連載小説
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前篇


「お、更新されてんじゃん!今回は……」



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皆さんは、「クロビネガ」というサイトをご存知であろうか。
「健康クロス」と言う絵師の描く、「魔物娘」と呼ばれる生き物たちを題材に運営しているサイトである。

「魔物娘」とは、下半身など体の一部が動物や植物化しているような姿で、男性は基本的におらず、女性のみ存在している、という生き物の総称である。
例えば「悪魔」を具現化したような魔物娘である「サキュバス」や、全身が粘液状の「スライム」、その「スライム」の上位互換である「レッドスライム」や「ダークスライム」、果ては砂漠の遺跡の王「ファラオ」など、さまざまな種類がいる。

そして、実はこの「魔物娘」というのは、とても可愛い姿をしている。
更にはなんと、彼女たちは男性の「精」、つまり顕著な例として「精液」を糧としているらしい。「魔物娘」は、男性と性行為、オーラルセックスをし、精液など「精」と呼ばれる物を男性から貰っているのである。
そのため、魔物娘は皆、俗に言う「魅力的な体つき」という特徴を持っている。相手、つまり夫に愛してもらい、夫を愛するためのその体を、彼女たちは遺憾なく使い虜にしていくのだ。
この「魔物娘」に人間の「悪い常識」はなく、「顔が悪い」「身長が低い」などのような、見た目の悪さで男性を差別することはない。
「自分が愛し、自分を愛してくれる」というその一点で、献身的な愛を注ぎ、恋の目を育んでくれる、というのだ。
「え?今までモテたことがなかったから自分に自信がない?でも、それは私以外に言い寄られにくいってことでしょ?私が愛してるから、貴方はそれでいいの」
「自分の生活能力に不安がある?そんなの大丈夫ですよ。私の○○は高く売れるからお金には困らないですし、いろんな困難があっても私と貴方ならきっと上手くいきますから!」
など、ネガティブな思考に陥る「マイナス思考男子」でも、ポジティブに支えてくれる、まさに「無償の愛」を捧げてくれる存在、それが「魔物娘」なのだ。
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「リリラウネ?アルラウネに関係ある種類かな?」

俺、天ヶ瀬 裕樹(あまがせ ひろき)はそんなことを思いながら「クロビネガ」というサイトの「魔物娘図鑑」を開く。
そこには、大きく白い、可憐な花の中に、植物の茎葉のような肌色の女性が二人、蜜にまみれて戯れあっている、そんな絵だった。
この「リリラウネ」という種族は、「中の二人」で一人の魔物娘であり、この「二人」が一人の男性を花の中で愛するらしい。

「へー、百合だったのが(疑似)3Pか……これはすごいな……面白い……」

俺はそっとページを閉じる。
そう、俺は「魔物娘」というものが好きな高校生なのである。
2年生、まだ16歳という年齢な故、実は「R-18」であるこのサイトは本来ならば見てはいけないのだが、「別に小説を投稿するわけでもなし、言わなければ誰も知らないんだ」と自分に言い聞かせ、小さな背徳感と共にこのサイトを見ている。
ちなみに、俺はジョロウグモを愛している。無論、これは「創作」である。愛していると言ってもこの世に存在しているわけではないので、一方的な愛に他ならないのかもしれないが。それでも、僕はジョロウグモを愛している。
なんせあの夜と昼のギャ…… おっと、語ると長くなってしまいそうだ。

少しジョロウグモへの愛が強く燃えそうなとき、ふと時計を見ると、23:55という時間を指していた。もう日付が変わるか、と言うところじゃないか。明日も学校がある。もう寝てしまおう。


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……p………p…………
………ピ…………ピ………
ピピピピピピピピピピピピピピピ………

バンッッ!

「ああああああうるっっっさいわぁッ!」
目覚ましを殴りつけるように叩き、音を止めて目を覚ます。朝っぱらから叫んでしまったので、家族からのお怒りがないかドキドキしたのは内緒だ。

時刻は7:30。半日寝てもまだ眠い、なんてことがある俺には本当に珍しい、スッキリした目覚めだ。

今思えば、この時から人生のターニングポイントは過ぎ去っていたのかもしれない。

割と余裕をもって朝ごはんを食べ(家族からのお怒りはなかった)、割と余裕をもって学校へ行く。いつも通りの悠々ライフワークである。快適。


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学校へ着いた僕を、少しの違和感が襲った。
正門入ってすぐを歩いている男女の会話が、ソレの元凶であった。

「もー!やめてよ龍くーん!そういう事言うと濡れちゃうからぁ!」
「そんなこと言われても、柚香が可愛すぎるんだよ!特に耳とか!」

……濡れちゃう?耳?
イチャついてる上記のアイツらは、学校内でも屈指のバカップルとして有名ではある。俺と同じクラスであり、1日3万回はイチャついているような気もする。が、しかし。

「濡れる」などという、劣情を催しそうにイメージされる言葉や、「耳」などというピンポイントなフェチズムを孕んだ「部位」での褒め言葉など、そんな軽く引かれるような話を大声で話すような奴らではなかったのではないか……?
「照れる」「もうお前の全部が可愛い」のような、初々しい、学生カップル万歳!というような純情二人組ではなかっただろうか。
……まぁ……、こういうときも……、ある、だろう…… か?
あるだろう!きっと。
自分に言い聞かせ、教室へ入り、自分の席へ着く。
ホームルームのチャイムがなった2分後、普段は遅れることのない担任の先生が、少し焦りながら教室へ入ってきた。大人っぽい顔立ちに似合う、服を押し上げるほど大きなおっぱいが、小走りを糧にバルンバルンと揺れている。眼福である。
いつも時間通りに来るはずが、今日たまたま何かで遅れ、急いで教室へ向かったようだ。汗を少しかいたからだろうか。先生自慢の黒髪が、少し艶やかながらも統率を欠いたかのように軽くボサボサに広がっている。その弊害か、頭の左右の上部に、犬の耳の如くフワっと立っている髪が可愛らしい。
顔を見ると、こちらも急いでいたせいか、息も少し荒く、顔も赤いようだ。
そんな先生が入ってきた勢いのままに教卓に名簿等のかごをドンッとおいて一言。
「ハァッ、ハァッ……!緊急事態だ。詳細は明日連絡するが、今日の授業等は全て無くなった!お前ら全員帰っていいぞ!」

……なんだって?授業がない?
授業がなくなったことは、1度だけあった。台風で、暴風警報と大雨洪水警報が一緒に出た時だ。この時は身の安全を確保しつつ帰るように命じられた。
しかし今日はどういうことだろう。緊急事態?何があったんだ?
疑問が頭を渦巻く。テロリストが学校へ侵入したか?これは妄想を現実にするチャンスかもしれない!ある意味楽しんでいる自分がこの時はいたのである。
そう、「この時は」。

先生は続けてこういった。
「あ、天ヶ瀬!お前はちょっと後で生徒会室に来るように! ……と、お前を名指しで会長が言っていたぞ。帰る前に3分ほど時間が欲しいらしい、行ってやれ。」

会長が?なんだろう。まぁ、会えるのであれば何でも良いか……。

生徒会長である譜代 麻友(ふだい まゆ)先輩とは、たまたま図書室で本を探していたときに、先輩が本で指を切ってしまう場面に遭遇し、さらに俺がたまたま絆創膏をもっていた為、それを手渡して少しお話したのが最初の出会いだった。
その後名前と学年を聞かれ、感謝され、次の日学校へ行ったら担任の先生からも「本当にいい生徒がいると聞いた」と又聞きでの感謝をされた。ただ絆創膏をあげただけなのに……。
そんなこんなで顔を合わせるたびに少しお話をするような生活が続き、俺はいつしか彼女が好きになっていた、ような、気がする。
年齢=彼女いない歴である俺には恋愛的な「好き」の感情がわからないのだ。しかし、彼女に絆創膏を手渡したときの、「あらぁ、ありがとうございますね?」という少しねっとりとした甘い声に、声フェチである僕がピクリとしたのは事実である。
顔も人間とは思えないような美人で、しかしあまりファンの噂は聞かない。魔性というやつなのかな?

つまりだ。そんな会長に呼ばれたとあれば、俺は喜んでいかざるを得ないということである。

「聞いているか、天ヶ瀬?」
先生に呼び掛けられ、ふと我に返った。
「は、はい!生徒会室っすね!」「そうだ、あとほかに連絡がある者はいないか?いないな? よし、じゃあ解散!……さあ、私も、旦那様の元へ……」

最後何かボソボソと言っていた気がするが、先生のハスキーボイスに上手く隠されて聞き取れなかった。ただ、来た時のソレは分かるのだが、教室を出ていく先生の顔は来た時よりも紅く染まっていた気がする。


さて、そんなわけで生徒会室についた俺である。

「……あれ?こんな蜘蛛の巣張ってたっけ?」
14/06/25 01:00更新 / 石井
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■作者メッセージ
前篇です。投稿方法を間違えた気がする……。
間違えていたら申し訳ありませんです。

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