連載小説
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勇者の誕生
 トセウチ地方は長きにわたり魔物が住む魔界だった、しかしお父様が生まれたときより200年ほど前に当時の勇者が魔物達を倒し人間が住むようになった。
 その後お母様が魔王になってからも反魔物国として続いていたが、今から100年ほど前、領主の娘が不治の病にかかり、魔物化して助かったのがきっかけで親魔物国になった。
 魔界だったころ、この地にいたのはバフォメットやヴァンパイアといった知能の高い種族だったため、旧魔王時代の魔物の記録が多数残っている、私とスクルはその記録を調べるためにこの地にやって来た。
 「でもスクル、ここが魔界だったのはお父様が生まれたときより200年以上前だったんでしょ、もしここにお母様の記録が有ったらお母様はお父様より200年以上年上ということになるのよね、無かったとしてもお母様が聞いたら『私はそんなに老けて見えるの』ってお怒りになるわ」
 今のところスクルと私はお母様の出自を調べることを研究の目的にしている、お母様の旧知の魔物に会って話を聞くという手段もあるが、今回は魔王城以外の場所で古い記録にあたってみることにした。
 「このあたりは旧魔王時代の記録がたくさん残っていることで有名だったけど、今は親魔物国家になったから、教団の人間が簡単に来られるところでは無いんだ。だからどうしても来たかったんだよ」
 「お母様がらみの記録がなくてもいいってこと?」
 「もし有ったのなら儲けものっていう程度、どのような記録があるか傾向だけでもつかんでおきたいんだ、一度来ただけで全て見られるわけ無いからね」
 「結構大雑把なのね」
 「下手な弓矢も数撃ちゃ当たるの精神で気長に行かないとね。目的の資料がすぐ見つかるとは限らないし、今は必要なくても後で役に立つかもしれないからね」
 私自身旧魔王時代の歴史にも興味を持ち始めたのでスクルの考えには反対しなかった。

 「スクル、この辺りはお母様が魔王になる直前のころの記録みたい」
 私たちはトセウチ地方の中心部にある図書館に来ていた、旧魔王時代の魔界だったころの記録を一通り調べたが、お母様に関する記録は見つからなかった、そのことはある程度予想していたので、他の時代の記録も調べることにした。
「手分けして調べてみよう、魔王様が反乱をおこしたときの記録や勇者様が教団で活躍していたころの記録が見つかるかもしれない。エルゼルはそっちの棚を見てみて」
「了解」
一列目の棚を見てみたがめぼしいものは見つからなかった、二列目の棚を見てみたら古い雑誌のバックナンバーが並んでいたので一冊取り出して題名を見てみたら『主神様の教え』といういかにも生真面目そうでつまらなさそうな題名だった、しかしこの時なぜだかピンと来るものがあり本を開いて読んでみた。
「スクル!ちょっと来て!!」
思わず大声でスクルを呼んでしまった。
「どうしたエルゼル!」
あわててスクルが駆けつけてきた。
「こ…これ…」
私は雑誌を開いたままスクルに見せた、雑誌には見開きで『勇者、教団幹部の妻との姦通罪で告訴される!!』という見出しとお父様の名前が一緒にでかでかと掲げられていた。

「『主神様の教え』は勇者様が教団にいたころに発行されていた雑誌でエロとグロ、そしてスキャンダルを売り物にしていたんだ、教団からは『俗悪の極み』ってなんども発禁処分を受けたけどそのたびによみがえったんで『ゾンビ雑誌』なんて言われたくらいだよ」
「そんな俗悪雑誌がなんで『主神様の教え』なんて題名なの?教団が発行していると勘違いさせるため?」
「この雑誌を編集、発行していたのはテクレという人で教団の聖職者だったけど辞めてこの雑誌を創るようになったんだ」
「その人は主神や教団に恨みでもあったの?」
「いや、彼はある意味とても熱心な信者だったよ、何度も教団に捕まったんだけど『いかに醜くて愚かであろうともこれこそが人間の嘘偽りのない本性だ、決してこのことから目をそむけてはならない、これこそが主神様の教えだ』と主張を変えようとはしなかったそうだ」
主神が聞いたら『私そんなこと言って無い!(涙目)』って言いそうな話だ、信者が大勢いれば変な人の一人や二人はいるのね、お気の毒に。
「そのテクレさんは懲役刑とか死刑にはならなかったの?明らかに異端よね」
「雑誌の愛読者や支援者はかなり多かったからそうはならなかった、雑誌としてのできはとても良かったんだよ、雑誌が発禁処分になりテクレが罰金刑や追放刑を受けても彼らのおかげで直ぐ出しなおすことができたんだ」
「なんかとても読みたくなってきた」
「僕も同感だ、発禁処分されていた雑誌だから教団にはほとんど無い。当時の世相や風俗を知るための資料としての価値はとても高いからずっと読んでみたかったんだ」
「でもトセウチ地方はその頃は教団の友好国だったはずなのに、なんでこの雑誌があるのかしら?」
「たぶんこの辺りの有力者に熱心な愛読者がいたのだろうね、あと教団本部から遠いから発禁処分命令が届かなかったのかもしれない」
こうして私とスクルは『主神様の教え』を読みふけった。

「お父様が姦通罪で訴えられたことの記事だけど、お父様のコメントも載っているわね、事実は認めているけど悪いことをしたとは全然思っていないみたい。ラービストさんのコメントも載っているわ、お父様の弁護人を引き受け(させられ)たみたいね、その教団幹部は奥さんに暴力をふるっていたのでそれを助けたのだ、だって」
「その教団幹部の暴力だけど、勇者様の罪を軽くするためにラービスト卿がでっち上げた話みたいだね、そのおかげで罰金刑で済んだけど。ちなみにその罰金もラービスト卿が立て替えたらしいよ」
お父様…あなたはラービストさんにどこまで迷惑をかけたら気が済むのですか…。
「いくらお母様と出会う前の話でも、お父様が間男だったなんてお母様が聞いたら怒り狂うわね」
「魔界的価値観でも人の奥さんと浮気するというのは許せないこと?」
「夫持ちの魔物娘が他の男と浮気するなんてありえないわよ、だから男が既婚の魔物娘に無理やりってことになるけど到底許されない大罪ね」
「まさか死刑とか?」
「そんなもったいないことはしません。魔物娘の中には『悪食』なのもいるのよ、どうしようもない男を徹底的に調教して自分好みの性格に矯正するというのが大好きという魔物娘にお持ち帰りされるわね」
「魔界的価値観では死刑のことを『もったいない』っていうのか…」
スクルはクスクス笑っていた、そんなに可笑しい事かしら?
「でもこの記事では少なくとも勇者様と人妻の間では無理やりでは無いみたいだよ」
「お母様の嫉妬深さは時空を超えるわ、自分以外の女と付き合ったというのが許せないのよ」
「それならこの記事も魔王様には見せないほうがいいね」
スクルは別の『主神様の教え』を私に差し出した、その記事には旧魔王軍の幹部であるドラゴンとバフォメットを一体ずつ、デュラハンを二体の計四体倒したお父様が多額の賞金を受け取り、その賞金で高級娼館を娼婦ごと一週間借り切ったと書いてあった。
「さっきの記事と合わせたら魔王城の上半分が吹っ飛ぶわね」
私の感想を聞いたスクルはケラケラ笑っていた、いや笑いごとではありませんが。
そのほか未婚の女性と付き合ったらその女性の婚約者と決闘になったとか、多額の賞金を賭博につぎこんで一晩で使い切ってしまったとかいろいろ載っていた。
ラービストさんの名前も何度か出ていた、主にもめごとの後始末をさせられていたようだった。
「お父様って本当に好き勝手していたのね」
「勇者様本人も言っていたけど、このころは魔物との戦いは文字通りの命がけだったから刹那的な生き方をしていたんだろうね」
「それもあるんでしょうけどもともとワルだったということの方が大きいんじゃない?」
以前スクルによって、お父様は故郷を追い出されるほどのワルだったということが明らかになった。
「両方だろうね」
私はお父様がらみで特に面白い記事を複写魔法を使って写した、スクルも最近覚えた複写魔法で気になる記事を写した。
私が写したのはお母様が読んだら間違いなく怒り狂うような記事で、これを使ってお父様を脅迫…もとい、お父様との交渉の材料に使おうと考えた。

今回の旅で『主神様の教え』を読むことができたのは全くの偶然だったが私もスクルもとても満足した、だが帰りの途中でも思いがけないことがあった。
帰る途中にスクルに「ぜひ連れて行きたいところがある」と言われてついて行ったら、かなり大きな池のほとりについた。
この池のほとりにある広場に石碑が建っていて、その石碑にはお父様の名前と何かを記念するようなことが彫ってあった。
「昔ここで、当時まだ教団の一兵士だった勇者様が『勇者』と呼ばれるきっかけになった出来事があったんだ」
「どういう出来事?」
この時私には後ろから近づいてくる人物の存在に気付くことはなかった。

魔王城の図書室には反魔物国で出版された本もそれなりにおいてあり、私はそういう本も小さいころから読んでいた。
その中には勇者の活躍する小説もかなりあった、そういう本によくある描写で私が疑問に思ったのは、勇者の後ろから敵がこっそり近づいて攻撃しようとしても勇者はそれに気付いて攻撃をかわし反撃するというところだ。
当時私の教師だったフィームズに本当にあり得ることなのか質問してみたが、彼女もあまり武術には詳しくないようなので分からないとのことだった。
そこで私はためしてみることにした、幸いにも私のすぐ近くには勇者の中の勇者と言われたお父様がいるからだ。
ある日、珍しく中庭のベンチに一人で座っていたお父様の後ろからこっそりと近づき、こん棒をお父様の後頭部に思いっきり振り下ろした、お父様は私に全く気付かずこん棒の直撃を受けてその場で気絶した、私はその場からすぐに立ち去った。
私がひどいことをしたかのように思われるかもしれないが、お父様はよく『武術の鍛錬のために必要ならばいつでも俺に打ちかかってこい』と言っていたので、それを実行しただけである。
お父様が何者かに襲われたというニュースは魔王城を震撼させ、大規模な犯人探しが行われたが、ついに真犯人は見つからず教団のスパイの仕業ということにされた。
実験の結果として、襲う側が足音を立ててしまったとか、襲われる側が常に感知魔法をかけているとかいうことでもない限り、誰かがこっそり後ろから近づいてくることに気付くということは現実にはあり得ないという結論に達した。
いったい何が言いたいのかというと、実戦経験豊富なお父様でさえ気づかないのだから、魔界の王女の嗜み程度にしか武術を学んでいない私が、誰かが後ろから近づいてくることに気付かなくてもしょうがないということである。
「エルゼルお姉ちゃあああああああん!」
何者かに後ろから抱きつかれた私は驚いて前方によろけてしまった、あわてて前に足を出して2、3歩進む形になり、両手を前に出したので真ん前にいたスクルを突き飛ばす形になってしまった。
この時スクルは池に背を向けて立っていたので、後ろによろけて池に落ちそうになった。
あわてたスクルは自分の背中のリュックサック―研究を記録するノートや地図、旅先で集めた様々な記録や資料、筆記用具その他諸々が入っていてスクルにとっては命の次に、いや命より大事なものである―を外して目の前の私に押し付けて、私がそれを受け取ったのを確認して、ほっとした顔で派手な水しぶきと水音を上げて池に落ちた。

「スクルお兄ちゃん、ごめんなさい……」
私の末の妹アメリはスクルに謝っていた。
アメリは今のところ私の姉妹―リリムの中では一番年下の妹だ、以前は魔王城に住んでいたから私とは顔見知りだが、魔王城の外に住んでいる姉たちに会いたいと8歳で旅に出たという好奇心旺盛な、なかなかの傑物である。
私たちと再会したときはアメリには同行者が3人いて、ワーシープとその夫、刑部狸の組み合わせだった。
スクルは池に落ちた後すぐに自力ではい上がって来たが、当然ながら全身ずぶぬれだった。
アメリはあわてて池のほとりの広場に「テント」を立てた。
「テント」といっても外見も中身も「小屋」と言った方が分かりやすい、その気になれば10人くらいは就寝可能で、風呂も台所もあるというのに、普段は折りたたんで子供でも持ち運び可能という魔法技術の粋を凝らしたとてもご都合主義的な…じゃなくて便利な代物である。
これをアメリに与えたのはなんだかんだで小さな子供には甘いお母様である、その気になれば私も手に入れることはできるのだが、今のところスクルとの旅は宿が整備されている街道しか歩いていないのと、スクルは野宿には抵抗が無いようなので私たちには当分は必要が無い。
「そんなに謝ることは無いよアメリちゃん、大事なものは濡れずにすんだからね」
スクルは全く怒っていなかった、自分にとって命より大事なものが濡れずにすんだからだ、逆にいえばリュックサックがずぶぬれになって、中身が濡れて壊れてしまったらどれだけ怒っていたか…想像しないことにした。
「でも…」
スクルは膝立ちになり視線の高さをアメリに合わせた。
「大好きなお姉ちゃんに久しぶりに会えたんだから嬉しくて仕方なかったんだよね」
そういわれてようやくアメリは落ち着いた、そしたら風呂が沸いたのでスクルは浴室に行った。
「エルゼルさんは一緒に入らないんですか?」
アメリの同行者のワーシープ(まだ名前は聞いていない)が私に聞いた、まあそう思うのは当然か。
「スクルは見るのも見られるのも聞かれるのもいやっていう主義でね、鍵と防音設備のあるところでないと絶対にしないのよ」
「よくしつはぼうおんかんびだよ!」
アメリが嬉しそうに教えてくれた、そうなると私の魔物娘の本能がうずき出すが…。
「やっぱいいわ、スクルはここにいる皆さんが『今頃浴室ではあの二人がしているんだろうな』って想像していると思うと絶対に嫌がるから」
「サマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんににているね、アメリはべつにいいのに」
アメリがそういうとワーシープとその夫の男性は顔を赤くして、それを刑部狸がニヤニヤしながら見ていた。
スクルが風呂から出てきて着替えたので互いに自己紹介をした。
ワーシープがサマリ、その夫が元勇者のユウロ、刑部狸が花梨(カリン)とのこと、ん?
「ねえアメリ、魔王城を出発するときに名前は忘れたけどクノイチがお供についていなかったっけ?」
「ベリリお姉ちゃんのこと?たびのとちゅうでけっこんしたからアメリのおともはやめちゃたんだよ」
「ならしかたないわね」
私とアメリの会話を聞いていたスクルがハァ?というような顔をした。
「魔界的価値観では王女のお供っていう重要な役目を『結婚したから途中で止めます』で問題無いの?」
「魔界的価値観では魔王の命令より夫の方が重要なのよ」
スクルは「慣れるのに時間がかかるなこりゃ」とぶつぶつとつぶやいた、サマリさんも「あの時は私もそれでいいの?って思いました」とスクルに話していた。

スクルが風呂に入っているうちに日が暮れてしまったので、今夜はアメリのテントに泊めてもらうことになった、夕御飯もいただくことになり台所からいいにおいがしてきた、アメリ御一行のなかではサマリさんが食事担当のようだ。
「今日っのごっはんはなっんだっろなー♪  おっなかすいたーはっらぺっこだー♪」
食事用のテーブルの私の真ん前にはアメリが座っていて、両手にナイフとフォークを持ちながら歌っていた、聞いたことが無い歌だなと思ったら作詞作曲ともアメリらしい、スクルはその歌を聞いていた、べつに聞き惚れているわけではなく後であの歌を記録に付けておくつもりなようだ。
なんとなくアメリを見ていたが、ふと違和感を持ち、アメリをよく観察していたらその正体に気付いた。
「アメリ、あなた左利きだったっけ?」
「ちがうよ、なんでそんなこときくの?」
アメリは右手にフォーク、左手にナイフを持っていた。
「ナイフとフォークの持ち方が逆よ」
「こう?」
アメリはナイフとフォークを柄のところではなく、刃のところを持った。
「ちょっといたい…」
「そうじゃなくてナイフが右、フォークが左よ!」
私は少々キレてしまった。
「こう?」
アメリは両手を交差させた。
「違うわ!それで食えるものなら食ってもらおうか!」
私はほぼキレてしまった。
私たちのやり取りを見ていたユウロ君がアメリに丁寧に教えた、あの程度のことでキレるとは私もまだまだ修行が足りないようだ。
しかし私の知っている限りアメリはあんなアホの子では無いはずだが…?考えてみれば「あの」お母様の娘なのだからたまにああいうボケをやらかしてもおかしくは無い。
スクルとカリンさんはケラケラ笑っていた、たぶんスクルはこのことも記録に付けるだろう、以前スクルは『現在は一瞬の後には歴史になる、だから現在のことを正確に記録に残すのも歴史家の役目だ』と言っていたが、これは将来結婚式のスピーチで暴露される程度の歴史だ。

 サマリさんの調理が終わり、食事が始まった。
 食事中の話はアメリ側がこれまでの旅の話、私の方はスクルとの出会いが主な話題だった。
 「スクルさんは以前は教団にいたのですか、俺と同じですね」
 「正確にいえば今でも所属していますよ」
 「は?それってまずくないすか?」
 「何故です?」
「いや何故って……、本人がいいのならいいのかな」

「サマリさんはアメリがワーシープにしたのね」
「サマリお姉ちゃんにぴったりだとおもったからだよ」
「ワーシープウールって高く売れるそうだからね」
「そんなりゆうじゃないよ!」
「ごめん、冗談」

「カリンさんはジパングの出身ですか、ジパングの歴史には以前から興味があったんです」
「まあジパングは昔から人間と魔物が仲良くしていますからなあ」
「昔ジパングで刑部狸が人を殺してそのしかえしとして、ワーラビットに背中に放火されて大やけどして、溺死させられたことがあったというのは本当ですか?」
「あの話かい!事実やけどこれ以上は勘弁してもらえまへんかなあ」

「エルゼルさんの服って、リリムの割に露出が少なくて地味ですね」
「スクルがとても嫉妬深くてね、私が他の男にじろじろ見られるのがいやなのよ」
(たとえ地味な服でも大きな胸は隠せないというのはさすがにリリムねああねたましいねたましいねたましいねたましい)
「あのーサマリさん、なんだか目つきが怪しいのですが…」

「お父さんがたおれたって?なにがあったの?」
「人は決して己の過去から逃れることはできないという事実の生きた証明ね」
「???」
「スクルとの出会いにもかかわってくるからじっくりと話すわ」

アメリ達はお父様が倒れたころは大陸の端の方を旅していたようだ、さすがにそこまでうわさは届かなかったらしい。

「スクルに初めて会ったときは私をとても警戒していたわ、だから魅了しようとしたけど失敗したのよ」
「どうしてしっぱいしたの?」
「アメリ、魅了を使おうとするときは、歯を磨くのと顔を洗うのを忘れてはだめよ」
「???」
「失敗した理由はね…」
このあとむちゃくちゃ笑われた、まあ確実に受けるネタを手に入れたと思えばいいか。

お父様の詩集の話をしてみんながあきれた後、スクルにこっそり話しかけた。
「さっきスクルが言いかけていた、お父様が勇者と呼ばれるきっかけになった話ってアメリに聞かせても大丈夫かしら?」
「旧魔王時代の出来事だけど人間も魔物も死なないし、後味が悪いということも無いよ」
夕食と後片付けも終わったので、お父様が「勇者」と呼ばれるきっかけになった昔この場であった話をスクルがすることになった。

「このあたり…トセウチ地方は春と秋にはまとまった雨が降りますが、夏にはほとんど雨が降りません、そのため昔から用水路やため池と言った灌漑が盛んで、僕が落ちたあの池もこの辺りでは一番大きい人工のため池なんです。その年も夏が始まり住民たちは雨が降るか不安に思っていたら、そこに魔物がやって来て彼らにこう告げました『俺の力によりこの辺りは雨が一滴も降らないようにした、降らせてほしいのなら貢物をさしだし、俺を崇めろ』と」
私にとっては旧魔王時代の人間と魔物が敵対していた時代の話は慣れているので、人間を襲ったり殺したりしないだけまだましな話だが、アメリはショックを受けたようだ。
「そんなことをするまものがいたの…」
「アメリ、その時代はそれが当たり前だったの、これはまだましな方よ」
「魔物の言うとおり雨は一滴も降らず、住民たちはやむを得ず貢物をさしだしましたが魔物は『これでは足りない』というばかりで雨はやはり降りませんでした」
「住民たちはその魔物と戦おうとは思わなかったのですか」
以前は教団の勇者だったというユウロ君が疑問を述べた、彼だったら戦ったのかもしれない。
「天候を操ることができるんなら、きわめて強大な力を持つ魔物ということになるからうかつには逆らえないと思ったんやろうなあ」
スクルが返答する前にカリンさんが答えた、スクルは「当時の常識でいえばそれが正解でした」と答えた。
そしてサマリさんが質問した。
「当時の常識なら住民たちは教団に助けを求めた、ということですか?」
サマリさんは反魔物国の出身だそうだから住民たちの発想が理解しやすいようだ、スクルは「そのとおりです」と答えた。
「いよいよお父様の登場ね」
「そうです、当時の勇者様はまだ教団の一兵士でしたが、いくつかの戦いで功績を立てて高い評価を受けていました。しかし当時は強いだけでなく主神様の加護を受けて何らかの『奇跡』を起こさないと勇者とはみなされなかったのです」
「教団の命令でお父様が魔物の討伐にやって来て『奇跡』を起こしたわけね」
アメリは複雑な顔をしていた、自分の父親が登場してきて魔物と戦うのだから、この子には現在の魔物娘と当時の魔物を分けて考えることが難しいようだ。
「この地に来た勇者様は魔物に戦いを挑みました、激しい戦いの末、魔物は逃げだしトセウチ地方から出て行ったのです」
「めでたしめでたし…ではないのね」
これで終わりではお父様の『奇跡』とやらがでてこない。
「魔物が逃げていったにもかかわらず、雨が全く降らなかったのです」
「それって…魔物の呪いかなんかが残ってしまったということですか?」
「住民たちはそう考えました」
「アメリちゃんのお父さんはどうしたのですか?」
ユウロ君の疑問にカリンさんが答えた。
「そんなら雨乞いするしかないやろな」
「その通りです、住民たちの懇願を受けた勇者様はこの場所で雨乞いの儀式を行いました」
お父様が雨乞いをするなんて…全く想像できなかった。
「勇者様は四日間不眠不休で雨乞いの儀式を続けました、五日目についに思いが天に届き雨が降り始めたのです、住民たちが大喜びする中、勇者様は引き揚げて行きました」
「それがお父様の起こした『奇跡』ね」
スクルはうなずいた。
「お父さんってすごい!」
「さすが…やなあ」
「アメリちゃんのお父さんってすごい方なのね」
「俺が教団にいたときはそんな力を持った勇者なんていなかったなあ」
アメリは大喜びで、ほかのみんなは感心した、『詩集』の件で株が下がったお父様の面目躍如だ。
「この話はあっという間に広まり非公式ながら『勇者』と呼ばれるようになりました。後に正式に『勇者』の称号を授与されたのです」
めでたしめでたしと、しかし私は『奇跡』の話を聞いている間、心の中にもやもやしたものを感じていた、それがなんだかわからなかったが、スクルの話が終わった後その正体に気付いた、『あの人』が全く出てこないのだ。

「ねえスクル、確認したいのだけど、お父様はここに一人で来たの?」
私の質問の意味をアメリ達は分かりかねたようだが、スクルは正確に把握していた。
「いや、エルゼルもよく知っている『あの人』もいたよ」
「後…、スクルが今話したのはこの地方や反魔物国に伝わる『伝説』ね?」
「その通り」
「やっぱり…」
私とスクルの会話を聞いたアメリ達は頭の上に「?」を浮かべていた。
「エルゼルお姉ちゃん、『あの人』ってだれのこと?お父さんのおともだち?」
おともだち…ねえ、そのころはそうだったのだろうけど、いまや『たとえ死んでも絶対に許さない』だからなあ…。
アメリ達は今後も旅を続けていくわけだから、どこかで『あの人』の子孫に会うかもしれないので知っていた方がいいよね。
「『あの人』っていうのはラービストっていう人で、アメリの言うとおりお父様が教団にいたころの友人よ、それだけでなくお父様と一緒に魔物と戦っていたのよ。お父様が戦闘の担当ならラービストさんは情報収集や作戦立案が主な仕事で頭脳担当と言ったところね」
「『伝説』と言っていましたが『事実』は違うということですか?」
ユウロ君の質問にスクルが答えた。
「はい、今から話すことはラービスト卿の日記と、教団本部への報告書から判明した事実です、といいましても外形的な事実は変わりません『解釈』の問題なのです」
私を含めスクル以外の全員の頭の上に「?」が浮かんだ。

「さきほどカリンさんが言いましたように天候を操る力を持つということは、相当強い魔物だということです、ですのでラービスト卿は戦う前に慎重に偵察をして実力を見極めてから戦おうと考えていました」
「スクル、その言い方だとお父様はそうしなかったってこと?」
「そうです、『そんなもの魔物を倒せばいいんだろ』と勇者様はラービスト卿が止めるのも聞かずに魔物に戦いを挑みました」
「強大な魔物だってことを分かっているのに予備知識なしで戦いを挑むなんて…」
みんなあきれた顔をした。
「アメリちゃんのおとんはずいぶん脳筋な人なんやなあ」
「自分の実力に自信があったということでしょう」
カリンさんの感想をユウロ君がフォローした。
「ラービスト卿はあわてて追いかけて勇者様と魔物との戦いを見守りました、そして『この魔物は直接的な戦闘能力は高くなかった、しかも自分より強い相手とは戦わない主義のようだ』と記録しています」
「じゃあお父様の楽勝だったということ?」
「楽勝と言うほどではなかったけど、思っていたよりは苦戦しなかったというレベルだったみたいだね」
「どのくらい違うのかしら?」
サマリさんは考え込んでいた。
「魔物は一目散に逃げて行って、トセウチ地方は魔物の恐怖から解放されましたが、さっき言いました通り、雨は全く降りませんでした」
「ここまでは前の話とあまり変わらないわね、雨が降らない原因は魔物の呪いが残っていた、ではなかったの?」
「ラービスト卿はその原因の調査を行いました、魔物のねぐらを調べて、住民たちから聞き取りを行い、過去の天候の記録を調べました」
「それでどうなったんや?」
「ラービスト卿の結論は『あの魔物は天候を操る力なんて持っていなかった』でした」
「「「「「は?」」」」」
今までの中で一番大きな「?」が浮かんだ。

「スクル!それってどういうこと?天候を操る力を持っていないのに何で雨が降らなかったの?」
「あ!分かった!」
私が思わずスクルに詰め寄ったとき、サマリさんが大声を上げた、隣のアメリが思わず耳を防ぐほどの大声だった。
「魔物が来る、来ないに関係なく、もともとその年の夏には雨は降らなかったのね!」
「サマリさん、正解です!」
拍手がわきあがった。

「じゃあ…さっき言っていた『トセウチ地方は夏にはほとんど雨が降らない』というのは伏線だったのね」
「そういうことです」
「住民たちはそのことを知っていたはずなのに、魔物があんなことを言うから、雨が降らないのは魔物の力によるものだと思いこんでしまったのね」
「魔物もそのことを知っていたわけだな、ずる賢い奴だなあ」
サマリさんとユウロ君はため息交じりにつぶやいた。
「じゃあ…お父さんのあまごいのぎしきはどうなるの?」
しばらく黙っていたアメリが口を開いた。
「勇者様が雨乞いの儀式を四日間続けて、雨が降り出したというのは史実です」
「ということはアメリちゃんのおとんがした雨乞いの奇跡は本物ということやな?」
確かにカリンさんの言うとおりだ、しかしまだ何かありそうな気がしてきた。
「ラービスト卿は住民たちに『あの魔物はそんな力は持っていない、雨が降らないのはいつものことだ』と説明して引き揚げようとしました」
「じゃあなんで雨乞いをすることになったの?」
「ラービスト卿が説明する前に、雨が降らず困っていた住民たちから懇願された勇者様が『分かった、俺が何とかしてやろう』と請け負ったからです」
「え?お父様にはなにか考えがあったの?」
いくらお父様でも何の考えなしに引き受けたりはしないわよね。
「ラービスト卿に『お前なんか考えがあるのか』と聞かれた勇者様は『なんにもない、なあ、どうしたらいいと思う?』と答えました」
「「「「「へ?」」」」」
全員の顔に汗が浮かんだ。
「つまり…お父様は…何の考えも無いのに安請け合いしたってこと…?」
私がおそるおそる尋ねたところスクルは「そのとおりです」と答えた。
「それじゃあ、ラービスト卿がなんとかしたのですか?」
ユウロ君がスクルに尋ねた。
「はい、ラービスト卿は怒りのあまり勇者様をもう少しで絞め殺すところでしたが、なんとか落ちついて雨乞い儀式の準備を始めました」
「私だったらお父様を絞め殺していたなあ」
私がつい本音を漏らしてしまったら、アメリがスクルに質問した。
「ということはあまごいのきせきをおこしたのはラービストさんなの?」
「それも違う、本当のところ奇跡なんか起きなかったんだよ」
「あめはふらなかったの?」
「間違いなく雨は降ったよ」
「スクル、それってどういうこと?」
「ラービスト卿は適当に祭壇らしきものを作り、勇者様にその前で聖典の適当なところを朗読するように指示しました」
「適当にって…、それらしいものなら何でも良かったってこと?」
サマリさんの質問にスクルはうなずいた。
また全員の頭の上に「?」が浮かんだ。
「スクル、お父様やラービストさんに雨を降らせる力は無かったのね」
「無いよ」
「じゃあ何で雨が降ったの?」
「正確に言うと、雨乞いの儀式と雨が降ったことには何の因果関係も無いんだ」
「あの…よろしいですか…」
何かに気付いたらしいユウロ君がおそるおそる話し始めた。
「ひょっとして『雨が降るまで雨乞いの儀式を続けた』ということですか…?」
「ユウロ君、正解です!」
拍手がわきあがった。

「ひどい話ね、へたすればお父様は雨乞いの儀式を一週間どころか一カ月は続けることになったのかも知れなかったのね」
「ラービスト卿はそれくらいは覚悟していたらしいね、『安請け合いしたあいつの自業自得だ』と記録に残しているけど」
「同感だわ」
「たまたま降った雨なら、すぐに止んでしまったんじゃ無いやろかなあ?」
カリンさんの疑問ももっともだった。
「ラービスト卿もそう思った様です、雨が降り出したらすぐに勇者様と引き揚げてしまったそうです」
「これほど『めでたし、めでたし』という言葉が似合わない昔話は聞いたことが無い…」
ユウロ君が多少絶望したかのような声でつぶやいた。

「お父さんってほんとうに『でんせつのゆうしゃ』だったの?」
アメリの疑問は実にもっともだ。
「もちろんお父様が大活躍した話はたくさんあるわ、だけどそう言う話はお母様が魔王になる前の話がほとんどなのよ。つまり人間と魔物が憎しみ合っていた時代の話ね、お父様が魔物を大勢倒してめでたしめでたしという話ばっかり。いくらなんでもアメリには早すぎるわ」
これらの話はスクルからことあるごとに聞いた、当時のお父様は人間から見れば頼もしいことこの上ない味方だが、魔物からみれば実に恐ろしい敵であるということがよく分かった。
ラービストさんの話になるととても後味の悪い話で、当時の魔物が憎くなるのでとてもアメリには聞かせられない。
『…………』
全員沈黙してしまった。

この沈黙を何とかしないと思っていたらカリンさんが場を和ませようと話し始めた。
「そういやあスクルさん、ずっと疑問だったんやけどアメリちゃんのおとんが追っ払った魔物は何という種族だったんや?」
それは私も思っていた、みたところ他のみんなも同じことを考えていたようだ。
「ラービスト卿の記録には『不明』と書かれていました、当時の教団が出会ったことの無い魔物だったようです。ですが外見上の特徴は細かく記録していますので現在ではおおよそ判明しています。その種族は…」
「ちょっとまちな」
スクルが言いかけたところをカリンさんが止めた。
「いまのスクルさんの話でウチには分かったで」
「カリンお姉ちゃんほんと?」
「『当時の教団が出会ったことの無い魔物』ということはこの大陸にはいなかった魔物ということや、そしてアメリちゃんのおかんが魔王になる前は魔物の縄張り意識という物はとても強く、魔物にとっても自分の地元から他の地域に行くには命がけの時代やったんや」
全員カリンさんの話に聞き入っていた。
「これらの事実から導き出される結論は、その魔物は『よその地域の固有種』だったということや!どや、スクルさん」
「カリンさん、正解です!」
拍手がわきあがった。

「じゃあ肝心の種族はなんだったんですか?」
サマリさんがカリンさんに質問した。
「スクルさんの話が正しいのならその種族はとてもずる賢く、しかも楽して儲けようとあさましく、相手が強ければさっさと逃げるというプライドのかけらもない奴や。そんな種族は霧の大陸の『妖孤』かジパングの『稲荷』しかおらん!スクルさん、このどっちかやろ!」
どうやらカリンさんは狐系の魔物になんか恨みがあるようだ。
「カリンさん、不正解です」
「は……?」
その場を沈黙が覆った。

「スクル、正解はなんなの?」
「いや、最初から言うこともできたんだけど…」
スクルのもどかしい言い方を聞いてピンと来た、つまりスクルは気を使って具体的な種族名を言わなかったということだ。
「あ…ひょっとして…」
どうやらアメリも分かったようだ。
「ひょっとして…ジパングの『刑部狸』?」
「アメリちゃん、正解です」
カリンさんに気を使って拍手は無かった。

その場をとても気まずい雰囲気が覆い、何とか話題を変えねばと考えていたらスクルがアメリに話しかけた。
「アメリちゃんは旅に出て以来一度も魔王城に帰っていないの?」
「うん!そうだよ」
「魔王様や勇者様に手紙を出すということもしていないわけだ」
「うん!」
「随分と肝が据わっているね、僕が8歳の時なんて親から離れて旅に出るなんてことは考えもしなかったな、エルゼルもそうだった?」
「私もそんなこと考えもしなかったわ、この子が精神的にかなり早熟なだけよ」
アメリの頭をなでながら答えたら、アメリは嬉しそうな顔をした。
リリムの成長は肉体的にも精神的にも個人差はかなりある、当然性的に早熟なリリムもいて、この子と同じ8歳で夫を見つけて結婚したというリリムもいる。
ここで私はあることを思いついた。
「ねえアメリ、一度でいいからお母様やお父様に手紙を書いたらいいんじゃないの?『便りが無いのは元気な証拠』というけど、アメリから手紙をもらえばお母様も喜ぶわ」
私の提案を聞いたアメリが考えこんでいたらサマリさんが助け船を出してくれた。
「私も同じこと考えていました、私がワーシープになった時に私の両親に手紙を送ったんですけど、アメリちゃんはいいのかなとずっと思っていたんです」
「どうしようかな…」
ここで私は姉らしくアメリの背中を軽く押すことにした。
「私、魔王城に手紙を送る用事があるのよ、近くの町に『ワイバーン速達便』の営業所があるから一緒に出しておくわ、まとめて出せば割引サービスも受けられるし」
むろんこの手紙はアメリに手紙を書かせるための方便である。
結局アメリはお母様とお父様あてに手紙を書くことになった。

私とアメリは手紙を書いた後に風呂に入った、スクルは食事前に入ったので、私とアメリとカリンさんが一緒に入った、サマリさんが一緒じゃなかったのは後でユウロ君と一緒に入るためかと思ったら、その後サマリさんが一人で、最後にユウロ君という順番だった。
サマリさんとユウロ君が一緒に入らなかったのは、まだ子供のアメリと独身のカリンさんに気を使ったためらしい、じゃあなんでサマリさんは私たちと一緒に入らなかったのか?そのことを聞こうと思ったら、食事中にサマリさんが私の胸のあたりを怪しい目つきで睨んでいたのを思い出して、何故か身震いがしたので聞くのを止めた。

アメリのテントで一泊して(その晩の夫婦の営みはお預けだった、代わりにアメリを抱き枕にできたので良く眠れた)、翌朝アメリ一行と別れて、手紙を出した後私たちは魔王城への帰途についた。
帰り道は何事もなく無事に魔王城についた、私たちの部屋に戻る途中メイドに呼びとめられて私宛の手紙を渡された。
誰からかと思ったら、何とアメリのテントで私が書いて、速達便で出したはずの手紙だった、私たちはいつも通り歩いて帰ったので、手紙が今頃来るというのはおかしい。
そのことをメイドに聞いたら『ワイバーン速達便』でストライキが発生し、大幅な遅配があったとのことだった。
「同業者との競争が激しいから『ワイバーン速達便』は最近値下げしたのよ、そしたら仕事が増えたのはいいけれど儲けが減ったから、実際に働くワイバーンにしてみれば仕事は増えて給料が減ったということになるのよね」
「魔界にもストライキはあるんだ」
スクルは興味深く聞いていた。

私たちの部屋に戻って手紙を開封したら、何とアメリがお母様とお父様に宛てて書いた手紙が入っていた。
「あれえ?宛名は…私よね」
あわてて封筒を確認したが、宛名は確かに私で、字も間違いなく私が書いたものだった。
「ひょっとして封筒と中身が入れ違ったんじゃないのか、アメリちゃんとエルゼルは同じテーブルで手紙を書いていたよね」
「あ…たぶんそうかも…」
「封筒は同じものを使ったし、住所は両方ともこの魔王城だから間違えたのかもしれない」
「ということは…確かアメリは封筒の宛名にお母様の名前を書いていたから、私が封筒に入れたものは今頃お母様のところに届いているということよね、差出人のところにはアメリの名前が書いてあるから、お母様なら喜んですぐ開封するわ」
「エルゼルは封筒の中に何を入れたんだい?」
「例の『主神様の教え』から私が複写魔法で写した記事よ、お父様関係の記事で、お母様が読んだら激怒間違いなしの基準で選んだもの」
次の瞬間魔王城を私が今まで経験したことが無い激しい揺れと、鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらい大きな爆発音が襲った。
私たちがいた部屋はだいぶ揺れ、倒れた家具もあったが、幸いにも怪我はせずにすんだ。
「これって…、ひょっとして…」
「お母様ね」
私はアメリの手紙を持ってスクルと一緒に部屋を出て、お母様のところへ向かった。
「今魔王様のところに行って大丈夫なのかな」
「お母様の怒りは大きいほどすぐ終わるのよ。あとはアメリの手紙を読ませれば機嫌も良くなるわ」
「ちゃんと説明しないと、記事の写しはアメリちゃんが送ったことになってしまうな」
「そうね、今回のことは誰も悪くない、不幸な事故だってね」

お母様とお父様の私室を中心に魔王城の四分の一ほどはきれいさっぱり吹っ飛んだが、人的被害は死者0、重傷者1名、軽傷者数名で済んだ、念のために言っておくが重傷者1名とはお父様のことである。
ある姉によると今回の爆発は百年に一回程度の規模だったとのこと、それでいて人的被害は最小限で済んだのだからやはりお母様は偉大な魔王だ。
お母様には今回の事情はちゃんと説明し、アメリの手紙を渡して納得してもらった。
お父様はベッドの上で、全身包帯でぐるぐる巻きの状態で唸っていたが命に別条はないとのこと、やはり『伝説の勇者』は伊達では無い。
スクルはお父様を見て「勇者様と魔王様が結ばれた理由がよく分かった、勇者様でなければとても魔王様の夫は務まらない」と納得していた。

14/10/12 23:18更新 / キープ
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■作者メッセージ
あらすじにも書きましたが今回はマイクロミー様の許可をいただいて「幼き王女ときままな旅」のアメリちゃん御一行に登場していただきました、マイクロミー様ありがとうございました!あと、許可をいただいてから3カ月もかかってしまい申し訳ありませんでした。

今回の作品の中には「幼き王女ときままな旅」のキャラクターの一部の細かい設定も使わせていただきましたが、もし間違っているところがありましたら申し訳ありません。

私がクロビネガ様のエロ魔物娘図鑑SS投稿所に小説を投稿するようになったのは「幼き王女ときままな旅」のアメリちゃんたちが、他の作者の作品の登場人物とコラボするのを見て、ぜひ自分の作品の登場人物ともコラボしてもらいたいと思ったのがきっかけです。
その時の私は小説自体を書いたことが無いので、ずいぶんと無謀な考えでした。
何とか長編の投稿を始めましたが、「幼き王女ときままな旅」が終わってしまったので私の野心は実現されませんでした、しかし自分の作品に登場させることならできますので、今回ようやくその夢がかないました。マイクロミー様には再度お礼をさせていただきます。

以下蛇足
ここ最近艦隊これくしょんというゲームにはまっています。このゲームの敵キャラは基本は異形の怪物ですが、ボスキャラになってくると女性の姿になり、肌や髪は白く、目は赤いのでなんかリリムに似ていないかと思うようになりました。
今年の8月に登場した新たなボスキャラは幼女の姿をしていて、とても人気が高く、次々と絵がネットにUPされました。MMDを作成して踊らせている動画を某動画サイトに投稿した方もいますが、それがアメリちゃんに見えて仕方ありません。

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