連載小説
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雁字搦めとは正にこの事

…。
……。
………。
………どうしよう…。
わ、わたし……汚されちゃった…。

こ、こんな唐突なハプニングで、わたしの『初めて』が…。
うぅ、ぐすっ。
見ず知らずの、ど、どこの馬の骨とも知らないようなヒトに…。
わたしだって、燃え上がる様な恋がしたかったのに。

さわやかな風の吹きぬける、森の中の小さな泉。
そこで出会った運命の二人…。
突然の出会いに、見つめ合う二人は一目で恋に落ちる…。
その後も導かれる様に繰り返される偶然…。
二人の想いが通じ合うのは必然…。
しかし、二人を引き裂くかのように度重なる困難…。
数多の障害を乗り越えて、辿り着いた始まりの場所…。
湖面に映る二人の影は自然と近付き、そして遂に重なり合う…。

みたいに運命のヒトと結ばれるはずだったのに、いきなり背中に抱きつかれて…、酷いぃ。
来るべき出会い、生活に備えて一生懸命お料理とか、お掃除とか、お洗濯とか、お裁縫とか頑張っていたのに。
それに、みんなのお婿さん探しだって、頑張って手伝っていたのに…その結果がこれなんて…。

しかも、その相手が殿方ではなく女!!なんという女!!なぜゆえ女!!!
女に操を奪われるなんてぇぇ…っ!
せめて殿方であればこれも一つの運命として、情熱の愛溢れる日々を過ごすことも出来たかも知れなかったのに…。
どうしてわたしがこんな仕打ちを受けなければならないの…?
ああ、信じてなどいないけれど神様…なぜわたしにこのような試練を…。



「ああああああぁぁああっぁああああぁあああ」

トレットが泣き続ける。
きっと、自分の身に起きた事がとてつもなくショックなのだろう。
「……」
だが、私はそんな彼女にかける言葉が無い。
彼女にとって、『はじめて』とはかなり大きな意味を持っている。それに、『はじめて』が同性と言うこともあり、精神的なダメージは大きいだろう。
泣くな。
なんて言えないし、
元気出せ。
と言った所で出るはずもない。
気にするな。
と言う方が無理だ。
取り敢えず、今の私に出来る事は、暖かい紅茶を淹れてやるくらいしかなかった。
「ほら…一先ずこれ飲んで落ち着きなさい」
「ぁああぁぅぅ…ううぅ…ぐすっ……んく、んく、んくっ…あぁああああぁぁああぁぁあぁぁあっぁああ」
トレットは紅茶を一気に飲み干し、流した水分を補充するとまた泣きだした。
…はぁ。
取り敢えずトレットは他の者に任せ、件の降って来た人間の元へと向かった。

人間の居る場所は戦利品の一時保管用天幕…つまり、各々が気に入って捕まえてきた人間を捕らえておく場所だ。
中には無駄に頑丈な檻や首輪、手錠に足枷や鎖、そして様々な嗜虐的な淫具がある。
しかし、大体がこんな所に入れておかず、適当に離れた場所で情事に及んでしまうので基本的に使われる事はない。鎖や淫具が使いたい少数の者と、偶に、倒されたがお持ち帰りされず、他の者に拾われることも無く、味方に助けて貰えずそのまま戦場に取り残されてしまった、ちょっとかわいそうな人間が入る程度だ。
その天幕の檻の中で鎖に繋がれ、気絶したままの人間はまだ年端もいかなそうな少女。この辺りでは珍しい黒髪だ。顔立ちも比較的整っていて、『可愛い』と言った感じか。ナルと同じ世界から来た様なので、彼を呼びに行かせている。通訳を頼むつもりだ。
……何処かで見た様な顔だが、はて?どこだったか。
と、正直こんな事に構っている時間は無いのだがなぁ…。
「あ、サウンさん」
「ほほう、そいつじゃな?例の人間とは」
ナルが来たが、いらない奴も来たか…。
「お前は呼んだつもりはないんだがな」
「固い事言うでないわー」
メノントとナルが少女の居る檻に近付く。
「結構がっちり捕まえてますね…」
全身を鎖に巻かれ、鉄の芋虫のようになっている少女を見たナルが少し引いている。
「怪しいからな。素性も知れないし、こんな状況の中いきなり現れたんだ。用心するに限る」
人間側の斥候かも知れないし、違ったとしてもこちらに害を成さないとも限らない。
−じゃら
む。どうやら都合よく少女の目が覚めたようだ。自分の置かれている状況に混乱しているのか寝惚けているのか、周りをきょろきょろと見回している。
その後、手錠や足枷や首輪や鎖でぐるぐる巻きにされている身体を確認し、遂に私達を見た。
「………〜〜、〜」
何か言っているのかは分からないが、少し怯えているのは分かった。
「なんて言ってるか分かるか?」
相変わらずメノントの体毛をもふもふしているナルに聞いた。
「あ、はい。大丈夫です。多分同郷ですね。懐かしいなぁ」
ナルが知らない言語を使い始めた。少女もそれに答えている様で、意思の疎通は可能な様だ。
−ガシャーン
「がおぉおぉぉぉぉおおおおおお!!!」
「!!!!!!?」
メノントが爪や牙をむき出しにし、檻を揺らして少女を威嚇した。何をしているんだこいつは。
「おお!半べそかいておるぞ!」
「遊ぶな」
メノントに拳骨を喰らわせると、私は剣を抜き鉄格子越しに少女へと切先を突き付けた。
「えええっ、な、何してるんですか!??」
ナルが慌てふためく。少女は驚いて逃げようともがくが、重い鎖に自由を奪われていてはそれも敵わない。それに、檻も大して大きく無いので逃げられる訳がないのだが。
「問われた事に対し端的かつ明確に答えろと伝えろ」
少女を睨みつけながら、ナルに指示する。
「そ、そんないきなり。もっと穏やかに行きましょうよ…」
「私はこれだけに構っている暇はないんだ。早くしろ」
ナルは渋々と言った様に少女へと話しかける。
「…自分は殺されるのか…って言ってます」
「質問するのはこちらの筈だが?」
少女は震えながらも私を見据えている。私は剣先で軽く少女の頬を撫でた。
「…!!」
少女の頬に赤い線が走る。
「お前は何者だ。何処から来た。何処の手の者だ。我らの敵か。目的はなんだ」
素人でも分かるほどに殺気を出し、少女を威圧する。
ナルが溜め息をついてしぶしぶ通訳し、少女は少しづつ喋りはじめた。
名はアカネ・シザキ。どうやらナルと同じ世界の人間の様だ。私達に害するつもりは無く、所属はタキギリミナミコウコウケンドウブ…良く分からないが、ナル曰く剣術が使えるらしい。
「で、行方不明の姉を探すために此処に来たと言う訳か」
いつの間にか宙に開いていた黒い穴に飛び込んだとか。得体の知れないものにつっ込むとは莫迦な事をしたものだ。
取りあえず敵では無い様だ。だが、いつまでも此処に置いておく訳にはいかない。
「ナル。一先ずこいつはお前がどうにかしてくれ」
「はい?」
「身柄をお前が預かれと言う事だ。お前しかこいつと話しが出来ないだろう?此処には置いておけないからな。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「それは良いですが…そんな簡単に決めちゃって良いんですか?」
ナルが言う。
「敵ではないなら別に良い。剣術が使えるそうだが此処に居る者が負ける様な腕ではないだろう。一応最低限の鎖は付けて連れて帰れ。そこでのびているメノントも忘れるなよ」
これでこの少女については良いだろう。早く勇者の対策を考えなければ…。

―…〜!…、…〜〜!

なんだ?外が騒がしい。まさか敵襲!!?
「どうした!!」
急いで天蓋の外に出ると、前から近付いてくる者が…トレット?
「トレット!落ち着いてっ!!」
「止めとけって!」
泣き続けていたトレットを任せていた魔物達が、トレットを静止させようとするが全く止まらない。
白い身体からは禍々しい魔力が漏れ出し、黒く纏わり付いていた。騒ぎを聞き付け集まった魔物達も、それを見てか必要以上に近付かず遠巻きに見ている。
「人間は…その中ですか?」
何だかもう嫌な予感しかしない。
「…何か用か?」
「そこに居るのかって聞いてるんですよ…」
普段怒らない奴が怒るととんでもないと聞くが…間違っていなかった。
これ以上の面倒はごめんだ。今あの人間と合わせる訳にはいかない…どうすればいい?
と考えていた矢先、後ろの天幕から大きな声がした。
「おおっ!この人間貰ってもよいのか!」
非常に不味い状況を見事に最悪な状況にしてしまったか我が友人よ…。
「そこに居やがったか……!!」
誰か、この口調すら変わったトレットを止めてくれ。
12/02/07 21:12更新 / チトセミドリ
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■作者メッセージ
久しぶりの更新になりました
自分の妄想を形にするのはやっぱり難しいですね

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