連載小説
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触手系魔物娘には、何よりも服が必要なのだ
こうして四人の嫁と出会い、へそも安定し、数日もすれば全身に力が入るようになりました。
つまりセックスが解禁されました。
三日ほど乱交していたのですが、このままではそれぞれの仕事にーーつまり、市長としてや、医師として、学生としてのーーに影響が出すぎてしまうので、一日ごとに一人が僕を担当することになりました。
あ、レンカは自由のきく文筆家ですから影響はなかったんですが、ずるいずるいと罵倒され折れていました。

そして、五日に一度は僕一人の時間ができることになったのです。この後は主にその時の出来事です。



さて、僕が最初にしたことですが、それは知人を伺うことでした。おそらく僕が知るマインドフレイアの中で最もまともなーー地上の人間に近い価値観を持っている人物です。
ベルティアは胡乱げな目をしました。

「早速浮気とは感心しないな」

彼女は相変わらず路上で絵を描いていました。
僕は服屋に行っても卑猥なものしかなかった旨を彼女に訴えましたが、彼女は「それはそうだろう」と笑うばかりです。
そして、僕が彼女らの文化を知りたがってると知ると、ある人と合わせてくれました。

政治的な、というべきでしょうか。派閥のトップです。
制服派、カレ服派、半脱ぎ派をまとめ上げる着エロ派のトップだとベルティアから聞いていましたから、僕は少し緊張していたのです。周りの人がじっと見てきたのも理由の一つかもしれません。

「話には聞いているよ、君が今回結婚した男の子だね」

キアネラと名乗った彼女は堂々としていましたが、親しみやすそうな人物でした。落ち着いた声もそうなのですが、ブラウスを着ているためかそう思わされます。
彼女は制服派でした。本当はカレ服派だそうですが、未婚なのでカレシがいないのだとか。

「我々のような触手系魔物娘には、何よりも服が必要なのだ」

彼女は、男性も服を着ているのが好ましいと声高に叫びました。賛同者の同意の声が飛び交います。
少し話してみると、彼女らは公共の場で男性の服に触手を忍ばせてイチャつきたいという強い欲望を持つ方たちでした。
僕と話す時の視線がなかなかに恐ろしかったです。服の隙間をじろじろ見てくるものですから。

僕は彼女らの意見には納得しました。着衣の隙間から手を入れて身体を弄るのはやはり興奮しますし。
僕が頷いているのを見て、キアネラは我が意を得たりとばかりに声を張りました。

「静かに! 今こそ時だ! 作戦を実行に移すぞ!」

きゃああ、と賛同者たちが声をあげます。なんせ皆さん女性ですから、声が黄色いのです。

そして外に向かって次々と出て行きます。
その勢いに巻き込まれないように僕の手を引いて壁に寄せたベルティアが言いました。

「私たちも行こう。きっと面白い」

その顔はこの状況を明らかに楽しんでいました。お祭りのようでした。

外に出てみると、交差点の、あのイカと女性の像に皆さんが飛びついていました。
何をしているのかと言うと、女性に服を着せているのです。
当然石像なので動きませんので、服を着せるのも大変なのですが、物理的に無理なものはその場で縫う、あるいはつなぎ目にボタンをつけておくなど用意周到さが見て取れます。

「我々の意思はあのようにして表すのだ」

キアネラさんが教えてくれます。
しかし、彼女らの意思はある程度合っていますが、完全に一致しているわけではありませんでした。

「ここは半脱ぎの方がいい!」

「いや、ぴったりと着ている方がいい! 絶対にその方が無理やり感がある!!」

などと、像に張り付いたまま喧嘩をし始めるグループもありました。
キアネラさんが頭に手を当てました。

「我々は少数派だ。人数のために数派閥纏めたが、ああいう風に主義主張が食い違うことがあるのだ」

それでも、概ね問題なく着衣作戦は進行していました。
闖入者が現れたのはそんな時です。

なにやら重たいものが地面に落ちたような音が宙を走りました。
ビクッとした僕をベルティアが掴みます。

「またか……おねショタ派だ! とりあえず離れよう!」

僕が頷くと、担がれて猛スピードでその場を離脱しました。
近くにあったベルティアのアトリエに入ると、ゆるりと地面に降ろされます。窓から、像に取り付いて地面に引き倒す人たちが見えました。
ベルティアがため息をつきます。

「酷いもんだろう。我々はただ、男の好みだけでこんな争いをしているのだ」

なんでも、以前おねショタ派が優勢だった時に、男を若返らせる薬が作られたそうです。その効果が少しずつ強力になってきたところで、トップが被虐趣味を持つ人に変わり、研究がストップされたそうです。

「彼女らは一度叶いそうになった夢が散ったのさ。気持ちは分かるが、街並みを破壊するのはな……」

僕は何も言えず、ただ話を変えました。

「ベルティアはどういう男が好きなんだい?」

ベルティアは悲しそうな顔をしました。
そして、股間のあたりに手を当てて言いました。

「身長がこれくらいの、ショタが好みなんだ」

どーん、とまた像が倒れる音がしました。
その音はアトリエに虚しく響き、僕らを包んでいました。

「股間と男の子の口が向かい合うぐらいの身長がいい。それで、口淫させながら、その上から服を着るんだ。服は拘束着でもあるんだ」

熱く語るベルティアに、僕は何も言えませんでした。ただ、大きな低い音が、どおんと部屋に響きました。
ベルティアが宙に飛ばしていた瞳をすっと僕に向けました。申し訳なさそうな、後悔するような光を湛えていました。

「……すまん、興奮しすぎたようだ。流石に気持ち悪かったよな。今日は帰ってくれ。道中、気をつけてな」

僕はそのまま立ち去ろうとして、思い留まりました。
ベルティアは友人です。ここで何も言わずに帰っては、自分に胸を張って友人だとは名乗れないと思ったのです。
僕は言いました。

「オナホ妖精というジャンルがあってね。挿入したまま、陰茎のみで女の子を持ち上げるんだ。片手で持てるサイズが好ましいから、妖精で定着したんだと思う。だけど、僕はロリならば可能じゃないかと思っている」

「お、お前……何を」

ベルティアが狼狽えていますが、僕は続けました。

「ロリに挿入したまま、上から服を着てベルトを巻けば支えられると思うんだよね。冬用コートとかなら前のボタンも止められると思うし。膨らみでバレるだろうけど、それがいいよね」

僕は軽く笑って、じゃ、と手を挙げました。

「やっぱり気が合うね。また話そう」

「……私は逆にバレたくない派だ。バレるかバレないかのギリギリが一番興奮する」

「それは、意見が分かれるところだよね」

僕らはそのまましばしお茶をして、今度は和やかに別れました。その際のベルティアの瞳は穏やかなもので、悲しみを湛えてはいませんでした。そのことにちょっとホッとしました。
19/08/18 09:55更新 / けむり
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■作者メッセージ
服の下で触手が蠢く様子はやはりどうしようもなく官能的なのだ

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