連載小説
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(126)クラーケン
真っ暗だった。正確に言えば、小さな光の円が暗闇を裂いて地面を照らしていた。とは言うものの、両手で作った丸ほどの大きさの円では、でこぼことした岩と砂ぐらいしか見えなかった。
「ま いにぃち ま いにぃち オレたちゃ ドンゾコ ま いにぃち ま いにぃち あしたも ドンゾコ」
 暗闇の中で、男はそう口ずさみながら体の向きを変える。彼の肩ほどに取り付けられた照明が投げる光の円が、その動きにあわせて移動した。新たな岩が円に入ると共に、つい先ほどまで見えていた岩が闇に消えていった。
「ま いにぃち ま いにぃち ここだ あしたも」
 男はあたりに岩しかないことを確認すると、移動することにした。足をゆっくりと持ち上げ、少しだけ前方に踏みおろせば、男の足下から砂が舞い上がった。砂は男の照明と地面の間に入ると、光を浴びてきらきらと反射した。しかし男はそんな様子に目を向けるわけでもなく、今度は反対の足を踏み出した。
「どん どんどん ど どどん ゾコ ゾコ」
 男は歌いながら足を踏み出し続けた。歌っていないと、自身が消えてしまうような沈黙が襲いかかるからだ。かすかな衣擦れと、男の呼吸のほかにはなにも聞こえないのだ。風のそよぐ音も、せせらぎの音色も、狼の遠吠えも聞こえないのだ。
 この、昼でも光の届かないような深海では。
「ま いにぃち ま いにぃち ドンゾコ ゴミどこ?」
 男は足を進めながら、歌い続ける。いくつもの金属部品と防水処置の施された皮を組み合わせた全身鎧のような潜水服は、確かに彼を海水か守っていた。しかし、この指二本分の厚みもないような服の外には、沈黙よりも重い海水が満ちているのだ。
 大昔に沈んだ輸送船の残骸の探索。潜水服という道具も貸してくれる上に、現場の海域までの送り迎えもあるという破格の待遇だったが、男はなぜこの仕事に人気がないのかを痛いほどに悟っていた。沈黙と、服一枚向こうの死の世界が、じりじりと男を擦り潰していくのだ。
『いいか、最近海に落ちてもマーメイドが助けてくれるから溺れ死ぬことはないって話を知ってるな?』
 男の脳裏に、今回の仕事の上司の言葉が浮かんだ。
『確かにそうだが、本当は海で溺れ死ぬことはないから、いつかはマーメイドが助けてくれる、ってことだ』
 男は子供の頃、風呂で溺れたことがあった。たったあれだけの水でも、かなり苦しかった。
『それで、今度おまえたちが探索するような深い海には、そうそうマーメイドは現れない。そんな海の底で、潜水服が壊れたら、どうなると思う?』
 海に満ちる魔力が、男を生かし続けるだろう。誰かが助けてくれるまで、ずっと溺れながら。
 男は、歌いながら残骸を探すことで、どうにか正気を保とうとしていた。しかし、歌詞のネタが切れてしまったためか、彼の口から紡がれるのは「ドンゾコ」に調子をつけたものばかりだった。
 もしかしたら、すでに自分は狂っているのかもしれない。
 男の胸中に、そんな思いがふと浮かぶ。だが、狂って恐怖が紛れるのならば、男は喜んで狂うだろう。
 ほんの少し、彼の潜水服が裂けるだけで、大量の水が流れ込んでくるのだ。彼はしばらくの間は息を止めて堪えるだろう。しかし息苦しさのあまり、体内のわずかな空気を手放し、肺一杯に息を吸おうとするはずだ。だが、彼の肺に流れ込むのは海水だ。気が付いたとしてももう遅い。水は口といわず鼻といわず目といわず耳といわず、ありとあらゆる穴から流れ込み、彼を満たすのだ。そして意識が途切れるまで、鼻の奥や喉を刺し貫くような痛みが襲い続ける。
 一度はその身で味わった恐怖と苦痛から逃れられるなら、男は正気など即座に捨て去る。
「えーと…ドンゾコ…あーと…」
 節回しも曖昧になり始めたところで、男はふと光の輪の円を何かがかすめたことに気が付いた。黒く先端がとがった何かが、海底から突きだした岩に立てかけられているようだった。
「…!」
 男は歌を断ち切ると、体ごと照明を岩場に向けた。しかし光の輪に照らし出されたのは、妙に白っぽい岩と砂ばかりだった。
「なんだ、気のせいか…」
 おそらく、岩の影か何かを見間違えたのだろう。そう考え、男が再び探索を再開しようとしたところで、不意に光の円が消えた。砂や岩場が闇の中に消え、一瞬自身が失明してしまったのではないかという思いが、男の脳裏に浮かんだ。
「お、おい何だ!?」
 男は声を上げ、闇の中で手を振り回した。全くなにも見えないが、潜水服越しに海水が腕に重く絡む感触はわかる。
「大丈夫、大丈夫だ…」
 男は辺りが闇に包まれた瞬間から、一歩も動いていないことを思い出しながら、肩口の照明器具に手を伸ばした。そして、前方を照らすそれにふれると、どうやら何かが覆い被さっていることが、潜水服の分厚い手袋を通じて感じられた。
「な、なんだ…ヒトデか、海草…」
 そこまで納得しようとしてから、男は気が付いた。こんな、光も届かないような海の底で、男がみたのは砂漠のような景色だった。光が届かねば海草は育たず、海草を餌にするヒトデもいない。では、なにが男の照明を隠しているのだろう。
 男がそこまで考えたところで、彼は潜水服の腹の辺りに何かがぶつかり、ゆっくりと胸元まで上がってくるのを感じた。何かが、いる。
「…っ…!」
 闇の中で声を上げそうになったところで、男の視界が不意に白く塗りつぶされた。男の肩の照明を覆い隠していた何かが、取り除けられたのだ。目の裏側が痛むような眩しさに男はうめきつつも、強引に目を見開いた。見えるのは先ほどと変わらない岩と砂ばかりだ。
「どこだ!?」
 男は潜水服の中で声を上げつつ、その場でぐるりと体を回転させた。光の円は海底の闇を切り裂くが、見えるのは岩と砂だ。少なくとも、男の照明を覆い隠し、わき腹から胸までを『撫で上げた』何者かの姿はなかった。
「誰だ…誰なんだ…」
 男は声を震わせながら、その場でぐるぐると回転した。声は震えており、目には涙がにじんでいる。確かに、一度は正気を手放したいとも思っていたが、こういった方向に狂うのは勘弁だ。誰かが居てくれないと、男は本当に望まぬ方向に狂ってしまう。
…………
 潜水服の内側に、海水の流れが生み出す音が響いたような気がした。直後、男の背中から前方に向けて、軽い衝撃が突き抜けた。
「っ!?」
 男が振り向こうとするが、体が動かない。手を振り回すと、潜水服の装甲に何かがぶつかるのが感じられた。そして同時に、彼の潜水服の両脇の柔らかn部分が、彼の脇に食い込んだ。
 誰かが背後から、男に抱きついている。
「ーーーーーっ!?」
 男は声を上げた。悲鳴とも怒号ともつかない、もはや音にすらなっていない声をだ。そしてめちゃくちゃに手を振り回し、どうにか抱きつく何かを振り払った。直後、彼は振り返った。それは、背後に誰もいないことを確かめ、全て自身の錯覚であったと確かめるためだった。
 しかし、光の円に切り取られた闇の中に、白い女の顔が浮かんでいた。
「っ…ぁぁぁあああああ!」
 男は潜水服の中で絶叫すると、身を翻して駆け出そうとした。しかし、重い海水は彼の四肢に絡み付き、手足の自由を奪った。海底を蹴ろうにも、積もった砂が撒き上げられるばかりで、男の足は空回りを繰り返した。そして、数歩進もうともがいたところで、男はバランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。
「あがっ…!」
 潜水服の内側に顔や体を打ちつけ、男は声を漏らした。同時に彼は、今の転倒で窓が割れたり、潜水服に裂け目が生じていたかもしれない可能性に思い至り、肝と頭が冷えるのを感じた。
 落ち着いて行動しなければ海水に押しつぶされる。そうだ。冷静に考えてみれば、さっき見えた女はなにもつけていなかった。きっと、背の高い岩に光が当たって、ちょうど女の顔のように見えたのだろう。こんな暗い海の底に、生身の人間や魔物が居るはずがない。
「落ち着け…落ち着け…落ち着け…」
 男は海底にうつ伏せに倒れたまま、そう繰り返した。そして、両腕に力を込め、腕立て伏せの要領で起きあがろうとした瞬間、彼は体が意図した以上に浮かび上がるのを感じた。
 右腕が持ち上がり、ぐるりと転がされるように、彼は仰向けにされる。すると、海底の砂粒を照らし出していた光の円に、海の闇を背にした女の姿が浮かび上がった。
 それは、白くて黒い女だった。顔や首、肩口や胸元はまばゆいばかりに白い肌なのだが、彼女の両手の先を覆う長手袋や、腰から下を隠すスカートは光に照らされてもなお黒かった。
『……』
 男を見下ろしながら、女が唇の端をつり上げて見せた。男は、彼女の表情に背筋を冷たいものが滑り落ちるような錯覚を覚え、ぶるりと全身を震わせた。恐怖によるものではない。彼女の真っ黒な瞳に射抜かれた瞬間から、彼の意識の恐怖を司る一角は麻痺してしまっていたからだ。
 男が呆然と女を見上げていると、彼女はふわりと仰向けに倒れ伏す男の上に舞い降りた。
 潜水服越しに、何かが乗るかすかな重みが加わった。金属と革を組み合わせた、衣服数枚でも足りないほどに分厚い距離を隔てているというのに、男は彼女の太腿から尻にかけての感触を自身の上に感じた。
『……』
 女は上半身を屈めると、男の潜水帽の窓を撫でながら、唇を小さく開閉させた。男は、彼女の整った顔立ちや、艶めかしく開閉する唇、そして窓を撫でる艶を帯びた長手袋の指先に視線を迷わせていた。
 彼女は潜水帽の窓を一撫ですると、そのまま窓を固定する金具や、金属部品、潜水服との継ぎ目へと指を滑らせていった。潜水服と違って、球形に整形された金属の潜水帽は、男の肌に密着することはなかった。だが、窓から覗く彼女の腕の角度や、潜水帽の内側に響く微かな音から、彼女が今どこを撫でているのかはわかった。やがて男は、潜水帽越しの彼女の指先の感触を覚え、いつしか彼女が直接触れているような錯覚に陥っていった。
「…お…うぉ…」
 彼女の指先が男の『頬』を撫でる感触に、男は声を漏らした。いつだったろうか、初めて女を買い、緊張と興奮に震える若い男を楽しませようとしたあの商売女の愛撫。そのときよりも、目の前の女は男を心の底から震わせ、興奮を煽るようだった。
『……』
 女は窓越しに男の表情が見えるのか、軽く目を細めつつ、男の頬から額、耳元からうなじを通って首筋へと手を滑らせていった。金属部品を経ているというのに、男は肌の上を滑る彼女の指先を感じ、潜水服と作業ズボンの内側で、分身を屹立させていった。
 女は、金属と革に隔てられた男の屹立を感じ取ったのか、にぃと笑みを深める。そして男の上で、彼女は軽く上体を揺らした。夜会用のドレスのような衣服に押さえつけられた彼女の乳房がゆっくりと揺れ、遅れて彼女の銀色の長い髪の毛が舞った。陸上ならばほんの一瞬の仕草だというのに、彼女を包み込む大量の水が一瞬を十数倍に引き延ばす。乳房の揺れる様や、髪の毛がふわりと舞い上がって垂れていく景色は、男の目から意識へと延々そそぎ込まれ、彼に女の美しさを刻み込んでいった。
「あぁ…」
 男はため息を付きながら、女に向けて手を上げた。潜水服の分厚い手袋に包み込まれた太い指先は、それとわかるほど震えている。しかし男は、腕を中途半端に伸ばしたところで動きを止めた。女の手を取るわけでもなく、乳房をつかむわけでもなく、彼女の頬に触れようとして、その遙か手前で止まってしまったようだった。
 それは、もはや男にとって、自身に跨る女の姿は、性愛の対象ではなくなっていたからだった。手を握るにも、乳房に触れるにも、それどころか彼女の存在に触れようとする行為自体に対し戸惑いを感じるほどまでに、男は畏れを抱いていたのだ。
『……』
 女は男の硬直にほほえむと、再び彼の『頬』を撫で、『首』から『肩』へと撫で上げていった。人体を模擬するように湾曲した金属部品と黒い長手袋の向こうを、女の指先が滑っていく。男には、彼女の指はもちろん、手首より先の様子すら見えていなかった。だが彼は、彼女の白魚のような、いや地中深くに結晶した石英のように白くすべすべとした指先を確かに感じていた。
 氷に触れたかのように、男の全身をぞくぞくとするような震えが襲う。しかし男は苦痛や驚きよりも、悦びを感じていた。女が触れてくれているのだ。男の震えと悦びは、彼女の指先が『肩口』から『腕』へと移り、少しずつ指先へと迫るにあわせて徐々に強まっていった。
 『二の腕』をさすった瞬間、彼の分身は一回り大きく屹立した。『肘』を軽くくすぐられると、男は全身を優しく撫でられたかのような気がした。『前腕から『手首』までを一筋に撫で上げられるとともに心臓が高く跳ね上がり、『手の甲』をくすぐられた瞬間には肉棒が心臓のように脈打っていた。そして、男の太くて分厚い『指』の間に、女が自身の指を差し入れた瞬間、男は意識の底が破裂擦るのを感じていた。
 そして数瞬の忘我を経て、男は射精してしまっていることに気が付いた。分厚い潜水服の下、直接女が屹立の上に座っているわけではないが、それでも女は男の絶頂を悟っているようだった。
『…』
 女は、潜水帽の窓越しに見える男の表情と、潜水服の微かな震えに、慈しむような視線を男に向けた。
 その瞬間、男は自身にとっての最大の悦びを感じた。男にとっての悦びは、旨い酒や料理を楽しむことでも、女を思いのままにすることでもなかった。女にこうして見守られながら、自身の悦びを露わにすること自体が悦びだったのだ。
 男がその事実に思い至った瞬間、彼は頭蓋の内側が蕩けるのを感じた。もはや男として強くありたい、などといった体面などどうでもよかった。ただただ、彼は彼女に見守られながら、自身がいかに喜んでいるかを伝えたかった。
 女は、男と指を絡めあわせたまま、ゆっくりと上体を倒し、潜水帽の窓に顔を近づけていった。
 彼女がみている。自分をみている。
 男は、接近する女の整った面立ちに、白濁塗れの肉棒を屹立させながらそう考えた。
 男の全身から力が抜けているにも関わらず、彼の股間は心臓の代わりをつとめようとするかのように、いっそう強く脈打っていた。
 そして、男の視界の橋で、女の夜会ドレスの裾が動くのが見えた。それは正確に言えばドレスではなく、彼女の触腕だった。彼女の腰から下にあるはずの、おそらくは真っ白なすべすべとした脚の代わりに、辺りを満たす闇のように黒い触腕が幾本も、潜水服の上を這い回っていた。
「これ…お…!?」
 男はどうにか身を起こし、女の異形を見極めようとした。しかし彼女は、男の『肩』に軽く触れ、微かな身じろぎを押しとどめた。
 大丈夫、全て任せなさい。
 男は、彼女の唇がそう紡ぐのを、海水と潜水帽越しに聞いたような気がした。
 そうだ、全て任せればいい。
 男は遅れて自分がなにを確かめようとしていたのかを忘れたように、脱力した。もちろん、潜水帽の窓の端に触手が見えたのは覚えている。だが、彼女は潜水服なしでは圧殺されるほどの深海に身一つで居るのだ。今更、彼女に両脚がないことを驚く必要があるだろうか?
 男は彼女の指を『手』に。彼女の重みを『腰』に。そして『四肢』や『腹』に彼女の何本もの脚を感じながら、再び意識を落ち着かせていった。
 そう、彼女の触腕は手であり、腕であり、脚であるのだ。人とは少々異なる方法で、人などよりずっと深く抱擁してくれるのだ。そう思えば、なんともないどころか、むしろ喜ばしいほどであった。
「あぁ…」
 男は潜水服の『肌』の上を触腕が這い回るのを感じながら、ため息のような声を漏らした。触腕は男の『肌』を撫でるばかりでなく、ゆっくりと、しかし徐々に絡み、巻き付いていく。縄よりもしなやかで、太く、強靱な触腕は男の自由を奪っていった。しかし、恐れはない。むしろ、彼女をより密に感じられて、心地よいほどであった。
「ああ…もっと…」
 男は潜水服の中でそう求めた。『腕』も『脚』も触腕に絡めとられ、『腹』や『胸』、『首』を緩く締め付けられている。しかしそれはあくまで潜水服越しの話だ。分厚い革と頑丈な金具が、男と女の間を隔てていた。
 男はもはや、吐息によって曇る潜水帽の窓にも、潜水服越しの鈍い感触にもうんざりとしていた。こんな海の底でなければ、とっくに脱ぎ去って、彼女に抱きしめられることができたというのに。内と外の立場は真逆だが、エビの殻のように邪魔くさい。
 底まで考えたところで、男はふと思い出した。
 海は変わったのだ。溺れることはあっても、溺れ死ぬことはない。それこそ、こんな海の底でもだ。
 海の底で潜水服が破れれば、誰かが助けてくれるまで溺れ続けることになる。しかし、男の目の前には彼女がいた。男の心の中の天秤は、すでに片方に傾いていた。
「…!」
 男は息を荒げると、女の触腕が巻き付く腕を動かし、潜水服の留め金を探った。複数人がかりで組み立てるようにして着せられたが、脱ぐことぐらいできるはず。
 しかし、潜水服の表面は、分厚い革と金具越しでもそれとわかるほど、留め具のような凹凸がなかった。
『…』
 すると、窓の向こうで女が笑みを浮かべた。男の表情と、微かな身動きに、彼がなにをしようとしているのかを悟ったのだ。それまで、単なる愛撫でしかなかった触椀のうごめきが、不意に目的を持ったものになる。潜水服の表面を探り、微かな凹凸に触腕をひっかけ、力を込め始めたのだ。

ミシ…イィ…

 不意に、潜水帽の中に音が響いた。軋むような音だ。潜水服の金具が、女の力によって悲鳴を上げているのだ。だが、男にはその音は歓喜の声にしか聞こえなかった。もうすぐ潜水服を脱ぎ去れる。もうすぐ彼女と直に触れ合える。この、邪魔くさい殻から出られる。
 男の胸の奥で期待が膨れ上がっていき、その瞬間に向けて心臓が高鳴っていく。
 そして、肩口に取り付けられていた照明が、潜水服の湾曲に耐えきれず外れた。明かりは海の底の砂の上を数度転がり、男とは全く別の方角を照らすようにして動きを止めた。
 遅れて、深く暗い海の底に、音が一つ響きわたった。
14/04/05 21:17更新 / 十二屋月蝕
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 エビかカニを襲うタコの動画がエロチックだったので書きました。

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