連載小説
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 5語目 オガタク(尾形+宅)
全身を包む深緑の鱗。手足の大きな爪。背からはえた大きな翼。
その姿はまさに

「ドラゴン?!」

ワーキャットは狼狽える。

「そ、そんな・・・・超高位種が、なんで」

「大樹様、イメージを伝えて下さいますか?」

こちらを振り向いた彼女の表情を見た途端、自分の緊張が解けたのを感じた。
目の前にいるのが、いつもの青葉だとわかったから

「お、おし、やってみる」

頭の中で色々なゲームに登場する武器を思い浮かべてみる。
鬼○斬破刀か?エクス○リバーか?!

「大樹様、無理をなさらなくても大丈夫です。今の気持ちを形にして下さい」

今の、気持ち
・・・って何だろう?
死にたくない、戦いたくない、負けたくない、勝ちたい
・・・・守りたい、青葉を護りたい。
頭に一つのモノが浮かび上がる。

「承りました」

青葉は左手を前方に差し出し、宙を・・・・掴む!
すると
俺の左手も同時に、何かを掴む感覚を覚える
掴んでいたもの
それは盾。
所持者を攻撃から守り、また攻撃をする機会をすらを与える、俺の気持ちにふさわしい「武器」
その透き通った外見はガラスや澄んだ氷を連想させる、一見儚そうな、それでいて刃の如く精錬された全き盾。
うおっ!す、すごい!俺の思い浮かべたイメージ通りだ!
おお、しかも振動してる。これは一体

「第二世代教育<音>(アセシーノズ・デ・ソニード)。それが私に施された教育です」

音、波、空気の・・・・・振動?!
そういう事?!

「行きます!」

「しゃあっ」

俺と青葉は二人に向かって走り出す

「迎え撃つよ」

「わ、わかった」

少女達は意思疎通(イメージリンク)をし、その手に口の大きな銃を造り出す。

「「発射!!」」

ッッドンッ!

大きな火球がこちらに飛んでくる

「ガードしましょう!」

「オッケ」

俺は立ち止まり足場確認し踏ん張る、対して青葉は走ることをやめずそのままガード

ボォォンッ!!!

「ぐおおおおおお・・・・・・・あれ?」

全然衝撃が来ない
踏ん張るどころか当たった感覚すら無かった、確かに炸裂したはずなのに。
てか、ヒヤヒヤした〜〜〜
本当にこんな綺麗な盾で防げるのか心配だった

「大樹様!」

おお、今はまだ敵に突撃中だった

「おらぁぁぁっ」

完全に強がりだけの叫びを上げる。
既に青葉は二人を相手に体術戦をしていて
ワーキャットの素早い動きに対応しながらそれを捌き、少女の砲撃を見事に盾で防いでいた。
俺が出来るのは・・・

「シンボルの破壊だああっ!!」

少女まで接近した俺は、青葉に注意を引かれている隙に不格好な体当たり

「どーーーんっ」

「ぐぅ・・・・」

がしゃぁん

少女の背中がフェンスが当たる。
なんか、ちょっぴり罪悪感を感じるかも・・・

「えりゃあっ」

ボォォン!

なっ・・・・この野郎、打ってきやがった
前言撤回。
そもそも屋上で不意打ちってとこから感じる必要ねぇじゃん!

「ちょっと痛いかも、よっ!!」

ドスッ

もういっちょ体当たり
少女に一瞬出来たノーガードの隙。

「・・・っ!そこです!!」

それを横目で見逃さなかった青葉は、自らの盾を少女に向かってブーメランのように投げる
するとその盾は風を斬って、真っ直ぐ少女のスカートのポケットに飛んでいき

スパッ

切り取る。

キンッ・・・

そこから、赤い結晶のようなものが零れ落ちる。
まさか、これが

「大樹様、はっ、今です!」

「させないよ!!」

青葉と交戦中だったワーキャットはこちらに飛びかかってくる

ブーメランの如く戻ってきた盾が、その進路を塞ぐ

「ぐっ・・・・」

「させないのは、こちらです!!」

すぐさま青葉がその前方に立ち、更に進路を塞ぐ。
俺は踵を振りかぶり

「おりゃあああああああ!!」

振り下ろす!

「やめてーーーーーーっ」「やめろーーーーーーーーっ」

グシャッ・・・

まるで氷砂糖のように
少女の赤いシンボルは粉々に砕け、赤い光と共に消えていく

「そ、そんな」

「終わっちゃった・・・・。」

先程まで勢いよく交戦していた二人だったが
双方その場に座り込み、力なく項垂れる。
その様子を見ていた青葉が険しい表情をしながら、こちらに歩いてくる。

「・・・・大樹様」

「・・・・ああ」

始まるらしい。
忘却の儀式というものが。

ドン

ワーキャットのすぐ後ろに大きな扉が現れる。
これが・・・・忘却の扉

敗者はどうなるの?
この問いに青葉は顔を伏せた。
その内容はあまりにも残酷で、俺がこの戦いに参加する上でどうしても腑に落ちなかった条件。
敗者。
まず、企業からの解雇。並びに記憶からの・・・・抹消。
自らの記憶ではなく、その魔物に勝利した者を除く、この魔物に関係した全ての者の記憶からその魔物の存在のみが抹消される。
つまり、このワーキャットの存在を憶えていられるのは俺たちと自分自身のみ
たとえその魔物のパートナーだとしても、それは例外ではない。

扉の向こうから2体の魔物らしきモノがこちらに歩いてくる。

「ハイシャ、セカイノボウキャク。」

「ザコ。デナオシテコイ。」

角の生えた一つ目の魔物はワーキャットの腕を両側から拘束し、そのまま扉に向かって歩き始める
ワーキャットは抵抗を試みるが拘束が一向に解ける様子はない。

「やめろっ!離してっ!!いや・・・・やだ、やだやだやだーーーーー!!」

ギギギギギギ・・・・・ゴォン!!

扉が閉まると、扉はゆっくりとその色を失っていき完全に、無くなった。

「・・・・青葉」

「はい」

「俺、くやしいよ」

「はい」

こんなの・・・・・後味、悪いじゃんか・・・・
拳を握りしめる力が強まる。
青葉の手を見ると、同じように硬く握られた拳が震えていた。
俺たちはいつの間にか、こんなにも、繋がっていたんだ
そう思うと先のことを考えるのが、とても馬鹿馬鹿しく感じられた。

「あれ?・・・どうしてここに?」

背後から聞こえる声に振り返ると、そこにはキョロキョロ忙しなく辺りを見回す少女の姿があった。

「きみ、大丈夫?」

少女に声を掛けると驚いたような表情をし、すぐに赤くなった。
え・・・?何この反応??

「根本さん・・・・・ぁ・・・・失礼しますっ」

少女は顔を真っ赤にして屋上から出て行った。
・・・・まさかとは思うけど、そのまさか?
彼女は本当に俺のことが

「大樹様」

「わぁーーーーーー?!」

背後から声を掛けられその場を飛び退く
そこには拗ねたような顔をした青葉が立っていた。

「嬉しそうですね」

「いやいやいやいや、違うんだよ、青葉、これは」

「でしたら」

青葉は俺にゆっくりと近づき、ぴとりと体を密着させる。

「キス、してくださいますか?」

ドクン

え・・・・・き、き、き、き、キスゥ?!
あの、すいません、告白しますと、俺、まだファーストしてません・・・
そんな俺にキスしろと、そういうことですか??

「枷を外してこの姿になってから、とても人肌が恋しく感じるような気がするんです」

ひ、人肌?!

「なので、キス、してください」

バクン、バクン、バクン、バクン

え、いや、ちょっと
いやいやいやいやいや!目を瞑られても!!

バクバクバクバクバク

心臓発作なる!心臓発作なるって!!
このままだったら、心臓口移しみたくなるって、完全に。
そんな事を考えている間も、目を瞑りながら待機する青葉。
ひっひふー、ひっひふー
覚悟を・・・・・・決め・・・・・ろ・・・・・
俺は青葉の唇の位置を確認し、目を瞑り、息を止める。
手を彼女の頬に添え、ゆっくり近づく。
ゆっくり
ゆっくり
ゆっくり
・・・・・・重なった

「ん・・・・」

青葉から息が漏れる。
そのくすぐったさに顔が更に熱くなる。
どれくらい・・・・どれくらい、こうしていれば、キスなんだろう・・・

「ん・・・・」

再び息が漏れる。
青葉は俺の背中に手を回すと、唇を更に強く押し付けてくる
おふっ、情熱的だな
思わず目を開く
すると、うっとりとした金色の瞳と目が合った
・・・・・・・・・気まずい
このまま見つめ合うのは気まずいし、かといって俺だけ目を瞑るのも気まずい
だからとりあえず相手が目を瞑るまで目を開けていることにした

ふぎゅぅ

お、お、お、お、お、お、お、お、お、お胸が!!
お胸が当たっております!!
ああ、俺のSONもSTANDUPデス??
自分で言ってて訳分からん
・・・・・長い
キスって長いな・・・・もう一時間ぐらいしているような気がする
この間、彼女は何を考え何を想っているのだろう
そう思ったのと同時くらい
俺に当てられていた唇がゆっくりと離れていく
互いに見つめ合ったまま。

「随分、情熱的なんだね」

「一応、魔物ですから」

そう言って微笑む彼女はとても魅力的で
見つめ合っているその瞳に吸い込まれるような、そんな感覚を覚えた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「申し訳ありませんでした」

何度も謝る青葉

「いいっていいって、生きていればそんな事もあるって」

メイド姿に戻った途端
先ほどした、その・・・・キ、キスを求めたことを恥じているらしい。
って、自分で言って恥ずかしがってどうするよ?!

「メイドが主人に頼み事なんて、言語道断です」

「はあ」

「まして、それが性的なモノだなんて」

せ、性的?!
いや、それ、言わなくて良くない?!
余計に意識するようになるでしょ?!

「本当に、申し訳ありませんでした」

深々と頭を下げる。
・・・・・う〜ん、どうしたものか
っていうのは、別に許すとか許さないとかじゃなくて
どうしたら彼女のペコペコを止めさせられるかってこと。

ピッピロリン〜ポロロロロロロロ〜♪

あ、電話

「あ、俺が出るよ」

ガチャ

「もしもし?」

「・・・・・・・・・」

「あれ、千彰でしょ?もしも〜し」

「・・・・・・今」

「へ?」

「大樹の家の玄関前・・・・・」

プチッ・・・・ツー・・・ツー・・・

俺はリビングから玄関に行き、外への扉を開ける
・・・・・誰もいない
・・・・・おいっ、よく考えたらわかるじゃねぇか!!
家デンからかけてきてんだから、いるわけねぇじゃんっ!!

ピッピロリン〜ポロロロロロロロ〜♪

ガチャ

「もしもし?!」

「馬鹿が見る蜂の尻・・・・」

それをいうなら「馬鹿が見る豚の尻」だろ?
蜂の尻なんか見たら・・・・

「刺さるわっ!!」

「大樹、声うるさい」

人に突っ込ませておいてその言い草かい、間違いなく千彰だ。

「今日、話したいことあったのに・・・・」

「あ・・・・わりぃ、忘れてた」

「だと思った・・・・トリアタマ」

「おい、今、鶏頭って言っただろ」

「結構重要な話なんだけど・・・・」

完スルーかよ

「明日、うちに来て・・・・」

「ああ、わかった」

「出来れば青葉も・・・・」

「青葉も?・・・・・あ、お、オッケィ!!」

「あ、って何・・・・?」

「いや、何でもない何でもない」

「じゃ、昼くらいに・・・・」

「オッケィ」

「おやすみ・・・・」

「おやすみ」

「・・・・・・・エイエンニ」

「おい、今、永遠にって」

ツー・・・ツー・・・ツー・・・

くそっ、切られた
毎回毎回やられっぱなしじゃん、俺。
でも・・・・口実が出来た!

「あ〜・・・オホン、青葉」

青葉の方に振り返りながら、それらしく咳払い

「はい」

「お前に罰を与える」

少し声を低くして、それらしく振る舞う。

「はい、何なりと」

俺の前に跪く青葉の姿に、若干の罪悪感を覚えつつ

「明日の昼、俺と一緒に千彰の家に行ってもらう」

「・・・・ぇ」

「ん?どうした?」

「では、それが・・・・」

「うむ、罰である」

驚いた表情のまま、固まる青葉。
そんな彼女の顔も堪らなく綺麗で

「いいな?」

ついつい意地悪してしまいたくなる。

「かしこまり、ました」

納得した表情はしていないものの、今確かに返事をした。

「はい、これにて『罰』終わり。じゃ、俺風呂入ってくるから」

自分の部屋へと向かっていく俺。

「・・・・ありがとうございます」

その背後で確かにそう聞こえた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

やべぇ、死ぬ、死ぬって・・・・

「お休みになりますか?」

「なり、まくり、ます、ぜぇ、ぜぇ」

二人で近くのベンチに腰掛ける。
昨日の朝から始めた早朝ランニング、走った時間わずか5分。
いや、昨日より成長してますやん、2分。
ガクッ
・・・・いつになったら・・・・凡人レベルに到達できるんだ・・・・??

「走れる時間は加速度的に向上していきます、気を落とさないで下さい」

隣で背中をさすりながら、励ましてくれる青葉
ああ、俺って幸せ者!!
と、
いつの間にか足下に犬。
こ、この犬は、まさか?!

「あら、やだ、すいませ〜〜〜〜ん」

昨日のおばちゃん!!
やべぇ、どうしよう・・・・

「あら、あなた達・・・・」

バレる!それだけは避けなければ!!

「は、はじめまして」

先手必勝!
渾身の『はじめまして』
どうだ、上手くいったか?

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・。」

「これは丁寧にどうも〜」

勝利。
おばちゃんの脳を上書いてやったぜ!
隣の青葉が何か言いたそうだが、言わせねぇよ?!

「姉弟なの?」

え゛っ

「いえ、違い・・・・」

「そ、そうです!姉弟です!!」

青葉だめだよ、人には時として言ってはならないことがあるんだよ?!

「だよねぇ、おばちゃんねぇ、姉弟を見る目、あるのよぉ〜?」

おばちゃん、もうその目死んでますよ?
今すぐにでも新しいのに、いや、いっそのこと捨てたらどうです?

「じゃあ、おばちゃん犬の散歩の続きあるから」

「はい」

そのままおばさんは犬のリードを引いて歩いていった。

「・・・・・大樹様?」

「ああ、言いたい事はよくわかるよ。でも、今はダメ」

「はい・・・・」

はぁ、明日は7分走れれば上出来だな・・・・




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ここがオガタクですか」

本人曰く「尾形+宅=オガタク」だそうです。
なんか『尾形区』みたいに聞こえるよ

ピンポーン

「はい・・・・」

「あ〜、オレオレ」

「セールスなら結構です・・・・」

「自分で呼んでおいて、扱いひどいな?!」

「いいよ、あがって・・・・」

ガチャ

「こんにちは〜」

・・・・・・。
今日は千彰母はいないようだ。
久しぶりに入ったが、ほとんど変わってないな

「こっち・・・・」

声のする方に目を向けると、2階から手招きする千彰の姿があった。
素直に階段を登る。
奥の部屋へと続く廊下。
そこを渡ればすぐ千彰の部屋だ。

「千彰の家、やっぱ、変わってねぇな」

「まあ・・・・」

「失礼します」

青葉は律儀にも部屋の敷居を跨ぐ前に、深々と頭を下げる。
俺と青葉が隣で座り、それに向かい合うように千彰が座ると、部屋の空気が真剣なものになった。

「で、話って?」

「新君祭」

「「!!!」」

俺たち二人は衝撃を受ける
まさか千彰の口からその言葉が出るとは思ってもいなかったからだ。

「な、なんで、知ってるの?」

恐る恐る聞くと

「蓮・・・・」

襖の向こうに向かって千彰が呼びかけると

ススス・・・・・

襖が開き、メイド服を着た小さな少女がこちらに一礼し、千彰の隣に座った。

「サハギンっていう種族らしい・・・・」

サ、サハギン・・・・

「俺たちが、新君祭開催の最後のチームだって・・・・」


11/01/23 10:28更新 / パっちゃん
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■作者メッセージ
皆様、第5話を読んでいただきありがとうございます
この話で千彰のキーフラグに成功しました!
何のフラグかは、物語の終盤にならないと明かされませんが
何はともあれ千彰も参戦です!
波乱の予感しかしない第6話、まあ、ご期待ください!!

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