読切小説
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風邪と貴方とオレと熱
吹き付ける風は温かく、花びらを乗せて吹き付ける。差し込む日差しは柔らかく、照らされた肌は熱を帯びていく。縁側に転がれば心地よい日和の下で瞼も自然と重くなる、そんな春の最中の事だった。

「風邪だな」
「…ですか」

こんなにも温かな陽気だというのに体を震わせ厚着をしたオレこと黒崎ゆうたは目の前で座るカラス天狗の先輩の言葉にため息をついた。

「異常な体温、視線の定まらない目、ふらつく足取りに普段と違う声。咳はないものの…これでは医者に診せるまでもないな」
「…………ですか」
「大方季節の変わり目で気を緩めたとかそんなものだろう。流石に風邪では同心として働けるはずもない。しばらく休んでいろ」
「ですが…」
「ですが、なんだ?」

オレの言葉に先輩はぎらりと睨みつけてくる。切れ長の瞳と凛とした雰囲気は剣呑なものとなりこの場にいるたった一人の人間に注がれた。
一切の抵抗を許さない。自分の言葉に従わせ、抑え付けるかのような声に口が閉じる。実際のところ先輩がオレを心配しての事ならおとなしく従うべきなのだが。

「同心は常に危険と隣り合わせだ。お前の場合は相手が相手だし、傷を負うことだってあったはずだ。体調不良の時にこの前みたいなことになれば大怪我どころでは済まないぞ」
「……………ですか」

既に治った頬を翼がなぞる。今は跡すらないがそこは確かに傷があった場所だ。

「ただでさえ同心として働いているんだ。こういう時こそ休まなければ体を壊すぞ」
「…ならせめてお茶でも出しますよ」
「お前私の話聞いていたか」
「先輩、踏んでる」

布団の上で眠るオレの腹部へ足を乗せる先輩。空を飛ぶからか大したことない重みでもこの体調では振り払うことも難しい。
オレに動く意思がないことがわかるとようやく先輩は足を離し目の前に翼を突き付けてきた。

「だが、ゆうた。お前は一人暮らしだ。しかも都合の悪いことにここは人里離れた山頂でもある。そんなところで悪化でもしたら大変だろう?」
「別にその時は先輩に連絡入れますから」
「私とていつも暇ではない。今日もこの後は仕事だ」
「それはそれは、お疲れ様です」
「うむ。でだ。お前も一人では辛かろうと思ってな、人を呼んでおいた。来てくれ」

襖の向こう側へと声を掛けると既に待っていたのか開けられる。そこから出てきたのは一人の女性だった。
雪のように煌めく白銀の長髪を靡かせた青と白の着物を着こんだ彼女。氷のように薄青い肌は明らかに人のそれではない。着物という体の線のわかりにくい服でも隠せない豊満な胸に艶めかしい臀部。人の色ではなくもきめの細かく滑らかな肌。青い瞳は優しげな雰囲気を纏ってオレを見つめている。
その姿には見覚えがあった。

「こゆき…さん?」
「どうもです、ゆうたさん。お体の方は大丈夫ですか?」

同心としての巡回中に何度も顔を合わせた女性。他人以上、友人並みとでも言うべきか、密な関わりはないが浅い付き合いでもない。
勿論先輩のように人ではない妖怪という存在。それも、日本でもおなじみの『雪女』だ。
こゆきさんはオレの傍に正座をすると隣にいた先輩が腰を上げた。

「それでは私は仕事に戻るとしよう。あぁ、ゆうた、変に無茶するんじゃないぞ。その時はこゆきに氷漬けにしてもらうように言っておいたからな」
「んな馬鹿なことする」

頬を撫でる、異常なほどに冷たい風に言葉が止まった。ここは室内で、窓も開いてはいない。しかも今の季節、これほどの冷気はありえない。
視線を隣へと移す。雪女とは思えない温かな笑みを浮かべているのだが袖で隠した口元から白い煙が漂っている。

「いいえ、ゆうたさんが無茶ばかりするなら私も止めますよ。それこそ氷漬けにしてでも」
「……それは流石に勘弁願います」

本気だった。
優しそうな雰囲気からは想像でいないほど芯のある強い意志。清楚ではあるものの自分を貫くその姿勢…これがジパングの淑女というやつか。

「ゆうたさん、ご飯はどうしました?」
「食べましたよ。ちゃんと」

戸棚の奥にしまっておいた饅頭を二個ほど、それから井戸水を大量に。元龍神の神社というだけあって水には困らない。ただ、糖分は風邪を悪化させると聞いたが何も食べないよりかはいいだろう。
すると呆れた顔をして先輩がオレを見下ろしてきた。

「それは私がやった饅頭か?」
「……………よくお分かりで。先輩が一昨日くれたものですよ」
「本当にお前はどこまでも呆れた男だ。こゆき、後は頼むぞ。」
「はい、精一杯看病させてもらいますからね、ゆうたさん」

言うことだけ言って先輩は襖を閉じて出て行ってしまった。そして残されたのはオレと、こゆきさんの二人だけである。

「それじゃあまずは…ちゃんとしたご飯作りますから食べてくださいね」
「いえ、でも饅頭食べましたし」
「もう、そんなことでは栄養も偏っちゃいますよ。ちゃんとお粥作りますから」

そう言うとこゆきさんはオレの布団を掴んで直す。僅かに肌に触れた冷たい肌に体を震わせるのだが覗きこんでくる青い瞳に逃げるように視線を逸らした。
風邪をひいたとはいえ一人の高校男児、美人の顔が目の前にあっては照れてしまうのも仕方ない。

「うふふ、それじゃあ待ててくださいね」

とんっと額を指で突くとこゆきさんは立ち上がり部屋から出ていくのだった。









「作ってきましたよ。ゆうたさん起きれますか?」
「はい…」

気怠い体を起こして近くに置いた上着を羽織る。若干ふらつくのを堪えていると肩に柔らかな手が添えられた。

「あっ…」
「起きるのが辛いなら寝てても大丈夫ですよ」
「いえ…」

肩に触れる冷たい掌。雪女ゆえの低体温は火照った体から熱を奪っていく。決して嫌な冷たさではない、互いの体温が溶け合っていくような優しいものだった。
オレが大丈夫であることを確認するとこゆきさんは傍に置いた椀を見せてくれる。煮詰められたお米に刻んだネギ、さらには白く粘ついた何かが周りに注がれているがなんだろう。

「食べやすく精もつくようにサトイモのとろろを使ってみました」
「…へぇ、サトイモですか」

白く練られたものはサトイモだったか。お粥にサトイモという組み合わせは珍しい。でも消化も悪くないし精のつく食べものなら最適だろう。
だがしかし。
雪女であるこゆきさんが火を扱って平気なわけもなく、その顔は火照ったのか若干赤く染まり汗まで浮かべていた。

「…こゆきさん、大丈夫ですか?」
「これくらいなら大丈夫ですよ」

にこりと笑う顔に一筋の汗が流れた。
なんだか申し訳ない気分がする。看病をしてもらうのに無理させているという事実に。
だが、それだけ苦労して作ってくれたのなら食べずにはいられない。

「それじゃあゆうたさん。はい、あーん」
「…えっ?」

匙で掬われた湯気の立つお粥が突き出される。病人相手にならこれ以上ない看病だと思う。まさしく男の思い浮かべる理想の姿。しかもこれだけの美人にされたら言うことなんてない。
だが、相手は知り合いでそれなりに親しさもある。そんな相手からされては照れてしまうし、何より恥ずかしい。正直気まずさも感じてしまう。

「だ、大丈夫ですよ。一人でも食べられますって」
「ダメです。病人なら無理してはいけません」
「でも…」
「…もしかして熱いのが苦手なんですか?」
「…」
「それじゃあ、ふぅー」

熱を冷ますために一息、真冬の風と思えるほどに冷たい息が頬を撫でた。二度三度彼女の息を肌に感じるとようやく匙の上から湯気が消える。

「はい、あーん」
「…あーん」

気恥ずかしさを共に噛み締め飲み込んでいく。噛み砕く必要のない柔らかな米と喉をつるりと抜けていくとろろ。薄い塩気と後から香る風味はおそらく生姜でも入れたのかもしれない。

「美味しいです」
「ふふ、よかった。ゆうたさん、普段から無理ばかりしているのですから休んでくださいね」
「そんな無理なんてしてませんよ」
「嘘」

とんっとこゆきさんの指先が頬をなぞった。雪女の指先は冷たく、火照った体から熱を奪っていく。

「ここに傷あったじゃないですか。隠しても駄目ですよ」
「…」

指先がなぞったところには先輩も言っていたかつての傷があったところだ。
まだ同心として数週間の事。ある呉服店での泥棒を相手にした時だ。盗まれたものは取り返せたが刀傷を貰ってしまった。鋭い切り口故に傷跡は残らなかったが、その顔でしばらく巡回をしてもいた。
見られて当然、覚えられて当たり前のことだろう。

「ゆうたさんは頑張りすぎなんですよ。体を張って、危険なこともして…そんなことではいつか体を壊して取り返しのつかないことになってしまいます。だから、今だけは休んでください。せめて私が看病している間だけでも」
「っ」

強い意志のこもった瞳。固く握られた手の平。伝わってくる雪女の低い体温。冷たく、だけども火照った体に心地いいそれはなぜだがとても温かく感じられる。
そしてどこか、懐かしくもある。

「…………そうですね。それじゃあお願いします」

握るこゆきさんの手に自分の手を重ね、オレは彼女にそう言うのだった。










「着替え、持ってきましたよ」

しばらく寝転んでいると障子をあけて入ってきたこゆきさん。手にしているのは予備の黒い浴衣と桶だった。片腕には手拭いも掛かっている。

「生姜をいれたから汗をかいたかもしれませんし、ついでに体も拭いちゃいましょう。起きれますか?」
「はい…」

食事をしたからか気分もよくなる…はずなのだが少しばかり寒気を覚える。そこまで悪いものではないが、胸の内がもやもやして不安になる。気にしないようにと浴衣の帯を緩めた。

「それじゃあ拭いちゃいますね」
「お願いします」

水の滴る音を背中に聞きながら浴衣を脱ぐ。寒さも十分和らいだこの季節なら脱いだところで特に問題でもない。
あるとすれば…美女の前で肌を晒していることぐらいだろう。知り合いとはいえ流石に恥ずかしくない訳じゃない。

「ひっ」
「あ、ごめんなさい」

突然触れた冷たく濡れた布と、同じくらいに冷たい肌のこゆきさん。風邪を患った体を突き刺すように熱を奪っていく。

「大丈夫ですから、続けてください」
「それでは…しますから、辛かったら言ってくださいね」

そう言って手拭いが背中を撫でていく。あくまで汗を拭うものであってそれ以外の意味はない行為。だけどもそれに伴う感覚は耐えがたい。
熱を奪っていく手拭いと、柔らかくも冷たくあるこゆきさんの手。視線が背中に突き刺さり時折吐き出される息が首筋や頬まで擽ってきた。

「っ……」

ぞくりとする。
熱っぽく吐き出した息であってもそれすら冷たい雪女。吹き付けられた首筋から過敏に伝わる感触に体が震える。
決して不快ではない、妖しい感触。まるで熱を求める貪欲さを漂わせる手つき。だが、される相手はこゆきさん。病人相手にそんなこと考える女性とは思えない。
下腹部にはどろどろとした欲求が溜まりかけていた。だからと言って体力のない状態ではすぐに昂ぶりに結びつかない。
気のせい、そんな言葉で片付けてオレは傍に置かれた着替え用の浴衣をとる。自分で着られるのだがそれでもこゆきさんが手伝って、そうして落ち着くと彼女は立ち上がった。

「それじゃあ寝ててくださいね。すぐ戻ってきますから」
「ん、はい…」

音を立てずに外へと向かう後ろ姿を見てオレは布団に横になる。
料理は上手だし、気立てもよくて何よりも美人。年上である分頼れるし、甘えさせてくれそう。人ではないことなどどうでもいいと思えるほどにできた女性だ。
結婚するならこういう女性がいいんだろうな。

「…」

熱の出た頭でふとそんなことを考えてしまう。
何考えているんだろう、オレは。
一人暮らしの環境で随分と精神的に弱っていたか。風邪をひいたこともその一因だろうか。

「…はぁ」

自分の状況にため息をつきながら横になる。すると頭に浮かんでくるのはせわしなく動くこゆきさんの姿だ。
体の線の出にくい和服姿だからこそ、わずかに浮き出た臀部の盛り上がりや無防備に晒されたうなじからむせ返るような女の色気を感じてしまう。過度な露出をするよりもずっと強烈でくらくらする。
柔らかに弧を描く唇も、優しげに細められた瞳も、滑らかな頬も部屋の明かりで照る白銀の髪も男を刺激する魅力的なものばかり。
青い肌で雪女であることなどどうでもいい。むしろ、人外だからこそ異常な美しさも納得してしまう。

「…」

って、また何を考えているんだろう、オレは。
風邪を患わっているというのにどうしてこうも節操なく考えてしまうのだろう。男の浅はかさってこういうものを言うのだろうか。
とにかく眠るべきだ。
頭の中に浮かんだ余計な考えをかき消すように枕に顔を押し付ける。それでもしばらく悶悶として寝つけないのであった。










気付けば日の光は完全に消え夜の帳がおりる頃。
うつらうつらとする意識。気怠い体に力が入らなくなる、眠りに落ちる寸前のこと。揺れる視界は今にも途切れそうなのに何かが引っかかって邪魔をする。

眠れない…。

それは決して寝すぎたからではない。体ではなく精神的な方の問題だ。

ぞわぞわする……。

心の内を引っ掻かれるような、吐き気にも似た感情が湧きだしてくる。振り払うにもぼやけた意識では難しく、むしろそんな状態だからこそますます酷さを増していく。

一人でいることが嫌になる………。

「…っ……ぁっ」

孤独でいることが耐えきれなくなる…………。

普段はそんなことないはずなのにどうして今はこれほどまでに不安になっているのだろうか。まるで悪夢にうなされるかのように言葉にできない不愉快な感情が湧きだしてくる。抑え込もうにもただ身を捩るしかできず声すら出せない。呼吸が乱れ額に汗が浮かぶ。投げ出した手を固く握りしめたその時、青白い指先が添えられた。

「ゆうたさん、大丈夫ですか」
「こゆき、さん…」

何時の間に来ていたのかわからない。見上げれば心配そうにこちらを覗き込むこゆきさんの顔があった。
掌から力が抜け彼女の指先と絡めあう。冷たく優しい感触が今は何よりも恋しかった。

「大丈夫ですよ、私が傍に居てあげますからね」

幼子に言い聞かせるように優しく囁かれる言葉に何かが満ちていく。筆舌しがたい不快な感情が徐々に掻き消え、落ち着いていく。
だけど、足りない。
この程度の接触ではまだ足りない。

「もっと…」

ふと零したその声にこゆきさんは無言で笑みを浮かべた。
慈愛に溢れたその笑みでこゆきさんはおずおずと布団の中へと潜り込んでくる。本当なら拒むべきことだというのに今は、今だけは彼女の温もりが何よりも欲しかった。

「もう少し、傍に……」
「…はい♪」

二本の腕が背へと回され、柔らかな体が押し付けられた。
和服と違って固さのない薄い生地。おそらく寝巻用の浴衣だと思われる布越しに感じるこゆきさんの柔らかさに暴れていた感情が落ち着いていく。

「んん…」

柔らかな膨らみが心地よく、顔を埋めて息を吸う。花ではなく、甘味ともまた違う甘い匂いが頭の中を蕩けさせる。だというのに、火照った体から熱を奪う冷たさが朦朧とした意識をはっきりとさせてくる。

「ぁっ♪ゆうたさんたら…♪」

耳に届くこゆきさんの声。どことなく嬉しそうで嫌がる素振りは全くない。だから、オレはただただ温もりを求めてさらに体を寄せていく。
足が絡められた。
浴衣からはみ出していたせいで肌と肌が触れ合い、互いの間で体温が溶けていく。
でも、足りない。
もっと、欲しい。
そう思ったのはオレなのか、それともこゆきさんだったのか。
冷たい体が覆いかぶさる。体の熱を奪い、お互いの間で溶け合っていく。男性には出せない柔らかさが心地よく、思わず瞼を閉じかける。
温もり、というとおかしな話かもしれない。
雪女であるこゆきさんの体は冷たい。人肌と比べるとかなり体温は低いだろう。触れ合えば確実に熱を奪わる程に。
それでも彼女と体を触れ合わせることは筆舌しがたい安心感を生んでいた。一人でいたことの反動か、この状況で唯一頼れる相手だからか、本能が母性に甘えているからだろうか。

「こゆきさん」
「はい♪」

名前を呼ぶ。それだけでも彼女は嬉しそうに微笑み、その手の平をオレの頭に添えてきた。
寝癖のついた黒髪を整えるように撫でていく。
押し付けれた乳房が柔らかく形を変え、固さを持った先端部が擦れあう。熱を奪う感触だからこそ、肌に敏感に伝わり蕩けた頭を甘い快感となって突き刺した。

「はぁ、あ♪ゆうたさんのお体、とても熱い…っ♪」

だがこゆきさんにも同じことらしく、雪女の肌に人間の体温は高いのだろう。うっとりと熱に浮かされたような表情を浮かべている。
普段清楚に笑う姿は可憐だが今目の前にいるのは女の姿をしたこゆきさんだ。その上伝わってくる感触が否が応でも異性であることを意識させてくる。こんなところで抱くべきではない不純な気持ちをふつふつと募らせていく。

「………ぁっ♪」

これだけ近ければ気づかないはずがなく、こゆきさんは一瞬驚いたように顔を赤くした。

「男の子、ですもんね♪」
「…すいません」

本来恥じるべきことだが蕩けた頭じゃまともな判断すらできない。
それ以上にこの温もりを離すことなどできそうになく、オレは二本の腕にさらに力を込めていた。

「ふふ♪もっと甘えていいんですからね」

目の前にあるこゆきさんの顔。揺れる白銀髪に優しく見える垂れ目気味の青い瞳。青白くも滑らかな肌は染みも傷も一切なく朱に染まっていた。日本人によく似ているがこれほどまで美しいと思える女性はそういないだろう。

「ゆうたさん♪」

小さく紡がれたオレの名前は冷たい息を共に耳に届く。彼女が吐いた息を吸う、それほどまでに近い位置でこゆきさんは優しく、そして妖しく微笑んでいる。


――キスしたい。


ぼやけた頭でそんなことを考えてしまった。
普段なら理性ですぐさま掻き消える。だが、風邪で不安になったせいかこれ以上の触れ合いを求めてる。もっと重なり合いたいと欲してる。
拒む理由は一切なく、求める感情は抑えが利かなかった。

「っ」
「んっ…む♪」

僅かに顔を寄せ、その唇へと押し付ける。とたんに伝わる冷たさとそれ以上の柔らかさ。その行為にこゆきさんは拒むことなく受け入れた。むしろ、積極的に唇を重ね合わせてくる。

「ん、ちゅ……んむ」

僅かに開いた唇から流れ込んでくる冷たい唾液が喉を伝って落ちていく。蜜のように甘く、だけども水のように滑らかなそれをもっと欲しがり自ら舌を差し入れた。

「んんっ♪ちゅ…ふ、むぅ、ん…ん」

肌よりも冷たい舌先が嬉々として絡みつく。表面を擦り合わせるように蠢くとにちゃにちゃといやらしい音が頭の中まで響いてきた。

「っぅん!」

唾液の一滴に心が乱れ。
舌の動きに精神が掻きまわされ。
肺を満たす冷たい吐息が胸の奥から感情を引き出していく。

「こゆきさん…っ!」

繋がりが欲しい。
重なりが欲しい。
他人の感触を何よりも渇望して。
自分ではない存在をこれ以上ないほど求めてる。

「あ……その、もっと………していいですか?」
「はい♪もっとしましょうね♪」

流れる白銀髪を耳にかけゆっくりと唇を離してこゆきさんはそう言った。
妖しい声で囁くと浴衣の隙間から冷たい掌が差し込まれた。びくりと体を震わすがこゆきさんは構わず手を動かす。気付けば帯を解かれ浴衣が大きく肌蹴られていた。露わになった肌の上に冷たいこゆきさんの体が押し付けられる。
薄手の布の感触ではない、柔らかな女体の感触は冷たいからこそ鋭利に突き刺さってくる。
体を擦りつけるように乳房が形を変え、掌が肌をなぞり太腿が足を挟み込む。冷たい舌が唇を舐って甘い吐息を漏らしていた。

「ん、あったかくて…あぁ♪」

冷たい体と熱い体温が互いの間で溶け合っていく。太腿に擦りつけられる感触は柔らかく、それでいて冷たく湿っていた。そこへ指を這わせるとこゆきさんは甘い声を上げて体を震わせる。布団の中から出せば指先がいやらしく濡れていた。

「…濡れてますね」
「や、ぁ…そんなに見ないてください…っ」

こゆきさんは恥ずかしそうに視線を逸らす。そんな乙女な姿がかすかな理性を引き剥がしにかかってくる。本能だけになったとしてもこの状態では襲うことすらできないのだけど。

「私だって女なんですから…ね?ゆうたさんにそんなふうに求められては…仕方ないじゃないですか♪それに………」

体にかかる重みが増した。途端にある部分が彼女の肌に食い込んでいく。
見ることはできずともこの位置では気づかれて当然だろう。既に硬く張りつめたオレのものはこゆきさんの腹部に押し当てられていた。柔らかな下腹部と滑らかな肌に擦れる感触は微弱ながらも気持ちがいい。

「っぁ……」
「ゆうたさんも…とっても熱くなってますよ?私の体で興奮してくれたんですね♪」

否定しようのない言葉に素直に頷く。ただそれだけでもこゆきさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
焦らすことも慌てることもなくその柔らかな部分へとオレのものを押し付ける。指先に感じたぬめりと冷たさが伝わり肌を濡らしていく。決して熱いとは思えないが凍りつくほど冷たくもない。

「いれちゃいますから…♪」

恥ずかしそうに微笑むとこゆきさんはオレの胸板に手を置いた。冷たい掌は火照ったか体から熱を奪い、軟からな感触を染み込ませてくる。

「辛かったら言ってくださいね?」
「は、い…っ」

負担を掛けないように両足に体重を乗せ、徐々に腰を下ろしていく。冷たくも柔らかな肉がぬめり気を帯びた粘液で割り開かれる感触は筆舌にしがたいものだった。
あまりの冷たさに感覚が麻痺する、なんてことは決してない。むしろその逆で冷たいからこそ人肌が敏感に伝えてくる。
左右に腰を振りながら、それでもしっかりと銜え込んで徐々にオレのものを飲み込んでいく。柔肉に埋まっていけばいくほど交わり合った隙間から粘液が滴り落ちて行った。

「ん、はあ…♪」

蕩けた声でため息をつき、彼女の腰がぶつかる。とうとう全て飲み込まれオレとこゆきさんは交わり合ってしまった。
初めて感じる女体の感触。蕩けるような温かさ―なんてそこには存在しなかった。
雪女のこゆきさん。その指先どころか髪の毛一本まで冷たく、人肌の熱など持ちはしない。
だが決して不快ではなかった。身を切る様な冷たさではなく肌に染み込んでくる冷たさ。凍えるようなものではなく溶け合う氷のような、オレの熱を奪う強烈なものではない温もりある体温だった。

「あ、ぁぁ……っ♪は、ぁ…ぁ…♪」

きつく、優しく、強く、柔らかく抱きしめる膣内と相まって筆舌しがたい快楽となる。ただでさえ風邪で体温が高い状態では彼女の体温が体へ響いて蕩けるような感覚を生み出していた。

「辛くっ…ない、ですか?」
「はい…っむしろ、気持ちよくて……」
「あ、ぁ………よかったです♪」

掠れた声に反応してこゆきさんは微笑みかけてくる。それだけではなく手を伸ばし、オレの頭を撫でていく。
冷たくも柔らかな掌が頭から、額から熱を吸い取り撫でていく。ぼやけた意識は徐々にはっきりとしてくるが、蕩ける快感が存分に甘やかしてくる。抵抗なんてしたいとも思わない。ただこのままこゆきさんと交わっていたいと思うだけだ。

「それじゃあ、もっと気持ちよくしてあげますから…ね♪」

そう言って彼女はゆっくりと腰を動かし始めた。前後、左右と激しい動きこそないもののもどかしさも抱かない。
冷たい膣内で擦り合う。隙間なく密着した肉壁はきつく締め付け快楽を注ぎ込んできた。優しく包んで甘やかすように蠕動する。動くたびににちゃりと響くいやらしい音が蕩けた頭に交わっている事実を突きつけた。
こゆきさんの与えてくれる快楽は優しく穏やかなものだった。オレに負担をかけないためか激しさのない動きだが埋もれる柔肉の感触や粘液の冷たさが鋭い快楽となって突き刺してくる。

「あ…あぁあっ♪」

頭がぐらつきこゆきさんの体が倒れ込んできた。お互いの腰がいやらしい音を立てて密着し、一番奥まで突き刺さる。

「ひぅっ♪」

目を見開きその感覚にこゆきさんは震えていた。
硬く滾ったオレのものが子宮口を押し上げている。周りの肉壁とはまた違う感触のそれは精液をねだるかのように吸い付いて離れない。

「お、く……までぇ…っ♪ゆうたさんが、いっぱい…です……♪」

倒れ込んで近づいた唇から荒い呼吸と甘い声が零れていた。目の前にあるのは快楽に蕩けたこゆきさんの顔。耐えるように呼吸を繰り返すせいで冷たい吐息が頬に吹きかけられる。
肺を満たす冷たい吐息と交わり合う男女の部分。耳に届く嬌声に伝わってくる確かな鼓動。快楽だけではない、こゆきさんの全てが落ち着きを生み、心を底から満たしていく。

「すごい、です…っ」
「うふ♪それ…なら、もっと気持ちよく、なって下さいっ……ぁあっ♪」

繋がっているという事実。
交わっているという現実。
温もり溢れた冷たい体温。
愛おしげに触れる手の平。
まるで隙間に入り込んだ冷風から守るように安らぎが募っていく。
男にはない、女性としてのあるべき姿。崩れ落ちそうな今を支えようと嫌がることなく、むしろ嬉々として肌を重ねている。何よりも頼りがいがあり、だからこそもっと甘えたくなる姿だ。
そっと手を伸ばして頬にかかった白銀髪を掻き上げ頬を撫でた。興奮で朱に染まってもいまだ冷たい肌だが柔らかい。熱を残すようになぞるとこゆきさんが顔を寄せ、オレの額に口づけた。

「こ…ゆき、さん…?」
「はい…♪」

舌足らずな声で呼ぶと優しい笑みで返される。穏やかな瞳にオレの顔を映しだしながら。

綺麗。

人が作った氷像のように整った顔立ちだが彼女はちゃんと生きている。人外であるが一人の女として。
だから欲しいと思ったわけではない。
美しければ誰でもいい、そんな単調な頭ではない。

ただ、欲しい。

独占欲とはまた違う、ただ傍に居て欲しいという切なる願い。快楽ではない、心を埋めるための温もりが。

誰よりも、こゆきさんだけに与えられたい。

「…もっと……して、ください…っ」

求める感情が声に乗り彼女の耳へと届いてく。意志を伝えるには足りない言葉だったが察してくれたこゆきさんは優しく微笑みオレの手を握りしめた。

「はい♪」

細い指を絡めて手と手を握り合いながらこゆきさんはその体を見せつけるようにゆっくりと離れていく。布団に隠れていた青く滑らかな肌は部屋の明かりで艶やかに照らされていた。
ぎこちなさを感じる動きにつれてたゆんたゆんと青い胸が揺れる。大きいだけではなく形も良い膨らみが腰の動きと共にいやらしく動いていた。

「どう、ですか?上手く、できて…ますか…っ?」
「はいっ……」

冷たい愛液を絡めながら柔らかな肉壁に擦りあげられるのは形容しがたい快楽を生んだ。不快に思えることなど何もない、むしろ敏感にされた神経に突き刺さってくる。
粘質な水音を響かせてこゆきさんは腰を動かし続ける。結合部からはとめどなく溢れ出し太ももを伝い落ちていく。色香のある匂い、むせ返るような雌の香りが広がった。
徐々に激しさを増す行為で熱が生まれ、肌で溶け合い交わっていく。それでもオレの体の熱を冷ますことなどできず肌には汗が滲み、彼女の肌を朱に染める熱気へと変わる。

「ぁ、んんっ♪…ん、ん…ぅ、ああっ♪」

押し殺しきれない嬌声が上から降り注いでくる。
支えきれなくなったのかこゆきさんは体を倒してきた。さらに寄ったことで互いの体が密着する。体勢を変えたことで膣圧もまた変わり、こゆきさんもまた感じる快感が変わったのか唇の端から唾液が滴った。

「ゆうた、さんっ♪」

オレの名前を叫びながらこゆきさんは胸を強く押し付けた。鼻先が触れ合うほどの位置では互いの瞳の中には互いの顔が映っている。
熱に、快感に蕩けたこゆきさんの顔。
オレに尽くそうとしながらも快楽に乱れた女の顔。
それが美しく、そして愛おしくて思わず唇を押し付けた。

「んっ♪んん…む、ぁん♪」

冷たい舌と絡み合い、互いの体が密着する。くぐもった嬌声をあげながらも擦れる舌を離すことなく、冷たい唾液を飲み干した。
柔らかな舌は絡み合いざらついた表面を擦り合わせる。しかし、それでは止まらずにこゆきさんの舌は徐々に激しさを増すと口内を暴れるように蠢いた。音を立てて啜り上げ息をつく暇すら惜しいと言わんばかりに押し付けられる。それは清楚な姿からは予想できない熱烈な口づけだった。

「んっふ…ちゅっ♪ぁんん……っ♪あ…ぁあっ♪だめ…っ♪だ、めですっ♪気持ちよくて、もう…っ♪」

一際強く腰が押し付けられると突然離れた唇が切羽詰まった声で叫んだ。
猶予はもうない。それはオレにも、こゆきさんにも。
腰に広がる甘い痺れに下腹部から熱が徐々にせり上がっていく。既に我慢できる位置を突き抜けたそれは彼女の一番奥を目指している。
激しさを増していく腰のこゆきさんの動き。奥までつき込むたびに体を震わせ押し付けられた胸が震える。快楽に乱れる姿を隠す余裕すらない彼女はオレの熱を、快感を貪りながら絶頂の予感に身を震わせていた。

「ゆうたさ、ぁ、ああああああああああああああっ♪」

先に絶頂を迎えたのはこゆきさんの方だった。覆いかぶさったままで体を大きく震わせる。今まで溜まっていた快感が爆発したかのように叫びながら、繋いだ手を強く握りしめていた。
びくびくと体を震わせながら力尽きたように重みが増す。握った手を離せず体で受け止めると柔らかな乳房がさらに潰れて形を変えた。交わった証である泡立った愛液と汗が弾け布団に染み込んでいった。
荒い呼吸を繰り返す。それでも吐き出す息は冷たく頬を撫でていた。
乱れに乱れた雪女の姿。白髪を揺らしながら快楽に蕩け本能のまま動く姿は淫らだった。

「あぁぁぁ…っ♪きて…きて、くださ、いぃ…っ♪」

絶頂を迎えたことで膣壁が締まる。まるで熱を吸い出すかのように強い締め付けに呼吸が止まり快感が爆発しかける。それでも、一瞬堪えられたのはこゆきさんに見惚れていたからであり、しかし一瞬しかもつことはできないほどに強烈な快感であった。

「こゆきさんっ!」
「で、出ますか?出ちゃうんですか?ん、あっぁあ♪」
「は、い…っ」
「いいですよ、たっぷり…出して、いいですからっ!ああああああああああああああああ♪」

喋っている最中にとうとうせり上がっていたものが爆発し、彼女の中へと精を注ぎ込んでいた。
人の体液なんて雪女にとってはかなりの熱さとなるのだろう。それを敏感な膣内に吐き出されるのは堪ったもんじゃない。その証拠にこゆきさんは精液が脈打ち吐き出される度に体を大きく震わせ言葉にならない悲鳴を上げていた。
だが、その熱を忌避することもなく、むしろ吐き出された精液をもっと求めるように子宮口が吸い付いた。貪るように啜りあげては中に残った一滴までも欲する様に蠢いてくる。
それはこゆきさんの本質なのかもしれない。優しく、気遣いのできる相手でもその奥にあるのは熱を求める貪欲な雪女の在り方なのかもしれない。
脈打ち、吐き出し、熱を注いで染めていく。抑え込もうにも彼女の膣内はそれを許さず、熱に震える腰がなお搾り取ろうと擦りつけられる。子宮口に食い込んでいた先端がさらに埋まり抱きしめられ、絡みつく柔肉が、粘っこい愛液が、熱を奪う代わりにと快楽を送り込んでくる。

「あぁぁ……は、ぁぁ……お腹、あつぃ……♪」

ようやく絶頂が引き、体の震えも徐々に収まりを見せてきた。体は汗が滲み全力で運動をしたように息が乱れている。額に張り付いた髪の毛が若干鬱陶しい。
視線をあげればオレの上に倒れ込んだこゆきさんの顔が見える。目は閉じているが口元は笑みを浮かべ嬉しそうにしていた。彼女もまた汗を浮かばせ、互いの肌の間で混ざり合っている。

「辛くなかったですか?」
「え、え…なんとか…」

本当ならばこんな激しい運動は病人にさせることではない。有り余る体力も今は心もとなく、汗をかいたが悪化する危険もある。

「その…ただ……」



だが、一度体感してしまった快楽を拒めるほど強靭な精神はしていない。



オレのものは未だにこゆきさんの中で固さを保っていた。おぼろげな意識だというのに湧きだす欲望はハッキリしている。病人の癖にまだまだ湧きだした欲望が尽きると思えないほどに。
風邪をひいていようが華の十代。体調よりも欲望が勝るお年頃。一度知ってしまった快楽は手放すにはあまりにも甘美すぎた。


何よりも、まだ足りていない。


この冷たい温もりが。
この柔らかな感触が。
傍に居てくれるという落ち着きが。
快楽を通じて満たされた安心が。

「…あっ♪」

こゆきさんの体に腕をまわし、柔らかな胸の谷間に顔を埋めた。短い声を上げた彼女はどことなく嬉しそうで、幼子をあやす様にゆっくりと撫でていく。懐かしさを覚える感触に切なさが湧き上がってくるがこゆきさんという温もりがそれ以上の安心をもたらしてくれた。



だから、もっと欲しい。



「…はい、いいですよ♪」

その意図を察してくれたのか彼女はオレの頭に腕を回し、抱き返してくれる。上げた顔に口づけを落としながら柔らかく微笑んでくれる。
そして、オレとこゆきさんは再び溶け合うように交わっていくのだった。














そして、次の日の事。
昨日あれだけの汗をかいたせいか体は軽く、気分もまた良好。眩暈も吐き気も咳もない。治った、と言い切れるかはわからないが少なくとももう休む必要はない、そこまで体調が回復した昼の事だった。

「…あの、こゆきさん?」
「はい、あーんしてください、ゆうたさん♪」

お粥を掬った匙―ではなく、箸でつまんだサトイモの煮っ転がしを突き出してくるこゆきさん。
病人食には適しているだろうがオレ自身もうすでに病人ではない。ぶり返す心配はあるがもう看病の必要はない。そう、ないはずなんだ。
だというのにこゆきさんはオレを布団の上から出さないようにと傍に居座り、あまつさえ朝に続けて食事の面倒まで見てくれる。

「ダメですよ。ひきはじめと治りかけが一番危ないんですから。ぶり返したりしたら大変です」
「いえ、でもそれくらいなら一人で十分で」
「はい、あーん」

多少強引にサトイモを突っ込まれた。砂糖加減が絶妙で実に好み、なのだけど…。
一時の風邪だとしても治ってしまえばあとは自分でどうでもできる。元々鍛えているのだし、体力もある方だ。回復すればこちらものも。
だがこゆきさんはどうしてもオレの手に食器や箸を、それどころか布団から出してくれもしない。試しに畳の上に手をつけば掴まれ、布団の上へと戻されてしまう。無理やり出ようとすると畳の一部が氷漬けにされた。
時折忘れるが、それぐらいの事が出来るのが雪女。あれだけ熱い行為をしたが本気を出したらオレなんて一瞬で氷像にもできるんだろう。

「もうっ、我儘な人なんですから」
「いや我儘ではなくて――んむぅっ!?」

突き出されたサトイモをなぜだかこゆきさんが食べてしまう。かと思えば突然唇を押し付けられた。
口内から渡されるサトイモをどうすることもできず飲み込んでしまう。しかし、それで終わらず彼女の舌がねっとりと、昨夜以上に執拗に口内を行き来する。冷たい唾液を滴らせても構うことなく、むしろそんなこと気づく暇すらないように吸い付き、口内を執拗に舐ってくる。
冷たい唇と舌での熱烈な口づけに頭の中がぼやけてくる。献身的な振る舞いからは想像できないほど情熱的でいやらしい舌の動きに翻弄され呼吸する暇も忘れてしまう。sのせいで視界に靄がかかってきた。

「んっ♪」
「…はっぁ……」

ようやく解放されて大きく息を吐き出した。あまりにも突然の事と呼吸を止めていたせいで頭がくらくらする。何とか支えようと手をつくがその手が払われ布団の上にゆっくりと倒された。

「ダメですよ、ちゃんと寝ましょうね」
「ぁ」

柔らかな笑みを見せてくれるこゆきさんだがその頬は朱に染まっている。先ほどの口づけで興奮したのか掌がするりと浴衣の中へと差し込まれた。

「あら、こちらからすごい熱が」
「そっちは…っ」
「いけませんよ。ちゃんと熱は冷まさないと…♪」

雪女故に人間の体温と比べるとやはり冷たい。それが触れているのは既に熱を帯び、固くなってしまった己のもの。先ほどの口づけと、華の十代ということもあるのだろう。一度の経験が我慢の箍を外してしまったらしい。

「私が冷ましてあげますから……」

そして、箍が外れたのはオレだけではなく彼女の方も同じらしい。たった一度の交合は知り合いという関係を容易く崩し、さらに深くて密な関係を築き上げた。

「いーっぱい甘えてくださいね♪」

胸を顔に押し付けられ後頭部へと腕が回される。浴衣が乱れ、露わになった肌が重なり合い溶け合っていく。温もりのある冷たい体温と落ち着きをくれる優しい柔らかさの中でオレは葛藤を捨てて抱きしめた。

「……はい」
「うふふ♪」

本当なら抗わないといけないと思ってるのに体がそれを拒否してる。昨日の快楽がもっと欲しいからではない。もっと体の奥深く、胸の奥をきつく締め付けるこの感情はいったいなんなのか。

ただ無性に彼女に触れていたい。

湧き上がる感情を抑え込むことはできず、オレはこゆきさんの首筋へと顔を埋める。優しく降り注ぐ声は子守唄のように穏やかで、されるがまま布団へと倒れ込む。触れ合った肌の間で熱が溶け合い互っていくのを感じながらオレは瞼を閉じるのだった。



                       ―HAPPY END―
15/06/07 21:18更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ

ということでジパング編雪女のお話でした
同心として働き、風邪をひいた彼でしたが看病してくれたこゆきさんにちゃっかり「氷の吐息」くらっちゃってます。抜け目ない女性なんですねw

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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