とあるテンタクルの手記

それは細い木が絡み合ったような表紙のノートを見つけたときから始まった。

偶然にも、学校でその本を拾ってしまった私は興味本位で家に持ち帰り、開いた。

個人のものだろうが、明日になって職員室にでも届けよう。

チラリと見たところ、この生徒はイベントが合った時にしか日記をつけていないようだ…。


20XX年
4月10日(日)

今日から日記をつけようと思います。今まで三日坊主って言われてきた私が両親に内緒で書き始めたものです。
今日は新しくできた友達と一緒にお買い物をしました。
私は魔物で彼女達は人間ですが、快く付き合ってくれました。
今度何かクッキーでも焼こうかなと思っています。



4月28日(木)

今日大変なことがありました。なんと後ろからひったくりに襲われたのです。
偶然にも同じ学校の男性が近くにいて取り返してくれましたけど、鞄を返されたときドキドキしてしまいました。
ああ、あの人は誰なんでしょう?



5月6日(金)

この前鞄を取り返してくれた男性ですが、同じ学年の高野君だそうです。
今度お返しに得意なチョコレートでも贈ってみようと思います。



5月25日(水)

ようやくチョコレートを渡すことができました。初めて自分から異性に話しかけてみてすごくドキドキしました。最初は私のことを見て驚いているようでしたが、ちゃんと受け取ってくれました。
感想を言ってくれると嬉しいです。


6月1日(水)

高野君が美味しかったとわざわざ言いにきてくれました。
すごく嬉しいです。また贈ってみましょうかね。
そういえば、今日から体育祭の準備が始まりました。
頑張ります。


6月12日(日)

今日は体育祭でした。頑張りました。
休んでいる間に高野君が個人種目に出ていたのでそちらを見学に行きました。
とってもかっこよかったです。



7月18日(月)

今日はお休みです。なので町に繰り出しました。
今日はいつも行っている方向とは逆にいってみたり、猫に会ったりして色々ありました。
そういえば、ずっと誰か後ろから付いてきているような感じがしたのですが、誰でしょうか?


(:この辺りで私はどこか危険なかおりを感じた。その内事件が起きそうな…そんな感じだ。まるでドラマを見ているように…。)


8月12日(金)

今日は日帰りで家族と海に行きました。私は体が触手になっている部分があるのでクラゲやタコといった動物を真似てみたりしました。
ただ、ナンパされたりもしました。
何故か私はそれに嫌悪感を抱いたのですが、自分自身でも謎です。



9月6日(火)

最近、視線をよく感じるようになりました。まるで監視されているようにずっと遠くから私を見ているのです。
気味が悪いですが、今のところはそれだけで、友達にしか話していません。



9月15(木)

今日、高野君が今度の土曜日にお出かけに誘ってくれました。
デートでしょうか?私は心が躍るようです。
なにを着ていこうか迷います。


9月17日(土)

デート当日です。待ち合わせの場所で待っている間胸の高鳴りが止まりませんでした。
ですが、もっと驚いたのは待ち合わせの時間より前に彼が来たことです。
私の方がずっと早かったのですが、それでも彼が来たのは二時間前でした。
かなり早くなりましたが、お店が開くまでずっと公園に座って話していました。
彼は色々と自分のこと、私のことについても話して、聞いてくれました。
とても嬉しかったです。
それから移動しているときに私が誰かにぶつかって転げそうになるのを彼が支えてくれたときはドキってしてすごく恥ずかしかったです。
その後はずっと彼の手を触手で掴んでいました。

(:ここまで読んだとき、思わず舌打ちしてしまった。ともあれ誰かが幸せなら…と思っていても自分の心までは騙せないので、イライラしてきた。)



9月22日(木)

今日、恐ろしいことが起こりました。下駄箱から上履きを取ろうとしたとき、手紙が入っていて、中から「あの男と別れろ、さもなくばお前を殺す」というメッセージが入っていたのです。
私は体が凍るような感じがして、その手紙を捨ててしまいました。


(:私のテレビを見てきたときの感性が告げる『何かが起こるぞ』と。実際段々この日記を読むのが恐ろしくなってきた。だが恐怖からくる興味というか、怖いもの見たさに段々と、私はこの日記を読むのに夢中になり始めた。最初は興味本位だったにも関わらずにだ。)


9月28日(水)

今日はとっても嬉しいことがありました。
高野君が私のことを好きだと告白してくれたんです。
すごく嬉しくて、その場で跳ねてしまいそうになりました。
返事はその場でOK。今日は興奮して眠れそうにないです。


(:思わず壁を殴りそうになった。誰か代行して欲しい。)


9月29日(木)

今日はとっってもいやなことがありました。機能の幸福感が、今日で一気にマイナスまで来てしまうほどです。
どうもこの前私に変な手紙を送ってきた人が今度は赤い文字で…ああ、内容もかけないほど恐ろしいことを…。
恐ろしくなり、彼の声を聞いて眠る事にする。


(:私はとうとうきてしまったかと思った。絶対にこの子を好きなやつがいるだろうと。だが続きが気になってそうそうにページを進めた。)


10月3日(月)

彼に告白されてから、度々嫌がらせを受け始めている。
物が盗まれたり、逆に何かが入っていたり…もうここ数日でいろいろなことがおきすぎです。
ああ…どうして私は幸せな感じに浸れないのでしょうか?


10月15日(土)

今日もデートです。でもずっと誰かの視線を感じてとても気が気ではありませんでした。誰だか知りませんが、もうこんなことは止めてください。



10月17日(月)

ああ、なんと言うことでしょう。今日私の下駄箱に殺人予告が入っていました。それも、私だけではなく、高野君もです。
流石に警察に行った方が良いでしょう。私は魔物ですからある程度は大丈夫ですけど、高野君は人間です。とてもではないですが、死んでしまう可能性だってあります。私はそんな事になったら耐えれません!どうにかしないと…。


10月18日(火)

高野君にも同様の手紙が届いたそうです。それで彼はお互いのために別れようと言い出しました。でも私はそんなつもりもなく、気が動転したまま彼を連れて、誰もいない旧校舎で彼が大人しく私の言うことを聞くまでずっと触手で…。
彼は結局、発言を取りやめて、襲われたとしても、私が守るという形で納得しました。



(:ここまで読んだとき、このページの後ろが黒く透けて見えるのが見えた。そして、それを気にせずにページを進めてしまったために私は心の準備ができる間もなく、思わず日記を落としてしまった。)



10XX9XXX(:Xはなんと書いてあるのか読めなかった)

きょうかれがおそわれたしんでないけどりょうてがない
もうにぎれないなでてもらえないまさぐれない
あしがおられたもうたてない
もういっしょにあるけない
でもずっといっしょ
はなさないはなさい
それいじょうに
ゆるせないゆるせないゆるセナいゆるせないユルセないユるせないユルセナいユルセナイユルさないゆるさないユルサナいゆるさないユルサなイゆるせないゆるせないゆるセナいゆるせないユルセないユるせないユルセナいユルセナイユルさないゆるさないユルサナいゆるせないゆるせないゆるセナいゆるせないユルセないユるせないユルセナいユルセナイユルさないゆるさないユルサナいゆいユルセないユるせないユルセナいユルセナイユルさないゆるさないユルサナいゆるせないゆるせないゆるサナイユルサナイユルさないユルサナイ



(:ここ数ページはなんと書いてあるのかまったく読めなかった。多分錯乱していたんだろう。だが、そこから漏れ出すほどの強い怒気と悲しみを感じ、これはただならぬことが起きたなと思った。)




10月24日(月)

彼を襲った一派が警察に捕まった。
どうやら私を逆恨みしていた者と彼を逆恨みした者が彼を襲ったらしい。
だが、彼の四肢が戻るわけではない。幸いにして、意識がはっきりしているためよかったものの…。
結局私は彼等をどうにかすることができなかった。高野君が悲しむと思ったからだ。
そのことを彼に話したらそれでいいと言われた。
実際、彼等をどれだけ恨んでも私はどうすることもできないだろう…。
でも、もしも手にかけていたら高野君が悲しんでしまう。だからこれでよかったのだと思いたい…。


             』







「…」

私は静かに日記を閉じ、鞄の中にしまった。





翌日、私は職員室を訪れ、この日記の持ち主を探してくれるように先生に頼んだ。

幸いにしてすぐに落とし主が見つかり、私は安堵した。

予想していた通り、落とし主はテンタクルという魔物の生徒だった。同い年らしいので、おそらくあれは彼女が中学生のときのことだろう…。

彼女が殺人…とまではいかないまでも復讐を諦めたのはその『高野君』とやらのおかげなのだろう。

私もいつか、好きな人が見つかるだろうか?そしてその人のために命を投げ出し、その人の立場で考えられるようになるだろうか?

自信はないが、『恋』や『好き』という感情がそれを助けてくれることを願う…。

14/03/02 23:58 kieto


…後日

「あなたが日記を拾ってくれた人?」

「え?そうですけど…」

「ありがとう、これ大切なものなんだ」

「…そう…ですよね…」

「お〜い」

「あ、高野君」

「彼がその…って腕がある!?」

「?ああ…別に気にしないで」

「いや、気にしますよ!?」

「だってこれフィクションだから」

「…は?」

「まったく…またそんなの書いてたのかい?」

「えへへへ…だって好きなんだもん」

「え?じゃあ事件は…」

「あるわけないよ〜私自身復讐なんて考えないし〜」

「やれやれ…ごめんね君。彼女はわざとそういうのを落し物として拾わせて中身を読ませるなんてことをしてるからさ…」

「だってただの日記じゃつまらないもん」

「…私の葛藤って…」


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ということで今回はオチをこちらで書いてみました。いかがだったでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。

それにしても連載中の二作が中々進まない…
[エロ魔物娘図鑑・SS投稿所]
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33