連載小説
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・・・ゾンビか
 小高い高原の上。久しぶりに休みを取り、徒然なるままにやる事が無かったが、明日で休みの終わりだ。最後の日は外に出ようと、当てもなく散策していたら、なかなかいい場所を見つけた。たまには自分の体を気遣うことも大切だな。
「ふう。」
 今日は、早起きして自分で食事を作ってきた。まあ、作ったといってもおにぎりだが。
「じーっ・・・。」
 後ろから凄い視線を感じるが気にしてはいけない。今日の私はフリーダムなのだから。そう声さえかけられなければ―
「・・・ちょっと。」
 フリーダムな一日終了の巻。
「ん?」
 後ろを見ると、図鑑で見たのとそっくりなメドゥーサが。
「何かようか?」
「別に。何してるのかなって思っただけよ。」
 フンッとそっぽ向くが、頭の蛇は私に凄い興味津々のようだ。・・・ちょっといたずらをするか。
「さて、帰るか。」
「ええ!?い、いや、好きにすれば?」
 蛇たちに凄い動揺が走っている。見ていて面白いな。
「・・・良かったら食べるか?」
 残っていた一個のおにぎりを差し出してみる。
「しょうがないわね。貰ってあげるわよ!」
 無理やり奪い取るメドゥーサ。だが―
「ちょ、これは私が貰ったのよ!離れなさい!」
 頭の蛇に既に半分ぐらい喰われていた。頭の蛇が正直というのは本当だったのか。
「ちょ、何がおかしいのよ!」
「全部喰われてしまったぞ?」
「あ・・・。」
 ズーンという効果音が似合いそうな雰囲気だ。
「それでは、私は別の場所に―」
「待ちなさい。」
「・・・・・・。・・・・・・・・・・・・。・・・なんだ?」
「そんなに悩んだ末に反応しないでよ!」
 今日の私はフリーダムなのだから。
「しょうがないな。もう一個あげるから。」
「ホント!?って違う!」
 え?違うのか?
「い、今あんたどこに住んでるの?」
 ・・・?
「なんだったら、私の家に―」
「さらばだ。」
「待ちなさいって!」
 やたらに頭の蛇が擦り寄ってくる。懐かれたのか・・・?
「その、なに、私の家に可愛い服が―」
「私は男だ。」
 まったく。人がおにぎりをやったのに何て無礼極まりない。
「え・・・。」
「用はそれだけか?まったく―」
「「「ここはアタイらの縄張りだ!」」」
 デジャブ。
「じゃじゃ〜ん、わたしが、親分のパニャだ〜。」
 のほほんとしたホブゴブリン。どこかで見たような気がしないでもないが・・・?
「あ・・・。」
 なんだ?急にそわそわしだして。
『こ、こないだのニンゲンだ!』『や、ヤバイ!』『だ、大丈夫、今日は勝てる!』
 ああ、前に放置プレイをくらったときに、カッとなってボコッた連中か。
「ふっふっふ〜ここから先は通さないぞ〜。」
 ・・・通る気ないし。
「帰るか。」
「ちょっと!せめて『場所を移す』でしょ!」
「帰ってほしくないのか?」
「バ、バッカじゃない!?好きにすれば!?」
「あ、あれ?無視しないでー。」
「なら帰るか。」
「ま、待ちなさいって!」
「グスッ・・・無視しないでぇ・・・。」
 究極に混沌としている。だが、最後の休みだ。ここで奪取されるわけにはいかない!
「―東雲さんでよろしいですか?」
 ああもう!またなんか増えたよ!なんなんだ!何故私の元に集まってくるのだ!?
「私は教団特殊異端査問―」
「散会!!」
「「「「異議なし!」」」」
「待ちなさい!」
 なんだ?なにか特殊な結界を張られたのか。体が動かない。
「コホン。私は教団特殊異端査問会のラエル。実はあなたをスカウトしに来たのです。」
「・・・・・・?」
 意味が解からない。散々敵対的なことをやっておきながら何故今になって。
「ご存知の通り、今教団は可及的速やかに極秘ミッションを遂行しなければなりません。」
 この天使、『極秘』の意味を知っているのだろうか・・・?
「と、言うわけで「断る。」あなたを仲間に―なんですと!?」
「断る。大事だから二回言ったぞ。」
「今からでも、十分に人の道に戻れます!さあ、よく考えてください!魔物と人どちらが大事か!」
「まあ・・・人だろう。」
 仲間としては魔物は大事だが、私が本来居るべき場所は人里なのだから。
「さあさあ、傲慢で我侭な魔物をよく思い出すのです!人の元にいたほうがいいでしょう!」
 確かに・・・。
「ミサは何か、部屋に蝋人形がいっぱいあって別の意味で危ないし・・・まあ、なんだかんだ言って一番私を気遣ってくれていることには感謝している。」
 うんうん。これは大事だ。
「スピアは隙あらば猛烈な何かのアピールをしてくるし・・・しかし、私の鍛錬にはいつでもしっかり付き合ってくれて非常に助かってはいるが。」
 最近はおかげでよくはかどっている。
「ミリアムは・・・うん、最近どうしているか知らないな。」
 彼女のことはまあいいだろう。あんまり好かれてないみたいだし。
「マリアはすぐに変な事を周囲の奴らに吹き込む困り者だ・・・実際は夜食などを作ってくれる家庭的一面もあるが。」
 初めて彼女が夜食を持ってきたときは、びっくりした。
「カプリ・・・もといバフォ様はいつも何か絡んでくるし・・・とはいえ、私も最近は楽しみ始めているが。」
 ・・・まあ、徹夜には慣れないけどね・・・。
「そして、バハムートは夜な夜な布団に入ってきて、妙に甘えてくるし・・・とはいえ、まあ、普段とのギャップが大きい分、心を許してしまうが。」
 今となってはかけがえの無い存在だ。・・・うん。決めた。
「教団への入団を―」
 目を輝かせるラエル。そして、怯えた顔や、憎悪をあらわにする魔物娘達。私の心は最初から決まっている!

「―入団を断る!!」
 これだけ大声で言ったんだ。聞き間違えるはずは無い。
「な、何故です・・・?あなたは人の道に戻りたいのでないのですか・・・?」
「散々そちらからちょっかいをかけて来ておきながら、今更虫が良すぎるぞ。出直して来い。」
 まあ、ざっとこんな物だろう。
「―うな。」
「・・・ん?」
「逃がすと思うなよ!東雲ええぇぇ!!」
 なんだ!?急にすさまじい魔力が!
「人がじっくり懐柔させた後に始末しようとしたのに、何してくれてんだああぁぁ!!」
 ジェスチャーで、メドゥーサたちに下がるように指示。もともと向こうの狙いは私なのだから。・・・というより、キャラ変わりすぎだろう。
「こい。相手をしてやろう。」
「ヒッヒヒヒヒヒヒヒヒヒー!!」
 ジャンキーか。コイツは。
「ちょっ、そいつヤバイわよ!」
「気にするな。」
 広げた大きな翼から、木の葉のように鋭い羽を飛ばしてくるラエル・・・もとい、ジャンキー。脚にかかる重力を軽くして、無駄な動きを排除したステップで回避していく。
「わあ、すごーい。」
「姉貴!喜んでる場合じゃないですよ!逃げないと!」
「そうですよ!あの男の死を無駄にしちゃいけません!」
 死んでない。
「うるぎゃるぴぽう、ごっぱっベー!」
「何語だ!」
 更に羽の枚数を多くするジャンキー。遂に言語能力も失ったか。・・・仕方ない、アレが夢オチでないことを信じよう。
「―『天使憑依』!」
 ―勝負はここからだ!

 ―全身を包む光が収まったと思うと、そこには白金ではなく、白銀を携えた、碧眼の女・・・じゃないわね、男がいた。
「何あれ何あれ?」
 隣のホブゴブリンが物凄い興味を持っている。かくいう私も、非常に気になっているのだが。あんな魔法見たことも聞いたことも無い。まるで、天使をその身に降ろしているかのようで、きっとほかのメドゥーサでも正体は判らないでしょうね。
「『反射鏡(リフレクトリフレクション)』。」
 キンッという甲高い音を立てて、彼の周囲に結界のようなものが展開される。天使が飛ばした無数の羽はそれに当たって、来た方向へと跳ね返され、天使にもいくつかヒットした。
「卑怯者め!出て来いいぃぃ!」
 何かあれじゃあ、本当のキ○ガイね。
「いいだろう。」
 結界を消滅させると、すばやく天使に肉薄する彼。・・・名前を聞いていなかったわ。そのまま手に溜めていた光弾を一直線に払う。
「フヒ!ヒッヒーイ!」
 光弾に飲まれ、後ろに吹っ飛ぶ天使(元天使かしら・・・?)。・・・彼って、人間じゃなかったっけ・・・?
「・・・未だに馴染めんな、この感覚には。」
 顔をしかめて、また構えなおす彼。
「―魔物に懐柔された人間が、私に勝てると思うな―!」
 対する天使も、再び立ち上がった。そのまま両翼を広げて、一気に彼に突っ込む天使。
「タフだな。」
 すれ違うように体をそらして、何発か(よく見えなかった)拳を叩き込み、振り向きざまにあの光弾を放つ彼。普通の人間がここまで無駄の無い動きが出来るのもなの・・・?―

―「かいちょーう!!」
 どこに行ってしまったのだろうか。再び合流することが出来たが、休みを取ることになって以来、一度も面識していない。それはまあ、折角の休みということもわからなくもないけど。
「一度も会ってないっていうのは・・・!」
 この世界の魔物や、事情は掴んでいるものの、会長の下にはトップクラスの魔物が集まっている。しかも、何気に好感度が高いし、このままでは、せっかく血の滲む様な努力をして得た『女勇者』の肩書きの意味がなくなってしまう・・・!
「かいちょーう!!」
 はあ、困ったなあ・・・。どうしても会長の耳に入れておきたいことがあったのに。今の教団の教主について、きっと会長は知っている人だから―

―大体相手の動きがつかめてきたな。怒りにわれを忘れ、行動が単調になっている事にも気づいていないしな。
「し、ししししし死ねええぇぇ!」
 大規模に羽を飛ばしてくるが、ムラがあるため、避けるのは苦でもない。再び接近し、下あごを殴りつける。
「ハーヒー、ハーヒー。」
 変な感じだが、息が上がってきている。これでとどめ―
「―キチガイの天使は要らないね。」
 刹那、鋭い光の槍が奴の胸を貫き、塵のように姿が消えた。
「―あの程度にこんな時間かけちゃまずいぜ、タツキ君。」
「なっ!」
 この呼び方、この声、奴は―
「やあ、東雲龍紀君。元気してたかい?」
「南雲・・・由紀・・・?」
 何故ここに?ああ、ヤミナか―
「ボクはボク。ドッペルゲンガーなんて紛い物じゃないぜ。」
 爪を弄りながら、サラッととんでもないことをいう目の前の女。
「・・・ゾンビか。」
「それは無いだろう!?」
 顔を上げた。なら何なのだ?
「ボクはもともとが魔物でね、人に滅多刺しにされた程度じゃあ死なないわけだ。」
 何を言ってるんだ?それではまるでもとの世界にも魔物がいるような言い方だ。
「フフフ。信じられないって顔だね。ま、どっちでもいいんだそんなことは。」
「随分サラッというじゃないか。」
 背中の腰の辺りで手を組む由紀。何をする気だ。
「さて、タツキ君。ボクとしてもキミにはぜひ仲間になってほしいのだよ。」
「まったく要領を得ないな。」
 まだ信じたわけではないが、どちらにせよ生きていた。それで十分だ。だが、頭の第六感とでも言う場所が、警報を鳴らしっぱなしにしている。
「簡単なことさ―ボクの率いる教団に力を貸してほしい。」
11/05/15 22:46更新 / ああああ
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■作者メッセージ
話が吹っ飛びすぎですね。反省。

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