読切小説
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だから、あれ程執筆前にゲームをやるなと
「うわー まもの の しゅうげき だ。 もう だめだー。」
「きちまったもの は しょーがねーなー。」
「しょーがねーよ。んじゃ エロくなるかー。」
「うわーん まってよぉー。」 

ドット絵時代のRPGのモブキャラたちを思わせる棒読みのセリフを残して、王城の兵たちは最初から諦めていたかのように、超無抵抗で城を捨てて逃げ惑う。
しかも国が魔界に侵食されていっているというのに、まるでアドンとサムソンのような超兄貴的素敵スマイルで、自ら鎧や服をパージすると、生まれたままの姿で魔物娘たちの群れに突撃しているのであった。
身体の一部はまるで新兵のように臨戦態勢なのは言うまでもない。
そんな兵士たちに
「え、あ、あの……い、いいの?」
と、逆に魔物娘たちの方が戸惑い、気を使っている始末である。

阿鼻叫喚、もとい酒池肉林満ちるレスカティエ教国。

はっきり言って初心者だらけの草野球チーム並みにザル以下の守備を突破し、軍団を率いる高貴なる淫魔は、レスカティエ王家最後の一人となったフランツィスカ=ミステル=レスカティエを守らんとする一派が立て籠もる王女の間へ、レスカティエ教国陥落の最後の仕上げのため、部下であるサキュバスたちを引き連れて暗い廊下を闊歩していた。
もちろん王女をエロくするためである。
「公式では飛んで窓から入るようなんだけどね。」
「デルエラ様、誰に言っているんですか?」
高貴なる淫魔は、名を『デルエラ』という魔王第四王女である。
魔王第四王女という肩書きは伊達ではなく、その肩書きに相応しい強大な魔力を持ち、強力無比な軍団を率いて、このレスカティエ教国も瞬く間に侵略してしまった現時点でのラスボスと言っても良い存在である。
「デルエラ様、各ブロックの制圧は完了致しました!」
「御苦労様。……ほら、9割9分9厘制圧したからってここはまだ戦場よ。御褒美は最後のメインディッシュを堕としてから……ね?」
了解しました、と目を輝かせるのはワーウルフ。
御褒美というのは、無論デルエラが彼女に魔力を注いでやることなのだが、このSSではそこまで厳密な描写をする気がないので、ぶっちゃけて彼女への御褒美が漫画チックな骨であっても何の問題もない。
「では伝令をお願い。各々好きに相手を見付けて楽しんで、と。」
「了解ですわお〜ん!!」
忠犬ハチ公よろしく、ワーウルフは伝令を携えて駆け抜けていく。
もはや戦局は何があろうと動くことない。
魔物娘たちによる凌辱の宴が繰り広げられるのは間違いないだろう。
ケダモノ的な意味で。

びゅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

その時、突如屋内だというのに激しいつむじ風が吹き荒れた。
「うわ、目にホコリが!?」
「一応王城なんだから掃除ぐらいしとけって…ぺっぺっぺ口に入った!?」
「何なの!?何なのよ、この突風はぁ!?」
「う、うろたえるんじゃあないッ!魔界軍人はうろたえないッ!!」
サキュバスたちがつむじ風に舞い上がったホコリで狼狽している中、一人デルエラだけは主役としてのプライドに賭けて、何とか冷静さを保とうと努めていたのであった。
(おかしいわ……レスカティエ攻略シナリオってこんなはずじゃ…。)
しかし攻略シナリオとか脳内で浮かべている時点で、本人が思っている程あまり冷静でないのは一目瞭然であり、動揺が顔に出ていないのは彼女の異常に分厚い面の皮のおかげでもある。
(………ナレーション、いつか堕とすわ。)
………な〜んにも聞こえません。

「おいらを呼んだかい?」

物陰からを話の流れを完全無視して僧侶姿の男が現れた。
俗に言う『つむじ風と共に現れたニヒルなあいつ』的な雰囲気を醸し出している僧侶姿の男は、何故かタバコを咥えるような仕草でスルメを噛みながら、両手をズボンのポケットに突っ込んでポーズを決めている。
一見して只者ではない。
別の意味で。
「………どこからツッコミを入れたら良いかしら。」
「こんばんわ、ニーソの素敵なお嬢さんたち。それにしても面白そうなことを企んでいるようですね。フフフフ、私も混ぜてくださいよ。」
「お願い、会話をしてちょうだい。」
人の話を聞かない僧侶姿の男。
デルエラの説得虚しく自分の世界に入り込んで自己陶酔している男は、デルエラの話などこれっぽっちも耳に入らず、まるで邪魔な置物のように、王女の間へ向かう彼女たちを阻んでいる。
「デルエラ様、ここは我らにお任せを。」
「見ればあの男、なかなかの精の持ち主。」
「ふふふ、ここまでプンプン匂ってきやがるぜぇ。」
「我らサキュバスの合体奥義にて見事に堕としてみせましょうぞ。」
デルエラの前に出るサキュバスたち。
デルエラ自身も人間界の制度とは異なっても王族であるために、部下が手柄を立てようとする姿を見守る役目があり、『やってごらんなさい』と一言だけ発して、その場を部下に譲った。
それが悲劇の始まりだとも知らずに。

『合体奥義、快感乱交疾走(エクスタシー・スワッピングドライブ)!!』

ギュオォォォォォォーッ、という効果音を発しながらサキュバスたちが、昭和少年ジャンプのバトル漫画のような雷のエフェクトを纏い、さらに無意味な錐揉みジグザグ飛行で僧侶姿の男に襲い掛かる。
すでにサキュバスたちは、男の僧侶服の下にある鍛えられた魅惑的な身体を見抜いていた。
「うふふふ、お馬鹿さん。大人しく隠れていれば、運が良かったら私に可愛がられていたかもしれないものを、わざわざ出てくるからマクド(わん♪)ドで馬鹿騒ぎする女子高生のようにサキュバスたちに食い荒らされちゃうのよ。」
男の行く末にデルエラも妖しい笑みを浮かべながら哀れんでいる。
魔物娘のやることだから死にはしないだろう。
まぁ『犯る』ことには変わりないのだが。
「ありがとう、ニーソの素敵なお嬢さん。……しかし、御心配は無用。」
物凄い勢いで迫り来るサキュバスたちを前にして、男も不敵に微笑んだ。

「…………はっ、しまった!?」

何かある、とデルエラが気が付いた時、すでに遅すぎた。
男はウルトラセブンのように左拳を腰に、指をピンと伸ばした右手を胸の前に水平に固定すると、男は精神統一するように瞳を閉じて、小さく息を吸い込む。
そしてカッと目を見開くと、溜めた力を一気に解放するように叫んだ。

「幹部ビィィィィィィィィィッム(額)!!!!」

男の額から発射される緑色の光。
迸る強烈な緑色の光は迫り来るサキュバスを薙ぎ払い、デルエラですら言葉を失う程のその凄まじい威力のあまり爆風は王宮を揺るがし、突き抜けた光はそのまま王宮の壁を無残に吹き飛ばした。
「御安心なさい、お嬢さん。私は私の信念に従って、ニーソの似合うお嬢さん方を決して傷付けたりはしない。皆気を失っていますが、ちゃあんと生きていますよ。」
あれだけの威力にも関わらず、確かにサキュバスたちは生きている。
これほどの実力者がレスカティエ教国にいたのか、とデルエラは無言のまま自問自答を繰り返していたのだが、彼女自身が堕とした勇者たちからもそんな話が出なかったことを確信すると、デルエラは想定外だった男の登場に忌々しそうな表情を浮かべた。
「あなた一体何者なの…?」
そこまで言って思い当たった。
男が絶えず繰り返す『ニーソ』という単語。
その単語こそが男の正体だった。
「あ………あなた、まさか…!」
「ぬぅ、ヤツはまさか!?」
「知っているのか、(わん♪)電!」

デルエラが喋ろうとした瞬間、空気を読まずに割って入るモブキャラのサキュバスたち。
役に立ちそうではないが、何故か顔がイタリア人かってくらいに濃い。
「お願い、私に喋らせて…。」
「うむ、ニーソと言う単語で思い出した。かつてレスカティエに勇者あり。その者、救国の勇者でありながら並々ならぬ志に目覚め聖職者への道を選ぶ。『フェティシズムの覇王』『ニーソの求道者』『またお前か』などの様々なやつを讃える名のある男。」
デルエラの願い虚しく、モブキャラは始末の悪いことに声まで大きかった。
モブキャラはデルエラの願いに気付くことなく、勝手に話を進めていく。
「まさか生きておったとは思わなかったぞ………幹部Cッ!!」

「ニーソは外せないでしょう」(^ω^)キリッ

名作『ジョジョの奇妙な冒険』に登場しそうな腰や膝の関節にとても厳しいポーズで、自己紹介をドヤ顔で華麗に決める男・幹部C。
一方デルエラはモブキャラに自分のセリフを言われてしまい、顔を隠してメソメソと泣いていたのだが、このモブキャラには絶対御褒美をあげないと心を鬼にすると、再びいつもの自分を取り戻して幹部Cと対峙する。

ここにレスカティエ侵攻戦・最終決戦の幕は上がったのであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


「さすがですね、お嬢さん。このビームの威力を見て、眉一つ動かさないとは。」
幹部Cは優しい笑みを浮かべて私に話しかけた。
正直なことを言えば、幹部Cはあまりに温和そうな顔をしているから、私の好みのタイプの異性ではないけれど、お嬢さんと呼ばれるのは悪い気はしない。
最後にお嬢さんと呼ばれたのは………うん、(わん♪)年前だったわ。
「確かに素敵な威力ね。なるほど、あなたの力があれば憐れな『勇者』たちを捨て駒にすることも可能ね。本命は、勇者でなくあなた。それにしても酷い話ね。レスカティエ教国最後のイージスの盾が、あなたみたいなニーソ好きな変態だったとはね。」
レスカティエ最後の障壁は、さっき堕として来た勇者御一行様のような、信仰心と慈愛と正義に満ちたステレオタイプ的な人物だと想像していたのだけれど、想像とは正反対のド変態でフェティシズムの権化だったというのは、私もまだまだ未熟で教会連中に一杯食わされたということなのだろうか。
「変態で結構ですよ、お嬢さん。私としてもニーソの似合う女性に情熱が抑えられないし、未来永劫この性癖を矯正する気もありません。ああ、失礼。ニーソの似合う女性に関する持論をここで展開すると、連載SS枠で100話分くらいの長さを要するのですが、お嬢さんに語ってもよろしいでしょうか?」
やめてほしいわ。」
いや、ニーソキャラが嫌いな訳じゃないのよ?
事実私自身も魔物化させた女の子を、ニーソが似合う魔物娘にしたりするわ。
決して嫌いじゃないけど、他人の性癖を論理的に説明されるのは嫌なの。
「それにしてもお嬢さん。」
幹部Cが何故か私に哀れみの眼差しを投げ掛ける。
「私とお嬢さんでは随分と実力がかけ離れているようですね。」
「そうね、私は仮にも魔王の娘だし。」
「いえ、そうではなく。あなたの方が随分と弱いようで。」
「はあッ!?」
何を言っているの、このド変態は!?
私が弱い?
魔王の娘たるこのデルエラが弱い訳ないじゃないの!
「ふ………ふふ……お、面白い冗談ね。レスカティエでは、そういう笑えないジョークが流行っているの?そんなに私たちがあなたたちの神よりも下であると思い込みたいのかしら?」
「……………ショックを受けるのも無理はありません。では論より証拠をお見せしましょう。少々お待ちください。私のステータスを表示してもらいますので。」
「何よ、そのステータスって!?」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

※()内の数字は使用する際の数値

【キャラ名】幹部C(10周クリア済み) 【レベル】77
【SP】250/250 【撃墜数】666(エース)
【エースボーナス】対ニーソ系的ユニット戦では、
         ターン開始時に直感と手加減が自動的に掛かる。

【特技】ニーソLv・9  勇者Lv・9  気力限界突破  
    見切り  SP回復  集中力
【地形適応】宇宙S 空S 陸S 海A
【精神コマンド】直感(20) 不屈(5) 鉄壁(10) 
        官能(20) 奇跡(25) 愛(回復系)(10)
【能力】格闘400 射撃400 防御350 技量400 回避400 命中400

【HP】60000 【MP】550
【運動性】190 【装甲】3990 (15段階改造済み)
【フル改造ボーナス】MP回復(中)→MP回復(大)に変更
【特殊能力】HP回復(大) MP回復(大) 分身 バリア

【武装】
・格闘(射程1〜2)/P兵器/攻撃力5400(MP0)
・ギッタートマホークブーメラン(射程2〜5)/P兵器/攻撃力5500(MP0)
・ギッタートマホーク(射程1)/P兵器/攻撃力6000(MP0)
・幹部ビーム(額)(射程1〜8)/移動後使用不可/攻撃力6500(MP35)
・幹部ビーム(腹)(射程1〜3)/P兵器/攻撃力7300(MP50)
・萌えアンドエロス(射程1)/P兵器/攻撃力9500(MP80)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「とまぁ、こんな具合でして。」
「もうあなたがラスボスになれば良いじゃない!!」
ステータスをまざまざと見せ付けられて、私は堪らず叫んでしまった。
燃費良すぎだし、素早いわ硬いわ、チート性能も良いところ。
私魔王の娘なのに、勝てる気が段々薄れてきたわ!
「そういう訳にもいきません。だってまだ第2話に進んだばかりですし。」
「第2話って何なの!?」
前回の話があったという訳なのだけれど身に覚えがない。
いやむしろある訳がない。
「デルエラ様、だから前のステージで全滅プレイを繰り返しておいたらと進言しましたのに。ただでさえ改造資金が少ないんですから、全滅プレイが可能なシリーズではやっておいた方が良いんですよぉ?」
「お黙り、モブサキュバス!」
モブキャラが『言わんこっちゃない』という表情を浮かべている。
全滅プレイとか改造資金とか訳のわからないことを…。
それに幹部Cの言う通り、ここが第2話だとしたら第1話から全滅プレイ必須なス(わんわん♪)ボなんて、ただただプレイヤーの心をポッキリ圧し折るためだけの究極のクソゲー以外の何者でもないじゃないの。
発売日当日にはワゴンセールになるわね。

「そんな訳で、行きますよ……お嬢さん!!」

「ちょ、いきなり襲ってくるなんて反則よ!?」
突然マジな顔になって大地を蹴る幹部C。
低く低く疾走する姿は、まるで動物の豹を連想させるしなやかさ。
なるほど、さっきの勇者ウィルマリナよりも高い戦闘能力を感じるわ。

「まずは小手調べと行きましょう。はぁぁ……ッ!!」

ズバ――ァッ

慣性の法則を無視した動きで、幹部Cが私の死角から死角へと移動する。
速い……速すぎる…!
人間ならいざ知らず魔物娘の、それも最高峰の私を以ってしても死角から死角へと移動し続ける幹部Cの常識はずれの速度に、私の目はついにいくつもの残像虚像を見てしまっていた。
「これぞ……マッハ幹部!
「幹部が付けば何でも良いと思っているんじゃないの!?」
しかし戦闘特化した魔物娘でないとは言え、私も軍団長の端くれ。
この程度のピンチは何度も経験している。
そう、この手の規格外の相手は初めてだ。
だけど、いつだって『初めて』は『初めて』ではない

「心 眼 発 動 !」

幹部Cの気配のする場所へ、最後に使ったのは(わんわん♪)年前というくらいに久し振りに使う攻撃魔法を込めた渾身の右ストレートをコークスクリュー気味に捻じ込む。
幹部Cの姿を私の目は捉えていない。
いくつもの残像は捉えているけど、それはすべて虚像。
それでも魔物娘としてオスの気配だけは逃さない。
そう、私の全身是オス探知機。
震えるわ、ハート!
燃え尽きるほどのヒート!

「喰らいなさい、桃色快感疾走(セクシャル・エクスタシー・ドライブ)!

「やりますね、緊急回避ぃッオープン幹部!!

「な、なにぃぃーーーーッ!?」

私の渾身の一撃が当たる寸前、幹部Cは更に分身をして逃れてしまった。
「こ、これは………変わり身の術…!?」
私の拳が捉えたのは幹部Cの上着のみ。
私の攻撃魔法を喰らって、ズタズタに引き裂かれた上着のみが壁に叩き付けられた。
そして幹部Cの本体は、危機を脱して再び距離を取って………取って…て!
「何でフンドシなのよぉー!!」
もうやだ、信じられない!!
上着を犠牲に危機を脱したなら普通上半身裸か、せめて下にシャツでも着るでしょ!?

なのに何でいきなりフンドシ姿になっている訳!?

鍛えられた細マッチョな身体に、キラリと光る真っ白なフンドシ。
掛け声に『そいや』と叫んで欲しいくらいだわ。
「ふふふ、驚きましたね。まさか私をあわや捉えるところだったとは。」
「驚いたわ、確かに色んな意味でね。」
「しかしもう奇跡は起きません。何故なら、この姿こそ私の真のバトルフォーム!あまりの危険のために、かつて私が勇者だった頃に教会によって封印されし、数々の伝説を彩ってきた美しきバトルフォーム。」
「出来ることなら永遠に封印していて欲しかったわ。」

むしろ泣きたい。

泣いてしまいたい。

そして家に帰って、さっさと今日と言う日を思い出にしてしまいたい。

「これからが本番です。この姿を、『フンドシ僧侶フェスティバル』を曝け出した以上、最早お嬢さんに勝ち目はありません!正直、奥にいる王女などどうでも良いですが、降伏するなら今の内ですよ。降伏の証として恥じらいながら全裸ニーソ姿になり、そのムッチリした太股の上で私に耳掻きすると約束しなさい!」(`・ω・´)キリッ
「……嫌な名前が付いていたのね、その姿は。私が降伏するなんて天地が引っ繰り返るくらいあり得ない話よ。それにしてもあなたって、どうあってもニーソだけは外せないのね。」
「ニーソが外せないのは当たり前でしょう。」(^ω^)
魔王軍にいればどれだけ有能な戦士になっていたのかしら。
多少……多少?
まぁ多少で良いわ。
多少変態であるのは目を瞑って、特異稀なるチート級の戦闘力、おそらくインキュバスになっても幾人もの魔物娘を満足させられるであろう脅威のニーソフェチ、そして一応レスカティエ教国幹部にいられるのだから、あらゆる方面で魔王軍にとって必要不可欠な人材になるはず。
敵であるのが本当に惜しいわね。
私の部下にしたくはないけれど。
「それでは予定も押し迫っているようですし、お遊びはこれまでです。この伝説の宝具の力、存分に味わいなさい……ギッタートマホーゥクッ!

バシュゥゥゥゥゥゥーンッ

「…………空間転移魔法!?まさかこれ程の術者が、こんなところにいるだなんて思いもしなかったわ……って、ちょっと?それ斧じゃなくてもしかして…!?」
「お気付きになられましたか。」
物凄いドヤ顔の幹部Cに、私は呆れを通り越して脅威を覚えていた。

だって、彼が手に持つそれがトマホークとは名ばかりで、

ザクのヒートホークの形したエレキギターなのだから!

「せめて世界観くらい守りなさいよ!?」
エレキギターという鈍器を選ぶあたりは、ある意味で聖職者らしいとは思うけど。
「フフフフ、何を今更。そう……あれは私が勇者だった頃、木馬に跨って人々を苦しめていた白き悪魔を倒すため、伝説の武器が眠るという超古代遺跡・アバオアクーに仲間たちと辿り着いた頃、謎の老人ギ=レンに出会った私は…。」
「………その話は長くなるのかしら?」
「短いですよ。精々こち亀を1巻から丁寧に読む程度ですから。」
「わかったわ、もう口を開かないでくれるかしら?」
そんな長い昔話を聞く趣味はない。
ただでさえ母の長々しい惚気話を日常的に聞かされているので、こんなところで、それも私のまったく興味のない話題で延々と昔話をされるのは苦痛以外の何物でもない。

………正直な話、部下の目がなかったら今すぐ帰りたいところよ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


闘いはいつ果てるともなく続く。
デルエラの攻撃魔法による東方シリーズのような病気を疑うくらいの凄まじい弾幕、そして真ゲッターロボのようなジグザグ飛行でそれを掻い潜りながら、伝説の武器ギッタートマホークを繰り出す幹部C。
間違いなく歴史に残る一騎打ちと言えるだろう。
もっとも一方は痴女かってくらい破廉恥な出で立ちで、もう一方は痴漢かとツッコミを入れたくなるくらい肌色の割合が凄まじいフンドシ姿ということもあり、歴史書に書かれた瞬間にページを破り取られるのは間違いないであろう。

ズガシャァァァァーーンッ

「しまった、ギッタートマホークが!?」
流れ弾を避け切れず、幹部Cは思わずギッタートマホークを盾に使ったのだが、例え流れ弾と言えどデルエラの桁違いの魔法力に耐え切れず、ギッタートマホークは爆音を立てて砕け散った。
幹部Cの温和な顔が僅かに曇る。
「………ふ…ふふふ……そうよ、その顔よ。私が最初に見たかったのは、あなたのその顔よ。さあ、これであなたの攻撃手段はなくなった。あなたは確かに教国最強最後の盾だったけど、武器もなしにどうやって戦うつもりかしら。」
デルエラ自身も肩で息をしていたのだが、ついに長きに渡った闘いが終わると確信した時、疲れ切っていたものの魔物らしい妖しい笑みを浮かべて幹部Cに最後通告を投げ掛けた。
降伏か、堕落か。
もっともどちらを選んだにせよ、デルエラの手による堕落が待っているのである。
「…………まだ……まだ終わってはいません…。」
「終わりよ。あなたに武器は……ッッ!?」
武器はない、とデルエラが言おうとした瞬間、彼女の背筋に電流が走った。

何か忘れている……大事な何かを見落としている…。

その見落としに気が付いた時、デルエラは思わず叫んでいた。
「あなた……まさか…ッ!!」
「私には………まだ武器がある!!

幹部Cの身体が緑色の光に包まれる。
それは力強く、フンドシ姿でなければ間違いなくカッコいい一場面になっていたであろう。

「見せてあげましょう…………本当のエロスの力を!!!

緑色の光が解放され、爆風が周囲の床や壁を破壊していく。
王城を揺るがし、大気は震え、まるでレスカティエ全体が振動しているようだった。

「ぐぎぇ!?」
「どこからかタライが…!?お、王女様!?王女様ァァァーッ!!」
「いかん、紫色の泡を吹いておられる!!」

幹部Cの後ろにある王女の間からカエルが潰れたような断末魔が聞こえたような気がしたのだが、物語進行の都合上、幹部Cとデルエラ以外がどんな目に会おうと、作者には特に問題はないので読者は忘れていただいても構わない。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「か、幹部Cの手の平に……エネルギーが集中していく…!?」
「むぅ、あれはまさか!?」
「知っているのか、雷(わん♪)!!」

「お願いだから、あなたたち喋らないで!?」
どこからともなく呼んでもいないのに、しゃしゃり出てくるモブサキュバス。
相変わらずイタリア人かって言いたいぐらい顔が濃い。
そしてデルエラの願いも虚しく、顔の濃いモブキャラたちは空気を読まないのか読みたくないのか、彼女の声を掻き消すほどデカい声で、誰も頼んでもいないのに、某説明お姉さんになったつもりで上司であるデルエラを無視して喋り続ける。
「あれはまさか……『萌えアンドエロス』か…!」
「何なんだそれは!?」
「うむ、遡る事およそ1800年前………中国の三国志と呼ばれる時代、一人の天才武道家・荷楚萌得(ニ・ソモエ 生没年不明)が編み出したとされる究極の奥義。『萌え』と『エロス』、似て非なる異なった力を一つにする術を編み出し、『萌エロ』という新たなジャンルを開拓することで『萌え』と『エロス』の攻防一体を可能にしたもの。それが『萌えアンドエロス』!しかし、その奥義は習得までに多大な犠牲を生んだが故に、時の蜀皇帝・劉禅の勅命によって封印されたという。その奥義の威力は凄まじく、その勅命がなければ蜀は滅びず、天下を統一出来たかもしれないとして劉禅を愚帝として後の世に知らしめるという伝説の奥義だ。」
「凄え、何だかよくわからんけど凄えぜ!!」

やけに腹に響くような野太い声で説明し続けるモブサキュバスたちに、戦闘中のデルエラ本人はあまりの五月蝿さにウンザリしていた。

本来なら、部下が率先して戦うべきじゃないの?

そう口から出掛かっていたのが、いくら何でも一応の最終決戦。
例え使えない部下であろうと、役に立たない部下であろうと、そもそもこんな濃い顔した部下がいたかしらと疑問を持ったとしても、魔王の娘として身体を張って戦うべきは今この瞬間なのだという、彼女の中の誇り高きポリシーが彼女に愚痴らせることを阻んでいた。

「行きますよ……お嬢さん…!!」

萌えッッ!!アンドッ、エロスッッ!!!

それは緑色の光のトンネルだった。
まるで竜巻のように周囲を破壊しながら、緑色の光のトンネルは広がっていく。
「こ、これは……!?」
その美しくも戦慄を覚える光景に、さすがのデルエラも驚きを隠せずに一歩後刷り去る。
幹部Cの繰り出す『萌えアンドエロス』は、デルエラが知るどんな体系の魔法よりも、彼女が体験したどんな武術奥義よりもそれは美しく、それは圧倒的な破壊力を秘めていると歴戦の彼女は直感していた。

「ズブッ・ヌプッ・ヒギィ・アンッ♪・おほぉ…………フンッ!!!」

呪文を詠唱する幹部C。
『萌え』と『エロス』の光を纏った手の平を、まるで祈るようにワナワナと合わせると、二つの異なるエネルギーの反発作用で新たなエネルギーがまるでビッグバンのように生まれた。
『萌えアンドエロス』、それはその凄まじいエネルギーを直接叩き込む奥義なのである。

避けられないッ!

彼女の本能がそう告げている。
防御魔法でシールドを展開しようとした瞬間、彼女の目に入ったものは…。
「ちょっと、あなたたち!何自分たちだけで避難しているのよ!?」
「デルエラ様、お気になさらず。」
モブキャラのサキュバスたちは敢えて危険に身を晒すデルエラを他所に、自分たちだけで破壊された瓦礫を利用して分厚い防御癖を築いて、いそいそと安全ヘルメットを被ると、そのままその後ろに隠れて避難していたのである。
「デルエラ様頑張れー。」(棒読み)
「この闘いが終わったら覚えてなさい………ハッ!?」

モブキャラたちに気を取られたのが運の尽きだった。

防御魔法を展開する前に、『萌えアンドエロス』のデルエラの魔力をも上回る膨大なエネルギーが彼女を捉え、デルエラの身体は彼女の意思に反して、まるで十字架に架けられた聖人のように、緑色の光に縛られて無防備に空中に磔にされた。
「……くぅ!?」
「不意を突かれたというのに叫び声一つ上げない。御見事です。」
「……これでも…魔王の娘…よ…!」
「私のポリシーに賭けて、お嬢さんを殺しは致しません。しかし、今後このような騒動が起きないように、キッチリお仕置きをするとしましょう。あなた方が望むような『アレ』や『ソレ』的な手段で。さあ……覚悟しなさい。これが魔界を超えた絶対領域の力だぁぁぁぁーーーッ!!

祈るように手の平を合わせて組んだままの姿で、幹部Cが爆煙を上げ床の瓦礫を砕き、床を凄まじいエネルギーで抉りながら、『萌えアンドエロス』のエネルギーに縛られて動けないデルエラに突っ込んでいく。
「う……動け……!」
「無駄です、イィィィィィーーーッタァァァァァァァーーーーーッ!!!」
幹部Cが最後の呪文「イータ」を唱える。
それはまるで最終加速のロケットエンジンのように幹部Cの背中を押す。
緑色の光の翼。
まさに教会の守護者たる天使のようだった。
フンドシ姿でさえなければ

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

『萌えアンドエロス』はまだ完全に発動していないのだと言うのに、その余波だけで王女の間へ続く廊下は崩壊し始め、防御壁を築いて避難していたモブサキュバスたちも安全ヘルメットを被ったまま右往左往と逃げ始める。
また奥の方で豚の呻き声のような断末魔が聞こえたような気もするが、『萌えアンドエロス』の爆音の前には、暴走族の集会の中で鳴らす風鈴のように、取るに足らない些細なこと。
さて、ここまで来て何ではあるが、賢明な読者はお気付きであろう。
ここまでのレスカティエへの被害のほとんどが幹部Cのせいである。

デルエラ、危うし。

『萌えアンドエロス』の恐ろしさは威力だけではない。
聖職者であることが怪しい幹部Cではあるが、一応聖なる力を帯びた緑色の光は神々の力に通じているため、その対極に位置する『淫魔』であるデルエラが喰らえば、完全に浄化されてしまい『淫魔』としての彼女はこの世から消滅してしまうのである。
完全に浄化されてしまえば、デルエラですらただの人間と何ら変わりない非力な存在になってしまい、幹部Cの『アレ』や『ソレ』的なエロタグが付いていないと出してはいけないお仕置きを甘受しなければならなくなるだろう。
「か……母さん…怨むわよ…!人間を……殺せな…いように……プログラムしたこと…!」
「わー デルエラさま あぶねー。」(超棒読み)
デルエラが倒されたら瞬時に逃げ出せるように準備しているモブサキュバスたちは、事務的に彼女に迫り来る危険に対して、心にもないことを口走っている。
このモブキャラたちには、忠誠心の欠片もないらしい。

幹部Cの『萌えアンドエロス』がデルエラの軟らかそうなお腹に触れる。
まさにその瞬間だった。

「………残念ね。」
そう呟いたデルエラに、幹部Cの動きが止まった。
「……残念とは?」
「………もしもあなたが私の仲間なら、どんなに心強かったか。」
「…………そうですね。私もお嬢さん方の仲間ならどんなにパラダイスでしたか。」
ニーソキャラ多そうですし、と幹部Cは構えを解かないままフッと笑う。
「………私、あなたのセンスには関心していたのよ。勇者ウィルマリナたちの衣装を決めたあなたのセンス。ニーソに拘り抜いたが故の無駄のない萌えとエロスの融合。事実、魔物になった彼女たちはあなたのセンスを引き継いで素敵なサキュバスになったわ。」
「……………マジですか?」
まだサキュバスに堕ちたウィルマリナたちの姿を見ていない幹部Cの表情が変わる。
もっともラミア化している娘さんもいるのだが、それでも幹部Cを動揺させるには十分だった。
むしろ彼の中で、天秤がまるでシーソーのようにギッコンバッタン揺れている。
「……ニーソですか?」(^ω^)ドキドキ
「………ニーソね。ほとんど。」
「…………………………………。」(-ω-;)カンガエチュウ
「……………………どうしたの?とどめを刺すつもりだったんじゃないの?」
「………うちの無駄飯食らいもとい王女も堕とすつもりでしたよね?」(・ω・)オセェーテ?
「……そうね、運が良かったら彼女もニーソキャラに。」

その言葉を聞いた途端、幹部Cは『萌えアンドエロス』の構えを解き、わざとらしい呻き声を上げたかと思うと、まるで決め技的な超必殺技を喰らったかのように無駄に派手な演出をして、デルエラにやられたかのように装って瓦礫と粉塵を巻き上げながら吹き飛んでいった。

「さ、さすが デルエラです。この奥義を 直前で返すとは。」(棒読み)
「……私、何かしたかしら?」
「くぅ こんな時に あの時の古傷が痛みやがるです はい。」(棒読み)
「あの時のっていつの古傷なのよ。お願いだから会話をして。」
絶体絶命転じて、いきなりの展開に普段は冷静沈着なデルエラでさえもついていけず、幹部Cのせいで壊滅状態の廊下で、どうして良いのかわからないまま『あの時』の古傷に悶える幹部Cを見詰めていた。
「むぅ ついに私の命が尽きるかー。友よ 仲間よ 後は頼むぞー。」(棒読み)

チラッ チラッ

誰に言っているのかわからないが、まるで北斗の拳のように仲間に後を頼むように絶叫すると、幹部Cはやっぱりほとんど壊滅状態にある王女の間の扉にチラッと目をやって、そのままバタッと倒れてしまった。
「………ねぇ、それはつまり行っても良いってことかしら?」
「……返事がない。ただの屍のようだ。」
「返事しているじゃない。」
「ニーソの女神が降臨されれば、復活出来そうです。」(^ω^)
バタリと倒れたまま、幹部Cは親指を立てて返事をした。
どうやら彼なりの降参の証らしい。
「…何か釈然としないけど、通してもらうわね。遊園地のアトラクションみたいで楽しかったわ。後であなた好みのニーソの女神を連れて来てあげるから、それまで大人しくしておくことね。」
「……期待に胸、いや股間を膨らませて待っています。」
本当に聖職者らしくないと思いつつも、デルエラは幹部Cの脇を擦り抜けていく。
それに続くようにモブキャラのサキュバスたちも後を追いかけていくが、中には幹部Cのことが気に入ったのか、彼の周りで座り込んで顔を覗き込んだり、鍛えられた裸体を指で突付いてみたり、うつ伏せ状態まま自らの太股に幹部Cの頭を乗せてると、まるで膝の上の猫を撫でるように幹部Cの頭を撫でる者まで現れていた。
まさにヘブンリィ。

「………え、あなた誰ですか!?……デ、デルエラ!?幹部Cはどうなった……ってあっさり降伏した!?しかも私の描写はこれだけ!?一応王女なのにサウンドオンリーな扱いって酷いじゃないですかうわなにこの触手とかヌメヌメしたものは嫌ぁぁぁぁぁぁぁ…………ぬふう!」

ここにレスカティエ教国侵攻戦は魔王軍の勝利で終結。

最後まで奮戦した幹部Cは、一度はデルエラに服従を誓うものの、王女が堕落してもニーソキャラではなかったことに腹を立てて、3日後に旧勢力を率いて反旗を翻すと再び魔王軍を脅かす。

しかし突如『私は新たな神を見付けた』という謎の置手紙を残して反乱軍から姿を消すとそのまま消息不明となり、以後完全に歴史の表舞台からも裏舞台からも姿を消す。

「魔王様、新たな魔物娘のデザインはこれで如何でしょうか!?」

「えっ、次の娘はセルキーっていう着ぐるみ系にしようかと…。」

「ニーソは外せないでしょう!」(^ω^)

…………だから行方不明なんだってば。

無論、幹部Cのいなくなった反乱軍は、これまでの抵抗が嘘だったかのように一瞬で鎮圧され、デルエラの擁する魔王軍の素敵なお仕置きによって、ねっとりじっくり念入りに堕とされると、バッチリ調教が行き届いたおかげでみ〜んな幸せのどん底まで堕落してしまいましたとさ。


めでたしめでたし



13/02/24 23:41更新 / 宿利京祐

■作者メッセージ
ゴガッ(←沈黙の天使様の攻撃・鉄パイプ)

ボグッ(←健康クロス様の攻撃・コンクリブロック)

ま……前歯が…。
こんばんわ、お久し振りです。
花粉症シーズン真っ盛りですが、皆様如何お過ごしでしょうか?
今回はハメを外しすぎたレスカティエネタをお送りしました。
苦笑いしていただければ幸いです。
正直やりすぎた感がない訳でもありませんが、
我ながらこういう暴走系の話は読むのも書くのも好きなので私自身に苦笑いだったり…。

(スペシャルサンクス)
沈黙の天使様
ほんっとうにありがとうございました!!orz

では最後になりましたが
ここまで読んでいただき ありがとうございました。
また次回お会いしましょう(^^;)ノシ

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