連載小説
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リベンジマッチ
リベンジマッチ


世界共通の文化の1つであるスポーツ。中でもボクシングは最も歴史があるものの1つだ。たとえ、この世界から戦争が無くなっても、人間と魔物娘は殴り合いを辞めないだろう。


新天地アルカナ大陸に西の大陸から人々と魔物娘が渡り、人間と魔物娘の自由の国アルカナ合衆国が独立して久しい、聖歴 並びに人魔歴1951年。

時は正にボクシングの戦国時代!!

人間のW.H.B.C(ワールド・ヒューマンズ・ボクシング・カップ)

魔物娘とインキュバスのW.M.B.C(ワールド・モンスターズ・ボクシング・カップ)

その統一リーグであるW.H.and.M.B.C(ワールド・ヒューマンズ・アンド・モンスターズ・ボクシング・カップ)は正にボクシングの夢の舞台である。




『号外だよー!!号外だよー!!』




摩天楼の片隅、ニュー・シャテリアシティにあるポストマン・ストリート。ハンティングキャップをかぶった男の子が1人。そばかすが可愛らしい。小さな身体にはとても釣り合わない新聞の束がぎっしりと詰まった大きなポストバッグを肩に下げ、手には小銭入れを握りしめ、大きな声を張り上げている。

『坊や。1つおくれ。』

『へい!まいどー!』

『おーい、ボウズ!こっちもだ!』

『はいサー!1ダラーだよー!』

『頑張れよボーイ』チャリン♪(25センツのチップ)

『わぁ!ありがとうございます!』

飛ぶように売れる新聞と、どんどん軽くなっていくバッグ。それと反比例するように代金箱とチップでずっしり重くなる小銭入れを見て新聞売りの男の子は嬉しそうにしている。

男の子が配る号外の見出しはこうだ


ニュー・シャテリアタイムス 号外

帰ってきたアビゲイル。3R1:28秒、KO勝利!ランキング1位に。不屈の闘志と勝利への執念!!タイトル戦間近!!!



『おぉ!勝った!アビゲイルがランキング1位だって!』

『これは盛り上がる!』

『お前はどっちに賭ける?俺はホセだ!』

『手堅いな。俺はアビゲイルKO勝利の大穴だ。男ならドンと張れ!!』

ニュー・シャテリアタイムスだけではない。ワトソン・ポストもザ・ライアンジャーナルも、はたまた遠くジパングのヒノモト・マガジンまで注目している。

今、合衆国中がボクシングに夢中だ。

アビゲイルはプロ復帰戦ヘレン・アームストロングを見事に倒し、ミドル級ランカー戦に乗り出した。地道な努力を重ね、格上相手に勝利を収め、遂にはランキング1位になり、チャンピオンへの優先的な挑戦権を獲得した。

一方、チャンピオンのホセは淡々と防衛戦をこなし、危なげなく王座にのさばり続けた。ランキングが激しく入り乱れるボクシング戦国時代の中で長期政権を維持し、数々の死線を潜り抜けた。圧倒的な戦略、戦術、ディフェンス能力に更に磨きをかけ、弱点らしい弱点が見当たらない。もはや魔物娘から見ても化け物じみた強さを感じさせるほどに成長している。『リングの騎士』と呼ばれた彼はいつしか『リングの勇者』と呼ばれていた。

W.H.and.M.B.Cミドル級はアビゲイル参戦で大荒れに荒れ、上位ランキング保持者をチャンピオンとアビゲイルで食い潰した形になった。その結果、アビゲイルを除外したタイトルマッチの権利を持つ1位〜10位までの上位ランキング保持者は、繰り上がりで順位を上げた実力の無い下位選手ばかりとなった。最早、両者の闘いは避けられない状況だ。

この2人の選手は今や新聞で見ない日が無いほどで、人々はこのビッグマッチを今か今かと待っている。TVショーでも、ラジオでも、当然の様に話題となった。

アビゲイルが1位になって程なく、彼女とアレクサンドリア・ジムは挑戦権を行使。ホセが所属するフラッテラ・ボクシングクラブはそれを承諾。遂にチャンピオンのホームタウンであるサン・フランシスカ市にてタイトルマッチのスケジュールが組まれた。


それから、1カ月後のニュー・シャテリア市……

“只今より、W.H.and.M.B.Cミドル級タイトルマッチの記者会見を行います。”

新聞記者とカメラマンが放つストロボカメラのフラッシュの中、両陣営が席に着いた。

“では、リベンジマッチとなるチャレンジャー、意気込みをどうぞ。”

『……タイトルマッチは1週間後にチャンピオンのホームタウン……サン・フランシスカで行なわれる。ニュー・シャテリアへの土産代わりに奪われたベルトを返してもらう。』

おおぉ……

“チャンピオン!いかがでしょうか?一言お願いします。”

『……申し訳ないが、セニョリータがサン・フランシスカから土産を持ち帰ることは無いだろう。俺はいつもと同じように“仕事”を片付けて家路につくだけだ。願くば、この試合でアルカナ合衆国の全ての方々にボクシングの素晴らしさを知って頂きたい……そう思います。』


おおぉ……


場の雰囲気が一気に緊張する。静寂の中でホセの冷たい闘気とアビゲイルの燃える様な闘気が漏れ出しぶつかっている。その息の詰まりそうな雰囲気から、実際の試合で吹き荒れる激しい嵐の予感がしてならない。皆脅えてしまい、声をかける者は1人もいない。

緊張感がピークとなった所で、2人はほぼ同時に立ち上がり、背を向け、それぞれの控え室に向かい、会場を後にした。2人が去った会場からはため息の濁流がどっと流れ、各々事なきを得た安堵に胸を撫で下ろしている。


どんな激しい試合になるのか……嵐はすぐそこに迫っている。











ピー……ガー……ジジッ……

摩天楼の片隅。ごった返したバーの店内で白黒テレビが掠れた音を出している。その場にいる全員が食い入るように壊れかけたテレビをみている中

『頑張ってね……アビゲイル!』

『無事に帰って来い…………』

アビゲイルの姉であるバーの店主、オリビアとその夫のオットーが祈るように呟いた。


ジジッ……………ブッ…………(しーん……)

『あれ?……ねぇ、あんた。』

『あいよ…………(ブン!!)』 バシン!!!

ビクッ!(客一同)

……ピー……ガー……ジジッ……


おおぉ……!(旦那さんGJ!)


“ハロー!サン・フランシスカ!!ついにやって来ました!ここサン・フランシスカにあるミスリル・ゲートブリッジ・スタジアムで今宵、タイトルマッチが行われます!

実況解説は毎度お馴染みの私、ジャック・レイモンドと特別ゲスト、第8回ヘビー級W.M.B.C(ワールド・モンスターズ・ボクシング・カップ)並びに第3回ヘビー級W.H.and.M.B.C(ワールド・ヒューマンズ・アンド・モンスターズ・ボクシング・カップ) の元女王、現 合衆国軍 海兵隊 軍式格闘術 特別顧問、ゲストでお馴染みのオーガのケリー・ベネット少尉がお送りします!!”

“どうも、ケリー・ベネット『中尉だ』。今日は宜しく。”

“ワオ!昇進なされたんですね!おめでとうございます!”

“ふん……”

“さ、さぁ!今回も盛り上げていきましょう!!(シット!これ書いたのダニーだな!?スイートちゃんがご機嫌斜めだ!)”

ケリーの不機嫌で妙な居心地の悪さを感じる中、ジャックは心の中で原稿文のミスをしたスタッフに文句を言いながらも仕事を続ける。

“さて、今回行なわれるタイトルマッチのカードは現在20回防衛中、人間初のチャンピオン。『リングの勇者』ホセ・マリア・ロドリーゴ・サンチェス!!人間のリーグであるミドル級W.H.B.C(ワールド・ヒューマンズ・ボクシング・カップ)を制覇後、タイトル返上にて人間と魔物娘の統一リーグであるW.H.and.M.B.Cミドル級に乗り込んできました。その後は皆さんご存知でしょう!生ける伝説となっております!!”

“彼の伝説はどこまで続くのか……見ていきたい。しかし……”

“そうです。今回の相手は只者ではありません!……あの不敗の天才が今度は不屈の戦士になって戻って来ました!『リングの勇者』に対するのは、種族はアマゾネス!元W.H.and.M.B.Cミドル級チャンピオン、現ランキング1位『リベンジャー』!アビゲイル・マリネリス!!……皆様、2年5ヶ月前を覚えているでしょうか?当時、無敵の女王であったアビゲイル・マリネリスを現チャンピオンが打ち破りました。アビゲイルはその後、一連のスキャンダルに見舞われ一時消息不明に。霧の国にて武者修行とも、事件を起こし刑務所に入っていたとも言われていますが定かではありません。そして、つい1年半程前に再びリングへと舞い戻って来ました。復帰戦でヘルハウンドのヘレン・アームストロングにKO勝利を納めたのを皮切りに、ランキング戦に参戦!チャンピオンへのリベンジを胸に今宵、己の全てを掛けてリングの勇者に立ち向かいます!!”

“おそらく、彼女は苦境を経験したはず。栄光から見放され、それでも闘うことを辞めなかっんだろう。ドン底から這い上がった者は思いもよらない強さを持っている。”

“確かに以前とは違います。なんと言うか大人になったと言いましょうか?”

“そうですね。以前の彼女は精神的に地に足がついていない感じ。ボクシングにおいてもノーガードスタイルを好み、カンや身体能力の高さのみで闘っていた様におもえます。もちろん、それ故の強さももちろんありますが。”

“なるほど。”

“比べて今は精神的に成長し、明らかにボクサーとしての純度が高くなりました。洗練されています。スタイルもオーソドックスを取る事が多く、各モーションも非常にコンパクトで綺麗になりましたね。特筆するべきは多彩なディフェンスを身につけたことです。これにより、コンビネーションに選択肢が増え、戦術に幅が出ています。”

“ケリーさんから見てこの試合はどうでしょう?”

“全く予想がつかない。それ程に今の2人の力は拮抗している。ただ、言えるのはこの試合に勝った者が次の時代を手にする……そう思いますね。”

“なるほど!ケリーさん、解説ありがとうございます!……さぁ、ハルミトン・スチーム・カンパニー並びに貿易会社サー・ジェンキンス主催、W.H.and.M.B.C世界ミドル級タイトルマッチまであともう少し!!TVの皆様もラジオの皆様も、チャンネルはそのままで!”











アビゲイルの控え室

シッ!……シシッ!!……シッ!……

キュッ!

キュキュッ!!

キャサリンに5分だけ1人にしてもらって、大きな鏡の前でシャドーボクシング。試合への大切なウォームアップで最終調整。ホセに負ける前はろくにこんな事しなかった。

体調は万全……ベストコンディションだ。……どうしてか解らないが私はシャドーでフォームを確認しながらこの1年半を振り返っていた。

(アビゲイルがまたボクシングを始めたんだと……)

(あのゴロツキはどうせ、またすぐ負けて投げ出すさ……)

シッ!……キュッ!……

キュキュッ!!

(アビゲイルのやつ、なんか最近頑張ってるけど?)

(ほっとこーぜ、あんなロクでなし。それよりさー……)

シッ!……シッ……シシッ!!……

キュキュ!

キュ!……キュッ!!

(アビゲイルがまた勝った!)

(練習してるんだ。頑張ってるな……)

キュキュ!!

シッ!……シシシッ!……シッ!!

(なぁ、あいつは本物だよ。わたし、誤解してた。)

(アビーねいちゃんはつおい!)

(ああ、あいつは凄いよ。憧れるよ……あたい、アビゲイルに頑張って欲しい。)

(姐さんって呼ばせて下さい!!)

シッ!……シッ……シシッ!!……

(頑張れ……)

キュキュ!

(頑張れアビー!……)

キャサリン……

キュ!……キュッ!!

(ガッツだ!あんたなら出来るさ!)

(自身を持てよ……)

オリビア姉さん……オットー義兄さん……

シッ!シッ!……シシッ!

(アビゲイル……後はお前さんの好きにやりな!)

ボス……

シッ!……シッ……シシッ!!……

キュキュ!

キュ!……キュッ!!

(頑張れ……応援してる……姐さん……アビーねいちゃん……頑張れよ……気合いだ……くじけるな……しんじてるよ………)

ジムやスラムの皆んな……

拳を振るたびに、過去の影が自分を追い越していくような、そんな感覚になる。

そして今、自分のやってきた事は正しかったと胸を張れる。今の自分の回りに腰巾着はいない。少しづつだけどこんな自分を皆んなが認めてくれた。

ありがとう。

あいつに負けたおかげで、変わることができた。ゴロツキだった私を変えてくれた。もう何も怖くない。

ホセ……ありがとう……



シッ!……シッ……シシッ!!……

キュキュ!

キュ!……キュッ!!

『ラァアア!!!』ビュン!!!

はぁ……はぁ………

ちょうどシャドーが終わる頃、キャサリンが控え室のドアをガチャリと開けた。

『アビー……?今のは?私、そんなパンチ見た事ない。』

『はぁ……はぁ……とっておきの……秘密兵器だ……。ホセに負けた試合覚えてるか?』

『えぇ……』

『2年5ヶ月前、私が倒れたホセのアッパーカットの正体は多分こう言う事だよ……あれから繋がるんだ。』

『でもコレって……』

『あぁ……ハイリスク、ハイリターンのギャンブルだ。だから奴は使ってない。でも私なら……行けるか?私はホセに勝てるか?』

『五分五分……その秘密兵器は一回出したらホセに学習されるわ。だけど、私はきっとアビーが勝つと信じてる。勝ってもらわなきゃ困る。』

『カルロスか?……キャシー、それは悪趣味だよ?』

『あら、いいじゃない彼。アビーこそあんなスカした奴に惚れるなんて、どうかしてるわ!』



『はははははははは!!』

『ふふふふふふふふ!!』



何時もの軽口が妙にツボに入り、2人で笑い合う。時計を見るとそろそろスタンバイの時間を指していて、ドアの向こうではヴラタスキに怒鳴られながらジムの連中がバタバタとバックアップの準備をしていた。

『そろそろね。アビー、コンディションは?』

『大丈夫だ。問題ない。』

『秘密兵器はここぞという時……10ラウンド以降よ。』

『オーケー……』

私はブーツの紐を結び直し、白いガウンを纏い、ストロボカメラのフラッシュとライトの光がまばゆいスタジアムへとゆっくりと足を進める。











ミスリル・ゲートブリッジ・スタジアムの中は観客で埋め尽くされていた。

前座のジャズバンドのステージと別階級の試合が終わり、リングの上ではハルミトン・スチーム・カンパニー製のスチームクリーナーが湯気を立て、魔物娘も人間も、人種や宗教に関わりなく、ボクシングの熱気にうなされている。

“いよいよ、待ちに待った本日のメインイベント!W.H.and.M.B.Cミドル級タイトルマッチの開幕です。どうでしょうか!この会場の熱気!!経済で有名なウォーリーストリート・ジャーナルの調べではこのタイトルマッチの賭け金の総額は違法行為も含めると南の大陸の小国が1つや2つどうにかなってしまうくらいらしいです!オッズもうなぎ登りでウッハウハ!!”

“へぇ……。ちなみに大穴はなんだ?”

“アビゲイルの最終15Rラスト1分でのKO勝利で……倍率はなんと、2836.5倍!!”

“(大穴に掛けたなコイツ……)当たったら、レイモンドはどうする?”

“そうですねー、ハルミトン・スチーム・モーターズのオープンスチームカーを買って、素敵な女の子と楽しいデートを………ゲフンゲフン!え……っと、賭けはいけない事ですよー皆さん。………っと、そろそろ選手の入場です!”

“…………(私とじゃないのか)”

メインライトが消え薄暗いスタジアムの中を、チャンピオンが入場する。ショートスパンでの試合の中、生傷が絶えない身体はまるで古びた鎧のようで、彫りの深い顔には冷たい青色の瞳が輝き、静かな闘志を宿している。背後にいわかれた黒い癖のある髪は影ように揺らめく。赤いガウンを肩に掛け堂々と歩く姿は正に戦場に赴く歴戦の勇者。

その姿に誰もが押し黙り、誰もがリングの勇者への憧れを抱いた。

今、ゆっくりとチャンピオンがリングに上る。

『赤コーナー!身長174cm……157ポンド1/2……フラッテラ・ボクシング クラブ所属……W.H.and.M.B.Cミドル級チャンピオン!!種族は人間、男子!ホセ・マリア・ロドリーゴ・サンチェス!!!!』

ワァァァァァアアアアアアアアア!!!!!

割れんばかりの歓声を受けライトに照らされる。

“なんと静かな入場だったのしょう。赴く先は戦場か!はたまた決闘場か!威風堂々、リングの勇者!!スタジアムに降臨!!!!”


ドッ ドッ ドッ ドン! ドッ ドッ ドッ ドン!

ドッ ドン ドッ ! ドッ ドン ドッ!

ダカダカダン! ドッ ドッ ドッ!!

ドッ ドッ ドッ ドン! ドッ ドッ ドッ ドン!


今度は突如として、戦太鼓の音が鳴り響いた。蛮族の衣装に身を包んだアマゾネス達が花道の両脇から部族特有のリズムを刻む。遠く離れた先祖の大地に敬意を払い、闘いに赴く戦士を祝福する。

白いガウンの下から覗くオイルが塗られたしなやかな褐色の肌に戦化粧を施し、闘いのリズムに筋肉を躍動させる。銀の髪は汗の雫で星色に艶めき、身につけた白い片かけのタンクトップはライトに照らされ、まるで銀の胸当てのよう。腰には武族の飾り布を纏い、その姿は美しき蛮族の戦女神そのものだ。

戦太鼓のリズムに乗り、勢い良くリングに跳び上がる。

『赤コーナー!身長180.2cm......158ポンド3/4......アレキサンドリア・ボクシングジム所属……W.H.and.M.B.Cミドル級ランキング1位。チャレンジャー!!種族アマゾネス!!アビゲイル・マリネリス!!!!』

ワァァァァァアアアアアアアアア!!!!!

“チャンピオンと打って変わって、チャレンジャーは躍動的な入場です。彼女達アマゾネスの故郷の地、西の大陸はローランド地方の女武族特有の戦の踊り!今宵、リングの勇者に挑むのはリベンジャー!復讐の女戦士!!”

“見る限りでは両者共にベストコンディションのようです。それにしても、対照的な2人!”

“はい。方や冷静!方や情熱!この試合どうなるのでしょうか!?……さて、ここでタイトルマッチのルールのおさらいです。1R 3分、15R 、3KO、1Rにつき1分のインターバルが設けられます。この試合は独身の人間の男子と独身の魔物娘の試合ですので勝者は敗者とその場で結婚する権利を与えられるW.H.and.M.B.C特別ルール、現チャンピオンによるタイトルマッチお馴染みのマリッジルールが適用されます。一部ではホセルールとも言われていますね!……さあ、間も無く、国歌斉唱です!”




おお、見えるだろうか、

夜明けの薄明かりの中で輝く星々を!

我々は誇り高く叫ぶ

危難の中、城壁の上に

雄々しく翻る我等の旗を!

暁の光を浴びて栄光に満ちて輝きはためく

勝利の歓喜の中で、我等の旗は翻る

大いなる大地!大いなる自由!

戦士の帰る故郷の上に!!



国歌が高らかに歌われ、青い星の旗がはためく。静まりかえったスタジアムの中、リングの上で2人の戦士の闘志がただ静かに燃えていた。

『ローブローに気をつけて、掌と裏拳は使わないように。エルボー、バッティングなどは反則として減点の対象になる。正々堂々、タイトルマッチに相応しいクリーンなファイトを心掛けて。』

レフェリーからリングマナーを受け、グローブを合わせる。

『会いたかったよホセ……』

『俺もだよセニョリータ……』

『ベルトは返してもらう……代わりにキャンディーをやるよ。』

『はは!じゃあ必死に護らないとな。……ゴングはすぐ鳴る。また会おう、セニョリータ。』

ホセは紳士的だが、やはり何処かスカしている。

“両者一旦コーナーに戻ります。2年5ヶ月前とは何もかも入れ変わった2人。方や栄光を掴み、方や挫折を味わい、そしてまたリングで交わります。”







『アビー、どうだった?』

コーナーに戻ったアビゲイルにキャサリンが そう聞いた。セコンドの準備は万端の様だ。

『相変わらずスカした奴だ。キャシー……この試合、長くなりそうだ。』

『どうするの?』







一方、チャンピオンのコーナーではスタッフが準備万端といった様子でホセをで迎えていた。

『どうだった?麗しのセニョリータは。』

セコンドのカルロスがホセにそう聞いた。

『落ち着いていたよ。この前とは違うな……兄弟カルロス、この試合長くなりそうだ。』

『……で、どうするんだ?』







双方のコーナーで同じ様なやり取り。

『『まぁ、しっぽりやるさ……』』

そしてホセとアビゲイルの答えもまた同じだった。







“この試合はまるで、古代ロマーナ帝国と蛮族であるヘン族の戦いのようです。果たして勝つのはリングの勇者か?それとも復讐の女戦士か?……今、試合開始です!!”


カーン!!


ゴングが鳴り、2人は間合い図りながら距離を少しづつ詰めていく。ホセはガードをやや高めに構えジリジリと近づく。アビゲイルは半身になり、ステップを踏んでいる。

“予想に反し両者静かな立ち上がりです。嵐の前の静けさでしょうか?”

“今はお互い手の内の探り合いといったところでしょう。こういった試合は戦況がすぐ動く。”

ホセとアビゲイルの距離が徐々に縮まっていく。

パパッ!!

アビゲイルがホセの射程圏内に入った瞬間、鋭いジャブが飛んできた。

“おっと!ここでホセの速射砲がアビゲイルを襲う!”

紙一枚の最小限の動きでそれを躱すと、今度はアビゲイルが左を打つ。

パパッ!!

“良い判断ですね。このまま畳み掛けたい”

ゾリッ……ヒュ!

ホセが右ガードで掠める様にアビゲイルが放つジャブの起動をずらすと、左のショートフックを放なつ。今度はアビゲイルが右でホセのフックをはたき落とし、引き戻したばかりの左でジャブからのショートアッパーのコンビネーション。

『セニョリータめ、厄介な左を身に付けちゃてくれちゃってまぁ!』

パパッ!!

ガッ!

ショートアッパーをスウェーで躱したホセはすぐさまジャブを2連発。対するアビゲイルは1打目を巧みなサイドステップで躱し、2打目はガードで対応する。

『あのジャブ、避けにくいったらありゃしない!』

キュキュッ!!!

お互いにバックステップで距離を置き、仕切り直しを図る。

“今度はチャレンジャーが仕掛ける!”

アビゲイルから仕掛ける。それを応戦するホセ。

その目まぐるしく変わる攻守に会場は緊張感に包まれていた。

カーン!!

おおぉぉぉ……

“第1ラウンド終了です。なんと言う左の差し合い!技術の応酬でしょうか!このたった3分間の中、いったい幾つの駆け引きがあったのでしょうか!?両者共にクリーンヒット無し!ほぼ無傷でコーナーに引き上げます!”

“左の差し合いは全くの互角だ。続くラウンドはどちらが主導権を握るのか、目がはなせないね。”

“さあ、早くも白熱してきました。第2ラウンドスタートです!”


ビー!セコンドアウト!

ラウンド2 ファイ!

カーン!!


第1ラウンドに引き続き、左の激しい差し合い、読み合いが続く。

『このままじゃ……』

『裸地が開かないか……』

お互い一歩も譲らず、このラウンドも無傷でコーナーに返っていった。


カーン!

“おそらく、そろそろ戦況が動く頃合いでしょう。”

“と言いますと?”

“お互いの動きに馴れてきた頃合いで、何方がが、あるいはお互い何かしらの対策をしてくるはずです。”

“なるほど。……さぁ、注目の第3ラウンドです!”


ビー!セコンドアウト!

ラウンド3 ファイ!

カーン!!


ケリーとレイモンドの実況どうりに試合が動き始めた。第3ラウンド中盤……

シュッ!

ガッ!

『セニョリータ……今度は此方から仕掛けさせてもらうよ!』

キュッ!

ドスッ!!パン!

『ぐぁ!』

“チャンピオンが仕掛けました!得意の左右のボディが鳩尾にめり込む!……おっと!L字ガードです、チャンピオンがヒットマンスタイルにシフトしました!”

ホセはアビゲイルのジャブをブロック。左右のボディブローから得意のヒットマンスタイルにシフト。そこから追いかけるように弧を描くようなジャブ……フリッカージャブで追撃する。

ヒュパン!

ヒュパパン!

『くそっ!させるか!』

ヒュン……

『もらった!』

ズパン!!

『ぎぃ!?(なんだ!?何もらった?)』

“チャレンジャー後退!テンプルに被弾!ケリーさん、なんですか!?今のは?”

“フック!?ホセはフリッカーにフックを混ぜている!?こんなパンチ、私も初めて見ます!”

『セニョリータ、君の為に作ったプレゼントさ……遠慮はいらないよ!!』

『くそっ!近づけない!』


カーン!


“第3 ラウンド終了。チャレンジャーが防戦一方です!チャンピオンやはり強い!”

“ええ!チャンプの強さはテクニックはもとより、その学習能力と成長性にあります。あらゆる努力を惜しまず、対策を考じ、最善を尽くす。先程の左のコンビネーションは明らかに対アビゲイル用だ。”

“なるほど!さぁ、ケリーさんの解説も温まってきたところで、第4ラウンド開始です。”


ビー!セコンドアウト!

ラウンド4 ファイ!

カーン!!


ホセはラウンド開始から積極的に攻める。

ヒュパン!

ヒュパン!

打ち終わりをアビゲイルが狙い、踏み込んだ瞬間

ヒュバン!

『くそったれ!また……』

フリッカージャブとほぼ同じモーションで変則フックは飛んで来る。

シッシッ!!

“アビゲイル反撃するも、チャンピオンの華麗なステップに空を切る!!”

ギシッ

『ロープ……いつの間に?』

『逃さねぇ……!』

ホセがステップした先はロープ。アビゲイルは両腕を広げて逃げ道を塞ぐ。

“チャンピオンがロープを背負いました!アビゲイル反撃です!”

“狙ってやりましたね。アビゲイルのチャンスだ。”

アビゲイルは左右のワンツーからボディを叩き込む。そこからパンチの回転数を上げる。

ホセの冷たい青い目がじっとブロックの下からアビゲイルを見据える。

すると……

ギュン!

パパン!!

『!!?』

“何が起きたのでしょうか!?アビゲイルの顔が跳ね上がる!ホセの上・下のコンビネーションブロー!!そのままアビゲイルをロープに追いやる!!”

“ロープの弛みを利用してアビゲイルのパンチを避け、スイッチした!今度はチャレンジャーがピンチだ。”

『良い策だったが詰めが甘いな、セニョリータ!!』

『くそっ……』

“チャンピオン、反撃ー!!”

パン!

ドガッ!!


ホセの見事なワンツーがアビゲイルの顔面を捉えた。

ワァァァァァアアアアアアアアア!!

“アビゲイルダウン!!これで決まってしまうのか!?”

1……

2……

3……

カウントが進む中、ホセはファイティングポーズを解かなかった。冷たい目はアビゲイルを未だ見据えている。

4……

5…… 『セニョリータ……下手な芝居はやめておけ。シェスタにはまだ早いだろう?』

6……

7…… 『……あぁ、私もそう思うよ。』

8……

おおぉぉぉ!!

“立ちました!チャレンジャーが立ちました!”

“ええ!信じられない。ホセのパンチは完璧だったはず。”

『続行可能か?ファイティングポーズを!』

『オーケー。まだやれるさ……』

『……ボックス!』


カーン!!


“ここで第4ラウンド終了です。チャレンジャー、ゴングに救われました。”

アビゲイルのコーナーではキャサリンを始め、スタッフが急かしなく動いていた。

『アビー!良く戻って来た!ダメかと思ったわ……』

『なんとか大丈夫。キャシーの特訓のおかげさ……』

『何が起きたの?』

『それは……


“信じられません!良く立てたものです……えー、ここでスクープです。ラタトクスのへザー氏から魔法カメラの超スロー映像が届きました。……なんと!”

“えぇ!信じられません。アビゲイルはホセが打ったワンツーの右ストレートが当たる瞬間、首を捻って威力を殺している!!”

……と言う事だ。』

『なんて無茶な……』

『避けられないと思ってとっさだったんだ。それよりどうするか……』

『うん……(……左の差し合いは互角……つまり、攻撃技術も互角。戦術、デフェンス面はホセに部があるとして、身体能力……特にパワーはアビーの方が上のはず……此処までは上手くいってるけど、少なくとも8ラウンドまで油断は禁物か……さっきは冷やっとしたわ。)』

『キャシー?……なんかねぇか?』

『あ、ごめん……今はディフェンスよ!勝機を待ちましょう。』

『オーケー!』

ビー!セコンドアウト!

ラウンド5 ファイ!

カーン!

“さぁ前半の山場、第5ラウンドスタートです!開始早々、ホセが攻める!”

“アビゲイルはまだダメージを抱えている。踏ん張り所ですね。”

繰り返されるホセの猛攻。アビゲイルはひとつひとつ丁寧にブロックし、いなし、可能であれば躱している。

ホセの目に入るのは、ブロックの下からギラギラと輝くアビゲイルの目だった。

パン……

パン……

コンビネーションの打ち終わりに必ず、パンチが飛んで来る。覚えた事を繰り返す基本に忠実な洗練されたワンツー。以前の粗暴さは無い。きっと復帰してから何千、何万回も鏡の前でフォームを確認したんだろう。

絶対に諦めない

絶対に勝ってやる……そんな目だ。


『昔の自分を見てるようだよ、セニョリータ!』


カーン!!


“此処で第5ラウンド終了です!アビゲイル耐え切りました!”

“素晴らしいガッツだ。彼女には驚かされてばかりです。”


『麗しのセニョリータはどうだった?』

チャンピオンのコーナー。セコンドのカルロスがホセを出迎えていた。

『2年5ヶ月前とは別人だよ彼女。絶対諦めないって目をしていた……強いよ。』

『……大丈夫だ。君はいつも通り自分の仕事をして家に帰る。それだけだ。今は集中だ。』

『いつも通りねぇ……。セニョリータのパンチは本物だ。ヤツのワンツーが顔の横を通るたびに戦慄が走るよ。』

『ホセ……焦るな。しかし、早めに勝負を決めろ。おまえは……』

『君こそ焦るなよ。長い闘いになると言っただろ?』

ビー!セコンドアウト!

『時間だ。行ってくるよ。』

『ホセ、フリッカーを軸に距離を置いて自分のペースで闘うんだ!足を使え!チャンスなら、畳み掛けろ!』

『スィ!エルマーノ カルロス!(OK!我が兄弟カルロス!)』

ラウンド6 ファイ!

カーン!!


ホセはカルロスのアドバイス通りフリッカーを軸に距離を置いて闘った。

アビゲイルはロープに張り付けられ、またも防戦一方となっていた。

“チャンピオンの猛攻です!”

“試合終了は時間の問題だろう。彼女のセコンドはタオルの準備をした方がいい。”

丁寧に、アビゲイルの強固なブロックの隙間を縫うように左右のパンチを当てていく。

次第にグラつき始めるアビゲイルのガード。

ヒュバン!

『ぐっ!!あ''!』

肩とグローブの間にホセの変則フックがめり込む。ガードを崩すアビゲイル。

“アビゲイルがよろめいた!チャンピオンこの試合最大のチャンスです!”

(あと、1分……充分だ!!)

ホセのKOパターン、コンビネーション・ブローがアビゲイルを襲う。構えなおしたガードで耐え、なんとか立て直した体で上半身を振り、ディフェンスを試みる。ピンチに陥りながらも、ガードの下からホセを見据えるその目はまだギラギラと炎を宿していた。


(まだ諦めないのか!?)


(絶対に、絶対に諦めない!!)


(倒れろ!倒れてくれ!!)


(倒れない!倒れてなるものか!!)


(打ち倒してみせる!)


(耐え切ってみせる!)


ズバン!!


アビゲイルの横面にホセの右が当たり、アビゲイルの体がグラリと崩れる。

『アディオス!セニョリータ……』

『く……そ……』

勝利を確信したホセがトドメの一撃の為に、もう一度右腕を引き上げた。

(あれ……?……ボディが……開いてる?……!!)

キュッ! グイン!!

ドッ……!!!

『ぐあっ!??』

“なんと!?チャレンジャーはダウンから持ち直し、信じられない動きでチャンピオンに反撃しました!!”

『ぉぉおおお!!』

“チャンピオン再び攻撃!”

カーン!!

『ブレイク!!!』

“と、ここでゴング!第6ラウンド終了。レフェリーが割って入ります。アビゲイル、またもやゴングに救われました。両者コーナーに引き上げます。決着は次のラウンドに引き伸ばされます!!”

アビゲイルのコーナーではキャサリンがスタッフに指示を飛ばしながら、タオルでアビゲイルの身体を拭き、アイシング用の氷、うがい用の水とバケツを出す。

『っ……はぁ!!』

『アビー!その調子よ!頑張って!!』

『よく言ってくれるよ……こちとらいいとこ死にものぐるいだ。』

キャサリンはアビゲイルに水を頭からかけながら声を掛ける。

『喋らなくていい。……いい?よく聞いて。このままディフェンスを続けて。チャンスが来たらボディを叩きなさい!』

アビゲイルは力強くうなづいた。


一方、ホセのコーナー……

『ホセ、次のラウンド勝負だ。倒せるぞ!』

『倒せなかった。あと3秒あれば……』

『いや、次で倒せる!……どうしたホセ?』

『カルロス……君は最高のセコンドだ。だが、これだけはどうしようもないんだ。』

『まさか……!!水と氷を持って来い!早く!……くそっ!』

ホセの身体は火のように熱く、汗をかいていなかった。

『焦るなよ兄弟。こうなる事は予想出来ていた。8ラウンドまでは持つと思ってたがね。』

カルロスはホセに水を一口飲ませ、身体を氷と水で冷やしながら指示を出す。

『ホセ……幸いポイントで大きくリードしている。大きなミスをしなければいい。最悪の状況だが判定で逃げ切れる。いけるか?』

ホセはカルロスに微笑むと

『ちょっとしんどいが、大丈夫だ。』

ビー!セコンドアウト!

ホセはカルロスからマウスピースを受けとりコーナーを後にした。

『ホセ……(スタミナ切れだ!いつもより消耗が激し過ぎる……恐らく第3ラウンドから兆候はあった……クソッ!……試合中なぜ気づかなかった!?……自分の無能さが悔しい。)』


ラウンド7 ファイ!

カーン!!

“さあ、始まりました第7ラウンド!聞いてください!”


ホーセ!! ホーセ!!

ホーセ!! ホーセ!!


“ホセコールです!このラウンドで勝負が決まるのか!?チャンピオン への期待が高まります!!”


(体が鉛のように重い……)


アビゲイルがガードを固めてジリジリと前進する。応戦するホセ。

素人目にはわからないが明らかにパワーダウンしている。

ドッ!

『ゔぅっ!!』

“アビゲイル、チャンピオンの攻撃を躱しボディブロー!アビゲイルの攻撃が冴え渡ります!”

『ぉぉおお!!』

“チャンピオン反撃するも息を吹き返したアビゲイルに苦戦!いったいどうしたのでしょうか!?”

“いつものチャンピオンらしくありませんね(……まさか)”

(くそったれ!まるで、全身にハリガネを巻き付けて海中で動いているみたいだ……)

ヒュパン……

ヒュパン……

ヒュ……

ドッ!!

『〜〜〜!!!』

“アビゲイル、チャンピオンの攻撃を潜り抜け、ボディブロー!!これは痛い!”

(ホセ……どうした!)

ヒュパン……

ヒュパン……

ヒュ……

ドッ!!

『〜〜〜!!!(くそっ!また……)』

“アビゲイル、しつこくボディを叩く!!”

6ラウンドまで優勢だったチャンピオンが劣勢になっていく姿にスタジアムは騒然となった。

カーン!!

“第7ラウンド終了です。このラウンドはチャレンジャーが大きくリードしました。両者コーナーに引き上げます。”

『はぁ……しんどいねぇ……』

『ホセ、喋らなくていい!今アイシングをする!僕の責任だ……もっと早く気付いていれば……』

『大丈夫、勝つさ……』

(ホセ……いったいいつからだ?)

ホセのコーナーでは不穏な空気が流れている。

一方、アビゲイルのコーナーでは。

『はぁ……はぁ……』

『おかえり、アビー。このままボディを叩いて。ホセのガードが下がったらワンツーよ!』

『オーケー……!!』

(アビーもリズムを取り戻した。ホセはもうとっくに限界のはず。この試合勝たせてもらうわ!)

“さあ、全く予想が出来ない展開になって来ました。ケリーさん、いかがでしょうか?”

“そうですね……ところで、ここ最近のチャンピオンの戦績ですが、KO率が高くなっていますね?”

“そうですね。ここ5試合はKOです。えーっと……バーネット戦が4R2分15秒KO、マグゴナガル戦6R1分03秒KO、ティンスミス戦に5R56秒でTKO、リン・リー戦は7R2分35秒KO、先月はダークエルフのローゼ・エワイゼン戦にて3R2分52秒でTKOです。”

“(全て8ラウンド以内だ……)比較的、前半のラウンドで、もしくは中盤の早い段階でKOしていますね。”

“何か気になる事があるんですか?”

“……これは可能性の話ですが、

ビー!セコンドアウト!

ラウンド8 ファイ!

カーン!!

“コメントの途中ですが、第8ラウンドスタートです。アビゲイルとしては何としても前半のポイントを取り返したい所。”

前のラウンドと同じように、アビゲイルが仕掛け、ホセが応戦する形になった。

ヒュパン…

ヒュパン…

ヒュパン…

“チャンピオンの攻撃はことごとく空を切る!”

ヒュパン……

ヒュパン……

ヒュ……

ドッ!!

『〜〜〜!!!』

“またもやアビゲイルの悶絶物のボディー!!チャンピオンの輝きが今や見る影もありません!”

“……このラウンドで確信した。ホセはボクサー生命の危機に瀕しています。”

“え!?それは、どう言うことですか?”

“ホセのスタミナ切れの原因はダメージの蓄積だ。ホセはチャンピオンになってから2年5ヶ月……900日にも満たない短い期間で魔物娘相手に20回も防衛戦をしている。これは6〜7週間に一度というハイペースだ。ダメージが抜け切らない内に次の防衛戦に。その結果、常にバッドコンディションでの試合を繰り返し、そのツケが今の状況を引き起こした。倒れたらまず起き上がれないだろう。”


ホセは必死に耐えながら手を出し続ける。


『……らぁあ!!』

ヒュパン!

パシッ……ン………!!

『セニョリータ……それは、俺の……!!』

アビゲイルがホセのフリッカーを叩き落とした。ガードを上げるも間に合わない。

『いけーー!!!アビーーー!!!!』


ドッ!!ドカッ!!!


ズサァア……

ワァァァァァアアアアアアアアア!!!!!


“ダウン!ダウンです!!ホセが倒れました!!鮮やかに決ったチャレンジャーのワンツー!!!”

“打つ前にアビゲイルはホセの左を叩き落とした。完璧だ。無防備な状態であのワンツー。まず立てないだろう。”

『おかしい……ホセはこんなもんじゃないはず……』

アビゲイルのコーナーで、キャサリンは1人密かにほくそ笑んでいた。

(勝った!勝った!計画通り!!ホセのダメージの蓄積は以前から兆候があった。これが人間の限界だ。現にここ最近のホセの試合は8ラウンド以内に全てKOかTKO……判定は無かった。つまり、8ラウンド以内に倒したのではなく、8ラウンド以内に倒さなければならないとしたら?だとしたら、アビーがホセに勝つ最も現実的な方法は?……彼が弱り切るまで耐えればいい。ただそれだけ。その為のディフェンス。試合中にボディブローを支持したのはホセの反応を見る為だ。アビー……あなたはこの作戦に納得しないかもしれないけど、あなたがホセに焦がれてるように、私はカルロスが欲しいの。私は手段なんて選ばないわ……大丈夫、あなたとホセなら上手くやっていける……だから、待っててねマイ・ダーリン❤……)


レフェリーのカウントが始まる。


1……


2……


3……

……眩しい……なぜ、天井が……!?

4……

ダウンしたのか!?

5……

体が…!!

“チャンピオン、ピクリとも動きません!!”

6……

幼い兄弟達の為にチャンピオンでいなきゃいけないんだ!!倒れるわけにはいかない!!

『ぁぁぁああああ!!!』

“チャンピオンが反応しました!!”

7……

俺は!!俺は!!倒れちゃいけないんだ!!!

兄弟達よ、俺に力を貸してくれ!

“チャンピオン、ロープにつかまり立とうとします!”

8……

神よ!俺に勇気を!!力を!!!

『ぉぉおおお!!!!!』

9……

“信じられません!ホセが雄叫びと共に立ちました!!続行は出来るのか!?レフリーチェックが入ります!”

『続行!!』

“続行です!!試合続行です!!”

『アビー!ホセは虫の息よ!小突けば倒れる!倒しなさい!!』

『オーケー……』


『ボックス!』


カーン!!

アビゲイルがホセに攻撃を仕掛ける。

シュッ……

シュッ……

『なっ!!』

“チャンピオン、軽いフットワークとスウェーで躱す躱す!!”

ヒュ……ズバン!!

『あがぁ!?(なんだこの重い拳は!?)』

“驚きです!!満身創痍のチャンピオンがアビゲイルに反撃!!スウェーで躱しショートアッパー!”

『アビー!ディフェンスよ!!とにかく動いて!!(計算外!!……ホセは無茶な防衛戦でボロボロのはず!もう動くのもやっとなはず!なんで反撃できるの!)』

“チャレンジャー、ガードを上げる!!チャンピオンなおも追撃!”

ブロックを削り取るような激しい攻撃の中、アビゲイルは腕の隙間からホセの目を見た。



青い氷のようだったホセの目が金色に輝いていた……



カーン!!

“波乱に満ち溢れた第8ラウンド終了です!”

『くそっ!命からがらだ……キャシー、ホセの目を見たか?』

『目?』

キャサリンはアビゲイルにうがい用のバケツと水を用意して、彼女に差し出した。

ガラガラ……ビチャ!

『あいつの目、冷たい青い目だったはずだよなぁ?』

『?そうよ。……それがどうしたの?』

『金色になってた……』

『!??』

“逆転に次ぐ逆転、ホセが突如として復活しました。面白くなって来ました!目が離せません!”

“本当に信じられない。あの状態から復活するなんて、まるで奇跡のようだ。……!?奇跡のよう?……奇跡!?”

“ケリーさん?どうしましたか?”

“レイモンド!ホセの出身とプロフィールは?”

“えっと……ホセ・マリア・ロドリーゴ・サンチェス27歳、男性。イスパール系移民第2世代。出身はここサン・フランシスカ市のミッション地区、ドロローザのスラム街です。”

“彼は主神教信者か!?”

“ええ……彼は主神教信者です。チャリティーにも積極的に参加してます。”

“彼の肌の色と目の色は!!?”

“ええ……あっ、はい……イスパール系らしい浅黒い白色人種で青い目です……が?”

“さっき立ち上がったホセは金色の目をしていた!多分、主神の加護を受けている!!”

“えっと……すみません、ケリーさん!話が見えないんですが!?”

“おそらくホセは……リングの勇者は本物の『勇者』になってしまったんだよ!!”

“え?……ええーーー!!?”



『ホセ!!信じられない!良く帰ってきた!……ホセ?』

『神の奇跡は偉大なり……賛美せよ……大いなるその名を……』

『ホセ?大丈夫か?なぜ詩篇を?』

『大丈夫だカルロス……俺は勝つ。神がそれを望んでいる。』

キィィィイン……

『ホセ……何だその目の色は……』

ビー!セコンドアウト!

ラウンド9 ファイ!!

ワァァァァァアアアアアアアアア!!!

ホセは両腕を広げ、アビゲイルを迎える。その姿は神々しいまでに傲慢で、自信に満ち溢れていた。

構わずアビゲイルはホセに詰め寄り堅実に攻める。

攻めるホセ
ジャブからワンツー、左のショートフック、右アッパー

対するアビゲイル
パーリング(はたき落とし)、ダッキング、スウェーバック……

ドガッ!!

アビゲイルのアッパーの打ち終わりをホセの右フックが貫く様に打ち込まれる。

『ぐぁぁあ!!!』

“ホセの巧みなディフェンスは健在!打ち終わりを叩きに行きました!!手痛いカウンター!!”

アビゲイルの上体がズレる。ホセはそれを見逃さない。

フリッカージャブ、繋げて左ボディブロー、右フック、左ショートアッパー、打ち下ろしの右ストレート、ワンツー

“目にも止まらないチャンピオンのコンビネーションブロー!!これがリングの勇者の底力か!?”

アビゲイルは無防備な状態でコンビネーションブローを受けてしまった。

『くそぉ!!』

アビゲイルがクリンチをしようと、接近した刹那

バコン!!!

顎が跳ね上がる。

ホセの金色の目とアビゲイルの黒い目が交差する。

『アディオス・セニョリータ……』

バン……ン……!!

ワァァァァァアアアアアアアアア!!!!!

“ダウン!!ダウンです!!チャンピオン、勝利を確信したのか、振り向きもしません!”

“チャレンジャーのセコンドはタオルの準備をした方が良い。”

1……


2……

『立て!立つんだ!アビー!!』

3……

気持ちいい……こんなのもらったの初めてだ……

4……

やっぱり強いな……ホセは……

5……

もう……諦めようか……頑張ったんだ……

6……

諦める?……バカか私は!!

ピクッ……

“なんと!チャレンジャー、立とうとしてます!”

7……

ズリズリ……

あの、惨めな思いをまた味わう気か!?また後悔をするのか!?嫌だ!!嫌だ!!私は勝つんだ!!

8……

勝って、勝って惚れた男をものにするんだ!!!

『あぁぁあ!!ホセェェェエ!!!』

“ア、アビゲイルが立ちました!!立ち上がりました!!”

『……なぜ、立つんだ?なぜこうまで辛い思いをする?』

『私は……どうしても勝たなきゃいけないんだ。どうしようもなく惚れちまって、絶対にものにしたい男がいるんだよ!!だから……だから負けない!!』

『見事だよセニョリータ……』

『ゴタクはいいよ、イスパールの可愛子ちゃん!お前をのした後、たっぷりFu◾kしてやる!!』


『ボックス!!ファイ!!』


『落ち着け私!集中しろアビゲイル!相手の肩を見ろ、足の動きを予測しろ、モーションから数手先を読め、相手の殺気を感じろ!お前なら出来る!!私なら出来る!!!』

アビゲイルの感覚が研ぎ澄まされていく。運命を分けたホセとの2年5カ月前の試合の最後、時間が引き延ばされる感覚と似ている。1秒が切り刻まれるような、時間がゆっくりと流れるような、そんな感覚を感じている。

“ホセの容赦無い攻撃がつづきます!!チャレンジャー、ピンチです!”

ジャブ、ジャブ、右ストレート、左フック、右ショートアッパー、右フック……

スウェー、パーリング、ステップバック、ダッキング、ブロック、ダッキング……

ドガッ……

『うぅ!!』

“ホセ被弾!リバーブロー!アビゲイルが肉薄します!”

“こんな試合、一生に一度見れるかどうかだ!”

『見える!ホセの動きが!』

『やるじゃないか!セニョリータ!!』

“チャンピオンも引きません!乱打戦に突入しました!!”



両者一歩も引かない激しい乱打戦にスタジアムは歓声の嵐の只中。興奮の坩堝の中、ラウンドだけが過ぎ去っていく。



『なんで倒れない、セニョリータ!』

『なんでかって?

たとえ意識が飛びかけようと、身も心もボロボロになろうとも、心底惚れた男がそこに立っている!

リングの上で私が立つまで、静かに待ってるんだ!

お前がいれば立ち上がれる!

お前がいればどんなに高い山も、どんなに荒れ狂う海も越えていける!

お前がいれば、お前がいれば本当の私自身より、強くなる事が出来るんだ!!

だから負けない!だから立ち上がる!何度でも!何度でも!!』


『俺も幼い兄弟達の為に負けない!……ははは!!楽しい!楽しいよセニョリータ!!出来る事ならずっとこうして君と闘っていたい……』

『私もだよ……ホセ!!』

殴り殴られ、倒し倒され、2人の試合は最終ラウンドへと向かった。









“さあ、泣いても笑っても次が最終回。第15ラウンドです。ここまで激闘の中、両者は何度も己の限界を塗り替えています。勝つのは“勇者”ホセか?はたまた復讐の女戦士アビゲイルか?最終ラウンド目が離せません!!”

『アビー……ここが勝負処よ。残念だけど、おそらくポイントでの逆転は不可能。良くてドローで、ホセの防衛成功になる。秘密兵器を仕掛けるならここしかない!』

アビゲイルは頷く。喋る体力も惜しい。

『当たれば、KO……外せばカウンター……使い所に気を付けて!勝機はインファイトにある!!』

『インファイト……』

リングを隔てて反対側のコーナーから、金色の目がアビゲイルをじっと見据えている。

ビー!セコンドアウト!

“さあ、ファイルラウンド開始です!”

ラウンド15 ファイ!


カーン!!


ホセとアビゲイルはほぼ同時に臨戦態勢に入る。お互い、もう精魂尽きかけている。それでも、勝利の為に文字どうり死力を尽くし、魂を燃やしている。

“開始から乱打戦に突入!インファイトです!”

“何方が勝ってもおかしくない。2人の素晴らしい選手に敬意を表します。”

『『らぁああああ!!!!』』

ガチン!!

ホセの左フックと、アビゲイルの右フックがかち合い、腕がもつれる。

バシン!!

パパン!!

2人の離れ側に速射砲の挨拶が交わされる。

再び両者ステップイン。距離を詰めインファイトの乱打戦にもつれ込む。

ドガッ!!

"ホセの強力なフック!"

『ぐうぅ……!!(見えていても防げない!面倒くせぇパンチ打ちやがって!!)』

パパン……

パパン……

"冴え渡るアビゲイルのディフェンス!"

『ぜぇ……(ちょこまかと!……空振りが1番キツイ!体が自分のパンチに振り回される!)』

“さあ、残り1分を切りました!勝利の女神は何方に微笑むのでしょうか!?”





『ホセェェエエ!!!!』

『セニョリータァァアア!!!!』




時間がゆっくりと流れる。


ホセのワンツー


ヒュ……パシィ……ィ……


ジャブを躱し、ストレートをパーリング(はたき落とし)で処理するアビゲイル



ブォン……



右フックがワンツーの打ち終わりを狙う。


ヒュン……


アビゲイルの右フックに左ジャブを合わせる。

『惜しいな、セニョリータ……パーリングで処理をするだろうと思っていたよ。いや、君ならそうすると信じていた。……カウンターで入る!!もらった!!!』



『らぁぁぁああああ!!!』



空気を圧迫しながら接近するアビゲイルのブローに妙な違和感が消えない。



『いや!待て!おかしい!なんでセニョリータの顔がこんなに近い!?……!!?右足と右手が前に出てるだと!?サウスポースイッチ!?』

ホセの脳内に2年5カ月前の試合、自身が放った最後のブローが再生される。

『くそぉぉおおお!!!!』

ヒュン……

アビゲイルの顔の横をホセの左が掠めるように外れる。



右足は力強くマットを踏みしめ、右手に力をつたえる。





ガコン……





ホセの顔に右フックが当たる

ぐらりと崩れるホセの体勢

アビゲイルの左半身と肩口が動く

驚愕するホセの金色の目

真下から迫る危機

戻らない体勢

間に合わないガード

振り上げられる左





ドッ………!!!!




跳ね上がるホセの頭と上半身


交差する視線


地面から離れる足


輝き落ちる汗の雫


もう一歩踏み出されるアビゲイルの左足


躍動する筋肉


引き絞られた矢の様に放たれる


回転する右


『好きだぁぁぁあああああ!!!!!』






バコン……ン……!!!!






ホセを襲う衝撃と浮遊感


それは重力に限りなく忠実で


天井ライトの光は


蛮族の女神を神々しく照らす


沈み込むリングマットの冷たい感触






バ………ン…………





ワァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!


“ダウン!!ダウンです!!チャンピオンがリングに沈みました!!!何が起きたのか!?チャンピオンがダウンです!!……えー、ここでスクープです。ラタトクスのへザー氏から再び魔法カメラの超スロー映像が届きました。……なんと!”

“凄い……このコンビネーションをチャレンジャーは極限状態でやってのけました。まず、右手と右足を連動させて繰り出す右ののフック。これはサウスポースイッチのパンチだ。その後、強烈な左アッパー。そこからオーソドックスに再びスイッチする右コークスクリューブロー。全弾ホセに命中しています!!”


カウントが始まる。


1……

ホセはピクリともしない。

2……

アビゲイルは満身創痍でコーナーポストにもたれかかっている。

3……

両者のセコンドのカルロスとキャサリンはただ静かに見守っていた。

4……

ヴラタスキは夫と一緒に祈る様な気持ちでアビゲイルの勝利を信じている。

5……

“カウントが進んでいきます。”

6……


7……


8……


9……


10……


カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!

“試合終了です!!!勝者はチャレンジャー!!種族アマゾネス!!アビゲイル・マリネリス!!!!激闘のこの試合、最終15ラウンド2分36秒の劇的な勝利です!!女王に返り咲きました!!!喜びを爆発させています!!!(ウワォ!!ジャックポット!!大穴が当たった!!!億万長者!!)”

リングの上でガッツポーズを取るアビゲイル。

カルロスに支えられて、起き上がるホセ。

2人は晴れ晴れとした笑顔で、拳を合わせ挨拶を交わす。

“この試合は間違いなく伝説となるでしょう。2人の素晴らしい選手……いや、戦士にもう一度大きな拍手を!!!”

ワァァァァァアアアアアアアアア!!!!

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!!

『W.H.and.M.B.C 人魔統一世界ミドル級ボクシング新チャンピオン、アビゲイル・マリネリスにチャンピオンベルトが送られます!!』

アビゲイルの腰に黄金のチャンピオンベルトが巻かれ、ヴラタスキとキャサリンに担がれ喜びを爆発させる。

“さぁ、いよいよ勝利者インタビューです!”

『激闘の末、見事勝利を収めたアビゲイルさん、コメントをどうぞ!』

マイクを受け取るアビゲイル。すると……


ドッ ドッ ドッ ドン! ドッ ドッ ドッ ドン!

ドッ ドン ドッ ! ドッ ドン ドッ!

ダカダカダン! ドッ ドッ ドッ!!

ドッ ドッ ドッ ドン! ドッ ドッ ドッ ドン!

突然、アマゾネスの戦太鼓が鳴り響く。気付けば、リングはアマゾネス達に取り囲まれている。

『アビー!やっちゃえー!!』

『うらやましいぜー姐さん!!』.

『スラムのみんな?』

『お前さん、特別ルール忘れてないか?』


ピー……ガー……ブッ……


『…………アマゾネスである私、アビゲイル・マリネリスは、今この場でW.H.and.M.B.C特別ルール……マリッジルールを適用する!!』


キーー〜〜〜ンーー………


“ “え!!?……えぇーーー!!??” ”


言うや否や、アビゲイルはダメージで動けないホセに飛び掛かった。

『ホセ!!私はお前が好きだ!!』

すかさず、カルロスが割って入る。

『ちょっ……あんた、もう少し場所を考え……うわぁ!!……ん……んん…!!』

『ぷぁ❤……邪魔しちゃダメよ?ダメダメ。あなたは私と楽しみましょう?……んふふふふ❤』

キャサリンはカルロスの唇を奪い、抱きとめると、何処かへ連れてってしまった。恐ろしい迄の手際の良さだ。

周りを見るとリングはアマゾネス達の猟場と化しており、戦太鼓の響の中で各々捕まえた男を押し倒して愛を囁きあっている。

“えー……なんだか凄い事になってきました。一応、マリッジルールは規定上では即時適用可能なのでルール違反にはなりません。(これ以上は放送できないな。よし!)……ゲフン!……W.H.and.M.B.Cミドル級タイトルマッチをお伝えしました!バイ!サン・フランシスカ!(カメラ止めて!早く!何やってんの!?……え"?)”

レイモンドがカメラスタッフの方を見ると全員、アマゾネスや興奮した魔物娘に襲われている最中だった。

“えー?マジですかー?”

スウッ……と誰かがレイモンドを背後から抱き寄せる。恐る恐る振り向くと

“ねぇ……レイモンドぉ……私、ずーっと我慢したんだ?私が何で今までトーヘンボクの鈍チンのあんたと一緒に何回もラジオやテレビでボクシングの解説してたかわかるか?”

“えー……ケリーさん?おめ目が据わってますよ?ケリーさん?……えっと……視聴者のみ、みなさん……また合う日まで……ちょ……やめ……あぁぁー……”

“❤❤❤❤❤❤❤”

レイモンドはケリーに押し倒された。

リングの上で、アビゲイルはホセに馬乗りになりながら、グローブのテーピングを歯で引きちぎり、方掛けのタンクトップを脱ぎ捨て美しい胸部を露出させる。まるで神話の1ページのような光景で、美しい戦の女神が傷ついた戦士の前に現れたようだった。

『私はガサツだし、不器用だし、筋肉ばっかで胸だってあまり無い。でも、お前を好きな気持ちは誰にも負けない!この世で一番お前が好きだ!!愛してる!!絶対に幸せにする!!』

『セニョリータ……すまないが、俺には幼い兄弟達と年老いた父親がいる。だからまだ結婚するわけにはいかな……んん……!!』

アビゲイルはホセの言葉を遮って唇を奪う。

『ちゃぷ❤……私のファーストキスだ。お前に私の初めてを全部やる。私の人生全部やる。……それにお前の兄弟の事も、父親のことも何とかする!!だから、ホセ!安心して私のものになれ!!私にホセの全てをくれ!!』

『拒否権は?』

『無い!!無理矢理にでも私と幸せになってもらう!!!』

『……君はおかしなヒトだ。』

『私もそう思うよ。』

そう言うとアビゲイルはホセのボクサーパンツとプロテクターをさっきのグローブのように引きちぎり、ホセの分身を露出させた。

ズルルルルル………

『うぐぅ……』

酷く下品な音を立てて、ホセの分身を一気に何の躊躇も無く喉の奥に運び入れる。

ブチュ……ジャブ……ンチュ……ズルズル……

左手はホセの腰に回され、右手は自身の秘所をクチャクチャといやらしい音を立てて弄っていた。

ホセは主神教信者だ。自慈もあまりしていない。ましてや主神の加護を無意識のうちにでも引き出したことから、女性経験などありはしない。

そんな彼が魔物娘のディープスロートなど絶えられる筈がない。

『うぐぅ…ぁあ!……』

(痙攣しだした?そろそろか?……逃さない。)

ズロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!!

『ぁぁぁああああ!!』

『んぶぅ!?ん……んん……ん……』

ビクン!……ビクン!……ビクン……ビクン………ビク……

アビゲイルはホセの分身を下品な音と共に再度喉奥まで加え込む。その瞬間にホセの限界が訪れ大量の精液をアビゲイルの喉や胃に直接ぶちまける。腰を完全に抑えられていて快楽から逃げることが出来ない。痙攣に合わせアビゲイルの喉がコクコクと動く。

『あ''……かはっ……』

ホセの分身は精液を吸い尽くされ、やっと解放される。

『ちゃぷ❤ん……❤(すげぇ!精液すげぇ!しあわせぇぇ❤)』

右手は絶えず水音を奏でていて、太ももにはテラテラと光るいくつもの川が出来ていた。

飾り布の下、ピッチリとしたスポーツパンツの中心をバリッと裂き、秘所を露出させる。

んちゅ❤❤

くちゃ……ん❤……

くちゅ……んぁ❤……ちゃぷ❤

くちゃ❤……

はぁ……はぁ……

アビゲイルはホセの唇を再び奪う。より深く、より激しく。

『……立ったな?……もう私我慢できないんだ。』

クチャァア……❤❤

愛液の坩堝になっている秘所を広げる。透明な糸を引き、ヒクヒクと動いている。

『私のココ……激しい運動でもう膜無くなってると思うけど……は、初めてだから!』

ーーーーぱちゅん❤

『『ーーーーーーーーーー!!!!!』』

アビゲイルはホセの分身を自身の秘所に当てがうと何の躊躇も無しに腰を落とした。お互いが与えあう快楽から声も出ない。

アビゲイルの頬には一筋の涙が。彼女とホセの結合部からは一筋の赤い雫が。

『大丈夫か!!?セニョリータ!』

それを見たホセが、心配そうな声を上げる。

『だいじょうぶ……痛くない。嬉しいんだ……やっと……やっと……ホセと繋がれた。はは、膜も少し残ってた……よかった。ん……ちゅ………❤❤』

繋がったまま、アビゲイルはホセの唇を奪う。今度は激しくなく、ゆっくりとした幸せを噛みしめるような優しいキス。

ちゃぷ❤

唇を離すと名残り惜しむように口の端から唾液の糸が掛かる。目を合わせるとホセの瞳が綺麗な青色に戻っていた。

『私はやっぱり、お前の青色の目が好きだ。』

ホセの顔が真っ赤に染まる。

『セニョリータ……』

『アビゲイルだ。アビゲイルと呼んでくれ。』

『アビゲイル……』

ホセが名前を呼ぶとアビゲイルの身体が2、3度痙攣して玉のような汗が褐色の肌から滲み出てきた。

『……ちょっとイッちゃった❤……動くぞ!』

ズルルルルル………

ばちゅん!!

一気に引き抜き、思い切り叩き付ける。

たん!たん!たん!たんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたん!!!

ボクシングで鍛えに鍛え上げた下半身にものを言わしての、高速ピストンが始まった。戦士の上で女神が跳ねる。

『ぐぅぁあ……あっ……いぎ………』

『あっ❤……あっ❤……あ❤あ❤あ❤あ❤あ❤あ❤』

水音と乾いた肌と肌がぶつかり合う音が次第により速くなっていく。躍動する鍛え抜かれた2人の筋肉。汗の雫で輝いて美しい2人の美観をさらに引き立てる。

アビゲイルの瞳孔は❤になっていて、子宮口は完全に降りきっており、精を求め快楽を貪るために弱点を自らさらけ出している。

たんたんたんたんたんたんたんたんたたたたたたたたたたたたたたたた!!!!

『ぐぅぁあ!アビゲイル!アビゲイル!』

『お前を……ぜったい……あっ❤……に……幸せに……んぁあ❤……してみせる!!好きだ❤……ホセ❤……愛してる❤……はぁ❤……お前は……私の……ぁあ❤……オスだぁぁぁああああ!!!!』

ズルルルルルルル………

ぱちゅん❤

トドメの一つき。限界まで引き抜き一気に腰を叩きつけた!

ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク!!!!!

『『あ”あ”あ”ぁぁぁああああ”❤❤❤❤❤』』

身体を弓なりにそらして叫び声を上げる動物的な絶頂。一瞬心臓が止まり、呼吸も忘れる程の快楽に身を浸す。

気付けばまた唇を重ね合っていた。

スタジアムにいた全ての人がその2人の交わりを見ていた。

あちらこちらで触発された魔物娘が男を捕まえて犯している。あちらを見れば人間のカップルが我を忘れて交わり、こちらを見れば魔物娘と中年の男が濃厚なキスをしていた。

『ふふふ❤』

『あっ……!?』

アビゲイルの膣がホセの分身を締め上げた。

『私の性欲は底無しだ……だから、頑張ってくれよ!婿サマ❤』

『お、お手柔らかに……ぐぅぁあ!?』

たんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたんたん………………

こうして、蛮族の夜宴が続いていく………










その後。

試合から数日後、アビゲイルとホセは晴れて結婚した。結婚式場でキャサリンとカルロスのペアと顔を合わした時の婿サマ達の顔は傑作だった。お前もか……と。

あの試合で結ばれたカップルは数知れず、結婚式場は結婚式のスケジュールで何処彼処も嬉しい悲鳴を上げた。そうそう。最近のブームは蛮族風の挙式らしい。

アマゾネス達がミスリル・ゲートブリッジ・スタジアムのジャックに報道陣まで巻き込んだおかげで、アビゲイルとホセを始めとする魔物娘の乱痴気騒ぎが合衆国中で垂れ流しとなった。スポンサーである、ハルミトン・スチーム・カンパニーの社長アラン・ハルミトン男爵は

『まぁ、沢山宣伝出来たんだから良いよ。』

との事で満足していた。後にアビゲイルがイメージキャラクターを努めたベッドクリーナーの売れ行きもあの試合のおかげで好調らしく満足した様子だった。

貿易会社サー・ジェンキンスの社長はノーコメントを貫いている……クレームは入っていない。今のところは。


アビゲイルとホセはホセの家族を呼び寄せ一緒に暮らしている。敬虔な主神教信者の父親と一悶着あったものの、上手くやっている。

ホセはボクシングを引退。今まで稼いだファイトマネーでボクシングジムを開いている。朝は家事、昼から夕方までジムの仕事、夜にはアビゲイルの相手をする。良き夫として妻を支えている。

アビゲイルはチャンピオンとして一時代を築いた。誰もが知る伝説のチャンピオンだ。後進の選手を育てるトレーナーとしても活躍している。


“ハロー!ニューシャテリアの皆さん!今日はあの元W.H.and.M.B.Cミドル級チャンピオンのホセ・マリア・マリネリス、旧名ホセ・マリア・ロドリーゴ・サンチェスのジムに取材に来ています!レポーターはお馴染みの私、ジャック・レイモンドと合衆国軍 海兵隊 軍式格闘術特別顧問、お馴染み私の愛する妻、オーガのケリー・レイモンド大尉がお送りします!!”

“もーダーリンったら❤”

“ちゅ……げふんげふん……と言うわけで、早速中に入って見ましょう!”


【エルマーノ・ボクシングジム】


2人が中に入ると、そこは練習生であふれていた。人種、魔物娘、性別、年齢の区別なく
沢山の練習生が練習に励んでいた。

スパーリング用のリングの近くで会話が聞こえる。

『アビゲイル……チャレンジ精神は評価するけど、そう言う無駄遣いが家計にチリツモで負担をかけるんだ。だいたい、お汁粉味のダイエットコーラ……って何だよこれは……』

『いーじゃないか!だいたい、婿サマは嫁サマのやる事にいちいち口出しするな。マリーはみみっちいな!』

『その名前で呼ぶな!しかも人前で!』

『いーじゃないか?素敵な名前だよ。マリーちゃん❤』

キャサリンとカルロスが作業をしながらボソッと

『『また始まったか……』』

“なんでホセさんがマリーちゃんなんですか?”

『ああ、旧名がホセ・マリア・ロドリーゴ・サンチェスで今がホセ・マリア・マリネリスだろ?“マリア”が取れてないの。だからホセのことをマリーってアビーは呼んでるわ。』

ホセは花柄のエプロンを脱ぎ捨て、グローブをつける。

『お!やる気か?』

『ああ。今日という今日は家計を支える夫の怒りをみせてやる。俺が世の中の婿代表だ!』

『上等だ跳ねっ返りの婿サマ!!嫁代表として嫁サマの威厳を体に教えてやる!』

“おーっと、なにやらスパーリングが始まる模様です!夫婦の対決です!!”

“あのタイトルマッチを思い出すわ!”

『『カルロス!ゴングお願い!キャサリンはレフリーで!』』

『『はいはい。』』

“さあ、W.W.and.H.B.Cワールド・ワイフ・アンド・ハズバンド・ボクシング・カップ、ミドル級タイトルマッチ!!勝利の女神は何方に微笑むのか!?いよいよ試合開始です!”

レイモンドのアドリブの実況に合わせて幸せ夫婦喧嘩の祝福の鐘が鳴り響く。


ラウンド1 ファイ!


カーン!!



END……
18/06/17 21:06更新 / francois
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■作者メッセージ
お読み頂きありがとうございます。

男らしい強い女性を書こうとしたらアビゲイルみたいなキャラクターになりました。

舞台となったアルカナ合衆国のモデルは言わずと知れたサム叔父さんのステイツです。全ての人種と魔物娘の自由の国。宗教も自由。様々な人や魔物娘が自分の色を持てる虹の国として私の理想も入ってます。

少し熱苦しくて不器用な2人の物語をお楽しみ頂けたら嬉しく思います。

ご感想、ご意見があればお気軽にどうぞ。

ではまた U・x・Uつ

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