読切小説
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自転車と同居人
炬燵を片付けようか――




とある日曜日


カーペットに寝転がって春の日差しを部屋の窓から受けていると、ふと何かをしないといけない気がして思い立った


最近はもう随分と暖かくなってきたし、買い直したばかりで片付けるのもあれだがそろそろ邪魔になってきた


以前の事件のようにまた壊れないように大きめのものを買ったのだが、アパートの一室にこのサイズの炬燵はちょっと困る


寒い時にはエアコンがあるし、春に必要なものだしてないし、なにより今月はお金がやばい(主に炬燵のせいで)


とにかく、そろそろこの冬の魔物を片付けてしまいたいのだ



だが、問題が1つある―――


俺はゆっくりと起き上り、炬燵の向かい側を横目でみる


そこには茶髪を雑にサイドテールくにくくった細身の女性がアウ―(^q^)とだるそうにくつろいでいる


ゾンビかお前は、いやゾンビの方がまだかわいげがあるな


問題はこいつが反対するということだ、すでに冬の魔物の化身と化している彼女、ヒカリのことである



ラミア族のヒカリにとって気温と湿度は体調に強く影響が出る、居心地がよくないとすぐ機嫌が悪くなってストレスがたまるのだ

ストレスがたまると脱皮不全だったり不具合がでてくる


本人曰くただの好き嫌いではなく体質的なものらしいのだが


しかしいい加減、時期も時期だ、さすがに冬眠モードを終了してもいいのではないだろうか、炬燵撤去はそのいいきっかけになるはずだ



さて、どうすれば説得できるだろうか…


ぶーぶーと文句を漏らす顔が容易に思い浮かぶ、

実は結構前から対策を考えているが、いまだにいい作戦が浮かばないのである



仕方ない…とりあえず話してみよう、どうせ夏の前にしまうのだし



「…なぁヒカリ」


なるべくやさしめに声をかけると、ヒカリは急にハッと顔を上げてぼそりとつぶやく


「…一発芸、もぐら叩き」


次の瞬間、ヒカリの体は炬燵にもぐりこみ…



なぜか俺の側からピコピコハンマーを握った淡褐色の尻尾がズルリと這い出てきた、おいどっからそれ持ってきた




ヒカリは機敏な動きで炬燵の左、そして右へと顔を出す

すかさずハンマーを持った尻尾が追いかけるが上半身はさっと身を引いて紙一重でそれを交わしていく

だんだんと速度が増していき、たまにわざとハンマーがあたると


「いて!いていて!もぉーおこったぞー!」


ドヤ顔でそんなまったく痛そうにない裏声をだす、なんかムカつくな…


てか元ネタ古すぎるだろ


速度の上昇はとどまらない、叩く方がだんだん雑になってきてるぞ


「いていて!いていて!い、ぶぉ!」


炬燵の足にぶつかってのだろう、ドゴンと派手な音を響かせた後、ヒカリはピコピコハンマーを落として動かなくなる



「…ぁ…っう…ま、まいったぁー降参だー…」


ズルズルと這い出てきたヒカリは頭を押さえながら最後のセリフを言い切り、

おおげさにグフゥと声を漏らして床に突っ伏した



………


……





もう春だな…早く炬燵片付けよう



―――――――




「お断りします」

ヒカリが手のひらをグッと前に突き出す


むう、やはりダメか…


予想どおりの反応にさすがに肩が落ちる


小細工なしでとりあえず直球勝負に出てみたのだが…


炬燵の向かい側でヒカリは口をとがらせてグルグルとぐろを巻き始める、これは警戒してるな

さっきの一発芸をスルーしたせいか機嫌もよくなさそうだ



…とにかく、なんとかこの警戒を解くところから始めないと

そういえば昔、俺の部屋に来たばかりの頃は加湿器も暖房器具も少なく、狭くて体が伸ばせなかった

それでも「大丈夫…あなたと一緒にいられるならこのくらい平気よ」って言って我慢してくれていた

あの健気さはいったい何だったのかな…


おれは一息おいて、諭すようにポツポツと言葉をつなぐ


「いや…そういうとは思ったよ、だけどなもう四月だし、電気代もかかるしそろそろな…」


「無理無理!ムーリー、ムリでーすー、炬燵をなくすとか…変温動物虐待だー!」


ここまで予想通りだとすがすがしいな、ヒカリは下半身を炬燵の足に下半身を絡め始めている、意地でもはなさん気らしい


まずいな…どんどん悪化していく

これは厳しいぞ、さてどう返すか…


正直しばらく家から出てなかっただけだから、単に嫌がっているだけなのだ


いちど外に出れば空気にも慣れて、動けるようになるはずなのだが…


ふとヒカリの白い長袖のブラウスを眺めてみた、あれだけの期間を炬燵むりでよく健康状態を保てるものだ


ん?保ってる?



「ちょっとヒカリ…」


「え?なに、ちょっと!」


ちょっと確かめたく、ヒカリのブラウスの下から手を入れてお腹周りを探ってみる

パッと見はわからないが、筋肉とは違う弾力の、明らかにプヨプヨとしたものがそこに溜まっていた


下半身ははほぼ筋肉だからな、ほぼ毎日触ってると大体わかる



しばしの無言



「ヒカリ…お前さ」


「…なんでもなーい、なんでもなーい、こーいのまほーで…」

ヒカリは硬直したまま明後日の方を向いて目を合わせようとしない、何きちゃんだよ、コッチをミロォ…!



「太ってんじゃねーかお前!」

「なっ、ちが…違うの!これは違うのー!」


「だから食いすぎっていっただろお前!なんで冬眠の途中で起きるんだよ!起きたらまた食べるし!で、すぐ寝るし!」


「やめてー!違うの、ちゃんとたっぷり冬眠する予定だったのー!…でも今年は暖房が効いてて居心地もいいし、うたたね程度というか…あんまり眠くならなくて…お腹もすいて…その…」


ヒカリがもごもごと口を動かし弁明しようとする。全然可愛くねぇから、かわいくないったらかわいくない(必死)



「ふぅ、あのさ…少しは体動かさないと…健康に悪いぞ?」



息を落ち着けてヒカリの説得を試みる、やはりヒカリ自身の体の問題を提示したほうが手っ取り早い

これをきっかけに外に出る気力が湧けばいいのだが



「えー運動するのー…ハッ!それはつまり…////

 …ベッドの上で運動させてやるぜ!みたいなピンクなお誘
「炬燵片付けるかー」
最後まで言わせてよー!」


ヒカリが不満そうに頬を膨らませる、尻尾で床ビタンビタン叩くのやめなさい


「もうー…他のSSならこの流れから考えてこの後は私としっぽりロールミー!っていくところでしょー」


「ちょ…メタな発言やめろ」

消されるぞお前…


「だって、まだ48手1/3しか試してないじゃないー!私はいつでもドントウォーリーなのよー?」


「ウェルカムな、…あとホントに今度こそ死ぬから勘弁してくれ」



あの6時間以上に及ぶ炬燵事件の後、俺は腰がえらいことになり2、3週間も腰痛と闘う羽目になったのだ、よく単位落とさなかったとほめてやりたいわ



「はぁ…別に今すぐダイエットとか酷なことは言わねーよ?ただそろそろ春に向けて外に出て体を慣らさないといろいろ困るだろ?大学もう始まってるぞ」



俺とヒカリの通う大学の授業もすでに始まっている、ラミアは特別な授業構成で冬の授業が少ない分、春先から秋までが多いのだ


そろそろ復帰しなければヒカリの出席日数に響く、数か月前に人の単位を心配してたくせに今では全く逆の立場だ



「…そうはいってもねー」


歯切れの悪い返事をしながら下半身はすでに炬燵に屈してもぐりこんでいる、すでに負けそうじゃねぇかオイ


クソめんどくせーなコイツ、…仕方ない


「そうだ、俺さ…今見たい映画があるんだよ、なぁヒカリ…丁度割引券も持ってるし、散歩ついでに映画見に行こうぜ?」


「ザ・エビでヘビを釣る作戦」あ、なんかこれ韻踏んでていいかも


思い付きの作戦だがこれでだめなら無理だ、諦めて残りの32手の餌食になろう


もう最悪、炬燵から意識を逸らせればいい、そうすればきっとヒカリは幸多き未来(通学路)を歩き出すだろう…



あぁこれが殉教者の境地か…



俺が一人で悟りを開いてる中、ヒカリはなにかしばらく考え込むようなしぐさの後、何かに気が付いたかおと思うとニヤーと笑う


「そっか、そういうことか…それじゃあ仕方ないなぁー♪」


なに考えてるの?なんか勘違いしてそうだな…


「なにが…?」


「よーするに…私とデートしたいんでしょー!もー、そういえばいいのにー…うふふ♥」





「…イヤ、チガウヨ?」


「あ、なんかすごい間が空いた、図星で動揺してるなー♥ふふ」


ソンナコトナイシ、ゼンゼンイシキナンテシテナイシ


一緒に出かけたかった冬季限定のデートスポットにチェックつけてはため息ついたりなんか全然してない、マジファクト




「しょうがないなぁー♥じゃ、付き合ってあげようかなー出かける準備するから待っててー」


まだ何も言ってないのにヒカリはうって変わってせかせかと服を選びだす、尻尾も左右にフリフリと揺れている、コボルトかお前は


まぁこの際外に出てくれるなら何でもいいや…


俺は早々に準備を済ませて玄関の外で待つことにした


…そういえば、こうやって出かけるなんて久しぶりだな…



うたた寝ほどとはいえ、炬燵事件のときくらいしかヒカリはまともに起きていなかったからな、常に寝ぼけて心ここにあらずって感じ

少なくともデートなんてできる状態じゃなかった

冬のほとんどはずっと一人でヒカリの寝ぼけ顔を見ていた気がする


……





いかんいかん、デートって意識したら顔がにやつく



これはあくまでヒカリのためですしおすし



そうは思いながらも一度意識し始めると心の弾みは止まらない、なんだよ俺中学生かよ…


「おまたせー」


ヒカリの声が聞こえる


髪を下ろし、黒のボーダートップスに青いフレアスカート、ジャケットを羽織った春らしい姿は今まで見ていた部屋着とのギャップもあってこちらの気分を高揚させる


「…おお、久々にかわいい恰好してる…」


「うふふ、久々だからねー♥あ、そうだ!ねぇ自転車で行こうよー」


「えぇー?恥ずかしいから嫌だよ…それに全然散歩にならんし」


「いいじゃないーたまには、久々のデートだよー」


「…わかったわかった、待ってな」


まぁ、ここで口論しても仕方ない

俺は言われるがまま止めてある自転車を下ろす


「ほれ」


「うふふ、これも久々だねー」


ヒカリは微笑みながらそういうと自転車の後ろに横に腰掛ける


下半身は俺のわき腹を回り、肩や腕の周りにグルグルと巻き付いていく


そしてそのままヒカリは俺の背中に抱きつく、ラミアとの自転車二人乗りの完成である、あんまり当たってない(どこになにがとは言わない)


正直バカップルみたいであまりやりたくないんだが…


「…なぁ、やっぱやめようぜ」


「だめー、ほら早くー、さぁ映画館まで3・2・1!ゴー・シュート!」


「だから古いっつの」



ご機嫌なヒカリの決め台詞にあきれながら俺はペダルを漕ぎ出す、一足回すだけでも重い

回りだした車輪は微妙に安定性を欠いていつまでも緩やかに前進する





「おっそーい!」


「ええい、やかましい!」



「うふふ…♥」




どうやら外の空気に慣れたようだ、この様子なら炬燵を片付けても大丈夫だろう


雲のない空からはうっとおしくてまぶしくて、それでいて暖かい光が緩やかに進む自転車を照らしていた――――




14/04/24 02:33更新 / とげまる

■作者メッセージ
ヒカリ「前のと矛盾多いし私のキャラといいブレブレだねー(笑)」

俺「やめてやれよ…」

――――――――――

どうもこんにちは、2作目です

また駄文を書いてしまいました。

無理やりほのぼの感を出そうとした結果がこれだよ!


ネタが浮かんでも上手く文章にできないのがよくわかるSSですね

ラミアさんと自転車デートしたいですhshs

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