読切小説
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廃村の巫女
 旅の途中、とある海沿いを歩いていた時の事。

 ぶちん、という音に足元を見れば、草鞋の緒が切れていた。
 背負っていた竹製の行李を下ろして中身を確かめるが、どうやら今切れたものが最後の草鞋だったらしい。何足か纏めて買っておいたのだが、いつの間にやら全て履きつぶしてしまったのかと少々驚く。
 切れた箇所を強引に結わえ付ければ、まだしばらくは歩けるだろう。しかし、空には既に日暮れの色が差している。おとなしく、今日はここらで一夜を過ごすとしよう。

 旅籠屋か、そうでなければ宿を貸してくれそうな人は居ないだろうかとあたりを見回すが、民家こそあれど、人の気配はしない。
 もしや、漁に出ているのだろうか。そうも思ったが、浜に船を出した跡はない。朽ちた小屋にも、漁師道具の一つすらない。
 既に、廃村になったのかもしれない。もしそうであるのならば、かつての住人には悪いが勝手に屋根を借りさせてもらおう。

 早々に浜から上がろうとした私は、何かに引き止められたような気がして足を止めた。
 あるいは、それは気のせいだったのかもしれない。凪いだ海は音も立てず、目を凝らしたところで魚の一尾も見当たらなかった。
 そんな、海辺らしからぬ静寂の中で、水平線の彼方に夕日が沈もうとしていた。赤く、空と海を染めながら。
 強いて理由付けをするのならば、その美しい景色の訪れを感じ取った私の無意識が、足を止めさせたのだろう。
 こうした景色との偶然の出会いも、旅の醍醐味と言えるかもしれない。そんな事を思いながら、暫くの間、沈みゆく夕日をただじっと見つめていた。

 やがて、夜の色が夕焼け空を塗り替えはじめた頃。ようやく静寂は破られた。
 点々と砂を踏む音。獣では無い、人の足音。
 振り向けば、その足音の主は少し遠巻きにこちらを見ていた。

「あっ、こんにっ、こ、こんにちは……」

 突然振り向いたので、驚かせてしまったらしい。控えめに頭を下げた少女の声は、明らかに動揺していた。
 しかし、驚いたのはこちらも同じである。

 その少女は、息を呑むほどに美しかった。
 わずかに日に焼けた肌は瑞々しく、傷一つ見当たらない。頭巾の下の黒髪は尼削ぎにしているが、それもまた、田舎の少女らしい純朴さを際立たせている。
 身に纏った装束は、何を目的にしているのか、海亀の意匠をあしらった見たことのない形のものである。だが、それが異様に思わされるような事もなく、むしろこの少女にはよく似合っていた。
 ただ、背負った大きな亀甲だけは小さな体躯に不釣り合いなほど重たげで、何らかの罰を負わされているのではないかと訝しまざるを得なかった。

「えっと……あの、旅の方、ですか?」

 おどおどと尋ねる声に、我に返る。
 思わず見惚れてしまっていたが、笠を被った見知らぬ男に見下されていたら、それは怖くて当然である。
 謝罪の言葉とともに笠を脱ぎ、今度はこちらから尋ねた。
 いかにも、旅の途中である。このあたりには明るいか。宿を貸してもらえそうな所を知らないか。
 簡潔に、少々気が弱そうに見える少女を怯えさせないような口調で。

「宿……宿、ですか……」

 袖を唇に当て、少女はしばし考える仕草を見せた。
 装束の袖は亀の手にも似ており、先に行くに連れて大きく広がっている。少女の手は、その中にすっぽりと隠れてしまっているらしい。

「ごめんなさい、思い当たる所は……」

 やはり、廃村か、それに等しい状態にあるのか。
 少女に礼を言い、当初の予定通り、空き家を借りるために浜を上がろうとする。
 しかし、今度こそはっきりと私は呼び止められた。「あのっ!」という声は、臆病そうな少女のどこから出たのかと思うほど大きな声だった。

「よろしければっ、わたしの家に……!」

 それは、とてもありがたい提案だった。だが、すぐに「では頼む」とは返せない提案でもあった。

 どこに住んでいるのか。
 この近くです。
 家族と住んでいるのか。
 いいえ、わたしだけです。
 今まで、誰かを泊めたことはあるのか。
 いいえ、あなたが初めてです。

 そんな問答をすれば、顔をしかめたくもなるだろう。
 純粋な善意から出た申し出だとしても、いや、だからこそ、素性も知らぬ男を家に泊めるなど。
 あるいは、この少女はそれによってどんな事が起こり得るのかも想像できないほど、純粋なのかもしれない。
 本来ならば、断るべきだろう。しかし、空き家を借りるくらいならば、見知らぬ少女の家を借りたほうが面倒は少ないだろうか。
 幾昼夜も共にするならばともかく、一夜の宿を借りるだけならば、寝て起きて出立して、それで終わりである。そもそも間違いを犯せるほどの元気も無いのだ。

 しばらくの思案を挟み、結局、世話になることにした。

 少女の家に向かうまで、いくらか話を聞いた所、やはりここは廃村であるらしい。
 かつては漁村として栄えていたのだが、近場に大きな港町ができると、徐々に人が減り始めてしまった。
 漁場としてもさほど優れた場所ではなかったというのもあり、残っていた僅かな人々は話し合い、どうせ緩やかに消えていくのだからと、この村を捨てることを選んだ。

 ならば、どうして一人だけ残ったのか。
 尋ねると、少女は随分と構えの大きい屋敷の前で振り向き、

「わたしは、海神様の巫女なんです。だから、誰もいなくなっても、ここから離れるわけにはいかないんです」

 と、どこか寂しさを滲ませた声で言った。




 板を軋ませ、座布団を持った少女の先導で廊下を歩く。
 かつては、この屋敷に村の人々が集まっていたのだろう。一つ一つの部屋が広く、数も多い。しかし、少女一人では持て余しているのか、ところどころに破れた障子や海風による錆が目に付いた。

「お部屋は、ここを使ってください」

 おもむろに、少女は一つの部屋の前で立ち止まり、襖を開けた。
 他よりも少しばかり狭い、畳敷きの部屋。空の火鉢以外には何も置いていないが、掃除は行き届いている。

「お布団、後で持ってきますね」

 頷き、少女が置いてくれた座布団の上に腰を下ろす。
 歩き通しだった足は立ち上がることを拒むように、たちまち座布団の上に根を張ってしまった。

「それと、お食事は……」

 その問いを聞き終える前に、私の体は勝手に返事をしていた。
 広い部屋に響いた、ぐぅ、と情けない音に、少女はくすくすと笑う。

「すぐに用意しますから、少しだけ待っていてください」

 そう言い残して、ぱたぱたと可愛らしい足音は遠ざかっていった。

 一人になった途端に、屋敷の静けさが妙に気にかかってしまう。本当に、ここにはあの少女しかいないのらしい。
 仕方なく、行李を床に並べ、中をあらためる事で気分をごまかす。

 旅の間中背負っていた箱に入っているのは、着物、食料、いくらかの金品。そして、今まで履きつぶしてきた幾つもの草鞋に、歩きづらいが丈夫な下駄。
 下駄はそのままに、草鞋だけを取り出す。比較的単純な作りである。解体し、藁縄に戻すのも手間ではない。夕食が出来上がるまでの手慰みにはちょうど良い。
 一足あれば、港町とやらには行けるだろうか。後で少女に確かめておくべきか。

 少女が食事を運んできたのは、片足分の草鞋が出来上がった頃だった。

「お口に合えば良いんですが……」

 気遣わしげに言いながら、少女は膳を置く。
 来客に張り切ったのか、男の食事量というものを計り違えているのか。並んだ品々はどれも量が多い。
 味噌汁は椀から溢れそうで、飯は丼に山を作っている。一際目を引くのは、大皿にでんと置かれた鯛の姿焼きであろう。この一皿のせいで、それなりに広いはずの膳が狭く見える。
 平時ならばともかく、今はその豪快さがありがたい。いただきますと手を合わせてから、早速鯛に箸をつける。適度な塩気と焼き加減を楽しみ、具のわかめごと味噌汁をすする。そして、山盛りの飯を食らう。それを繰り返す。
 少女は自信が無かったようだが、口に合わないなどということはなく、むしろいずれも、子どもが作ったとは思えないほど上等な味であった。
 感想を述べるのも惜しく、一言だけ美味いと呟き、無心で食い進める。
 その程度のささやかな褒め言葉でも満足したらしい。ちらと盗み見ると、少女は安心したように胸をなでおろしていた。

 物を食う姿を見られ続けるのはどうにも座りが悪かったが、それでもやはり美味いものは美味く、すべて平らげるまでさほど時間はかからなかった。

 空っぽになった膳を前に「おそまつさまでした」と可愛らしく頭を下げた少女に、尋ねる。
 先程言っていた港町まで、どの程度かかるか。
 旅をしている以上は当然の、何もおかしな事はない質問であったはずだが、少女はその答えを返す前に、逆に尋ねた。

「……明日、発ってしまうのですか?」

 無論、そのつもりである。
 いつまでも世話になるわけにもいかない。行くあてのない旅ではあるが、一つどころに留まるつもりもない。
 しかし。

「そう、ですよね。どこか、行くところがあるんですよね」

 明らかに無理をして微笑んでいる少女を見ると、にわかに胸が痛んだ。
 この、まだ幼さすら残る巫女を廃村に置き去りにしていく事は、何らかの咎であるとも思えてしまう。
 そのせいか、膳を抱えて部屋を出ていこうとする少女を、気付けば呼び止めていた。
 親はどうしたのか。かつて村に居たものたちは、見に来てくれていないのか。淋しくは、ないのか。
 聞きたいことは、いくらでもあった。しかし、口から出たのは、疑問を解決しようとするものではなかった。

 娘一人で暮らしていると、何かと不便があるだろう。一宿一飯の恩義という言葉もある。明日、明後日くらいまで、何か手伝わせてもらえないだろうか。

 その申し出は酷く不格好で、いっそ偽善的でもあった。数日、この少女の気を紛らわせた所で、何になるのか。

「ありがとうございます!じゃあ、今日はゆっくりお休みできるように、お風呂、沸かしてきますね!」

 だが、顔を出した後悔も、嬉しそうに駆けていく少女の姿に引っ込んでしまった。
 きっと、これで良かったのだろう。行くあてのない、先を急ぐ理由も無い旅である。ささやかな出会いと気まぐれを楽しんでも、誰に責められることもないのだ。


…………


 一夜明け、「とわ」と名乗った少女は、家の修繕を手伝ってもらいたいと言った。
 今やそこかしこに穴が開いているが、かつてここに家族と住んでいた頃は、それは立派な屋敷だったという。
 そして、母親も海神の巫女であるが、今は海神の社がある「竜宮城」とやらに父親と二人で暮らしているらしい。

「竜宮城は海の底にあるんです。そこに人々を案内するのが、わたしが母様から継いだお役目の一つなんですよ」

 障子の張替えを手伝いながら、とわの話に相槌を打つ。
 話し相手に餓えていたのか、元来の性質なのか、とわはとても饒舌だった。

「……母様の代では、まだ、この村にも人が沢山いたって聞きました。父様もこの村で暮らしていた漁師さんだったそうです。『私たちが結ばれたのは、海神様のご加護によるものだ』って、母様は毎日のように話してくれました。『だから、お前も海神様への祈りは忘れないように』とも」

 そう語るとわは、今朝も、日が昇る前から浜辺に行って祈りを捧げていたという。
 少し言葉を交わしただけでも分かるほど、この少女は信心深く、大人びていた。もしくは、この環境がとわに年相応の幼さを許さないのだろうか。

 ここでの暮らしは、寂しくないのか。

 昨夜聞きそびれた疑問をぶつけると、とわは曖昧に首を傾げた。

「寂しくなる時も、あります。でも……」

 でも、何だと言うのか。
 続きを待ったが、とわはただ口ごもるばかりだった。

「……紙、無くなっちゃいましたね。持ってきます」

 そう言ったとわが障子紙を取りに行っている間に、指についた糊をこすり落としながら考える。

 港町までは、歩いて一刻ほどらしい。
 「たまに、炭やお米を買いに足を伸ばすんです。ジパングの外から来た人なんかもいて、とても賑わっているんですよ」と、とわは楽しげに語っていた。
 しかし、その話を聞いて私の胸中に起こったのは、異国と繋がる港への憧れとは別のものだった。
 人の営みがある場所で用事を済ませ、このうら寂しい廃村へ帰ってきた時。あの小さな身で感じる孤独は、どれほどのものだろうか。
 気にする必要など無い、些事のはずである。それでも、妙に気にかかってしまう。
 どうして、こんなにも、昨日今日知り合ったばかりの娘のことが気になってしまうのか。

 自己の内にあるものを探っていると、唐突に、何かが倒れる音がした。続いて、「わわわぁぁ!?」という素っ頓狂な悲鳴。
 間違いなく、とわの身に何かあった。
 慌てて立ち上がり、並ぶ部屋を覗いてはとわの姿を探す。

「あ、これは、その……」

 並ぶ部屋の一つ、とわの私室であろう場所で、彼女はひっくり返っていた。
 背負った亀甲のせいで起き上がれないのか、こちらを天地逆さに見たまま、ゆらゆらと揺れている。

「箪笥の上に、手が届かなくて……」

 見れば、箪笥の上に丸めた障子紙がある。とわの背丈では、つま先立ちでかろうじて届くかどうか、といった高さであった。
 届かないのならば呼べばいいものを、と苦笑しながら紙を取ってやると、とわは顔を赤らめて仰向けのまま縮こまった。

「うう……みっともない限りです」

 海神の巫女が着る装束の一部なのかと思っていたが、外して起き上がろうとしない所を見るに、大きな甲羅もとわの体の一部なのだろう。
 彼女が単なる人間ではなく、妖怪の血を引いているのだとすれば、その美しさにも納得が行く。不思議なことに、妖怪というものは皆一様に見目麗しい。とわも、例外ではないようだった。

「恥ずかしながら、手を、貸していただけますと……」

 一人で起き上がれないのなら、今まで転んだ時はどうしていたのか。
 悪戯心が疼くままに、甲羅を押してゆるゆるととわを回しながら尋ねる。

「少しずつ体を揺らして、勢いをつけてひっくり返ったり、近くの物に捕まって……あの、回さないでください……」

 二周ほど回した所で満足して、手を引いて助け起こす。
 小柄な姿から想像できない重さに面食らったが、ほとんどは甲羅の重量なのだろう。それほど重いものを背負っているのならば、なるほど、起き上がるのが困難でも仕方あるまい。

「ありがとうございます。助かりました……」

 うやうやしく頭を下げたとわが裾の乱れた着物を直し終えたところで、障子の張り替えをしていた部屋へと歩き出す。
 まだ、穴の空いた障子は何枚もある。見ている限りでは几帳面なとわがそれを直していなかったのは、彼女が少々どんくさいとでも言おうか、妙な所で不器用であるからなのかもしれない。

「転んだまま、日が落ちるまで起き上がれなかったこともあって……本当に、ありがとうございました」

 それも、こちらが思っている以上に。


…………


 湯浴みで火照った体を夜風に晒しながら、一人物思いに耽る。
 龍宮城に行ったというとわの両親は、何故、まだ幼い娘を置いていったのか。
 社へと案内する役目を娘に継がせるとしても、廃村に置き去りにするものだろうか。何か理由があるのか。あるいは、海神の巫女とはそういうものなのか。

 一日、共に過ごして分かったことだが、とわはとても人懐こい。
 家の修繕の最中にもよく喋り、食事中には「誰かと一緒にご飯を食べられるのは、やっぱり楽しいです」とも言っていた。
 出会った時の臆病そうな印象も彼女の一要素だが、無警戒な愛らしさが本質的な部分にあるのだろう。
 人々のいる場所で海神信仰を支えるのが、巫女の、とわの役割なのだと思えば、それも当然だが。

 もしかしたら、昼夜問わず波音と海鳥の声しか存在しないこの場所は、彼女のいるべき場所ではないのではないのかもしれない。竜宮城への案内という役目を果たすときだけ海に来て、後は人のいる場所で賑やかに暮らせばよいではないか。
 まだ子どもだと言うのに、寂しさに耐えて暮らす必要などあるのか。

 不透明な違和感だけを持て余していると、屋敷の屋根を越えて、聞き覚えのある悲鳴が聞こえた。
 間髪入れず、がらんがらんと何かが転がる音。風呂場の方からだった。

 間違えようがない。また、転んだのだろう。
 風呂場で足を滑らすことはままあるが、とわの場合、その度に人一倍困ることになっているのは想像に容易い。
 つい先程まで湯を頂いていたが、浴室はやけに広かった。あの小さな体では、手を伸ばしたところで湯船にも壁にも届くまい。放っておいたら、亀の蒸し物になってしまう。
 思いついた下らない冗談に自嘲しつつ、昼間のように手を貸してやろうと腰を上げる。

 しかし、どうしてそんなことに気付かなかったのか。
 風呂場の戸を開ければ、そこには当然ながら、明後日の方向へ転がった桶と、一糸まとわぬ姿のとわがあった。

 こちらは戸を開けたまま固まり、とわも起伏の乏しい体を隠すのも忘れて、口をぱくぱくさせるばかり。
 てっきり悲鳴を上げられるものかと思ったが、どうして風呂場に来たのか察したのだろう。とわは唇をきゅっと結ぶと、申し訳程度に胸を片手で隠し、残った片手だけをこちらに伸ばしてきた。
 ただでさえ湯上がりで紅潮しているというのに、そこに羞恥が加わったせいで耳まで真っ赤に染まってしまっている。眉間に皺が寄るほど目をきつく閉じた表情は、こちらに罪悪感を抱かせるには十分だった。

 だが、とわの小さな手を掴むと同時に、その罪悪感は姿を変えた。

 手を貸さなければ、ろくに起き上がることすら出来ない。好き勝手に遊ばれても、弱々しく「やめてください」と言う程度の抵抗しか示さない。それでいて、少々幼いとは言え、今までに見たことがないほど美しい。
 しばらく女を抱いていなかったなどという理由では説明がつかないほどに、嗜虐心と性欲が際限なく膨れ上がる。
 それが異常だと判断する理性すら、消えていく。

「あの、どうか、されましたか……?」

 不安そうに呟いたとわの手を掴んだまま、覆い被さるようにして、風呂場に膝をつく。
 状況を理解したのか、とわは体を微かに震わせた。それでも、抵抗する気配はなかった。

 腹の底を灼くような支配欲に従い、小さな体に手を伸ばす。
 子どもらしい、なだらかな傾斜を描く腹を撫でる。火照ったみずみずしい肌は、手のひらに吸い付くようだった。

「っ……」

 とわの唇の端から、何かを堪えるような息が漏れた。
 整った顔を快楽に歪めたい、神聖な巫女の口から淫らな声を上げさせてやりたい。邪な思いに、たがが外れていく。

 隠していた手を押しのけて、小さな胸の膨らみを鷲掴みにする。「ひっ……」というとわの悲鳴が心地良い。
 乱暴に揉んでやると、未成熟のそこには、まだ芯が残っているような硬さがあった。

「う……あっ……」

 痛みのほうが強いのか、とわが漏らす声に色めいたものはない。
 性感を得られるほど体ができあがっていないのかとも思ったが、淡い桜色の乳頭を指の腹で擦ると、悩ましげに身を捩った。摘み、擦り潰すように強く責めると、今度こそ、熱い、快楽による声がこぼれた。

「あぁっ……んっ……!」

 あくまでも押さえられているのは片腕だけであり、その気になれば、空いている手で抵抗することもできるはず。
 それをしないという事は。

 胸への愛撫が止まった安堵からか、とわは長く息をついた。
 しかし、行為自体は終わらず、矛先が変わっただけである事に気づくと、動揺を露わにした。

「そこは……!」

 誰にも触れられたことのないであろう秘裂を、指でなぞる。不安なのだろう。強張った体は、微かに震えてすらいる。
 だが、とわがどんな思いであろうと、そこは既にお湯とは違うもので濡れていた。
 強引に指を押し入れると、思っていた以上にすんなりと受け入れられ、熱い肉壁が指に絡みつく。

「くぅんっ……」

 締め付けが強く指一本でも窮屈だが、膣壁を軽く指先で擦ると、とわの口から鼻にかかる嬌声が漏れた。
 これならば、多少強引に事を進めてもどうにかなるだろう。

 何よりも、似つかわしくない官能に震えるとわを前にして、いつまでも辛抱していられるはずもなかった。

「……あ」

 襦袢をはだけ、固く勃起した物をさらけ出すと、とわは小さく声を上げた。
 張り詰めた赤黒い陰茎を、少しだけ解れた秘裂に宛がう。
 触れ合わせただけでも、少女の熱さと柔らかさに喉が鳴る。
 今すぐにでも犯してしまいたかったが、それを躊躇ったのは、まだほんの少しながら自分の行いに罪悪感を抱く心が残っていたからだろう。

 ここまでやっておいて、とわが拒めば、やめるのか。
 降って湧いた疑問は、しかし、弄ばれていたはずのとわ自身が消し去ってくれた。

 細い腕が、とっくに緩んでいた拘束から逃れる。
 そして、先程まで押さえつけていた手に、指を絡めるようにして繋がれた。
 言葉は無かった。繋いだ手と潤んだ目が、とわの意思を表していた。

 だから、こちらも遠慮はしなかった。
 無言の肯定に甘えて、容赦無く、この少女の体を貪ろうと決意した。

「ぐ、ぅ……!」

 何かを突き破るような感触にも躊躇わず、最奥にまで竿を突き入れると、とわの口から苦しげな呻き声が上がった。
 繋いだ手に力が込められ、彼女が感じているであろうもののほんの一部、いや、欠片ほどにも満たないであろう痛みが伝えられる。
 それでも休息は挟まず、こちらの欲求のままに、とわの中を掻き回す。

「あぅっ、あっ、はぁっ……」

 肉壷は浅く、一突きごとに鈴口と子宮口が口付け合った。
 ぬめった肉襞は僅かな隙間も作らずに竿を余すところ舐め、男の精を搾り取ろうと貪欲に絡みつく。
 血と愛液が掻き出され、混ぜられ、ぐちゅりぐちゅりと抽送のたびに音を立てている。
 下半身に伝わってくる快感と目と耳から入ってくるものが、否応なしに更なる肉欲を生み、乱暴にとわを犯したいという欲望に変わっていく。

 そして、痛みを感じていたはずのとわも、気づけば甘い嬌声を上げ始めていた。

「ひぁぁっ……いい……ですぅ……!」

 浴室の床に投げ出されていた手が、こちらの背に回された。力は弱いが、しっかりと抱きしめられる。

「もっと、もっとぉ……!」

 くぐもった声に答え、勢い良く子宮口を突き上げると「ひぃんっ!?」という甲高い悲鳴が上がり、一際大きくとわの体が震えた。
 そのまま、二度、三度と腹の底を抉るように突くと、とわは頭を振って悶える。

「だめっ、れすぅ!それ、おかしくなりゅ、うぅっ!」

 呂律の回っていない間の抜けた声とは裏腹に、抱きしめる手には力が込められる。
 膣内も痛いほどに締め付けを増して竿を決して抜かせまいと喰らいつき、蠢く肉襞が絡みついてくる。
 たった今純潔を失ったばかりの少女の秘裂は、あっという間に、男を悦ばせるための淫猥な蜜壺に変わってしまっていた。
 性器だけではない。夢中になってこちらを求める声も、無意識に擦りつけてきているらしい未発達な乳房も、とわの全てが、男を狂わせるためのものになっている。
 そんな魔性の体を長々と楽しめるような余裕は無かった。

「いっ、あ゙、あっ……!」

 とわの口から発されているのは、もはや意味のある言葉ではなかった。
 乱暴な快感に呆けてしまい、言葉など紡げなくなってしまっているようでもあった。

 だが、それはこちらも同じだった。
 この女はつがいである。自分の物である。
 だから、種付けをしなければならない。

 けだものじみた欲求に身を任せ続け、ついに、とわの中へとそれをぶちまけた。

「ひぐっ……!?」

 一番奥に。とわの体の、子を孕むための場所に。大量の精を注ぎ込む。
 とわもまた絶頂を迎えているようだが、その間にも貪欲に精を吐き出させようとする肉壁は、竿を扱くように収縮し締め上げてくる。
 互いに本能のままに、なめくじの交尾のごとく体を擦り付け合う。

 どれだけそうしていたか。
 最後の一滴まで精を吐き出し終えた頃になって、受け入れた頃になって、ようやく体を離した。
 ずるりと、まだ萎えきっていない一物を引きずり出すと、とわはまた体を震わせた。

 快楽に痺れた体でふらふらと立ち上がり、先程まで抱いていた少女の姿を見下ろす。
 風呂場の床に転がっているとわに、もはや、昼間見せた愛らしい少女の面影は無い。

「あ、はっ……」

 口の端からよだれを垂らし、みっともなく開いた足の間からは赤と白のまだらな液体を溢れさせている。
 うつろな目でびくんびくんと体を痙攣させている姿は、無残な暴行を受けたようにも見えるが、そんな状態にあっても、とわは弛緩しきっただらしない笑みを浮かべていた。


…………


 甲羅以外の理由でも起き上がれない体を流してやり、強引に湯船に引きずり込んでも、とわが正気を取り戻すまでは結構な時間がかかった。

「……ぬるま湯も、いいですね」

 肩まで浸かり、心底心地よさそうにとわは呟く。
 一人で入っていた時には広さに落ち着かなかった湯船も、二人ならば適切な大きさに感じられる。洗い場の広さも考えると、はじめから誰かと入ることを前提に設計されているようにも思えた。
 しかし、確かに風呂は気持ち良いのだが、あのような行為の後ということもあって、とわの視線がこちらに向いているのはなんとも落ち着かない。

「わたしが、もっと小さかった頃に……お告げがあったんです」

 気まずさから視線を天井に投げていると、不意にとわが呟いた。

「『この屋敷で待て』なんて、曖昧なお告げで、どうして海神様はそんな事を仰ったのかと思っていたんですけれど……この出会いのため、だったんですね……」

 お告げのために、今まで一人寂しく暮らしてきたのか。
 いや、信仰とは、そういうものなのかもしれない。

「……でも、あの時、家に招いたのは、お告げだけが理由じゃないんです」

 一度、とわは何かを決意するように深く息を吸い込んだ。
 濡れた髪から滴が落ち、湯面を揺らす。

「わたしが、そうしたいって思ったんです。この人と……仲良く、なりたいって」

 とわは恥ずかしそうに、しかしはっきりと言い切った。
 その純粋さは眩しいほどで、思わず茶化すように、自嘲も込めて返す。
 湯浴み中の少女を襲うような男でもか、と。

 そうした自嘲すら受け止めて、とわは微笑みながら首を縦に振る。
 こちらを責める気配は、欠片も見当たらない。痛かった、怖かった。色々と訴えたいことはあるはずだが。

「その、変な娘だと思われるかもしれませんが……」

 今度は、とわは顔を伏せて、口ごもった。
 湯を見ているのか、その中にあるものを見ているのか。ぽつぽつと言葉を落とす。

「……腕を掴まれた時は、確かに少しだけ怖かったんです。だけど……」

 湯を揺らしながら、とわは静かにこちらへと近寄り、しなだれかかってきた。
 二度目の湯浴みでのぼせているとも取れるが、その体は未だ熱を持っていた。

「『わたしは、これから、この人のものになっちゃうんだ』って思ったら、すごい、嬉しくなって……」

 語る声は、ともすれば行為中よりも蕩けていた。
 幸福感に浸っているのは明らかだった。それも、少女らしい無垢な喜びではなく、澱んだ被虐的悦びに。

「……痛いのも、苦しいのも、気持ちよかった、です。胸を苛められて、お腹の中をぐちゃぐちゃにされて、子種をたくさんいただいて……全部、ぜんぶ……しあわせで……」

 熱いため息とともに、とわは体を震わせる。自分で言いながら、快感を思い出しているようだった。

「だから……」

 小さな手が、愛でるように肌を這う。呟く唇は、艶やかな笑みを描いている。
 とわが望んでいたから、あんな事をしてしまったのか。あるいは、あんな事をしたから、とわに歪んだ願望を持たせてしまったのか。
 それは分からない。分からないが、

「次は、もっともっと、めちゃくちゃに……して、くださいね……?」

 熱に浮かされたとわの瞳は、それでもなお、純粋な輝きを宿していた。
18/03/27 13:42更新 / みなと

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