連載小説
[TOP][目次]
チェイシング・フォー・ユー ~バジルと隆太の話
「……リュウタ、……わたしもう、我慢出来ないの」
「待て待て待て待て、仕事中だろうが!」
「大丈夫、……一回だけだから」
「何の基準で大丈夫か分からない! 頼むから後にしてくれ。店長にどやされる」
「……ごめん、無理」
「無理じゃねえって……おま……(バカやめろ、眼を使うな!)」
「……リュウタ」
「(よせ、誰か、誰か助けてくれ!)」
「……バジル」
「あ、……テンチョー」
「(店長、助けてください!)」
「……一時間休憩をやる。それまでに終わらせろ」
「……はいっ!」
「(え、ちょっ……そんな!)」
「リュウタ、……もらうね」
「(アッー)」


―――
 現代ジパング。この国に唐突に魔物娘が現れて十数年。
 表向きは平和に、裏ではなんだかんだありながらもやっぱり平和に、人々は日々を過ごしていた。
 ……とは言っても、初めの数年はてんやわんやだったが。

 まずは魔物娘との婚姻の問題。
 情熱的で一途な彼女達と恋に落ちる男性が現れるのは、すぐのことだった。
 となれば、婚姻届の戸籍はどうするのか、種族による差違は、労働環境や扶養にまで問題は飛び火し、政府は大慌ての毎日であった。
 毎月のように魔物娘についての法律、条例が制定され、瞬く間に魔物娘達は市民権を得た。
 一部からは不満の声もあったが、きちんと人間同士の交際、婚姻もあり、魔物娘達の勤勉で争いを好まない傾向も手伝って、世間は彼女らを支持した。

 そうして、ようやく諸々のルールがまとまり始めた頃に、彼女らの世界への出入口が出現。
 バフォメットと呼ばれる魔物がそれを開いたのが葉桜市。昨今魔物娘の故郷と呼ばれている街だ。
 もともとベットタウンとして存在していたこの街は、南を海に、他の三方を山に囲まれた緑の多い街で、そこそこの規模で発展していた。
 魔物娘の故郷への入り口が出来てからは、魔物娘が次々と移住し、ジパング一魔物娘が集まる都市となった。
 様々な法律と条例に守られ、人間も魔物娘も平等に暮らせる街として、全国から一目置かれている街でもある。

「気は済んだか? なら早いとこ片付けて、仕事に戻れ」
「……無理です。まだあちこちバキバキ言ってるのに」
「なら怠勤で減給だな。人の店で散々いちゃつきおってからに」
「俺のせいじゃないのに……」
「都合の悪い部分は女に押し付ける訳か? ペナルティー。一時間減給」
「そんな……」
「これ以上バイト代下げられたくなかったらさっさと働け」
「……分かりました」

 俺はそんな葉桜市に住む高校生、佐倉隆太。
 この街のピザ屋『エル・カミーノ』でバイトをしている。

「全く、嫁さんを見習ったらどうだ? あのあと上機嫌で配達に行ったぞ」
「無茶言わないで下さい」

 魔物娘達は順当に二世を産み落とし、今ではジパング人口のかなりのウェイトを占めている。
 その二世達も乙女と呼ばれる年齢になり、それぞれのパートナーを見つけ始めた。
 そして俺はそんな流れに乗せられてしまった一人である。名前はバジル。内気で大人しいコカトリスだ。

 ひょんなことからこいつを追い抜いてしまったせいで、俺はこいつに性的に頂かれるハメになった。
 その小さい身体のどこにそんな力があるのか、彼女はシフト時間目一杯配達を続けられる。
 しかし、体力が性欲と反比例をするのか、それとも純粋に性欲を抑えられないのか、しばしば仕事中に発情する。
 ちなみに、バジルは内気ゆえ、気を許した男以外にはあまり近寄らない、近寄れない。そして彼女が気を許した男は職場にいる。
 ……あとはまあ、分かってもらえると思う。

「戻りました」
「おう、おつかれ、そろそろアイドルタイムだし、待機しててくれ。隆太、お前は仕込みだ」
「はいっ、テンチョー!」
「分かりました」


――――
「全く、何でこんなやつにあんないい嫁さんが出来たのか」
「……まだ結婚してないですよ。だいたい先のことなんて分からんでしょうに」
「いいや、お前はあの娘に勝てそうもない。どうせ卒業したらすぐ籍入れられるさ」
「……受ける側ですか」
「受けさせる程の甲斐性もないだろう」
「店長、あんまりです」
「悔しかったらいい男になって出直すんだな」

 このピザ屋「エル・カミーノ」の店長、武倉勉さんは、口は悪いがお人好しの頑固親父だ。
 ちなみに名前の方は『つとむ』であって『べん』ではない。五千円札のあの女性とは関係無いことを付け加えておく。
 指摘したら「お前は面白いかも知れないが、こちとらその話何百回と聞いてんだよ!」と殴られたことを更に付け加えておく。
 とはいえ、俺はもちろんバジルにも良くしてくれる、気のいいおっちゃんだ。
 客へのサービスも従業員の扱いも上手く、『エル・カミーノ』がなかなかに繁盛しているのは、ひとえにこの店長の腕と人徳の賜物だろう。

「オーダー入ります。『シーフード』と『チーズ』以上」
「あーい」
「あと隆太を一発殴る権利」
「おいこら」
「人が仕事で汗水垂らしてる時に、お前は休憩室で可愛い女の子と汗水その他液体垂らしやがって。
 死ね、爆発しろ。吸われ尽くして干からびてしまえ」

 厨房に入ってくるなり不穏なことを言い出したこいつは三山隼人。小学生からの腐れ縁だ。

「ふざけんな、搾り取られる身にもなってみろ」
「言うね色男。世界中の一人者及び女性を敵に回したぞ」
「うっさい。佐倉隆太は静かに暮らしたいんだ」
「つべこべいわずさっさとくっ付け。見ててもどかしいんだよ」
「大きなお世話だよ。大体あいつが勝手に……」
「『勝手に』、なんだ?」

 ぐっと言葉に詰まる。隼人のその表情はここ最近では見慣れた、けれど記憶にある中では一二を争うほど厳しいものだった。

「あの娘はあんなに思ってるってのに……」
「おらガキ共、無駄口叩いてる暇あったらきりきり働け!」

 ピザの生地を伸ばしながら勉さんが怒鳴る。

「リュウタ、焼き釜の温度あげとけ。それからトッピング用意、先にシーフードからだ。チーズは焼く直前に手早くな。ハヤトは客見てこい。アイドルタイムだからってサボるなよ」
「……分かりました」

 去り際にこちらを睨み付けて、しぶしぶ厨房から出ていくハヤト。
 ……最近いつもこんな感じだ。
 あいつの言い分も分かる。あれだけ健気な女の子を、俺はまだ恋人と呼べてない。
 端から見れば何が不満なのか理解できないだろう。でも、簡単に一線を越えられない理由もあるわけで……

「手が止まってるぞ、甲斐性なし」
「……すいません」

 このままじゃダメだ。今はバイトに集中しなくては。
 ボールにたっぷりと入ったシーフードを生地に並べることに意識を向ければ、今の悩みを忘れられるような気がして、ひたすらに作業に没頭することにした。

――――
「お疲れ様でした」
「おう、お疲れ」
「…………」
「お前もさっさとあがれ。仕事の邪魔だ」
「……すいません」
「可愛い女の子と乳繰り合う簡単なお仕事お疲れさん」
「…………」

 ありのまま今起こったことを話すぜ。配達を終えたバジルに動きを止められて搾られ、動けるようになったと思ったら、配達を終えたバジルにまた動きを以下略。いつの間にかシフトは終わっていた。
 何を言ってるか分かってもらえると思う。
 無限ループの恐ろしさを存分に味わったぜ。

「恋人じゃないんだとよ。へぇ……」
「もうこの際道具呼ばわりでもいいんじゃないか。いなくても支障はなかったし」

 ……うう、惨めだ。

「テンチョー、ごめんなさい。私、我慢できなくて……でもリュウタを辞めさせないで下さい。私一生懸命働きますから」
「バジルちゃんは優しいな。こいつのせいで負担が増えてるのに」
「そこまで頼まれちゃ仕方ないな。リュウタ、嫁さんに感謝しろよ」

 ……すいません。なんかもうクズですいません。

「リュウタ」

 落ち込む俺をふわりと柔らかな羽毛が包む。

「大丈夫だよリュウタ。リュウタが一生懸命なこと、私は知ってるから」
「……バジル」

 優しさが身に染みる。思わず胸に埋められた頭を抱きしめた。

「……いい加減観念しろよ」
「あいつも偉いのに捕まったもんだな」

 ひそひそと話し合う勉さんと隼人のやりとりに我に返り、バジルを引き離す。

「それじゃあお先に失礼します」
「リュウタ、待ってよ」
 そして、二人の視線から逃げるように奥へと引っ込んだ。

 バジルと俺が向かうのは休憩室兼荷物置き場のさらに先の倉庫だ。
 様々なものが雑多に置かれたそこにあるものを半分押し退けて、俺達専用の休憩室兼荷物置き場にされている。
 ……何故かって?
 さっきからのやりとりを見て察してほしい。早い話が隔離されているというわけだ。
 バジルが休憩中にまめに掃除をしているので、今ではかなり整理され、綺麗になっている。

「リュウタ、……ごめんね」
「……もういいよ。店は問題なく回ったわけだし」
「……でも」

 実のところ、俺よりもバジルの方が売り上げに貢献していたりする。
 白い羽毛をはためかせながら走るこいつは今や『エル・カミーノ』の名物で、配達中に声援がとんだり、バジル目当てに配達の注文が入ったりと、いわば看板娘なのだ。
 ……おかげで俺の要らない子っぷりは、つるべ落としなわけで、可愛らしい容姿に一途な心、そしてどんなことにも一生懸命取り組む彼女に、俺という男が果たして釣り合うのか……

「気にするなって。店長も許してくれたんだし」
「……リュウタ」
「この話はここまで。帰るぞ」

 惨めな気持ちを振りきるように会話を切り上げる。これ以上続けたらバジルを傷付ける言葉を吐いてしまいそうだったから。
「待って!」

 そんな俺の腕を掴み呼び止めるバジルその眼は今まで見たことのない真剣なものだった。

「……お母さんがリュウタを連れてきて欲しいって。私の家に来て欲しいの……」


―――
 俺がバジルを追い抜いたのは、自分の力じゃない。配達用の原付の力だ。
 配達のバイトが俺だけだったあの日、急な配達が入り、時間がとんでもなく押していた。
 おかげで俺は原付の限界速度ぎりぎりで、峠道を攻めるハメになったわけだ。
 そして俺はその時にバジルを追い抜いていたらしい。後日バジル宅から配達俺指名の注文が入り、今に至る。

 コカトリスは自分より速く走れる男のものになる。
 フェロモンで誘惑し自分を追わせ、捕らえた男に犯されることで逆に虜にしてしまうらしい。自分よりも足の速い男との子供を宿すための俊足なんだそうだ。
 だとしたら、俺のやったことはルール違反に他ならない。それどころか、ルールを破ったうえに彼女を汚してしまった。
 本来ならば顔向け出来ない立場にも関わらず、バジルは俺の傍にいてくれている。
 何度も俺じゃお前と並べないと言ってるのに、彼女は俺と離れることなく、いつも慕ってくれている。それが情けなくて、バジルを恋人と呼ぶことが出来ない。
 酷いことをしているのは分かっている。隼人の言いたいこともよく分かる。もし俺が逆の立場ならぶん殴っているだろうから。
 だけど、今彼女を恋人にしたら、弱味を握って彼女を犯してるようなものじゃないか。そう思うとどうしても、彼女を恋人と呼ぶことが出来ない。

「リュウタ?」

 いつの間にかバジルの家に着いたらしい。不安そうに顔を覗き込んでくるバジルと目が会い我に返った。

「大丈夫?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてて……」
「ごめんね。来てくれてありがとう」

 バジルはよく『ありがとう』の前に『ごめんね』と前置きする。気の弱いバジルらしいが、同時に違和感を覚えることもある。
 例えばそれは、彼女の希望で何処かに遊びに行った別れ際だったり、触れた羽を握り返した後だったり、事に及んだ後だったり、バジルのささやかな我が儘を俺が受け入れたときだ。
 そしてそれは自分の我が儘に対してだけではなく、もっと別の何かに向けられている気がする。
 俺にはその違和感の正体が何なのかは分からない。だからいつも通り「気にするな」とだけ返した。
 申し訳なさそうなバジルの笑顔が、何故か少し嬉しそうに見えた。

―――
「お帰りなさいバジル。リュウタ君もいらっしゃい」

 玄関で迎えてくれたのは、バジルの母親であるパティさんだ。バジルと同じ白い羽に朗らかな笑顔。容姿だけで言えばバジルの姉と言われてもおかしくない。
 そんな外見と裏腹に、どこぞの運送会社で働くバリバリのキャリアウーマンでもある。世話焼きな性格で、いつもおどおどとしたバジルの背中を押すのが彼女の役目だ。
 何を隠そう、件のピザの注文の際に、俺を配達に指名したのは彼女だったりする。更に言えば、その後バジルに頂かれた時にけしかけたのも彼女だ。

「早速で悪いんだけどリュウタ君、こっちに来て。大事な話があるの」

 あまり交流はないが、いつも笑顔のパティさんにしては珍しい真剣な表情。どうやら俺を呼んだのはかなり重要な用件であることが見てとれた。

「……私は部屋にいるから」

 バジルはなぜか緊張気味に自分の部屋へ向かっていく。って、そんなにぎこちなく歩いてたら……

「きゃん!?」

 ……あ〜あ、やっぱりこけたよ。
 その後そそくさと部屋に引っ込んだバジルに一瞬笑顔を向けて、パティさんは居間へと歩き出す。
 追い掛けるようにそのあとに続くと、居間のテーブルに座らされる。
 台所に入ったパティさんが持ってきたのは、白い球体だった。
 両手に乗っかるくらいの大きさのそれは、テーブルに置かれるときに鳴った音でそれなりの重さ、少なくとも中が空洞でないことが分かる。
 その形状は、冷蔵庫によく入れられているものそっくりだった。

「……まさか」

 そこで一つの可能性に行き当たる。

「そうよ、バジルが今朝産んだの」
「じ、じゃあ……」
「ううん。この子は無精卵。精を受ける前に作られた卵だから。だけど、次にバジルの宿す卵はきっと有精卵」

 パティさんは俺をじっと見ていた。

「もちろん次が絶対に有精卵だとは限らないわ。卵がつくられた後に精を得たとしても、その卵は無精卵のままだから。もしバジルが次に有精卵を宿すとしたら……」

 それはバジルと次に交われば、確実に彼女は子供、それも俺の子を宿すということ。逆に言えばバジルと交わらなければ、つまりそれは……

「……リュウタ君」

 真剣な面持ちでパティさんは俺を見据えていた。

「バジルはあなたのおかげで変われたわ。引っ込み思案だったあの娘が、あなたと一緒にいたいがために、アルバイトを始めた」

 なんの魔力もこもってない眼差しなのに

「あなたにはとても感謝しています。あの娘が明るくなったのはあなたのおかげだから。そんなあなたにこれ以上無理を言うのはすごく心苦しいんです。……だけど」

 真剣なそれから目を逸らすことは出来なかった。

「バジルはあなたを夫と認めてしまった。あなたがバジルをどう思おうと関係なく。これはコカトリスの本能なの。あなたがいないともうあの娘は……」

 体を動かすことすら出来ない。それはコカトリスの眼なんかよりも強烈な事実で。

「これは確かに狡い言い方でしょう。あなたの人生を決め付けてしまうこと、申し訳なく思っています。でも私はあの娘に母になる幸せを知って欲しいんです。……だから、リュウタ君、……いえ、隆太さん」

 俺の悩みなんか吹き飛ばすほど、遥かに大きくて幸運な話で。

「あの娘を、バジルをもらってやってください。あの娘の母、コカトリスのパティから、佐倉隆太さんへのお願いです」

 パティさんは深々と頭を下げてそう言った。

 ……ちっぽけなことだったんだな。
 釣り合う、釣り合わないなんてそんなものは、バジルには関係のないもので、大事なことはどうあればいいかじゃなくて、どうありたいかということだったんだ。
 それが分かってしまえば決心は一瞬だった。バジルが俺とずっと一緒にいたいのだとすれば、答えは決まっている。
 もう逃げはしない。出来ないんじゃなくて、しない。パティさんから目を逸らさずに俺は頷いた。


―――
 そして俺はバジルの部屋の前にいた。緊張で体が震えている。……らしくない。
 ……まさかこの歳でするとは思わなかったけれど、これから俺は一世一代の告白をするわけだ。
 俺はもう分かってしまったから。バジルがどれだけ俺を想っているか、分かってしまったから。
 ……まったくもってらしくない。
 どうしようもない自分に苦笑しながらバジルの部屋のドアをノックする。
 ゆっくりと開いたドアの先にいたバジルは、毛布を体に纏い、不安そうに俺を見ている。

「……リュウタ」

 前髪の奥のバジルの瞳は潤んでいて、今にも泣きそうな表情をしていた。

「……お母さんから聞いたよね? わたし、……もう」

 声も悲しげに震えている。……さてはこいつ

「迷惑だよね。こんなわたしなんかの子供なんて、リュウタもいらないよね……」
「……はぁ」

 思わずため息が漏れた。こいつ、わざとやってんじゃないだろうか……
 ため息を肯定と受け取ったのか、バジルは嗚咽を漏らしてすすり泣いている。これじゃあ、どうしたってほっとけないじゃないか。

「バジル」
「ふえ?」

 子供をあやすように抱き寄せて、頭を撫でてやれば驚いたように目を見開くバジル。

「世話のかかるやつだな、まったく」
「リュウタ!?」
「勝手に人をろくでなしにするなよ。……その、俺だって、お前のことをだな……」

 まずい、思った以上に恥ずかしいぞコレ。

「……その、なんだ。助けてやりたいというか……守ってやりたいというか……」

 きょとんとした表情のまま固まるバジル。……こんな時にだけなんて鈍い奴。

「ああ、もう! つまりこういうことだよ」
「んっ!?」

 勢いに任せてバジルの唇を奪う。小鳥が餌を分け合うように、唇同士を触れさせる啄むようなキス。
 うっとりと目を細めるバジル。涙で潤んだ瞳が妙に色っぽい。しばらく彼女の唇の柔らかさを堪能し、顔を離す。

「リュウタ……」

「俺は、お前より速く走れる訳じゃない。お前を幸せにしてやれる保証もない」

 顔から火が出るほど恥ずかしいが、これは必要経費だ。

「だけど、俺はお前のことが好きだ。お前が望むなら、この先ずっとお前と生きていきたい」

 バジルの目が大きく見開かれたと思うと、そこから大粒の涙が流れた。

「リュウタ!」

 感極まったバジルが抱きついてくる。彼女の羽が俺の体を覆った。

「ごめんな、バジル」

 もう迷わない。決意とともにバジルを強く抱き返す。
 慎ましいけど柔らかい胸、すべすべした背中、そしてもふもふした羽毛。
 ……もっと早く受け入れていれば、バジルの魅力をこんなにも堪能出来てたのか。もったいないことしてたな……って、『すべすべした背中』?

「うわっ!?」

 改めてバジルに目をやると、足元に落ちた毛布以外は何も着ていないことに気付いた。
 雪のように真っ白な背中から、ほんのりふっくらしたお尻までが俺の目に飛び込んでくる。

「なんで裸なんだよ!?」
「……だって、リュウタは私の旦那様だから。旦那様の子供を産まないといけないから」

 悲しそうに目を伏せるバジル。

「……本当は、動けなくして精を貰うつもりだった。いけないことなのは分かってたけど、リュウタから嫌われても私はリュウタとの子供が欲しかったから……」

 ……かわいい顔してこの娘、わりとやるもんだね。
 でも、これがコカトリスの本能というものなのだろう。結局バジルを追い抜いた時から、俺の運命は決まってしまっていたわけだ。
 ……でも、だとしたら遠慮はいらないだろう。
 バジルの前髪を優しくかき上げる。

「バジル。その、なんだ……」
「どうしたの?」

 お互い好きあっている以上、そうなるのは当然なわけで、俺もまあ男だし、そういう気持ちがないわけじゃないし……

「今日は、その、……俺から…………していいか?」
「え?」
「あ〜、なんだ……、いつもお前からだったし、俺は今日初めてお前に告白したわけだし……」

 驚きに目を見開くバジルの顔が、意味を理解するにつれ次第に喜びへと変わっていく。

「リュウタ、お願い。……して」

 俺の胸に頬を埋めて上目遣いでのおねだり。柑橘類のようなバジルのもつ薫りに、理性が剥ぎ取られていく。股間が痛いほどいきり立っていた。

「……バジル、先に言っておく。加減出来ないかもしれない」
「平気だよ。……めちゃくちゃにしてください。……旦那様」

 目を伏せて顔を赤らめ、囁くバジル。
 もはや我慢の限界だった。抱えあげたバジルをベッドに優しく降ろすとそのまま覆い被さる。
 そのまま顔を近付ければ目を閉じて唇を差し出すバジル。それに応えると、バジルも頭を振りながら俺の唇を貪る。

「……んあっ、……んちゅ」

 やがて唇から割って出た舌が水音を響かせながら、絡み合う。
 鳥の羽になっているバジルの両腕が肌を擽る度にぞわぞわとした快楽が背中を走る。五感の全てがバジルの魅力を捉え、彼女を渇望する。
 しばらく口内を堪能した後、今度はあちこちを愛撫するように啄む。唇から頬へ、少し下って首筋、鎖骨を甘噛みを混ぜて入念に、舌を織り混ぜてなぶってやる。

「……あん、……ああ」

 唇が触れる度にバジルが喘ぐ。それが愉しくて、首筋と鎖骨を交互に苛める。

「ふあっ……、くうん……」

 感じているのだろう。バジルの喘ぐ声のトーンが高くなった。

「ああっ……もう」

 切なげに見上げるバジルの懇願に答えて、両手をバジルの体に這わせる。

「ひうっ!?」

 小振りながら柔らかさと弾力を兼ね備えた極上の胸肉は、揉み込むたびに手に吸い付いてくる。羽根の付け根は敏感らしく、撫でるたびにバジルの体が跳ねる。

「あっ、……ああっ」

 そして小鳥が鳴くような可愛らしい喘ぎ声が、俺の理性を掻き乱す。
 加減なんて出来ない。全てを受け入れてくれる女の子に男として昂らない筈がない。破り捨てるように服を一気に脱いでこちらも裸になる。
 肉棒が下腹部につかんばかりに反り返った。

「……あ」

 俺の股間に向けられたバジルの眼は、まるでご馳走を目にしたように物欲しげな顔をしている。
 こくりと細い喉を鳴らしたところで我に返ったのか、はしたない自分を恥じるように慌てて目を逸らした。

「……かわいいなぁ、バジルは」
「い、言わないで……」
「今の表情すごくかわいかったぞ」
「……意地悪」

 ああ、そうだな、自分でも意地の悪い言い方だと思う。
 ……だけどな

「お前が悪いんだぞ」

 そんな可愛い仕草で俺を誘うから、思わず苛めたくなるんだ。
 パンパンに膨れ上がった肉棒が女芯の入り口に触れる。

「……ひぅっ!」

 それだけで淫らな水音が耳に届いた。顔を真っ赤にしながら体を震わせるバジル。

「…リ、……リュウタ……早く」

 その様子もやはり可愛い。また意地の悪い気持ちが持ち上がり、秘唇を擦るように前後に動かす。

「むぅ……くくく……」

 もう堪えきれないのかバジルはうめき声をあげながら腰を淫らにふっている。

「……お願い、リュウタ」
「……どうしようかな」

 もう少しバジルのイヤらしい姿を見ていたくもあり、一刻も早く張り詰めた欲望を満たしたくもあり、そう呟く。正直なところこちらにも余裕はない。

「く、下さい! バジルの中にリュウタの、旦那様の子種を下さい!バジルに旦那様との卵を、孕ませてください! 旦那様との子を、産ませてくだ……ひああああああっ!」

 そこにバジルの本能を剥き出しにしたおねだりを聞かされたなら、もう焦らすことなんか出来なかった。バジルが言い終わる前に肉棒を秘芯に打ち込む。
 それだけでバジルは達してしまった。

「……あっ……ああっ」

 ぽっかりと開けられた口からは唾液が垂れ、大きく開かれた瞳は潤みきって焦点が合ってない。茫然自失といった体で痙攣を繰り返す。

「大丈夫か?」

 息も絶え絶えな様子に思わず尋ねる。

「……だ、だめっ、は、はやくっ、うごいてぇ……かきまわしてぇ……」

 どうやら苦しいのは生殺し状態だかららしい。つくづくイヤらしい。だがそれがいい。

「分かった。動くぞ」
「ひっ!? うあ……あううっ。」

 ぬちゃぬちゃと卑猥な音をバックに、バジルの喘ぎが響く。すでに昇りつめているはずなのに、バジルのそこは変わらず俺の肉棒を食い締め、柔らかな媚肉は奥へ奥へと俺を呑み込もうと蠢く。

「うくっ……りゅうたぁ、きもちいいよぉ」

 時折焦点を結ぶ視線は俺だけに注がれ、そのたびに締め付けが強くなる。呂律が廻らず舌足らずな口振りがが、童顔な容姿も手伝い年端も行かない幼女を犯しているような背徳感を覚える。
 膣内はされるがままだった時とは違い、ローラーのように肉棒を巻き込み射精を促す。腰の奥から痺れるような快感が溢れそうになる。
 ……もうすぐだ。バジルを本当に自分のものにする一射が放たれようとしている。腰の動きを上げてスパートをかけると、バジルもそれに応えるように腰を動かし始める。

「ふぁっ、……ああっ!」
「……くうっ!?」

 射精間近の肉棒にバジルの膣がさらに締め付けを増す。膣壁はグネグネとうねりながら絡み付き、精液どころか肉棒すら呑み込もうとするように、深く深く吸い上げる。
 もはや意識せずとも腰の動きは止まらず、このコカトリスの少女に子種を打ち込むことしか考えられなかった。

「バジル、……出すぞ」
「だしてっ、ぜんぶだしてぇっ! りゅうたのせいえきで、わたしのおなかいっぱいにしてぇっ!」

 それが最後だった。腰が裏返りそうな程勢いよく放たれた射精の快楽に頭が真っ白になる。
 注がれた精液は溢れることなく、バジルの子宮奥へと流れ込んでいった。

「……ふあっ、……ああ……うふぅ……りゅうた、りゅうたのあかちゃん。……りゅうたの、……およめさん。……あはぁ、……し、あ、わ、せぇ〜……」

 弛みきった顔でそれだけ呟くと、バジルは寝息をたて始めた。


―――
 そして日付が変わる頃、俺はまだバジルのベッドの中にいた。
 バジルの羽が、俺の背中の上にしっかりと置かれていて動くに動けず、可愛いその寝顔を邪魔することも出来ず唯一自由な片手で掛け布団を羽織って肌寒さを防いでいる。

「……りゅうた、……だいすき」

 ……暢気なもんだな全く。こちとらかなりきつい体制で眠れやしないと言うのに……
 でもまあ、こんな可愛いバジルが見られるなら、それでもいいか。
 寝言に応えるように髪を撫でてやると、鼻を鳴らしてさらに頭を押し付けてくる。

「……ふああ、りゅうたぁ〜」

 バイトではお荷物、腐れ縁とは冷戦状態。あげく人生ルート完全固定。見方によっちゃ、こいつと関わってから散々だといえる。これを幸運なんて思える方がどうかしてるかもしれないのに……
 何が恐ろしいって、悪い気が全くしない。
 もはや心は彼女の笑顔を守るための覚悟を決めている。これがコカトリスの持つ真の魔力なのかもしれない
 その瞳の魔力にあてられた男は献身的な愛情表現と、強烈な快楽でコカトリスから離れられなくなる。
 ……そんな妄想。
 少なくとも俺はもう、バジル無しでは生きていけないし、バジルのためならなんだって出来る気がしてる。結局のところ、俺はすでバジルに首ったけなわけだ。

「……よし」

 どうせ逃げ場はない。だとしたら少なくとも後悔しないように、俺は一つの決意を固めることにした。


―――
 青空にゆったりと雲が流れていく。夏の気温は走り回る奴には容赦がない。全身汗だくになりながら大量の酸素を欲しがる体を宥める。

「おー、またタイム伸びてるぞ」
「本当ですか?」
「ああ、お前には才能があるかもな」

 バジルに完全に魅了されたあの夜から一ヶ月程。大きな変化と思われたあれこれは、日常に溶け込み始めている。
 とりあえず経過は順調。今日も葉桜は平和です。
 骨が折れるかと思った両親の説得はむしろ呆気なく解決した。
 しかし、バジル本人とバジルの両親の考えを始終案じ、俺には一切触れないってのはどうよ?
「相手方が納得してるなら問題無いわよ。孫が見られるなら万々歳」
「そうだな。どうせ男なんて万一の場合代えもきくし、せいぜい嫁さん泣かすな位しか言えないしな」
 ……両親の寛大さに感謝すべきか、適当さに頭を抱えればいいのか悩むはめになった。
 結局大学までは出ろと言う両親の勧めにより、目標は進学。学費は出してくれるそうなので甘えさせてもらおうと思う。
 子供が産まれたらパティさんが育ての親になると名乗りを挙げている。
 お互いの両親も妙に意気投合し、家族ぐるみの付き合いとなりそうだ。本当に拍子抜けするほど簡単に話がまとまってくれた。

「もしくは嫁さんの力かもな」
「ああ、それはあるかもしれないですね」
「ナチュラルにのろけるな、バカ」

 それから俺はバイトを辞めて陸上部に入った。
 いつか実力でバジルを捕まえると決めたからだ。今はもちろん追い付くことすら出来ないが、いつか自分の足で捕まえてみせる。
 そのためには、スタミナも速さも必要ってことで、中距離走を選んだ。
 葉桜高校は部活があまり盛んでなく、これでリレーに参加出来ると歓迎ムードだったのがありがたい。今ではすっかり部活漬けの毎日だ。

「それじゃあ今日はここまで。お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様でした!」」」

 今日も部活は終わり。着替えて荷物をまとめて帰ろう。

「隆太」

 校門に差し掛かったところで、久しぶりな顔と鉢合わせた。

「隼人」
「久しぶりだな」
「何か用か?」

 仏頂面を崩さずに隼人はこちらを見据える。

「……どうしても言っとかないといけない気がしてな」
「……何だよ。バイトのシフトきついとかか?」
「お前なんかいなくても十分回ってるよ」

 からかうような言い方は腐れ縁の隼人のそれ。

「バジルちゃんのこと、彼女にしたんだな」
「……もはや嫁にせざるを得ない状態だけどな」
「……それなら言ってもいいな」

 隼人の右頬が引き釣る。困った時のこいつの癖だ。

「その、なんだ。……惚れてたんだよ」
「は?」
「……バジルちゃんに」

 沈黙が流れる。果たして俺はどんな顔をしてたのか。

「あ、いや別に、だからどうだって話じゃなくてな。言っておかないと、吹っ切れる気がしなくてさ」
「……やらないよ」

 自分でも驚くくらい自然に、言葉を返す。

「バジルは俺の嫁だから」

 隼人もまさかこんな風に返されると思ってなかったらしく、目を丸くしていた隼人だが、すぐににやりと笑う。

「安心したよ。これで踏ん切りがつく」
「悪いな、隼人」
「バジルちゃん泣かすなよ」
「ああ」
「よし。……さてと、それじゃあ一人者は寂しくバイトにでも行きますか」

 それだけ言うと隼人はすたすたと歩いていく。

「……ますます他の道が無くなったな」

 追いかける気分にもならずその場で佇みながら呟く。
 バジルと共に生きる道以外がどんどん埋められていく。果たして俺は彼女を捕らえたのか、彼女に捕らえられたのか……
 ……どっちでもないか。
 あえて言うなら、どうしても捕まえたい女性がいるってところだな。バジルを捕まえるための道を、俺が選んだんだ。誰に決められたわけじゃない、俺が今決めた。

「リュウター!」

 ふと、白いものが俺の視界を掠めていく。……バジルだ。

「……絶対捕まえてやる!」

 どんどん見えなくなる白い背中を追いかけるように俺は駆け出した。
11/02/20 00:08更新 / タッチストーン
戻る 次へ

■作者メッセージ
こんにちは、初めまして。生まれてはじめて萌えたものはピーター・ラビット。与太郎と申します。まあそれが「萌え」という感情と知ったのはだいぶ後のことですが。
さて、この物語は平和な日常の裏側で暗躍する悪者たちを主人公たちがばったばったとやっつける、血沸き肉躍るようなバトル展開は全くない、ひたすら恋愛物っぽい何かです。
正直退屈な展開ばかりですが、息抜きにでもなれば幸いに存じます。それでは

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33