読切小説
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夜道は提灯明るくして
「はい、今日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ遠い所ありがとうございました」
 とある村落の一角、一帯の顔役をやっている家の前で、挨拶が交わされていた。家主と、客として招かれた夫婦が、交互に頭を下げながら言葉を紡いでいる。今日は、顔役の孫が無事嫁いで行ったので、その祝いの宴が開かれていたのだ。昼過ぎに始まった宴は日が沈み、いつしか夜中に達してもなお続いていたが、そろそろお暇する時刻だと男は踏んだのだ。
「それでは、あまり長くなっても失礼ですので、ここらでそろそろ…」
 頭を下げては礼を述べ、礼を述べては頭を下げるの繰り返しに、男は終止符を打とうとした。
「あ、お待ちください。もう夜も遅いですし、ただいま灯りを…」
「灯り?ハハハ」
 男は顔役の言葉に、軽く笑った。
「確かに、夜も遅いですが、灯りは結構ですよ」
「しかし御覧なさい、月はおろか、星も見えませんし」
 顔役が漆で塗ったかのように暗い空を示すが、男は笑みを崩さなかった。
「いえいえ、今夜は嫁がおりますので」
 男の返答に、顔役は納得がいったように頷いた。
「これは失礼。奥方のことを失念しておりました」
 男の傍らに立っていた、二回りほど背丈の低い女に向け、顔役は後頭部を掻きながら会釈した。男の連れ合いである女は、丈の短い半纏のようなものを羽織っており、すべすべとした腹が剥き出しになっている。そして、つつましやかにふっくらとした腹の中に、明々と火が揺れていた。
 彼女こそ、提灯おばけと称される妖怪であった。だが、顔役を含めた村の住民は、彼女が魔物であることをうっかり忘れてしまう程になじんでいた。
「それでは、夜道お気をつけて」
「はい、ありがとうございました」
 男と提灯おばけは、最後に一度だけ頭を下げ、夜道を進んでいった。顔役の家から発せられていた灯りの輪から踏み出すと、夜の闇が二人を包み込んだ。曇り空のお陰か、月も星も見えない。提灯おばけの腹の火がなければ、鼻をつままれても分からないほど暗かったであろう。
「だんなさま、手を」
「おう」
 提灯おばけの言葉に、男は右手で彼女の小さな左手を取った。滑らかな掌が、男の指を掴む。すると、提灯おばけの発する光が、少しだけ強くなった。
「うーん、やっぱり暗いな…」
 地面を照らす光の輪に、男はそう呟いた。確かに足元は見えるが、それも数歩先ほどから先は闇に消えている。男と提灯おばけの棲む家は、村の外れの方にある。そのため、少し道を外れれば、たちまち田んぼに転げ落ちてしまうことになる。
「ちょっといいか?」
 男が問いかけると、提灯おばけは小さく頷いた。男は右手から左手へ、提灯おばけの手を握り直すと、彼女の身体を抱きかかえるように導いた。男の胸の前に、細いお下げを一本結った提灯おばけの頭が来る。
 すると男は、ごく当たり前のような仕草で、提灯おばけの半纏に手を差し入れた。
「ん…」
 提灯おばけが小さく声を漏らす。半纏の内側、控えめな彼女の乳房に、男が触れたからだ。薄いながらも、すべすべとした皮膚の下に柔らかさを備えた乳房を、男は軽く撫で、その中心を擦った。桜色の小さな円と、つつましやかな突起が、男の愛撫に小さく震える。すると、二人を中心とする光の円が、一回り大きくなった。
「どうだ?」
「は、はい…だい、じょうぶ…です…!」
 提灯おばけは言葉を絶ち切りながら、男の問いに応じた。男の愛撫によるものだ。提灯おばけの腹の火は情欲の炎であり、提灯おばけ自身が興奮すればするほど強まるため、辺りを照らす光を見れば、どれほど提灯おばけが感じているかが分かるだろう。先ほどまで闇の底に身を隠していた木々や、田んぼの水面がうっすらと光に浮かんでいる。
 しかし、男の目にはまだ心もとなかった。
「うーん、まだ暗い…かなあ…?」
 真昼間に通る時とは様相が違うため、妙な脇道に足を踏み入れて、そのまま村の外へ迷い出てしまうかもしれない。男は、軽く背を丸めると、提灯おばけの耳元に口を寄せた。
「もう少し、明るくしていいか?」
 提灯おばけは、男の腕の中で小さく頷いた。
 彼は左手を提灯おばけの手から離すと、軽く彼女のわき腹を擦りながら、下腹部へと滑らせた。腰元を覆う衣服の内側に手を差し入れると、男の指先を湿り気が迎えた。無毛の恥部から、体液があふれ出ているのだ。男は、提灯おばけの内腿を濡らす液体を指先で掬うと、軽く太腿をなぞってから、両脚の付け根に触れさせた。
 提灯おばけの秘所は男の指先を受け入れ、柔らかな肉で緩く締め付けた。腹の内で揺れさせている火によるものか、男の指先を熱が包み込む。温かい。まるで、沸かしたての風呂に指先だけを入れているかのようだ。
「どうだ?もう少し…弱めるか?」
 男が提灯おばけの耳元でささやく。すると、彼女は一瞬身体を硬直させてから、頭を小さく左右に振った。炎が胎内で燃え盛っている今、彼女が欲しているのは容赦ではない。
 男は妻の返答を確認すると、指先を彼女の奥へと沈めていった。柔らかな肉の壁が、男の指を根元まで受け入れ、締め上げていく。浅い襞が男の指を包み込み、高めの体温を彼に伝えた。
「うん、奥まで濡れているな」
 男は、名残惜しげに縋り付く胎内の襞から指を引き抜くと、提灯おばけを抱くようにしながら着物の前を開いた。そして、いつの間にか屹立していた分身を取り出した。血管の浮かび上がった肉棒は、心臓の鼓動に呼応するかのようにゆっくりと脈打っている。彼は、提灯おばけの腰回りを覆う布を引き下ろすと、自身の分身を彼女のほっそりとした両足の間に差し入れた。
「いいか?」
 両脚の付け根に押し当てられる肉棒の感触を感じながら、提灯おばけは夫の問いかけに頷いた。すると、男は一度腰を引いてから、彼女の胎内へ自身を滑り込ませた。濡れそぼった柔らかな肉を押し開いて、屹立が体奥へと入り込んでいく。ひしめく浅い襞を張りつめさせると、膨れた亀頭が膣底に達した。
「…!」
 提灯おばけが、小さく背筋を反らし、吐息を溢れさせた。膣底に達したとはいえ、手のひらほどの長さの屹立が彼女の胎内で占める割合など、たかが知れている。だが、提灯おばけにとってみれば、まるで自分の腹の内側全てが夫の肉棒に置き換えられたかのような錯覚を覚えていた。
 屹立が脈打てば、自身の心臓も脈打つ。男の吐息が耳元を撫でれば、彼女の口からも呼気が漏れ出る。
 一方男も、分身の先端から根元近くまでを包み込む膣肉の感触に、奥歯を知らずに噛みしめていた。このまま提灯おばけのもたらす快感に身を任せ、達してしまってもよい。だが、これはあくまで提灯おばけの興奮を煽り立てるための行いだ。
 手を繋ぎ、乳房を弄んでいた頃よりはるかに強い光が、提灯おばけの腹部からいつの間にやら発せられていた。だが、提灯おばけは挿入されている肉棒の感触のためか、身を二つに折っており、その光は夜を照らすには足りなかった。
「く…ほら、もうすこ、し…後ろに…!」
 自身の脈動で膣肉と擦れ、危うく達しそうになるのを堪えながら、男は提灯おばけの身体を抱きすくめ、抱え上げた。提灯おばけの身体は非常に軽く、男にとっては羽毛の詰まった袋でも持ち上げるかのように、ひょいと抱え上げることができた。
 男根と女性器でつながった姿勢のまま抱え上げられることで、提灯おばけの腹部が露になる。腹の奥で燃え盛る情欲の炎は、夜道を照らしだし、辺りの田んぼの水面に揺れる影すら浮かび上がらせていた。
「お、これなら…」
 男は呼吸を落ち着けつつ、努めて平静を保ちながら、そう言葉を紡いだ。提灯おばけは軽いし、ここから家までの距離ならば十分我慢できる。
 だが、男の皮算用に対し、提灯おばけの胎内は軽く蠢いて見せた。
「う…」
 ただでさえ狭くきつい膣内が、吸い上げるかのように蠕動する。膣肉の締め付けが動いていく様子に、男は腰の奥から何かが引き抜かれるような感触を味わった。
「お、おぉ…!」
 男はよろめき、軽くたたらを踏みながらも、両腕で抱え上げた妻を庇いながら、道沿いに生えた木の幹に背を預けた。固くひびの入った樹皮が、着物の生地越しに男の背中に軽く食い込む。
 落ち着かねば。男は、ともすれば達しそうになる自身をなだめながら、妻を危険にさらしてしまったことや、ここで一度興奮を断ち切れば再び辺りが闇に沈むことを考えた。
 しかし、提灯おばけの膣内は男の分身を舐め、しゃぶり、扱き、締め付け、その根元に蓄え込まれた絶頂の証を欲していた。
(ま、だ…せめて、家まで…!)
 家にたどり着きさえすれば、思うがままだ。だから、もうしばらくだけ我慢しなければ。男は、路傍の樹木から背中を離すと、一歩、また一歩と足を進めた。
 二本の足で二人分の体重を支えているためか、男の身体は揺れる。すると、当たり前のように男と提灯おばけの結合部も揺れ、膣肉と屹立がこすれ合い、滲む粘液が音を立てた。
 ぎりり、と男の耳元で音がする。注ぎ込まれる快感を堪えるべく、歯をかみしめているからだ。
 しかし、男の意識は背筋を伝わる刺激に捕らわれ、提灯おばけのもたらす桃源郷への旅立ちを求めていた。男の内側で夫としての意識と、ただの男、いや一匹の猛る雄としての衝動がせめぎ合っている。
「だんな、さまぁ…」
 すると不意に、提灯おばけが男を読んだ。
「ごしょ、う…ですから、おなさけ…を…!」
 微かに震え、途切れ途切れになる彼女の言葉には、確かに哀願がこもっていた。男を苛む膣肉の感触は、同時に提灯おばけ自身にも快感のうねりをもたらしていたのだ。
 快感と絶頂を求める男と提灯おばけ。肉欲のぶつかり合いでしかないことに男が思い至った瞬間、彼を繋ぎとめていた鎖が断ち切られた。
 提灯おばけの狭い膣内で肉棒が大きく脈打ち、先端から白濁が迸った。男の腕の中に納まる提灯おばけの身体も、不意に放たれた精液の熱と刺激に、背筋を大きく反り返らせる。
「…!」
 提灯おばけが声にならぬ悲鳴を絶頂の喘ぎと共に発し、体中を震わせた。痙攣は彼女の膣内にまで達しており、結果男の肉棒は射精の勢いを増すことになった。
 腹の奥を打つ粘液に、屹立に絡み付く襞肉。二つが互いにもたらしあう刺激は、たっぷりと続いた。そして、男の屹立がただ震えるばかりとなったところで、二人の興奮は自然と収まって行った。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 荒い呼吸を重ねながら、男は強く抱きしめていた提灯おばけの身体から、腕を緩めた。幸い痛みなどはほとんどなかったらしく、提灯おばけは男の胸板に背中を預けていた。
「はぁ、はぁ…あ…」
 男は不意に気が付いた。提灯おばけの腹の光が、いつの間にやら弱まっているのだ。
 考えてみれば無理もない。提灯おばけを煽り立て、興奮させることで情欲の炎を強めるのが目的だったのだ。夫婦ともども達してしまえば、情欲が弱まるのは必然の事だった。
 幸い、まだ男の分身は提灯おばけの胎内に納まっている。このまま愛撫をしてやれば、多少光が強まるかもしれない。
 だが、男の手が動くよりも先に、辺りを照らす光の輪が広まった。
「旦那様あ…」
 提灯おばけが、震える声を紡ぐ。
「もう少し、このままで…」
 男は、一度の絶頂を迎え少しだけ柔らかくなった肉棒が、再び固くなるのを感じていた。
 帰宅が多少遅くなってもいいではないか。
 そんな考えが、彼の内側に芽生えていた。
14/07/06 01:33更新 / 十二屋月蝕

■作者メッセージ
2014年7月5日10時30分ごろに、佐藤敏夫さんからツィッター上でリクエストいただきました。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

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