「待てやゴルァ！」
「ごめん！　ごめんって！」
　僕の恋人であるゲイザーのみつめはお怒りになっておられた。
　何故かというと、彼女が大事にとっておいたお菓子を僕が食べてしまったからである。
「んにゃろー！　今度という今度は許さないぞー！」
　僕らはそう広くはない家の中で走り回る。捕まったらひどいことになる。そう確信していた。
　しかし、どんな形相になっているかちょっとだけ見てみたい。きっとかわいい。だがそうすると確実に彼女と目が合ってしまう。暗示をかけられたら何をされるかわからない。
　そんなことを考えながらドタドタと逃げていると、目の端にちらりとあるものが見えた。
──これは使えるな。
　さっと、それを手に取り、僕はみつめの方に振り向いた。
　しめしめ。
「うぉぉ！　お前なんか私専用の性奴隷にでもなっちまえー！」
　そう言いながら僕の方に駆けてくるみつめ。めちゃくちゃ恐ろしいこと言ってんな……
「おらー！」
　彼女の大きくて綺麗な目が迫る。
「無駄だ！」
　それを防ぐように、僕はさっき拾った物を彼女の眼の前に出した。
「え……ぁぅ」
　すると、彼女は糸が切れたようにその場にへたり込んだ。うまくいったようだ。
　僕が取り出したもの。それは手鏡である。跳ね返せるかどうかはよくわからなかったが、どうやら有効らしい。
「さてと……軽く顔に落書きでもしちゃおっかな〜」
　何故さらに怒りを煽るようなことをするのか。馬鹿な話だとは思うが彼女との喧嘩がわりと楽しいからである。
　多分それは向こうも同じ……だと思う。向こうも僕にちょっかいをかけてくるし。
「ペンペン……」
　深刻な溝は作らないよう、消えやすいペンを探す。
　すると。
「……」
　きゅっ、と彼女が僕の袖を掴んできた。
「ひっ！」
　血の気が引く。
　嘘だ！　効いてないの！？　ちくしょー！　演技だったのかよ！
「え、えと……ごめんね」
　できるだけ可愛く、媚びるように謝る。もちろん、許してもらえるはずがない。
　はずがない、のだが。
「ご主人……様ぁ♥」
「……へ？」
　身構える僕に向けられた言葉は怒号ではなく、甘く湿った声だった。
「み、みつめ？」
「ご主人様ぁ♥」
　え、何、さっき言ってた『性奴隷にしてやる』ってガチだったの？　そういう暗示かけようとしてたの？　動きを止める程度の暗示じゃなかったの？

「ご主人様……みつめは今日から一週間、あなた様の性奴隷です……いっぱい使ってくださいね♥」

「ぁ……え」
　一週間も奴隷にするつもりだったのか……
　いや、そうじゃない。
　普段乱暴な彼女がこんなことを言うなんて……暗示のせいとはいえ信じられない。
「さぁ、ご主人様♥なんでもご命令なさってください。どんなエッチなことでもしてみせますっ！」
　そう言って彼女は僕の手を握る。
「え、えぇと……」
　彼女は、まっすぐに僕を見つめる。もちろん目は合っている、だが暗示はかからない。絶好のチャンスだというのに。
──やっぱり、演技じゃないよな……
「よぉし、じゃあまずは……」


　結局あの後、エッチなことは何一つ命令できなかった。できたのは「美味しいご飯を作ってほしい」とか、「掃除をしてほしい」とか、家事関連のことばかりである。
「性奴隷というよりかは、普通のメイドだな……」
　本当はぶち犯してやりたい。あの場で押し倒してめちゃくちゃにしてやりたかった。しかし、良心というべき何かが僕を押しとどめたのだ。
「調子狂うよなぁ……」
　あの状態のみつめとセックスして、それは楽しいのだろうか。なんだか後ろめたさが勝つような気がする。
　いつもは一緒のベッドで寝ているのだが、今夜はみつめはベッド、僕はリビングのソファで別々に寝ることにした。
　何だかものすごく気まずい。
「……あと六日か」
　残りの期間、僕は彼女とエッチなことをする気はない。ちょっとした仕事を任せつつ、普通の生活をしよう。
　そう決意した、その途端に。
　ガチャ
「あのぉ……ご主人様」
　何故かみつめが部屋から出て、僕の方にやってきた。
「どうした？　みつめ」
「ご主人様……どうしてご命令をくださらないんですか……」
「いや、色々させたじゃん、掃除とか洗濯とか……」
「違いますっ！」
　彼女は叫んだ。
「そういうのじゃなくて！　エッチな命令です！　セックスしたいとか、レイプさせてとか、フェラしてとか、なんで言ってくれないんですか！？」
「いや、その」
「そういう命令してもらわないと私……もう駄目なんです♥」
　そう言って彼女は僕の手を自身の股に持っていく。
　ぐちょり、と湿りに湿った感触が伝わってくる。
「はぁ♥はぁ♥ご主人様がエッチなことしてくれないと♥もう収まりがつかないんですよ♥」
　そのまま、僕の手に割れ目を愛撫させる。
「ひぅ♥ご主人様ぁ♥お願いです♥卑しい牝奴隷にお情けをぉ♥」
　とろとろと、雫が僕の手を絶え間なく濡らしてくる。
「ひっ♥ご主人様ぁ♥ご主人様ぁ♥」
「わかった……わかったわかった！」
　もう駄目だ。こんなことまでされたら我慢できない。
「じゃあ命令だ。ベッドの上で、一晩中セックスしよう。それでいいだろ？」
「ご主人様ぁ♥」
　僕は彼女の体を抱っこで持ち上げ寝室へと向かう。
　寝室はむわっと暑くなっていた。電気が点いていないからあまりはっきりと見えないが寝具は荒れてたり湿っていたりしているようだ。いつも僕が使っている枕なんかは特に。
　ベッドの上に彼女を転がす。すると彼女は大人しく体を開いた。
　暗闇の中、彼女の瞳だけが赤く輝いていた。さわさわと触手の動く音も聞こえる。
「いつでもいいですよ……それとも、騎乗位の方がいいですか？」
　いつもは荒々しいみつめにマウントを取られ、騎乗位で犯されているのだが、今日くらいは僕が彼女を犯してしまおう。
「このままでいいよ」
「かしこまりました♥」
　そう言うと彼女は眼を閉じる。僕が入ってくるのを待っているらしい。
　それに応えるように、僕は彼女に覆い被さりペニスを彼女の割れ目にあてがった。
「んぁぅ♥」
　彼女の体は僕よりだいぶ小さい。めりめりと僕のペニスが彼女の肉壷を割って入っているのが感じられる。今回はいつものような乱暴な挿入じゃないぶんなおさら。
「ひぃっ♥あぁっ♥！　あぅっ♥」
　ゆっくり、ゆっくりと、彼女を傷つけないように──もちろん、そう簡単に壊れる彼女ではないが──奥へ奥へと侵入していく。
　一ミリ進むごとに、僕の下にいる彼女が苦しみの声を上げる。僕がこぼれ落ちそうになっている涙をぬぐってあげると、彼女は微笑んだ。
「ご主人様♥苦しいです♥」
「大丈夫か？」
「大丈夫♥じゃ、ないです♥苦しいくらい気持ちいいんです♥痛いくらい気持ちいいんです♥頭の中全部とろとろになってますぅ♥」
「じゃあ、遠慮はしないよ」
「きゃんっ♥」
　彼女が一層高い喘ぎをあげる。ペニスが根本まで入り、彼女の奥まで届いたのだ。
「あ、あぁぁ♥ご主人様♥動いてください♥動いてくれないと息が止まっちゃいそうです……っ♥」
　震える声で懇願するみつめ。
　ドキドキと心臓が揺れる。いつもの彼女からは考えられないほど弱々しい態度。
　それを見て痛感する。
　人間に根ざす矛盾を。
──愛おしいからこそ壊したい。
「ご主人様にお願いだなんて、ずいぶん生意気な奴隷だな」
　僕はゆっくり、焦らすようにペニスを引き抜く。そして同じようにじっくりと挿入。
「あぁぁっ♥ご主人様っ♥駄目ですっ！　もっともっと激しくぅ♥」
　涙目になりながら懇願するみつめに、どうしようもない興奮を覚える。
　いじめたい、苛めたい、虐めたい。
　いじめ尽くして再起不能にしてやりたい。
「っ♥ご主人♥さまぁ……♥」
　息も絶え絶えに、彼女は呟く。
「いいよ、じゃあ、激しくしてあげるよ」
　彼女の要望通りに、ギリギリまで引き抜いてから一気に力強く挿入した。
「か……はぁ♥」
　すると、彼女は目を剥いた。肺の中の空気を全て吐き出してしまったようだ。
「やぁっ♥ひっ♥ご主人様♥けほっ♥ご主人様♥はっ♥ひっ♥ご主人様♥はげしっ♥」
　激しく、激しく、いつも彼女がしているよりも激しくピストンする。ゴリゴリと滅茶苦茶に粘液と粘液がこすれあう。その音が下品に寝室に響く。
　突く度に彼女の腹がわずかにボコりと膨れ上がる。その光景に言いようもない征服感が湧き上がる。
「激しくしてほしいって言ったのは君じゃないか」
「ぞうですげどもっ♥！　こんな♥こんな激しくされたら♥」

「しんじゃいますっ♥おちんぽにころされちゃいますぅぅぅぅぅぅっっっ♥」

「っっ……みつめ、愛してる」
　僕は彼女と唇を重ねる。
「っ♥！　れろっ♥んちゅ♥ごひゅひんひゃまっ♥ころひてくらひゃいっ♥！　ひとりでかってにイきまくってるなまいきなめすどれーをころひてくらひゃいっ♥」
「いいよ、殺してあげる。何回でも何万回でも殺してあげる。そのたんびにぐちゃぐちゃにしてあげるよ」
「あ♥ぁぁぁっ♥♥イくっ♥イくっ♥イくっ♥！　しんじゃうぅぅぅっ♥！」
　ぎゅ〜っと彼女の肉壁が、僕のペニスをきつく絞り上げる。僕も限界だ。
「出すぞっ！」

　どぴゅっ！　びゅるるるるっ！　どぴゅどぴゅっ！

「あああああぁぁっぁっっっっ♥ナカに♥ナカにごひゅじんひゃまのぉぉっ♥アツいぃぃっ♥」
　腰を浮かせ背を弓なりにし、愛液を撒き散らし、魔物娘の尊厳など捨て、彼女は獣のように達した。
「ぁっ♥ぁっ♥ご主人様の♥こだねっ♥わたし♥はらんでみせます♥」
　壊れた玩具のようにびくんびくんと跳ねるみつめ。
　ペニスを引く抜くと、とろりと白濁液が垂れてくる。
　あぁ、犯してやった。みつめを犯してやった。
　改めてそう思う。
──そう思って、少し冷静になる。
「……み、みつめ？」
「っ♥っ♥ぁっ、ごひゅひんひゃま……おそうじしてあげますね……じゅぷっ♥ちゅっ♥」
「っ」
　彼女は、それでも性奴隷の役目を務める。
　これはもう……当分は抜け出せそうにないな。


「ご主人様っ」
「んー……」
　朝、目が覚めるとそこにいたのはメイド服姿のみつめ。
「ご主人様♥家事は全部すませましたよっ♥早く朝ご飯食べていっぱいエッチしましょっ！」
「……」
　よかった、何かの弾みで暗示が解けたりしてないみたいだ。
　もし解けていたら、今日一日は確実に彼女に犯され続けることだろう。
「……」
　でも、一週間……あと６日か、それが終わったらきっと暗示は切れるんだろうな。そうなったときは……まぁ、仕方ないか。
　ならばそれまでの間は。
　存分に楽しもうか。
「わかった、今日もよろしく。みつめ」
「はいっ、よろしくお願いしますっ♥」
　熱っぽい視線を浴びせられ、僕はゆっくりと立ち上がる。


　今日は日曜日。
　何をしようか。