読切小説
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大甘百足
古びた三階建てのアパート。
一階は大家さんが営んでいるお米屋さんと、居酒屋。
その前を通り過ぎ、横から裏手に回ると各部屋の郵便受けと上へ登る階段がある。
ごくごく一般的な階段を登り、二階に二部屋しかない内の右側にある鉄の扉。
左手に持つ鞄のサイドポケットから鍵を取り出し、ドアノブに空いている鍵穴へと差し込み、右側へ180度回転する。

「カシャン」

と金属の動く音がして、扉の鍵が開いた。
鍵を抜いた右手で扉を開き、玄関に入ってすぐの棚にそのまま鍵を置く。
こうしておけば次に外出する時に鍵を探す必要はない。

『ただいまー』

目の前に広がる暗闇に向かって声を出した。
無論、闇から声が返ってくるわけもなくシーンとした静寂がそこにはあった。



『おかえりなさい』

つい二日前まで。

2kの間取りである我が家の台所とその先の部屋を隔てているガラス戸が横にスライドし、奥から一人の女性が出迎えてくれる。
『ただいま帰りました』
その女性に改めて声を掛ける。
『はい、おかえりなさい。今日も寒かったでしょ?今、夕飯の支度するから着替えて手洗いうがいをして待っててね』
目の前の女性は律儀にもう一度「おかえりなさい」を言うと、ガスコンロの火を点けて鍋の中身を温め始める。
僕はその横を通り、ガラス戸の奥の部屋へ足を進める。
そこは押入れにクローゼットがある部屋で、その他にも自分で持ち込んだ本棚やカラーボックスが並んでいる。

仕事に着ていく上下のスーツと防寒用のコート、後はマフラーに鞄。
それらを仕舞い、ネクタイを外す。
下は楽な部屋着に着替え、上はワイシャツのまま。
その足でまた台所に戻り、古びた年代物の湯沸かし器のスイッチを入れてお湯を出し、手を洗った後にうがいをする。

『ご飯よそうの手伝いますよ』
掛けてあるハンドタオルで手を拭きながら、料理を温めている女性へ僕は声を掛けた。
『それじゃあ、お願いしようかな』
その人はそう言うと、鍋の中身を混ぜていたお玉を置くと、茶碗とシャモジを僕に手渡す。
それを僕は受け取ると、炊飯器の前に行って蓋を開ける。

途端に湯気が立ち上り、炊き立てのお米の匂いが鼻腔をくすぐる。
『田舎の叔母さんが今年の新米を送ってくれたの。今年のは特に美味しいから、二人で食べてねって』
うちの田舎にある母方の実家は農家をしていて、毎年この季節になるとその年の新米が送られてくる。
僕も実家にいた時は春夏秋と農業の手伝いをしていた。休みの日限定ではあったが。

『じゃあ、今夜おじいちゃんに電話してお礼言っときます』
祖父は孫である僕のことをとても可愛がってくれて、こうして何か頂き物があった時は出来る限り連絡を入れるようにしている。
『うん、そうだね。私も何年もおじいちゃんに会ってないし、少しお話したいな』
そんな他愛もない会話をしている内に夕飯の準備は終わり、先ほど着替えた部屋から更にもう一つ奥へ進んだ部屋に二人で移動する。
そこには何年も使っていない大型の液晶テレビとパソコン、それに漫画の入った本棚にゲーム、あとはちゃぶ台と畳まれた布団という、正に一人暮らしの男の家という様相だった。


目の前で行儀良く正座をして手を合わせ、「いただきます」を言っている女性を除いて。

『いただきます』
僕も目の前の女性に習い、手を合わせて「いただきます」をする。
目の前の女性は右手で箸、左手にお茶碗を持つと、夕食を口に運び始めた。
部屋に置いてある液晶テレビの電源は入っていない。
もう5年近く一人暮らしをしていた影響で、テレビを見る習慣は完全になくなった。
仕事帰りにいつものお弁当屋さんでいつものお弁当を買い、それを一人で食べる生活。
しかし、今は違う。
自分以外の同居人、しかも女性。

『茜さん、今日のお仕事はどうでしたか?』
出された食事を口に運びながら、僕は目の前の女性に声を掛ける。
『今日は編集さんとクライアントさんを含めて進行確認の打ち合わせがあっただけで、あとはずっと家で仕事してたから』

目の前の女性、茜さんの仕事は絵本作家。
しかも、子ども向けと言うよりは大人向けの絵本作家だった。
大人向けと言っても別に如何わしいという訳ではなく、疲れた大人が心の潤いを求めて買い求めるような内容らしい。
・・・正直、僕には良く分からない。
なぜ、本を読んで心が潤うのか。
しかし、それを目の前の茜さんに言うのはどう考えても失礼。
何たって、茜さんはそれを仕事としているのだから。

『あきら君は?』
次は自分が聞く番とばかりに、茜さんは僕に質問する。
『僕の方も、午前中はHPの更新作業。午後は広告代理店と新しいカタログの打ち合わせでした』
その言葉に茜さんは「お互い大変だね」なんて言っている。
僕の仕事は自社のWEB・広報担当の部署。
だから、毎日のように自社HPに新しい情報やお店の記事を更新している。
あとは季節ごとにある大きなイベントに向けて集客用のチラシを作ったり、商品のカタログを作ったり。
茜さんの言う「お互い」と言うのは、僕と茜さんの仕事内容が「制作」という点で共通しているからだった。

『茜さんほどじゃないですよ。僕は自社内の事ですし、そもそも部署のメンバーが他にもいるわけですから』
でも、茜さんは一人。
しかも、パソコンの発達した最近では珍しい手書きを売りとした作家だった。
僕が仕事で使っているイラストソフトや編集ソフトとは違い、手書きは失敗が許されない。
レイヤーを分けたり、一つ前に戻ったり何てことは出来ないのだ。
『でも私のは半分以上、趣味だからね。それでご飯食べていけるんだから、感謝感謝』
茜さんはそう言うと無邪気に笑い、天井を見ながら手を合わせていた。
・・・一体、どこの誰に感謝しているのだろう。
今日のクライアントかな?なんて思いながら、僕もついつい笑ってしまう。

そんな事を話しながら箸を進めていると、手元にあった茶碗はいつの間にか空になっていた。
『あきら君、お代わりいる?』
そんな僕に気付いた茜さんが手を差し出してくる。
お代わりいるなら私がよそってくるよという事だろう。
しかし、一日中パソコンの前に座りHTMLと編集ソフト、カタログ原稿と睨めっこしているだけの僕はお代わりするほどお腹は減っていない。
「大丈夫です」と答えた僕に、茜さんは「あきら君は細いんだから、もっと食べないとまた体壊しちゃうよ?」と心配そうに言った。


そう。
数日前まで一人暮らしをしていた僕の家に何故女性がいるのか。
それは体調を崩した僕を心配した母親が、同じく都内に住んでいるイトコの茜さんに様子を見てくれないかと電話を入れたのが切っ掛けだった。
「私の仕事は家で絵を描くだけですし、しばらくの間、あきら君の家に泊まって生活改善しますよ」と言い出して、その日の夜には僕の携帯に連絡が入ったのだった。

『私、明日からあきら君のおうちにお世話になります!』
それが茜さんから貰った電話の第一声。
勿論、いきなりの話で僕は理解不能。
『え、ちょ、茜さん!?一体どういう・・・』
困惑する僕を他所に、茜さんは楽しそうな声で続けた。
『叔母さんから体壊したって連絡貰って、だから私があきら君の生活改善します!』
その言葉で「ああ、なるほど」と全てを理解し、お節介な母親に溜息を吐く。
『いや、悪いですよ。茜さんだって仕事あるわけですし・・・』
『大丈夫!私は絵を描く道具さえあれば仕事出来るから』
茜さんは手書きの絵本作家。
その事を失念していた僕の初手を、茜さんは軽く突破する。

『そ、それにいくらイトコとは言え、成人した異性が一つ屋根の下で暮らすなんて、茜さんのお母さんが許してくれないんじゃ・・・』
『それも大丈夫!うちのお母さんも是非行ってあげなさいって大賛成だから』
続く第二手も、まさかの伏兵に破られた。
そう言えば、伯母さん・・・僕の母親の姉に当たる茜さんのお母さんは、同世代で唯一の男である僕を矢鱈と可愛がってくれた。
それはもう、茜さんの婿に迎え、自分の息子にしたいと親戚に宣言するくらい。

『で、でも・・・』
『あきら君?』
『は、はい』
尚も食い下がる僕に茜さんの声色が変わる。
・・・茜さん、少しだけ怒ってますか?

『お姉ちゃんの言うこと聞けないの?』

この「お姉ちゃんの言うこと聞けないの?」と言うのは、僕にとっての殺し文句だった。
小さい頃の僕は兄弟がいない代わりに、茜さんを本当の姉のように慕っていた。
茜さんは小さい時から優しくて、絵も上手だった。
だから、好きな動物や好きなキャラクターをリクエストして描いてもらったものだ。
「あかねお姉ちゃんと結婚する!」
それが、僕の口癖だった。

『・・・・・・・・分かりました』
長い沈黙の後、決して逆らえないことを理解した僕は諦めてそう答える。
『はい!それじゃ、明日の夜からお邪魔させてもらうから、あきら君の仕事が終わったら待ち合わせしようか』
僕の返事に機嫌を良くした茜さんは早速、明日から来ると言う。
『あ、明日!?いや、でも部屋の掃除もしてないし』
いきなりそんな事を言われてもこちらにも準備がある。
摂り合えず、部屋の掃除は必須だ。
男の一人暮らしでは必要最低限の掃除・洗濯しかしておらず、ぱっと見ただけでは片付いて見えるかもしれないが、よく見れば粗が見付かる。
『それも含めて、「生活改善」だよ?』
しかし、茜さんが僕の悪足掻きをバッサリと切り捨てる。

そんな感じで会話は終了。
その後、急いで溜まったゴミを捨て、風呂・トイレ・台所の水周りを掃除したのは言うまでもない。
夜も遅いこの時間では掃除機も掛けられないため、コロコロする粘着シートで埃や髪の毛を排除した。
『ふぅ、取り合えずこれなら来て早々に怒られることはないな』

睡眠時間を削ってまで決行した掃除のお陰で、部屋は文字通り綺麗になった。
さすがに女性が寝泊りする以上、汚れた水周りや埃の落ちた部屋で生活させるわけにはいかない。
そして翌日には茜さんと最寄の駅で待ち合わせをし、半ば一方的な同居生活が始まったのだった。



『それじゃ、あきら君は先にお風呂入っちゃって。私はその間に洗い物済ませちゃうから』
夕飯も終わり、少しお腹を休めていると茜さんは食器を重ねながらそう言った。
茜さんは熱いお風呂が苦手らしく、いつも僕の後にお風呂に入る。
「私が先に入るとぬるま湯になっちゃうから」だそう。
『夕飯の準備もしてもらってるのに、いつもすみません』
本来であれば、夕飯を用意してもらった代わりに僕が洗い物をするのが望ましいのだろうが、そうすると茜さんがお風呂に入るのは更に遅くなってしまう。

「夜更かしは美容の敵だから!」
茜さんはそう言うと、腕まくりをして台所へ移動する。
しかし、茜さんは僕より5歳も年上なのに会社にいる僕の後輩社員よりも肌が綺麗だと思う。
髪も茶や金に染めたこともないから綺麗な黒髪をしていて、ピアスも付けていなかったから耳に変なシコリも見当たらない。
何てったって茜さんは・・・

『あきら君!お風呂のお湯、溜まったみたいだよー』
僕が考え事をしていると台所から茜さんの呼ぶ声が聞こえた。
その声に「分かりました」と返事をすると、お風呂上りに着替える下着とバスタオルを持って「台所」へ向かう。

そう、古びたアパートである我が家は風呂場が台所と繋がっているのだ。
『では、茜さん。僕がお風呂に入るまであっちの部屋で待機しててください』
洗い物が終わったであろう茜さんに僕はそう「お願い」する。
『別に気にすることないよ?私達「イトコ」なんだし、それに一緒にお風呂入ったことなんて何度もあるんだから』
茜さんは「またまた〜」という顔をしながらそう言う。
毎度の事ながら、茜さんはそう簡単にこのお願いを聞いてくれない。
『いえ、こればっかりはいくら茜さんと言えども駄目です』
だが、僕がこれだけは譲らない事を理解している茜さんは程ほどにからかった後、隣の部屋へ移る。

『言っておきますが、お風呂のガラス戸越しに覗くのも駄目ですからね』
その言葉に茜さんは「そこまで制限しなくてもいいのに」と拗ねた態度を取り、頬を膨らませた顔で台所から退散する。
いつもはしっかりした大人の女性なのに、ふと見せる幼い子どものような態度。
それでもここ一番には口にする、あの殺し文句。全く、大人なんだか子どもなんだか。


シャワーを浴びて汗を流す。
髪を洗い、顔を洗い、そして最後に体を洗う。
そうしたらお湯の張った湯船に体を浸け、一日の疲れを解きほぐす。
茜さんが来るまではシャワーだけで済ませていたが、「ちゃんと湯船で体を休ませないと疲れは取れません!」とお叱りを受け、以来こうするのが習慣になった。
『でも、やっぱり湯船って気持ち良い・・・』
体が重力から開放され、湯船の中でふわふわと漂う感覚。
体から力が抜け、体中の筋肉が脱力し、溜まった疲れが消えていく。

『ちゃんと10数えてから上がらないとダメだよー?』
湯船に浸かって夢心地だった僕の耳に茜さんの声が聞こえる。
その声に「分かってます」と返事を返した僕は肩までお湯に浸かる。
『全く、二十歳過ぎた男に言う台詞じゃないよ』
子ども扱いする茜さんに聞こえないように愚痴を零した僕だったが、ちゃんと約束を守って10数えたのは言うまでもない。


『茜さん、お風呂上りましたー』
バスタオルで髪の毛を拭きながら、隣の隣の部屋にいるであろう茜さんを呼ぶ。
するとバタバタと急いで走って来る足音が聞こえ、直後にガラス戸がスライドする。
茜さんは無言で僕に顔を近づけると、首元の匂いを嗅ぐ。

『茜さん・・・』
『ふぁい』
『何やってるんですか?』
『に、匂いを、嗅いでおります・・・』
『・・・なぜですか?』
『あきら君から、いい匂いが、するからです』
『恥ずかしいから止めてください』
『あ、あと少し・・・』
これもいつもの光景だ。
僕がお風呂から上がると、決まって茜さんは匂いを嗅いでくる。

だが、そのままでは髪を拭くことも出来ないので渋る茜さんの顔を押し返す。
茜さんはまたも頬を膨らませてお風呂に入る準備を始めた。
そんな茜さんと入れ違いに僕は台所から出て行き、隣の部屋で髪を乾かす。
ドライヤーの温風で髪はあっという間に乾いた。
その後、先ほど夕飯を食べた部屋に移動してちゃぶ台を移動して畳んでいた布団を広げる。
しかし、そのサイズは大人が軽く三人は横になれる特大サイズ。

なぜなら・・・
『良いお湯でした〜』
茜さんがお風呂から上がってきた。
ギチギチと音を立てながら戸を開けた茜さんの下半身は、



巨大な百足の形をしていた。


『一日中、人の姿をしてるのはやっぱり疲れる〜』
茜さんはそう言うと長い百足の体を捻り、軽くストレッチをしている。
そう、茜さんは人間ではなく、魔物娘。
日本に古くからいる種族の一つで、名前は「大百足」。
勿論、茜さんのお母さんも同じ大百足だが、僕の母親は普通の人間である。
では、何故茜さんと伯母さんが魔物娘かと言うと話は簡単。
伯母さんの友達に魔物娘がおり、その人に魔物娘にしてもらったんだとか。
その結果、生まれた娘である茜さんも同じ魔物娘というわけだ。

この姿の茜さんは下に服を着ることが出来ないため、上だけにパジャマを着ている。
しかし、下着を着けていないから大きな胸がパジャマを持ち上げ、胸の形をこれでもかというほど主張していた。
そんな格好でストレッチなんてされると、正直目のやり場に困る。
その後、茜さんは携帯を取り出し田舎のおじいちゃんへ電話を入れる。
久しぶりだの元気にしていたかだの話をしていたが、よくは憶えていない。
僕も電話を代わりおじいちゃんと話をした。

『新米ありがとう。早速、今日の夕飯にいただいたよ』
僕がそう言うと、おじいちゃんは嬉しそうに「そうかそうか」と笑っていた。
年末には田舎に帰省するのかと聞かれ、短い休みではあるが二三日はそうしようと思うと答えた。
10分ほど話をした後、もう夜も遅いからと通話は終了した。



『それじゃ、寝ようか!』
そして、ついに訪れたこの瞬間。
『は、はい・・・』
見て分かるようにこの部屋に敷いてある布団は特大サイズの物が一つだけ。
と言うのも、寝る時は人の姿から魔物娘の姿に戻る茜さんが布団からはみ出さないようにするには、このサイズの布団が必要になる。
結果として、僕が普段使っている布団を敷くスペースは残らず一つの布団で寝るしかないのだ。
同居初日に、「僕は隣の部屋で寝ますね」と言ったのだが、「隣の部屋は夜になると冷え込むからダメ!」と茜さんに言われ、同じ布団で寝ることになったのだった。
それ以来、夜寝る時は茜さんと同じ布団で一夜を明かすことが習慣と化した。


『こうしてると小さい時のことを思い出して、私はうれしいんだ〜』
布団に入り、電気を消して目を瞑っていると、茜さんが小さな声でそう言ったのが聞こえた。
確かに、小さい頃は良くお互いの家に泊まりっこしていたし、寝る時は一緒の布団に潜り込んで寝ていた。
『でも、僕も茜さんも立派な大人なわけですし・・』
そう、そうなのだ。
親や兄弟であれば全く意識しなかったであろうが、茜さんはイトコのお姉さん。
しかも、小さい時から憧れていた女性と同衾するとあれば僕は心中穏やかではいられなかった。
「明日は仕事も休みだし、早く起きて洗濯でもしよう!そうしよう!」と無理やり頭を切り替えて目を瞑った。


『あきら君・・・起きてる?』
無理やりにでも寝ようとした僕だったが、茜さんの弱弱しい声が耳に届き、体がピクリと反応する。
『・・・・・・・起きてます』
返事をするかしないか迷ったが、してもしなくても結果は変わらない事を思い出し、返事をする。
『寒いから、少しだけくっついてもいいかな・・・?』


僕の住んでいるアパートは築何十年と経っているから、造り自体がかなり古く、夜になると部屋全体がかなり冷える。
僕が体調を崩した一因もそれだ。
かと言って、暖房をつけたまま寝ると空気が乾燥して喉を痛めてしまう。
だから厚手のパジャマに布団を重ねて寒さを凌ぐしかないのだ。
でも、茜さんは大百足だから下にパジャマを着ることが出来ない。
つまり、布団だけでは寒さを凌げないのだ。

『・・・・・・・少しだけ、くっつくだけですよ?』
僕の言葉に「うん」と答えた茜さんがモゾモゾと布団の中を移動して僕の背中側から体をくっつけてくる。
『あきら君、温かいねぇ〜』
茜さんは気持ち良さそうにそう言う。
僕は比較的基礎体温が高い方で、いつも36.8くらいある。
逆に大百足である茜さんは35.5と少し低め。
『子どもの時は私がぐるぐる巻きにして温めてあげてたのに、今じゃ逆転しちゃった』
茜さんが言うように、小さい時は年下の僕を茜さんが百足の体でぐるぐる巻きにして温めてくれていた。
文字通り、「肉布団」のように。

そうこうしていると茜さんは僕のうなじに顔を近づけ、お風呂上りの時のように匂いを嗅ぎ始める。
『んっ...いい匂い...』
恥ずかしい。すごく恥ずかしい!
『あ、茜さん、くっつくだけって・・・』
言い終わる前に背中に感じる圧迫感。
『寒いよぉ・・・』
茜さんは右手で僕のパジャマを掴むと、ぎゅっと体を引き寄せる。
そうされたことで背中には茜さんの大きな胸が押し付けられ、柔らかな二つの肉の塊がふにょふにょとつぶれている。
『む、胸が・・・』
その事を指摘しようとした僕だったが、続く茜さんの言葉にそれは阻止される。

『寒がりな私を温めてもらってるわけだし、せめてものお礼に・・・ね?』
そう言う茜さんはより胸を押し付け、その柔らかさと大きさを僕の背中越しに伝えてくる。
いい加減に僕の体がマズイ状況になりそうだと思い離れようとしたその時、腰の辺りに何かモゾモゾと動く感触がある。
『・・・・・・・?』
何だろうと思った次の瞬間には理解する。

『ぅんっ!はっ...あっ...!』
明らかに性的な色を含んだ艶かしい声に紛れて、くちゅくちゅと液体をかき混ぜるような音が暗闇に響く。
あ、茜さん・・・まさか、一人でシてる・・・?
さっきまでうなじの匂いを嗅いでいた茜さんは、今ではちゅっと軽いキスをしたり、舌でぺろりと舐めたりどんどんエスカレートしていた。
『あ、あきら君?ふぁっ!..どっ、どうっ..ひっ!..したの?』
荒い息づかいに熱い吐息、それに混ざる「にちゃにちゃくちゅくちゅ」という水音。
茜さんは急に黙りこんだ僕を不審に思ったのか、それとも分かっていてわざとなのか、そう聞いてくる。
小さい時の憧れの女性が、自分と同じ布団にいる上、体を密着させている状態で自慰に耽っている。
そうこうしている内に、音や声、手の動きだけではなく、僕が着ているパジャマの腰の辺りに濡れた感触が伝わり始めた。

「茜さん、すごい濡れてる・・・」
そう思った瞬間、僕のモノはむくむくと反応し、あっという間に大きくなってしまった。
これはいよいよマズイと思った僕の耳に信じられない言葉が飛び込む。

『あっ!...はっ!いっ...ィくっ!』
その言葉を合図に茜さんの体がビクビクと痙攣を起こし、僕の背を掴む右手には力が篭る。
更に、自らの股間を僕の腰にこれでもかというくらい押し付け、うなじに吸い付く。
『はぁ・・はぁ・・』
そんな茜さんの息づかいを聞きながら、「茜さん、僕のすぐ後ろでイったんだ・・・」と実感した。


だが、そんな実感もすぐに吹き飛ぶ感触。
僕の腰に押し付けられていた左手が前に回り、大きく膨らんだ股間のモノを撫で上げる。
『あ、茜さん!駄目ですよ・・・!』
そう言って自分の手で茜さんの左手を掴んだ瞬間、息を呑む。
茜さんの左手はびっしょりと滑る粘液で濡れていた。
その感触に咄嗟に手を引く瞬間を見逃さず、茜さんの手が下着の中に進入してくる。
『くっ!ぅあっ!』
ぬるぬるした液体と茜さんの指の感触につい声が出てしまう。
しかも、それはただの愛液ではなく、大百足の淫毒だ。
それを塗りこまれた僕のモノは更に痛く張り詰める。
『あきら君の、苦しそうだね。ここに溜まった疲れも出さなきゃ』

茜さんは優しい声で、僕にそう言うと左手で刺激を加えてくる。
輪っかを作った指で下から上に摺り上げたり、人差し指で先端をぐりぐりしたり。
そういう経験のない僕は簡単に押し上げられてしまい、限界を迎えそうになる。
『あ、かねさんっ...も、やばっ...』
限界を訴える僕に対して、茜さんは「ふふっ」と厭らしく笑う。


『ちゃんと10数えてから出さないとダメだよ?』
それは本来ならお風呂の時に、子どもが湯冷めをしないよう言い付ける言葉。
『・・い〜ち、・・に〜い』
しかし、茜さんはさもそれが当たり前のように、小さな子どもと数字を数えているような口調で10数え始めた。
『はっ..む、むり..ですっ!我慢、できなっ..い!』
数を数える行為とは別に、性器への愛撫は止まらない。
いつしか僕のモノからも粘液が溢れ出し、茜さんの左手を濡らしていた。

『ダメだよ?ちゃんと10数えなきゃ』
『そっ、んなっ!』
『・・さ〜ん、・・よ〜ん』
その言葉に何とか我慢しようと体に力を込める。
あと6つ!早く、早く!
僕の性器をいじる茜さんの左手を忘れるべく、布団を強く掴み、歯を食いしばって我慢する。


「がぷり」


『ひぃっ!』
必死に耐えていた僕に興奮した茜さんは、百足の顎肢をうなじに突き立てた。
そしてどくりどくりと淫毒が流し込まれる。
『な、なんっ、で...』
言いつけ通りちゃんと我慢していたのに、なぜこんな仕打ちをと目に涙が浮かぶ。
しかし、茜さんはさっきと同じくらい、いやそれ以上に熱い息を吐きながら僕に身を寄せてきた。

『ダメだよ?あきら君・・・』
そして再び腰の辺りで感じる手の動き。
『私みたいな性格の魔物娘相手に、そんな顔したり声出しちゃ・・・』

「がぷり」

茜さんはそう言いながら、またも僕の体に噛み付く。
左手は僕の性器を苛めながら、顎肢は噛み付き淫毒を流し込み、右手は自分の性器をかき混ぜる。
『・・ごっ..お、・・ろ〜くぅっ、・・なぁ〜なっ..!』
再び自慰を始めた茜さんはそれでも10数える。
僕の口からは我慢できなくなった声が漏れ続けた。

『・・は〜ちっ、あっ..ひっん..、・・きゅ〜う』
カウントダウンはついに残り一つ。
漸くこの我慢が終わると思うのと同時に、体は性急に高まっていく。
『あ、茜っ、さん...!も、イき、ますっ!』
『ぅんっ..わ、わたしも、またっ、イっちゃ、う...!』

『『はぁっ!...ああぁぁっ!!!!!』』
二人して体を震わせ、一つの布団の中でその時を迎える。
僕の性器を擦る左手はぎゅっと強く握りこまれ、うなじには三度目の顎肢が突き立てられた。
腰には茜さんの股間が押し付けられ、さっきよりも激しく痙攣する。
虚脱感に僕は体を丸め、その僕を茜さんの百足の体がぐるぐると360度包囲する。

『やっちゃったね』
茜さんは少し申し訳なさそうにそう言った。
『やっちゃいましたね』
僕もそれに対して同じ様に答えた。
『・・・嫌じゃなかったかな?』
僕に体を寄せ、顔を背中に押し付けた茜さんが小さな声で不安げに尋ねてくる。
『最初はびっくりしましたけど、でも疲れが取れました』
未だに僕の性器を握っている茜さんの左手に自分の手を重ねると、優しく握ってそう答えた。




「がぷりっ!」


『いたっ!』


「がぷりっ!」


『ちょっ!あ、茜さん!?』


「がぷりっ!」


茜さんは僕の声も聞かず、立て続けに三度噛み付いた。
うなじ、肩、脇腹。
その全てに淫毒をたっぷりと流し込むと百足の体でぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。
ま、まずい・・・

『あ、茜さん!もう大丈夫です!もう夜も遅いですし、今日のところは・・・』
慌てて逃げようとしても、巻き付かれた百足の体は熱を帯びて、離れるどころか沢山並んでいる足も絡めて逃がしてはくれない。

『ふ、ふふふっ、あきら君・・・』
暗闇に見えた茜さんの目は、濁った紫色に輝き、魔物娘本来の根源的な欲望に支配されていた。
『は、はぃ・・・』
その目に怯える僕を茜さんは上から見下ろし、上に着ていたパジャマを脱ぎ去る。
体に浮かぶ毒腺からは淫毒を垂れ流し、僕の体を濡らしていく。



『お姉ちゃんの言うこと聞けないの?』


蟲の夜は、これからが本番。

14/03/16 19:35更新 / みな犬

■作者メッセージ
大百足さんのお話2本目デス!
ぐるぐる巻きにされて体中噛まれてぇぇぇぇ!!!
そんな私ですが、実は年上のイトコが近くに住んでおります。


男だけどな!!!


あと98本がんばるぞ!

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