連載小説
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白と黒
 ロロイコ家は、建国の際の戦争で武勲を上げた騎士の一族である。
 母は若いころにフェリエの王族を戦技大会で打ち破り、三人の姉はレスカティエやその属国との戦争で今も活躍している。
 我が一族の得意とする戦術は馬上槍を用いた突撃と、代々ロロイコ家に伝わる秘伝魔導武具を用いたレディメイド戦術だ。それだけで私たちは今の地位を築いた。
 レディメイド戦術とは、魔導武具に込めた魔力を用いて武具を変形させ、他の武具を生み出すという、単騎での戦闘能力を向上させるものだ。オールラウンドな射程での戦闘と、瞬間的に火力を上げることができるため、単騎で数名の部隊と同程度の戦力を生み出すことができる。
 そんな術を持つ由緒正しき家に私は生まれ、私は17年生きた。
 そんな期間の中で、私についたあだ名は『黒い淑女』だ。
 『バイコーンでありながら、ユニコーンのように淑やかだ』という理由で、誰かが呼び始めたのだろうと思う。けれど、そんなあだ名で呼ばれているのを聞くたびに、私はユニコーンにはなれないのだと自覚する。
 そう呼ばれるたびに私は傷つき、ウソの笑顔で微笑む。そして、ユニコーンへの憧れをひた隠し、姉様たちの様になりたいと思い続けるのだ。 
 私はユニコーンの家系に生まれたバイコーンだから。
 ユニコーンの家系に産み落とされた、ロロイコ家の暗部だから。

             §

 本来、ロロイコ家は建国の際に活躍したユニコーンの家系だ。
 私の母は私を生む際にバイコーンへと変わってしまったが、現フェリエ王を戦技大会で打ち破った際に、彼女の毛並みは雪のように白いと称賛されていたのだと言う。
 また建国の聖戦と呼ばれる私の祖先が活躍した戦争の記録を見ると『レイナ・リリエ・ロロイコ』という名前が散見され、その名前を調べていくと、彼女はユニコーンであるという記述に突き当たる。
 だから、私の母がユニコーンであったということは、覆しようのない事実なのだ。
 そしてその事実が指し示すのは姉が生まれ、そして私が生まれるまでの間に、父は母以外の誰かと交わってしまったという事となる。
 しかし、私の父は私の母が唯一愛した人物であり、私の父もまた、私の母だけを愛していたのだ。

 だから、私の父が出来心で母以外の誰かと交わる、なんてことはなかったはずなのだ。

 ――誰かが私の父を襲わなければ。

 そうであるのならば、私はユニコーンとして生まれていたはずなのだ。

 そうして誰かが父を襲い、爛れた、自分勝手な欲望を満たした後に、父は母に泣きながら自分の身に起きたことを告白したのだと言う。
 母は驚いたと言うが、父をありのままに受け入れ、『常に愛するのは貴方だけだ』と伝えたのだと言う。
 そう言う母に父も、母だけを愛すると誓った。
 そうしてその後、母はバイコーンへと変わり、私は生まれた。
 父は母がバイコーンに変わった後も母だけを愛している。誓いを守り続けているのだ。その姿を母は間近で見つめ、その真摯な姿にまた惚れ直したのだと言う。そして母もその真摯な父の意思を尊重し、バイコーンなのに、ハーレムを形成しようとしない。

 しかし、そんな二人の事実を知っているものは少ない。
 私の姉は三人ともユニコーンであるが、私の母をバイコーンにした父を毛嫌いし、家を飛び出してしまった。
 さらに、母がバイコーンになったことを知った魔物たちがハーレムを形成するのであれば、と屋敷の近くを離れないらしく、屋敷の周りに集まった魔物たちによる強姦事件や風評被害が後を絶たない。
 また、この事件はフェリエの騎士一族のスキャンダルであるとして敵対国家に流れ、膠着状態であった戦場に影響をもたらした。
 敵国の略奪行為や破壊行為は過激化し、血も流れたと言われる。

 故に、その事件の果てに生まれた私は、生まれた時から穢れているのだ。
 ユニコーンとは程遠い、黒い毛並みがそれをもっともらしく物語っている。また、私が私自身の地位と家系を表すミドルネームを名乗らないのも、あの事件があったせいだ。

 私に騎士になる資格は無いのだ。
 騎士を名乗れば、姉さまたちはきっと私を許さない。

 私の姉はロロイコ家当主を継承した、白い毛並みのユニコーンだ。
 姉さまたちのようになりたくても、私にそんな生き方は許されないのだ。
 私は生まれた時から戦場に血をもたらす存在で、悪で、淫乱で――。

 主君を襲う駄馬だ。

 「だったらもう、清純に生きるのは諦めようか」
 悪魔が頭の中でささやき、そのささやきに従う様に、森に向かって歩みを進めた。

 この森の中にテツヤ様が居る。

 見つけ次第、犯そう。



「私は、ルメリ・ミネルヴァ・ロロイコ」

「邪悪な古き龍の名を冠する唯一の騎士」

 小さくつぶやき、兜の位置を直してから、私は突撃した。


 

 
 
17/11/04 05:52更新 / (処女廚)
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■作者メッセージ
うん。
書く気力がなくなってきた

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