読切小説
[TOP]
イッツ・ア・スモールワールド
 魔界と人間界の境に規制も無ければ障害も無い時代だった頃、魔物と人間が共に生きるのも珍しくはなかった。
 人間が魔界で住むには色々と問題が多くて困難を極めたが、その逆に魔物が人間界で暮らすのには何の問題も無かった。寧ろ人間界に広がる自然に憧れたり、暮らし易さを覚えて住み着く者の方が遥かに多かった。

 やがて魔物の中には人間と手を取り合う者も居れば、利害の一致で共に生活をするなど様々な暮らし方を見付けては人間界に定住していった。

 パラッシュと呼ばれる小さい村もその一つだ。村に隣接する湿地帯にはミューカストードと呼ばれる魔物が生活し、村人達とは良好な関係を築いていた。魔物と言っても、この時代では其処等の女性よりも遥かに美しい姿をしているが。
 嘗てのパラッシュ村は湿地帯から発生する害虫などのせいで暮らしに適さない場所と言われていたが、彼女達が移住してからは害虫の被害は激減し、今では逆に湿地帯の環境を利用してキノコ等の農作物を栽培・出荷するまでに成長した。
 そして幾年も経てばミューカストード達との距離も必然と縮まり、彼女達の美しさや可愛さに惚れ込んで求婚を申し込む村人も居れば、逆に彼女達に気に入られて半ば強引に結ばれる村人が居たりなど、今まで以上の活気に村は包まれた。

 だが、共存が成り立っているからと言って全てが円満にいくとは限らない。魔物と人間という種族の違いが原因で衝突が生じる場合だってある。

 この日、一人の少年が村に隣接する湿地帯の中を歩いていた。丸みを帯びた顔立ちや大きく円らな瞳など、パッと見だけでも幼さが所々に残っているのがよく分かる。しかし、そんな幼さとは裏腹にボブカットの前髪から覗いている瞳の中には硬い決意が宿っている。
 湿った土を踏み締める度にぐちゃぐちゃと耳触りが良いとは言い難い音が鳴り、歩けば歩く度に湿気から来る蒸し暑さで額に汗の粒が浮き出る。何度も汗を拭い落しても、その都度湿気交じりの空気が肌に張り付き、結局は不快感を拭い落とせない。何とも嫌な悪循環だ、そう思いながらも少年は歩みを止める事はしなかった。
 か細い木々が乱立する湿林と生い茂る雑草群を抜けた先、辿り着いた場所は湿地帯のほぼ真ん中にある湖だ。それまで黙々と歩き続けていた少年は湖の縁で立ち止まると、微風で薄らと波立湖面を覗き込む。透明度の高い湖の水は穢れを感じさせず、その表面に自分の顔が綺麗に反射するのが何よりの証拠だ。

 そして少年が自分の顔が映った湖面と睨めっこを続けること数秒後、湖の底から何かが浮上して、水面を突き破る。現れたのは深緑色のショートヘアが似合う可愛らしい女性―――もとい、ミューカストードであった。
 流石に彼女達と長年共存しているだけあって、湖から現れたミューカストードを見ても少年は驚いたりはしなかった。但し、笑みも浮かべず何処か刺々しい不機嫌な雰囲気を纏っていたが。
 対するミューカストードは少年を見るや、嬉々とした満面の笑みを浮かべ、親しげに話し掛けた。

「何や、ケビン君やないのぉ。そんな不機嫌な顔してどないしたん? 何時ものむっつり助平なお顔やあらへんやん」
「むっつり助平は余計だよ! サラ姉ちゃん!」

 ケビンとサラは所謂幼馴染だ。ケビンが生まれた頃にはパラッシュの村人達とミューカストードが知り合ってから半世紀余りが経過しており、ミューカストードと人間が幼馴染になるという事は大して珍しい事ではなくなっていた。
 そのサラにむっつり助平呼ばわりされたケビンは顔を赤くしながら反論するも、思わず自分の素を出してしまった事で我に返ったのだろう。ゴホンと咳払いをするうと、遂さっきまでの不機嫌な態度へと戻った。

「それよりもサラ姉ちゃん、ちょっとお話があるんだけど……」

 ケビンの態度を不思議に思いながらも、話し合いの為に湖の縁から陸へと上がるサラ。
 蛙特有の黒とも茶とも取れる斑模様と、その下に広がる新緑の皮膚、そして腹部や手足の内側の白い皮膚が日の光に照らされてキラキラと目映い輝きを生み出す。まるで高級オイルでコーティングした甲冑みたいな美しさだ。
 水掻きの付いた手で頭髪に付いた水滴をサッと払い落とし、話を持ち掛けたケビンの隣に蛙座りのポーズでストンとしゃがみ込む。自分の隣に座ったサラをケビンは一瞥するが、すぐに前方へと戻し態と視界から彼女を外した。
 それがサラからしたら気に食わなかったのか、白い頬をぷぅっと蛙のように膨らましつつ寂しさを込めた視線を相手に送る。

「どうしたん、ケビン君。今日は何か釣れへんやんか〜」
「そりゃそうだよ。今日はお姉ちゃんに文句を言いに来たんだから」
「文句ぅ? ウチ、何かしたっけか〜?」

 ケタケタと笑いながら場の空気を和ませようとしたが、ケヴィンがそれに釣られるどころか、ツンと澄ました表情のままこちらを見ようともしない。そこで漸く『これは本気や』とサラも察したが、ケヴィンが此処まで不機嫌な態度を見せる理由まで見抜く事は出来なかった。

「いや、ホンマごめん。ウチ、ケビン君に何かしたっけ?」
「お姉ちゃん、僕がお姉ちゃんと出会ってから何年経つか知ってる?」
「はっ? あー……確かケビン君が5歳の頃やから、もうすぐで10年になんなぁ。それがどないしたん?」
「……お姉ちゃんと僕が……その……は、初めてエッチしたのも覚えているよね?」

 ケビンからしたら今日までの短い人生で培った、なけなしの勇気を振り絞った発言だったに違いない。顔はおろか耳や首筋まで真っ赤に染まり、彼女の方を見向きも出来ない。そもそも見向いてもいないのだが、更に首を横に向けて完全に彼女からそっぽを向いてしまっている。 

 しかし、相手は魔物娘―――人間と価値観(特に性的な部分)が異なる生物であり、今の質問は完全に尋ねるべき相手が間違っていたとしか言い様がなかった。

「何言うてるん、当たり前やん!! 出会って数日後にケビンのチ×チ×をフェ○して、数年経って漸く精通が来たら即セッ○スしたやんか!! そんで、その後はケビン君の隙があれば夜這い・逆レ○プ・即嵌め、何でもヤったやんか〜! あと他にも〜……」
「わ、分かりました!! もう良いです!!」

 饒舌な口調でペラペラとサラの口から卑猥な言葉と生々しい遣り取りが出るわ出るわ。蛙の魔物なのだが、水を得た魚の如き勢いで口が回る。これにはケビンも歯止めを掛けねばと思ったらしく、慌ててサラの方に振り返り、自身の両手を使って彼女の口を封じ込めた。

「むー、何やねん。まだ沢山思い出話があるっちゅーのに……」
「もう結構です! 兎に角、僕が言いたい文句はそれですよ!」
「それって……何やねん?」

 それと言われてもどれの事なのかサラにはさっぱりだ。しかし、ケビンは堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに大声で叫んだ。

「そうやってほぼ毎日エッチをする事です!!」
「……はぁ? 何を今更言うてるん?」

 漸くケビンの口から本題が出たものの、サラからすれば正に『何を今更』の一言に尽きる。彼女の話で述べられたが、サラはケビンと知り合った直後から肉体関係を結んでいる。つまり彼是十年近くは肌を触れ合い、乳繰り合うのは至って当然の間柄なのだ。最も幼い頃のケビンが肉体関係とやらをちゃんと理解していたかは疑わしい部分もあるが。

 だが、ケビンがこうも怒っているのは、彼にとって死活問題とも言える事情があったからだ。

「お姉ちゃんは気にしていないかもしれないけど、僕の身体を見て変だと思わないの!?」
「変って……何処がや?」
「〜〜〜!! 僕の身長とか身形とか!! 数年前から変わっていないでしょ!!」

 そう言われて改めてケビンの頭から足の先まで見渡すと、確かに15歳の男性にしては身形や背丈は10歳前後の子供と大して変わらなく見える。ケビンの成長が急に止まった事に自分とのエッチが関係ある……その言葉を頭の中で反芻させている内に、サラはある可能性に思い当った。

「もしかして……ケビン君、インキュバスになってしもうたん!?」
「そうだよ! お姉ちゃんとセックスしている内に魔力を取り込んじゃって、気付いたらインキュバスになっちゃっていたんだよ!」

 今の時代、魔物娘と性交を交わす男性は珍しくないが、時には性行為に没頭する内に彼女達の魔力を無意識に取り込んでしまい、人間と言う枠組みから大きく逸脱してしまった超人的な存在―――インキュバスになってしまう事がある。
 見た目は普通の男性だが寿命・生命力・体力・精力・性欲、全てにおいて魔物並とある種のチートとも呼べる能力を兼ね備えており、強いて言えば魔物寄りの人間とも呼べる存在だ。
 だが、魔物並の長い寿命を得たせいで何百年も生き続ける内に心を病んでしまったインキュバスの人間も少なくはなく、この事からインキュバスになるには両者の同意と相応の覚悟が必要とさえも言われている。

 また子供の頃にインキュバスになると成長速度が劇的に愚鈍化し、二十歳になるまでに八十年は掛かると言われている。

 今のケビンは正にその状態だ。怒っている彼の様子から察して、恐らくサラからインキュバスの話を聞かされていなかったのだろう。もしインキュバスの話を聞かされていれば、抵抗するなり話し合うなり色々と手段はあった筈だ。だが、既にインキュバスとなってしまった以上、最早手遅れとしか言い様が無い。

 正直に言えば彼がインキュバスになってしまったと聞かされた瞬間、サラの中では明白な喜びの感情があった。何故なら彼女にとって大好きなケビンと長く一緒に生きていられる上に、インキュバスになった事でケビンの精力や性欲は魔物並に底無しとなった訳だ。
 簡単に言えば『どれだけ激しいセックスをしても相手のイチモツは衰え知らず』、魔物娘にとっては涎が出る程に美味しい話だ。
 だが、ケビンの話を聞いた後だと手放しで喜ぶのは些か気が引ける。寧ろ罪悪感すら感じてしまう。確かに本音を言えばケビンがインキュバス化する事を狙っていたのは否めないが、まさかこうも早く変化が現れるとは思ってもいなかった。子供の身体だと魔力の吸収が早いのだろうか――と考えもしたが、今はそんな場合ではないと魔力学に関しては後回しにした。

「えーっと……ごめん。まさかこんなにも早くインキュバス化が進むなんて思わなかったんやって」
「でも、このままエッチを続けていたら、何れ僕がインキュバスになる事は分かっていたんだよね?」
「うっ……。それは……まぁ……うん」

 ジトリと猜疑心が詰まった目を向けられ、サラは素直に首を上下に頷かせて白状した。誰だって最愛の人から疑いを向けられれば、下手に言い訳するよりかは素直になった方が良いと考えるだろう。
 彼女が認めてから一瞬の間を置いた後、ケビンは重く長い溜め息を吐き出した。そして犯罪者に向けて判決を述べる裁判官のように重々しく口を開いた。

「お姉ちゃん」
「は、はい?」
「僕は別にインキュバスになってしまった事に怒ってはいないよ。そりゃ大人になってからとか、もう少し身長は欲しいとは思ったけど。でも、遅かれ早かれインキュバスになるんだし、他人に比べて成長速度が遅くなっただけと考えれば我慢は出来る」

 台詞の内容は決してサラを責め立てるようなものではない。今のところは。しかし、サラには見えてしまっていた。ケビンの背後にドス黒い暗雲が立ち籠り、今にも憤怒と言う名の落雷が襲い掛からんとしているのが。

「でもね、だからと言って内緒にしたり何も言わないのはいけない事だと思うんだ。特に今回みたいな重要な事はね。親しき仲にも礼儀あり……この意味は分かるよね?」
「ハイ」
「なので、お姉ちゃんには一度痛い目に遭う必要があると思います」
「い、痛い目って……まさかセックス禁止とか夜這い禁止とか逆レイプ禁止とか言わんよね!?」
「わぁ、こうやって聞くと犯罪臭が物凄いね。とりあえず、違います」

 魔物娘にとって最愛の人間との性行為は、この上ない幸せであり、一部の魔物達にとっては生きていく上で必要となる行為だ。それが禁止されようものなら、彼女達からすれば事実上の死刑宣告にも等しい。
 話は戻り、セックスを止める訳ではないとケビンがキッパリと否定するとサラは胸をホッと撫で下ろす。しかし、まだ『痛い目』の内容を聞かされていないので、自然と気が引き締まる。

「そ、それじゃ何するん? セックスやなかったら……やっぱりお説教?」
「それも考えたけどサラ姉ちゃんの場合は言って聞かせるよりかは、体で覚えさせた方がちゃんと反省するかな」
「は? それどういう―――」

 ケビンの台詞の意味を問い質そうとしたサラの台詞が中途半端に止まった。
 改めて言うが、今のケビンは人間ではなく魔物に近いインキュバスだ。彼女が言葉を止めた時、インキュバスになったのをきっかけに手に入れたのであろう魔力が彼の肉体から溢れ出ていた。それが手に取るように分かったのは、恐らくインキュバス化を促したのがサラの魔力だったからであろう。
 やがて体から溢れ出ていた魔力が彼の手に集中していくのを感じ取り、サラは冷や汗を掻きながら恐る恐る尋ねた。

「ケビン君、何か魔力が右手に集まってる気がするんやけど?」
「うん、そうだよ。だって集めているんだもん」
「そ、そっかー。お姉ちゃんの勘違いやないんかー……。で、その魔力をどないするん?」
「あのね、近所に住んでいる魔法使いのおじちゃんに魔力の使い方と魔法の呪文を教えて貰ったんだ」

 この世界には太古の昔、魔力の存在が解明された時から魔法や魔術が生み出された。そしてインキュバスとなって魔力を手に入れたケビンも、魔法使い同様に魔法を使えても何らおかしくない。
 但し、一言で魔法を使うと言っても、現時点で人類や魔物が編み出した魔法や魔術と言った術式は膨大な数に昇る。とてもじゃないが全てを覚え切るのは容易ではなく、ましてや魔力を手に入れたばかりのケビンが易々と魔法を習得出来るとは考え難い。

 精々、悪戯っ子を懲らしめる程度の簡単な魔法だろう―――そうサラが高を括った矢先、魔力を集めていたケビンの手が自分に向けられた。

「イッツ・ア・スモールワールド!!」

 魔法の呪文と思しき言葉を発した瞬間、彼の手から目映い光線が発射された。突然の出来事故、反応し切れなかったサラはもろに光線を浴びてしまう。しかし、痛みは全く感じられず、暖かい光に包まれているような感覚だ。
 只の目晦ましにしては眩さに欠けるし、もしかしたら失敗に終わったのかと思った時だった。ケビンが放った魔法の効果が彼女の身に起こり出した。
 
「な、何やぁ!?」

 驚きの声を上げるサラの視界に映るもの全てが大きくなっていく。否、彼女自身の身体が縮んでいるのだ。最終的には湿地帯に生えていた雑草よりも小さくなり、目の前に居たケビンが巨人みたいに巨大に見える。いや、実際に大きく見えているのだが。

「ケビン君!! これは一体何やねん!!」
「これが魔法使いから教えて貰った、相手の肉体を小さくさせる魔法だよ」
「こ、これで何をする気やねん!?」
「だから、さっきから何度も言ったでしょう? お姉ちゃんに痛い目に遭ってもらうって」
「ぼ、暴力反対! こんな小さくて可愛い魔物娘を苛めるなんて正気かー!」
「自分で可愛いとか言っちゃうのがお姉ちゃんらしいね……。でも、元はと言えばお姉ちゃんがインキュバスの事を内緒にしていたのが悪いんだよ」
「うぐぅ……」

 何時もなら体の大きさを活かして彼を押し倒して劣勢を有耶無耶にしてしまうところなのだが、その利点が失われてしまっている今、サラに成す術は存在しなかった。

「それじゃお姉ちゃん―――御覚悟♥」

 にっこりと微笑む姿は子供らしいが、残念ながら不穏な黒い影が彼の顔に張り付いている。『あ、これは完璧な激オコですね』と理解したのも既に遅し。徐に伸ばされたケビンの両腕がサラの肉体をガッチリと掴んで捕獲した。



 ケビンに捕まり、やや横長の虫籠に押し込まれて野生の蛙気分を味わいつつも、内心では何をされるかとビクビクしていたがサラだったが、結果から言えば何も起こらなかった。
 虫籠にサラを閉じ込めたケビンは湿地帯を抜け出て自分の村へと戻り、そのまま自宅へ帰宅しただけだ。ケビンの家にはサラも何度か足を運んだ覚えのある場所なので、ほんの少しだけ気分が楽になった。

 但し、何時もなら家に居る筈の彼の御両親が見当たらないのが唯一の気掛かりだった。

「あれ、ケビン君。お父さんとお母さんは何処なん?」
「ああ、そう言えば教えてなかったっけ。今日から五日間、二人は村主催の小旅行に出掛けてて家を留守にしているよ」
「へー、そうなんや………ってことは、今この家にはウチとケビン君の二人きりしか居らへんっちゅーこと!?」
「うん、そういうこと」

 そう言ってケビンが素直に認めると、サラが駄々を捏ね始めた。

「えー!! それなら早ぅに言うてやー!! 折角ケビン君とイチャイチャラブラブ出来るチャンスやっちゅーのに!!」
「それじゃお仕置きにならないでしょ」
「まさか、最初からそれが目的……だと!? うわーん!! ケビン君が鬼畜になってしもたー!」
「誰のせいですか」
「自分のせいです! うわーん!!」

 自分のせいだと言いながらも、今の美味しい状況が満足に堪能出来ない事を悔しがってかサラはジタバタガタゴトと派手に虫籠を揺らし続ける。その音にケビンは溜息を一つ付くと、徐に虫籠を持ち上げた。突然襲い掛かった浮遊感に流石のサラも手足の吸盤を籠の壁に張り付けさせ、姿勢を保つのに必死だ。

「きゅ、急に何するねん!? ビックリするやんか!」
「サラ姉ちゃんが煩いから、そろそろお仕置きの時間にしようかと思ってね」

 お仕置きという言葉を耳にした瞬間、背中に氷を投げ込まれたかのような悪寒が走る。おまけに苛立ちを見事なまでに隠し切ったケビンの笑顔を見ただけで、悪寒は酷くなる一方だ。

 そしてサラを虫籠に閉じ込めたまま、ケビンが連れてきた場所は風呂場だった。お仕置きで風呂場とは……とサラは小首を傾げた。水責めでもするのならば打って付けではあるが、彼女自身が水を生息地とする魔物娘だ。ハッキリ言って効果は全くない。
 そう思いながらも透明な虫籠を通してケビンの動向をボンヤリとした眼差しで見詰めていたサラだが、風呂場に入る為にケビンが衣服を脱ぎ始め、最後に残ったパンツに手を掛けたところで瞠目した。

 遂この間まで可愛らしかった子供ペニスが、今ではインキュバスの影響で一回り以上も巨大化し、大人顔負けの逞しい巨根になっていた。包茎の皮は剥け切り、隠れていた亀頭は健康的な桜色で存在感を高めている。浮き上がった血管の青筋やペニスの力強さを象徴しており、それだけで魔物娘は酔い痴れてしまいそうだ。
 かく言うサラも同様だ。ケビンのペニスを涎を垂らし恍惚の眼差しで食い入るように見詰めていたが、暫くすると何かに気付いたかのようにハッとなって我に返る。

 インキュバス並の精力と巨根を有するケビンに対し、一方の自分は魔法のせいで30センチにも満たない程度の大きさしかない。

 問題です、これほどまでの差があってもセックスは可能でしょうか? 答えは否です。

「……うわぁぁぁぁん!!!! やっぱりケビン君は鬼畜やったんやぁー!!! こんなにも美味しそうなペニスを見せ付けながら御預けくらわせるなんて酷過ぎるわー!!」
「漸くお仕置きの意味が気付いたようだね、サラ姉ちゃん」
「うわっ! 腹が立つ程に良い笑顔をしおってからに!! 元に戻ったら絶対に復讐しちゃるからなー!」

 サラが悔しがれば悔しがるほどケビンの笑顔を形作る表情は活き活きとし、籠を抱えて風呂場へと入っていく。直にペニスに触れたくても虫籠越しでは触れる事も叶わず、出ようにも虫籠の天井部分に描かれた魔法陣のような呪印のせいでビクともしない。

「ケビンくーん……。後生やから此処から出して下さいー……。魔物娘の目の前にチンポぶら下げるて見せ付けるって、どれだけ残酷なのか分かってるんですかー……」
「うわー、お姉ちゃんの口から何時もの口調が完全に失われてる」

 この方法を試す以前は果たして効果はあるのだろうかと不安半分疑問半分であったが、実行すれば予想以上に効果は抜群だった。生殺し気分を味わらされているサラは完全に脱力し切っており、虫籠を叩く気力さえも残っていないようだ。

「まぁ、お姉ちゃんが反省したら出してあげるよ。あっ、その間のご飯はちゃんとあげるから心配しなくても良いよ」
「ご飯よりもチンポが欲しいでござる! ペニスプリーズ!!」
「駄目だ、益々キャラが崩壊してる」

 ケビンが何かを問い掛ければ、サラから返って来る言葉は全て魔物娘らしい欲望ダダ漏れの返事ばかり。これでは会話のキャッチボールどころか、体を張ってぶつけ合うドッジボールみたいなものだ。しかし、ケビンは彼女が反省するまで取り合う気は無いらしく、悉く無視してやった。

 だが、このまま無視をしても彼女が反省しないのは火を見るよりも明らかだ。そこでケビンは少し思考を巡らし、今の彼女の精神に多大なダメージを与える方法を考え付いた。

「お姉ちゃん、ちょっと待っててね」
「ん?」

 そう言い残すと一旦風呂場から退出するケビン。出て行ってから一分と経たない内に戻ってくると、彼の手には箱が握られていた。

「ケビン君、何それ?」
「コンドームだよ。父さんの部屋から拝借してきました」
「おおう、御両親はまだまだ御盛んなんやね……」

 知りたくもなかった相手の親の性事情を知ってしまい何とも言えない複雑な表情を浮かべるサラだが、ケビンは敢えて彼女の表情を見て見ぬ振りをした。
 そして箱の中からコンドームを一枚取り出し、勃起したペニスに薄いゴムを被せる。元々伸縮性が高いコンドームとは言え、インキュバス化に伴い一回り巨大化したペニスの形に添って被せられれば今にもはち切れんばかりにパツパツだ。

 それをどうするのかとサラが注視していると、ケビンは彼女と向き合いながら徐にペニスを扱き始めた。

「!!」
「サラ姉ちゃん、見てごらん。お姉ちゃんのせいで僕のオチンチン、こんなになっちゃったんだよ」

 口調ではサラを責め立てているようにも見えるが、実際の彼はくすくすと笑いながらペニスを扱いている。とどのつまり、別に彼女に対して恨み辛みは持っていないという事だ。それでも今まで彼女から受けた分、意趣返ししてやろうという意思があるのも確かだが。
 ペニスの竿筋に沿う様に真っ直ぐ伸びた一本筋が男根の力強さを強調し、それはゴム越しでも明らかだった。サラだけでなく他の魔物娘にとっても、人間の男根は魅力的な存在だ。特に精力が強化されたケビンのペニスは、正に御馳走と呼んでも過言ではない。

 それを見せ付けられながらも手が出せない。板挟みされた現状にサラは歯痒い思いを抱きながらも、彼のペニスから目を離す事は出来なかった。

「お姉ちゃん、僕がイクところ見ててね……! イクよ……! イクッ!!」

 薄いコンドームの膜がゼリーのように凝り固まった精液を受け止め、一瞬で膨張する。通常の人間ならば数ミリグラム程度の量しか出せない精液だが、コンドームに貯まった少年の精液は明らかに数百グラムはある。いや、もしかしたらキログラムに達しているかもしれない。

 それだけ濃厚且つ多量の精液を射精出来るようになった事にサラは勿論のこと、ケビン本人も驚きの眼差しをコンドームに向けていた。

「凄い……」

 果たしてソレを口にしたのはどちらであっただろうか。何にせよ、射精が終わるとケビンはペニスに嵌めていたコンドームを取り外し、口元を片結びして封をする。そして風呂場の近くに置かれてあったゴミ箱へと放り込んだ。

 もう一度言う、『ゴミ箱へと放り込んだ』のだ。その流れを茫然と見続けていたサラだったが、魔物娘にとって大好物とも言える精液があっさりとゴミ箱へボッシュートされた事実に数秒遅れで気付き、まるでこの世の終わりと言わんばかりの絶叫を上げた。

「あっ、あああああああああ!!!」
「お姉ちゃん、煩い」
「煩いやあらへん!! 何勿体無い事してるねん!! どうせ捨てるんならウチに頂戴な!!」
「駄目だよ。それじゃお仕置きにならないよ」

 ニコリと愛想の良い笑いを見せる一方で、悉くサラの要望を拒否するケビン。鬼畜ではなくドSだったとサラは嘆くが、結局その日は食事こそ与えられたものの性的な接触は皆無で終わった。渋々ではあったが、数日我慢して反省の意を見せれば解放されるのだと自分に言い聞かして耐えたのであった。

 だが、それが三日も続けば流石の彼女も(性的な意味での)飢えに苦しみ出した。食事では満たされない性欲が腹の奥底でぐるぐると蜷局を巻いて蠢き、彼女を苛立たせる。
 いっそ舌を噛んで死んだフリでもすればケビンは驚いて蓋を開けてくれるだろうか。いや、駄目だ。そもそも自分は蛙の魔物だから歯は無かった―――等、自身が属する種族の特徴さえも忘れ掛けてしまう程に彼女は追い詰められていた。

 そしてお仕置きと称する精神攻撃満載の私刑は四日目に突入した。その日もケビンの公開射精を見せ付けられ、サラのメンタル面は疲弊を通り越して今にも発狂しそうだった。ハッキリ言って我慢の限界だった。
 あと一日で終わると頭で理解しながらも、一刻も早く此処から出たいという本能から来る欲求がサラの中で鬩ぎ合っていた。何も無ければ五分五分の引き分けで終わったであろうが、思わぬチャンスが訪れたおかげで一気に後者へと傾いた。

 それが訪れたのは夜中の風呂上りだ。未だに籠の鳥ならぬ籠の蛙となっているサラはケビンの手によって籠ごと椅子の上へと移動され、そして向かい側にケビンが腰を下ろした。
 そして始まる公開射精、幾ら魔物娘にとっては眼福とも言える行為だとしても、手足はおろか触れる事さえ出来なければ地獄と変わりはない。

 やがてコンドームの中に欲望を解き放ち、それらの一連の流れを死んだ目で見詰めるサラ。此処までは今までと同じ流れだ。あとは精液の水風船と化したコンドームをゴミ箱に捨てるだけだ。
 だが、コンドームを捨てる直前で家の玄関扉をノックする音が聞こえ、ケビンの意識は完全にそちらへ向けられた。そして首だけを振り向けて返事を返すと、ゴミ箱へ捨てる予定だったコンドームを机の縁に置き去りにして玄関に向かってしまった。

 無防備に置かれた大好物を目に入れた途端、性的な飢えで濁っていたサラの瞳に欲望の火が灯る。そして最後の力を振り絞らんと立ち上がった彼女は、ケビンが居ぬ間に行動を起こした。

 蛙みたいな跳躍で壁に張り付き、手足の吸盤を器用に動かして天井部分……即ち蓋の裏側に瞬く間に移動する。蓋には内部に閉じ込めた昆虫が酸素不足にならぬよう、換気を目的とした格子のような通気口が作られている。そこに顔を引っ付かせて、自分の居る虫籠とコンドームの距離を大凡の目測で確認する。

 机の縁に置かれたコンドームとサラが閉じ込められた虫籠までは大人の肘から指先ぐらいの距離があり、魔法を掛けられたサラからすれば遠く感じるかもしれない。だが、彼女にはこの距離を埋める秘策があった。

「ん〜〜〜りゃっ!」

 細い通気口から蛙さながらの長い舌を伸ばし、机に置かれたコンドームを掴もうとしたのだ。流石に一度や二度で成功はしなかったものの、確実に舌先が机から垂れ落ちているコンドームの口に掠っている。
 決して届かない距離ではないと確信を抱いた矢先の三度目の挑戦、伸びた舌の先端が片結びされたコンドームの口をガッチリと捉えた。一度捉えてしまえば此方のものだ。獲物を捕食する気で舌に力を籠め、更に両手で舌を掴んでグイッと引っ張り落とす。大量の精液が入ったコンドームの重さは、小さくなったサラからすれば途轍もない重荷であったが、少しずつ引き摺って自分の方へと手繰り寄せていく。

 そして遂にコンドームがテーブルの縁から落下し、彼女の居る虫籠の上へと落ちてくる。流石に細い格子のような通気口から精液入りのコンドームを籠の中へと引き摺り込むのは無理があったが、通気口に手を入れてコンドームの端を掴む事には成功した。
 一度掴んでしまえばこちらのもの。あとは力任せにぐいぐいと引っ張り続ければゴムは伸び切り、遂には―――

パンッ

 ――ゴムの張り裂ける音と共に中に入っていたケビンの濃厚な精液が零れ落ちていく。そして落ちる先ではコンドームを破った張本人であるサラが大の字に寝転んでおり、落ちてきた精液の塊を体全体で受け止める。
 数日間性的接触を絶っていたサラにとって久し振りの精液は、この上ない美酒であり媚薬であった。保湿クリームのように精液を体中に塗りたくれば瞬く間に肌の奥へと浸透し、カラカラに干上がっていた欲求が瑞々しく満たされる。
 ゼリーのように固まった精液を口に含んで飲み込めば魔物娘の力の源である魔力を増大させ、体の奥底から凄まじい力が沸き起こる。精液は人間を生み出す生命の源であり、魔物娘達が持つ魔力の栄養素みたいなものでもある。それは魔物娘達からすれば常識であり基本だ。

 しかし、今のケビンは普通の人間ではなくインキュバスだ。即ち、インキュバスの魔力が凝縮されたに等しい精液を体に取り込めば、魔物であるサラの身に何が起こるかなど言わずもがなだ。

「うっ……! 何や、コレ!? 体が滅茶苦茶……熱い!」

 この世界では魔物の魔力には媚薬に近い力が含まれていると言われている。それ故に魔物は常に肉欲で飢えており、人間を性的な意味で襲う者も少なからず存在する。
 インキュバスとなったケビンの魔力も、魔物娘達のソレと同じだ。そして魔力が凝縮された精液は、媚薬よりも性質の悪い劇薬と言っても過言ではない。そんなものをダイレクトに体内へと入れた事により、三日間と十数時間による精断食によって飢えていた性欲に火が点る。

 そして魔力に含まれた媚薬による副作用か、はたまた三日振りに精液を取り込んだ反動からか、彼女の身を焦がさんばかりに激しく危険な情欲の炎が火柱を上げた。



「ただいま〜。隣のおじさんにトマトを頂いちゃったから、後で一緒に……―――」

 トマトの入った袋を手にしたケビンが上機嫌に部屋へと戻り、椅子に置かれている虫籠に向かって楽しげに話し掛ける。だが、その中に居た筈の幼馴染の姿が見当たらない事に気づくと、一瞬で真顔に戻り言葉を止めた。
 
「……お姉ちゃん?」

 何処へ行ったのかという疑問もあるが、それよりも気になったのは籠の上に落下していたコンドームの袋だ。先程も大量の精液を出して電球の様な丸みを持った形をしていた筈なのだが、今では萎んだ風船のようにぺったんこになっている。
 不思議に思いながらも指先で摘まみ上げてみると、コンドームの一部が破けて中の精液が漏れ出ていた。次いで籠の中を覗き込むと、自分の精液と思しき白濁色の水溜りが出来上がっていた。

 その瞬間、ケビンの中で危険を警告するアラーム音が脳内に鳴り響く。精液が中にあるという事は、魔力の源となる精液を手に入れたという事だ。それもインキュバスの魔力を含んだ精液をだ。
 魔法を掛けて小さくさせてあると言っても、魔法使い初級者とも言える自分の魔法なんてきっかけさえあれば簡単に解けてしまうものだ。そのきっかけを与えない為に籠の中に閉じ込めていたのだが、此処に来てインキュバスの精液と言う、きっかけどころか起爆剤を与えてしまったのだ。

 間違いなく、こちらの魔法は打ち破られていると判断すべきであろう。そう判断した上でケビンは焦らず、自宅からの脱出を試みる。四方を見回しながら、彼女の有無を確認してから一歩ずつ後退っていく。
 今の彼女は久し振りの精液+インキュバスの魔力で性に飢えた野獣となっている筈だ。一度捕まってしまえば、問答無用で襲われるのは目に見えている。過去に襲われた経験がある為に恐怖心は然程抱いていないが、彼女の欲望がままに我が身を貪られるのは勘弁願いたいところだ。

 そして玄関へと続く通路に出る扉を跨ごうとした時、上の方からポタリと何かが肩に落ちた。雨漏れだろうかと肩に目を遣るが、単なる雨漏れにしては妙にテラテラとテカっている。それどころか、その液体は服に吸水されずに肩の丸みに沿って垂れ流れていく。

 ソッと肩に乗っている液体に触れると、ネチョリとした嫌な感触が指に伝わり、慌てて手を離そうとすれば指先と液体の間に粘り気のある細い糸が橋を作っていた。まるでローションみたいだと思ったところでケビンがハッとなる。

 天井からローションが雨漏れする筈がない。それに気づいてゆっくりと顔を上げてみれば、天井に手足を張り付けながら、こちらを見下ろすサラの姿があった。既に魔法が解けたらしく、普通の背格好に戻っている。
 性欲に飢える余り光を失った目、口から溢れ出た涎を舌なめずりしながら口内へと戻す仕草は、宛ら獲物を目の前にした捕食者のようだ。どれを取ってもケビンの知るサラではなく、可愛さを併せ持った凶暴な化物にしか見えない。
 因みにポタリと肩に落ちてきた滴の正体は、彼女の秘部から垂れ流れている愛液であった。おまけに秘部は生物の口のようにくぱくぱと開いたり閉じたりの収縮を繰り返しており、それを見ただけでアソコが何を欲しているのかが嫌でも分かってしまう。

「っ!!」

 恐怖よりも身の危険を察知したケビンは逃げるよりも魔法で対処しようとしたが、それよりも早くサラが動き出した。蛙のような跳躍で部屋を飛び回り、魔法を撃たせまいと彼を翻弄する。
 インキュバス化によって肉体が強化され、更に魔法という新たな力を手に入れたと言っても、それらを効率良く活かす術をケビンは知らなかった。つまりは経験不足だ。
 そして狙いを定めずに動きを止めてしまったケビンに向かってサラが飛び掛かる。強化された筋力のおかげで彼女を全身で受け止めたものの、魔法を詠唱するのに必要な口を彼女の唇によって封じられてしまう。

「んもっ!?」

 五体を使ってケビンの身体にしがみ付いたサラは無我夢中で彼の唇に貪り付く。ローションのような唾液がケビンの体内へと強引に流し込まれ、人間の倍以上も長い舌が口内でのた打ち回る。
 今までにもこのようなキスは経験した事はあるが、今回ばかりはソレが数分以上も長く続き、満足に呼吸も出来ない。十分以上にも渡るキスが終わった頃には、逆上せたように頭がボーっとして働かなくなっていた。また酸素が足りなくなったせいで足腰に力が入らなくなり耐え切れなくなった膝がガクンと曲がるが、寸での所でサラが受け止めてくれた。

 壊れ物を扱う様にケビンを優しく横にした所で、彼女の視線がズボンの股間部に向けられる。子供の顔には似合わぬ異常な膨らみがあり、それを見て目元を嬉しげに細める。そしてズボンをパンツと共に脱がし捨てれば、自分が飲ませた唾液(愛液)による媚薬効果で勃起したケビンの巨根が窮屈なパンツの中から勢いよく顔を出した。
 ソレを蛙のような水掻きの付いた手で握り締めれば、血流が脈打つ感触と共に焼けるような熱さが掌に走る。その熱さは性欲の炎で火照った己の肉体の熱さに通じるものがあり、まるで彼と自分が同じ気持ちだったのだと錯覚させるに十分であった。

「ケビン君のおちんちん、やっぱり私が欲しかったんや〜♥ こんなに立派なイチモツをビクンビクンさせてしもうて〜♥」

 そう言うやサラは勃起したペニスを愛おしそうに数度口付けした後、大きく口を開けて飲み込まんばかりに勃起ペニスを口に含んだ。

「ふぁぁぁぁぁ!!♥♥♥」

 その瞬間、ケビンの口から甘い悲鳴が思わず零れ出る。ケビンは知らないだろうが、インキュバスになった事は肉体や性欲が一層強化されるだけでなく、体の中にある感覚や感情までも魔物寄りになってしまう事を意味する。
 例えば性器が一層敏感になっていたり、甘い言葉を聞くだけで快感を感じたりと、魔物娘と同じ思考や感覚を伴うようになるのだ。それまで真面目が売りだった彼であっても、一度インキュバスになってしまえばセックスが好きで堪らないスケベで淫乱な魔物娘と同類になってしまうという訳だ。

 そして今、インキュバス化に伴いイキ易くなってしまったケビンの肉体は快感と快楽が何倍にも増して感じるようになってしまっていた。そこにサラのフェラチオが来れば、どうなるかは言わずもがなだ。
 
「あっ!! ひっ!! イクゥゥゥゥ!!!♥♥♥♥」

 舌の表面に走る味蕾の一つ一つまでをも感じ取れるようになってしまったペニスにとって、サラの長い舌によるフェラチオは正に凶器であった。
 味蕾の粒々がペニスに擦れるだけで絶頂し、喉奥で激しく扱かれるだけで絶頂し、そして蛇のようにペニス全体に舌を巻き付かせ独特の舌技で絶頂し……兎に角、数分にも渡るフェラチオでケビンはサラの口内に六回も濃厚な精を吐き出してしまった。またサラ自身も六度も自分の口に射精されながらも、その尽くを一滴残らず飲み干してみせた。
 そしてケビンの絶頂が七回目に達しようかという所でサラは一旦ペニスから口を離す。既に六回以上も精液を放出しているというのに、彼のペニスは衰えを見せず、それどころか何度も精を吐き出しては、その度に超回復して元気な剛直っぷりを見せ付ける。

 そんな力強いペニスを暫し愉快げに見詰めた後、徐に立ち上がったサラは横たわるケビンの身体を跨ぎ、彼の股間部辺りに自らの腰を下ろす。騎乗位の構えだ。
 しかし、直ぐには入れずに寸前の所で止まり、ケビンを見下ろしながら甘い口調で語り掛けた。

「なぁ、ケビン君。魔物娘っていう生き物はセックスが無いと生きていけへんのやで。そんな生物にセックスを御預けにした挙句、射精するところを散々見せ付けるなんて……生殺しもええところやで?」

 そう言ってサラはニコリと笑みを浮かべるが、瞳には笑みではなく冷徹な怒りが含まれていた。一方のケビンは長時間に渡るフェラチオと数度に渡る連続射精の快感で頭が麻痺に近い状態に陥り、思考が上手い具合に働かない。ゆらゆらと揺れ動く瞳はサラと真っ白な天井を交互に映し出してはいるものの、彼女の言葉までをも理解しているかは疑わしい。

「ほな、覚悟はええか? 散々焦らしたんやから、ちょっとやそっとじゃ済まへんで? 最低でも、御預け食ろうた三日分は搾り取らせて貰うでぇ」

 そう宣言するやサラは宙に浮かしていた腰を下ろし、ケビンのペニスを己のヴァギナに咥え込んだ。そして瞬く間に最奥へと飲み込んだ。体は蛙の様に柔らかでしなやかなのに、女性器の奥は処女の乙女のような締め付けとキツさがあった。
 一方で膣の中では肉襞が卑猥に蠢き、更にミューカストード特有の愛液と彼女の激しい腰の動きも相俟って最高峰の快感が誕生する。
 サラの意識が宿ったかのように粘質に絡み付く女性器に、インキュバスになって初めてのセックスを経験するケビンが耐えられる筈がなかった。

「ふぁ!! ああああああっ!!!♥♥♥」

 挿入を果たしてから5回程上下に動かしただけで、ケビンのペニスは降参と言わんばかりに真っ白い精液を彼女の子宮に放った。マグマが噴火したかの如く凄まじい勢いで噴き出した精液は、飢えていた彼女の子宮を三日振りに満たした。

「くぅぅぅぅぅ!!♥♥♥ ホンマに効くわぁぁぁ♥♥♥」

 久し振りのペニスの感触と精液の熱にサラは身を震わせながら悶える。だが、それ以上に感動したのは未だに勃起したままのケビンのペニスだ。人間だった頃は一回出してしまえば萎えてしまうのが常だったが、今は萎えるどころか逆に硬さと大きさが増すばかりだ。彼女達の愛液の効果もあるが、此処まで劇的な変化は今回が初めてだ。

 インキュバスの力の偉大さを実感しながら、サラはもう一度腰を上下に振り動かし始めた。今度は数回腰を動かしても射精はしなかったので、徐々に腰の動きを早めるのと共に動きにリズムを乗せ始めた。

 蛙の魔物というだけあって足腰はかなりのものであり、動きが止まったり落ちたりする事がない。喘ぎ声こそ漏れ出ているが、常に一定の速さと動きを維持している。

「あ、あああああ!! お姉ちゃん! お姉ちゃぁん!!」
「イクんか!?♥ イクんやな!?♥ ええで! お姉ちゃんのオメコに一杯出しぃや!♥」

 そしてケビンが射精をする瞬間には腰を一番下に打ち下ろし、男根を根元まで飲み込み精液を最奥で受け止める。二度目の射精も最初と同等かそれ以上の量であり、子宮に収まり切らなかった精液が男女を繋ぐ接合部の僅かな隙間から溢れ落ちていく。

「ああん、ケビン君の赤ちゃんの素が勿体無いやん♥」

 しかし、溢れ出た精液をサラが見逃す筈がなかった。『勿体無い』と言いながら長い舌で舐め取り、それを舌の上で転がしながら味を堪能した末にゴックンと美味しそうに音を立てて飲み込んだ。
 敏感になったペニスでのセックスに慣れ切っていないケビンは、度重なる絶頂と会館で意識が飛び掛けているが、辛うじて現世に踏み止まっている。それを知ってか知らずか、サラはニタリと人の悪い笑みを浮かべて彼の耳に囁く。

「ケビン君、疲れたんかぁ?」
「ふぇ? う、うん……」

 疲れたかという質問に対し、ケビンは素直に頷いた。もしかしたらセックスを一時中断してくれるのだろうかという期待を抱いたが、次のサラの一言でそれは甘い考えだと痛感させられた。

「そうなんかぁ。でも、ケビン君のオチンチンはまだガッチガチやから、まだまだ頑張れるやろ?」
「………え?」

 停止状態に追い込まれている頭脳ではサラの言葉を理解するのに長い時間を掛けて咀嚼する必要があった。そして漸く理解するとケビンの顔が青色に染まり、対するサラは好色に染まる。

 そして彼が何か言おうと口を開き掛けた時、サラは容赦なく腰を動かし始めた。

「ひぅ!? お、お姉ちゃん!! ま、待って!! オチンチンが!! 壊れりゅうううううう!!」
「何弱気な事言うてんのや!! 男の子なんやから我慢し!! そもそも今のケビン君はインキュバスなんやから、ちょっとやそっとや壊れへんって♥」
「そ、そんな事言われても……! あっ! ひゃうっ!」
「ふふ、そんなエロい声出すっちゅー事はやっぱり気持ちがええんやろぉ? よっしゃ! ウチが満足するまでセックスを続けるでぇ! 夜はまだまだこれからや!!」
「そ、そんなぁぁぁぁ!!!」

 ケビンの泣き言を聞き入れる気など、サラには更々なかった。そして彼女が宣言した通り、彼女の欲求が隙間なく満たされるまでセックスは夜通し続けられ、漸く彼女がケビンを自由にした頃には向かいの山から朝日が顔を出していた。



 セックスが終わった後、二人はケビンのベッドで横になっていた。大人の女性と同じ体型を持つサラには少し手狭に感じるかもしれないが、体を折り曲げてケビンを抱き締める事で、どうにか同じベッドに収まる事が出来た。
 一方のケビンもサラとの激しいセックスから解放されてから時間が経った事もあり、漸く落ち着きを取り戻していたが、眉間に皺を寄せた複雑な表情を浮かべていた。

「お姉ちゃん」
「ん〜? どうしたんや、ケビン君? そんな複雑そうな顔して。もしかして、また勃起したん? それなら何時でもお姉ちゃんの肉穴使うてもええで〜♥」
「勃起はしてません!! 昨日の夜から今日の朝までお姉ちゃんに何回出したと思っているの!?」
「口で七回。膣内に三十八回。手扱きで五回に、最後の締めに口で二回。合計五十二回やな」
「何でそこはしっかりと覚えているのかな!?」

 サラの答えに全力で突っ込みを入れるものの、ヘラヘラとのらりくらりとした態度を崩さなかったので、これ以上の追及は無駄だとケビンは悟った。重い溜め息を吐き出すと、背後から抱き締めているサラが珍しくも真面目な口調で改めて問い掛けてきた。

「それで、ケビン君が複雑な表情をしてるのはどうしてなん?」
「……あのさ、お姉ちゃんはどうして僕がインキュバスになる事を内緒にしていたの?」
「え、どうしてって……?」
「インキュバスになった事を告白した時にも言ったけどさ、別に僕はインキュバスになった事を恨んでもいなければ怒ってもいないよ。でも、どうしてサラ姉ちゃんはインキュバスの事を内緒にしていたのか、それを考えると不思議で仕方がないんだ」

 ケビンにとってサラは恋人である前に大切な幼馴染だ。それこそ互いが持つ秘密を打ち明け、交友する程に仲睦まじい関係だ。しかし、今回のインキュバス騒動では何故かサラはインキュバスの話を彼に黙っていた。それがケビンからすれば不可解でしかなかったのだ。

 そこでケビンは口を閉ざし、サラの答えを待った。するとサラは彼の身体をギュッと力強く抱き締めると、微かに震える声で呟いた。

「……怖かったんや」
「怖かった?」
「せや、万が一にケビン君がインキュバスになる事を恐れてウチを拒絶したら……そんな未来を想像すると途轍もなく怖くて、ケビン君の前でインキュバスの話をする事が出来へんかった」
「そんな……僕はお姉ちゃんを拒絶しないよ。もし拒絶するのであれば、最初に出会った時に真っ先に逃げてたよ」

 ケビンの言葉は正論であった。魔物娘に対して恐怖や畏怖を感じるような人間であれば、今頃は彼女達から全力で逃げ出していたであろう。しかし、幼子の時に出会ってから今に至るまで、彼がサラから逃げた事は一度もない。つまり、その事実こそが、二人の関係を確固たるものであると証明しているのだ。
 その指摘にサラは含み笑いを浮かべたが、腕の力は未だに強いままだった。

「ははっ、せやな。ウチにどんな事されても、ケビン君は普通にウチと接してくれたもんなぁ。せやけど、怖いのはそれだけやあらへん」
「え? まだ他に何かあるの?」
「……ケビン君が他の女に取られてまうかもしれへん事や」
「取られる? 誰に?」
「誰かは分からん。けど、ケビン君の人生はまだまだこれからや。つまり、今後の人生で色んな女……人間や魔物娘に出会う可能性はあるって事や。そいつらがケビン君を好きになるかもしれへんし、ならへんかもしれん。後者ならええけど、前者やったらウチは絶対に耐えられへん」

 そう言ってサラは腕に込めた力を一層強めた。彼女のケビンに対する愛情が本物であると言わんばかりだ。それに対しケビンは彼女を安心させるかのように力が籠った腕をポンポンと優しく叩き、前を見据えたまま語り掛けた。

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。僕はお姉ちゃんから離れないし、お姉ちゃん以外の人を好きになったりはしないよ」
「……ホンマに?」
「本当だよ。だって僕が初めて好きになった女性はサラ姉ちゃんなんだもん。だから、インキュバスになっても恨まないって断言出来るんだよ」

 そう言って首だけを後ろへ振り向ければ、唇にむにゅっと柔らかい感触が押し当たる。そしてサラの顔が間近にある事から、自分はキスをされているのだと理解した。激しいディープキスではなく、唇に軽く触れるような優しいリップキスだ。
 それが終わると、サラはケビンの首元に顔を埋めた。顔や耳元が真っ赤に染まっていたが、ケビンは敢えて見て見ぬ振りをして彼女を受け止めた。

「ケビン君、ホンマに好きや。大好き。愛してる」
「うん、僕もだよ。サラお姉ちゃん。お姉ちゃんのこと、ずっと愛してる」

 互いに相手の気持ちを確認するかのように愛の言葉を囁き合いながら、二人は小さいベッドの中で幸せな時を過ごすのであった。
15/09/14 20:14更新 / ババ

■作者メッセージ
前々から気に入っていたミューカストードで短編を書き上げてみたかったので書いてみました。
また魔物娘が男性を前にしながらも手が出せない状態に陥ったらどうなるかなと考えた結果がこれでございます(笑)

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33