連載小説
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4話
先輩のお礼をした週のゼミ終わり

「先輩がお前の快気祝いの食事会をやるそうだ」
赤井先輩がいきなり提案してきた

「そんな大げさな」
「これは決定事項で欠席は厳禁だ」
しかも提案ではなく、既定だ

「・・・わかりました、いつですか?」
「候補日は2つあって、どっちも夕方からで、都合のいい日を・・・・」
手帳を開き、候補日を指し示す

「このふたつなら・・・・・○○日がいいですね」
「分かった伝えておく」
「場所は?」
「先輩の家だ」
「え・・・そうですか」
「言いだしっぺだからもてなしたいそうだ、先輩のマンション入り口に手土産持参で××時に集合」
「手土産ですか・・・」
「ああ、松井は主役だが、招待されもてなされるゲストだから持っていく必要がある」
「そうですか・・・何がいいでしょうか?」
「こういうのは初めてか・・・」
「はい」
「そうだな・・・」
腕を組み考える先輩

「・・・食べ物、中でもお菓子が無難だな、高いものでなくてもいい」
「お菓子・・・・ケーキとか」
「あとは食事会だから、そこで食べる惣菜、おかずを持っていくとか」
「おかず・・・ですか、いいですね」
「この前のおじやのお返しにいいんじゃないか?」
「そうですね、でも・・・・」
だんまりの意味を理解し先輩が言う

「まったく料理できないわけではないだろう?」
「まあ」
「それに簡単な調理で立派なおかずができるチルド食品、調味料が売っている」
「いいんですか?そんなので」
「逆に聞くが、そんなものくらいしか作れないのだろう?」
さらっとひどいことを言うが簡単な調理しかできなので言い返さない

「はい」
「その場で食べきれるちょっとしたものでいいから作ってみろ、これも経験だ」
「わかりました、なんか作ってみます」

ということで快気祝いの食事会が小泉先輩の家で開かれることになった










食事会当日 夕方


赤井先輩と僕は料理を一品持って先輩の家に来た

「こんばんは」
「失礼します」
先輩の家にあがる

「こんばんは、さ、あがってあがって」
エプロン姿の小泉先輩に出迎えられる

中に入る
一人暮らし用の大きくないテーブルにはすでに料理と食器が並べられていている

「先輩気合入ってますね」
「まあね、松井君を思えばこれくらい」
そういいながら盛り付けた料理を台所から持ってきた先輩
もう置く場所がない

「僕たちの手土産の料理は出番ないですね」
「えっ、えっ作ってきたの」
驚く小泉先輩

「はい、・・・赤井先輩伝えてなかったんですか」
「先輩へのサプライズになるだろうと思って伝えなかった」
「まあそうなの、盛りつけるから出して」
嬉しそうな小泉先輩

「えーと・・・・」
タッパーを渡す。
それを受け取り中身を確認する先輩たち

「かぶってしまって・・・・」
僕が作ってきたのはポテトサラダ。
ちゃんとジャガイモ、を茹でるところから作っている
僕の中では切って、茹でて、混ぜるだけの簡単な料理
しかも既存の製品を使用しなくて済む
赤井先輩から市販の加工品を使ってもいいと言われたが、やっぱり使いたくなかった
ミックスベジタブルは使ったけど
話を戻すと、テーブルには小泉先輩が作ったジャガイモをつぶさないタイプのポテトサラダが置いてある
ゆで玉子やオリーブの実、たまねぎ、ブロッコリーなんかが入ったおしゃれなポテトサラダだ

「気にしないで、ありがとう」
先輩は食器棚から小鉢を取りだし盛り付けはじめる

「リーシャは何を?」
「私はケーキを買ってきたました」
赤井先輩はビニール袋からケーキの入った箱を取り出す

「ありがとう、・・・・これこの間言っていた店の・・・」
小泉先輩は箱にプリントされた店のロゴを見て驚く

「はい」
「うれしい、ありがとう」
「この店は行列が絶えない人気のケーキ屋で、食べてみたいと先輩が仰っていたので買ってきました」

赤井先輩はケーキの入った箱を小泉先輩に渡しながら僕に説明する
「先輩はケーキ買ってきたんですか?」
「料理を作る時間がなかったんだ、私たちは手を洗ってこよう」
「・・はい」








「それでは松井君の風邪が治ったのを祝ってかんぱーい」
赤井先輩の音頭でささやかな食事会が始まった

「どんどん食べてね」
「おいしいです、このから揚げ」
赤井先輩がから揚げを食べて目を丸くしている

「特製スパイスを使ってるの」
「この味は初めてです」
感動するほどのから揚げとは
僕も一口から揚げをかじる

「・・・・!」
肉汁があふれ出し、うまみが口に広がる
程よい塩味、辛すぎないスパイスが肉によくなじんでいる
そしてスパイスの香りが食欲を刺激する

「うまい」
先輩たちがこちらを向く

「うまいです、売れますよこれ」
「それは褒めているのか?」
めいっぱい褒めたつもりなのだが先輩たちにはそう聞こえなかったようだ

「売り物になるくらい良いってことね、ありがとう」
「・・・・そうです」
赤くなる僕

「松井君のポテトサラダいただこうかな」
「じゃあ私も」
先輩二人はポテトサラダを口に運ぶ

「・・・・・・」
僕は箸を置き、先輩たちを見てしまう
反応が気になり少し緊張してしまう

「・・・・いいんじゃないか」

最初に反応があったのは赤井先輩
「そうでしたか」

正直、「いいんじゃないか」は褒めているのかそうでないか微妙な言葉だ
そうですかとしかこちらも言えない

「うん、おいしい」
遅れて小泉先輩も感想を言う
「そうですか、よかった」

小泉先輩においしいと言ってもらえて素直にうれしい

「これ全部、手作り?」
「そうです、皮をむいて茹でて、つぶして、ミックスベジタブルを解凍して入れて、マヨネーズを入れて混ぜて作りました」

うれしくて、分かってほしくてついつい調理工程をすべて話す、しっかり舞い上がっている

「そっかぁ、うんうん、良くできてる、ありがとう」
微笑む小泉先輩

「・・・・どういたしまして」
その表情がまぶしくて下を向いてしまう

「先輩のポテサラもおいしいですね」
「そう、ありがと」

そうだ、先輩のポテトサラダもあった
小皿に盛って口に運ぶ
マヨネーズではなくドレッシングで味付けしてある

「おいしいです」
「でしょ」
「こういうタイプのポテトサラダは初めてです」
「私の家ではこれがポテトサラダなんだけど」
「私の家も松井と同じです、先輩ソース借りていいですか?」
赤井先輩は立ち上がり台所に向かう

「いいけど、ソースをかける料理は・・・」
「この(松井の)ポテサラにソースかけて食べるんですよ」
ソースを片手に戻ってきた先輩は答える

「え!?」
驚く小泉先輩
「それじゃ味がわからないでしょう」
「そんなことないですよ、おいしいですよ、ソース派は結構いますよ」
ソースをかける赤井先輩
「えー、松井くんは?」
信じられないという顔でこちらを見る
「僕はかけないですけど、かける人は見たことあります」
「マヨネーズとソースは合うんですよ」
ソースのかかった(松井の)ポテサラを頬張る赤井先輩
「・・・・私はそのままのほうが美味しいと思うけど」

といった感じでささやかな食事会は進んでいった








「ごちそうさまでした」
「おいしかったです」
「お粗末様です。松井君のポテトサラダもおいしかった」
「・・・どういたしまして」

ご飯を食べ終え3人で食器をかたづける

食器を小泉先輩に渡す
「ありがとう」

「デザートは私がやります」
赤井先輩が冷蔵庫から箱を取り出し、ケーキを盛り付け始める。

「飲み物は私がやるから、主役の松井君は待っていて」
立ち上がろうとする僕を制止する

「はい」
することがなくなったので台所から部屋に戻る

ほどなくして先輩たちがケーキとコーヒー、紅茶を持ってきて配膳する

僕もケーキの配膳を手伝う

「ガトーショコラは私(リーシャ)で、松井がこれ」
フルーツタルトを僕の前に置く先輩

「(小泉)先輩はモンブランです」

僕はモンブランのほうが好きなのだが
「宝石みたいね、このフルーツタルト」

小泉先輩がフルーツタルトに興味を示す
イチゴ、キウイ、オレンジ、ブルーベリー、モモなどのフルーツが見栄えよくタルトに載せられている

「結構人気なんですよ、これ」
小泉先輩が説明する
他人に褒められるとあまり食べないフルーツタルトといえど譲りたくなくなるし、換えてほしいとは言いたくなくなる。モンブランは別の機会にしよう

「先輩のモンブランもすごいですよ、栗が上に載っているだけでなくて中にも入っているんです」
「そうなの」

「私とリーシャはコーヒー、松井君は紅茶」
僕の前に配膳されたのは先輩が持ち歩いている紅茶だ

「気に入ってくれたみたいだから、特別に」
「ありがとうございます」
この気遣いは素直に嬉しい

「リーシャの買ってきてくれたケーキいただきます」
「いただきます」
「・・・・おいしい」
「あとでお店の場所教えて」
「はい」

赤井先輩が買ってきてくれたケーキはおいしかった
フルーツの酸味、下地のクリームの甘みのバランスが良い
わざわざモンブランに換えてほしいと言わなくてよかった

「松井君」
「はい?」
小泉先輩が話しかけてきた

「そのタルト一口もらってもいいかな」
再びタルトに興味を示す小泉先輩

「いいですよ」
先輩の前に皿を差し出す

「モンブランも悪くないけど、フルーツタルトは大好きなんだ」
言いつつフォークで切り取り口に運ぶ

「うーんおいしい、リーシャほんとにありがとう」
笑顔になる小泉先輩
その幸せそうな笑顔に見惚れてしまう

「はい、お礼」
「・・・・はい!?」

見惚れていたので反応が遅れる
小泉先輩はモンブランが載ったフォークを僕の口の前に差し出してきた
「えっと」

何も言わずこちらを見つめる先輩
食べてといいたいのだろう

「いただきます」
モンブランを口に含む
「・・・・・おいしいです」

幼少期に母親にしてもらって以来のあーん、絶対赤くなっている
「どういたしまして」
微笑む小泉先輩

「ところでリーシャ」
「はい」
「買ってきてくれて値段のことを聞くのは失礼なんだけど、このケーキはいくらしたの?結構レベルが高いけど」
「たしか・・・モンブランが○○円、松井の(フルーツタルト)が××円、私のショコラは△△円です」
「えっ・・・」
「・・・・高くないですか」

店のリーフレットを取り出し確認する赤井先輩
「あ、ショコラは□□円でした」

訂正した値段はもっと高かった
「それ見せて」

僕と小泉先輩は手渡されたリーフレットを見る
定番のケーキから店オリジナルのケーキ、焼き菓子など総じてどれも高い、そして材料にもこだわっていることが説明されている。高級路線の店だ

「デパートの値段ですよ、これ」
「そうね、とてもホールで買うなんてできない」

驚く二人をよそに赤井先輩は冷静に答える
「確かに高いので頻繁には買えないですけど、質は値段に見合っていると思います」
「そうですね」
「ごめんリーシャ、私また買ってきてって気軽に頼んじゃうとこだった」










デザートも食べ終え、食事会も終わりにはいった時、僕は気になっていたことを聞いてみた

「そもそも、赤井先輩と小泉先輩はどういう経緯で知り合ったんですか、なんかいつも仲良くしているので」
友人が少ない赤井先輩はともかく、人当たりがいい小泉先輩の周りには知り合いが多くいる。
でも僕が知っている小泉先輩はひとりか赤井先輩と一緒に行動している。

「私はリーシャが1年生だった時に彼女たちのゼミアシスタントをしていたの」
「そうだったんですか」
「その時の縁で今も時々会って話したり、出かけたりしているんだ」
「どう?ゼミでのリーシャは?」
「すごくお世話になってます、いいこと言ってくれますし、困っているとアドバイスしてくれて助かっているし、この間のお見舞いの時もありがとうございました」
「でしょ、リーシャはこう見えていい人なのよ」
「・・・・」
褒められて赤くなる赤井先輩
「それは、先輩が私たちにしてくれたことをやっているだけで別に・・・・」
「でもそれってなかなかできることじゃないのよ、大学生は基本自由行動、授業以外はみんな好きなことして過ごすのに後輩のために倍の勉強するって大変なのに、リーシャがアシスタントをやりたいって申し出たときは嬉しかったし、感慨深かったわ」

もっと赤くなる先輩
「話を変えましょう・・・」

片や見た目から優しいダークエルフ、
片や見た目と口調がきついが中身は優しいヴァンパイア

「なんか、2人を見ていると姉妹に見えてきます」
「そう?」
「そうか?」
「見えます、なんていうか優しいところとか、お互いのことよくわかってて、小泉先輩は赤井先輩のこと思いやっていて見守っている感じで、赤井先輩は小泉先輩のこと尊敬していて、先輩みたいな人になろうとしているのかなって思います」

「それは・・・・」
引き続き顔が赤い赤井先輩

「そうかもしれないわね」
赤井先輩のほうを向き微笑む小泉先輩

「・・・・・も、もうお開きにしましょう」
小泉先輩の視線に気付きいてもたってもいられなくなった赤井先輩が立ち上がり食事会の終了を宣言した


「・・・・もうこんな時間か」
赤井先輩は時計を確認する

「ずいぶん経ってましたね」
僕も携帯の画面で時刻を確認する

「じゃあ、そろそろ・・・」

「私は帰る、松井は泊まっていけ」
「えっ、いやでも、何言ってるんですか先輩」
突然の提案に驚く

「何を言っているのはお前だ、松井、この鈍感」
「え?」
赤井先輩はさっさと帰る支度をして玄関にいく
「お邪魔しました」
言うと出ていった

取り残される僕
「泊まるなんて迷惑で」
小泉先輩のほうをむこうとして、両肩を後ろからつかまれる。

「そんなことない」
赤井先輩が勝手に言い出したことではあるが意外なことに小泉先輩も泊まることを拒まなかった
「・・・・・」

ここ1か月、先輩からのアプローチは1限の授業を除けば長くないやり取りばかり、だけど今日は違う、泊まっていってほしいとはっきり言われた。そもそも快気祝いと言っていたけれど僕の家ではなく先輩の家で行われた、告白されたのも先輩の部屋だったことも考慮すれば単なる食事会ではない

「ごめんね、今急いでいるから返事は日を改めて・・」

赤井先輩が鈍感と言った理由をようやく理解する

そういうことか

今が返事のチャンスだ

でもまだ・・・


先輩は逡巡する僕の耳元にささやく

「返事の前に私は松井君のこともっと知りたいし、私のこともって知ってほしい」
「・・・・・僕も・・・・知りたいことがあります」







帰り道 

赤信号の交差点で私は立ち止まる
ぼおっと遠くを眺める

「まったく・・・・・あんなノロケ空間、居心地が悪くて息がつまる」

今日の食事会は先輩と松井だけでやればいいものを私まで呼んだのは私に対する恋人作れのメッセージなんだろう
「恋愛って・・・・使用人じゃ・・・・ダメなんだ・・・のか?」
15/05/06 11:08更新 / 明後日の女神
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■作者メッセージ
やっとここまで書けました。お待たせして申し訳ありません。

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