこういったプレイならばまるで利用するかのような行為に何の罪悪感も湧かない。むしろ興奮するまである。それがこのサキュバスである。
 何故か真ん中の部分をくりぬいたような、凹の形の椅子に座ってもらい、足を開けば、やはりというか見事なまでにサキュバスの性器が全く見えない。しかも一本一本の太さ、濃さがある。いきなり剃毛クリームを使ってもすぐに絡まり上手く出来ないだろう。そこで、まずは毛刈り鋏である程度短く切ってしまう事にした。
「カミソリがあるのはわかるんですけど、何で鋏が……?」
「そういえばそう、かも……」
 確かに自分の陰毛を処理してもらうプレイは興奮するが、それはそれとして恥ずかしい事には変わりないと思いつつ、順調に短くなっていくサキュバスの陰毛。
「いざ必要って時が、宿屋にあるかなぁ」
「うーん……あっ、ワーシープ?」
「ああ、それなら納得ですね。彼女らはあの体毛を刈ると豹変するとか。そういうプレイがしたいって時に役立ちますね確かに」
 指で陰毛をある程度束ね、鋏で断つ。全く処理されていなかったサキュバスの陰毛の密度が減ってきた。しっかりと女性器を隠すように大陰唇から生えており、尻穴の回りまでの規模。
「だいたいこんな感じですかね。だいぶすっきりしてきました」
「ありがとう。じゃあ、次は剃ってくれる……?」
「ええ。クリームを塗っていきますね」
 男はそっと剃毛クリームとは違うもうひとつの脱毛クリームに手を伸ばし、たっぷりと使い、陰毛全体に塗りこんだ。
「ひぁ……なんか、洗うのとは違うね」
「初めての経験なんで、上手く出来るように頑張りますね。全体的に塗ったので、あとは馴染むまで待ちます」
「うん、君の好きな形に整えてね」
「はい。…………ん?」
「え?」
 彼女の認識と男の認識に差異がある。
 その時にやっと男は気がついたが、既にサキュバスの陰毛は除毛クリームで覆われていた。
 もしや、サキュバスはある程度陰毛を残し、綺麗な形にしたかったのでは?
 しかし男は処理と聞いて完全に全て綺麗さっぱりとパイパンにするものだと思い込んでいた。
「いや、なんでもありませんよ」
「うん……?」
 男は恐る恐るサキュバスの短い陰毛を上から下へそっと撫でた。そして何の抵抗もなくするすると根元から抜けていく陰毛。
「……おお……」
「?」
 全くの痛みなく、綺麗に脱毛が出来ているらしい。その証拠にサキュバス本人は気付いていない。
 とりあえず、剃っている振りをするしかない。カミソリを手に取り、そっと刃を逆に向ける。彼女の肉には当たらないように空いた手で守りつつ。
「も……もうちょっと足を開いて貰えますか」
「うん……えへ、恥ずかしい……」
 とは言いつつ満更でもなさそうな表情。
 一方男は気付かれないようにと祈りつつ、全ての陰毛を除去していく。
「えへ、上手だね」
「ど、どうも。丁寧に剃ってるので……あはは」
 嘘である。
 この男、勘違いとはいえサキュバスの陰毛がするすると抜けていく様を見て楽しくなっている。
 未開拓地であったサキュバスの局部は、その素肌を完全に晒しており、一本の縦すじがはっきりと見える。剃毛ではなく脱毛であり、さらには肌に負担が全くかかっていないので赤くもなっていなかった。なんなら自分用にも使ってしまおうかと考えるが、流石に足りない。
「あの、お尻の方をやるのでこちらに向けて貰えますか」
「わかった。……これでいい?」
「……ごく」
 てっきり背を向けて前に屈むのかと思っていたが、サキュバスは四つん這いになり股を開いてみせた。男は生唾を飲み込む。
「……失礼しますね」
「うん……ここで最後?」
「そ、そう……ですね……」
 返事をしてはいるが、視線はもうサキュバスの性器に釘付けだった。尻穴の回りの陰毛も全て抜け、脱毛は完了した。
「……」
「……? どうかしたの?」
 もういっそこのまま本番、セックスがしたい。
 サキュバスの姿勢はバックで、挿入を待っているような状態。ピンク色の性器がぬらぬらとしており、尻穴まで綺麗なのは見事だ。
 男はというと、二回連続で射精したというのに今や復活しており、勃起状態。
 突っ込んでしまいたい。サキュバスの大きな尻を掴み、男性器の根元まで入れ、思うがままに腰を振り快楽を貪りたい。一度も止まることなく絶頂まで、まるでサキュバスを玩具のように扱い――
「……すみません、謝らないといけないことが」
「ふぇ?」
 バックの姿勢のままサキュバスは振り向く。
「……間違えて、脱毛クリームを使ってしまって……あの、全部……ですね……」
「え、えっ……?」
「全部抜けて、つるつるに……」
「ひゃぁぁああっ!!?」
 悲鳴をあげ、サキュバスは思わず手で性器と尻穴を隠す。そしてさらに男の性器が思いきり勃起していたのにも気付く。
「な、なっ、なん……、えっ、えええ!?」
「すみません、本当に……処理と聞いて、全部なのかと勘違いを……」
「あわ、あわわっ、ほんとだ、なんにもない……」
 隠した手からは陰毛の一本の感触もなかった。あるのは素肌のみ。
「あの、ほんと、すみません」
「う、うぅ、でも頼んだのはあたしだし」
「めちゃくちゃにエロくて今すぐにセックスしたいくらい興奮してます」
「そ、そんなに!?」
「お姉さんの身体がエロすぎるのがいけないんですよ! いっそ黙って突っ込みたくなるくらいにさっきのエロかったですもん!」
 堰を切ったように男はその胸の内に抱いた欲望を吐露する。
「あ、あの、落ち着いて……ね……ねっ?」
「落ち着きたいです! でもエロいんですもん!」
「うぅぅ、エロいエロいって言わないでよぅ! 最高の褒め言葉なんだからそれ!」
 非常に好色、非常に性的な行為に積極的。
 そんな種族の彼女は、可愛いや綺麗と言われる事も勿論嬉しいのだが、その最上級に嬉しいのは彼の言うエロいという言葉。
「そんなにえっちなの?」
「誘ってるんですかマジで! エロすぎて人生で最高に興奮してるし、俺のもヤバいくらいに勃起してるし!」
「ひえ……」
 それを証明するように男はサキュバスの尻の割れ目に自身の陰茎を添える。
「本当はベッドで優しく始めたかったのに、エロすぎてここで犯したくなってますから! どうしてくれるんですかこれ!」
「怒ってる……?」
「怒り半分興奮半分ですね! 怒り勃起とか初めてですよ!」
「ひぃ……」
「なんとか欠片くらいに残ってる理性でなんとか踏み留まっているので褒めて欲しいですね!!」
「えっ、あっ、すごーい……?」
「やっぱ犯したいです」
「ひえぇっ……」
 異性が怒るというのを初めて目の当たりにしたサキュバスは怯える。しかしその原因は自分が扇情的過ぎるのだと。理不尽な主張ではあるのだが、それに対して悦んでいる自分も確かに居る。その証拠に褒められて秘裂からは、愛液が分泌されている。手で隠してはいるものの、もしもこれに気付かれてしまったらどうなるのか。
 サキュバスは生唾を飲み込んで、そっと指をずらして少しだけ見えるようにした。
 そのわずかな隙間を男は見逃す筈がなかった。
「何しれっと見せてるんですか! ウェルカムサインですか? 準備万端だから早くって意味ですか!?」
「ひいい……」
 予想通りの展開。陰部を隠すための手はついに払われ、男性器の先をサキュバスの膣口に当てた。押し込めばすぐにでも挿入されてしまうだろう。
「どれだけ僕のちんこを刺激するんですか貴女は! 誘ってますよね? 挿入待ちですよね?」
「ひぅぅ……んっ、あっ。だめ、こすらないでぇ」
 男性器を手で上下に振り、彼女の秘裂をなぞる。十分すぎるくらいに分泌された潤滑液でちゅくちゅく、という音を立てる。
「あの、あの……」
「何ですか」
「お願いがあるんだけどね……」
 そう言ってサキュバスは指で、膣口を広げる。
「……何でしょうか」
「ちゃんと、中に出してね……?」
「勿論じゃないですか、初めてなんですから」
「あと…………。……あたしの処女、もらって……?」
 それが決定打となった。彼女の大きな尻を鷲掴みにして、一気に突き入れた。
「うおぉぉっ!」
「ひゃぁぁあああ――んっ!」
 男には理性が欠片ほどに残っていたと告げていたが、それは本当である。だからこそサキュバスの口からちゃんと挿入して欲しいと言わせる為にあれこれ言っていた。そして、それはついに訪れた。
 シックスナインの時に指で掻き回していたおかげでほぐれ、漏らしたかのような量の愛液によって、衝動のままに奥まで突き入れた男性器を容易に飲み込んだ。
 さらにサキュバスは一気に突かれた時に絶頂し、その証拠にまた少々の潮を吹いた。処女の彼女にはそれだけで意識が一瞬飛ぶ程だったのだ。
 一方男の方はというと、勢いと衝動に任せて動いたことを多少後悔していた。ぎゅうぎゅうに締め付ける膣壁の良さに、少しだけ精液が漏れてしまったのだ。慌てて制御しようにも、もっと搾り取らんとばかりに蠢いているのだ。あれだけ啖呵を切っておいて、往復すら出来ずに射精など、情けなさすぎる。
「あっ、ふぁ……っ、ひぃ……」
「……ふーっ、ふーっ」
 二人して既に息も絶え絶えだった。片や大きな絶頂の後にまた軽い絶頂が連続、片や多少の漏れで済むように絶頂を制御せんと呼吸を整えている。
「……は、はぁっ」
「あ……う、く」
「……――ぅぅうううっ!」
「ちょ、ちょっと待った! 何もしてないのにそんな締め付け……っ!」
 前にも後ろにも男は動いていないというのに、サキュバスは唐突に甲高い声を上げ、それに連動して男性器の根元から先端へと膣内全体が招き入れるように締め付けを繰り返す。
 原因は一番奥へ挿入後、男が少しでも動かないように押し付けて耐えていたこと。だが、結果としてポルチオを刺激し続ける事となり、サキュバスは大きな絶頂を迎えてしまった。
「――っ!! あぁぁぁあああんっ!」
「うぉぉっ!? 無理だこんなのっ!」
 そしてあえなく射精をしてしまった。フェラチオやパイズリとも違う、サキュバスの身体に刻まれていた本能による搾精。三度目の射精であるにも関わらず、大量にサキュバスの膣内へ注がれる。
「あひ、しゅごいよう……」
「めちゃくちゃでる……くっ」
「……こんなの、しんじゃう……」
「命も一緒に吸われそう……だった……」
 やがて二人とも腰が抜け、へたりこむ。
「おちんちん、しゅごすぎるよぅ」
「……お姉さんのだって、ヤバかったですよ」
 持ち主の手を離れた人形のように、サキュバスはうつ伏せになったままで、しかし尻をびくんと時折震わせる。そして膣口から漏れる精液は、見ただけでさらなる興奮を生むのだが、如何せん大量に出しすぎた男にとっては、男性器に血液が集まらない。短時間で三回。結構頑張った方である。
「うう、いくらなんでもあたし、弱々じゃない……?」
「情けないことに、僕もすぐでたのでおあいこじゃないでしょうか」
「ううん、すぐに出しちゃうくらいに気持ちよかったんだもんね、それって、あたしには嬉しい事なんだよ」
「……それはまぁ事実なんですけど、複雑です」
 苦笑いを浮かべ、砕けた腰もようやく力が入るようになり、立ち上がる。まだぴくんと動くサキュバスの尻を見て、手を伸ばす。
「とりあえず、ベッドで横になりましょう。立てますか」
「うん、ありがとう……まだあんまり力入らないんだけどね……ふひ……」
 まさしくそれは生まれたての小鹿のような足の震え具合で、風呂場でそれは危険と判断した男は、サキュバスの背中と足を抱えた。いわゆる、お姫様抱っこである。
「ひぁ!? あたし重いよ!?」
「いや、いけますから……ぐぅっ!?」
 男の肘、膝、そして腰に大きな負荷が急激に襲いかかった! 運動や筋トレなどを特にやっていなかった彼にとっては、三十キロの小麦粉袋二つ以上の重量があるサキュバスを支えるなど到底不可能!
 そして男の脳内は危険信号を発し、血液が急速循環! 体温の上昇により顔のみならず全身から発汗され始め、脈動音が大きく早鐘を打ち、まるで警報装置のように聞こえていた!
 一方ッ!
「ほぁぁ……」
 サキュバスは初めてのお姫様抱っこにドキドキキュンキュンしていた。既にベタ惚れの域にある彼女の愛情は膨れ上がっていくばかり。汗を垂らして抱っこしてくれている男の顔に惚けた表情のまま見つめる。この特別な場所にいつまでも居たい、とお姫様気分に酔いしれて乙女心を弾ませる。
「……ッ!」
 早くベッドまで運ばなくてはならない。見栄を張ってしまった以上、情けのない姿を晒すのは避けたいものである。風呂場脱出まで約二メートル、そこから左に九十度旋回し、キングサイズのベッドまではさらに約五メートルほど。数値で言えば十メートルすらないたったそれだけの距離も、男にとっては過酷すぎる距離だった。さながら無理な重量のある石を運ばされる奴隷。後ろから罰の鞭が飛んでこないだけマシである。
「……えへ」
「どう、しました、かッ!」
 絞り出すような返事だったが、サキュバスは男の胸板に頬擦りをする。
「お姫様抱っこ、いいねぇ……君がとっても格好よく見えちゃうんだぁ」
「……そ、そうなん、ですねッ!」
 出来ることならばあまり動かないで欲しい。やっと安定して動けていたのに、重心が動けばバランスが崩れかねない。そしてそれはサキュバスを落としてしまう。絶対に避けねばならない。百年の恋も冷めてしまうだろう。肉体面だけではなく精神面にまでプレッシャーを無邪気に与えてきた。
 歯を食い縛りゴールを見据える。もうそろそろ到着する。そして寝かせる際は割れやすい陶器を置くようにそっとやらなければならない。
 ここがいわゆる正念場。限界を超えている腰にさらなる負荷がかかる! 膝も次第に笑い始める!
 もう少し、もう少し!
「…………っ、っ! 到着です」
「ありがとう……」
 男の壮絶なる戦いは成功裏に終わった。そしてサキュバスの隣にゆっくりと倒れ込む。決して疲れたと悟らせない為に。
「……ふ、ふぅ……」
 本当は大きく呼吸をしたいが、それも隠すために鼻でゆっくりと息を吸ったあと、再度鼻から出す。そんな努力も露知らず、サキュバスは男の方を見てうっとりしている。
「……えへ、えへ……好きだよ」
「僕も、です。……ふぅ、ふぅ……」
 などとお互いに見つめている内に……。
 
 ――半日が過ぎた!
 
 その間、特に何もなかった。
 元々体力のないサキュバスと最後に重労働をした男。二人は見つめ合ったままベッドの心地よさから眠気に襲われ、そのまま眠ってしまったのだ。
 疲れきった二人にベッドの柔らかさは恐ろしい魔物であった。故にチェックアウトをしたのは昼を過ぎた頃。幸い、魔物娘と人間の男性のカップル向けの宿なので時間も忘れて燃え上がり続け、そして泥のように眠るのは日常茶飯事であり、チェックアウトの時間はある程度融通が効くので延長料金は発生しなかった。
 さてここでどう行動をすべきか? 彼女を家まで送り届けるべきだろうか、などと考案していると、サキュバスは申し訳なさそうにぽつりとこぼした。
「……ここからあたしの家って、どうやって帰るんだろうなぁとか……い、言ってみたりして、ふひ…………ごめんなさい家までの道がわからないです……」
「いやいや、ちゃんと家まで送りますから!」
「ありがとねぇ……だめな年上でごめんねぇ……」
 すっかりしょぼくれたサキュバスの手を引き、彼女の断片的な記憶を頼りに歩き出す。何せ精を渇望してふらふらと外出していたので、道を覚えている筈もなかった。
 結果として何とか家には辿り着いた。しかしながら途中カフェで休憩を挟んだので到着した頃には日が沈んでいた。勿論サキュバスは疲労困憊であり満身創痍。まるで酔っぱらいを介抱するように肩を借りての帰宅であった。
 そんな二人を出迎えたのはサキュバスの母親。
 胸は娘よりも少し小さめではあるが、くびれが美しく、魔物娘のサキュバスと言えば……と想像して浮かぶような姿そのものだった。下腹部にあるハートの淫紋がよく目立つ。そんな母親は、男の肩を借りてぐったりしている娘の姿と男の顔を見て妖しく笑ったかと思うと、
「あらあら、ヤりまくっちゃった?」
 サキュバスと男の状態を見てから開口一番がこれである。
「違うのママ……送ってもらってて……」
「体力がないから肩を貸してもらってたのね。なんとなくわかっていたけど」
「あの、初めまして僕は――」
「それよりも汗いっぱいかいたから気持ち悪いでしょう? 先にお風呂済ませちゃって。うちの子が見つけた子なら大歓迎よっ。……それとも、うちの子が喜ぶからそのままにしておく?」
「あ……いえ……流石に流したいですね……」
 その後はサキュバスの家に上がり、風呂で汗を流し、彼女の父親とも挨拶を済ませてしまった。トントン拍子で進みすぎていて逆に怖くなる。
「で、セックスはした?」
「ぶふっ」
 夕食までご馳走になり、一服のお茶を飲んでいると父親から直球な質問を受け、思いきりむせた。
「昨晩娘が出掛けてからこの時間まで帰ってこなかったのと、君と一緒だったのを見たらまぁ、ヤることヤッたのかなって」
「いやあの、まぁ、その、えぇっと」
「ごめんねぇ……ママの影響でパパも猥談を躊躇いなく口にしちゃうの……」
「君もきっと慣れるよ。俺もそうだった」
「は、はぁ……」
 彼女の言うとおり、自分の娘と性交したのかをいきなり聞くあたり、サキュバスの夫らしい。娘が見知らぬ男と共に朝帰りならぬ夜帰りをしようものなら、大激怒されてもおかしくはない。さらに身体を重ねた後なのだ。緊張しない方が無理な話だ。
 しかし、彼はサキュバスの夫。そんな倫理観はサキュバスと結婚生活を送っていたら消え去ってしまい、逆に染められてしまうらしい。そしてそれは男の未来の姿なのだろう。
「あの、まぁ、その。娘さんとは昨晩出会いまして、街の宿屋で……」
「何処の宿屋?」
 何故か母親が食いついてくる。戸惑いつつも泊まった宿屋の場所を説明すると、
「じゃあ行こうか、そこ」
「いくいくっ! 娘が処女を失った部屋で激しくえっちしましょうねっ」
「そうだね」
 一瞬男の目が眩んだ。いくらなんでも倫理観が自分のものとかけ離れすぎていた。
 何よりも愛し合っている者とのセックスを優先する。興奮出来るものなら何でもいいのだろうか……?
「恥ずかしいからやめてよぅ」
 とか言いつつ娘のサキュバスは満更でもなさそうだった。まさかのマイノリティ。カルチャーショックを受けた男は、少々不安になる。この先この家族とやっていけるのだろうか。あと自分の両親には何と言われるのだろうか。親魔物国家に住んでいるので多少の事は大丈夫かもしれない。そう思っていた男自身が結構なショックを受けているので、少しずつ慣れていく他ない。いざというときにはサキュバスの父親に、当時はどうしていたのかを聞いてみればいい。
「それで、初めてのエッチはどうだったの?」
「それがねママ、あたし、初めてのえっちで全然余裕なくって……」
「うんうん」
 興味津々で娘の初体験を聞くサキュバスの両親。その相手もここにいるのだが。
「入ってきただけでイッちゃって――」
 それから事細かにどうだったかを話す娘。
「この子の膣内(なか)がとてもよかったのねぇ」
「ママのだって凄まじいからなぁ……名器はやっぱり受け継ぐんだなぁ」
 しみじみと話しているが、内容は下ネタであり、当事者がそこにいる状況である。もはや男には口を挟む余地はない。価値観が異なるが故に、愛想笑いを浮かべて早く終われと願うのみ。
「もっと上手にえっちしたいけど、どうしたらいいだろう」
「それはもう……」
 母親は男を見てクスリと笑ってから、右手で輪を作り左手の人差し指はその輪に突っ込む。
「慣れるまでズッコンバッコンしちゃえばいいのよ」
「お互いに良いところ見つけあって、開発したりするのもいい。何よりまずはパコれ」
 またも男は気を失いかける。
「だって……えへ、えへへ」
 両親からのとても為になる(らしい)アドバイスを受けて、嬉しそうにしている彼女には苦笑いで答える以外になかった。サキュバスと共にいるというのはこういう事なのだから。
 サキュバスの両親はその後、本当に二人が宿泊した宿屋へ二泊三日すると言って出掛けてしまった。
 親を見送ったサキュバスは、はっとした顔で男を見た。
「そっ、そういえば君のご家族には何もお話ししてないけど、大丈夫?」
「問題ありませんよ、三十過ぎた息子が何日も帰らなくたって心配しませんし」
「そっか、そうなんだ……? あっ、でも明日はお仕事じゃない……?」
「確かに仕事はあるんですが……どうしたいですか?」
「え?」
「……ご両親がいない間、つまり二泊三日を一緒に過ごしたいな、と」
「そそそ、そんな」
 と言いつつサキュバスは男の裾をつまんだまま。
「……いいのぉ?」
「職場にはサキュバスさんに捕まってましたって言います」
「それで通じちゃうの?」
 ここは親魔物国家。突然消えた男性がひょっこり現れたかと思えばその隣には魔物娘が居た、など日常茶飯事だ。勿論魔物娘によっては万魔殿へ連れていかれ失踪してしまったりもするが。
「それに、僕だって貴女とまだ離れたくありません。ご両親に挨拶はかなり緊張しましたけれど、歓迎して、応援してくださったのも嬉しかったので」
「うん……そうだね、あたしたち……えへ、えへへへ。ねー」
 あの宿屋から薄々気付いていたが、サキュバスは妙に甘えたがる。そしてその甘え方も子供っぽい。どもっていたり、変な声を上げていた時とは違う。男はギャップにグッときていた。
 自分よりも年上で、肉付きはよくむちむち。そんな彼女が自分の腕に抱き付いて甘えている姿は、肉欲とは違う庇護欲をかきたてられるのであった。
「じゃあ、散らかってるけど……」
 本当に散らかっているサキュバスの部屋で唯一無事なベッドに座ると膝の間に彼女は座り、後ろからの抱擁をねだった。宿屋に居た時も、そして半日眠ってから今まで風呂に入っていない彼女だが、魔力によって清潔な状態を保っている。知識で覚えていても、目の当たりにすると便利なものだと感心する。
 黒い髪を撫でつつ、首筋に鼻をそっと近付けて彼女の香りを堪能する。微かに甘く、情欲をそそる雌のにおい。
「息がくすぐったいよぅ」
「なんか、ずっと嗅いでいたくて」
「やぁん」
 口ではそう言いつつも満更でもない表情でいる。
 時間を忘れて相手の体温と呼吸だけに集中していると、
「なんか、幸せ……」
 すりすりと身を擦り付ける。性行為の燃え上がるような幸福感も良いが、安らぎに満ちてゆっくりとしているのもまあ違った幸福感を味わえる。男は肯定する代わりに抱き締める力を少し強くした。
 やがて、男は無言でサキュバスの腹部を撫でたり、太もも、二の腕と手で感触を確かめる。どの部位もぷにぷにとした弾力をしており、サキュバスの甘い香りも相まって肉欲が次第に増幅してくる。
 彼女の方はというとくすぐったそうに笑ったり、時折艶やかな吐息を漏らしたりと、されるがままでいた。
 ならば、と男は片手では全く収まらない胸を下から持ち上げる。見た目以上の重量級な胸の重さを確かめるように上下に動かす。たぷんたぷんという音が聞こえそうなほど揺れ、感触だけでなく視覚的にも楽しめるサキュバスの胸にだんだんと夢中になる。片手だけだったが両胸に手が延びる。
「……んっ……んぅ……はぁ……」
 熱のある吐息。もはや男にはその手を止められる筈もなく。サキュバスが振り返るとそのまま唇を奪った。重なったままでお互いに舌を出し、絡める。そして我慢が出来ずに胸をはだけさせ、揉みしだく。
 いつまでも揉んでいられる気がするほどサキュバスの胸は柔らかく、さらには感度も良く、発情しきったその喘ぎ声も相まって夢中になる。押し潰すかのように指を沈ませても、桃色の乳首を引っ張っても、びくんと反応をしてくれるのが嬉しい。
 しばらく両手でサキュバスの胸を好き勝手にしていると、また泣きの入った声が上がる。本当は嫌がっていたのかと驚くが、彼女はもっとして欲しいと潤んだ瞳で訴える。
 ――その瞬間、心臓が跳ねたような錯覚。
 気が付けばサキュバスの口内に舌を侵入させつつ、手は胸をさらに強く揉み、こねて、乳首をつまみ上げていた。悲鳴に近いそれが聞こえ、彼女の身体が強ばったかと思うと一気に脱力した。恐らく達したのだろう。よだれを垂らしつつもサキュバスはにへらと笑う。
「おっぱいだけでイッちゃったぁ……えへ」
「……っ」
「ひゃ!? やぁん!」
 片手は胸を揉んだまま、もう片手で衝動的に陰部に直接触れた。水溜まりに手を突っ込んだのかと錯覚するほど、既に濡れていた。よく見ればシーツにシミが広がっている。指先で小陰唇を上下になぞれば、淫猥な水音が聞こえて彼女の悲鳴もまた一オクターブあがった。
 無茶苦茶にしてしまいたい。この女の肉体を余すことなく味わいたい。今もぐつぐつと煮えたぎっている欲望を膣内へぶちまけたい。
 男は生命として至極単純な繁殖欲に精神を支配されていた。
 魅了(チャーム)。サキュバスであれば誰もが使えるという伝統にして必殺。本能でありアイデンティティといっても差し支えない。
 彼女もまた魅了の魔法を知らず知らずのうち、男に使っていた。時を遡って初めての遭遇時から、男には極めて微量な魅了がかかっていた。本来の彼は礼儀正しく、心の優しい人物であり多少肉付きのいい女性が好みであった。二人が偶然出会ったあの時、彼はサキュバスの姿を見て精々『あの人いい身体してるなぁ』としか思わなかった。そしてそのまますれ違う筈であったが、サキュバスの微量な魅了効果が足を止めさせた。
 干物かつ怠惰な生活を行い、魅了の魔法を忘れていたにも関わらずこの効果。その後男の精を何度か受け止めて彼女に宿るサキュバス本来の能力は段々と増してきた。年上で甘えん坊、少々子供っぽい口調。そんな身振りも男の好みを無意識に把握し、彼女は自分の本来の性格と上手く掛け合わせていた。勿論サキュバス本人すら気付いていない。
 さらに彼女の瞳を間近で見た時に誘惑の魔法まで重ねられており、サキュバスの肉体を求めるがままに行動しているのだった。
 そんな事も露知らず、サキュバスは情熱的に身体を求められている今に酔っていた。
「すき……すきぃ……」
「僕も……すきです……」
 もう既にパンパンに膨れ上がっている彼の男性器は、衣服の中に収めたままでは苦しくなっている。彼は躊躇う事なく、一気に下半身を解放してサキュバスの股の間に勃起したそれをこすりつける。
「はぁ、ああ……おっきぃよぉ……」
 うっとりとした表情でサキュバスは男性器の裏筋を撫でる。浮き出る腺液をすくい、口に含む。
「うっ、くぅ……」
「おいし……。ね、もう、しちゃお……?」
 サキュバスはパンツ部分の留め具をいじると、パチンという音と共に簡単に外れ、男と同じように局部を露にした。いつでも性交出来るようすぐに脱げる仕様の服にしているのはとてもサキュバスらしい。
 自身の粘膜に直で触れる剛直に、悪寒にも似た、しかし悦びに満ちた震えが来る。初めての性交はお互いに全く動けなかった。それでもまだ二人にはこれからがある。何度も何度も飽きる事なく、身体を重ね合わせる。性欲のために、愛のために、そして、子を得るために。
「赤ちゃん、つくりたいよう」
「はい……作りましょう、僕たちの可愛い子を」
 口づけと同時に、サキュバスは腰を下ろし男性器全てを飲み込む。相も変わらず視界が眩むし腰から脳にかけて、バチバチとした電流のように快楽が走り抜ける。そして彼の先端がポルチオまで到達すると、またも絶頂の証の潮が飛ぶ。
 腰が抜けそうになるが、サキュバスは堪えつつも上下に動かす。張ったカリの部分がサキュバスの膣壁をこする。もう一度奥まで、そして入口付近まで。奥と中間、膣口近く。全て、全てが違う快楽だった。
「んんぅ、んぅっ! う、うぇぇええんっ」
「……どう、しまし、た」
「気持ちいいよぅ、良すぎるのぉ! もうずっとえっち、していたいよぅ!」
 心で感じたままの言葉をそのまま口にする。男は答える代わりに胸を揉み、首筋にキスマークをつけた。サキュバスの瞳に涙が溜まり零れる。
 しかしそこでサキュバスの動きが止まる。ろくな運動をしていなかったが故に、体力が尽きてしまった。足腰ががくがくと笑う。
「疲れちゃいましたか?」
「うぅ、動けない……ごめんねぇ……ぐす。君にお願いしてもいい……?」
「もちろん、です。何だか余裕がありますから」
「じゃあ、あのね……あたしの事もっとぎゅって、して?」
「……お安いご用です」
 ぐったりとしてしまったサキュバスを抱きかかえて、背面座位から向かい合うように動かした。挿入したままの半回転でピストンとは違う快感にサキュバスの驚きと喘ぎの混じった声が漏れる。そしてそのまま、男は抱いたままで横になる。サキュバスの体重が男に全て乗った。
「ひゃ、あんっ! 重いのにぃ」
「でもこの体勢だと楽、ですよね? 抱き締めたままで居られますし」
「うん……そう、だけど、恥ずかし……」
「……っ」
 羞恥で顔を隠すサキュバスに、えも言えぬ感情が湧き、腰を突き上げて膣内の奥を叩く。
「ひゃ、ぁあぁああんっ! それ、だめぇ!」
「わかりました」
 つまりは感じすぎてしまうということ。彼女が逃げないように力強く抱き締めたまま、激しいピストンを始める。
 サキュバスの尻肉に何度も当たり、パンパンという音がよく聞こえた。初めての性交よりも格段に耐久している男の猛攻撃に、彼女はただただケダモノのような悲鳴を上げるしかなかった。もはや余計な事は考えられず、四肢がバラバラに散ってしまいそうな程の快楽の暴風に晒される。
 永遠に続くかと思われたピストンが一旦止まったところで、サキュバスは陸に打ち上げられた魚のごとくびくん、びくんと身体が跳ね、口は開いたままでだらしなく舌が出ていた。たまに呻いたかと思うと、快楽の余韻で絶頂し身を震わせる。羽も尻尾も力なくぐったりとしていた。
「あ゛……あ゛……う……」
 まるでゾンビのような声しか出ないサキュバスに、男は申し訳なさそうに告げる。
「あの、すみません」
「……う……?」
「まだまだイケそうにないので激しくしますね」
「ひっ!? ひぃ、ひぅぅっ!!」
 恐ろしい言葉をかけられ、サキュバスは無意識に逃げ出そうともがくも、全身に力はもう入らない。
「ずっとえっちしてたいって言ってましたし」
「……こん、な……はげし……しらないぃぃ……」
 息も絶え絶えに言葉を繋げたサキュバスは、数秒後の自分を想像し戦慄する。また意識が飛びそうになったとしても、強烈な快楽で引きずり戻されるだろう。
「何ででしょうね……貴女の為ならもっと激しく出来るって思えるんです」
「ひぅ……んぅぅ……」
「もう少し時間を置きますか?」
「…………んーん…………」
 僅かに残った力で、サキュバスは男の腕にそっと触れる。
「いっぱい、してぇ……? いっぱい、イカせてぇ……?」
「……そういう事言われたら」
 それ以上は何も言わなかった。彼女におねだりをされたのなら、応えない訳にはいかない。急激な耐性を得た己の性器に驚きつつも、容赦なく打ち付けていく。呻くばかりだったサキュバスはまた大きな声を上げる。
 一般的なサキュバスであれば本来、男の上に跨がり、有無を言わさず貪るような容赦のない搾精をするだろう。しかし彼女は違った。歩く時間などほぼなく、むしろ寝転がっている時間の方が長い生活をしていたせいで、性交の為の体力は微塵もなかったのだ。故に男にされるがまま。しかも可愛らしい喘ぎ声などとうに通り過ぎ、ただただ強烈な悦楽の連続攻撃を食らい続け、濁点混じりの汚い悲鳴しか出てこない始末。
「お゛っ、お゛ぉ゛っ!! うぁああ゛っ!!」
「まだ、まだっ!」
「ひぃい゛ん゛っ!? いぐ、いぐぅうう゛っ!」
「もっともっと、おかしくなるくらいにっ!」
「あ゛う゛ぅっ! だめになるぅっ!」
 男の腰回りが温かくなる。潮吹きを何度もしたせいで、まるで失禁してしまったかのよう。
 そんな二人も気付いていない事実がある。サキュバスに何度も射精した男は、精と呼ばれる魔力を注ぐ代わりに魔物娘しか持ち得ない魔の力をその身に受けていた。少しずつ彼は人間というカテゴリーから外れ、魔物化、インキュバスと呼ばれるモノへと変化しつつあったのだ。
「もう、貴女以外の人なんか、見られないッ!」
「う゛ん、う゛ん……っ! あたし、だけ、見てえ゛っ!」
「好きです、大好きですッ」
「あ゛うぅううっ!! 好きすぎて、いっちゃ、う、うううぅっ!」
 サキュバスは全身の毛穴から発汗していると見間違えるほどに汗だくになり、開きっぱなしの口は涎が垂れ、愛液は激しいピストンで白濁となっていた。犯されるがまま、それでも絶頂は何度もやってくる。このまま死んでしまうのではないかと思った矢先、彼の男性器が一段と膨らんだ。
「もう、もう出る……!」
「らひ、て、あたし、も、いぐ、いぎまぐっち゛ゃう゛っ!!」
「う、ううッ! ああッ!」
「ひ――――ぁああっ! あ゛ああぁぁあんっ!!」
 煮えたぎる熱が、サキュバスの膣内で大量に爆発した。体内がどろどろに溶けそうなほどに熱い精液を、身体は本能に従い吸収する。魔力も、そして心も満ち足りた感覚。二桁以上絶頂したサキュバスは、それでも口角が上がるほどに悦んでいた。激しく求められるセックス。前後不覚になるほどの激しいものだったが、これ以上ない幸福な時間だった。
 二人はしばらくそのままの体勢でいた。会話もなく、ただ荒い呼吸だけが聞こえる。やがて精液を出し尽くした彼の男性器は力を失う。挿入されたままだったが、次第に抜けていき、サキュバスの性器から零れる精液。間違いなくこれまでで一番発射量が多いだろう。
「大丈夫ですか」
 息が整った男は未だにぐったりとしているサキュバスを心配そうに見る。
「ひぅ……はぁ……う、う……」
「なんか身体がもう一回戦いけそうなんですけれど」
「ひぃっ!?」
 本人はじたばたして逃げようとしているのだろうが、実際は全然動けずにただ四肢を無駄に動かしてもぞもぞしているだけ。胸板に押し付けられた水風船のような大きな胸の感触に、男の宣言通り性器がまた血流を集め、膨らみ始める。芯のある肉が自分の性器に当たったのを悟ったサキュバスは、びくりとして動きが止まる。
「あの……そういう可愛い動きされると興奮誘うので」
「ぴぅ」
「……でも、顔中汗だくですね」
 髪が汗ではりついており、それを指で払うとくすぐったそうにする。
 彼女の下がり眉とうるうると潤んだ瞳が、性的にいじめたい欲を増幅させていく。
 しかしそれを彼女はわからぬまま見つめる。
「……いじめる?」
「……」
「…………犯しちゃう?」
「……」
「……」
 これは誘っている。彼女自身が考えている事は違うかもしれないが、そういう言葉と表情は逆効果である。とうとう男は答えずに勃起した性器を彼女の膣口へ狙いを定めた。
「やぁんっ」
「あとでたくさん怒られますから、今は」
「へ?」
「今は、沢山犯させてください」
「ひゃぁぁああああんっ!?」
 怒張した性器を衝動のままに突き入れた。

「い、う゛……あっ、あっ、はぁぁぁんっ!?」
 白濁を吐き出したのも束の間、まだ衰えない欲望と剛直を挿入したまま、起き上がり抱き締めつつ対面座位でまた抽挿し始めた。

「はひゅ……ひゅ……い、いっぱい、出てるぅ……。ふぇ!? まだ、まだおっきいよぅ!?」
 今度は正常位。度重なる射精でぐちゃぐちゃと結合部から聞こえる。

「あ゛……あ……う……う゛ぅ。ふぁああああんっ!? それ、それ、深いよぅっ!」
 吐精しながらもさらに尻を持ち上げ、より腰を密着させたままで小刻みに攻め続けた。

「お゛っ、お゛……う、うう……やぁぁんっ!? また、またっ、い゛っぢゃう゛っ!!」
 もう何度目の射精か忘れ、ただセックスするだけのケダモノとなり、男はサキュバスに覆い被さったままで強引にピストンし始める。いわゆる種付けプレスの体勢。
 既に自分の口からは唸るような呻くような声が漏れるのみ。理性を失い、悲鳴と嬌声を上げ、小刻みな膣壁の締め付けを繰り返す肉壷を貪る。
 吐き出した精は、魔物娘である彼女の肉体が吸収し代わりに魔を注入する。そのサイクルによって活力が湧き、結果として挿入したままの連続性交が続けられる。それこそ魔物娘の、サキュバスの望んだものである。あの夜出会った時から、いずれはこうなる未来が決まっていた。
 そして種付けの体位のまま、射精を幾度か繰り返し、
「……ぐぅッ」
「……あ、あ……う……う゛ぅ……やぁ、ん……」
 男は視界がやがて暗くなっていき、急激な疲労感に包まれて意識を失った。



 むせかえる性臭で、男は目覚めた。そして同時に性器が温かなものに包まれている事にも気付き、びくんと腰を震わせる。
「やぁ……ん……」
「……?」
 どうやら性交したままで眠りこけていたようだった。しかも、勃起をしたまま。先程の反応で肉壁を擦られたサキュバスは、目を閉じたままでも感じているようだった。
 全身が気だるく、まだ眠れそうなほど眠気は残っていた。しかし、眠りながらもぴったりと張りつく膣内は、それらに抗える快感でもあった。
 起こさないように、ゆっくりと腰を引き、そして戻す。
 だらしなく大股を開いたままの彼女が、艶やかな声が僅かに漏れた。昨晩の我を忘れたケダモノの時とはうって変わった理性のある、緩やかな眠姦。
 あれだけ何度も性交を繰り返すと、記憶も曖昧なものになるが、眠ってからまだ動けるのかと苦笑する。それでも飽きない。魔物娘との性交はそれだけ凄いのだと身をもって思い知る。
「ん、ぁ……う、うう……?」
 次第に増幅した快感にサキュバスの意識が戻ったのか、薄く目が開いた。
「……おはようございます」
「……んっ。んぅ……きもちぃ……んふふ、えっちしてる……」
 まだ夢心地らしく、そんな寝惚けた声で嬉しそうに笑う。
「すいません、なんか、起きても大きくなっていて」
「えへ、えへへ……んっ。んっ……あたしのおまんこ、そんな……いい……? やぁんっ」
 ゆっくり揺れる乳にむしゃぶりつく。
「良すぎです、おっぱいだってこんなにエロく揺れて」
「ふふ、あんっ。うれし……んぅっ。だーい好きぃ……」
 彼女の言葉と同時に、ぞわぞわと膣壁が動いた。
「とけちゃいそう……。のんびりえっち、いい……あんっ」
 惚けていながらもしっかりと感じている。その蕩けた顔は激しい性交とはまた違う可愛さを見せた。
「君のおちんちんに合わせて、お腹に力を入れちゃお……えい、えいっ」
 男性器を優しく包み込む膣壁が、掛け声と同時に狭まる。
「……えへへぇ、きもちぃ?」
「くっ、結構来ますね、これ」
「ふふ……お姉さんもやられっぱなしじゃない……もん…………うん……?」
 寝惚けたままの声がやっとはっきりとしたものに変わった。
「あれ……? んっ、んぅっ? へ、あたし……セックス……して……ふぁあああん!? イッちゃ、うぅっ!?」
「うわっ!?」
 一気に覚醒したサキュバスは、驚きの声を上げたまま絶頂した。
 そして男もそれに巻き込まれるように精を吐き出す。彼女の膣内が意識を持ったかのような、強い吸い付きに我慢出来なかった。
「んんんぅぅうっ! 沢山出てるぅ……っ」
「寝てる間に、また作ったっぽいです……あはは」
 男性器を抜くと、ごぽ、という音と共に精液が逆流して垂れる。改めて見ると彼女の大陰唇回りが白く染まり、精液が乾いて張り付いていた。男の方も根元が同じようになっており、どれだけ射精したのかを物語る。
 と、サキュバスが申し訳なさそうに小さな声で告げた。
「……あの、ね」
「はい……?」
「腰抜けて……起き上がれないの……」
「ごめんなさい……」
 昨晩、二人は数え切れないほどに身体を重ねた。正しくは男がサキュバスをひたすらに抱いていたが。その激しい打ち付けを受け続けていたサキュバスの身体は、疲労困憊であった。ほとんど動いてすらいなかったが、それでも腰はおろか全身に力が入らない。立ち上がろうとしても、生まれたての子鹿よりも足が震えて転んでしまいかねない。
「あたしの方こそごめんねぇ……。運動不足なのがここまで響くなんて」
「ゆっくり休みましょう。何か飲みます?」
「ううん、なんだかあたしの身体、たっくさん満たされて……お腹も減ってないの」
 魔物娘は相手の男性から受けた精を活力へと変換する。故に彼女も全身が元気に満ち溢れていた。肌ツヤもよく、髪にもキューティクルが戻っている。
「……ほんとすごいですね」
「うん、いっぱいいっぱい出してくれたもんね……、えへ、ありがと」
「でも動けなくなるのは流石にやり過ぎましたね」
「こ、これから慣れる……よ……たぶん」
「ウォーキングとかしますか」
「えっ………………。…………わかった」
 随分と間が空いたが、攻められっぱなしでいるのもプレイの範囲が狭くなる。出来る事なら、ひたすら騎乗位で搾り取るサキュバスらしい事もしてみたい、というのが彼女の本音だ。
「とりあえず今はそのままで居てください」
「うん……君はお腹空いてない?」
 言われて男は自分の腹に手を当てる。そういえば目覚めてから腹の虫は大人しい。
「……空いてない、気がします」
「あっ、やっぱり? だってあんなに出してインキュバス化してない筈ないもんね」
「僕自身はあんまり変化してるって感じしませんけれど」
「じゃあもっとえっちしたら近付けるよ」
「いやいや、でも」
 昨晩あれだけ性交をしたのだ。サキュバス自身も身体が動かないというのに、そんな道具扱いをする訳にはいかない。……昨晩は完全に理性が吹き飛んでいたのだが、少なくとも今はまともである。
「……してくれないの?」
 寂しげな声で、サキュバスは自らの女性器を拡げて見せる。ひくひくと動くその蜜穴は、男の性器を今か今かと待ちわびているようだった。
 ごくりと、生唾を飲む。
 あれだけしたのに、彼女はまた性交を求めている。魔物娘は、サキュバスは底知れぬ欲望を持つ。すればするだけ満ち、そして相手はインキュバスとなるのだ。彼女からすれば良いことずくめなのである。
 しかしながら、男は自身の身体もそうだが、精神もタガが外れ獣欲のままに彼女を貪ってしまう事に、まだ戸惑いを覚えていた。
「また、沢山しちゃうかもしれませんよ?」
「うん……あたし、いやって言っちゃう時あるけど、思わず出ちゃうだけで本当は嫌なんかじゃないの……。本当に嫌なら、無理って言うから」
「……いいんですね」
「うん……来てぇ……♥」
 サキュバスの性交の誘いに、男の性器はまた力を帯びる。そこまで言うならばもっとしよう。時間を忘れ、ただ彼女だけを見て。
 偶然出会えた奇跡に感謝をしつつ、激しく、時には優しく、身体を重ねるだろう。いつの日か娘が誕生する日を夢見ながら。そして、娘が誕生してもまた二人で愛し合う。そんな未来が待っていると信じて、彼と彼女の新しい日々はこうして始まったのだった。
22/07/25 02:54更新 / みやび

■作者メッセージ
お久しぶりです。だいたい10年ぶりぐらいですって。時の流れは早いものですね

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