連載小説
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魔物娘生物災害 W
― 彼女は考えていた ―

私はいつまで『私』でいられるだろうか・・・
この学園に魔物が出てから・・・ずっと、私の中にある『人外の部分』が悲鳴を上げている。

定期的に沸き起こり、脳髄を焦がしていく情欲にまみれた思考。
私もあの魔物達に混ざり、肉欲を貪り尽くしたいと言う衝動。

それらが、私を内側から喰い破ろうとしている。

もし、魔物の魔力に触れるような事があれば・・・・・・私は人間としてではなく、唯の淫魔として、男の精を求めてしまうことであろう。
そうなれば、もう私はここにはいられない。

ここは・・・反魔物領だ・・・

難しい顔をして考えて込んでいた私は友人の声で、正気に戻った。


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― 化学実験室 ―
「ねぇ・・・トロメリア・・・考え事?」
「えっ・・・あ・・・いや・・・なんでもないわ・・・」

クレンは何か思案を巡らせるトロメリアを心配し声をかけた。
今2人は廊下へ通じる扉から離れ、実験用の机の上に腰掛けている。
アルトリア達が戻ってきたら、扉を開けるまでに3秒と掛からない位置なので問題は無い。

「その割には難しい顔してます・・・」
「む・・・クレンには適わないなぁ・・・」

トロメリアは頭を掻きながら、答えた。

「その・・・ね・・・あんまり長引いたら、トイレとか食事とかお風呂とか・・・どうしようってね・・・」
「それは・・・そうね・・・どうしましょう?」
「いや・・・それを考えているんだけど・・・」

そんな年頃の乙女らしい悩みを吐露していると、待ち受けていたかのように、扉が叩かれ、聞き覚えのある声が化学実験室に響いた。

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― 時間を遡り、場所は医務室 ―

「・・・・・・」
「おぃ・・・大丈夫かよ?」
「!!」

シャルが何やら難しい顔をしている。
どうやら保健室から化学実験室までの逃走方法を考えていたようだが、その表情は思わしくない。
少し惚ける様な表情をしており、訝しんだティクに声を掛けられ、身体を震わせた、慌てた様子で彼女は会った時の表情をして見せた。

一方のレインは保険室内を見回していた。
出入り口以外の脱出路・・・それを求めていたのだ。
だが、化学実験室に行くにはどうしても階段を上らなければいけない以上、窓から出るわけにもいかず、天井の点検口から逃げるには高さの関係でルナとシャルが上れない。
そんな事を考えるうちに、彼の表情は強張っていった。

「レインさん、どうしたんですか?」
「ん・・・わし?」
「怖い顔してますよ」

未だ、本棚で封鎖された扉を前に、6人は立ち止まっていた。
扉を開けて化学実験室に到達するまで、いかにゾンビ達の襲撃を躱すか、それを考えていたのだった。

そんな中、顔を歪ませたレインを見て、シャルが声をかけたのだった。

「いや、この状況・・・どうやって逃げるか・・・ちょっと考えてた」
「そうですね、レインさん達が入ってきたときに気が付いたゾンビ達・・・まだ扉の前に留まってますしね・・・」

彼らが潜む保健室の扉の前には、未だ数人のゾンビがたむろして、扉を叩いたり引っ掻いたりしている。
保健室には出入り口が1つしかないため、ここから出ようとしたらどうしてもゾンビと鉢合わせてしまう。

「・・・どうやって出ようか?」
「・・・・・・そうだなぁ・・・シルト、何か考え有るか?」
「う〜ん・・・月並みだが、俺とレイン、ティクでまず扉に取り付いているゾンビ共を排除、後は俺、レインが前衛、ティクが後衛でルナとシャル、それにアルトリアを護衛しながら化学実験室まで走る・・・でどうだ?」

ティクの問いかけに、シルトが呻くように答えた。
かなりの正面突破、力押しだが、ゾンビ達が扉の前から居なくなるまで待っていたらいつになるか分からない。
化学実験室に2人を残している以上、ぐずぐずしてはいられない。

「それでいいよ、早く戻ろうよ、ここは逃げ場ないし・・・長居しない方が良いよ!!」
「・・・・・・アルトリア・・・そんなに焦らない」

焦るアルトリアにルナが声をかけた。
彼は彼女の表情を伺った。
すると、何を考えているか分からない無表情。
寡黙で無表情、だが要所を押さえて発言する辺り、人との交流が苦手なだけで人が嫌いなわけではないようだった。

そんなやり取りの最中、レインとシルトが本棚をそっとどかし、準備を終えていた。
それに気付いたアルトリアはルナから視線を外し、皮袋を抱きかかえる。
今、レイン・ティク・シルトは扉の前に、アルトリアがその後ろにおり、彼の両脇にルナとシャルが控えている。

「よし・・・じゃあ・・・行くぞ!!」
「「「応ッ!!」」」

シルトが鍵を開け、レインが扉を開いた!
扉を開いてすぐに、彼は目の前のゾンビと目が合ってしまった。

「!!!」

思わず左手の箒を振り、目が合ったゾンビを殴り飛ばした。
それにつられて、ティク、シルトもそれぞれがゾンビに殴りかかる。

ゾンビはゆっくりゾンビだったため、彼等の動きについていけず、一方的に殴り飛ばされた。
やがて、扉に殺到していたゾンビは全員が床に伏し、蠢くように痙攣している。

しかし、彼らにとどめを刺している余裕は無い。
ゾンビを完全に殺す。
そのためには頭部の破壊が必須。
だが、いちいち頭部を潰して回っていては、遥かに数の多い彼女達に囲まれてしまう。
数で組み付かれては男手でも振り切れない。

だがら、彼らは腹や足を狙い、床に殴り倒したのだった。
しかし、彼女達と争う物音につられて・・・『彼女達』が動き出した。

人間と魔物の中間の状態。
人間であった時の腕力や脚力を持ちながら、魔物の様に好色になった者達。

すなわち、廊下中の女学生達のゾンビが6人に気が付いた。
廊下中の女学生ゾンビが一斉に6人の方を振り向いた。

そして、一瞬の間を置いて、けたたましい足音が廊下中に響く。
彼女達が全力疾走で走ってきたのだった。
実はゆっくりゾンビも混じっていたが、廊下に居た数は少なく足も遅いため問題では無かった。

「走れッ!!!」
「ヒィィィィィ!!!!!!!」

ティクが叫び、誰かが悲鳴を上げながら、6人は一斉に保健室を出てすぐにある階段に走り出した。
だが、それはゾンビ達も同じだった様だ。

「オなか減っタァァァァァァ!!!!」
「ワタシ、ドウナッテるのぉぉ、誰カタスケテェェェェ!!!」

口から飛び出すのは発音の悪い悲壮な言葉、行動は魔物の本能に従って全力疾走をする、という性質の悪い冗談のような光景だった。
陸上選手も真っ青な足の速さで、この階の廊下の端に居たゾンビは6人が階段を上がり始める頃には、保健室の隣の教室まで到達していた。

そして、既に間近に居たゾンビはあっという間に階段まで到達しており、最後尾を守るティクが1人ずつ、箒で殴り、階段を突き落としていく。
6人は階段の踊り場まで上がると、既に階下にゾンビが集まっており、生気のない瞳で6人を射抜いている。
だが、段差を上るのが苦手なのか、全力疾走せず、人間が歩いて上るくらいの早さでゆっくりと間を詰めてきている。

6人はこれ幸いとばかりに階段を上りきり、3階廊下に戻ってきた。
だが、ここで誤算が生じる。
それは3階にいた女学生ゾンビ達までもが彼らに気が付き、移動を始めている事だった。

最初に気付いたのはレイン。
廊下の向こうから走ってくるのは階下に居たゾンビと同じ者達であった。
人数は10人程度だが1人1人の距離が開いており、実際彼等の元にたどり着くのは1人ずつ。
1人ずつであれば対処できる。

彼女達は衣服を千切られ、虚ろな表情で自分たちを見つめる元々人間であった者達。
人間から魔物に変じた事で、魔力が枯渇しており、強烈な情欲・性欲に突き動かされ、抑えが利かなくなっている。
そして、一度でも男の精を体内に取り込み満たされれば、完全なゾンビとなってゆっくりと歩き、理性がほんの僅かにしか残らないゾンビが出来上がってしまう。

1人のゾンビが隣の教室辺りからあっという間に距離を詰め、手を伸ばしながら飛び掛ってきた。

「囲まれるぞ!!?」
「糞ッ、扉を開けろ!!」

階下のゾンビは既に踊り場まで到達している。
廊下側はいくら10人程度といっても各教室から出てこられたら何人になるか分からない。

急いで化学実験室に逃げ込まなければ、包囲されてしまうだろう。
2人は走り、飛び掛ってくるゾンビを箒やモップでなぎ払いながら、化学実験室の扉に到達した。
もし、飛びつかれ、組み伏されれば、階下から上って来たゾンビも合わさって逃げられずに輪姦されてしまう。

レインは正面から飛び掛ってくるゾンビを間一髪で躱し、脇腹を殴って、床に倒す。
まもなく、全員が扉の前に集まった。

「おぃ!!、戻ったぞ、早く開けてくれ!!!」

そして、ティクが扉を叩きながらトロメリアとクレンを呼ぶ。
やがて、中で慌てたように物音がし始めたその時、レインが大声を張り上げた。

「・・・!!!!、ルナ!!危ない!!!」
「・・・・・・えっ?」

扉に集まる際に陣形が崩れた。
ルナは最後尾におり、ティクもシルトも扉と廊下から殺到してくるゾンビに気を取られて彼女が危険な位置に居ることに気が付かなかった。
唯一レインだけが、後方を気にして振り返っていた。
彼とルナの間にはシャルが居たが、彼女はまったく気が付いていなかったようだ。

「ア゜ア゜ア゜ア゜ア゜アアアァァァl」
「ひぃっ!!」

彼女に迫ったのは階下から上ってきた女学生のゾンビ。
ルナは避ける間も無く、押し倒され、リノリウムの床が鈍い音を立てた。
そして、大きく開口し牙をむき出しにしたゾンビは彼女の喉元目掛けて頭を振り下ろした。

ガブリと肉に牙が食い込む感覚。
だが、それはルナを襲った物ではなかった。

間一髪、レインが彼女の首とゾンビの口の間に手を差し込んでいたのだった。
あっという間に皮膚を破り、肉を裂き、血管を傷つけ出血が始まる。

彼の硝子で傷つけた腕はあっという間に鮮血で赤く染まってしまった。

「妹を離せェ!!!」
「グェッ!」

すると、シャルがルナの上に覆い被さるゾンビに真横からモップで殴りつけた。
ゾンビがルナから離れ、腕を差し込んだレインが左手から鮮血を滴らせながら立ち上がり、無事な右手でルナを抱き起こした丁度その時、化学実験室の扉が開いた。

「!!」

扉を開いたのはトロメリア、6人の様子・・・特にレインが負った傷を目にして何が起きているか一瞬で悟ったようだ。

「早く入りなさい!!」

そう言うや否や、彼女は扉の影に隠れ、彼らが逃げ込む妨げにならないようにした。
間も無く、放り込まれるようにルナが入室し、レインと彼を支えるようにシャルが後に続いた。

ティクとシルトは肩で息をしているアルトリアを護衛しながら、彼を先に入室させようとした。

その時である。

階下から上がってきたゾンビが5人まとめて殺到してきた。
2人はそちらを捌くのに気を取られ、廊下側からこっそりと忍び寄るもう1人のゾンビに気が付かなかった。

「うりゃ!!」
「シャァ!!」

2人がゾンビ2人を殴り飛ばし、3人の腕を2人掛かりで防いだ時だ、柱や壁の窪み等に隠れながら近寄ってきていたゾンビが突如、猛ダッシュをしてアルトリアに体当たりを喰らわせた。

「!!!」
「なっ!?」

一瞬のことであった。
アルトリアは廊下の端まで飛ばされ、先程まで殴り飛ばしたゾンビ達の中心に倒れこんでしまった。
その上で、ゾンビにマウントを取られ、組み伏されている。

ゾンビの大半は殴り倒されてから起き上がるまで時間が掛かっていた。
痛覚は無くとも肉体が受けるダメージは感じているのだろう。

だが、彼が飛び掛られて間も無く、床に倒れていたゾンビ達が男が至近距離まで近づいた事を察知し、むくりと起き上がった。
ティクとシルトは3人のゾンビを弾き、床に転がすが、廊下からも階下からもまだゾンビが迫ってくる。

ティクは焦りながらも思考を回していた。
(どうすればいい・・・・・・実験室の扉は開いたまま・・・離れればゾンビに実験室に侵入されてしまう、1人であの数を何とかするなんて無理だ・・・)

唇を強く噛んだ彼の目に映ったのは宙を舞う皮袋。
口がしっかり縛られ、薬品等が詰まった袋だった。
ティクはそれをキャッチすると、アルトリアの声が響いた。

「うっ・・・はや・・・早く逃げてェェェ!!!、ンッ・・・僕の・・・僕のことはいいから!!!」
「アルトリア!!!、糞ッ!!糞ォォ!!!!」
「ティクやめろ!!!、早く逃げるんだよ!!」

一瞬の忘我。
そして、アルトリアの声で我を取り戻したティクは友人を助けようと駆け寄ろうとするが、シルトが彼の両腕を掴み、それを遮った。

「離せ!!、アルトリアが!!」
「もうだめだ、諦めろ!!」

5人を超えるゾンビが彼に纏わりつき、彼の制服を脱がしに掛かる。
シルトはアルトリアの姿を見ないようにしながら、ティクの両腕を掴んだまま、彼を実験室に引き摺るように引っ張る。
ティクは最後まで友人の名を呼びながら、実験室に引き込まれていった。

実はこの時、廊下の端側ではなく、教室が並ぶ側に殴り飛ばしたゾンビ達も起き上がり、2人に向かって来ていたのだった。
2人は間一髪、ゾンビの襲撃を避けて実験室に逃げ込む事が出来た。

〜 続 〜
10/07/31 23:33更新 / 月影
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■作者メッセージ
む・・・勢いで書いていたらちょっと予定文字数を超えてしまった・・・
アルトリア君のネチョパートは次回ということで・・・

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