二人の騎士
爆音、そして土煙。
その中で、未だアタシは二本の足で地に立っている。
必殺の一撃――レンディスの烈焦拳を避けた覚えはない。
火力に圧倒されたアタシはあのとき、ただその場に立ち尽くしていた。
「あっ、あっ……あぁぁぁっ……」
全身の筋肉が緩み、股からじょろじょろとなにかが漏れる。
香ばしいようなにおいがして、やっと自分が漏らしてしまったことに気づく。
屈辱的だった。けれど、止められなかった。剣を持たないアタシは、支えになるものを何も持っていない。祖母から受け継いだ剣術も、戦闘術もすでにルメリやレンディスに打ち破られた直後だったからだ。
何が起きたか見当もつかない。でも、アタシは助かった。
やっと、やっと終わったのか、と安堵した。あの瞬間は今まで経験した何よりも怖かった。恐ろしかった。レンディスの本気の一撃が目の前に迫るとき、私は今までのすべてを回顧した。剣の重さを初めて感じた幼少期のアタシ。そしてこの学院に入るために重ねてきた努力。その全てが壊れるような完全敗北。
自分の弱さを認めてしまうような結果が、怖かった。
だからアタシは少女のようにその場にへたり込んで、泣いた。
アタシは村で一番強かったはずだ。村民全てが戦士として生きるサラマンダーの村で一番だったはずだ。それなのに、レンディスやルメリには私の一撃が全く効かず、撃破される手前まで追い詰められてしまった。
ルメリにはアタシの最速の一太刀を止められ、剣まで折られた。
レンディスには、鼻血が出るまで殴られた。
「うっ……あっ……ううぅ……」
認めたくなかった。けれど、どれだけ泣いても心の痛みも、殴られた痛みも
消えてくれない。
涙と鼻水がぼたぼたと胸まで垂れる。
股は漏らしたおしっこでぐちゃぐちゃになって、不快だ。
そしてアタシは泣くことで自分の弱さから目を逸らそうとしている。
まるで赤ちゃんみたいだな、と自嘲する。
――そのときだった。
「……なにをなさっているのでしょうか。敵はまだ健在ですよ」
突然、後ろから声がかかる。
上品な、舞踏会やお茶会で貴婦人が発するように穏やかな声。
……ルメリの声だ。
「なにを……しに、きたっ!」
嗚咽交じりの声で威嚇する。負け犬の遠吠え、といった表現が的確だろうか。ルメリはアタシの声にひるまず答えた。
「あまり大きな声を出さないように」
そういった瞬間、土煙の中から緑色の鱗を纏った腕が伸びる。
「うあっ!」
私を倒そうと、土煙の中からレンディスが既に仕掛けてきていた。
だが、ルメリが間に入り、大剣の峰で防御する。
「くっ……」
一瞬、火花が散り、同時にレンディスの龍鱗が飛ぶ。
すでに土煙は晴れ始めていた。だから仕掛けてきていたのだろう。
『詠唱 エルウインド』
ルメリがつぶやくように呪文を唱えると同時に、強い風が巻き起こり、風に巻かれて小さな砂と土煙が飛んでいく。
しかし、土煙の満ちていた場所に、レンディスの姿はない。
「上ね」
その光景に驚く間もなく、ルメリが小さくつぶやくと、頭上で大きな衝突音が響いた。
「ひっ……!」
突然の音に、アタシは小さく悲鳴を上げてしまった。
けれど、ルメリは涼しい顔をしたまま、相対するレンディスをまっすぐ見つめている。
胆力の違いか、踏んできた場数の違いか、何事にも動じないルメリに、敵ながら、私は見とれていた。
そして、もしや、とも思う。
私がレンディスの渾身の一撃を受けずに済んだのは、ルメリのおかげなのではないか。
土煙が晴れ、あたりには水の魔力が充満しているのを感じる。その中には何故かメリーアのもののみならず、ルメリの魔力をも感じる。
さっき、レンディスの攻撃を防ぐとき、ルメリは魔導防御壁を発動していない。ならば、おのずと結論は出る。
「なんで……アタシを……」
アタシは小さく、ルメリに尋ねた。
しかし、ルメリは理由を答えず、ただ私に笑って言った。
「騎士の心は、レクシア。貴女と共にあります」
その中で、未だアタシは二本の足で地に立っている。
必殺の一撃――レンディスの烈焦拳を避けた覚えはない。
火力に圧倒されたアタシはあのとき、ただその場に立ち尽くしていた。
「あっ、あっ……あぁぁぁっ……」
全身の筋肉が緩み、股からじょろじょろとなにかが漏れる。
香ばしいようなにおいがして、やっと自分が漏らしてしまったことに気づく。
屈辱的だった。けれど、止められなかった。剣を持たないアタシは、支えになるものを何も持っていない。祖母から受け継いだ剣術も、戦闘術もすでにルメリやレンディスに打ち破られた直後だったからだ。
何が起きたか見当もつかない。でも、アタシは助かった。
やっと、やっと終わったのか、と安堵した。あの瞬間は今まで経験した何よりも怖かった。恐ろしかった。レンディスの本気の一撃が目の前に迫るとき、私は今までのすべてを回顧した。剣の重さを初めて感じた幼少期のアタシ。そしてこの学院に入るために重ねてきた努力。その全てが壊れるような完全敗北。
自分の弱さを認めてしまうような結果が、怖かった。
だからアタシは少女のようにその場にへたり込んで、泣いた。
アタシは村で一番強かったはずだ。村民全てが戦士として生きるサラマンダーの村で一番だったはずだ。それなのに、レンディスやルメリには私の一撃が全く効かず、撃破される手前まで追い詰められてしまった。
ルメリにはアタシの最速の一太刀を止められ、剣まで折られた。
レンディスには、鼻血が出るまで殴られた。
「うっ……あっ……ううぅ……」
認めたくなかった。けれど、どれだけ泣いても心の痛みも、殴られた痛みも
消えてくれない。
涙と鼻水がぼたぼたと胸まで垂れる。
股は漏らしたおしっこでぐちゃぐちゃになって、不快だ。
そしてアタシは泣くことで自分の弱さから目を逸らそうとしている。
まるで赤ちゃんみたいだな、と自嘲する。
――そのときだった。
「……なにをなさっているのでしょうか。敵はまだ健在ですよ」
突然、後ろから声がかかる。
上品な、舞踏会やお茶会で貴婦人が発するように穏やかな声。
……ルメリの声だ。
「なにを……しに、きたっ!」
嗚咽交じりの声で威嚇する。負け犬の遠吠え、といった表現が的確だろうか。ルメリはアタシの声にひるまず答えた。
「あまり大きな声を出さないように」
そういった瞬間、土煙の中から緑色の鱗を纏った腕が伸びる。
「うあっ!」
私を倒そうと、土煙の中からレンディスが既に仕掛けてきていた。
だが、ルメリが間に入り、大剣の峰で防御する。
「くっ……」
一瞬、火花が散り、同時にレンディスの龍鱗が飛ぶ。
すでに土煙は晴れ始めていた。だから仕掛けてきていたのだろう。
『詠唱 エルウインド』
ルメリがつぶやくように呪文を唱えると同時に、強い風が巻き起こり、風に巻かれて小さな砂と土煙が飛んでいく。
しかし、土煙の満ちていた場所に、レンディスの姿はない。
「上ね」
その光景に驚く間もなく、ルメリが小さくつぶやくと、頭上で大きな衝突音が響いた。
「ひっ……!」
突然の音に、アタシは小さく悲鳴を上げてしまった。
けれど、ルメリは涼しい顔をしたまま、相対するレンディスをまっすぐ見つめている。
胆力の違いか、踏んできた場数の違いか、何事にも動じないルメリに、敵ながら、私は見とれていた。
そして、もしや、とも思う。
私がレンディスの渾身の一撃を受けずに済んだのは、ルメリのおかげなのではないか。
土煙が晴れ、あたりには水の魔力が充満しているのを感じる。その中には何故かメリーアのもののみならず、ルメリの魔力をも感じる。
さっき、レンディスの攻撃を防ぐとき、ルメリは魔導防御壁を発動していない。ならば、おのずと結論は出る。
「なんで……アタシを……」
アタシは小さく、ルメリに尋ねた。
しかし、ルメリは理由を答えず、ただ私に笑って言った。
「騎士の心は、レクシア。貴女と共にあります」
19/02/04 05:37更新 / (処女廚)
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