連載小説
[TOP][目次]
忘れられない夜
「……ねぇ、セオ君」
「はい……」

二杯目のグラスを空にする頃には、甘く心地良い酩酊感はさらに深みを増していた。名前を呼ばれるだけで、心が彼女に染め上げられていくかのよう。しなやかな指先が肌を撫でるたび、恍惚の吐息が漏れる。触れ合う温もりに、融けてしまいそう。

「君に、聴いて欲しい曲があるんだ」
「私に……ですか?」
「ふふふ……そう、君のために演奏させて欲しい」
「私のためだなんて、そんな……嬉しい、です」

彼女が取り出したのは、ハートの意匠が施された笛。バッカスの加護を受けたその笛の音もまた、心地良い陶酔をもたらしてくれるとされる。酒と笛の音に酔わせ、交わりに誘い込むのが彼女達の常套手段。それを知っていてなお、むしろ知っているからこそ、期待を寄せずにはいられない。更なる陶酔を、更なる心地良さを。そして最後にはきっと、私を抱いて、口づけを交わして、優しく愛してくれるのだと。

「ふふ……それでは」
「……はい」

先端を咥える唇、絡みつくように添えられた指。笛を構える彼女の佇まいは、凛としながらも何処か淫靡だった。

奏でられる笛の音色は、ふわりと包み込まれるように優しく。しかし、その旋律は情熱的。流れるように音階は移りゆき、そして時折、甘く揺らいで私を撫でる。
身にも心にも響き渡るその演奏は、さながら、彼女の腕に抱かれ、愛を囁かれるかのように心地良く。その抗いがたいまでの甘美さに、酔いしれずにはいられない。

「……」

そして、これ程までに私を酔わせてくれる彼女が愛おしくて仕方なく……私は自ら身を寄せ、彼女の肩に頭を預けていた。私にとっては、あまりにも大胆な触れ合い。しかし、そうしたくて仕方がなかった。身体ごと委ねるようにしな垂れかかり、さらさらとした毛並みに覆われた太ももに、手を置く。彼女は、演奏を続けながらそれを受け入れてくれる。甘い髪の香りを胸いっぱいに吸い込み、太ももをそっと撫でる。指先を、毛並みが滑らかに流れていく。その奥には女体の柔らかさと温もり。気持ちいい。目を閉じ、愛の音に聴き惚れながら、彼女に溺れていく。





「……愉しんで貰えたかな?」
「はい……とても素敵で、気持ちよくて……聴き惚れて、しまいました……
こんなのは、初めてで……」
「ふふ……気持ちいい、だなんて。悦んでくれて何よりだよ」

名残惜しくも、演奏が終わる。残響が余韻となって頭の中に甘く響き渡ったまま。熱に浮かされたような、いい気分。身体も火照って、彼女と触れ合えば心地良さに融けあってしまいそう。
酒に、音楽に、そして彼女に酔い痴れる、その悦び。この素晴らしさを、知ってしまった。教え込まれてしまった。もっと、もっと、教えて欲しい。そう思わずにはいられない。こんなつもりで食事の誘いに乗ったわけではなかったのに。すっかりと、その気にさせられてしまった。彼女は、なんといけない人なのだろうか。

「さて……そろそろデザートはいかがかな……?」
「それも、魔界葡萄ですか……?」

そうして彼女が摘み上げるのは、魔界葡萄の一房。書物で見たものとは品種が違うらしく、その見た目は酒造用の葡萄に似ていた。小ぶりの果実に、少しつつけば破れてしまいそうな極薄の皮。その中には、赤い果汁が湛えられていた。

「いかにも。ふふ……これにも食べ方があってね」
「ぁっ……」

顎に添えられた指。くい、と顔を上向かせられて。胸の中をぎゅっと掴まれてしまったかのような心地。どきりとしてしまう。

「ほら、顔を上げて……あーん……」

そして彼女は、摘み上げた魔界葡萄の房を、私の口元へと垂らしてきて。魔界葡萄は、下側の実ほど魔力が濃縮されて美味とされる。彼女が私の口に運び込もうとしてくれているのは、その一番美味しい部分だった。

「あーん…………ん……あぁ、こんなに、甘いなんて……」

彼女にしなだれかかったまま、垂らされた房を下からぱくりと一口。
極薄の皮がぷつりと小気味よく弾け、その中から溢れ出る果汁はとびきりの甘口。瑞々しくも濃厚かつ芳醇で、甘美さが喉に灼けついてしまう。まさに極上の一口だった。
そして、果実を味わうその最中も、彼女の眼差しは私に注がれていて。
まるで絵画の中の世界のように、退廃的で享楽的な体験。これもまた、私の知らない悦びだった。

「さ、僕もいただこうかな。ん……美味しいね、セオ君……」

そして彼女は、残りの果実を摘み上げると、一口でぺろりと平らげてしまう。
そんな遊び人の所作を以って、当然のように、一番美味しい部分を私に譲ってのける。紳士的で享楽的。そんな彼女の魅力に、ますます酔ってしまう。

「……まるで、夢みたいです。いえ……夢にも、思いませんでした……こんな……」

悦びと、ときめきに満ちたひと時。心を満たされながらも、甘く掻き乱されて。薔薇色の時間とは、まさにこのことを言うのだろう。まさに夢見心地で、夢のよう。

「君が望んでくれるなら、もっと夢みたいなコトだって……」
「クレア、さん……」

恋か、愛か、憧憬か、欲望か。この想いを定義できずとも、甘い囁きに応えずにはいられなかった。
初めて呼ぶ、彼女の名前。自分でも信じられないほど、情念に満ちた声。細くも頼もしい腕にぎゅっと縋り付いて、翠の瞳を見上げる。
応え方を知らず、何を求めればよいのかさえ曖昧なままの、精一杯の想いの発露。

「セオ君……」

そしてクレアは、私の頰に手を添え、愛おしげに撫で回してくれる。その翠の瞳で、私を見つめ返してくれる。酒気を帯びて上気し、ほんのりと染まった頰。艶やかな唇もまた、美しい薄紅色。
喜悦交じりの優しい微笑み。露わになった、サテュロスの本性。しかし今は、欲望に満ちた眼差しに、安堵さえ感じてしまう。彼女もまた、私を求めてくれている。それが何より悦ばしい。

「……」

しがみついた腕を解放すれば、再び情熱的に抱き寄せてくれて。頬を撫でていた指先に、顎をくい、と持ち上げられてしまう。凛々しく、麗しく、美しく。まるで、童話の中の王子様。
そして、クレアは私の瞳を覗き込みながら、ゆっくりと顔を近づけてきて……
それが何を意味しているのかは、もはや自明だった。決して強引さはなく、拒む事も出来た。
それでも私は、そっと目を閉じ、クレアに身を委ねることを選んだ。ただ、そうしたくて。

「ん……」

最初に感じたのは、微かな吐息。そしてついに、待ち望んだ感触が、唇に。その瞬間、ワインの香りがふわりと薫る。不可解なほどに柔らかく、湿潤で滑らか。まさに、とろけるように心地よく、触れ合うだけで心を奪われてしまう。めくるめく陶酔の中にも関わらず、唇を貰われてしまうその瞬間は、あまりにも鮮明で。意識が、染め上げられていく。決して忘れられそうにない一瞬。
そして、唇を重ねたまま、僅かとも永遠ともつかない時が流れて。

「……ふふ……ご馳走さま」
「……ぁ……っ……」

初めてのキス。優しく融かされ消えた、唇の純潔。不可逆に変化した私達の関係。目の前で微笑むこの人に、私は唇を捧げてしまったのだ。
純潔性など、特に己の物などはどうでも良いと思っていたはずなのに。この瞬間がどうしようもなく、特別に思えてしまう。

「……その、は、はじめて……だったの、ですが……」

そんなつもりではなかったのに、そんな気になるつもりもなかったのに、すっかりその気にさせられてしまっていた。それを自覚したからといって、もはやどうにかなるわけでもない。彼女になら、クレアになら唇を委ねてもよいと、委ねてしまいたいと、そう思ってしまったのは事実なのだから。
キスを、してしまった。ざわめくこの気持ち。私が私でないかのように、舞い上がってしまう。

「僕もだよ……セオ君。僕も、初めてだ。ふふふ……嬉しいね、初めて同士だなんて」
「く、クレアさんも……はじめて……」
「そう……君が、僕の初めての人だよ……セオ君……」

うっとりと、ひときわ甘い声。こんなにも美しく、麗しく、紳士的で、頼もしく、可憐で、妖艶で、言葉を尽くしても言い表しがたいほどに魅力的な女性の、初めての相手が、この私だというのだ。それは、まさに望外の悦びだった。

「な……何故……?」

しかし、度を過ぎた悦びは、戸惑いをもたらして。何故、どうして、私を選んだのか。私を見初めてくれた理由。それが不可解で、気になって仕方なかった。いや、ずっと気になっていた。ずっと、知りたかった。

「ふふ……どうして、だなんて……不思議な事を聞くんだね。君が素敵だから……たった一人、そうしたいと思わせてくれたから」
「…………わ、私のどこが……その……素敵、なのでしょうか……?」

そして彼女は、私の事を素敵だと云う。当然の事、と言わんばかりに答えてみせる。私が素敵だから、と。たった一人、口づけを交わすに値するのだと。真っ直ぐに私を見つめて、そう言ってくれる。信じ難くも、彼女が嘘をついているとは思えず。だから、問いを投げかけずにはいられなかった。

「ふふふ、そうだね、まず……そんな、知りたがりな所が魅力的だ」
「あ、ぁ、ありがとう……ございます……」

返ってくる答えは、とびきり甘い肯定の言葉。疎まれがちなこの性分を受け入れるどころか、魅力的だと言ってくれるのだ。
そして、とんでもない問いを投げかけてしまった事を自覚する。
己が素敵である事を前提に、その理由を問う。なんと大それた問いだろうか。羞恥と悦びがないまぜになって、声が震えてしまう。

「そうやって照れるところも、とても可愛くて……ふふ、真っ赤な顔が、とても美味しそうだ」
「ぁ、ぅ……」
「うぶな所も……リードのし甲斐があって堪らないよ……」

流れるように紡がれる褒め言葉。それが上辺だけの物ではない事は、彼女の瞳に揺らめく欲望が物語っていた。
真正面からぶつけられる好意。嬉しくて、恥ずかしくて、ろくに返事も出来ない。息を整えるので精一杯。めまいさえ感じてしまう。

「さて、まだまだ素敵な所は沢山あるけど……続きはあっちでじっくりと、ね……?」
「……は、はぃ……クレア、さん……」

おもむろに彼女は、私を横抱きに抱きかかえてくれる。さながら、王子様のように。
続きは、ベッドで。それが何を意味するかは、もはや自明。もっと、もっと、私の素敵なところを教えてもらいたい。じっくりと、詳細に、手取り足取り。
むず痒い羞恥と、くらくらする程の悦び。あまりにも甘美な問答が、私を虜にする。

「ふふ……」
「ぁっ……」

彼女が私を丁重に横たえてくれたのは、天蓋付きのふかふかのベッド。まるで、お姫様扱い。
そして彼女は、私の上に。優しく、覆い被さられてしまう。ついに、身体同士が正面から密着して。服越しといえど、その温もりは、柔らかさは、堪らなく甘美なものだった。堪らず、抱きつかずにはいられない。ぎゅっと抱きついて、二度と離れたくない。彼女の瞳を見上げ、魅入られて、続く言葉を待ち望む。

「ねぇ、セオ君……こんなにも護ってあげたくなるのは……セオくん、君だけなんだ……」
「護って、ですか……?」
「ふふふ……君の事を影で護衛していた時から、ずっと、ずっと……傍で護ってあげたかったんだ」
「それは、どうして……?」
「あぁ……だって君はこんなにも華奢で……かよわくて……」
「ぁ……ぁっ……」
「ふふふ……とても可愛くて、堪らないんだ……」

欲望に満ちた眼差しが、私を見据えて逃さない。私を柔らかく包み込むように覆い被さったまま、その指先が、私の身体を艶めかしく這っていく。彼女に身体をまさぐられる事に不安はなく、むしろ安心さえしていた。だからこそ、彼女の指先がもたらす、ぞくりとした快楽に甘い声を漏らしてしまう。私という人間の脆弱さまでも、彼女は好ましく思ってくれている。それが嬉しくて、仕方ない。

「そんな君が、教団に目をつけられるような事をしようとしていて……だから、君の事を一目見た時に思ったんだ。僕が護ってあげなきゃ……って」
「ぁ……」
「ふふふ……君は、無防備なところがあるからね。昨日の事なんて、まさにそうさ。でも……だからこそ、もっと、もっと、大事にしてあげたくなってしまった」
「はぁ……そんな……ぁぁ……」

甘い囁きは止まらない。私の迂闊さを、愚かささえも肯定してくれる。凛としながらも熱っぽい声色に、欲望と想いの入り交じった言葉に酔わされて、ますます、その気にされてしまう。彼女にとって、私は無防備な所が愛らしく、素敵で、護ってあげたくなる……そんな男であることを、悦んで受け容れていた。

「勿論、学者としての君も素敵だよ……?魔術の研究に打ち込む姿も、その結果に一喜一憂する姿も、僕の胸を高鳴らせてくれた。椅子に座って考え込む姿だって……悩ましくさえ思えてしまう。
それに、さっきの君はまるで少年のようで……僕には、その瞳が宝石のように輝いて見えて……かけがえなく素敵だった。夢中になると周りが見えなくなってしまう、そんな所も含めて……ね」
「ぁ……ぅ……本当、ですか……?」
「ふふふ……本当さ。そして思ってしまったんだ。願わくばあんな風に……いや、それよりもっと、僕の事を見て欲しい……って」
「も、もっと……ですか……?」
「そう……もっと、もっと……君を夢中にしてあげたくて、仕方がないんだ」
「そんなこと、されたら……ダメに、なってしまいます……」
「ふふふ……ダメになってしまった君も、きっと素敵だと思うな……」
「く、クレアさぁん……」

羞恥と悦びに満ちた語らい。彼女が嘘をつくはずはない、それを解っていてなお、答えを確かめずにはいられない。
甘い囁きに耽溺して、恥じらいがちに、躊躇いがちに、彼女の言葉を求めてしまう。彼女の言葉一つ一つに、酔い痴れてしまう。その言葉の奥に込められた熱い熱情が、私の胸を甘く苛んで蕩けさせる。
そして、私はまた、彼女の名前を呼ばずにはいられなかった。何をしたくて、どうして欲しくて、そんな事を考える前に。ただただ、想いが口から零れ落ちる。

「ふふ……」
「ぁ……っ」
「んむ……ぁむ……ちゅ……っ…………」

微笑みと、再びの口づけ。有り余る期待に緊張しながら、それを受け容れる。2回目のキスは、丹念に私を愛で尽くしてくれる。より密に重なり合って、余す事なく味わうように。触れ合い重なり合う唇が、融けあってしまうかのように気持ちいい。柔らかく愛おしい感触に、意識を添わせずにはいられない。彼女の唇に、心までもが奪われていく。

「れるっ……んぅっ……れろ……ちゅぅっ……んっ……」

甘い唇に身も心も委ね切ってしまえば、今度は、艶かしく濡れた感触。私を驚かせないよう、重なる唇の間からそっと触れてきてくれる。それは、ゆっくりと私の口内に滑り込み、私の舌を優しく絡め取ってくれる。キスの仕方もわからない私を導くように、寄り添うように、快楽を教え込んでくれる。しなやかな柔らかさを携えたその舌に、口内を愛で尽くされる。背筋がぞくぞくと震えながらも、身体は弛緩していく。内側から、熱くとろけていって、腰砕け。
そしてそのキスはやはり、ワインのような味がして。酒精は含まれていないはずなのに、ますます酔いは深まるばかり。

「んっ……ちゅ……ふふふ……とろけたカオも素敵だよ……思った通りだ……」
「ぷは……ぁ……はぁぁ……」

濃密なキスの後に訪れるのは、微睡みのように甘い充足感。教え込まれた唇の感触に、舌の艶かしさに、心奪われたまま。大切にされている、愛おしく思われているのだという実感。それがこんなにも心地良く、幸せなものなのだとは、知らなかった。知ってしまった。

「もっと、もっと、君を見せて欲しいな……」
「ぁ……」

そして彼女は、私の服を脱がせ始めてくれる。丁寧で優しく、しかし手慣れた様子。あっという間に、貧相な上半身を晒すことに。

「んっ……ちゅ……ん…………」
「ぁっ……はぁ……ぁっ……クレア、さん……」
「大丈夫……とっても魅力的だよ、セオ君……ちゅ……んっ……他の誰よりも……そそられてしまう……」
「ぁ、ぁっ……はぁぁ……」

ゆったりとした愛撫の合間、頰に、首筋に、胸板に、お腹に、愛おしむような口づけ。男らしさとは無縁の身体であっても、彼女はそれを魅力的だと言ってくれる。そして、その言葉を行動でも示してくれる。
悦ぶ心、高まる興奮。しかし、それとは裏腹に解きほぐされていく緊張、弛緩していく身体。
次第に肌は感度を増していき、触れるか触れないかの指先に、甘い声が漏れてしまう。口づけを受ければ、甘い余韻に疼いてしまう。彼女の丹念な愛撫に、感じ入ってしまっていた。

「さ……こっちも……見せて欲しいな……」
「ぁっ……は、はぃ……クレアさん、になら……みて、欲しい……です」
「ふふ、ふふふ……」

ついに、彼女の指先がズボンの中へと滑り込んできて。羞恥と、それを遥かに上回る期待。彼女の求めに、悦んで応える。拒むことなど、考えられない。
そして彼女は、妖しく微笑みながら、優しく私を裸に剥いてくれて。

「はぁぁ……とっても美味しそうだ……セオくん……❤︎」
「ぁ、ぁ……」

露わになった私のモノを見下ろし、恍惚の表情を見せてくれる。”美味しそう”と呟くその声は、包み隠さぬ欲望を孕んでいて。その欲望は、激しくも優しく響く。情欲に満ちた視線が、絡みつくかのよう。私の身体に、欲情してくれている。魅力を感じてくれている。獣の本性もまた、悦ばしい。

「ふふ、ふふふふ……今すぐにでも食べてしまいたいくらいだけど……まずは……❤︎」
「ぁっ、はぁぁ……ぁっ……」
「ふふ……気持ちいいかい……?」
「は、はぃ……もっと……シて、ください……」

優しく脚を開かされてしまえば、仰向けの蛙のようにあられのない姿に。睾丸まで余す事なく露わにさらけだして。そして彼女は、内ももから脚の付け根を、その手でゆったりと愛撫してくれる。敏感な場所を撫で回され、腰が震えてしまうほどに気持ちいい。その最中、じっくりと高められていく性感。

「ふふふ、勿論さ……❤︎ねぇ、セオくん……僕は、君を悦ばせてあげたくて、仕方がないんだ……❤︎」
「ぁ、ぁっ、クレアさぁん……」

私の精が欲しいだけなら、今すぐ貪ってしまえばよいと言うのに。此処までくれば、拒むことなどないと言うのに。私をさらに悦ばせようと、丹念に、執拗に、全身へと愛撫を繰り返し、キスの雨を降らせてくれる。単なる性感にとどまらない幸福感。愛されているという恍惚に酔い痴れ、溺れていく。





「あぁ……僕のかわいい子猫ちゃん……❤︎」
「はぁぁ……」

芯まで解きほぐされた緊張、隅々まで弛緩しきった身体。指先までもが熱く火照って、心地良さのあまりとろけてしまいそう。私を見下ろすクレアの微笑みに、ただただ見惚れずにはいられない。まとまりのない思考の中、彼女への想いが頭を埋め尽くす。
快楽を余す事なく愉しむ準備は、心身ともにもはや万端。彼女の甘美な愛撫の果てに、私は完全に”出来上がって”しまっていた。

「ふふ、さて……ちゅ……ん……❤︎」
「はぅ……ぁ、ぁ……❤︎」

そんな私を前に、仕上げと言わんばかりに彼女が唇を寄せるのは、触れられないまま昂りきってしまった、私のモノだった。
熱く精を滾らせ、ぱんぱんになってしまった玉袋を、慈しむようにさすってくれる。そして、先走りを垂れ流す先端に、もっとも敏感なその場所に、そっと優しく、親愛のキス。それはさながら、挨拶代わりに手の甲に口づけをするようで、優雅さ、凛々しささえ感じさせてくれて。しかし、柔らかな唇の、その甘い吸い付きは、溢れんばかりの愛おしさを表現してくれていた。
微睡みのような心地良さから一変、一瞬の邂逅がもたらしてくれるのは、胸の高鳴りにも似た、狂おしくも甘美な疼き。果ててしまいそうなほどに、肉棒が、腰が、身体中が、心までもが、きゅうきゅうと甘く疼いてしまう。口づけ一つのもたらす心地良さに、身も心も酔い痴れて、堕ちてしまう。今すぐにでも、彼女に食べられてしまいたい。抱かれてしまいたい。精を捧げてしまいたい。
──あぁ、どうか、私をあなたのモノにして──

「ふふ……僕も君に応えないと、ね……❤︎」
「ぁ……」

彼女は私の心を奪うと、艶めかしく服をはだけさせていく。燕尾服の前を開けば、その下には、ぱつんぱつんになったシャツ。菱形にくり抜かれた生地からは、ぎゅうぎゅうに押し込められた谷間が覗いていて。
そして、続けてシャツのボタンが一つ一つ、これ見よがしに外されていく。徐々に抑圧から解放されていく彼女の胸。窮屈そうなシャツの中からまろび出たのは、たわわに実った、色白の果実だった。
服の下からでも存在感を主張していたその胸は、露わになってみれば、より一層大きく。そして、その類稀な大きさにも関わらず、垂れ下がることなく美しく凛々しい形を保っていた。その先端はつんと上向いていて、薄紅色。弾力を感じさせながらも、たゆん、と大きく揺れるその光景が、底知れない柔らかさを期待させてくれる。彼女はまるで王子様のように私を可愛がってくれながらも、その身体はまさに”女”そのもの。その麗しい装いを脱ぎ捨てないからこそ、露わになった肌が、胸が、”女”が際立って、私の目を奪う。

「どうだい……?僕のカラダは……❤︎」
「きれい、です……」
「ふふ……嬉しいよ……❤︎」

次に彼女の手が伸びる先は、体毛に覆われた下腹部の、そのさらに下。ふんわりとした毛並みが、じっとりと濡れ湿っていて。まるで見せつけるようにしながら、彼女が”そこ”を撫でると……秘所を覆い隠す体毛だけが消え去ってしまう。
紅い毛並みに覆われた下半身の中で、そこだけが柔らかな肉を晒し、甘い蜜を滴らせていた。
初めて目の当たりにする女体は、幻想よりも淫らで美しく。ぴったりと閉じた、肉厚の花弁が。くらくらしそうな程に漂ってくる、芳醇な女の匂いが。興奮にほんのりと朱く色づき、いやらしく光にぬらついた光景が。どうしようもなく、私の思考を、桃色に染め上げていく。
その唇も、舌も、指先も、胸も魅力的だが、それよりも、何よりも……その場所で、私を悦ばせて欲しい。番って欲しい。子を成して欲しい。愛して欲しい。本能と欲望と想いが入り混じった中、至上の快楽を夢想する。
私は、“そこ”を食い入るように見つめながら、クレアが”来て”くれるのを期待せずにはいられなかった。

「ふふ……大丈夫……最高の初めてにしてあげるよ……❤︎だから、僕に任せて……❤︎」
「ぁっ……」

そう言って彼女は、私のモノを跨ぐ。そして、私の両手をそっと取り、指と指を絡め合わせ、ぎゅっと手を繋いでくれる。欲望任せに私を組み敷くためのものではなく、まるで恋人同士がするような、甘く優しい行為。それは甘い疼きを加速させながらも、彼女に身も心も委ねてしまうに足る、絶対的な安心感をもたらしてくれた。手のひらから伝わる温もりはどうしようもなく甘美で、手を繋ぐ悦びだけで、もう果ててしまいそうなほど。ふさふさで艶やかな尻尾は、私のモノの根元にそっと絡みつき、手を添える代わりに支えとなってくれる。
そして、彼女がゆっくりと腰を下ろすと、その秘所はじわじわと私のモノへと近づいてきて。私に今一度、心の準備をする余地を与えるように、粘膜が触れ合う寸前でぴたりと止まる。欲望の熱気が、火照りが、じりじりと伝わるほどの距離。無論、答えは一つしかなかった。

「さ……愛を育もうじゃないか……セオくん❤︎」
「はぃ……クレアさぁん……❤︎」

優しくも妖しい囁きが、頭の中にこだまする。彼女を見上げれば、微笑みと、舌なめずり。包み隠すことなく露わになった、慈愛と欲望の甘くとろけるようなカクテル、それが彼女の本性。薄翠の瞳が、私を魅了する。眼差しとして注がれる愛が、欲が、想いが、悦ばしくて仕方ない。それらを直接、この身に受ける準備は、心身ともに万全で。期待に焦がれ、想いを胸に彼女の名前を呼べば……彼女もまた、私に応えてくれるのだった。

「あぁ……これが、君の……❤︎ようこそ……僕のナカに……❤︎」
「ぁ、ぁ、ぁぁ…………」

そしてクレアはついに、その腰を下ろし、私のモノを迎え入れてくれる。彼女の秘裂の入り口、その熱く滑らかな粘膜が、先端に触れて。たったそれだけで、頭の中は桃色に染まってしまう。そして、私のモノは、つぷっ……と容易く、しかしゆっくりと呑み込まれていって。まるで抱き締められるかのような、甘く、優しい締め付け。緩やかな、しかし確かな蠕動が、奥へ奥へと私を招き入れてくれる。彼女のナカが、私を歓迎してくれている。まるで優しく抱き寄せるかのように、そっと、丁重に、最奥へと私をいざなってくれている。今までに味わったどんな絶頂をも上回る、途方のない快楽をもたらしながらも、道半ばで暴発させてしまわないよう、大事に、大切に、私を導いて、私の初めてを奪い去っていってくれる。

「セオ、くん……❤︎」
「クレアさ、ぁっ、ぁぁぁぁぁ……」

柔らかく湿潤な肉襞の歓待の末に辿り着くのは、厚く弾力に満ちた最奥。その、子を宿す場所の入り口は、私のモノの先端を優しく受け止め、包み込んで……甘く、情熱的に吸い付いてくれるのだ。その淫らな口づけの瞬間、私の胸を満たしたのは……純潔を捧げる、不可逆で決定的な酩酊感と恍惚に他ならず。そしてそれは、丹念な愛撫に募り募った快楽とともに堰を切り、溢れ出す。ついに訪れた、めくるめく絶頂。下半身全てがとろけきって、溶けていってしまいそうなほどの心地良さ。
彼女のナカがもたらしてくれる、ぎゅっと抱きしめてくれるような抱擁が、脈動をエスコートしてくれるかのような蠢きが、情欲と愛情に塗れ、私を求めてくれるその吸い付きが。まさに身も心も融かすような、夢見心地の絶頂感へと、私を導いてくれる。意識までもが甘くとろけてしまいそうな、未曾有の快楽。
その中であっても、繋いだ手の温もりは確か。視界は霞み、それでも、私だけを見つめてくれる、優しくも欲深い瞳に陶酔せずにはいられない。愛されている実感と安堵感を胸に、身も心も彼女に委ね、至福の快楽に酔い痴れ、溺れていく。

「はぁぁ……❤︎素敵だ……セオくん……っ❤︎」

柔肉に促されるがまま、どぷっ、どぷっ、と精を捧げれば。緩やかで、しかし深く濃密な放出感に身を委ね、悦びに身を浸せば。彼女もまた、悦びに満ちた声で私に応えてくれる。また、靄がかった視界の中であっても、彼女が喜悦に蕩けた微笑みを浮かべていることは明白だった。そして彼女のナカは、その悦楽を再び私に返さんとばかりに、甘く艶めかしくわなないて、私をさらに悦ばせてくれるのだ。

「あぁっ……❤︎ふふ、大丈夫……僕が一緒だよ……はぁっ❤︎」

もはや心地良さに声も出ず、ただただ息を漏らしながら、すがるように繋いだ手を握る。そうすれば彼女は、私の手をぎゅっと握り返してくれて。
彼女もまた、私と一緒に気持ちよくなってくれている。私で気持ちよくなってくれている。目の前に広がる光景が、繋がりあう感覚が、それが疑いようの無い事実なのだと、私に教えてくれる。そして、その事実が、堪らなく嬉しい。私の胸を狂おしいまでに高鳴らせ、えもしれぬ恍惚感をもたらしてくれる。
悦びを共にする事それ自体が、暖かな充足感で私の心を満たし、恍惚に彩りを添え、安堵をさらに揺るぎないものとしてくれる。
それはさながら、悦びに溺れていく私に寄り添い、導いてくれるかのよう。彼女と一緒に、さらなる深みへと堕ちて、堕ちて。

「だから……安心して、気持ちよくなって……っ❤︎」

とろとろに溶かされてしまった理性。クレアと繋がって、包み込まれて、溶け合って。己を律していた枷がとろけて、彼女に惚けて、酔い痴れて。内側に秘めていた想いが剥き出しに、心は無防備に。単なる快楽や心地良さでは計れない、嵐のように激しく、海のように深い”交わり”の悦び。甘く、優しく、不可逆に可愛がられて、慈しまれて、愛で尽くされながら、ただただ、その悦びを享受し続けて。

「ぁ………はぁ…………っ」
「………ふふ……どうだったかな……?僕は……これ以上無く幸せだよ……❤︎」
「………ぁぁ……しあわせ、ですぅ……」
「ふふふ……もっと、もっと、幸せにしてあげるからね……❤︎」

耽溺の末、人の常識からすれば有り得ない程の精を吐き出して。至福の快楽が引いていった後に残ったのは、甘い余韻と幸福感。とろけきってしまった身体でくったりと脱力して、それらを甘受する。不思議と倦怠感や虚脱感はなく、満ち足りた気持ち。独りでは決して味わう事の出来なかった、充足感。たとえ絶頂が終わっても、頭の中は悦びに染まったまま。この世のものとは思えない夢心地を、私は知ってしまった。私を見つめてくれるこの人が、初めての人。純潔を捧げた人。彼女の言葉に違わず、まさしく"最高の初めて"と言うべき体験だった。
そして、どんな理論武装を以ってしても否定し得ない、内側から溢れ出す情動。それは屈服とは真逆。ただ、クレアを、慕わずにはいられなかった。満ち足りているのに、それでも、もっと、もっと、と求めてしまう。充足と渇望の甘美な同居。もっと、もっと、愛し合いたい。可愛がって、慈しまれて、愛で尽くされて……そうして、クレアにも、もっと、もっと、悦んで欲しい。

「君はもう……僕の……恋人なんだから……❤︎」
「ぁぁっ……クレアさん……はいっ……こいびと……っ」

そう言って彼女は、力の入らない私の身体をそっと抱き起こしてくれる。対面座位の体勢、密着する距離。そして、目の前で告げられる、甘い宣告。恋人。なんと、甘美な響きだろうか。その甘美な関係を否定する事など出来ず。悦びに任せて、彼女の名前を呼ぶ。恋人に、なってしまえるなんて。

「ふふ……さぁ、もっと、もっと、愛し合おうじゃないか……❤︎」
「はぁっ……ぁっ……クレアさんのからだ……きもちいい……」

力無く彼女にしがみついて、情熱的に抱きしめられて。触れ合う肌の温もりに酔い痴れる。柔らかく私を受け止めてくれる肢体、とろけてしまいそうな暖かさ。どうしようもなく心地良く、うわ言のような声が漏れてしまう。

「んっ……❤︎ふふ……ありがとう……こういうのはどうかな……❤︎ほぅら……❤︎」
「……んむ……ふぅぅ……やわらかぃ……」

頭にそっと添えられた、彼女の手。それが、私を彼女の胸へと導いてくれる。はだけたシャツと燕尾服の中で露わになった、女の象徴。凛々しくも豊かに実った果実の、その谷間へと誘われてしまう。瑞々しく張りのある、むにゅむにゅと柔らかな感触。興奮と安堵を同時にもたらす魅惑の柔肉に包まれ、夢見心地。彼女の胸は確かに母性を携えていたが、それ以上に、甘美に疼くな熱烈なときめきをもたらしてくれた。

「ふふ……お気に召して何より……❤︎」
「ぁ、ふぁぁ……」

胸の谷間に漂うのは、火照りに醸成された濃厚な色香。心を酔わせる、芳醇な香り。 息を吸い込むたび、頭の芯が桃色に染まっていく。蕩けきって、緩みきって、息を吐き出す。あっという間に、クレアの香りの虜。それはまさに、至福の抱擁だった。

「さ、悦ばせてあげる……❤︎」
「ぁ、ぁ……っ」

そして彼女は、密着したまま腰を揺らし、膣内を蠢かせて。急かすでもなく焦らすでもなく、少しずつ快楽を積み上げていくように、ゆったりと、そのうねり、くねり、蠢きの一つ一つを丁寧に味わわされていく。甘い抱擁にとろけた心身は、自分のモノが彼女のナカで丹念に愛で上げられていく様子を、余す事なく鋭敏に感じ取ることが出来て。それはまさに、”抱かれている”と形容するに相応しい心地だった。

「ふふっ……かわいいよ、セオくん……❤︎」
「ぁ、はぁぁ……くれあさんっ……んむ……っ」

首筋を、つぅ、と彼女の指先が這う。たったそれだけで、吸い込んだ息が漏れて、頭の中で桃色の風船が膨らんでいく。思考が、理性が、躊躇いが、頭の中から押し出され、どこかへと消えていってしまう。腰に回された手が、私の身体を愛おしげに撫で回す。ぞわぞわと歓喜に震える背筋。慕情が溢れ、求められるがまま、彼女の名を呼び、そして自ら胸に顔をうずめずにはいられない。
深い、深い、心の奥底から呼び起こされていく幸福感。単なる肉体的な快楽とは比にならない、愛の営みの悦び。

「ふふふ……また、イってしまいそうなんだね……?いいよ、我慢しないで……❤︎」
「っ……ふぅぅ……ぅぅ……っ」

込み上げる、二度目の絶頂。己の内側から、悦びの証が溢れ出ていく。胸に抱かれ、身も心も委ねる最中、身体中へと伝わっていくのは、ふわふわとした、浮遊感にも似た快感。彼女のナカが、私のモノをぎゅっと包み込むたびに、その肉襞の一つ一つが表面を優しく撫でてくれるたびに、硬直と弛緩が絶え間なく訪れて。
それは決して、欲望のままに貪るでも、無慈悲に責め立てるでもなく。
繋がる身体で私の反応を感じ取り、私の悦ぶ場所を、一つ一つ探り当ててくれる。そして、その暴かれた弱点を……甘く優しく、愛で尽くしてくれていた。
丁寧に私を導いてくれる。搾り取られるのではなく、導かれるような射精。
積み上げられた快楽が、泡のように甘く弾けていく。くらくらと揺れる世界の中、彼女の存在だけをはっきりと感じて。

「んっ……❤︎気持ち良いのは僕も一緒だよ、セオくん……❤︎聴こえるかな、僕もこんなにドキドキしてるんだ……❤︎」

宝物のように大切に抱かれながら感じるのは、心臓の鼓動。高鳴る悦びの音を聴けば、心までもが触れ合っているかのよう。惹かれるがままに精を漏らせば、その音色はさらに大きく早鐘を打ち、彼女自身の悦びを、絶頂を伝えてくれる。そして、それと重なり合うように、狂おしい程に甘美な疼きの律動が、私自身の胸にも訪れて。

「あぁっ……セオくん、セオくん……❤︎」
「ぁ、はぁぁぁ……くれあ、さんっ……すき、すきです……っ」

悦楽に艶めいた声に名前を呼んで貰えば、それだけで頭の中が雲のような幸福感に染め上げられていく。身も心もとろけきった中、彼女の名前を呼び返し……そしてついに、溢れる感情のまま、好意を言葉にしてしまっていた。

「ふふ、ふふふっ……ついに言ってくれたね……❤︎んっ……❤︎僕も好きだよ、だぁい好きだ……❤︎」
「わたしも、すきですっ……くれあさん、くれあさんっ……すき……っ……」

好き。直接的で、確かな好意の言葉。異性に対し軽々しく使う言葉では無い、そのはずなのに。それでも、この人ならばと思わずにはいられない。彼女もまた初めて、私の事を好きだと、大好きだと言ってくれる。この瞬間、私達は想いを遂げ合い結ばれていて。想いを遂げる悦びに、結ばれた悦びに酔い痴れる。
一度、胸の想いを口にしてしまえば。もはや歯止めは効かず、頭に浮かんだ言葉はそのまま放たれていく。好きと言うたび、好きと言われるたび、彼女にもっと夢中になってしまう。

「すき……ぁ……はぁ……っ……」
「んっ……ふふふ……❤︎君の愛が……僕のナカに、いっぱい……❤︎嬉しいよ、セオくん……❤︎」

幸福感に満ちた絶頂を終え、崩れ落ちるように、くったりと身体を弛緩させれば、それもまた、クレアが優しく抱き留めてくれる。恍惚とした、満たされた至福の余韻に、身を浸す。

「はぁ……くれあ……さん…………」

しかし、2度の射精を経ても、甘い満足感に包まれようとも、興奮は、陶酔は醒める事なく。
気づけば彼女の、柔らかくとろけるような唇の感触が恋しくて仕方なく。艶めかしい舌の滑らかさまでもを、つい探してしまう。未だ、濃厚で芳醇なワインを思わせる彼女の後味が口の中に残っていて……疼くように唾液が溢れる。そして何より、彼女とのキスそのものの、恍惚と陶酔の極致とも言うべき幸福感が、頭を真っ白に染め上げる快楽が、思考さえ手放してしまう解放感が、脳裏に焼き付いて離れない。

「ん……」
「ふふふ……❤︎君が望んでくれるなら、好きなだけキスしてあげようじゃないか……❤︎」

たとえ果てたばかりであっても、余韻に浸るだけでは飽き足らず。私は彼女を上目遣いで見つめ……再度の口づけをねだってしまっていた。自らの内に開花してしまった淫らな欲望のまま、彼女に愛と快楽を求めずにはいられなかった。
そして彼女は、そんな私のはしたない姿を認め、一際嬉しそうに微笑み返してくれて。

「んっ……ちゅっ……れるっ……ちゅぅぅっ……んっ……んくっ……❤︎はぁっ……美味しいよ、セオくん……❤︎いやらしい君も、とっても素敵だ……❤︎」

両頬に、しっかりと添えられた手。唇同士をぴったりと合わせて、優しくも情熱的なキス。半ば彼女を見上げる形だというのに、じゅるじゅるといやらしい音を立てながら、下から上へと唾液を吸い上げられ、こくこくと飲み干されてしまう。頭の中を埋め尽くす、真っ白でふわふわとした幸福感。余計な思考も一滴残らず吸い上げられてしまって。もう、何も考えられない。

「れろ……ちゅぅっ、じゅるっ……ちゅぅぅぅぅ……ふふ……❤︎そう、そう……❤︎ぜぇんぶ、僕に任せて……❤︎」

高まっていく熱情を導くかのように、私の欲望を見透かすかのように、キスは濃密さを増していき。微睡みのように夢見心地ながらも、快楽だけは鮮明。絡み合い擦れる舌。流し込まれる唾液の、ワインのようでありながらも、どろりと濃密で本能に訴えかけてくるその味わい。酔いが回っていくかのように、身体中が芯から甘くとろけていってしまう。安堵と興奮。解放感と恍惚感。
身も心も彼女に委ねきって味わうのは、愛しい人に抱かれ、導かれ、可愛がられて愛で尽くされる、至福の悦び。一度知れば決して忘れられない、そんなめくるめく快楽。そして私は、彼女の愛に酔い痴れ、欲に溺れていくのだった。






「あぁ……❤︎素敵だったよ、セオくん……❤︎こんな夜は……初めてだ……❤︎」
「は……ぁ……わたしも……はじめてで……きもち、よくて……しあわせで……」

身に余るほどの悦びに疲れ果て、動けなくなってしまった私を抱いてくれるのは、細くも頼もしいクレアの腕。腕枕の中、めくるめく交わりの余韻に、うっとりと浸る。いまだに、夢の中に居るかのような感覚で、疲労感さえも心地良い。
人の身では有り得ない程の量の精を吐き出してしまったというのに、虚脱感は全くなく、身体こそ動かないものの、むしろ生気に満ち満ちていた。

「こんなの……しりません、でした……こんなに……しあわせ……」
「ふふ……満足してくれて嬉しいよ……❤︎」

知らなかった。
本当に満ち足りる、という事を。悦びというものを。私がこんなにも、誰かを求めてしまうという事を。欲してしまうという事を。愛おしく思ってしまうという事を。私の知らない欲望を、愛情を、幸せを……骨の髄まで、甘く優しく教え込まれて、刻み込まれて、覚え込まされてしまった。知ればもう二度と戻れないと、忘れることなど出来ないと、身体が、心が理解していた。私はもはや、彼女の虜なのだと。

「ねぇ、セオくん……❤︎これからもずっと、僕と一緒に居てくれるかい……❤︎一夜だけなんかじゃなくて、ずっと、ずっと……いつまでも……❤︎」
「っ…………はぃっ……くれあさん……」

そして彼女は私を抱き寄せると、愛おし気に耳元で囁いてきて。それが何を意味しているのか、分からないわけはなかった。伴侶として生涯を共にして欲しい、と言っているのだと。
彼女の言葉に応えれば、本当に生涯を捧げる事となってしまうだろう。これから続くめくるめく日々を想像するだけで、胸が高鳴ってしまう。
今は一夜を共にした、たったそれだけの間柄だとしても、未だ彼女の全てを知らないとしても。この先もずっと、彼女と共に在りたいと、そう望んでしまっていた。彼女となら幸せになれると、根拠の無い確信を抱いてしまっていた。
そして彼女の望みと私の望みが同じなら、もはや躊躇う理由はなく……

「ふふふ……❤︎もう、離さないよ……僕のセオくん……❤︎」

愛しい人の腕の中、甘い囁きに酔い痴れて。愛と享楽に溺れる未来を夢見て、私は目を閉じるのだった。
19/08/06 00:31更新 / REID
戻る 次へ

■作者メッセージ
じっくり丁寧に紳士的に堕とされる過程が書きたかった。書けていたらいいですね。男装の麗人に抱かれて生娘みたいになりたいんですよ。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33