連載小説
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グレープゼリー
 僕の名は『日見 写英(ひけん しゃえい)』。
このような事は自分で言うものではないだろうが、
品行方正、規則遵守、公明正大が取り得の、生徒会長を務める高校二年生である。
…現在僕は、私生活における、非常に重大な問題に直面している。
それは…

「あっ、こんにちは、会長!」

 …恥を忍んで言おう。
今僕の目の前にいる、図書委員を務める同級生の事が、気になって仕方がないのだ。
友人としての関係を保っているのだが…はっきり言うと、その先へ進みたい。





 …





「あぁ…何て不甲斐ない…」

 今日も今日とて、自分の部屋で頭を抱える。
…結局、また一向に切り出せないまま、一日が終わってしまった。
チャンスはあるのに、どうしても普通の会話になってしまう。
生徒会長に就任したての頃、使命感に燃えていた頃の自分と同一人物とは、
到底思えないほどの腰の抜けようだ。

「どうすれば…」

 女性は、男とは性格も、性質も、考え方も大きく違う。
今まで勉学一筋で、他のものにはわき目も振らずに励んできた自分には、
他人の、それも女性の心理と言うものは全く分からない。
故に…怖いのだ。
自分が最良だと思った言葉でも、彼女を怒らせたり、傷つける結果になるかもしれない。
元々僕は、しゃべる事は苦手だし…
普通に会話をするよりも、仲を深めるのに有効な方法はないものか…



「と言う訳なんだ。何かうまい手はないだろうか、友よ…」
「…何かヤバイ物でも食ったか?まさかお前がそんな質問するなんて…。」

 …と、思い、
小学校の頃からの付き合いである、信頼できる唯一無二の友に相談する事にした。
彼は僕と違って交友関係が広く、女性との付き合いも多いから、
何かヒントを掴めないかと思っていたのだが…

「つうかそんなもん、お前の勇気の問題だろ?
 思い切って突っ込んでみろよ。そのほうが成功するかもよ?」
「そ、そうかも知れないが!その…自信も持てないんだ。
 願わくば、もう少し親密になってからの方が…」
「そうか…。相変わらず慎重派だな。それじゃあ、アレだ。
 仲を近づけるってんなら、やっぱりプレゼントだろ?」
「いいや、駄目だ!あんな清純な美しい女性を、物でどうこうしようなんて…
 僕は、そんな下衆な男には絶対になりたくないッ!!」
「…お前、純粋っつうか何つうか…自分の世界に入るなよ。
 度さえ越さなきゃ普通だろ、そんくらい。」
「し、しかし、怒られないだろうか?誕生日やクリスマスでもないのに…」
「そういうプレゼントはなぁ、何時貰っても、大抵は嬉しがられるモンなの!」
「そ…そういう物だったのか!?また全然知らなかった…」
「…ハァ、中学までお前に俺しかダチが出来ねぇ理由が、何となく分かったぜ…。」
「僕の父が、賄賂や贈答には特に厳しい人なものでな…。
 僕も昔から、そういう類は悪い事だ、ときつく教わっていたのだ。」
「…お前の親父さん、汚職の噂ゼロで有名な元市長だっけ。
 どう考えてもやりすぎ、疑いすぎだと思うんだがな…。
 …まあとにかく、何でもいいから贈ってみろよ。別に悪い事じゃねえから。」
「でも、何を送れば…」
「いきなり服とかアクセサリーは、お前にゃハードル高そうだし…
 そいつ、ダイエットとかしてる感じだったか?」
「いや、そういった様子は聞いた事がないな。」
「ならお菓子とかどうよ?女の子は大抵好きだし。」
「そうだな…。しかし、どうやって渡そうか…
 宅急便か…クラッカーや花火を鳴らしつつか…いや、列車の窓から…」
「よし俺が決めてやろう。」
「おお、それは有難い!」
「…つっても、知らない仲じゃないんだし、
 『おすそ分けに…』位の何気ない言葉で、普通に渡しとけばいいだろ。
 知らない仲じゃないんだろ?お前は、まずはそっから慣らして行けよ。」
「…それで、本当にうまく行くのか?」
「…余計な事さえ盛り込まなきゃな。」
「大丈夫だ。僕を信じろ!」
「…。」




 そして、自宅へと戻り…

「…しかし、何を送るかも重要だな。
 辺りのコンビニやスーパーで買った物ではいけないし…
 かと言って、僕はこの辺りのそういった店にも明るくないしな。
 何か、女性に贈るのに適していて、それとなく気持ちが伝わるような物…」

 僕が自室であれこれ思案していると、
普段は滅多に見ない自室のテレビの電源が突然入り、通販番組が始まった。

『モンスターズ・ミラクル・マーケット!!』
「…?どうしたんだ?タイマーを設定した覚えはないぞ?」

 僕はすぐに消そうとしたが、手が止まった。

『プレゼンターは私、ルクリー利里夢と…』
『首梨 リューナでお送りします。』

 番組の司会らしき二人組みの女性。
その美貌に、恥ずかしながら、思わず見とれてしまっていたのだ。
歌手やモデルや女優、アナウンサー等、テレビに関わっている女性には
やはり美女が多いのだろうが、芸能人に詳しくない僕の目から見ても、
この二人は芸能界で…いや、この世界中ですら類を見ないほどの
凄まじい美人だろうと、瞬時に思った。

『今回ご紹介する商品は、この『恋するゼリー』です!』

 ゼリー…なるほど、ゼリーか。
ゼリーはお中元の定番だと言うし、贈り物としては中々いいかも知れない。
極端に高くなければ、この番組のを購入してしまおうか…そう思ったが、
次の言葉で、一気にその商品への僕の印象は、『胡散臭さ溢れる代物』へと変わった。

『このゼリーは美味しさもさることながら、何と、何度でも食べられてしまうんです!』
「…何度でもだって!?そんな事がある訳ないじゃないか…。
 一気に購入する気が失せたぞ…」

 御伽噺じゃあるまいし、全く馬鹿馬鹿しい話だと思う…のだが、
思考の片隅では何故か突然、『もしかしたら、本当なのかも…』という思いが出てきた。
…いつもの僕ではあり得ない筈の考えだった。僕はこんなに単純な人間だったろうか?
それとも、ひょっとして…彼女達のような美女が紹介しているからだろうか?
僕は、美女の色香に誘われ、コロッと騙されるような男だったのか!?

(…いいや、それこそあり得ない!僕はそんな軟派な男じゃない…筈だ!!)

 僕がそんな葛藤に悩まされている間にも、紹介はどんどん進んでいく。

『そして、これが最大の特徴なんですが…
 このゼリーには、なんと『素敵な恋愛が出来る』という効果があるんですッ!!』
「素敵な恋愛…」

 そうだ、すっかり忘れていた。彼女へのプレゼントにするか否かが目的だろう。
一つおかしな点があったからって、何を熱くなっているんだ、僕は。
ひとまず冷静になり、番組の続きを見る。

『オススメは、このグレープゼリー!これが最も効果の強い一品です。
 意中の人に贈ると、あなたの想いがきっと実ります!』

 この話も胡散臭いと言えば胡散臭いが、
こっちは、女性がやるおまじないのような微笑ましさを感じる。
異性へのプレゼントとしても大丈夫な品です、という事だろうか。

(葡萄ゼリーか…まあ、普通の品で良いのだしな。)

 まさか有害な物が含まれている商品を堂々と売っている訳もないし、
よもや単なるフルーツゼリーが、とてつもなく不味いという事もないだろう。
それよりも、問題は値段だ。

『この商品に、強力精力剤『∞クライマックス』1本をお付けして、
 通常1500円の所を、今なら何とたったの1000円!
 税込み1000円でのご提供です!!
 もちろん、送料・手数料など、全てこちらで負担致します!』
「せんえん…千円、千円か…。」

 ゼリーは(見た感じ)大きめとは言え、ゼリー1つとドリンク剤1本としてはやや高い。
だが、まだ十分気軽に買えてしまう金額だ。…だがなぁ…。こんな胡散臭い物を…。
…しかし、他に『贈り物に適していて、気取っていないお菓子』の当てもないし…
まあ、騙されたとしても、大して痛手にはならない。
…それに、万が一本当だったら…という期待も、まだ残っている。
ならば…

「購入…してみるか。」

 そう呟くと、僕は電話のある場所へと向かい、
先程映った電話番号を間違えないように押した。










「あ、あああ、あの、む、村崎君ッ!!」
「はい…ど、どうしたの?会長。さっきから。
 それに何だか、凄く汗が出てるけど…」

 放課後、受付当番が終わって図書室から出ると、廊下で会長に呼び止められた。

「い、いや、これは何でもない…そ、それよりだ!」

 会長は意を決したように、持っていた鞄の中から紙袋を取り出し、私に差し出した。

「ああ、あ、こ、これは、ししし親戚のその、イトコの、息子さんが送ってくれた物で、
 し、しかし貰い過ぎてしまったので、君にお、おすそ分けしようとしてな!
 君はいつも図書委員の仕事を毎日真面目に頑張っている事だし、
 その、これからも頑張って欲しいと言う意味を込めてだな、だ、だからその、
 決してやましい理由じゃなくて、それだけは理解して欲しいと言うか、
 と、とにかく、このゼリーを良かったら食べてみてくれないか!!!」
「は、はあ…。」
「これからも、その、よよ宜しくお願いする、それではッ!!!」

 と、ひどく緊張した様子で紙袋を私に手渡すと、
そのまま物凄いスピードで走り…いや、物凄いスピードの『早歩き』で去って行った。
…後に残されたのは、紙袋を抱えつつ、ひたすら困惑しきりの私だけだった。

「…あのスピードでも、早歩きって言えるのかな?」





 そして家に帰って、疲れを癒すためにも、ベッドに仰向けに倒れこむ。

「…はぁぁ〜…あの時、チャンスだったのにな…。呼び止めればよかったな…。」

 …やっぱり、どうしても踏み出せない。
会長、恋愛とかには興味なさそうだし、ともすれば『不潔だ』とか一蹴されかねない。
もしそうなったら…もう、友達としても居られないだろう。
それは怖いけど…。

「でも…やっぱり、好き、なのに…。」

 友達は、みんな口々に『やめときなよ、あんな石頭』なんて言うけど…
会長は、すっごく真面目で、いつも皆の事を考えて行動する凄い人だ。
そういうのって、カッコイイと思うんだけど…皆、どうして分かってくれないのかな。
それに、私も私で…。

「なんで、何時まで経っても言えないんだろう…」

 気持ちは固まってても、『言わなきゃ』っていう決意は固まらない。
周りの視線なんて気にしないけど…
会長本人に拒絶されたら、どうしようもない。それが一番怖い。
でも…それでも、好きなのは、ずっと変わらない。それを言わなきゃ始まりもしない。
それが分かっているなら、どうして言えないの?
……ダメだ。ぐるぐるループしちゃう。私って、こんな臆病だったのかな…。

「…勇気が、欲しいな…。」


(…なら、あげようか?)


「…え?」

 何だろう、今の声…


(開けてくれれば…あげるよ。)


 また聞こえた…。…お化け?…それに、開けるって何を…

「…あ、そうだ。」

 開けるで思い出した。会長からゼリー貰ったんだった。
そういえば今日の会長、何でかやたら挙動不審だったけど…どうしたんだろう?
まさか会長、このゼリーを渡すだけなのに緊張してたんじゃ…まさかね。

「どんなのかなぁ〜、っと。」

 肩掛け鞄の中から紙袋を出して、中身を確認。
ちょっと大きめのグレープゼリーだ。中心には、大きなぶどうの粒が一つ。
…至って普通の見た目で、安心と同時にちょっとがっかり。
まあ、普通じゃないフルーツゼリーってどんなんだ、とも思うけど。


『溶子〜、ご飯よー。』

 
 そんな事を考えてたら、晩ご飯の時間に。
あのゼリーはデザートとして、後でゆっくり食べよう。


(よく味わってね…。人間としては、最後になるから。)


 また何か聞こえてきたけど…ええい、無視だ無視!





「ごちそうさま〜。」
「はい、お粗末さま。」

 食器を下げると、そのままスプーンを持ち出して部屋に戻った。
さて、デザートを堪能しますか…


(終わった?じゃあ、早く開けて♪)


 …また謎の声が聞こえてきた。一体何処から聞こえてくるんだろう?

「だ…誰か、居るの?」

 部屋中くまなく探してみたけど、それらしき物は見つからなかった。


(ここよ、ここ。)


 聞こえてきた先にあったのは……あのゼリー。…まさか、コレ?
いやいや、ゼリーが喋るわけないし、ましてやコレは会長がくれた物だし。
ゼリーを乗っけてるテーブルはガラス張りだから、機械とか付いてたらすぐ気付くし。
…やっぱり、幻聴かな。疲れてるのかな、私。

「ゼリー食べたら、とっとと寝ちゃおう…」

 と、私がゼリーのふたを開けた、その時。

 
(ふふふ、やっと開けてくれた…)


 ゼリーがいきなりもこもこと盛り上がり、カップの縁から溢れ出したのだ。

「わ、うわあ!?わああああぁぁッ!!?」

 驚いて後ずさるも、ゼリーの噴出は止まらない。
とうとうテーブルからも溢れるほどに膨らむと、今度はどんどん形を変えはじめた。

「あわわわ、な、何これ何これなにこれええぇぇぇ!?」

 ゼリーはだんだん上へ伸びていき、膨らんだり、くびれたりして、
少しずつ、女の人を形作っていった。お、お化け!?お化けだよね!?
や、やだやだやだ!!私、お化けとか怖い話とかホントにダメなのにぃぃ!!!

「ひっ、ひぃぃぃ、ひぅぅぅぅ…

 もう頭は真っ白で、涙も出てきた。辛うじておしっこは漏らしてない。
気絶寸前の意識で…ゼリーの変形が収まったのを、おぼろげに確認する。
…な…なんだか…むねがおっきくて…きれいな…おんなのひとの…かたちだ…
さっきから…いろいろ…ワケがわからなすぎて…あたまがおかしくなりそう…


『…こ、溶子!溶子!!どうしたの!?』


 あ…おかあさん、きてくれたんだ…。

 そこで、私は意識を手放した。





「…ふぅ、落ち着いたよ。ありがと、お母さん。」

 お母さんが介抱してくれたおかげで、数十分後、私は意識を取り戻した。

「よかった…。でも大丈夫?あんなのが出て来たんじゃ、そりゃ怖いわよね…
 もしまだ怖いなら、お母さんの部屋で寝ていいのよ?」

 お母さんは、私の部屋に踏み込んだ後、でっかいゲジゲジを発見・退治したらしく、
私の気絶は、そのゲジゲジのせいだと思っているらしい。

「い…いや、大丈夫だよ。流石にもう居ないでしょ。」

 確かにそっちもすごく怖いけど(と言うか、見なくて済んで本当によかった)
言うまでもなく、原因は別のものだ。
…でも、気が付いたときにはあのお化けは居なかったし、
あれはやっぱり、ただの私の妄想という事もあり得る。
…だから、ゲジゲジのせいという事にしとこう。
心配されたくないしね。色んな意味で。

「そう…。とにかく、無事でよかったわ。
 何かあったら、すぐに呼ぶのよ。」
「はーい。」

 そして、お母さんは私の部屋を出た。…途端に、ちょっと不安が戻ってきた。
どうか、あのゼリーお化けが現実じゃありませんように。
もう夢は覚めてて、テーブルの上にあるのは普通のゼリーでありますように…と祈りつつ、
テーブルの上を見て…顔がさあっと青ざめた。気がする。

 …あのゼリーが、カップを残して、影も形も無くなってた。
お母さんが勝手に食べたとは到底思えない。そもそも私のお母さんはそんな事しない。
じゃあ、あのゼリーは、一体どこに…?

「ふぅ〜っ、出られていきなり、また狭いところに入らされるなんて…」
「…!」

 …私の鞄の中でした。
鞄の中から、私を気絶させたお化けがズロズロと這い出て来ました。

「あ…ぁ……」
「それにしても、いきなり気絶するなんて、失礼しちゃうわね。」

 いや、そりゃするよ。完全にただのゼリーだと思ってたんだもん。

「まあいいや。始めまして♪」
「は…はじめまして…。」

 …会話は、出来るみたい。ならせめて、これだけは聞いておこう。

「あ…あなた、誰、なの?」
「ふっふっふ…。知りたい?」
「…知りたい。」
「ならば教えましょう。
 プレゼントにオススメなグレープゼリーとは仮の姿!
 アタシはステキなお婿さんを探しに別の世界からやって来た、
 人呼んで、ダークスライムのピオーネ!よろしくねッ♪」

 …なんだかハイテンションなお化けだな…。

「で、アナタの名前は?」
「えっ、えと…村崎 溶子…です。」
「ヨウコ?…アナタ、キツネ?」
「いや、人間です…。」
「ふ〜ん…。」
「………あ、あの、ピオーネさん…?」
「ピオーネって、さん付けしなくてもいいよ。」
「え、は、はあ。…あの、何をしにここへ…?」
「…え。あの声、聞こえなかった?」
「ど…どの声、ですか?」
「アナタが『勇気が欲しいな…』って言った後から喋ってたんだけど…。」
「あ、あの声か…。」
「そう。
 男の子から女の子へ手渡された時に、
 アタシは恋のキューピットになってあげるという使命があるのだッ!!
 まあ、アタシもついでに混ざるんだけどね♪」
「…あ、あの、どういう意味ですか…?」
「おおっと、また盛り上がっちゃった。つまりね…。
 …アナタ、好きな子に告白する勇気が欲しいんでしょ?」
「……はい。」
「そのための勇気を与えてあげられるのが、アタシという存在ッ!
 ついでに、好きな人をアナタの虜にしちゃって、
 お互いがずっと一緒に居られるっていう効果もつけちゃいます♪」
「…そ、それが出来たら、確かに素敵ですけど…でも、どうやって?
 …ツボとか聖水とか石鹸とか買わされませんよね?」

 最近、変な宗教とかキャッチセールスとかいっぱいあるし…

「ツボ?…まあ、そんな、物を売ったりとかはしないわよ。お金なんて興味ないし。
 アタシがアナタに出来る事はね…アナタを『変身』させるコトよ。」
「変身?」
「そ。ときにアナタ。アタシのこのカラダ…どう思う?」
「…ゼリーのお化け?」
「…う〜ん、オバケとはちょっと違うと思うんだけど。そういう事じゃなくて、
 アタシが聞いてるのは、このプロポーションについてよ。どう?」
「えっ…えっと…」

 体が半透明で、膝から下が液状に伸びてて、時々、髪や腕の一部が垂れ落ちてるけど…
顔のつくり自体は、すごく整ってて綺麗だ。
頼りがいのありそうな雰囲気を出している、大きくて、切れ長の目。
綺麗な形の鼻と、口と、絶妙なバランスで両立してる。
体のほうも、スイカみたいな大きくて形のいい丸いおっぱいと、
それに全く負けてない見事なボディーラインに、綺麗な形の腕と指。
さっきは恐怖のあまり、おぼろげにしか分からなかったけど…
正直、その辺の芸能人やグラビアアイドルなんて目じゃない位、ものすごい美人だ。
もし彼女が人間だったら、落とせない男の人なんていないってレベルの。
…それに気付くと、彼女が服を着てない事が、急に恥ずかしく思えて、
あとちょっぴり嫉妬もして、顔がちょっと赤くなった。

「…すごく、綺麗…だと、思います。」
「そうでしょ?ヨダレもんでしょ?…でもね、このカラダの一番凄い所は…」

 彼女が、その綺麗な顔を、にやぁ…と歪める。

「このカラダを活かした凄いエッチで、男の人を物凄く気持ちよく出来ちゃうってコト♪
 それこそ、男の人がこの体の虜になって、一生離れたがらなくなる位にね…。」
「ええッ!?」

 顔が一気に真っ赤になる。

「うふふふ。アナタ、初心で可愛い♪」
「だ、だって…」

 こんな美人で、しかも人じゃないのに、
いきなりそんな事言うなんて思わなかったんだもん。

「…で、変身って言うのはね…アナタにも、こんなステキな体をあげようか?ってコト。」
「え…。それって、まさか…」
「そういうコト。アナタも、アタシみたいなダークスライムになってみない?」
「…なっても、戻れるの?」
「あ、それはムリ。」
「い…嫌!ならない!人間でいいッ!!」

 お化けの仲間として一生生きるより、人間として生きて死にたい。
普通、誰でもそう思うだろう。

「え〜…。でも、欲しくない?勇気。あとこのカラダ。
 ステキな体で、すっごいエッチで、まずフられるコトなんて無いよ。
 おまけに、彼と一生、ラブラブのまま添い遂げられる可能性が絶大!
 ついでに、狭いところや離れたところのものを取れたり、
 病気やケガや生理痛に苦しむ心配も無く、老化もしないのでずっと若いまま!
 お肌の曲がり角やらスキンケアやらムダ毛処理なんかを気にする必要もありません!
 どう?便利でしょ?」

 た…確かに凄く便利そうだし、ずっと綺麗なままでいられるのは魅力的かも…
 いや、ダメダメ!そんな事の為に、
 お父さんとお母さんから貰ったこの体を、人間としての人生を捨てたりしたくない。

「お、お断り、します。」
「そう?…アナタ、あの『会長』と付き合いたいんじゃなかったの?
 欲しいものはチャンスがある時に掴まないと、そのうち逃げちゃうわよ?
 虜にしちゃいなさいよ、いっその事。」
「そ、そうだとしても!
 人間は…やめたく、ないです…。」
「…でも、勇気が欲しいんじゃないの?」
「そ…それは…。」
「教えてあげようか。
 カップ越しに、会話は全部聞いちゃったんだけど…
 会長、アナタの事、好きなんだって。両思いね。」
「…本当?」
「こんな所で嘘ついても、誰も得しないわ。」
「本当なんだ…。…で、でも…」
「ふぅ…こりゃ、荒療治しかない、か。」
「…え?荒療治って、そんな、待っ…」
「えーい、観念しろいッ!アタシは元々そのつもりだったし、
 いつまでもウジウジしてるアナタじゃ、何時まで経っても恋なんて出来ないでしょ!?
 だから…アタシが、アナタのその臆病、治してやるわッ!!」
「や、やだ、お母さ…むぷっ!?」

 逃げる間も無く、叫ぶ間も無く、私は彼女の体に全身を絡め取られ、
完全に彼女の体内に飲み込まれてしまった。

(ん!!んぶぅぅ、うふっ、ふッ…!)

 抵抗も出来ないまま、私の服は器用に全て脱がされ、
私の胸やアソコを始め、全身をくまなく揉むように、スライムが動き出した。

「ほらほら、一度に全身モミモミされるなんて、絶対無い体験でしょ?」
(んんっ、うぅー!んあぅぅ…!!)

 動かなくても、必死に抵抗しようとする。
怖い。人じゃなくなるのが怖い。今までの、そしてこの先の人生がどうなるのかが怖い。
それなのに…体がだんだん気持ちよくなってきてるのが、怖い…!!

「…怖いの?…でも、ここで止めちゃったら、アナタはまた臆病のままよ?
 大人しくしてなさい。大丈夫。アタシに、全部委ねて。
 そうすれば…アナタに、ステキな体と、勇気を出すための勇気をあげるから。」

 そう言う彼女の声は、とても妖艶であると同時に、母性のようなものが感じられた。
まるで、お腹の中の赤ちゃんに話しかけている母親のような…。
私はその声に、不思議と今までの恐怖がほぐれていき、抵抗する気が無くなっていった。

(うっん、んんん、んふぅ…)

 無数の手のように全身を揉まれ、無数の羽のようにくすぐられ、
無数の舌のように這いまわられ、そして無数の指のように、
私のあんまり大きくない胸や、口の中、そして何者も受け入れた事の無いアソコの中を、
むにゅむにゅ、ぐもぐもと揉み解す。

(うふぅー、ふぅ、ふぅ、ふあぁぁ…!?)

 体が熱い。全身が溶けるみたいに、きもちいい。いや、本当に溶けてるのかも…?

「ちょっと激しくするわねー。」

 揉まれ、舐められ、中をかき回されるのが、更に早くなる。

(うぅううううぅ!んふーっ、ん゛ーーーッ!!?)

 アソコから、エッチな液がだらだらとこぼれ出てるのがわかる。
目の前が真っ白になるのが止まらない。おかしくなりそう…。

「どう?アタシの言った通り、ものすごい気持ちいいでしょ?
 …もうそろそろ、本格的に溶かしてあげる…♪」

 ああ、あ、つい、きもちいい、とける。とけちゃう…!
わたし…このまま、なっちゃうのかな…。…でも、それでも、いいかも。

「会長にもこんな事してあげられたら、ステキだと思わない?」

 そうだ。かいちょうにこんなことしてあげたら、
きっとわたしのこと、もっとだいすきになってくれるよね。
ずっといっしょにいてくれるようになるよね。

「そうよ。終わったら、アタシと一緒に、会長を気持ちよくしに行きましょう?」

 うん。かいちょうのところにいきたい。きれいになったからだ、みてほしい。
だからはやく、ぜんぶとかして。おねがい、ピオーネ…おねえちゃん…!

「分かったわ。もうすぐよ。もうすぐで、アナタの新しい人生の始まり…!」

 あああ ああぁぁぁ ぁぅ とけ てく

 ああ もう うで が

 わたしの からだも

 こころも

 しろくなって

 ぜんぶ とけ

 とけ

 ………♪





「さあ。アナタのそのカラダなら、できないコトなんて何も無いわ。
 彼を虜にしに行きましょ?…一緒に、ね。」









 (ぴーんぽーん♪)

『…ごめんくださーい。会長、村崎です…』

 …む、村崎君…!?一体どうしたのだろう。こんな夜中に…

「はい、写英だが…どうしたと言うんだ?村崎君。こんな夜中に…」
『詳しいことはあとで話します。まずは入れてください…!』

 声は間違いなく村崎君だが、何やら切羽詰った様子だ。
…まさか、変質者に追われているのでは!?
そうだとしたら、すぐに匿ってあげなければ危険だ!
僕の両親は一度寝たら、朝が来るまで何をやっても起きない。
僕一人で何とかしなければ…!

「む、村崎君!今開けよう!」

 急いで錠を回し、ドアを開ける。
……居ない?

「村崎君!?一体何処へ…」
『ここだよぉ〜、会長…』

 足元の水溜りらしきものから、二本の何かが現れた。

「なッ!!?」

 その何かは驚くべき速さで僕に掴みかかり、そのまま家の中へなだれ込んだ。

「な…何なんだ、一体!?…村崎君は何処だ!?」
「だからここですよぅ、会長♪」
「ど、何処だと言うんだ!!」
「会長を組み伏せてる一人でーす♪」

 驚きと混乱で曇っていた目が、明かりに照らされた輪郭をようやく映し出していく。
紫色で半透明の、女性の形をしたゼリー状の怪物…
普段の村崎君の姿とは似ても似つかないが、その顔は、紛れも無く村崎君のものだった。

「…ほ…本当に、村崎君、なのか?」

 …見慣れたはずなのに、見慣れなさすぎる姿。
普通なら違和感と恐怖を覚えて然るべきだろうが、
何故かそんな感情ではなく、最初に感じたのは『美しい』という事だった。
普段の村崎君も十分美しかったが、それ以上に。

「まあ、疑うのも無理はないけど…あ、そうだ。
 前に会長、私が受付してた時に小説を借りようとした時、
 私が『これ、娼婦が主人公の、ちょっとエッチなやつですよね?』って言ったら、
 真っ赤な顔して取りやめてたよね?」
「ぐ…!…うむ、その通りだ。
 どうやら、君は本当に村崎君のようだな…。だが、後ろのは?」
「アナタが買ったグレープゼリーよ♪」
「そして私は、このお姉ちゃんにグレープゼリーにされちゃいました♪」
「でも、グレープゼリーは仮の姿。本当は…」
「お婿さんを探しに別世界からやって来た、ダークスライム!…だそうです。」
「あら、今となってはアナタもそうでしょ?」
「あ、そうでした。うふふ…♪」
「お婿さん?別世界?…何を言ってるんだ?それに、君の素性は?」
「それじゃ、教えてあげる。ええっとね…」

 それから彼女は、僕に色々な説明をしてくれた。
別世界の存在、彼女達『魔物娘』について、あの通販番組の正体…
どれもにわかには信じがたかったが、
今、僕の目の前にいる存在が、それが真実である事を証明していた。
そして…

「で、だ。
 …何故、君たちは僕の部屋まで入ってきてるんだ?」
「何故って…」
「玄関先でするワケにも行かないでしょ?」
「…する?」
「言ってなかったけど、魔物娘の最大の特徴はね…男の人の精が主食ってコト。」
「精?」
「つまり、精液♪それを貰うために、魔物娘はみぃ〜んな、
 男の人を物凄く気持ちよく出来る、エッチなカラダになってるってワケ♪
 つまりはね…」
「ちょ、ちょっと待ってよ!その前に私が…!」
「おっと…忘れてた。ゴメンね。」
「そ、そうだ!村崎君、一体どんな用があってここに来たんだ?」
「う…うん。えっと…えっとね…」
「ほら、頑張って!」
「そ、その…私、会長のことが…ずっと好きで…で、でも言えなかったの。
 いざチャンスが来ると、いつも怖くなって…
 でも、会長がくれたこのピオーネお姉ちゃんに、
 魔物になれば、好きな人を虜にできるって、ずっと一緒にいられるって聞いて…
 それで、この体にしてもらって…で、勇気が出てきたの。
 そしたら、いてもたっても居られなくなって…今、来ちゃった。」
「何だって…?」
「ホントはまだちょっと怖いけど…今ここで、言うね。

 私、会長の…写英君の事が、大好きです!
 こんな体になっちゃったけど…それでも良ければ、お付き合いしてくださいッ!!」

 村崎君も、僕の事を…!?いや、こんな僕の事を…!?
…嬉しかった。いや、『前代未聞な程に』嬉しかった。
あまりの嬉しさと感激に、その感情が涙となってこみ上げ…

「うおぉぉぉぉッ!!有難う、有難う村崎君ッ!!!
 僕も、僕もずっと君の事が好きだったんだ!
 異形の体になってしまった事など関係無い。僕と付き合ってくれぇぇぇッ!!!」
「あぁ…、ありがとう、写英君ッ…!お姉ちゃんも、ありがとう!!」
「い、いきなり号泣しだしたッ!?しかも異形って…」

 何やら、もう一人の女性が引いていたようだが…そんな事は些細な事だ。
僕等はしばらく抱き合い、この嬉しさと幸福を噛み締めていた。










「さあ。それじゃ、告白も済んだコトだし…もうそろそろ、しない?」
「あ、するんだったね。写英君、早速しよっ♪」
「する…さっきから、するって、一体何をするんだ?」
「…さっきの説明、聞いてなかった?」
「………まさか、精液を?」
「イエス!というワケで、アタシ達にたぁーっぷり出してちょうだい♪」
「い、いや、待ってくれ!そういった事は恋人になってすぐやる事ではないというかあとその隣の女性とは初対面だし何より結婚してある程度の経済力がついてからじゃないと危険だ僕は避妊器具の一つも持っていないし無論責任は取るがそもそもそういった破廉恥な行動は慎みたまえいや別に興味が無いというわけではないむしろ村崎君とならとも思うのだがそういった事を生徒会長である僕自身がしてしまっては学校全体の風紀がいやいやそれ以前に僕等はまだ十七だから法的にも肉体関係は許されないしこの小説だって規制されて僕等の存在そのものまでもいや何だ小説って待て落ち着け落ち着くんだ複素数を数えて…」
「…写英クンって、純情すぎない?」
「…かも。」
「まあいいでしょ。一発ハメればアレも正直になってくれるさ。グヘヘ…」
「…それ、女の人が使う言葉じゃないよ…」

 ツッコミを入れつつ、私は彼をきゅっと抱きしめた。

「そしてこの宇宙のいわゆる大前提であるバーミンガムの重力が…って、村崎君!?」
「…写英君。好きな人の、もっと近くに行きたいと思っちゃ、いけない?」
「それは…。」
「折角、こんな素敵な体になれた上に、気持ちを通わせられたのに…
 このまま何もしないなんて、嫌。
 写英君…お願い。」
「うっ……………」
(ホラ、何してんの。女の子にここまで言わせて、アナタ逃げ出す気?)

 お姉ちゃんが、写英君に何かを耳打ちした。
おそらく、写英君の背中を押す言葉を。

「……………」
「写英君…」
「…………わかった。
 君が勇気を見せたのだから、僕も見せよう。
 村崎君…いや、溶子君。始めようか。」
「うん、ありがとう。それじゃあ、脱が…」
「既に脱がしておきました♪」
「「早ッ!?」」
「全然気付かなかった…。」
「早いよ、お姉ちゃん!?私が優しく脱がしてあげたかったのに!」
「さっきからアタシを蔑ろにしてるからよ。」
「…ん?そう言えば、君達は?」
「もちろん着てないよ?」
「んぶふッ!?」

 写英君の顔が一気に真っ赤になって、鼻血が漫画みたいに噴き出した。

「も、もちろんって君…ここまで全裸で来たのか!?二人とも!?」
「うん。」
「服なんか着てもすぐグチョグチョになっちゃうしね。」
「は、破廉恥な…。
 そんな美しい体を…いや、年頃の女性がそんな事をしては駄目だろう!?」
「でも、水溜りみたく姿勢低くして来たから大丈夫♪写英君にしか見られてないよ♪
 それにしても…私達の体、『美しい』って思ってくれてたんだ。嬉しい…」
「そうね…。あ、そうだ。折角見せてるんだし…」

 そう言うとお姉ちゃんは、胸の先っぽを変形させて、乳首を作った。
私も真似して、人間の時よりも確実におっきくなった胸に、乳首を立ち上がらせる。
そのまま、また写英君の引き締まった体に抱きつくと、ますます反応が激しくなった。

「写英君、おっぱい好きなんだー?」
「うぅ…。」
「これからは、いつでも触れちゃうのよ♪
 …でも、遊びはここらでおしまい。二人で一緒に気持ちよくしてあげるわね…♪」
「え…え!?その…そこの…何て名前なんだ?」
「ピオーネよ♪」
「ピ、ピオーネさんも混ざるというのか!?」
「当然。アタシは、ステキなお婿さんを見つけるのが目的なんだもん。
 アナタみたいないい男を放って置く手は無いわ。」
「いや、溶子君が居るのだが!?」
「私は大丈夫。むしろ、お姉ちゃんと一緒に、写英君を気持ち良くしてあげたいかな。」
「魔物ってのはね。人間みたいに、好きなヒトを取り合ったりしないの。
 どっちもホントにその男のヒトを愛してるなら、
 独り占めするよりも、二人で共有しちゃえって考え方の方が多いのよ?」
「だ、だとしても!この日本でそれは許されないぞ!?」
「アタシ魔物だもーん。人間の法律なんか知らなーい。」
「私もー。」
「だが、誰かに見つかったら…」
「いざとなったら、魔界に行っちゃえばいいんだよ。」
「そうそう♪」

「…ねえ。
 一緒に過ごした時間は、すごく少ないかもしれないけど、
 それでも、君を好きな気持ちは、溶子と同じだよ。
 アタシも一緒に、写英クンの恋人にして欲しいの…ダメかな?」

 お姉ちゃんの目は、さっきまでの陽気な感じとは打って変わって、凄く真剣だった。

「……そうだな。君がいなければ、僕と溶子君もこうして告白できなかっただろう。
 溶子君がいいのなら、僕も構わない。…恋人に、なって欲しい。」
「…うん。ありがとね。」
「よかったね、お姉ちゃん!」
「そうね。これで心置きなく…」

 パッと表情をいつもに戻すお姉ちゃん。
そして、ニヤリと笑う。私も一緒に笑う。…多分、凄く悪い感じで。

「「美味しく、頂けるね…。」」
「ふ、二人とも!?目が怖いぞ!?」

 すぐさま、拘束をもっとガッチリ固める。

「お姉ちゃんに魔物にしてもらった時、すーっごく気持ちよかったの。
 それを今から、二人で写英君にしてあげるね♪」
「二人なら、二倍…いや三倍…?どうなるかは分からないけど、
 一生虜になるくらいのスライムの快感を味わわせてあげるわ…♪」
「ま…待ってくれ、こっちは一応初めてなわけだし、心の準備が…ッ!!?」
「「いただきまーす!!」」
「う、うわぁぁぁぁ…」



 1時間後…



(ううっ…ま…まだ自由にしてくれないのか…!?)

 …僕は先程から、彼女達二人に全身を包まれ、
全身のあらゆる箇所を、その流体状の体で余すところ無く蹂躙されている。
舐められているような…吸われているような…擦られているような…
いや、それら全てを混ぜたような快楽が全身を襲っている。
…これの前にも、色々な方法で精を搾られた。
普通に性行為をするようなやり方はもちろん、口に含んできたり、
ぬるぬるとした粘液を染み出させた手で擦ってきたり、
二人の四つの豊満な胸で四方から挟み込まれたり。
…その全てが、恥ずかしながら、途轍もなく気持ちよかった。
これが、男の精によって生きる魔物娘なのか…。

 (ビュッ、ピュルル…ドプ…)
「あっ、七回目♪」
「ほんとに、温かくて美味しくて、気持ちいいよ、写英君…♪」

 そう言ってくれるのは嬉しいのだが、こちらはかなり疲れてきている。
…先程まで全くの未経験だったのだから、当然だろう。
顔まで包まれているというのに何故か全く苦しくないが、それでも喉だって渇く。

『す…すこし、休ませてくれ…!!』

 そう叫ぼうとしたが、果たして声が出たのだろうか…自信が無い。

「あ…ごめん!夢中になりすぎちゃった…」
「初めてだったんだもんね。ちょっと飛ばしすぎちゃった…ごめんね。」

 しかしどうやら伝わったようで、やっとスライムの中から脱出する事ができた。

「本当にごめん。写英君が大好きで、止まらなくなっちゃったの…」
「…そんなに悲しい顔をしないでくれないか。少し休みたかっただけだ。」

 …本音を言うと、僕もまだ続けていたかった。
しかし、体がそれに付いて行かなくなって来ていたのだ。
…何だか、こっちまで不甲斐なく、申し訳ない気分になってくる。
気まずさから少し目をそらすと、机の上に転がっている物に目が留まった。
ゼリーを購入した際、オマケとして付いて来たドリンク剤だ。
『力を失った貴方の剣を、一瞬で無敵の魔剣にパワーアップ!』と書かれた
ラベルを始めとした、明らかに『そういう事』の為に作られたと思われる下品さが嫌で、
手をつけずに忘れていたのだが…

(もしや…)

 番組側は、分かっていて、この性交大好きなスライムを販売していた。
ならば、オマケに付いて来たあのドリンク剤も、
本当に性行為時の疲労を吹き飛ばす効果があるのではないだろうか?
…彼女達を悲しませないためにも、飲んでみる価値はある。
何より…僕自身が、もっと彼女達と触れ合いたいと感じている。
ならば善は急げだ。ビンに手を伸ばし、蓋を開け、中身を一気に飲み干した。

「写英君…?何、そのドリンク…」
「プッッハァァァ!…よし、喉も潤ったし…
 …さあ、続きを始めようか?溶子君。」
「しゃ、写英君?どうしたの、目が怖いけど…」
「あ、それってあの『∞クライマックス』じゃない?
 アタシに同梱されてきた精力剤だよ、確か。」
「…ああ。そう言う名前だったな。
 しかし…凄い効き目だな。疲労が一気に無くなって来ているようだ…」

 僕の性器は、行為を始めたばかりの時、自分が最高潮だと思っていた時よりも
更に大きく膨らみ、血管が浮き出て、先端からは触れられずとも液が垂れていた。
これなら…。

「ふ、フフフ…
 こんなに元気だと実感できるのは生まれて初めてだ。
 そうだ、今度は俺がお前たちを責めてやろうか?」
(じ、人格まで変わってない?)
(ちょ、ちょっとビン見せて……あ!?
 コレ『キャップ一杯分を、コップ一杯の水で薄めて飲んで下さい』って書いてある!)
(ぜ、全部原液で飲んじゃったって事?)
(…みたい。性欲が溢れて…どうなるか分からないかも…。)
「何をひそひそと話しているんだ?この通り、俺はいたって健康だ。
 いつでも続きは出来るぞ。いや、早くしたい。」
(…でも、この写英君も、新鮮でいいかも…)
(…そうね。)
「何でもないよ。それじゃあ、続きしよ♪」
「そうか。ならまず、口でやってもらおう。勿論、二人でな。」
「はーい♪」

 元気よくそう言った二人は、すぐに屈み、俺のモノへ舌を這わせ始めた。
人間とは違うひんやりとした舌の感触が、何とも心地いい。

(…そういえば、何だこれは?)

 二人の体内に浮かんでいる、顔がついた葡萄の果肉のような、大きな謎の球体。
…今までの行為でも、何となく俺には触れさせないように避けていた気がする。

「なあ、その球体は、一体なんなんだ?」
「んちゅぅ、れ……ん?これ?…そういえば、これ何なの?お姉ちゃん。」
「…コレ?コレはアタシ達のコアよ。
 コレがあるおかげで、ダークスライムは他のスライムよりも頭がいいの。
 あと、ココってアタシ達のカラダの中で一番敏感なところだから…あ!」
「ふむ…いい事を聞いたな。」

 俺は素早く両手を伸ばし、二人の体内に手を突っ込み、コアを掴む。

「ひあぁァ!!?」
「あぁあッ!!」

 そのまま、コアをぐにぐにと揉んでやる。
人間にとっての脳のように重要な部位のようだが、脆いわけではなく、少し安心した。
むしろ柔らかくとも弾力が強く、触っていて楽しくなってくる。

「んぁああっ、やぁぁぁあぁぁ…!!」
「んひいぃ、や、だめへぇぇぇぇぇ!!」

 あられもなくそう叫ぶと、二人はヒトの形を保てなくなったらしく、
ズブズブとフローリングの床に沈み、広がっていった。

「……」

 だが、そのまま動かない。
それでも、コアとスライムが繋がり続けていたり、
時折痙攣するように震えている事から、死んではいないようだ。
ただ快感で動けなくなっているだけらしい。
しかし…

「このままじゃ、俺も辛いんだがな…」

 舌は気持ちよかったが、まだ射精には至らない。
…いや、別に待ってやる必要は無いか。
今手の中にある『これ』を使えばいい。

「今度は俺が、気持ちよくしてやろう…!」

 二つのコアで膨れ上がった性器を挟み、勢いよく扱く。
二人の体がそのまま潤滑液となり、抵抗も無く動かせる。
この刺激に、二人も堪らず意識を覚醒させたようだ。

「い、ぃにゃああああああああッ!!?」
「やめっ、やっ、あっ、ああああああぁ!!」

 恐らく凄まじい快感に晒されているのだろう二人の絶叫をバックに、
俺はコアで扱く手を更に早めた。
その分、叫び声はますます大きく、そして甘く上ずったものになっていく。
見ればコアの顔も、その快感を表すかのごとく

 (;>□<)(><;)

 といった感じの顔に変化して、悶え震えている。…結構可愛らしい。
それはさておき、性器に伝わる、コアの意外とぷにぷにとした感触と、
二人の重要な部分を性欲を開放するために使っているという背徳感により、
俺のモノはそろそろ爆発を迎えようとしていた。

「さあ、出すぞ…!しっかり受け取れよ!」
「ぇっ!?だすの!?だ、だして、こいの、らしてぇぇ!!」
「アタシにも!!アタシの、カラダに、たっぷりだして、だしてくだしゃいぃぃぃ♪」

 その声に反応し、一瞬スライム溜まりの中から、二人の顔が現れた。
その顔は快感と欲情、そして幸福に満ちた、正に『とろけきった』表情だった。
…それが止めとなった。
俺のモノがビクビクと跳ね、最初に出した時以上の量と濃度の精を噴き出す。

「あぁぁ…いっぱい…れた……♪」
「あつくて、こくて、いいニオイで…しあわせ…♪」

 そしてまた、意識を失うかのごとくスライム溜まりの中へ戻っていく二人。
…しかし、この活力は、一度や二度では到底収まりそうにない。
どうやら二人には、もう少し頑張ってもらうしかないな。
お前たちも嬉しいだろう?存分に楽しもうじゃないか…溶子。ピオーネ。
俺はニヤリと笑い、再びコアに手を伸ばした───










 …そして、翌朝。

「あああおぼろげにしか思い出せないが何て事をやってしまったんだ僕は恋人にあんな非人道的な振る舞いをするなんてどう考えても獣のような性犯罪者じゃないか結局僕も一皮剥けばかつてのあの不良共と何も変わらないのかこんな事ではご先祖様にも先代の生徒会長にも申し訳が立たないああ死にたい死んでしまいたいいっそこの出来事を腐れた僕の存在ごと忘却のかなたへ追いやってしまいたい忘れろ忘れろ忘れろビーム!って馬鹿か僕はああついに頭が完全におかしくなったのだなこの屑め僕のような欲望まみれの生物は地べたで泥水をすすっているのがお似合いだハハハハハ…」

 …昨夜の出来事を思い出しているらしい写英君が、
朝からいきなり、号泣しながら限りなく自己嫌悪に陥っている。
…私もお姉ちゃんも何とも無かったし、むしろ積極的に求めてくれて嬉しかったのにな。
私は写英君を止める為に、安心させる為に、お姉ちゃんと一緒に抱きついた。

「写英君、気持ちよかったよ♪」
「そうそう。気にしないでよ?」
「だが…僕は、君達に無理矢理…」
「だから、ソレでいいんだってば。」
「いい…?」
「魔物ってのはね。
 大好きなヒトが、自分を思う存分求めてくれるのが一番幸せなコトなんだから♪」

 そう言うと、お姉ちゃんは写英君の頬にキスをした。

「それじゃあ私も…」

 私は、写英君の唇に。

「ん…っ♪…ぷはぁ。」
「んんっ……ふぅ。」
「…あ。そう言えば、今のファーストキスだった!」
「な…じゅ、順序が逆じゃないか!?僕も初めてだったし、言えた立場じゃないが!」
「あーっ、そうだったわね!アタシが先に口にすればよかった!失敗したー…
 …いや、まだ遅くない。今からアタシのファーストキスをッ!!」
「うおッ!?んぷっ……」
「……ぷはぁー♪これでオッケー!…でも、キスしたらまたムラムラして来ちゃった。
 このままお目覚めの一発してあげちゃおうか?」
「さ…流石にもうやめてくれ。学校もあるし…」
「えぇー?私ももうちょっとしたいのに…」
「か、勘弁してくれ…」
「フフ…流石に冗談よ。
 でもその代わり、今夜また、アタシ達のコトを食べてちょうだいね♪」
「私も一緒にね♪」
「…分かったよ。それじゃあ、学校に…あ!?
 そう言えば溶子君、そんな体で、学校はどうするんだ!?」
「あ、そう言えば…まあ、なる様になるんじゃない?
 退学になっちゃったらなっちゃったで、写英君ともっと一緒にいられるし♪」
「…何と言うか、思考がたくましくなったな。溶子君…」






 …結果としては、私はそのまま受け入れられた。
学校には私以外にも意外と魔物娘が紛れ込んでたらしく、
今までは魔法で人間のフリをしていたらしい。
私のクラスメイトに、先生、友達、先輩後輩…
それらが、私が堂々とこの姿ので登校してきたのを皮切りに、次々と正体を現したのだ。
それと一緒に、学校中に魔物娘の事が知れ渡り、
人間だったクラスメイトや、その親兄弟まで魔物化していき、
(なんと、いつの間にか私や写英君のお母さんまで…)
今では学校は、魔物娘やそのカップルが堂々と闊歩する高校になった。
流石に、まだ学外ではみんな秘密にしてるけど…
町中が魔物だらけになる日も、そう遠くは無いかも知れない。

「写英君。放課後は私の家で『勉強会』しない?」
「うむ。だが、実際の勉強もきちんとしないと駄目だぞ?」
「分かってるってば。」
「本当に分かっているのか?魔物にとって性行為は大事だと言えど、
 我ら学生の本分が勉強である事に変わりは…」
「はいはい♪」
「…全く、仕方ないな。
 それではもうすぐ授業だし、また放課後にな。」
「うん!お姉ちゃんと二人で待ってるね♪」

 人間だった頃は、こんな事になるなんて想像もしてなかったけど…
今の私は、最高に充実した青春を送っている。





 …今日は、内緒で買った『∞クライマックス』を飲み物に混ぜて、
久しぶりに『あの』モードの写英君になってもらおうかな。楽しみ楽しみ♪

「…何だ?何だか悪寒がしてきた…。」

 
12/04/17 01:30更新 / K助
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■作者メッセージ
 皆さんは『ネットミラクルショッピング』と言う少し前のギャグCGアニメをご存知ですか?
この小説は、そのアニメに登場した商品『ゼリーちゃん』が元ネタです。
最近、昔撮った録画番組を漁ってた時に偶然見たソレを
魔物娘に変換してみたところ、こうなりました。
他にも、色んな変な商品、バカバカしい商品があって面白いので、
興味を持っていただけましたら、ちょっと見てみて下さい。

…以上、ステマでした。

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