連載小説
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後編
悪化した。


いづなさんに相談してからたったの三日。狐たちの猛攻は激化の一途をたどるだけだ。
掃除道具はなんのその。囲炉裏の灰に薪の一本。靴や着物に家具一式。時には人にすら化ける始末。石段の付近で足を抑えた女性を助けようとしたら思い切り尻尾でビンタされた。
最近では睡眠時まで攻撃される始末。元々眠りも浅い体質故に一晩中眠れぬ日もある程だ。

「…ぁぁ」

鏡に映る自分の顔。目元にはっきりと刻まれた隈を見てため息をつく。
徹夜なんて絶対しない。健康のためではなく体のサイクル的なもののため。だから今までだって遅く帰っても絶対に寝ることだけはしていた。
だというのに…。

「ん眠い………」

精神が落ち着かない。
苛立ちが止みそうにない。
ぶちまけようのない怒りが湧き上がってくる。
しかしそれを上回る眠気に頭が揺れる。
だからと言って船を漕げば狐たちの恰好の標的だ。

「ホウ酸団子って狐にも効くんだっけ…」

ぐらつく意識にとうとうそんなことすら考え始めてしまう。これだから睡眠不足は嫌なんだ。せめて何か気分転換になるもの……ああ、そうだ。

「甘いものでも食べるかな」

御茶請けとして買い溜めしてある黒糖かりんとう。よくおばあちゃんに買ってもらった大好物のお菓子だ。眠気のせいでまともな食事も作れないが今はあれぐらいでちょうどいいだろう。
重い腰を上げて台所へと歩いていく。古ぼけた戸棚の中へ手を伸ばしてかりんとうを取―

「…あ?」

何もなかった。
密閉した器の中にしまっていたはずだが器を覗き込んでも何もない。あるのは小さく尖った欠片だけ。
欠片だけ…。
欠片、だけ?

「…やられた」

カラスが食べ物を掻っ攫っていくように。
猫が魚を食い散らかしていくように。
化けることができる以前に狐というのは獣なんだ、その程度のことぐらいして当然か。
舌打ちする気力すら起きない。溜息すら出そうにない。
後ろに倒れかけたところで突然視界の端から黒い物体が飛び込んできた。

「え、おわっ!」

釜だ。
すぐさま体を反らし紙一重で避ける。だが、オレの真上に来た瞬間釜が上下逆転した。
中に何かがあるかもしれない。
刃物。
熱湯。
釘。
鋏。
落ちてくるだけでも大怪我する様な危ないもの。確実に避けないといけないはずなのにわかってなお、他人事のように眺めている自分がいた。
閉じかけた瞳に釜の中身が映りそして―



ばしゃり、とバケツをひっくり返したような水を被ってしまった。



「………」

ぽたぽたと毛先から水滴が落ちていく。どうやら中身はただの水だったらしい。
眠気でぼやけた意識がはっきりとした。それと同時に湧き出していた感情が確かな形を成していく。
危険に対する本能よりも、未知に対する警戒も、ずっと強くて濃くて、深くて熱い感情。
すなわち―

「…くそったれがぁあああああああ!!」



―怒りへと。



右手の親指に唾液をつけ、右眉毛に塗りたくる。そして左の眼を閉じて拳を握りこんだ。
古来より化かされた妖怪相手への対処の手段。人間が知恵と度胸で練り上げた人外相手を見破るための術だ。他にも股の間から覗き込んだり指を組んで窓を作ったりと様々なまじないがあるが両手をあけながらできる『眉唾』が今は適している。



―だが、おまじないというのは本来そう軽々と使うものではない。



見えない物を見抜くため、化かした相手を突き止めるための術だが本来人の生活にはあってはならないものだ。
見えない物を無理やり見えるようにする。その行為自体ただの人間には荷が重すぎる。
だからこそおまじないはここぞというときにしか使ってはいけない。あまり使いすぎると真実と虚偽が真逆になるぞと昔教えられたものだ。



―しかし、この現状となれば使わずにはいられないだろう。



唾を塗った方の目であたりを見渡す。廊下を、縁側を、今を、台所を。
畳の一枚に生えた尻尾。
急須の横手代わりに生えた尻尾。
御釜の蓋から生えた耳。
柱の一部から前足が出ているのもあった。
見つけた数は五匹ほど。おそらく先ほどの二匹もまた混じっている。まだまだいるだろうが今はこいつらを追い払わなければまともな生活を送れないし、この怒りが収まらない。


「人間舐めんなぁあ!」


まずは畳。
両手を思い切り叩きつけ反動で化けた畳が持ち上がった。端を掴むと思い切り縁側へと放り投げると地面に落ちる前に狐に戻って逃げていく。
これで一匹。


続いて急須。
横手を掴もうと手を伸ばすがのらりくらりと躱される。ならばと握った拳を隣に叩きつけた。木の板が折れる音を響かせ破片が飛び散る。後で床板を変える羽目になるが仕方ない。
衝撃と音にビビった狐が変化をとくとすぐに平手で外へと弾き飛ばす。
これで二匹。


先ほど水をぶちまけた釜。
台所で踏み砕くつもりで踵を上げるとすぐさま変化を解いて逃げ出した。その際オレの足を引っ掛けることも忘れない。
バランスが崩され床へと倒れ込む。だが、こちらもただでは転ばない。とっさに掴んだ包丁を倒れ込みながら狐へ向かって振り上げた。

「…ちっ」

紙一重に躱され床板の一枚に突き刺さる。
まぁ、仕方ない。次の狐だ。
柱の狐を蹴り飛ばす。こちらもまた紙一重で躱されたがすぐに追いかけ拳を振り上げた―その時。

頭に何かをぶちまけられた。

動きを止め再び毛先から滴る水滴を拭う。辺りを見渡せば空になった風呂桶が音を立てて転がっていた。
転がっている、だけだった。

「……やられた」

辺りを見渡しても狐の姿は見当たらない。否、目に映らない。どうやら眉唾を湯で流されたらしい。再び塗り付けるも滴る湯のせいで効果が見られない。
乾かすか、拭きとるか。風呂場にある手拭いを使えばいいがその隙に狐たちが戻ってくるはずだ。
あぁ、くそ。悪態をついてため息をつきたくなる、その時だった。

「ごめんくださーい」
「!」

玄関先から突然聞こえた覚えのある声。すぐにそちらへ歩いていくとそこには九本の尻尾を揺らした稲荷、いづなさんが立っていた。
珍しい。この神社といづなさんの神社は街を挟んで正反対にありかなりの距離が離れているというのに。

「い、いづなさん?どうしたんですかこんなとこまでわざわざ」
「どうも、ゆうたさん。ゆうたさんが困っていると言ったでしょう?だから私から―あら、その頭…」

にこやかな笑みを浮かべて彼女はオレの姿に目を見開いた。袖の中から出した手拭いでオレの顔を拭いてくれる。

「こんなにびしょ濡れになって」
「あぅ…」

ぐしぐしと髪の毛を拭かれる。子供の頃父親にされた荒々しいのとは違う繊細で優しい手つきに思わず頬が緩む。


―だが、胸の中に疑心が生まれた。


今まで狐は何に化けていた?
畳、ちりとり、布団、斧、包丁、まな板、急須、箪笥や落ち葉や釜に―『人』。
そう、『人』だ。
それほど化けられる狐が稲荷の姿に化けることができないだろうか。

「狐たちにひどくやられたのですね。待っててください。今追い払いますから」
「…あぁ」

決断は早かった。
無防備に背中を見せたいづなさん―の姿をした狐の手を掴む。足を払い着物を引張り床へゆっくり押し倒す。その際足を絡め腕はそのまま、絶対に逃げ出さないように拘束しながら。
全て一瞬の事。
遅れて気づいた彼女は慌てたように声を上げた。

「あ、え?ゆ、ゆうたさん!?」
「今度ばかりは騙されるかよ」
「え?えっと、それはどういうことですか?」
「白々しい」
「痛っ」

痛みに歪む顔。例え偽物だとわかっても親しい女性の歪む表情は見ていていい気はしない。
ほんの少しだけ力を弱め、だが離さぬように腕を握ったまま覆いかぶさった。

「そう何度も同じ手が通じると思うなよ」

頭の中で何かが音を立てて崩れていた。
それは理性か本能か、はたまた募っていた怒りだったのかもしれない。
爆発、というほど激しさはないが何か超えてはいけない線を踏み越えたことだけはわかった。
知り合いの、それも意中の相手が顔を歪める様は心が痛む。例え相手が偽物だろうと割り切れるほどオレは冷徹ではないらしい。
だが―

「…はは」



―普段見られぬ表情に昂ぶりを感じていたのは否定できなかった。



気遣いは無用。
優しさは不要。
常識は抜け、冷静さは欠いて、理性に至っては砕け散った。
抑え込むものは何もない。


なら―することは一つ。


普段の情事に不満があるわけではないがまだまだ色欲塗れのお年頃。道具や特殊な性癖とまではいかなくとももうちょっと激しい交わりもしたいと願望はあった。
壊れるぐらいに犯したい。
獣の如く求めたい。
体の奥まで刻み付けたい。
ただ肉欲に溺れた行為をしてみたい。

「ゆ、ゆうたさん……?」

眠気と怒りで吹っ切れた頭ではまともな思考はできそうにない。
それ以前に相手は化け狐。今までの恨み辛みを晴らされても自業自得、因果応報だ。
ならば―たっぷり仕返しさせてもらおう。
そう、たっぷりと。

「んむっ」
「ひあぁっ♪」

体を寄せて尻尾に噛みついた。歯を立てないように気を付けながらやわやわと揉みほぐすように。
それだけでは飽き足らず空いた片手で尻尾の付け根、尾骶骨あたりを親指で押した。

「あぅぅっ♪」

気の抜けた甘ったるい声を漏らし体を震わせる。
人間にはない尻尾と同じ性感帯。叩いたり撫でたりするだけでもかなり感じるらしく彼女も腰が震えている。それを見てさらに力の入れ加減を変えると噛みついた尻尾が膨らんだ。

「や、ぁっ♪いっしょは、だめぇ、え…♪」

逃れようと体を振って手足をばたつかせるが覆いかぶさっては抜け出せまい。
後ろから襲い掛かる獣みたいなこの姿勢。雄が雌を押さえつけ交尾に至る本能的な恰好ではいくら相手が獣でも刃向うことなどできないだろう。

「くぅぅぅっ♪」

思い切り尻尾を握ると一際甲高い声を上げ彼女は大きく体を震わせた。唾液が染み込んだ尻尾から口を離して様子を伺う。
体を痙攣させながら力なくうつ伏せになったいづなさんの姿。乱れに乱れ唾液が唇の端から伝っている。そして、交尾をねだる獣のように腰を突出し左右に揺らしていた。
その姿に―噛み締めた歯がぎしりと音を立てた。

「……ねぇ」

覆いかぶさった背中に体を寄せて狐の耳に囁く。尻尾を握り、臀部を撫でながら。

「オレがどれだけ辛い思いをしてたかわかる?」
「わ、私は、ぁ…いづな、です…っ」
「もうわかってるんだよ」

息も絶え絶えでいづなさんの顔がオレを見る。赤く染まった頬に潤んだ瞳。いづなさんが情事の時に見せる顔とそっくりだ。


―ぞくりとする。


愛おしい相手が悦ぶ姿を見て何も抱かぬわけがない。
快楽で歪む顔に情欲を沸かせ、悶える声に獣欲を滾らせる。

「あぁあっ♪」

着物の間から手を突き刺しその肌を撫でた。傷も染みもない滑らかな手触りを感じながらゆっくりと移動する。
肩を撫で、腕に触り鎖骨を擽って膨らみへと到達した。

「ここもいづなさんと同じかな?」
「んぁ♪」

掌に吸い付くほど柔らかい肌を撫でまわす。力を込めれば指が食い込み形を変える。徐々に硬さを帯びてきた先端を摘まんでは捏ね繰り回す。

「ひぅっ♪あ…っ♪」

堪えるようなか細い声に体の奥から熱が湧き上がってくる。抑え込む必要もなくオレは思うが儘に着物をまくり上げ下着を剥ぎとった。

「きゃっ!」

露わになったのは眩しい肌の魅惑的な臀部だ。体を離し覗き込めば既に濡れそぼりいやらしく光っている。雄を誘う匂いがむせ返る程漂ってきた。

「っぁ…」

体の奥が粟立ち筆舌しがたい感情が湧き上がる。このまま力任せに襲ってしまおうか。どうせ遠慮はいらないし激しくした方が仕置きにもなるだろう。流石に暴力まではいかないが。
だが、まだ楽しみたい。
遠慮がいらないのなら―とことんしたい。

「ねぇ?」
「んっ♪」

ゆっくりと臀部をなぞっていく。着物越しにも感じられる体温と吸い付くような柔らかさ。楽しむように力を込めれば指が食い込み布地に皺を作る。
それだけでも面白いほどに反応する彼女。小さく漏れた甘い声に悶え震える体はやはり本人そっくりだ。
そのまま何度もなぞっていくと体から力が抜け抵抗らしい抵抗がなくなった。それどころか尻尾が絡みついてくる。特に腰に纏わりつくと催促する様に引っ張ってきた。

「…っ」

もう我慢できそうにない。
乱暴に服を脱ぎ捨て下着も取っ払う。下腹部では既に痛いくらい膨れ上がったものが自己主張していた。握りこみ先を押し付ける。にちゃりといやらしい音と共に粘質な感触が伝わってきた。

「え、あ、あっはぁぁああっ♪」

返事なんて聞く暇もなく腰を押し付け中へと押しこんだ。柔らかくもきつく合わさった肉を割り開き膣内へと進んでいく。細やかな肉ひだを擦りあげると握りこんだ彼女の拳が震えていた。

「いき、なり……おくぅ…っ♪」

普段ならもっとゆっくり優しくするがその必要もない。
力ずくで押しこむと同じ速度で引き抜く。肉壁が離れるのを嫌がるように抱きついてくるがお構いなし。むしろ抉るように力を込めると彼女が大きな声で喘いだ。

「あぁっ♪」

再び挿入し、腰を引く。
腰がぶつかる程深々と、抜けるぎりぎりを見定めて。
その行為を何度も繰り返す。肉と肉のぶつかる音が玄関に響きその度艶やかな甘い声が零れ落ちていく。
その間も掴んだ手は離さない。絡みついた尻尾は肩と顎で器用に挟み、逃げ出さぬように体重をかける。床と体に抑え込まれた彼女は抜け出せず快楽に身を震わせるだけだ。
体を寄せて無理やり着物を引張る。小さな悲鳴と共に露わになった首筋にオレは顔を寄せた。

「ひぅっ♪」

たっぷりと唾液をため込み刷り込むように、それでいて頸動脈付近を執拗に。
あと少し、突き立てた歯に力を込めれば楽に命を噛み切れる。もうちょっと、やわやわと肌を擽り刺激する。そんな恐怖と快感に彼女は何度も甘い声を上げた。
その間にも腰の動きは止まらない。溢れだした愛液が太腿を伝って床に落ちていく。掴んだ掌に汗が滲み雌の匂いを一層強くする。
ぶつかるたびに魅惑的な臀部が波を打つ。ただ見ているだけでも本能を刺激するいやらしい光景だ。よくよく見ればすぼまりがもの欲しそうに引くついていた。

「ぁぁ…」

ぞくりと感じた悪戯心のままに小指を舐めその穴へと添える。柔らかな感触を感じながら周囲に触れると何をしているのか気づいた彼女はこちらを見た。

「やっ!だめ、そこは汚いで、ぁああああ♪」

そんな言葉にも効く耳はない。
唾液に塗れた小指で皺の一つ一つをなぞりながら渦を描き中心へと向かっていき、そしてゆっくりと押し込んでいく。

「ぁああぁああっ♪だめ、だめ、だからぁ♪」
「んっ」

途端に強く締まる膣内に思わず爆発しかけるが歯を食いしばって耐え抜く。別に出してもよかったがやるなら長く楽しみたい。
さらに唾液を垂らしてゆっくりと前後する。時折指の腹でひっかくと呼吸を止めびくりと震える。
その一挙一動がオレを昂ぶらせ悦ばせていく。だが決して満足はしない。もっと下品にしてやりたいと心から思ってしまう。
結局のところ優しさで蓋をした心は自分で思っている以上に欲深だった。
体の下で恥ずかしげに頭を振る姿。それでも応じてしまう体。嫌がる声と羞恥に染まる肌にまたぞくりとする。ぴくぴくと揺れる三角形の耳に目が留まると体を寄せて噛みついていた。

「ひぅあっ♪」

尻尾にやったように柔らかく揉むように噛みつく。狐の毛が舌に絡みつくが気にせず唇でなぞりあげそっと息を吹きかけた。その感触に蕩けた声を漏らしていく。肩から顔を覗き込めば視線に気づいたのかこちらへと顔を向けてきた。
赤く染まった頬と涙の零れた瞳。優しさがありながらも快感に歪む表情はまんま情事中のいづなさんの顔だった。

「んっ♪」

甘えるように突き出された唇に噛みつくように重ね合わせる。舌で抉じ開け、音を立てて啜り上げる。
いつもなら愛を囁き求めあうように舌を絡ませるがそれをするのはいづなさんだけ。なので一方的に啜り、舐め上げ蹂躙する様に暴れ回る。
無論、それだけでは終わらない。口づけと同時に乱暴に腰を叩きつける。遠慮はいらない、力任せの動きだ。
傷付けてしまうかもしれない。壊れてしまうかもしれない。普段なら心配ばかりしていたがそんな感情一切ない。
ただ欲望任せの力任せ。自分が感じることを一番に、相手が感じることを二番にした行為。

「んふっ♪んんー♪」

肉と肉のぶつかり合う音が玄関先に響いてく。口内ではくぐもった声が伝わり僅かな隙間から荒い息が吐き出された。
後ろで指を動かしながらも膣壁を擦り、締め付ける感触を楽しみながらいやいやと腰を振る姿を眺めるのは悪いものではない。実際にやるとしたらこんな乱暴なことできないだろうけど。
唇を離し、両手を彼女の両脇へとつくとさらに密着した。重なった臀部が体重で潰れいやらしく形を変え彼女はあっと小さな声を落とす。

「ね?いくよ…」
「え、あっ♪」

既に下腹部から上り詰めていた欲望の塊。先ほどのように堪えるのではなく今度は容赦なく腰をぶつけて膣内へと放出する。声でも呼吸音でもない音が彼女の唇から漏れ出した。
子宮口に先端を食い込ませ思い切り臀部を押さえつけ、湧きだす熱を堪えることなく流し込んだ。

「んぁあああああああああああっ♪」
「っ!」

強く強く締め付けられる。子供を孕もうと雌の体が反応してる。こちらもそれに応じるように精を吐き出し注ぎ込む。
奥の奥へと止まることなく。ただ欲望の塊を思うが儘に流し込んでいく。膣壁を叩くたびに彼女の背は弓なりに反りかえり甘い声を響かせた。

「あぁ、ぁぁ…♪」

最後の一滴まで搾りとらんと締め付ける膣内に全てを吐き出し終わっても彼女は絶頂の余韻に体を震わせていた。対してこちらはゆっくりとだが絶頂から意識が下りていく。膨大な快感が過ぎ去って高ぶりも徐々に落ち着きを見せて―はたと気づいた。

「……あれ?」

見間違いのない九本の尻尾。蕩けたいづなさんの顔。普段よく見る彼女の姿にそっくりだが偽りならば解けるのではないかと思う。

「…あ、そうだ」

狐がぶちまけたお湯のせいで眉の唾が流れたんだった。だから九本に見えているだけ。そうだ、そのせいだ。
もう一度眉唾をすればいい。行為の最中に乾ききったらしく今度はたっぷりと塗り付けて再び彼女を見下ろした。

どうみても九本だった。

「………………」

狐が化けたのなら見破れていた。それは先ほどの乱闘の跡が物語っている。
だがオレの目に映るのはいつものように九本の尻尾を生やした絶世の美女の姿。優しく、甘く包み込んでくれる大切な女性の姿で間違いない。

「あ、あの…いづなさん………大丈夫ですか?」

自分のやったことが間違っていたという事実に頭の中が真っ白になる。
やってしまった。
彼女は初めから自分をいづなだと言っていたのに疑ってしまった。いくら冷静さを欠いていたとはいえこれはとんでもない失態だ。いづなさんが温厚で優しい性格とはいえ流石にこれはやりすぎだ。許してもらえるとは思えない。

「もっと…」
「え?」

するりと伸びた手がオレの腕を掴んだ。さらに九本の尻尾が甘えるように体に絡みついてきた。離れようとした腰が捕まり両足まで尻尾に固定される。

「もっと、してくれないんですか……?」

潤んだ瞳に艶やかな声。せわしなく動く耳に徐々に加わる力。混乱のせいで頭が回らず気づけば床に押し倒されていた。

「まだまだ、疑っているのでしょう…?」

潤んだ瞳には今までに見たことのない獰猛な光を宿していた。見せつけるように舌なめずりする姿がとても蠱惑的に映る。
決して怒っているわけではない。だが獣の如くぎらつく瞳にオレは恐れを抱いていた。

「私がいづなであると信じてくないのなら…納得するまで沢山疑ってくださいね…♪」
「……ぅそっ」

怒っているわけではない。だが、穏やかに許すつもりもない。
自分の過ちと獣の如く盛ったいづなさんを前にそんな一言しかだせなかった。












気付けば月が真上に上り冷たい空気が肌から熱を奪っていく、そんな真夜中だった。
既に体は体液塗れ。足腰はがたがたで指先一本動かすのも辛い。そんなオレの隣で三角の耳を揺らしたいづなさんが微笑んでいた。心なしか先ほど以上に艶のある肌で。

「私がいづなであるとわかってもらえましたか?」
「……はぃ」

怒っていたわけではない。気が晴れたわけでもない。
だが、どうしてだか怖く見えた笑みに小さな声で返事をする。
元をただせばオレの早とちりのせいだから彼女に非はなく当然だけど。

「それにしても驚きましたよ。いきなり襲い掛かってくるんですもの。ちょっと驚きましたけど………その、素敵、でした♪」

先ほどの激しさを思い出したのか恥ずかしげに頬を染める。見惚れるほど美しいのだが今のさっきでは乾いた笑い声しか出なかった。
改めて見渡す玄関先。飛び散った互いの体液。それから漂う淫靡な香り。しばらく人は呼べない程に残ってしまった情事の跡にオレは小さくため息をついた。
するといづなさんがくすりと笑う。

「ゆうたさんがあれほどまでに乱暴にして下さるとは驚きましたが…とても嬉しかったんですよ」

あの時の情事を思い出してか頬を朱に染めるいづなさん。尻尾の方も恥ずかしがるようにぺたぺたと肌を叩いてくる。

「まさかお尻の方にも興味津々だったとは」
「ち、違いますからね!あれはその…暴走しすぎて…」
「でも興味はあるんですね?」
「………」

今更隠せぬ事実にオレは気まずそうに視線を逸らす。すると視界の端に何かがちらついた。

「ん?」

闇夜でも目立つ、ここ最近オレを苦しませていた狐の姿。
慌てて撃退しようと飛び起きたその瞬間、ぽふんと音を立てて消え去った。後に残ったのは一本の細長い毛。それはひらひらと床の上に落ちた。

「………………へぇ!?」

あまりにも突然の事に眠気が吹っ飛んだ。
いづなさんを見れば得意げな表情を浮かべながら尻尾を左右に揺らしている。

「気づきませんでした?この子たち、私の分身なんですよ」
「え、でも…何で?」
「それは、ゆうたさんがあまりにもお堅い人だからです」

寝転んだ体をこちらへ向けてた。大きな胸が揺れる様に一瞬目を奪われるがそれ以上に金色の瞳に視線が吸い込まれる。

「ゆうたさんはいろいろと我慢して、遠慮しすぎなんです」

伸ばされた両手が頬に添えられゆっくりと表面を撫でていく。温かくて柔らかくて、何よりも優しい感触だった。

「こんな私でもゆうたさんの助けにはなれます」
「それは…そうでしょうけど」

そもそも九尾の稲荷とただの人間。一柱と一人など比べることすらおこがましい。
しかしいづなさんは首を振った。

「なら、ちゃんと私を頼ってください。全部一人でできないのなら正直にそう言って私に助けを求めてください。この尻尾も、この耳も、この手も体も、どれもゆうたさんが思っている以上に強いんですから」

するりと滑る掌が体へ伝い腕へと降りて手の甲に添えられた。力が込められ指が絡まり二人の体温が溶け合っていく。

「迷惑をかけられることも時には嬉しいことなんです。だから、もっと正直になって下さい。」

流石にそこまで真っ直ぐ言われては何も言い返せない。
我慢しすぎて、遠慮のし過ぎ。思い当たる節はいくらでもあるし自覚はしていたがそれがまた一つの迷惑になっていたらしい。
自分の不甲斐なさを痛感しつつ絡められた指を解き、今度は自分から手を握り返した。

「善処します」
「善処じゃなくて、してください」

真っ直ぐ向けられた金色の瞳から視線を逸らすことができるはずもなく。オレは小さく笑いながらいづなさんへと体を寄せて囁いた。

「………はい」
「約束、ですからね」

嬉しそうな声とともに回される両腕と九本の尻尾。優しい体温に包まれながら瞼を閉じるのだった。



                         ―HAPPY END―
15/10/26 22:11更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
ということでこれにてジパング、稲荷編終了です
結局のところ彼は狐につままれていたということですね
人間と稲荷じゃ向こうが一回りも二回りも上だったということです

次回は現代編同級生にしようか、はたまた堕落ルートの続きに行こうかと迷っております
ストーリーを練り直しているとメイドさんの方が思いのほか盛り上がったりと挿絵まで頑張っちゃったりと…


ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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