特別なEg
-スタート地点-
セルフィ「…やっぱり。」
黙々と煙を上げるFDのエンジンを見ながらセルフィは告げた
セルフィ「FDのエンジンはもう元には戻らない…。」
瞬「…ッ!」
セルフィ「見た感じ、エンジンを切ったらもう二度とかからないよ…。」
渉「直せ…ないのか…?」
セルフィ「直せない事はないよ、でも…、元のようには走れない。」
渉「瞬…すまなかった…。」
瞬「いいんだ…、無理をしてしまった俺の責任だ…。」
セルフィ「…」
瞬「俺の…、俺の腕がまだまだ未熟だったから…、FDに無理をさせて…FDを…壊しちま…った…。」
瞬の頬には涙が伝っていた
エリシア「エンジンブローか?」
瞬たちの背後から
山羊の特徴を持った少女が話しかける。
渉「…そんな感じですね。」
エリシア「あの時の常軌を逸した加速がエンジンを犠牲にしたか…。」
渉「ええ…、俺たちが無理なチューンをしてしまっ…」
瞬「違う!!俺がFDに無理をさせちまったからだ!!俺の…責任だッ…!」
渉「瞬…。」
渉の言葉を遮って、瞬が叫ぶ
そして、それを聞いたエリシアが呟いた
エリシア「エンジンを…、自分の車を犠牲にしてまで…。そこまでしてわしに勝ちたかったのか…。」
瞬「負けるわけにはいかないんです…。鶯…、チーム全員の責任を背負って走るんですから…」
悔し涙を流しながら
静かに話す瞬
瞬「俺の未熟さが…、FDに頼り過ぎた俺の甘さが……、FDを殺したんです…。」
エリシア「それでもお主は全力であったのじゃろう?」
瞬「…ええ、それでもあなたには敵わなかった…。」
エリシア「いや、それで十分なのじゃ。お主は全力を尽くした。わしはそれに全力で対抗した。結果などどうでもいい、わしはお主と全力のバトルがしたかったのじゃ。」
瞬「…」
エリシア「わしはな…お主に感謝しておる。」
瞬「え…?」
エリシア「少し…、昔話をしよう…。」
エリシアはフッと息を吐くと
徐に話し始めた
エリシア「この世界にまだ魔物が現れる前の事じゃ。わしは、その時人間に紛れて生活しておった。わしはこの世界に来たときからクルマという物に興味をもってのぉ…。よく峠にも通っていた。」
エリシア「そしてある時、わしはある車に惹かれた。それがこの車、RX-3じゃ。」
エリシア「その時代ではまだRX-3は現役じゃった。じゃから探すのは簡単であった。」
エリシア「購入した後は、毎日峠通いじゃった。今で言うお主等みたいにのう。」
エリシア「そして、数年、峠で経験を積んで地元の峠では最速を名乗れるほどになった時、とあるオファーがきたのじゃ。グループAに出てみないかってな。」
エリシア「その時、わしが地元でボロ勝ちしているのをグループAの関係者が見ていたのじゃ。」
エリシア「もっと上を目指したかったその時のわしは二つ返事じゃった。」
エリシア「スポンサーや資金で四苦八苦する毎日じゃったが、楽しかった。」
エリシア「じゃが、段々と腕を上げるうちにグループAでは物足りなくなっていった。」
エリシア「そして行き着いた答えが、世界に出ることじゃった。」
エリシア「必死にスポンサーを探し、やっとの思いで…、わしは世界に出れた。」
エリシア「そして、わしがドライバーとして運転するはずであった第3戦のセブリング24時間。」
エリシア「わしは、まだかまだかとその日を待った。じゃが、あの出来事が起きた…。」
エリシア「わしが乗るはずであったRX-792Pが、第2戦のデイトナ2時間で炎上。出走不可となったのじゃ…。」
エリシア「わしは大きなショックを受けた。じゃがそれだけではなかった。」
エリシア「わしが所属していた当時のスポンサーは、わしを切りおったのじゃ!77号車を直すための資金を補うのと、新人が信用できんという理由でな!!」
エリシア「わしは絶句した。失望したわしはRX-92Pの予備のエンジンパーツをくすねて、そこを去った…。」
エリシア「今わしのクルマに載っておるエンジンはその時の予備パーツから組んだ、正真正銘のR26Bじゃよ。」
エリシア「その後のわしは、ずっと燻ったままじゃった…。今の最愛の兄上を見つけた後もな…。」
エリシア「何度も意味もなく峠に入りびたり、事務的に走りを繰り返す…。何のために走っているかも忘れかけておった。」
エリシア「そこで現れたのがお主じゃ、瞬。」
瞬「…。」
エリシア「お主から醸しだされるオーラは他とは違っている。お主と走れば何かが解るんじゃないか、吹っ切れるんじゃないかと思っての…、このバトルを挑んだのじゃ。」
エリシア「案の定、お主は期待以上の働きをしてくれた。あの頃の楽しさや感覚を思い出させてくれた。」
エリシア「やっと吹っ切れた!区切りがつけられたのじゃよ!お主のおかげじゃ。」
エリシア「お主のFDはエンジンをやってしまったといったな?」
瞬「ええ…。」
エリシア「ならば、そんなお主に敬意を払い、わしのR26Bを譲ろう。」
瞬「な!?そんな!俺なんかにですか!?」
エリシア「わしからの感謝の気持ちじゃ。わしは、今日限りで、走りを完全に引退する。兄上も…心配しておるからの…。」
瞬「そうですか…、本当にいいんですね?」
エリシア「何度も言わせるな、このエンジンはお主に譲る。走りもやめる。」
瞬「…っ!ありがとうございます!!」
渉「よかったな、瞬。」
瞬「ああ!!」
常軌を逸したチューンドカー同士の白熱したバトル
勝者は瞬であったがFDをブロー寸前まで追い込み
結果で勝って勝負で負けるという悔しいものであった
瞬は、自分の未熟さを噛み締めると同時に
自分をもっと磨き上げようと誓うのだった―――――
セルフィ「…やっぱり。」
黙々と煙を上げるFDのエンジンを見ながらセルフィは告げた
セルフィ「FDのエンジンはもう元には戻らない…。」
瞬「…ッ!」
セルフィ「見た感じ、エンジンを切ったらもう二度とかからないよ…。」
渉「直せ…ないのか…?」
セルフィ「直せない事はないよ、でも…、元のようには走れない。」
渉「瞬…すまなかった…。」
瞬「いいんだ…、無理をしてしまった俺の責任だ…。」
セルフィ「…」
瞬「俺の…、俺の腕がまだまだ未熟だったから…、FDに無理をさせて…FDを…壊しちま…った…。」
瞬の頬には涙が伝っていた
エリシア「エンジンブローか?」
瞬たちの背後から
山羊の特徴を持った少女が話しかける。
渉「…そんな感じですね。」
エリシア「あの時の常軌を逸した加速がエンジンを犠牲にしたか…。」
渉「ええ…、俺たちが無理なチューンをしてしまっ…」
瞬「違う!!俺がFDに無理をさせちまったからだ!!俺の…責任だッ…!」
渉「瞬…。」
渉の言葉を遮って、瞬が叫ぶ
そして、それを聞いたエリシアが呟いた
エリシア「エンジンを…、自分の車を犠牲にしてまで…。そこまでしてわしに勝ちたかったのか…。」
瞬「負けるわけにはいかないんです…。鶯…、チーム全員の責任を背負って走るんですから…」
悔し涙を流しながら
静かに話す瞬
瞬「俺の未熟さが…、FDに頼り過ぎた俺の甘さが……、FDを殺したんです…。」
エリシア「それでもお主は全力であったのじゃろう?」
瞬「…ええ、それでもあなたには敵わなかった…。」
エリシア「いや、それで十分なのじゃ。お主は全力を尽くした。わしはそれに全力で対抗した。結果などどうでもいい、わしはお主と全力のバトルがしたかったのじゃ。」
瞬「…」
エリシア「わしはな…お主に感謝しておる。」
瞬「え…?」
エリシア「少し…、昔話をしよう…。」
エリシアはフッと息を吐くと
徐に話し始めた
エリシア「この世界にまだ魔物が現れる前の事じゃ。わしは、その時人間に紛れて生活しておった。わしはこの世界に来たときからクルマという物に興味をもってのぉ…。よく峠にも通っていた。」
エリシア「そしてある時、わしはある車に惹かれた。それがこの車、RX-3じゃ。」
エリシア「その時代ではまだRX-3は現役じゃった。じゃから探すのは簡単であった。」
エリシア「購入した後は、毎日峠通いじゃった。今で言うお主等みたいにのう。」
エリシア「そして、数年、峠で経験を積んで地元の峠では最速を名乗れるほどになった時、とあるオファーがきたのじゃ。グループAに出てみないかってな。」
エリシア「その時、わしが地元でボロ勝ちしているのをグループAの関係者が見ていたのじゃ。」
エリシア「もっと上を目指したかったその時のわしは二つ返事じゃった。」
エリシア「スポンサーや資金で四苦八苦する毎日じゃったが、楽しかった。」
エリシア「じゃが、段々と腕を上げるうちにグループAでは物足りなくなっていった。」
エリシア「そして行き着いた答えが、世界に出ることじゃった。」
エリシア「必死にスポンサーを探し、やっとの思いで…、わしは世界に出れた。」
エリシア「そして、わしがドライバーとして運転するはずであった第3戦のセブリング24時間。」
エリシア「わしは、まだかまだかとその日を待った。じゃが、あの出来事が起きた…。」
エリシア「わしが乗るはずであったRX-792Pが、第2戦のデイトナ2時間で炎上。出走不可となったのじゃ…。」
エリシア「わしは大きなショックを受けた。じゃがそれだけではなかった。」
エリシア「わしが所属していた当時のスポンサーは、わしを切りおったのじゃ!77号車を直すための資金を補うのと、新人が信用できんという理由でな!!」
エリシア「わしは絶句した。失望したわしはRX-92Pの予備のエンジンパーツをくすねて、そこを去った…。」
エリシア「今わしのクルマに載っておるエンジンはその時の予備パーツから組んだ、正真正銘のR26Bじゃよ。」
エリシア「その後のわしは、ずっと燻ったままじゃった…。今の最愛の兄上を見つけた後もな…。」
エリシア「何度も意味もなく峠に入りびたり、事務的に走りを繰り返す…。何のために走っているかも忘れかけておった。」
エリシア「そこで現れたのがお主じゃ、瞬。」
瞬「…。」
エリシア「お主から醸しだされるオーラは他とは違っている。お主と走れば何かが解るんじゃないか、吹っ切れるんじゃないかと思っての…、このバトルを挑んだのじゃ。」
エリシア「案の定、お主は期待以上の働きをしてくれた。あの頃の楽しさや感覚を思い出させてくれた。」
エリシア「やっと吹っ切れた!区切りがつけられたのじゃよ!お主のおかげじゃ。」
エリシア「お主のFDはエンジンをやってしまったといったな?」
瞬「ええ…。」
エリシア「ならば、そんなお主に敬意を払い、わしのR26Bを譲ろう。」
瞬「な!?そんな!俺なんかにですか!?」
エリシア「わしからの感謝の気持ちじゃ。わしは、今日限りで、走りを完全に引退する。兄上も…心配しておるからの…。」
瞬「そうですか…、本当にいいんですね?」
エリシア「何度も言わせるな、このエンジンはお主に譲る。走りもやめる。」
瞬「…っ!ありがとうございます!!」
渉「よかったな、瞬。」
瞬「ああ!!」
常軌を逸したチューンドカー同士の白熱したバトル
勝者は瞬であったがFDをブロー寸前まで追い込み
結果で勝って勝負で負けるという悔しいものであった
瞬は、自分の未熟さを噛み締めると同時に
自分をもっと磨き上げようと誓うのだった―――――
19/10/30 14:28更新 / 稲荷の伴侶
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