連載小説
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誰かの為のプロローグ
家というものに安らぎを感じることが出来るのは、幸せなことだと思う。
反抗期のガキにとっちゃ鬱陶しい親のいる家なんぞはプライバシーを侵害される、などと養ってもらっている立場に関わらず逆ギレするだろうし、恋人がいる場合だったらその恋人の我が儘に振り回されることだってあるだろう。仮に100%浮気の心配がない魔物が嫁だったところで、深すぎる愛は喧嘩の原因になる可能性もそりゃあないことはないのだから悩みの種があるという意味ではそう変わらない。
兄弟……は、いないから正直よくわからんが、あまりいて欲しいと思った記憶はない。

……こんな事を思っていると一人暮らしサイコー!!と主張したがっているように聞こえるかもしれないが、あながちそれは間違いでもなかったりする。
俺の職業は冒険者。街のギルドを通じて住民からの様々な依頼を請け負う、そんな仕事だ。住民がわざわざ赤の他人に頼ってくるぐらいの仕事なのだから当然、依頼には荒事が回ってくることが多い。そんな仕事だと家に帰ってくる頃にはクタクタになっているのが当たり前で、そんな時に同居人に振り回されて更に疲労を増やすのは勘弁してもらいたいのだ。
二年目ともなると一人暮らし生活も板についてきて、家の事は大体なら一人でこなせるようになった。だから、一人暮らしに対する不満というのは今のところ俺には存在しない。
今日も今日とて、数日ぶりに帰ってくることになった我が家が目に映った時は、それだけで開放感と脱力感を味わったものだ。

まぁ……長々と語ってしまったのだが、要するに俺はさっさと家で休みたい。
柔らかいベッドの感触を思い出しながら手慣れた動作で鍵を開ける。
そして、俺は玄関の扉を開けた――――――





「あっ、お帰りなさいお兄ちゃん!!」





瞬間に閉めた。

……あれー?なんか今、玄関に正座してる金髪のガキが見えたような…………待て待て待て待て。
まずは深呼吸だ……そして落ち着こうかルベルクス=リーク。
冷静に状況を見直してみれば、答えは必ず出るはずだぞー……

1、自分に妹はいない。さっきも言ったが、そもそも兄弟なんぞは一人もいない。親戚にそういう子がいる話も聞いたことがない。てゆーかあれは確実に親戚じゃねぇ。
2、玄関にはちゃんと鍵がかかっていた。だから、誰かが家の中にいるわけがない。
3、今、自分はすげー疲れている。しかも、その疲れの原因はさっき家の中にいたガキである。

………………何だ、幻覚か!!
そうだよな、これだけ疲れてるんだったら幻覚の一つや二つ、見たって何もおかしくねぇよな!!
それなら、もう一回玄関を開けりゃ消えてるよな!!よし、もう一回最初から……

「むぅ、酷いよお兄ちゃん!!エリーずっと待ってたんだから閉めないでよぉ!!」

……などとエスケープしようと思っていたら、ガキの方から扉を開けてきやがった。
おい、こういうのは俺の心の準備が出来るまで大人しく待ってるのが相場だろうが。
……いや、そんなことはこの際どうでもいい!!

「な……何で、てめぇがここにいやがる……!?」

内心の動揺が出まくって震え声になった質問に、ガキは待ってました、とばかりに目を輝かせる。



そして、そいつは俺の疑問を解消するどころか、俺を更にとんでもないトラブルに巻き込むような、そんな台詞を高らかに宣言するのだった。











「お嫁さん!!エリーはね、お兄ちゃんのお嫁さんになりに来たの!!」

「あーはいはい、お嫁さんね…………って、





はぁぁぁぁ!?嫁ぇ!?



…………その言葉の意味を頭が理解するのに数秒、時間がかかって。
近所迷惑を全く気にしない大絶叫が、俺の喉から響いた。










……俺がこのガキと出会ったのは、まだほんの数日前のことだ。
少なくとも、こいつが今現在の俺の疲労の主な原因であるということと、こいつに好意を抱かれるような事を俺は一切した記憶がないことだけは確定的……なはずだ……
くそ、自信がねぇ。
あの日の事、思い出してみるか……
あの日も確か、俺は扉の前に立っていて……


13/01/06 19:14更新 / たんがん
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■作者メッセージ
と、いうわけで、「鍛冶屋『LILAC』とお客様」にも出てきたキャラクター、ルベルとエリーの出会いの物語、とうとう始動です!!

構想だけならそれこそ二年前からあったお話なんで、こうして形にできたことが大変嬉しかったりしますww

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、もしよかったら一話もどうぞ。

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