連載小説
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act.3 少年は少女になり
今からかれこれ30分くらい前、俺はギルドの食事処で食事をしていた。
案の定、サリサがピンク妄想を引きずっていたのでとりあえずイメージの中で脳天にチョップをかましておいたこと意外はとくに変わったことは無かった。

で、かれこれ20分前、俺はギルドに掲示された依頼を受けるため受付にいた。
何故か食事の際はウェイトレスをしていたアニーさんが受付をしていたので聞いてみると、どうやらウェイトレスと受付を掛け持ちしているらしい。
とにかく、そこでどの依頼を受けるかをある程度悩み、とある街道で冒険者を襲う奴がいるからそれを退治してほしいという依頼があり、それを受けた。
理由は報酬がそこそこ多かったから。
少なくともサリサがいれば並みの奴には負けないだろうし。

で、今から10分前。
あっさりターゲットは見つかった。
まぁ、冒険者を襲う奴だから冒険者である俺の前に現れるのは当然のことだった。
で、そいつと戦闘、勝利。

したんだけどねー。

「……どういうことなの?」
「…………」

そして現在。
そのターゲットに馬乗りされております。
……どうしてこうなった!

『ちょっとそこの不審人物!!なぁにダーリンにマウントポジションキメちゃってるワケ!?どういうワケ!?』
「うるさい幽霊。これは神聖な儀式だ、そう、私に打ち勝ったこの男の強さを称え、我が伴侶とするためのな」
『な、ななななななな……なんですとーーーーー!?』

ど、どういうことだ?話が急過ぎてついていけないぞ!?
俺の上に馬乗りになっている奴、声からするに女だろうが、一体初対面の奴を伴侶にするとかどういうことだよ!?
すす茶けたローブを着て、フードも目深にかぶってるからこいつの容姿は分からんし、つまり人間か魔物かも分からん。

とりあえず、どうしてこうなったかと言うと、ついさっきこのローブの人物に出会い、勝負を挑まれたわけだ。
で、俺は戦って勝利。もちろんサリサの助けアリでだ。
で、とりあえずへたり込んだコイツを近くの警邏に突き出そうとしたら、
……華麗にマウンチとられたって訳。

「っ……!」

何とかマウントポジションから抜け出そうとするが、わき腹に太ももをがっちりと食い込ませているため抜け出すことができない。おまけに肩を押さえつけられており、押さえつけられてる部分からはミシミシと不穏な音が。

「おっと逃げるな。……逃がすつもりなど無いがな」
「てっめぇ……何モンだ!?」
「……そうだったな、自己紹介が遅れた。私は……」

俺の問いかけに、馬乗り女は少し動きを止め、そして得心したように首を上下に振りながら、かぶっているフードを取り払った。
そこから現れたのは長い茶髪をポニーテールでまとめた少女だった。
しかし、人間で言う耳がある辺りにあるひれのようなもの。これは……

「お前、リザードマンだったのか……」
「ネリーと言う。よろしく」
「はぁ、よろしく……」
『こらっ!私と言うものがいながら何他の女、よりにもよってトカゲに靡いてるのよダーリン!!』

耳元でわめくサリサにはっとする。
とりあえず正気に戻ったところで一言。

「とりあえずサリサ、ダーリン言うな」
『突っ込むところはそこなのかぁぁぁあああああああ!!?』

サリサが頭を抱え激しく身悶える。幽霊も頭抱えるんだな。
しばらくしてある程度落ち着いたのか、こちらをキッと睨みつけてくる。

『突っ込むところそこじゃないでしょ!?そもそもなにマウントポジションキメてきてる相手によろしく言ってるのよ!!まずはそこを突っ込みなさいよ!!』
「ああ、そういやそうだな。ってわけで、何でだ、ネリーとやら」
「ふむ、事情を説明することはやぶさかではない。と言ってもそれほど難しくは無い。お前が私に勝った。だから私はお前の妻になる、ということだ」
『ムキーーーーッ!ナニソレ!ぜんっぜん意味わかんないわよ!』

そういえばと思い出す。
リザードマンと言うのは生まれながらの戦士らしい。
で、そんな彼女らは、修行のために世界各地を旅し、さまざまな戦士に戦いを挑むそうだ。
で、ここからが重要。試験に出るぞ、しっかり覚えておけ。
もし戦いで自分を打ち負かす戦士が現れたら、その強い男を夫とするために行動するようになるらしい。
だから俺はこうしてマウントポジションを取られていると……

……夫だと?

「……ちょっと待てやゴルァ!!俺はまだ人生の墓場に行くつもりはねぇぞ!!?まだ冒険者になったばかりなんだぞ!もっとエンジョイさせろよオイ!!」
『ダーリン!はっきり断ってくれてるのは嬉しいんだけど、できれば理由を私がいるからもう間に合ってるにしてくれれば、サリサもっと感激なんだけど!!?』
「サリサは黙ってろ!ややこしくなる!って言うかもうなってる!?どうなの!?ねぇ!!」
「私に聞くな」

ですよねー?

「ふむ……しかし実際混乱しているのは事実だな……ならば、さっさと事を済ませるとしようか」
「話を勝手に進めるな!!……事を済ませる?」
「ああ、そうだ」
「……何をする気だ?」
「決まっているだろう?誓いの接吻を……」
『許しません!!サリサちゃんそんなこと許しませんよ!!?ダーリンのファーストキスは私とのそれはそれは深いディープキスって決まってるの!トカゲが入り込める余地なんかこれっぽっちも無いの!!ちなみにセカンドも私のもの、って言うかダーリンみんな私の物!!』
「おいテメェ、勝手に決めてんじゃ……」
「ふん、どれだけわめこうとお前は幽霊。私達に触れることはできまい?魔法を放つにしてもこう彼に近くては巻き込んでしまうかもな」
『ぐぬぬ……』
「あのー、ネリーさん?も話を勝手に進めないでくださーい」

バチバチバチッ

サリサとネリーの視線がぶつかり合い、火花を散らす。
結局俺の意見なんてこれっぽっちも聞いてくれないのね?
そうなんだね?

「……ふっ」
『何よ?』

と、ネリーがいきなり視線から発する気迫を緩める。
それをいぶかしむサリサ。

「先手必勝だ」
『あ、あああああああああ!!』

と、次の瞬間ネリーがこっちを向き、顔を近づけてきた。

「うおおおおおおお!?近い!近いって!!」
「近づけなければ接吻はできまい?さぁ、おとなしく接吻を受け入れ、私の夫となるといい」

なんとか顔をそらしてキスを回避しようとするが、もとよりマウントを決められている俺がそうそう長い時間回避できるわけも無く。
すでに逃げ場はなくなっていた。
というか、何で俺はつい10分くらい前に初めてあった奴見初められなきゃならんのだ!?
そう思っているうちにも顔は近づいていき……

『ダメ……ダメェェェェェェェェェェエエエエエエエエ!!!』

ガクンッ

サリサの叫びと同時に後ろに引っ張られていくような感覚。
しかし、俺の後ろは地面なので、何かに引っ張られることはまず無い。
だがそう感じているのは事実で、もう一度ガクンッという衝撃が襲ってきたところで俺は意識を失った。




「っ!?なんだ!?」

もう少しで彼に接吻をできる、と言ったところで急に彼の体が光りだした。
そのあまりの光の強さに
私は思わず身を引く。
光は少しずつ弱まっていっているが、まだまだ強い光を放っている。

「くっ……!?」

眩しさから目をかばうために腕を目の前に持ってきて光をさえぎる。
すると腹部あたりを触られた感覚が生まれた。

「なんだ……っ!?」
「ドッカーーーーン!!」

少女の声が聞こえると同時に後ろに引っ張られていくような感覚。
いや、これは……吹き飛ばされて……っ!?

「ガハッ!」

飛ばされた先にあった岩壁に背中を強かに打ちつけられる。
その衝撃に咳き込みながらも、私は先ほど自身が立っていたあたりを見る。

「……貴様は」

そこにいたのは一人の少女。
桃色のロングヘアを風になびかせ、仁王立ちをしている。

「ふふん……ダーリンの貞操は私が守る!大魔道士サリサちゃん、ここに降・臨!!」

そして、声高らかにそう宣言した。




ふふふ、決まった、決まったわ!
一度言ってみたかったのよね〜、こういう口上って奴を。

『つ〜……おいサリサ!急にこれやるのはやめろって言ってたろ!?』
「仕方ないのよダーリン、緊急事態だったから」

そう、仕方が無かったのよ。
と言うか、私もさっさとこうすればよかったのよ!
ダーリンの唇を守り、なおかつこのトカゲを追っ払う方法!それすなわち!

「私に替わっちゃえばよかったのよね〜」

そういいながら、久々の肉をもった体を触る、そして抱きしめる。

「ああ、やっぱり肉を持った体っていいわねぇ……早く私も受肉できるぐらい精がほしいわ」

さて、ここで私が今どういう状況かを簡単に。
ぶっちゃけて言えば、ダーリンの体をのっとって自分の体に変えちゃったってところかな?
普通こんなことはできないんだけど……これはダーリンの「特殊な霊媒体質」の恩恵ね!
魂まで深く融合しちゃうくらいの霊媒体質を持ったダーリン。
取り付いた私と魂が融合しちゃうのも無理は無いわけで。
肉体は器、魂はその人間を構成する情報が詰まった塊と考えれば、私が表に出ちゃえば体も変わっちゃうのも仕方ないこと。
まぁ、これ以上長々と話すのもアレだし、詳しいことはまた今度。

「今は……目の前の泥棒トカゲにきっつーいお仕置きしなくちゃね?」

久しぶりの生身だから、手加減はできないわよ。
そう思いながら、こちらに剣を構えるトカゲを見やる。

「……愛は勝つって事を骨身に、魂にまで叩き込んであげるわ!!」
11/03/16 18:56更新 / 日鞠朔莉
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■作者メッセージ
早くもメチャクチャ、どうしてこうなった!

ここに来て性転換タグ発動の巻。
実際は違うんでしょうけど、まぁ、ドンマイと言うことで。

次回はサリサちゃん大暴れの巻の一本です。

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