連載小説
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魔物アプリ……キキーモラ編
 人間には向き不向きという物がある。全ての人間が同じ作業を平等に出来るとは限らず、ある作業に関して突出した能力を有した人間も居れば、真逆に不得手とする人間だっている。
 それが仕事という場面へ移り変われば適材適所の下、各々の働きに見合った役割を振り分けられる。そうすれば人間社会という物は大体上手い具合に稼働するものだ。

「つまり何が言いたいかと言うと、こればっかりは私の不得手なのだから仕方がないのだよ。分かるかい?」
「この状況下でよく言えますね、如月教授……」

 目の前に立っている教え子は私―――如月純呉を嫌悪感に満ちた眼差しでジトリと睨む。私は他人が下した自分への評価は全く気にしない性質だが、こうも面と向かってジト目で睨まれるのは流石に堪えるものがある。おまけに直接勉学を指導している教え子という点も加わり、精神的にも辛い。

 だが、教え子がそんな目で私を睨むのも無理ない。何故なら彼が指摘している状況下とは、他ならぬ私自身が招いた目の前に広がる惨状なのだから。

 ステンレス製のキッチンの流し台には食べ終えて数日以上経っているであろうレトルトのパックやカップ麺の器、コンビニ弁当のケースが積み重なった状態で水に付けたまま放置されており、流し台の底が全く見えない。というか、何時の日からか積み重なった状態が当たり前だと思ってしまい、気にも留めなかった。
 ゴミ箱には可燃ゴミと不可燃ゴミが一緒に突っ込まれ、分別なんて存在しないと言わんばかりの有り様だ。しかも、明らかにゴミ箱に収まる容量が限界を超えており、震度1弱で崩壊しかねない脆弱な山が築かれている。
 家の通路にはありとあらゆるゴミを放り込んでパンパンに膨れ上がったゴミ袋達が無造作に置かれており、これを掻き分けなければ家の中を歩き回る事が出来ないので色々と面倒だ。

 こんなゴミ屋敷みたいなうんざりする光景が広がっていますが……驚くなかれ、何とこれが我が家の現状です。

 そしてこんな矢先に住んでいるのが私……如月純呉30歳、都内の大学で歴史学を中心に教鞭を執っている教授だ。
 よく周囲からは『年齢の割に若く見えるね』という言葉を掛けられるが、これは決して三十路に入った私に対する褒め言葉などではない。収まりの悪いボサついた髪にダラしない風体のせいで三十路の男性に相応しい風格が無いと遠回しで言っているだけなのだ。
 おまけに私の下で歴史学を学んでいる教え子からは『まるでうだつの上がらない浪人生みたいだ』と言われてしまった。余計な御世話だと言いたいが、過去に同様の意見を言った生徒が数多く居た為、現在では苦笑いを浮かべてやり過ごすだけだ。

「別に問題は無いだろう? 此処は私の家であり、私が家主なんだ。何をどうしようが、私の勝手だよ」
「教授の家に資料を持ち運ぶ私の身にもなって下さい!」

 冗談抜きの本気の怒声を上げた教え子は、力任せに掌を机に叩き付ける。その衝撃で灰皿が僅かに浮き、その中心に築かれた吸い殻のタワーが崩壊しそうになったものの、幸いにもクモの巣掛かった私の反射神経が珍しく良い仕事をしてくれたおかげで大惨事に繋がりはしなかった。
 危ないじゃないか―――と口に出そうとしたが、そもそもこうなっている原因は私にあるので言い出せず、寸前の所で言葉を飲み込んだ。すると私が何も言わないのを絶好の好奇と見たのか、教え子は私に向かって一気に言葉を捲し立てた。

「大体ですね、他の皆も教授の家に入るのを嫌がっているのが正直な所なんですよ! 高井先輩は教授の家を『ゴミの埋め立て地だ』と断言して顔を引き攣らせていますし、友達の上坂なんて先生のゴミ屋敷を見ただけで蕁麻疹を起こしていますし、そして何より他の教授達は如月教授の家に寄り付こうとすらしません! 如月教授に資料を持って行く時は、必ず私達にお願いするんですよ!? どうして私達にお願いするかは言わずとも分 か り ま す よ ね ! ?
「えーっと……はい」

 想像を超えた教え子の剣幕に私は背筋を正し、頷くしかなかった。思い返してみれば確かに資料を持ってきてくれるのは教え子ばかりで、他の先生方は最初の一度っきりで、その後は足を運んでくれなかったっけ。

「とりあえず、先生にはこれが必要だと思います」

 そう言って教え子が机の上に置いたのは自身のスマートフォンだった。『これ』と言って出したのだから、恐らくスマートフォンの画面を見ろと言っているのだろう。彼の無言の訴えに従って画面を覗き込むと、そこに表示されていたのはスマホでは御馴染のアプリゲームだった。

「ええっと……『屋根裏のハウスキーパー』……何これ?」

 スマホから顔を上げて教え子を見遣れば、憎たらしさを通り越して見事としか言い様の無いドヤ顔を浮かべて、このアプリゲームの説明をしてくれた。

「先生の為に見付けて来たアプリゲームです。これは万歩計にもなるし、効率的な掃除の仕方や調理などのアドバイスもしてくれる、正に不衛生且つ不健康な独り暮らしを送っている先生に打って付けの機能が備わっているんですよ」
「おいおい、幾ら機能が充実していても所詮はアプリゲームだろう? 私はアプリなんてした事がないし、第一これで改善されるという可能性は―――」
「先生の努力次第です」

 きっぱりと断言されてしまうと、私もそれ以上言葉を続ける事は出来なかった。アプリゲームをした事がない私だが、幸いにもこのゲームは操作の必要は一切なく、肌身離さず持っているだけで良いとのこと。
 果たしてこれを身に付けているだけで私の生活が改善出来るのだろうかと言う疑問はあるものの、折角教え子が見付けてくれたのだから無下には出来ない。

「まっ、試しにやってみますか……」

 勿論、これを完全に信じ切った訳ではないが、所詮はアプリゲームだ。一種の趣味兼遊びみたいなものだろうという軽い考えも働いて、私は何の疑いも持たずにアプリをダウンロードしてしまった。



「先生、あのアプリをダウンロードしてどれだけ経つんでしたっけ?」
「うーん、どれくらいだったかねぇ」
「私の記憶が正しければ、恐らくもうすぐで一年経過する筈なんですが………」
「…………」
「何故顔を背けるんですか?」

 ドスの利いた教え子の笑顔を直視する勇気を私は持っておらず、思わず顔ごと視線を背けてしまう。しかし、顔を背けるのは決して彼の笑顔が恐いからという理由だけではない。

「どうして一年も経っているのに何処も彼処も変化が無いんですかー!?」

 そう、教え子が私の為に見付けてくれたアプリをダウンロードし、ほぼ一年間携帯していたにも関わらず、我が家の惨状は相変わらずだった。これが教え子の怒りと不満を爆発させる要因だ。
 では、このアプリは何の役にも立たなかったのかと聞かれれば、私は『それは違う』と断言したであろう。事実、教え子の言っていた様に、このアプリの機能は素晴らしいものであったからだ。
 ゴミで埋もれた部屋の様子を携帯カメラで撮ると、『屋根裏のハウスキーパー』の説明役兼助言者ことキキーモラさんが写真から情報を汲み取り、効率的な掃除の仕方を提示してくれる。他にもゴミの分別や便利な整理整頓方法、更には健康でヘルシーな調理方法まで、正に独り暮らしの私に適切な助言をしてくれる心強いアプリであった。

 しかし、そんな便利なアプリを以てしてでも私の癖を直す事は出来なかった。

「いざアプリに従って掃除を始めようとしたらね、昔読んだ雑誌が出たり、懐かしい研究論文が出たりして、それらを一度目に通したらついつい読み耽っちゃってね」
「あー、そういうのあるある……って言っている場合かー!」

 恐らく私以外の人間であればアプリの指示に従いテキパキと行動出来たであろう。しかし、私の場合だと作業中に自分の興味のある物を発見してしまうと、そっちに気を取られてしまうという悪癖があった。
 おかげで作業は進まず、ダラダラと時間だけが過ぎてしまい、結局は一年前と変わらない状況になってしまったという訳だ。

「まぁ、あのアプリも完全に無駄じゃなかったよ。料理だって少しは出来るようになったし、それにあれから一年経ったけど家の状況は思ったほど悪化していないでしょ?」
「現状を維持するのではなく、現状を改善する為に私はアプリを教えたんですよ!」

 うーん、個人的にこれ以上酷くならない事は凄い進歩だと思うんだけどなぁ。だけど、教え子はそれ以上の完璧な成果を期待していたのか、その表情には不満とも失望とも取れる複雑な表情が滲み出ていた。
 やがて重い溜息を吐き出して昂った心を一旦リセットすると、話題は我が家の現状から私が使っているアプリについての話しへと移された。

「そう言えば、もうすぐで私が紹介したアプリの期限が来ますよね?」
「期限?……ああ、そう言われればあったねぇ」

 一瞬、そんなものがあっただろうかと疑問を抱いたが、一年前にアプリゲームを始めた時の記憶を掘り起こしてみると、あっさりと期限の事を思い出す事が出来た。
 このアプリゲームを始める際、様々な説明が掲載された文章の中、最後の項目に一年前と一年後でどのように家の内部が変化したのかを確かめられる、所謂『ビフォー&アフター』が可能だ的な説明文が書かれてあった。
 これによりアプリをしている当人の達成感を満たすという目的もあるかもしれないが、私の場合は劇的でもなければ悲劇的でもなく、何処も変わっていない無変化なので全く意味は無い。
 それに期限を迎えるからと言って、以前と変わっていなければ罰ゲームやペナルティを科すというルールも無かった筈だ。最も万歩計と生活情報機能を兼ね備えたアプリに、そんな物があってたまるかと言うのが本音だ。

「その期限を過ぎたら、アプリのみならず現実に何かが起こるという噂があるようですよ」
「噂? 何それ?」
「さぁ、私だって詳しくは知りません。因みに噂の情報源はインターネットにある胡散臭い書き込み版からですけどね」

 呆気らかんと言ってのける教え子の態度に、流石の私もムッと顔を顰めた。

「おいおい、そんな胡散臭い噂付きの怪しいアプリゲームを、よくも私に紹介出来たものだね……」
「でも、アプリゲームの内容に文句は無かったでしょう?」
「…………まぁね」

 教え子の言葉に私は反論出来なかった。そう、彼の言う通り、このアプリゲームは非情に良い出来栄えなのだ。特にシステムという観点に着目すれば、その良さが分かる。
 独り暮らしを始めて掃除や調理に不慣れな人間に分かり易く説明したり、より良い方法を自動で提示してくれる。何よりもアプリ未体験である私でも簡単に理解してしまう程の親切設計なのだ。
 正に怪しげな噂なんて一蹴してしまう程の傑作である。そういう意味もあって、私の口からこのアプリゲームを非難する言葉を発するなんて真似は出来なかった。
 口を閉ざしてしまった私を見て、教え子は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「まぁ、所詮噂は噂です。それに噂が事実であったとしても、決して悪くは無いですよ」
「因みに、その噂の内容はどんなのかは教えてくれないのかい?」
「知りたいですか?」
「教えて貰えるものならね」

 妙に意地の悪い教え子の態度に不吉な予感を覚えながらも、私は素直に頷いた。すると教え子は内緒話をするかのように私の耳元に口を寄せ、小さい声で囁いた。

「何でも、とっても美人な彼女が手に入るらしいですよ」
「はぁ?」

 矢鱈と含みを持たせるような発言をしていただけに、もしかしたらオカルトチックな噂なのかと期待していたが、ものの見事に外れて肩透かしを受けた気分だ。
 だけど、確かに悪くないと言えば悪くない。寧ろ、アプリをするだけで彼女が手に入るのならば御の字というものだ。私自身も三十路に入り、そろそろ嫁さんを貰いたいと思い始める年頃だ。しかし、ずぼらな性格も災いし、中々良き出会いに恵まれないのが現実だ。
 もしも噂通りに彼女が貰えるとすれば、今やっているアプリゲームに登場するキキーモラみたいな女性が良いなぁ。面倒見が良くって、色々と世話を焼いてくれる女性だ。そんな都合の良い女性願望を出すと、益々私が駄目人間に思われてしまうかもしれないが。

 まぁ、所詮は根も葉も無い噂だ。大きな期待を持つだけ無駄というものだろう。そういう私の心境を表情で呼んだのか、教え子は最後にこう付け加えた。

「勿論、あくまでも噂ですよ」
「はいはい、分かってますよ」

 教え子が教えてくれた噂を本気にはせず、適当にあしらった所で彼は楽しげな笑みを浮かべて帰って行った。
 あの笑みはもしかしたら、独身の私を嘲笑っているのではないだろうかとも勘繰ってしまったが、下手に疑うのは良くないと自分に言い聞かして忘れる事に専念した。



 その日の真夜中、例の如く寝室のベッドではなく書斎のソファーの上で熟睡していると、フローリングの上に転がしてあった携帯が激しく揺れ出した。固いフローリングだった事も相俟って、携帯のバイブレーションは宛ら不協和音の目覚まし時計のように喧しい音を奏で、私が目覚めるのに数秒と掛からなかった。

「はい、もしもしぃ?」

 てっきり大学で一緒に働く教授からの電話だと思い込んで耳に携帯を当てるが、何の反応も無い。おかしいと思って携帯の画面を覗き込むと、そこには私がお世話になっているアプリの画面が表示されていた。

「んん? 何だぁ?」

 寝惚け眼を擦りながら画面を凝視すると、『期限を迎えました』という文字が目に入る。ああ、そう言えば今日が期限だって教え子と会話したばっかりだったっけ。
 でも、期限を迎えたらバイブレーションが鳴るだなんて聞いていないぞ……等と言う疑問は、頭の中に居座る睡魔のせいで浮かびもしなかった。それどころか睡魔は魔の手を伸ばして、私を夢の中へと突き落とそうとしている。特に仕事とは無関係だと分かった今、その力は一層強まっている。
 もう一度寝てしまおうかとも思ったが、スマホの画面上に映し出された『はい』と『いいえ』の二択のメッセージが視界に入り込む。どうやら期限が過ぎたというお知らせ以外にも、別のメッセージが書かれているようだ。
 その二択の上に細かな文字が書かれているが、寝起きのせいで視界がぼやけて読み取る事が出来ない。もう少し頭が冴えれば読めるようになるかもしれないが、そこまで起きていられる自信と気力は無かった。

(どうせ延長しますか否かってヤツでしょ……。全く、こんな夜中に確認しなくても良いのに……)

 余りの眠気で思考を働かせる事にさえ嫌気が差していた私は、スマホに表示された説明文をきちんと読まずに『はい』の選択肢を押すと、スマホを床に放り出し、目を閉じて睡魔に身を委ねた。
 だが、この時に表示されていた説明文が私の想像とは全く異なる内容であったなど、決定ボタンを押した後になって知る由もなく、そのまま翌朝まで深い眠りに就くのであった……。



 カーテンの隙間から入る朝日の光と外から聞こえて来るカラスの鳴き声や車の騒音が、眠りに落ちていた私を現実へ引き摺り上げる。未だにボーっとする頭を数回左右に振って眠気を振り払い、欠伸と背伸びをして意識の覚醒を促す。
 体が重く感じ、寝足りないと思うのは何時ものこと。そんなダルさと戦いながら、職場へ向かうのは毎度のこと。いやはや、働き詰めのサラリーマンは辛いね……そう愚痴を零すのは日常茶飯事である。

 とまぁ、個人的な呟きは置いといて、鉛の様な体をゆっくりと起こしてソファーから降り立った時、私はある異変に気付く。

「あれ? 書斎部屋って……こんなに片付いていたっけ?」

 何時もならば床の上に積み重ねられた本や、適当に纏めたゴミ袋に足をぶつけるのが毎度御馴染の光景なのだが、起きてみたら足に物がぶつかるどころか、寝る前まであった筈のゴミが全て消え去っていた。
 今まで無用の長物と化していた書斎の本棚には本が整理された状態で収納されており、漸く本来の役割を果たしたのを目の当たりにした。

「ど、どうなってんの……!?」

 当然ながら本棚を有効活用したり、ゴミを片付けたのは私ではない。というか、そんな事をした記憶すら無い。嬉しいと言えば嬉しいが、それよりも身に覚えの無い恐怖の方が遥かに勝っており、警察に電話すべきか迷っていると、不意に香しい料理の匂いが鼻孔を突く。
 目覚めたばかりで空腹だった私の腹の虫は即座に音を立てて反応し、私自身もそれに釣られて下の階へと降りていく。下の階へ行くと、案の定、通路を塞いでいたゴミの山も消えて無くなっており、以前のような通る度に感じていた苦労もせずに楽々と一階のキッチン兼居間へと辿り着く事が出来た。
 居間へ通じる扉の向こうから、調理の音……食べ物を焼く香ばしい音や、リズム良く食材を刻んだりする音が耳に入る。

 そこで私は確信した。独り暮らしをしている私の家に、私以外の誰かが居るのだと。強盗ならば即座に通報したであろうが、この相手は何故か家を隅々まで掃除し、挙句には料理まで作ってくれている。全く以て真意が見えない。
 しかし、相手がここまでするには何か目的がある筈だ。そして、それを知る為にはもう一歩踏み込む必要がある。そう自分に言い聞かし取っ手付きのドアノブに手を伸ばした―――が、その手が届く直前にドアノブが回り、私は思わず伸ばした手を引っ込め、数歩後ろへ下がってしまう。
 たったこれだけだと言うのに心臓が一段と高く跳び上がり、次いで警鐘を促すかのようにバクバクと鼓動を打ち鳴らす。
 何時もは静かでのんびりとした朝を迎えるのに、今日は早朝から驚きや動揺の連続で血圧が上がる一方だ。これ以上は心臓が持たないぞ……と思った矢先に追い打ちを掛けるように、扉がゆっくりと開かれる。
 もしもこれがホラー映画なら、扉が開いた瞬間に襲われて命を落としていただろう……なんて面白味に欠ける考えを抱いたのは、後々になってこの瞬間を振り返った時の事だ。

 そう、結果を先に言えば扉の向こうに居たのは強盗でもなければ、ホラー系の化け物でもない。女性だ、それも飛びっきり美人の。私は生まれて初めて、女性の姿を見て息を飲んだ。
 先ず目に入ったのは今の時代では滅多にお目に掛かれないメイド服。それも日本で流行っているコスプレ衣装ではなく、ヴィクトリア朝時代のイギリスのメイド達が着る裾の長いエプロンドレスだ。
 それを身に纏う本人から伝わって来る御淑やかな印象と落ち着き払った雰囲気が絶妙にマッチしており、これでコーヒーポッドなんて持って毎朝出迎えてくれたら、それこそ最高の目覚めになるだろう。
 手首と腰からは梟の羽毛を思わせる薄茶色の羽が生えており、特に腰の方は箒のように束になって纏まっており、まるで狼の尻尾を彷彿とさせる。

「おはようございます、旦那様」
「…………お、おはよう」

 そんな美しい彼女が穏やかな笑みを浮かべて、私に向かって目覚めの挨拶をした瞬間、私は返事の言葉を見失ってしまった。初対面な上に全て理解出来ていないと言う事実もあるが、それ以上に彼女の素敵な笑顔と挨拶を目の当たりにして、何と言って言葉を返せば良いのかと一瞬思考が迷路に迷い込んでしまったみたいだ。
 短時間ながらも迷いに迷った末に、私は普通に朝の挨拶を返すに至った。しかし、男の独り暮らしが長過ぎたせいもあって、目の前の美女へ返した朝の挨拶は何処か固く、この上なくぎこちないものであった。



 朝食を食べ終えたら、食後のコーヒーブレイクを楽しむ……それが毎朝365日続く、私の日課みたいなものであった。しかし、今回は違った。色々な意味で食後のコーヒーブレイクを楽しむ余裕が無いのだ。
 当然、その最たる理由は私に色々と尽くしてくれている彼女だ。しかし、何処かで見た覚えがあるような気がするのだが、果たして何処でだったかなぁ……とコーヒー片手に記憶のタンスを引っ繰り返していると、彼女から本日の朝食についての感想を求められた。

「如何でした、旦那様? 朝食のお味は?」
「あ、ああ、うん。とっても美味しかったよ。味付けも私の好みだったしね」
「まぁ、それは何よりです」

 急な質問だったのでしどろもどろな口調になってしまったが、料理の味に関しては決して嘘を言っていない。実に美味だった。
 オムレツの中身は程良い半熟具合となっており、箸で割った瞬間に黄身がトロリと溶け出すという熟練者のみが可能にする調理テクニックを有している証拠だ。ベーコンはカリカリに焼けていたし、サラダだって私が作るような只刻んだだけではなく、厚さと長さが均一というレストラン宛らの仕上がり具合だ。

 今まで手作りで熱々出来たてと言えば母親や外食の料理ぐらいなものだ。それがまさか、このような形でまた味わう事が出来るとはなぁ。
 だが、そんな感動を述べるのは後回しだ。それよりも彼女が何者で、一体何処からやって来たのか。そして何故私の世話を焼いてくれるのかを聞くのが最優先だ。

「あの……―――」
「旦那様! そろそろ大学へ向かうお時間ですよ!」
「えっ……あ!」

 しかし、いざ聞こうとした矢先に時間切れが来た事を告げられてしまい、時計を見れば既に針は家を出る五分前を指していた。しまった、何時もと違うから妙に緊張して、時間の事まで気に回せなかった!

「ご、ごめん! すぐに準備を―――!」
「旦那様、もう既に荷物はこちらに用意致しました」

 ニッコリとスマイルを浮かべ彼女が手で示した先には、私が大学に着て行くスーツと鞄、そして必要な書類が入った封筒がきちんと用意されていた。おまけに布で包まれた愛妻(?)弁当付きだ。
 何と言う手際の良さ。これは良妻というレベルを凌駕している。長年連れ添ったからこそ出来るようになると言われる、熟年夫婦の阿吽の呼吸の域に達しているのではないだろうか……なんて言っている場合じゃない! 本当に遅刻しそうだというのに、私は一体何を呑気に考えているんだ!

「じゃあ、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃいませ。旦那様」

 生まれて初めて家族以外の人間に『行ってきます』を言い、生まれて初めて家族以外の人間に『行ってらっしゃい』を言われた。それも後者は私自身が息を飲む程の美人だ。遅刻しそうだと言うのに、頬が緩んでしまうのは仕方が無かった。



 大学の仕事に専念しながらも、頭の片隅にはやはり彼女の姿がチラ付いていた。おかげでしょうもないミスを連発してしまい、漸く家へと帰宅したのは夜8時を回っていた。
 私は内心で彼女はまだ家に居るだろうかと不安になってしまった。この不安は居なくなって欲しいではなく、居て欲しいという願望から来る不安だ。彼女の正体も分からないのに、そんな不安を抱く事自体がおかしいのではと自分でも思う。
 しかし、彼女のおかげで家は快適になったし、あんなに美味しい食事だって食べれたのだ。毎朝辛い朝が、こんなスムーズに過ごせたのだって初めての事だ。正直に言えば、彼女にはずっと我が家に居て欲しい。

 そして願わくば―――と考えた所で私は頭を左右に振った。何故なら、それは自分でも馬鹿馬鹿しいと思ってしまう程に都合が良過ぎる内容だからだ。
 自分自身を嘲笑した所で歩み続けていた足を止めた。気付けば我が家に辿り着いており、部屋の窓からは明るい光が煌々と灯っていた。どうやら彼女はまだ居る様だと分かっただけで、私はホッと胸を撫で下ろした。

 我が家の扉を開けると、今までは通路を埋め尽くす程のゴミの山と光の無い冷たい空間が私を無言で出迎えてくれるのだが、今日は違った。ゴミの山は消えており、広くなった空間には温かな電光色の光が満ちている。
 そして私が扉を開けて帰って来るや、向こうからパタパタと可愛らしい足音と共に玄関にやって来た彼女が温かな笑顔と共に出迎えてくれるのだ。

「おかえりなさいませ、旦那様」
「……うん、ただいま」

 昨日まで誰も居なかった家に私以外の誰かが居り、私の帰りを待ってくれる。それだけで私の心は温かな何かに満たされていった。



「さて、朝はバタバタして聞けなかったけど……君は一体何者なの?」

 夕食を終えて一息付いた所で、漸く私は今まで抱いていた疑問を彼女にぶつけた。私の質問に対し彼女は軽く首を傾げてみせた。

「あら、私とは何度もお会いしているではありませんか」
「あーうん。確かに会った気がするんだけど、一体何処でだったのかが思い出せないんだ。恥ずかしながら……」

 十代や二十代の頃に比べると若干記憶力の衰えは否めないものの、間違い無く何処かで会ったという確信はある。只、それが何処なのかが思い出せない。
下手に言い訳するよりかは素直に言った方が良いだろうと思って本心を口にしたのだが、同時に怒るだろうかと一抹の不安が頭に過った。だが、直ぐに彼女のクスクスと笑う声と共に杞憂に終わった。

「仕方ありませんよ。だってゲームの中と現実とでは大きく異なりますもの」
「ゲームの中?……あっ!」

 彼女が出してくれたヒントのおかげで漸く思い出せた。そうだ、ゲームだ。私が今やっているアプリゲーム『屋根裏のハウスキーパー』に登場するキキーモラと瓜二つなのだ。と言うか、衣装から容姿まで全てがキキーモラそのものではないか。
 そこで漸く胸の内に溜まっていた靄が晴れるような思いになったが、すぐにまた別の疑問が噴出する。

「ちょ、ちょっと待って。『ゲームの中』って言ったけど、まさか君はゲームに居たキキーモラと同一人物なの?」
「はい、そうですよ。それがどうかなさいました?」
「いやいやいや、『どうかなさいました』じゃないよ! 普通に考えておかしいでしょ! ゲームの中からキャラクターが飛び出て来るなんて、そんな漫画みたいな話聞いた事がないよ!?」
「ええ、ですけど旦那様がしている魔物アプリはそれを可能にしてしまうんです」
「魔物アプリ?」

 これって只のアプリゲームじゃないのと私が首を傾げると、キキーモラは愉快そうに目を細めた。



 キキーモラの話しによれば、この魔物アプリの中には様々な魔物達が閉じ込められており、ゲームクリアを機に封印が解除されて現実世界へ飛び出す事が出来るという特殊な術が施されているそうだ。
 魔物と言っても人間に害を加える者は皆無であり、殆どが人間達と友好な関係を望む者ばかりだとのこと。おまけに魔物の全てが女性らしい。
 また封印だの閉じ込められていると言うのは私の見解であり、彼女達からすれば愛しい男性達と巡り合う為の手段だとの事だ。

「信じられないや、まさか魔物とか魔法とかが実在しているだなんて……」
「でも、それ以外で私達の存在を説明付ける事は出来ませんわ」
「まぁ……確かに、その通りだ」

 うん、そこは認める。確かにアプリの中から魔物が飛び出してくるだなんて、魔法以外で説明のしようがない。でも、よくよく考えたら魔法って物理的でなく、言葉的にも便利だねぇ。どんなに非科学的な現象が起きても『全て魔法の仕業なんだ』で片付いちゃうんだもの。
 最も、そんな説明は魔法を受け入れてくれる人達にしか聞き入れて貰えないだろうけど。おまけに今の現代社会で真面目に魔法のせいだなんて言えば、異端者とまではいかないだろうが、痛い奴か厨二病かと冷たい目で見られるのがオチだ。

「しかし、おかしいな。私はゲームをクリアした覚えなんて無いのだが……」
「いいえ、そんな事ありませんわ。旦那様は私のアプリを365日、ずーっと見てくれていたでしょう?」

 そう言われると、確かにスマホは肌身離さず持っていたっけか。次いでに簡単に出来る料理を探したりと、何だかんだで重宝していたからなぁ。

「大抵の飽きっぽい人だと、すぐに私のアプリを消してしまって他のアプリをダウンロードしちゃうんです。だから、こうやって一年通して頑張って下さった旦那様には感謝しているんです」
「いやぁ、感謝だなんて……。私こそ申し訳ない気持ちで一杯だよ。特に君から掃除の手解きを一年間受けておきながら、全く出来ていない事とかね」

 今になって振り返ると、自分が如何にあのアプリを活用し切れていないかが良く分かる。しかも、効率的な掃除方法を教えてくれた本人が目の前に存在するのだ。肩身が狭いというか、頭が上がらないと言うか……兎に角、頭を掻いて誤魔化す他ない。しかし、彼女はそれさえも怒るどころか楽しそうに笑ってくれた。

「そんな事はありません。私は誰かの為に尽くす事が大好きですし、今回だって旦那様のお役に立てただけで嬉しいのですから」

 そう言って花が咲いた様に笑う彼女の顔に嘘偽りは無い。誰かの為に尽くす事を自身の喜びのように感じている。しかも、その誰かと言うのが私を指しているのだと思うと、自然と頬に熱が帯びていく。

「旦那様、お風呂の準備も出来ていますから、先に入られては如何でしょうか?」
「あっ、ああ。そうだね。折角だからお風呂を頂こうかな」

 彼女に勧められるがままに風呂へと向かう私。そんな私の背中を妖しげな微笑を浮べたキキーモラが見詰めているのを、私は気付きもしなかった。



 温かい湯が張られた浴槽に身を沈め、全身の筋肉の凝りをゆっくりと解していく。恐らく一日の生活の中で一番心穏やかになれる瞬間が、この入浴であろう。だが、身体を休める一方で頭の中は引っ切り無しに回っていた。主にキキーモラとの今後の生活についてだ。
 キキーモラが来てくれたおかげで生活は楽になるだろう。何せ今まで苦手だった家事を彼女が一人で引き受けてくれるのだから。食費が増えるという点があるが、そんなのはささやかなものだ。
 ああ、でも彼女の為に部屋を新しく設けないといけないな。確か使っていない部屋が一つあったから、そこを彼女の部屋にしよう。そして今度の休日に一緒にベッドでも見に行こうかな―――などと考えていたら、キキーモラの声がやって来た。

「旦那様、お湯加減は如何でしょうか?」
「うん? ああ、最適だよ」

 磨り硝子で覆われたドア越しからキキーモラの輪郭が見え、私はそれに向かって言葉を返す。態々湯加減まで聞くとは、出来た子だなぁ……と感心して再度キキーモラの方へ目線を向ければ―――

 一枚隔てたドアの向こうで彼女は服を脱ぎ始めた。
 
 磨り硝子でハッキリ見えないとは言え、彼女が何をしているのかは動作で理解出来た。これには浴槽の中で完全にリラックスしていた体に緊張と言う名の電気が走り、思わずその場に立ち上がってしまう。

「え!? ちょ、ちょっと何を―――!」
「失礼致します、旦那様」

 私の驚きの声を半ば無視するかのようにガチャリッと扉を開け、キキーモラが浴室に踏み込む。
 膝から下は鳥の様な鱗に覆われながらも八頭身美女を連想させる長くスリムな脚部。脂肪が殆ど無いと言っても過言ではない縊れた腹部。大きさは普通だが張りと艶のある美しい胸部。
 これらを統合した結果、下手をしたら何処ぞかのモデルよりも脚光を浴びそうな極めてバランスの取れた八頭身スタイルである事が分かる。

 そして今、キキーモラは私の目の前にその裸体を、あられもない姿を曝け出している。私だってアダルト本などで女性の裸は目にしている。本と言う二次元的な物とは言え、それなりに耐性はあるだろうと思っていた。
 しかし、実際に彼女の裸を見て私は硬直してしまった。目を逸らすどころか、眼球が無意識に動いて彼女の頭から足先まで隈なく見ようと上下に動いてしまう。何処のスケベ親父だと自分を叱ってやりたいと心の底から思ったのはコレが初めてだ。
 顔の熱が急上昇しているかのように感じるのは、今居る場所が風呂だからという理由だけでは片付けられない。彼女の裸を見た事による己の心身の状態も深く影響しているに違いない

 浴室へ入って来たキキーモラは私に向かって一礼した後、『あら?』と不思議そうな声を漏らした。次いで彼女の頬も私みたく朱色に染まり、何事かと思ったが直ぐにその理由を知った。

「旦那様の……意外と逞しいんですね……」
「へ?」

 口元を握り拳で隠しながら、ある一点を見詰めてそう呟くキキーモラ。恥ずかしさとも、称賛とも取れる熱い眼差しが立ち上がっている私の下半身に突き刺さる。
 そこで私も彼女同様に視線を自分の下半身へ向けてみると、下半身に一つしかない急所が勃ち上がっていた。よく『下半身は正直だ』と言う台詞を聞いた事はあるが、それが正しいと実感する日が来ようとは夢にも思わなかった。

「ご、ごめん!」

 いきなり局部を見せてしまった恥ずかしさもあるが、何よりその一点に彼女の視線が注がれるのに耐え切れなくなり、私は慌てて湯船に体を沈め、彼女に背を向けた。
 女性に……それもキキーモラみたいな美女にアソコを『逞しい』と褒められるのは、悪い気はしない。寧ろ誇らしさがある。
 一方で素直を通り越して愚直に反応を示した局部を見て、彼女は幻滅しなかっただろうかと不安にもなった。
 そんな不安とは裏腹に、背後から小鳥が囀るように笑うキキーモラの声がやって来た。

「大丈夫ですよ、旦那様。私は気にしておりませんから」
「……私が気にするよ。第一、風呂に入るなら入ると一声ぐらい掛けておくれ。急に入って来られたらビックリするじゃないか」
「申し訳ありません。でも、今日は旦那様と出会えた記念日ですからサプライズをしようかと思いまして」

 それはまた中々どうして刺激の強いサプライズですこと……。今後も同様のサプライズが続けば、私の心臓と精神力は人並み以上に鍛えられる事間違いなしだ。いや、その前に理性が持つかどうかが心配だ。
 そう考えた矢先、私は気付いてしまった。サプライズというのは本来相手を喜ばせるものだ。つまり、彼女が浴室へ入って来たのは只単に私と一緒に風呂へ入るのが目的ではなく、一緒に風呂に入り尚且つ私を喜ばせる為なのだと。

 そして男女で入浴と言えば―――定番のアレしかなかろう。

「旦那様、お背中を御流し致します」

 そう言ってキキーモラはタイルの上に敷かれた防水マットに正座し、三つ指を付いて深々とお辞儀する。まるで高級ソープ嬢のような姿勢に一度は治まり掛けた興奮が再び暴走し始める。
 ここで拒否をするという選択肢もあっただろうが、自分を喜ばせようとする彼女の努力を否定する真似など出来る筈がなかった。それどころか内心ではガッツポーズをしながらリンボーダンスをする私が居た。要するに喜んでいたという事だ。
 結局私が出来た事と言えば、深呼吸を三回して気持ちを落ち着かせ、余裕があるように表面的に見せ掛ける事ぐらいだ。

「じゃ、じゃあお願いしようかな……」

 しかし、実際には上擦った声と強張った笑顔のせいで緊張を押し隠す事に失敗していたのだが……。

 浴槽から出た私はキキーモラの前に置かれた風呂場用の腰掛けに座り、彼女に背を向ける。彼女は手拭いにボディソープの泡を贅沢に付け、私の背中を洗い始めた。強過ぎず弱過ぎず、痛くもなければ物足りなくもない。丁度良い力遣いだ。

「どうですか、旦那様? 力加減は大丈夫でしょうか?」
「ああ、うん。気持ち良いよ。丁度良いぐらいだ」

 余りの気持ち良さに彼女が裸体である事などすっかり意識から抜け落ち、呆然と無意識に近い状態で彼女の行為を受け入れていた。すると急にキキーモラの手の動きがピタリと止まった。
 どうしたのだろうかと振り向こうとした矢先、彼女の身体が私の背中にピタリと密着してきたではないか。

「え!? な、何!? どうしたの!?」

 そこでまたしても彼女の裸を意識してしまい、私の股間に熱が集まり、みるみると男根が大きくなっていく。その大きさは太股に掛けた濡れタオルの橋に当たり、丁度中央部分に不自然な盛り上がりが出来る程だ。

「旦那様……」
「は、はい!?」
 
 彼女の甘い囁き声が耳に入る。それだけで酷く甘美で、背筋にゾクゾクとする電気が走り抜ける。無論、この感覚は悪寒とは対極に当たる快感の類だ。
 
そしてキキーモラは密着したままの恰好で私に話し掛けて来た。

「旦那様、お許し下さい。でも、私は我慢出来ないのです……!」
「が、我慢って何!? 何か許せない事でもしたかな!?」

 やっぱりアレかな!? 掃除出来ていない所とか、ズボラな所とか、そういうひっくるめて全部かな!? えーっと、とりあえずごめん! 頑張って自分の欠点を直すよう努力しますからー!……と口には出さず内心で謝罪を述べていると、密着していた彼女の手が私の脇下をスルリと通り抜け、タオルに隠れている私の男根をギュッと握り締めた。

「うぉ!? き、キキーモラさん!?」

 一切の家事を請け負って働き者だという印象を受ける割に、彼女の手は白魚のように綺麗で、真珠のように真っ白だ。
 そんな彼女の手が勃起して敏感になっている男根に絡み付く。想像するだけでも結構なものだと言うのに、実際にされると今にも暴発しそうだ。何が暴発するのかと言うと、男ならば誰もが溜まっているアレである。

「旦那様、私達魔物娘は……男性の精を好む生き物なんです!」
「せ、精!?」

 もしもこれがテレビを通しての情報ならば、『それは初耳だなぁ』とトリビア的な感動と満足感を得ただろうが、今はそれどころではない。何せ、それを知ったのは性的に食われる直前なのだから。情報として知るには、如何せん遅過ぎた感が否めない。
 恐らく、今の彼女は発情している。それも私の勃起した男根を見た事が原因でだ。これを嬉しい誤算と見るべきか、はたまた面倒な事となったと正直迷ったが、今は彼女の言葉に耳を傾ける事に専念した。

「私は旦那様に尽くす事を至上の喜びと感じていますが、こればかりは魔物の性……避けては通れぬ衝動なのです! だから、お願いします! 私を抱いて下さい! 旦那様!」

 まさか女性の方から抱いてくれと懇願されるとは。夢に思う思わない以前に、予想外の出来事である。
 因みに私の答えはYESだ。それも『抱いても良い』という適当な意思ではなく、『抱きたい』という本心から望む欲望に近い本音だ。しかし、同時にこんな私で良いのかという迷いもあった。

「えっと、キキーモラさん。一つ聞いても良いかな?」
「はい、何なりと」
「その……私は別に構わないよ。寧ろ、貴女を抱きたいと強く願っている。しかし、本当にこんな私で良いのかい? 私はもう既に三十路だし、周囲からは若いルックスだとか言われているけど、それはお世辞にも過ぎないベタなものだ。だけど、貴女程の美貌ならば私以外の、それもより若い男性と―――」
「旦那様じゃないと嫌なんです!!」

 キキーモラの叫びが浴室に響き渡る。狭い浴室なので彼女の叫び声は反響し、より一層大きく聞こえた。怒声なのか悲鳴なのかは完全に判断が付かないが、声が若干震えていたので恐らく後者だろう。
 そして彼女は私の男根を握り締めながら話を続ける。ちょっぴり痛いが、今は我慢する他ない。

「あの時言ったではありませんか! 私達にとってこの魔物アプリというゲームは、愛しい男性と巡り合う為の手段だと!」
「あっ……」

 それを聞いて私は間抜けな声を発してしまった。そうだ、彼女は魔物アプリの真の目的を説明してくれたではないか。私達にとっては単なるゲームかもしれないが、彼女達にとっては大事な出会いの手段だと。

 つまりキキーモラにとって一番愛しい男性は私なのだ。そうとは知らずに私は他の男性が良いのではないかと勧めてしまい、私を愛してくれる彼女の心を傷付けてしまった。
 結果的に彼女を傷付けてしまったが、無論、最初から彼女を傷付ける気なんて全く無かった。只、三十路で容姿もパッとしない自分と、家事を完璧にこなしてズバ抜けて綺麗なキキーモラとでは釣り合わないのではと不安に駆られてしまった。
 その結果がこれだ。彼女の想いに気付かぬだけに留まらず、平然と踏み付けるような真似までしてしまうだなんて。最低な上に情けない男だ、私は。今更気付いても遅いかもしれないが、私は心の底から彼女に謝った。

「ごめん、キキーモラ。君を傷付ける気は無かったんだ。言い訳になりかもしれないけど、自分に自信が持てなかったんだ……」

 何時の間にか腹部に回された彼女の手の上に、自分の手を重ね合わせる。若干その手が震えている気がするが、もしかして悲しんでいるのだろうか。そう考えると自分の無神経さを呪いたくもなるし、嫌にもなる。
 しかし、こんな時でもキキーモラは落ち込んでいる私の心境を察したのか、何時もの明るい声で話し掛けてくれた。

「ええ、知っています。旦那様はとっても心優しい人だって事を。だから、私を気遣って今の発言をなさったんでしょう?」
「うん。でも、結果的に君を傷付けてしまった。それについては弁明のしようがないよ……」
「いいえ、良いんです。そのおかげで私が旦那様を愛しているという事実を、改めて言えたのですから。……旦那様は、私の事が好きですか?」

 彼女からの問い掛けに、本心を偽る必要など何処にもなかった。

「うん、好きだ。君を見て、生まれて初めて一目惚れをした。大好きだ」
「はい! 私も……私も旦那様が大好きです!」

 遠慮とか、謙遜とか、最初からそういう類のものは一切必要無かったのだと思うと、馬鹿らしく思えてくる。しかし、お互いに全てを分かり合えた瞬間、この上ない喜びと愛情が一気に噴出して最高に幸福だと思えるのだから、遠回りしてみるのも強ち間違いではないかもしれない。

 私の背中にキキーモラが抱き付き、私も彼女の手を愛おしく撫でる。これでめでたしめでたし……かと思いきや、不意にキキーモラは『あっ』と声を漏らした。

「どうかしたの?」
「旦那様の、凄く固くなってる……」
「あっ」

 そこで私も自分の下半身に目を遣り、彼女と同じ言葉を吐いた。上から見下ろしただけでは太股に掛かったタオルのせいで男根の全体像は見えないが、その中心に出来上がった盛り上がりにはクッキリと亀頭の形が浮き出ていた。
 女性を前にして、これは如何なものか……と少し前の私ならそう思うだろう。しかし、今は互いの胸の内を曝け出し、愛し合っていると確認出来たのだ。最早、彼女に対して遠慮する必要はない。そして彼女もまた私と同じ心境であった。

「旦那様。旦那様の逞しいオチンチン……見ても良いですか?」
「うん、キキーモラの気が済むまで好きにして良いよ」

 椅子に座ったまま後ろへクルリと反転し、キキーモラと向き合う。既に彼女の顔は浴槽の熱気ではなく、性的興奮から来る熱からか頬が赤く染まっている。だが、それは私も同じ事だ。これから行われるであろう、大人の男女交流を想像するだけで興奮が止まらない。
 キキーモラはタオルの下に手を伸ばし、まるで壊れ物を扱う様に私の男根と睾丸を包む肉袋を優しく丁寧に撫でる。それだけで気持ち良さを覚え、私の口から微かな喘ぎ声が漏れ出てしまう。

「旦那様、失礼致します♥」
「へっ? ふぉぉぉ!?」

 突然キキーモラがそう宣言するや、私の股間に端麗な顔を沈める。そしてタオルに隠れた男根に息を吹き掛けながら、まるで子猫のように舌先でソレを舐め始めた。

 舌で舐め回す音、チュッチュッとリップキスする音、そして彼女の喘ぎ声。様々な音は聞こえど彼女が実際にどんな顔で男根を舐めているのかはタオルに隠れて全く見えない。しかし、敏感な男根のおかげで彼女が何処を舐め、何処にキスをし、何処に舌を這わせているのかが手に取るように分かる。

「ねぇ、キキーモラ。タオル……取っても良いかな?」
「んんっ♥ チュッ♥ はい、良いですよ♥ 旦那様♥」

 彼女の許可を貰い、そっと太股に掛けられたタオルを取り外すと、そこには太い血管が幾つも浮かび上がった男根に顔を埋めるキキーモラがいた。
 男根自体がグロテスクな貞操を成しているにも拘らず、彼女はそれさえも愛しい男性の一部だと思えるのか、何度も何度も亀頭や竿に舌を這わせた。時には睾丸を口に含んで飴玉を舐め回す感覚でコロコロと口内で転がし、時には端麗な顔に男根を密着させながら、睾丸から竿、そして亀頭に至る一本筋を舐め上げる。
 だけど、一番興奮したのはキキーモラが私の男根を口に咥えた時だ。口を窄め、無我夢中でジュルジュルと卑猥な音を立てながら男根を根元まで吸いまくる。まるでひょっとこだ。その時の顔は美人とは言い難い、寧ろ端麗な顔が崩れて下品にしか見えないが、それを見られるのは自分だけと思うと、まるで自分にのみ与えられた特権のように感じて優越感に満たされる。

 そして彼女の口の動きにスパートが掛かり、腰が浮付くような感覚を覚える。絶頂の兆しだ。

「キキーモラ! もう……出る!」

 それは射精するから離れろと言う意味で宣言したのだが、彼女は何を思ったのか、男根を喉奥まで一気に咥え込んだ。一瞬射精するのを我慢しようか迷ったが、既に絶頂の波は目の前にまで押し寄せており、今更止める事は不可能だった。
 結果、私はそのまま彼女の口の中に生臭い精液を放出してしまった。睾丸で作られた精子を一つ残らず出そうと男根全体が脈動し、尿道から絞り出た最後の一滴まで、彼女の口の中に注がれる。
 キキーモラは私の精液を口に受けながらも、嫌な顔をするどころか、味わうようにコクコクと喉を鳴らして飲んでいく。やがて精液を全て出し切ると、キキーモラは咥えていた男根から口を離し、私に向かって大きく口を開けた。

「だんにゃしゃまの……とってもおいひいですぅ♥」

 ゼリーと液体の間ぐらいの白濁色の精液が口内にたっぷりと入っており、彼女が喋る度に微動に震えるのが分かる。また余程激しく男根にしゃぶり付いたからか、口の端には私の陰毛が数本付いている。
 あの清楚なキキーモラが、私の精液を口に貯えながら話すという卑猥な光景に私は息を飲んだ。彼女が汚れた姿は、まるで禁忌を犯しているような背徳感がある一方で、情欲のそそるものがあった。
 そしてキキーモラは口に含んだ精液をくちゅくちゅと音を立てながら味見をし、次の瞬間ゴクンッと一息に飲み込んだ。口を開くと、口一杯にあった筈の精液が無くなっており、残っているのは口の端に付いた陰毛だけだ。

 私の精液を何の躊躇いも無く飲み込んだ―――その行為だけで私の性欲は再び燃え上がり、一度精を吐き出して落ち着いたかに見えた男根に再び力が漲る。それを見たキキーモラは目を開かせ、驚きと興奮に満ちた表情で男根を見詰めた。

「凄いですわ、旦那様♥ 三十路と御自分で言っておきながら、全然精力は衰えていらっしゃらないではありませんか♥」
「他でもないキミだからだよ、キキーモラ」
「まぁ、そう言って下さると嬉しいですわ♥」

 嬉しそうに笑うキキーモラを見て、私も釣られて微笑みを浮かべる。目の前の愛しい女性が喜びに満ちていると実感するだけで、自分の幸福度も満たされるものなのかと驚いた。今まで結婚なんてどうでも良いと思っていたが、この幸せを知ってしまうと満更馬鹿に出来ないものだ。

 そして風呂場での前戯が終わると、次は私の寝室に移って本番に突入した。今は二月、まだ冬の面影が根深く残っており、吐く息が白くなる程に底冷えする空気が寝室に漂っていたが、性欲の熱に魘される私達二人からすれば、その程度の寒さなど何の問題も無かった。
 熱の籠った肉体に触れ合い、互いの心臓や脈の鼓動を感じ合う。息が交わる程に密着し、濃厚なキスを交わし合う。秘部や恥部、赤の他人ならば触れるのを躊躇うような所に手を伸ばし、性的興奮を高め合う。

「旦那様、入れて下さいませ……♥」
「うん、入れるよ……」

 仰向けになったキキーモラはM字に足を広げ、私に向かって惜しげも無く自分の秘部を見せ付ける。秘部の上にも尻尾や手首と同じ毛で覆われているが、少し指で退ければ愛液に塗れて厭らしく蠢く彼女の肉壺が丸見えだ。
 キキーモラの両足を己の肩に掛けて密着し易い体制を取り、肉壺の入り口に男根の亀頭を宛がう。そして体重を彼女に預けるように腰を沈め、私の男根を彼女の肉壺へ突き入れる。
 入れる瞬間、愛液が潤滑油代わりとなってスムーズに入ったものの、その後は肉厚な膣がギュウギュウと男根を締め付けてくる。

「くぅ…! キツ…!」
「ふぁぁぁ! ♥ 旦那様の大きい! ♥」

 私の男根を受け入れた途端に乱れる彼女の表情もまた可愛く、私が額や唇に啄ばむようなキスをすると、彼女は私の顔に両手を添えて貪るキスを求めてくる。

「んん! もっと…! もっとキスして下さい! 旦那様ァァァ! ♥」

 愛おしい女性の欲求に断る理由など無く、私は彼女の望み通りに激しいディープキスを送った。キスする傍らで彼女の手は私の首に巻き付き、腰には彼女特有の黄色い鱗で覆われた足が絡んでくる。完全に彼女から離れられなくなった訳だが、これはこれで私にとっても喜ばしい状態だ。

「ふふ、キキーモラは可愛いなぁ。それじゃ、もっと激しくイクよ? 良いね?」
「は、はい!♥ 旦那様の逞しいオチンチンで……キキーモラのマンコを虐めて下さいませぇ!♥」

 その合図と共に私は箍が外れたかのように腰を激しく前後へ動かし、一気に彼女を攻め立てる。挿入した男根をキキーモラの最奥へ突き上げる度に愛液の滑りが増していくが、一方で彼女も私を離すまいと男根を締め付ける膣の圧力を一層強める。
 どちらが気持ち良いかと答えられれば両方だと答えられるだろうが、どちらも気持ち良いが故に私が絶頂へ達するのに然程時間は掛からなかった。

「イクよ、キキーモラ! 君の中に出すよ!」
「出して下さい! 子種を私の子宮に仕込んで下さい! 旦那様ァァァァ!!♥」

 彼女の叫びと愛を一身に受けながら、私はキキーモラの中に精液を放出した。口内に出した時とは異なり、膣を覆う肉襞の感触を敏感な男根で感じながら射精する快感は言葉に言い表せられない程のものだった。
 男根が力強く脈打ちながら最後の一滴まで絞り出し、キキーモラの膣も全体を収縮させながら男根に残った精液を絞り取る。痛みを覚える程に強い締め付けではあったが、彼女の……女としての喜びと充実感を目の当たりにすると、それさえも享受出来てしまう。

 セックスを終えた途端に眠りに入った彼女の額に軽いキスを落とし、私も彼女を抱き締めながら穏やかな眠りに付いた。



 彼女と現実で出会ってから一ヶ月が経過し、彼女との共同生活も慣れて来た。いや、一ヶ月どころか一週間過ぎた時点で彼女の居ない生活は有り得ないと思う様になっていた。何せ掃除に洗濯に料理と家事は勿論のこと、夜の営みまで旺盛なのだから。こんな嫁さんは世界中を探しても彼女しかいないだろう。
 様々な意味で彼女の存在は私の人生に大きな影響を与えてくれた。別の見方をすれば彼女に依存しているとも受け止められるが、お互いに幸せなのだから結果オーライだ。

 そして今日、我が家に新しい家具が届いた。我が家の一員となったキキーモラの為に買った新しいベッドだ。……いや、違うな。正確に言えば私達の為に買った新しいダブルベッドだ。
 前まで私一人が寝ていたベッドでは二人一緒に寝るのは窮屈な上に、セックスをする時も思う存分に出来ない……という事で思い切って奮発したのだ。
 因みにキキーモラにシングルとダブルのどちらが良いかと聞いて、顔を赤くして一緒に寝たいという要望を言ってくれた時は翌朝まで彼女を寝かせられなかったよ。同時に意外と肉食系な自分に驚きを隠せなかった。

 三十路だの何だのと言うが、私の退屈な人生はこれからが本番のようだ。彼女と一緒に二人三脚で人生を歩み、幸福で温かな未来を歩いて行くのだ。

 そして彼女は今日も、明日も、明後日も私に言葉を掛けてくれる。

「愛していますよ、旦那様」

 それに対する私の返事は決まっている――――私もだよ、と。





 そうだ、今回の件に付いて教え子に礼を言っておかないとな。何と言おうと、彼がコレを教えてくれたからに他ならないのだから。
 ………ああ、もしもし? 私だよ、久し振りだね。いや、大した用じゃないよ。ちょっとお礼を言いたくてね。
 ……うん、何のお礼か覚えていないかな? 私に魔物アプリってヤツを教えてくれたじゃないか。

 ………えっ? そんな物は知らない? おいおい、何を言っているんだ? 態々資料まで持って来てくれた上に、アプリに付いて教えてくれたじゃないか?
 ……それは何時の時かだって? 確かアプリを教えてくれたのは去年の一月半ば頃だったかな。


 ………その時は学校の卒業論文に忙殺されて実家に閉じ籠もっていただって? 本当に?


 でも……あ、いや、やっぱり私の勘違いだったかもしれない。もしかしたら君に似た赤の他人だったのかも。……ハハハ、ごめんね。うん、そっちも仕事頑張れよ。
 去年の一月に卒業論文だって? じゃあ、去年の三月に彼は大学を卒業していたって事だよね? そして遠い地方の企業に就職した……。


 じゃあ、一ヶ月に僕の前にやって来た“教え子”は一体誰なんだ?
15/02/08 22:41更新 / ババ
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■作者メッセージ
 魔物アプリ D計画

 今現在、魔物アプリは着実に人間社会に浸透しつつある。また魔物アプリをダウンロードした人間男性の六割近くは既に魔物娘達と結ばれており、彼女達は愛しい男性達と順風万端な日々を過ごしている。今後スマホが復旧していけば、我々の魔物アプリの増大も夢ではない。
 しかし、同時に問題もある。我々が出会える人間はスマホを有し、尚且つ魔物アプリをダウンロードした人間のみだ。スマホを有しながらアプリに興味を持たない人間も、この世界には少なからず存在する。
 幾らインターネットや社会に流れる噂を操作して魔物アプリの存在を匂わせても、そういった者達の前では効果は薄いだろう。

 そこで販売強化部門からD計画を発案する。D計画とはドッペルゲンガーによる直接的な魔物アプリの勧誘である。親しい友人や上司、家族の一員に扮したドッペルゲンガーが魔物アプリの存在を知らない人間に接近し、さり気無く魔物アプリを紹介するというものだ。
 噂や伝聞といった情報のみを利用・操作した当初の販売方法に比べれば確実性が高く、魔物アプリをダウンロードする人間は飛躍的に上昇すると見込まれる。

 本計画の目的は魔物アプリのダウンロード数を増加させるだけではなく、アプリに興味を抱かぬ人間達を開拓し、更なる出会いと発展に繋げるというものである。

 販売員となるドッペルゲンガーは自分達の存在を人間達に知られぬよう、細心の注意を払うこと。万が一に素性が人間に知られた場合はサバトが対処するまで謹慎処分とする。

 今後、魔物アプリに関する報告はサバトにあるバフォメットラボを通じて発表する。

 販売強化部長 形部狸


今回の魔物アプリ『屋根裏のハウスキーパー』を考えて下さったドリルモール様、有難うございます!

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