連載小説
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3日目 ゴーレムの心
朝、私が目を覚ますと隣で主が寝息を立てていた。どうやら私が眠っている間に私の部屋に侵入したらしい。主は私の体に華奢な、直ぐにでも折れてしまいそうな腕を絡めて抱いていて、私は動けなかった。手近にあったのが幸いしたこの日記に何とか記せた。

主の寝顔を、私が見るたびに私の胸の中に何かが蠢く様な感覚があった。主の言っていたノイズだと思った私は即座に対処しようとした。

無意味だった。ノイズらしきものは何処にも見つからず、ただただ無駄な時間を過ごしていたようだ。それでも主を見つめていると、私の胸の中には何かがあるような気がしてしょうがなくなる。これはなんなんだろう。私はこの気持ちを忘れないでいられるのだろうか。この違和感を覚えているのだろうか。

暫くすると、主が目を覚ました。どうやら主は私と一緒に居たかったらしく、私の姿を確認して、笑っていた。その時にもまたあの違和感が湧き上がって来た。主に聞いてみると「それは・・・想い人でも出来た?」と答えて下さった。意味はよく分からないが、どうやらその「オモイビト」というものが私の胸の中に出来ているようだ。私はそれを聞いて少し考え込んでしまっていた。気が付けば主の姿は消えており、私もベッドの上に寝転がっていた。

私の胸の中がなんだか空しい。何故だろう。主の姿が確認出来ないだけで胸の中に大きな穴が開いたような気持ちになる。これは、一体どういう事なのだろう。主に聞いてみなければ。私の為にも、主の為にも。

私が主の扉を開こうとすると、ノブに呪いが掛けられていた。そのせいで入れなかった私は自分の部屋へ引き返した。何故主は私を部屋に入れなかった?何故、主は呪いを施してまで私を拒んだ?全てが理解できなかった。

拒んだ?私を?主が?何故?拒んだのは何故?主は私の事が嫌いになった?

   『キライ』?

嫌いとはどういう感情だっただろう。私には無くて、主には有る感情の一つなのだろうか。私はそれが知りたい。知りたくなってしまった。主は何がしたくて、何がしたくないのか。何がスキで、何がキライなのかを。

  『スキ』? 『キライ』?

また心の中で葛藤が起こり始めた。

  『ココロ』?

私には無い存在。人のもっとも深い所に存在する不安定な存在。私の認知を超えた尊くも謎の多い歪な存在。私はこれが欲しいのか。

  『ホシイ』?

主がゴーレムである私に欲の感情を入れていた?なら、何故それが作動しないのか?私は何かを押さえて来たのか?一体何を?そして今主は一体何を?行ってみよう。そうすれば全てが分かるだろう。

結果は残酷なものだった。主は、私の考え込んでいる間に侵入していたサキュバスに連れ去られていた。その証拠に、机の上に乳白色の液体が数滴付着していた。サキュバスに襲われた主は、抗っていないとも推測できた。部屋の乱れが少なすぎる。せいぜい机の上が乳白色の液体で汚れている事以外は殆んど破損した後もない。

  『何故主の部屋に入れたの?』

結論から言えば簡単だった。ドアノブに手を触れた時、呪いは作動していなかったのだ。そして私は今、主の部屋に居る。この書類を書いているのも床での事だ。机でなんて書けやしない。

私は決意した。主を助けに行こうと。そして荷物をまとめた私は此処を発つ。もう、暫くの間はこれに手を付けることもないだろう。

無理があった。私が屋敷を出ようとすると、体に違和感が走った。そしてそのまま体は進まないまま屋敷の入り口に弾き飛ばされた。どうやら結界が張っているらしい。私は屋敷に閉じ込められた。こうなってはもう私には何も出来ない。主を諦めるしかない。

  『諦める?私の想いはその程度?』 『オモイ』?

私は良い案を思い付いた。私の部屋を始め、この屋敷には各部屋毎に一枚の窓が存在している。一刻も早く主を助けに行こう。今度こそ、この書類に暫くの間は触れる事が無さそうだ。

不覚だった。屋敷に結界が張られているのと同様に、窓には呪いの札が大量に張り巡らされていた。試しに触れて見たが、主の虫除けの様な呪いとは格が違う。触れた瞬間、私の胸の中に何かがドロリと入って来るような感覚に襲われた。とても気持ちが悪い。良く見ると私の部屋にも同じ物が張ってあった。
10/10/19 17:12更新 / 兎と兎
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■作者メッセージ
まさかの急展開。カザリは主を救い出す事が出来るのか。それ以前にこの屋敷から出られるのか。次回もそれなりにお楽しみに!

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