連載小説
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第三話 交錯する想い
「イーサン、入るわよ?」
 ノックしてから、イーサンの部屋に入室するエリン。ドアを開けた彼女の目に入ったのは、ベッドから懸命に起き上がろうとするイーサンの姿。しかし、彼の体から突如力が抜け、ベッドに倒れこんでしまう。
「くそっ、ダメか……」
 めげずに身体に鞭を打ち、イーサンはもう一度挑戦する。しかし、彼が勢いよくベッドに倒れかけたところを、彼女は慌てて抱きとめた。
「無理はダメよ。今は体力をつけないと」
「エリン姉……」
 エリンは優しい微笑を浮かべるが、イーサンの表情は明るさを取り戻さない。
「調子はどうかしら?」
「ああ、だいぶ良くなったよ。ただ、ベッドから起き上がろうとするとちょっとしんどいんだ」
 簡単な問診をしながら、エリンは再びベッドから起き上がろうとするイーサンを止める。
「そう気を落とさないで。少しずつ体調を整えていけばいいから」
「そう、だな……」
 言葉の上では納得するものの、彼の表情には未だ影が差している。
「妹さんのことも大切だと思うけど、今はあなた自身のことを考えて。もしあなたが無理して倒れたら、妹さんも浮かばれないでしょう?」
「……」
 イーサンは俯いて、言葉を返すことができない。
「ごめんなさい、変なこと言って。だけど、あなたはもうここの一員なの」
 謝罪しつつ、エリンが無理をするイーサンを諭し始めた、その時だった。
「おねえちゃん、いるー?」
「あっ、呼ばれちゃった。ちょっと行ってくるね」
「……ああ」
 扉の向こうから聞こえるミリアの声。イーサンと別れ、エリンは部屋の外へと出て行った。突然の出来事にイーサンは面食らいつつも、少し複雑な表情をしていた。

「ふぅ……」
 扉を出るときに見たイーサンの表情を見たエリンは、心中穏やかではない様子。彼女の表情も、どこかしら沈んでいた。
「おねえちゃん!」
 扉を開けると、そこにはミリアとスゥがいきなり飛びついてきた。二人の勢いを殺すことはできず、押し倒される形でエリンは倒れてしまう。
「ちょっと、どうしたの? ミリア、スゥ」
 大慌ての二人に対し、起き上がりながら事情を聴くエリン。
「ノッコちゃんとメイセちゃんとナーシャちゃんがけんかしてるの」
「それで、あたいたちじゃ止められなくなって……」
 わたわたとしながらも、事情を説明するミリアとスゥ。その話を、エリンは冷静に聞いていた。
「それで、私に……」
「ワタシがどうしたって?」
 突如二人の背後から、喧嘩の当事者の一人であるナーシャが現れる。
「あら、ナーシャ」
「ナーシャちゃん!」
「あの二人は分からず屋だよ……。相手をするだけで肩が凝るし、腰も張る。人間だからって、悪い奴だって決めつけるのは間違っているのに……」
 ナーシャはけだるそうに右肩を回し、左手で腰を叩きながらくどくどと愚痴る。どうやら、彼女だけは堪えられなくなって抜け出したようだ。
「それで、あいつは大丈夫なのか?」
 ナーシャがエリンにイーサンの様子を問いただそうとした、その時だった。
「とりあえず、みてくる!」
「あっ! ミリア!」
 スゥが慌てて止めようとするも、ミリアは飛び去って行った。

 その頃、大広間では――残り二人の子ども――ノッコとメイセが、イーサンに関して議論していた。
「あいつの化けの皮、絶対にはがしてやる。どうせ人間なんて……ぶつぶつ」
 呪詛のように、メイセはイーサンに対する恨み言をつぶやいていた。
「だけど、どうすれば……」
 それに対し、ノッコは顔をひきつらせながらも、対策を考える。無論、イーサンを排除するための。
「ミリアを使えばいいんだ」
「ミリア? あいつ、そう賢くはないぞ?」
 さも妙案を思いついたかのようにメイセはほくそ笑むが、ノッコはどこか腑に落ちぬといった表情をしていた。
「だからこそだよ。あけっぴろげだから何でも話してくれるさ」
「どーしたの?」
 噂をすれば何とやら。大広間にミリアが戻ってきた。ちょうどいいところに、と二人は悪い笑みを浮かべる。
「ミリア、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」
「あのひとのこと?」
「ああ、あいつのことだ」
 ご機嫌なミリアに対し、不機嫌丸出しの顔で、メイセはミリアに迫る。
「あのひと、ぜーんぜんわるいひとじゃないよ」
 そんなメイセのことなど全く意に介さず、あっけらかんと言い放ってしまうミリア。しかし、二人の表情から疑いの色は消えないどころか、よけいにその色を濃くしてしまった。
「うたがってる? あってちゃんとおはなしすれば、わかるとおもうけど……」
「いちいちうるさいんだよ、おまえは」
 意地でも話すまいと、強硬な態度を崩さないメイセはミリアに文句を投げつける。それに同調するかのように、ノッコは無言でミリアの頭にげんこつを食わせた。
「いたいよー!」
「あら、何してるの?」
 議論――というよりはノッコとメイセの一方的な押し付け――をしていた三人の背後から、突然エリンが現れた。
「ぎくぅ!」
「あっ! おねえちゃん! たすけて!」
 ノッコとメイセの二人は驚くが、ミリアは驚くそぶりを一つも見せない。それどころか、涙目で助けを求めている。
「ちょっと通りがかっただけだけど、まさか喧嘩していたわけじゃないわね……?」
 いつもの微笑を崩し、メイセに迫るエリン。さしものメイセも少しばかり顔を引きつらせるが、言い返す余力はまだあった。
「ふん、誰が!」
「馬鹿、メイセ!」
 感情が高ぶったメイセをノッコが制止しようとした、その時だった。三人の耳に、「シュー」という音がはっきりと聞こえる。それは人が立てるはずのない音。たとえるなら、蛇――
「メイセ……?」
 いつもの微笑をたたえ――ているも、目が笑っていない。それでもメイセは食って掛かるが、
「だいたい、姉さんだってそんな恰好でいることないじゃないか!」
「ナーシャから聞いたわよ、メイセ。あなたが人間を嫌っているなのはわかるわ。だけど、彼が……イーサンがそうとは限らない。それでね……彼に近づかないならまだしも、近づかずに決めつけで行動するのはよくないわ。だから……」
 その勢いは徐々に弱くなっていった。挙句の果てには、エリンの説教を遮って、
「……わかった」
と、渋々ながらも承服した。エリンに対する恐怖に負けた形で。
(う〜ん、少し心配ね……)
 メイセは言葉では承服したものの、相変わらずむすっとしている。彼女の変わらぬ態度を察したエリンの胸中は、穏やかではなかった。
13/03/07 02:17更新 / 緑の
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■作者メッセージ
短編書いたりリアルでたて込んだりしていたら前回更新からだいぶ間が空いてしまいました。緑の姫君です。

と、感想欄のダイエットのため、こちらで感想返信をば。以降の更新でも、あとがきにて感想返信をさせていただきます。

(第1話)
名無し様、ネームレス様、ひげ親父様

ご感想ありがとうございます。そして伏線も晴れずに申し訳ございません(汗
現在、作者の私も見通しが立っておりませんが、完結にはもっていこうと存じております。最後までお付き合いいただけるとありがたく存じます。今後とも、よろしくお願いいたします。

(第2話)
ネームレス様

ご感想ありがとうございます。
メイセの部分、あまり書ききれなかったのですが、続きを楽しみにしてくださっているとのことで、これからもがんばって執筆していきたい所存です。

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