読切小説
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ユニコーンに乗る者
 ジョージは、開放感を味わいながら町を歩いていた。戦争が終わり、ジョージの身も自由になった。生まれてから自由のない身だったジョージは、この開放感を奇妙に感じた。ただ、気持ちいいことは確かだ。
 歩きながら王都を見回した。荒れている所が多かった。まだ、再建が始まったばかりだった。人々の顔つきも暗く、荒んでいた。
 ジョージは、内心ため息をついた。自分の国の現状を見れば、暗い気持ちになる。まして彼は王子なのだから。

 白い馬が、ジョージの元に走ってきた。ジョージは、あわててよけようとした。だが、白馬はジョージの目の前に迫った。ジョージにぶつかる寸前で止まった。
 白馬に見えたものはユニコーンだった。人間の上半身と、馬の下半身を持った魔物だ。頭には1本の角が生えている。ユニコーンは荒い息をついていた。呼吸を沈めると、ジョージに微笑みかけた。
「あなた童貞ですよね」
 ジョージは呆れた。ぶつかりそうになる位に突っ込んできて、最初の一言が「童貞ですよね」だったら呆れない者は少ないだろう。ジョージは、無言でユニコーンを見上げた。
「貴様、何を無礼な事を言っているのだ!」
 供の者が怒鳴った。
「相手をするな、行こう」
 ジョージは、ユニコーンに背を向けた。
 「待ってください、お話をしませんか?私達ユニコーンにとって、童貞は大事な事なんです」
 ユニコーンは、ジョージの背に迫った。供の者が割って入り、ユニコーンを突き飛ばした。ジョージは、ユニコーンを一瞥した。ため息をつくと、背を向けて早足で歩いた。
 ユニコーンは、去り行くジョージを食い入るように見つめていた。

 ジョージは王宮に戻ると、ユニコーンのことを考えていた。ユニコーンは童貞の男を望むことを、王宮に戻ってから思い出した。
 確かに俺は童貞だ。魔物は特殊な力を持つから、俺が童貞だとわかったのだろう。いきなりあんなふうに迫るとは、魔物と言うものは人間とは違うものだな。
 ジョージは、自分の国について考えた。もう、この国の実権は魔物が握っている。魔物に従うしかない。

 内戦の原因は、中央の権力闘争だ。王弟派、王妃派、宰相派が三つ巴の権力闘争を繰り広げた。王は凡庸であり、権力闘争を鎮めることはできなかった。
 最初に乱を起こそうとしたのは、王弟だ。反乱を起こして、王位を奪おうとした。王弟の企みは、宰相にかぎつけられた。宰相は王妃と手を組み、王弟一派を粛清した。粛清で殺された者は、三千人に上る。
 この粛清が王の命取りになった。王は、王弟一派の粛清に積極的だった。王弟の屍を切り刻んだ。王は、弟を憎んでいたことが明らかとなった。王妃と宰相は、自分たちも憎まれていると考えた。
 王は、王弟が粛清されて半年後に毒殺された。王妃の手によるのか、宰相の手によるのかは不明である。王が死ぬと、早速新王選びが始まった。
 順当に行けば、王と王妃の間に生まれた王子が新王になるはずだった。だが、宰相が反対した。宰相は、王妹を女王にしようとした。この国は、長男が王となるのが普通である。ただ、法制化はしていなかった。そこに宰相は付け込んだのだ。
 王妃派と宰相派は軍事衝突し、内戦が勃発した。両派は王と女王を立て、相手の側を偽王に従う賊軍とののしった。
 内戦は、最初は王妃派が有利だった。王妃は、自分の生国である南の隣国に救援を求めた。南の国は、三万の軍を送って軍事介入をしてきた。宰相派は追い詰められた。
 宰相は、非常手段をとった。東にある親魔物国と手を組んだ。さらに魔王と手を組んだ。たとえ主神教会に逆らっても、内戦に勝つつもりだった。魔物の援軍により、宰相派は内戦に勝利した。宰相派は、魔物の制止を無視して王妃派の粛清を行った。数千人規模の虐殺が行われた。王妃とその息子は斬首され、屍をさらされた。
 反乱が起こらなかったら、宰相はさらに虐殺を行っただろう。宰相配下の将軍の一人が反乱を起こし、宰相一派を捕らえた。宰相の傀儡だった女王は、廃位された。反乱の背後には、魔物の姿があった。
 女王には幼い息子がおり、その少年が新王となった。将軍は宰相となった。国の実権は、魔王の配下が握った。

 ジョージは、パーティーに出席していた。親魔物国、そして魔王領との交歓のためだ。王子であるジョージは、参加しなくてはならなかった。
 パーティーの中心は、一人の女だ。白い髪をして黒衣をまとい、人間離れした美貌を持っていた。魔王の娘であるリリムだ。彼女こそが、この国を実質的に動かしていた。
 ジョージは、早速リリムにあいさつをした。当たり障りのない事を慎重に話した。あいさつが済むと、早々に離れた。話をしたくなかった。
 ジョージはパーティーの出席者と話しをしながら、パーティー会場を見渡した。魔物娘達は、華やかだった。絹と毛皮と宝石で飾り立てていた。何よりも皆、優れた容姿をしていた。
 対して人間は、色あせていた。内戦により富を失っていた。かろうじて見苦しくない服装をしていた。容姿は、魔物とは比べ物にはならなかった。
 こうして俺達は、差を見せ付けられるのだな。相手に悪気がなくとも、俺達は惨めな思いをする。ジョージは、愛想笑いを浮かべて陰鬱な内心を隠した。
「またお会いできましたね、殿下」
 ジョージが振り返ると、ユニコーンがいた。町でジョージに迫ってきたユニコーンだ。
 パーティーに参加すると言う事は、このユニコーンは魔王側の権力者に連なっていると言う事か?ジョージは、どう言葉を選べばいいか分からなかった。
「私はアマルシア・ビーグルです。ピーター・ビーグル顧問の娘です」
 ユニコーンは微笑みながら言った。
 ビーグル顧問の息女か。ジョージは、ユニコーンに合わせて微笑みながら考えた。魔王と親魔物国は、新王を補佐すると称して顧問団を送りつけた。その顧問の一人が、ビーグル顧問だ。人間でありながら魔王の配下だ。
「この間は失礼しました。ですが私達魔物は積極的なのです。男性に対して、人間から見ればはしたない事もするのです」
 アマルシアは、ジョージに擦り寄った。
「この場でお伝えします。私と付き合っていただけませんか?私にとって、あなたは魅力的なんです」
「童貞だからかな?」
 ジョージは苦笑した。ジョージは、アマルシアを面白い女だとおもった。よく見ると、美人ぞろいの魔物娘の中でも美しい事がわかった。穏やかな表情の似合う顔を、純白の髪が装飾していた。乳白色の肌は、柔らかい雰囲気を作っていた。銀糸で繊細な装飾を施された白絹のドレスをまとっていた。容姿だけを言えば、ジョージにはもったいないほどの美女だ。だが、ジョージは王子と言う立場上、アマルシアに軽率に応えるわけには行かなかった。
「魅力的な男性は他にいる。彼らと付き合えばよい。申し訳ないが、私はあなたと付き合うわけにはいかない」
 ジョージはゆっくりと言うと、アマルシアに背を向けて立ち去った。もう帰っていいだろう。これ以上魔物達を相手できるほど、俺は器用ではない。ジョージは、心の中でつぶやきながら早足で歩いた。

 ジョージは、前々王の息子だ。だが、王妃から生まれたわけではない。一人の侍女から生まれた。王は、気晴らしに侍女に手をつけた。その結果、ジョージは生まれた。
 王妃は、ジョージと母を始末しようとした。王は、王妃に対して何もできなかった。ジョージと母が助かったのは、宰相が保護したからだ。宰相は、ジョージは何かの際に使える駒だと考えた。
 ジョージと母は、北部にある城の中で暮らした。この城は、宰相の配下の者が城主をしていた。ある程度の自由はあったが、城から自由に出る事はできなかった。
 ジョージは、城の中で学問や武術、礼儀作法を学んだ。宰相は、手駒にするためには教育を施す必要があると考えた。他にやる事がないジョージは、まじめに教育を受けた。城の中でのジョージの楽しみは読書だ。できることが限られているため、読書が楽しみとなった。城の外の世界について書かれた本を、熱心に読んだ。
 城の中の生活は陰鬱だった。自由がないことも陰鬱な理由だったが、それ以上にジョージの生活に影を落としたのは母の狂気だ。母は、父同様に弱い人間だった。死の恐怖にさらされ、幽閉同然の生活をするうちに狂気に蝕まれた。意味の分からぬ事をつぶやきながら、城の中をさ迷い歩いた。
 母は、ジョージが十四歳のときに死んだ。城の塔から転落して死んだ。なぜそんな所に行ったのか、なぜ転落したのかは不明である。狂人ゆえにおかしな事をしたと見なされた。
 ジョージは、母の狂気と死を見ながら少年時代をすごした。
 ジョージが城から出されたのは十九歳の時だ。宰相派と王妃派との間で内戦が起こったためだ。宰相は、ジョージを自分に同行させ国中を連れ回した。ジョージは、戦場を渡り歩く事となった。戦うことは要求されなかったが、危険にさらされる事には変わらなかった。
 ジョージは、この内戦でおびただしい数の死傷者を見た。死臭を嗅ぎ慣れた。
 内戦が終わった後も、殺戮は続いた。宰相は、敵対したものを皆殺しにしようとしていた。捕らえた敵を、自分の目の前で斬首させた。ジョージも、宰相と共に見ることを強要された。
 殺戮を見ないで済むようになったのは、宰相が反乱によって失脚してからだ。新宰相と魔物は、殺戮をやめさせた。
 新宰相と魔物の手により、ジョージは正式な王子として名乗る事ができた。かつ、自由の身となる事ができた。ジョージは、二十三歳になっていた。

 ジョージは、宰相から呼び出された。ジョージに関わる重大なことについて話したいとのことだ。
 ジョージの立場では断れなかった。早速、宰相の待つ部屋へ行った。ジョージが入室すると、宰相は席から立ち上がり、来た事に対して礼を言った。礼に対して形式的に答えると、ジョージは宰相の言葉を待った。
 宰相は、軍人らしくすぐに本題に入った。話は、ジョージの結婚についてだ。魔王の配下の者と縁組をしてもらいたいとの事だ。
 ジョージは、自分が政略結婚をさせられる事は覚悟していた。相手が魔物である事も予想していた。ジョージは、自分の立場を理解していた。宰相に対して、縁組を結ぶと答えた。
 宰相はあっさりジョージに了承されたため、喜びを露わにした。こぼれんばかりに微笑みながら、相手とその親を部屋に呼び寄せた。
 入室して来た相手は、アマルシアだった。ビーグル顧問の後について来た。アマルシアの姿を見たとき、ジョージは危うく笑うところだった。おかしな女を妻にする事になったなと、内心笑った。
 アマルシアは、礼儀を守りながらジョージにあいさつした。宰相と父の隙を見て、ジョージに擦り寄ってささやいた。殿下と結ばれるために骨を折ったんですよ。

 ジョージとアマルシアは、一緒にいることが多くなった。二人は既に婚約しており、発表もされていた。
 ジョージは、アマルシアと一緒にいる事を楽しんでいた。元々アマルシアの事は嫌いではなかった。最初に遭った時は驚き呆れたが、嫌悪はなかった。後になって、魔物ならば仕方がないと納得した。パーティーで迫られた時も、内心はうれしかった。美女に付き合ってくれと迫られることは、男の夢の一つだろう。自分の立場上、断るしかなかっただけだ。自分の婚約者となるために画策した時は、アマルシアの能力を評価した。父の威光をかさにしただけでは、王子の婚約者となれない。まず責任ある立場の父を説得し、その後で魔物達の間に話をつけなくてはならない。宰相達この国の人間とも話をつけなくてはならない。それをアマルシアは成し遂げたのだ。美貌と能力を持った女が、自分を求めているのだ。うれしいのは当然だ。
 美女と一緒にいて楽しいのはもちろんだが、アマルシアは話でジョージを楽しませた。アマルシアは、魔王領や新魔物国のことを話してくれた。人間の建築様式とは違う様式を使って建てられた巨大建築物、人間が育てる作物と違った魔界の作物、魔界で住む様々な魔物と人間達。これらの話は、ジョージには興味深いものだ。本で得られる以上の魔界と魔物の事が、アマルシアによって語られた。本に載っている魔界と魔物の事は、偏っている場合が多かった。アマルシアの話を、ジョージは貪る様に聞いた。
 アマルシアの話で一番面白かった事は、男を求める魔物娘についてだった。寝てばかりいるミノタウロスが、好みの男を見かけたら二日間休まずに追いかけた。相手の男は馬に乗って逃げたが、馬と男はへたばってミノタウロスに捕まってモノにされた。あるハーピーは運送の仕事の最中に男を見つけて、仕事を放り出して男を追いかけた。運送していた物の中には、ある市の重要書類があった。市は大騒ぎしたそうだ。剣術修行の途中のリザードマンは、婿探しのために百人以上と手合わせを行った。自分を打ち負かす者を夫にしたかったそうだ。婿となったのは、十代半ばの騎士見習いの少年だ。その時リザードマンは、手合わせのやりすぎでフラフラになっていたそうだ。
 アマルシアは、ジョージにも話を求めてきた。その時ジョージは、表情が曇らないように注意した。ジョージにとって話すことは、あまりない。城に幽閉されていた期間がほとんどだ。城から出てからは、戦場をめぐっていた。いずれも不愉快な事だ。
 数少ないジョージの楽しい経験は、城でバグパイプを聞いていた事だ。城に仕えていた一人の老人が、ジョージによくバグパイプを吹いてくれた。ジョージは、城壁からヒースを眺めながらバグパイプのもの悲しげな音色に耳を傾けていた。このような話をアマルシアに話しても仕方がないと、ジョージは沈んだ気持ちで考えた。
 ジョージは、自分が読んだ本のことを話した。ジョージは、物事を時間軸と空間軸で考えた。そのため歴史と地理に興味を持ち、数多くの本を読んだ。人間の世界について書かれていたことを話した。魔物について書かれた本については、アマルシアに確認しながら慎重に話した。アマルシアは、魔物については時々訂正しながら聞いた。
 ジョージは、いつか魔界に行って自分の目で確かめてみたいと言った。これは、ジョージの率直な望みだ。自分達を支配する者の世界を見てみたかった。アマルシアは、そのうち行けるかもしれませんとあいまいに答えた。ジョージは、アマルシアの答えで魔界に行くことは無理だと分かった。魔物達は、この国でジョージを利用しようとしているのだ。この国から出ることは無理なのだろうと、ジョージは判断した。ジョージは自由なわけではない。少しばかり遊ばせてもらっているだけなのだと、ジョージは再確認した。

 ジョージは、王都を衛兵と共に歩いていた。アマルシアを監視するためだ。アマルシアの居る王都の南門付近へと向かっていた。
 アマルシアは怪我をする時があった。理由を聞いても転んだ、ぶつけたなどと答えるばかりだ。それでジョージは、アマルシアを監視する事にした。荒事も予想されるため衛兵を連れて来た。
 ジョージのそばを、屍を積んだ荷車が通り過ぎた。餓死した物乞いだろうとジョージは思った。今の王都では珍しくない事だ。あるいは王都の住民が、物乞いを気晴らしに嬲り殺しにしたのかもしれない。これも珍しくない事だ。
 南門付近に着くと、捕虜の移送が行われていた。乱の原因である王妃の生国である南の隣国の兵だ。魔物の兵達が移送を行っていた。魔物達の中に、アマルシアとビーグル顧問がいた。ビーグル顧問は、王都の様々な問題の処理を行っていた。アマルシアは、ビーグル顧問の補佐を行っていた。
 石が捕虜に投げつけられた。王都の住民達は怒号と罵声を浴びせながら、石や汚物を捕虜に投げつけていた。魔物の兵は捕虜をかばった。捕虜に殴りかかる住民達を、押し返した。アマルシアは、住民達をなだめようと声を上げていた。
 住民達は、魔物達にも石を投げつけ始めた。アマルシアの顔に石がぶつけられた。
 ジョージは、衛兵達と共に前へ出た。
「衛兵よ、この者達を捕らえよ!逆らう者は殺せ!」
 ジョージは、怒号を上げて命じた。
「やめてください!町の人に手を出してはいけません!」
 アマルシアは叫んだ。
 衛兵達は少し迷うように立ち止まったが、住民達を拘束するために前へと進んだ。魔物の兵達は、衛兵達の前に立ちはだかった。衛兵の動きを止めると、魔物兵は捕虜の移送を再開した。
 気性の荒いオーガ兵が、石と汚物をぶつけられながら黙々と移送を行っていた。アマルシアも、額から血を流しながら移送を指揮していた。
 ジョージは、黙って見つめ続けた。

 その夜、ジョージはアマルシアと一緒に食事を取った。アマルシアの額は布で巻かれていた。ユニコーンには癒しの力がある。それでも怪我の痕は残るのだろう。怪我の具合はどうだとジョージが聞くと、たいした事はありませんとアマルシアは答えた。その後は、2人とも黙々と食事をした。
「あのパーティーは失敗でしたね」
 アマルシアは、唐突につぶやいた。
「パーティーは、私達魔物娘の結婚相手を見つける目的があったのです。夫と共に、この国を再建しようとしたのです。相手となる殿方のために、精一杯着飾ったのです。
 ですが、この国の人達に反感を持たれてしまいました。この国の人達を見下すために着飾ったと見なされました」
 パーティーに参加したこの国の者は、終始冷ややかな態度を取った。魔物娘に形式的な話しかしなかった。口実を設けて、早々に席を立った。さっさと退席したのは、ジョージだけではなかった。
「私達が反感を持たれていることは分かっています。この国に渦巻く憎悪が激しい事も分かっています。
 それでも私達は、この国を再建しなくてはならないのです。言葉ではなくて行動によって」
 アマルシアは訥々と、だがはっきりと言った。
「アマルシアは、なぜ俺に嫁ごうと考えたのだ?」
 ジョージは、以前から疑問に思っていた事を聞いた。童貞だからだろうか?王子だからだろうか?
「私は殿下について、一つの事を聞いた事があります」
 アマルシアの話した事は、内戦の時の事だ。ジョージは激戦のため、宰相達と一時離れた。一緒にいた者は、早く宰相と合流する事を主張した。ジョージはそれに反対した。供の者の中に負傷している者達がいた。急ぐとすれば、彼らを見捨てなくてはならない。ジョージの強硬な反対のため、負傷者に合わせて進んだ。この事で合流後に宰相に叱責されたが、ジョージは毅然とした態度をとった。
「目下の者を見捨てないことは、目上の者の責務です。殿下は責務を果たしています。それが、私が殿下と結ばれる事を望んだ最大の理由です」
 ジョージは無言だった。

 この国を再建か。ジョージは、一人になってバルコニーから王都を見下ろしながらつぶやいた。再建する価値があるのか?
 ジョージは、この国に良い思いはもっていない。ずっと日陰の身にさせられたのだ。殺されかけ、幽閉され、戦場を引き回された。今は、この国によって魔物に差し出された。
 王子としての責務などと言う言葉は、ジョージにとって笑うべきものだ。散々都合のいいように扱われて、責務も何もない。名ばかりの王子に何の責務があるのかと、ジョージは内心笑い続けていた。
 だが、この国の現状が今のままでいいとは考えていない。少なくとも餓死する者、凍死する者、虐殺される者が続出する状況を放置する気は無い。
 名ばかりの王子に何ができるかわからぬが、やるだけやってみよう。どうせ、いない事にされ続けた身だ。だめで元々だろう。
 ジョージは、バルコニーの手すりの握り締めながら声に出さずにつぶやいた。
 言葉ではなくて行動が必要だな。魔物達が本気でこの国を再建する気があるのか、行動を見て評価しよう。
 ジョージはバルコニーから離れ、王都に背を向けた。

 ジョージとアマルシアは、初めて臥所を共にしていた。身を清めた二人は、お互い夜着を床に落とした。
「殿下、いえだんな様。どうか私に任せてください」
 アマルシアは、白い裸身を露わにしながらジョージに近づいてきた。ジョージの肩を撫でると、顔を寄せて口付けた。くり返し口付け、肩から背を撫で回した。アマルシアの手つきは、かなりぎこちない。怪訝に思いアマルシアの顔を見ると、あせっている表情が浮かんでいた。
「ご心配なくだんな様。どのようにすればよいのか、あらかじめ何度も頭の中で考えました」
 アマルシアは強張った笑みを浮かべた。ジョージはアマルシアを抱き寄せ、背を撫でた。ジョージの手つきも、アマルシア同様にぎこちなかった。ジョージは、やはり強張った笑みを浮かべていた。
 アマルシアは、ジョージの前にひざまずいた。ジョージのペニスに顔を寄せ、そっと口付けた。上目遣いにジョージに微笑むと、ペニスに舌を這わせた。アマルシアの舌使いはつたなく、ジョージはあまり快感を得られなかった。ただ、アマルシアがひざまずいて自分に奉仕してくれる事に対して、ジョージは喜びを感じた。
 アマルシアは豊かな胸をつかみ、ジョージのペニスを挟み込んだ。胸を上下にゆっくりと動かし、ペニスを愛撫した。胸の谷間から出ているペニスの先端に、顔を寄せて撫でるように舐めた。
 ジョージは、胸と舌の感触により快感を得ていた。何よりもアマルシアが自分に対して奉仕していると言う事が、ジョージを上り詰めさせた。
「そろそろ出そうだ。口を離してくれ」
 ジョージは、アマルシアの口に出す事をためらった。アマルシアは、一旦ペニスから口を離して微笑んだ。
「どうぞお好きなところに出してください。口に出してもいいですよ」
 アマルシアは再びペニスに口をつけ、いとおしげに舐め回した。
 ジョージは耐えられず、アマルシアに向かって精を吐き出した。アマルシアの口に白い液が射出された。アマルシアは、その白濁液を飲み込もうとした。アマルシアは、むせ返り咳き込んだ。
「吐き出したほうがいい。無理をするな」
 ジョージの言葉に、アマルシアは無言で首を振った。アマルシアは口を押さえながら、ゆっくりと精を飲み込んでいった。飲み終わると、白濁液で口を汚しながら微笑んだ。
「今度は俺がやろう」
 ジョージは、アマルシアの後ろに回りひざまずいた。尻を撫でながら足を広げさせた。白い毛の中に顔をうずめた。白毛に隠されたヴァギナをゆっくりと舐め回した。ヴァギナからは、透明な液が絶え間なく流れ出した。
 ジョージは立ち上がり、回復した自分のペニスを口で愛したものに当てた。ゆっくりと中へと押し入れていった。アマルシアはうめき声を上げた。ジョージが動きを止めると、中へ入れて下さいとアマルシアはささやいた。ジョージが押し入れると、アマルシアの白毛を一筋の鮮血が染めた。アマルシアはうめきながらも、どうぞ中へ入れて下さいとささやき続けた。
 ジョージは、アマルシアに負担をかけないようにゆっくりと動かした。だが、経験のないジョージの動きは不器用だった。アマルシアは、目を閉じながら震えていた。ジョージは、再び上り詰めようとしていた。
「俺の子を生んでくれるか、アマルシア?」
 ジョージは、うめき声交じりに問うた。
「はい、私はだんな様の子が欲しいのです」
 アマルシアは、目を閉じながらささやいた。
 ジョージは一声上げると、アマルシアの中で果てた。アマルシアは、震えながら精を受けていた。二人は共に体を震わせていた。
 精を出し終えると、ジョージはアマルシアの腰と尻を抱きしめた。アマルシアは、ゆっくりと足を折り曲げて腰を下ろした。二人は寝台の上に折り重なった。ジョージは、アマルシアの甘い匂いの中で息を付いた。

 ジョージとアマルシアは、国の北部を巡察していた。ジョージは巡察使となった。王に変わって地方を巡察し、王の威光を現す職だ。現在地方では独立の動きあった。中央の力が弱まった事で、地方に反逆の気風が起こったのだ。ジョージの役目は、王に変わって地方を支配下に置く事だ。王子であると言う事で、王の代理にはふさわしかった。アマルシアは、ジョージの補佐をする事になった。
「だんな様、乗り心地はいかがですか?」
 アマルシアは、笑いをこらえるような顔で尋ねた。
「悪くはないが恥ずかしいな」
 ジョージは苦笑しながら答えた。ジョージは、アマルシアの背に乗っているのだ。ジョージは、初めは馬に乗るつもりだった。それに対して、アマルシアは異議を唱えた。自分の背に乗ったほうが、人々の印象に残り巡察使にふさわしいと。ジョージは初めは断ったが、アマルシアに押し切られた。
「いいではありませんか。これでだんな様は白馬の王子様です」
 ジョージは、思わずアマルシアの頭をはたいた。
「痛いです。妻に暴力を振るうなんて、夫として最低ですよ」
 アマルシアは、頬を膨らませた。
「恥ずかしすぎる事を言うからだ。これ以上言うと降りるぞ」
 ジョージは、顔を赤らめながら言った。
「だめです。だんな様を乗せていいのは私だけです。他の馬に浮気をしないでください」
「せめて人のいる所では、恥ずかしい事を言わないでくれ」
 ジョージは、汗を流しながら言った。側にいる供の者は、吹き出すのをこらえている。アマルシアは、わざとらしく済ました顔をしていた。
 ジョージは、もはや苦笑をする気にもならず辺りを見回した。戦火のために荒れた痕があった。人々の顔つきも陰惨だった。国を再建するのは難しいだろう。再び戦禍が起こる可能性も高い。
 それでもジョージは、できる限りやってみるつもりだった。ジョージは、妻の白い柔毛を撫でた。この白を象徴する魔物と共にやるのならば、できるかもしれないと思った。
14/05/05 13:30更新 / 鬼畜軍曹

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