読切小説
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図鑑世界童話全集「森の中の三人の魔女」
 昔々あるところに、男手1つで娘を育てている父親がおりました。彼はある時、自分と同じように娘を独りで育てている女の人と再婚することになりました。
 新しいお母さんは義理の娘に「これからは毎日食事の時にホルスタウロスのミルクを飲めるようにしてあげる」と言ったので、男の方の娘も父親の再婚を喜びました。

 ところが、継母が約束通り義理の娘にホルスタウロスのミルクを飲ませてくれたのは最初の1日だけでした。次の日からは継姉がホルスタウロスのミルクを飲んでいるのを横目で見ながら水を飲むしかありません。
 そして冬になり、父親が遠くの町へ出稼ぎに出て3人で暮らすようになると、意地悪な継母は義理の娘がいなくなってくれればいいのにと勝手な事を考えるようになりました。



 とびっきり寒いある日の朝、継母は義理の娘に紙のように薄い服を着せてこう言いました。
「あんたはこれから森に行って、イチゴを摘んでくるんだよ」
「でもお母様、今は真冬ですよ。地面はカチカチに凍っていて、冷たい雪に覆われています。イチゴなんてどこにあるというのですか」
「口答えするんじゃない。籠いっぱいにイチゴを摘んでくるまでは、何があっても絶対に家の中に入れないからね」
 そう言うと、継母は義理の娘がそれ以上何かを言う前に、娘を家の外に放り出しました。もちろん本当にイチゴが食べたいわけではありません。娘を凍死させるつもりなのです。
 娘が一緒に放り出された籠を拾うと、中には小さくて硬いパンが1切れ入っているだけでした。彼女は慌てて戸を叩きましたが、継母も継姉も家の中には入れてくれそうもありません。娘は仕方なく、森の中へと歩いていきました。



「やっぱり。イチゴなんてどこにもないじゃない」
 娘が震えながら森の奥へと入っていくと、そこに小さな小屋が1軒ありました。
「助かったわ。雪がやむまで休ませてもらえるかもしれない」
 娘が小屋の戸をそっとノックすると、中から「お入り」という声が聞こえてきました。入ってみると小屋の中にはちっちゃくて可愛らしい3人の魔女が住んでいて、寒さに震える娘を暖炉のそばに座らせてくれました。
 娘が籠からパンを取り出して食べようとすると、魔女は言いました。
「お姉ちゃん、私達にもちょっと分けてくれない?」
「ええ。いいわよ」
 娘は小さなパンを半分に割って片方を魔女達に渡しました。
「こんな寒い日にそんな薄い服だけで、いったい何をしに来たの?」
 魔女が聞くと、娘は答えました。
「この籠いっぱいにイチゴを摘んでくるように言われたの。籠いっぱいにイチゴを摘んでくるまでは何があっても家に入れないって」
 娘がパンを食べ終わると、魔女の1人がほうきを持ってきて言いました。
「お姉ちゃん。裏の戸口の雪をこれで掃いてくれない?」
 小さな子供達だけでは雪かきも大変だろうと思った娘は、魔女の頼みを快く引き受けました。娘が裏口へ出ていくと、魔女達は集まって相談を始めます。まず、1人目の魔女がこう言いました。
「私はあのお姉ちゃんが何かを話すたびに、聞いた人が楽しい気持ちになるおまじないをかけるわ」
 すると、2人目の魔女はこう言いました。
「私はあのお姉ちゃんのおっぱいやお尻が、大きさや形が丁度いい整ったスタイルになるおまじないをかけるわ」
 それから、3人目の魔女はこう言いました。
「私はあのお姉ちゃんが素敵な男の人と熱い夜を過ごせるおまじないをかけるわ」
 ところで、娘は魔女に渡された魔法のほうきで裏口を掃いていたのですが、雪の下から赤くてみずみずしいイチゴが籠いっぱいになるくらいたくさん出てきました。
 彼女は大喜びでそれを籠に詰めると、魔女達にお礼を言って急いで家に帰りました。




 娘が家に帰ってイチゴを差し出すと、それを見た継姉はたいへんびっくりして聞きました。
「あんた、これをどこで見つけてきたの?」
 娘が森の中で起きたことを話していると、継姉にはどういうわけかそれがとても面白おかしい話に思えてきました。そして、娘がすっかり話し終わる頃には、継姉も母親に自分もイチゴを摘みに行きたいとせがんでいました。
「駄目よ。外では激しい吹雪が舞っているのよ。こんな時に外へ出てはこごえ死んでしまうわ」
 継母は止めようとしますが、継姉はいくら言っても聞きません。とうとう継母の方が折れてしまいました。翌朝、継母は継姉に温かい毛皮のコートを着せると、籠に大きくてふかふかのパンを入れて持たせました。

 娘から言われた通りの道を歩いていった継姉は、3人の魔女が住む小屋を見つけると、あいさつも無しにいきなり戸を開け、勝手に中に上がって暖炉のそばに座り込んでしまいました。火に当たりながら大きくてふかふかのパンを食べようとします。
「お、お姉ちゃん、私達にもちょっと分けてくれない?」
 魔女の1人が少し怯えながら聞くと、継姉はこう答えました。
「嫌よ。私ひとりが食べる分しかないのに」
 それから継姉がパンを食べ終えると、魔女の1人がほうきを持ってきて言いました。
「お姉ちゃん。裏の戸口の雪をこれで掃いてくれない?」
 すると、継姉は答えました。
「嫌よ。自分でやりなさい。私はあなたたちのお手伝いさんじゃないのよ」
 そして、魔女達がそれ以上何も話しかけてこないのを見ると、継姉は舌打ちして小屋からさっさと出て行ってしまいました。すると、魔女達は昨日と同じように再び集まって相談を始めます。まず、1人目の魔女がこう言いました。
「私はあのお姉ちゃんが何かを言うたびに、聞いた人がつまらないと思うようになるおまじないをかけるわ」
 すると、2人目の魔女はこう言いました。
「私はあのお姉ちゃんのおっぱいが大きくなりすぎて肩がこるようになるおまじないをかけるわ」
 それから、3人目の魔女はこう言いました。
「私はあのお姉ちゃんが今日のお外よりももっと寒いところに放り出されるおまじないをかけるわ」

 そして、結局イチゴを見つけてくることができなかった継姉は家に帰ると、自分が娘から騙されたと継母に文句を言おうとしました。しかし、継母にはどういうわけかそれがとてもつまらない話に思えてきて、継姉が最後まで言い終わる前に話を切り上げてしまいました。数日経つと、継姉の胸は2人目の魔女がかけたおまじないの通り蜂に刺されたように膨らんでしまい、肩こりに悩まされるようになりました。そんな継姉を横目にして、整ったスタイルをした義理の娘が綺麗な姿勢で歩いているのを見ると、継母はますますこの娘を早く追い出したいと考えるのでした。




 それからさらに数日後。継母は義理の娘に1本のロープを渡してこう言いました。
「これを池の水で洗ってくるんだよ」
「でもお母様、今は真冬ですよ。水面には分厚い氷が張っているわ」
「口答えするんじゃない。池の水でロープを洗い終わるまでは、何があっても絶対に家の中に入れないからね」
 そう言うと、継母は義理の娘がそれ以上何かを言う前に、娘を家の外に放り出しました。娘は仕方なくロープと斧を手にして池の上に行くと、水面の氷を割ろうと斧を振り上げます。
 その時、この辺りの国を治める王様の乗った立派な馬車が池の近くを通りかかりました。王様は娘にお尋ねになりました。
「お前は誰だ。そこで何をしている」
「私はそこの家に住む貧しい娘です。このロープを池の水で洗うまで、家に入れてもらえないのです」
 それを聞いた王様は娘をかわいそうに思い、少し考えた後こう言いました。
「私はこれから城に戻って夕食を食べるのだが、一緒に食べる相手がいなくて退屈に思っていた所なんだ。どうせ家に入れてもらえないなら、私と一緒に来ないかね」
 娘は継母や継姉の待つ家に帰らなくて済むと思うと嬉しくなって、喜んで王様の後に付いていきました。そして、娘は3人目の魔女がかけたおまじないの通り王様と熱い夜を過ごし、そのまま王妃様になって1年経つ頃には男の子を出産しました。




 さて。王様と王妃様は幸せいっぱいになりましたが、反対に嫌な思いをしている者もいました。継母と継姉です。2人は義理の娘をさっさと追い出したいと思ってはいましたが、その娘が自分達より幸せな生活を送るような形になるとは思ってもいなかったのです。
 2人は王様のお城へ行くと、義理の娘の様子を見に来たと言って中に入っていきました。そして王様が出かけ、使用人の目も離れているわずかな隙を伺うと、継母は王妃様の腕を掴み、継姉は足を掴んで彼女をお城のそばに流れる川に放り込んでしまいました。川は前の日に降った大雨で増水しており、王妃様はどんどん流されてすぐに姿が見えなくなりました。
 それから継姉は王妃様のベッドに入ると、継母は継姉が頭まで隠れるようにすっぽりと布団をかぶせました。
 程なくしてお城に戻ってきた王様が王妃様の顔を見ようとしましたが、継母は王様にこう言いました。
「お妃様は風邪を引いてしまわれたようです。出産の疲れが残っていらっしゃるのでしょう。今はそっとして差し上げてください」




 その日の夜、お城の料理人の下働きが次の日の食事の下ごしらえをしておりますと、川から王妃様の声が聞こえてきました。
「王様は何をしておいでですか。寝てらっしゃる?」
 料理人は答えません。
「私のお客はどうしてらっしゃいますか」
 そこでようやく料理人は返事をしました。
「皆様ぐっすり眠っています」
「私の坊やはどうしてますか」
「小さな王子様はゆりかごの中ですやすや眠っております」
 すると、川の中から1人のネレイスが上がってきて、赤ちゃんにお乳を飲ませると、赤ちゃんをあやして再び眠ったのを確かめてから川に戻りました。
 次の日とそのまた次の日もネレイスはまた夜中に現れて同じ事をしましたが、更に次の日になるとネレイスは料理人に言いました。
「今すぐ王様のところに行って、こう伝えてくださいませんか。王様がしきいの上に立って剣を持ち、その剣を私の頭の上で3回振ってくださいますようにと」
 料理人が急いで王様を呼んでくると、王様もどういうわけか言われた通りにしなければならないような不思議な予感がしました。彼はネレイスの言った通りしきいの上に立ち、剣を抜いて頭の上に振り上げます。
 その時、ネレイスは王様に詰め寄り、彼のズボンの中に手を入れると、手のひらで肉の剣を3回こすりました。すると、王様は驚きに満ちた顔で言いました。
「この手つき……お前はまさか!」
 ネレイスが笑顔で首を縦に振ると、続けて王様はこう叫びました。
「それじゃあ、今私の妻のベッドで眠っているのは誰なんだ!」




 翌朝、王様は王妃様の継母を呼び出して言いました。
「人をベッドから引きずり出して冷たい川に放り込むような不届き者を捕らえたのだが、どのような裁きがふさわしいか悩んでいる。お前ならどうする?」
 すると、継母は意地悪な笑みを浮かべてこう言いました。
「ボートを用意しましょう」
「ボート、とな」
「はい。1人乗りでいい。水と食料もです」
 王様は興味深そうな風を装って続きを促します。
「それで?」
「人を冷たい水に放り込むような者は、自分も冷たい海に放り出されるのがふさわしい。そのままこの国から出て行ってもらうのです」
「なるほど。ではお前達にはそのような裁きを下すとしよう」

 そして継母は自分が王様に言った通り、継姉共々小さなボートに押し込められました。継姉は未だに往生際が悪く「私が本物の王妃よ! まともなのは私だけなの?」などと叫んでおりましたが、誰も聞く耳を持つ者はいません。そして継母と継姉は、3人目の魔女が継姉にかけたおまじないの通り、寒い海の真っただ中に放り出されました。
 その日の晩、ネレイスになった王妃様はホルスタウロスのミルクよりおいしい王様の白い液体を上と下の口で、お腹いっぱいになるまで思う存分飲みつくしたそうです。
18/03/15 20:18更新 / bean

■作者メッセージ
元ネタはグリム童話の「森の中の三人の小人」です。
たぶん「ボートを用意しろ」と言わせたかっただけ。

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