読切小説
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ガールズトーク
 あ。来たわね。まあ上がりなさい。ほら、上着脱いで。
 うちの宿六はまだ仕事だけど……。
 そういえばそっちもお勤め大丈夫なの?
「恋の悩み」で臨時休暇ね。
 いいわね魔王城……引退するんじゃなかったかしら?
 驚かないの、って?驚いてるわよ?
 すっかり綺麗になっちゃってまあ。
 髪のツヤとかお肌の張りとか。スタイルもすごい綺麗でいやらしいし。
 ぶっちゃけ私もムラムラ来てるし。
 うん。女の先輩として太鼓判押すわ。お墨付きだって書いちゃう。
 ……ああ、そういうの、やっぱりしんどい?
 大丈夫よ。アルプになったぐらいで離れる家族がいるもんですか。
 おかえりなさい、わたしの可愛い弟。

 さ、まずは腹ごしらえといきましょうか。
 もうちょっと早く言ってくれてたら、ちゃんとした料理も用意できたんだけどね。
 じゃがいも入りパンとポトフとヨーグルトに果物。
 我が家の伝統メニューです。今日のは自信作。
 なんと腸詰めと内臓以外の肉も入ってるのよ。
 ハーブとスパイスが安かったから奮発しちゃった。
 でもあんたの味には及ばないのよね……ほんとにコツないの?
 いや別に理由ってほどのものじゃないけどさ。
 宿六が喜ぶのよ。美味しいご飯食べた後にはもう朝まで色々と。

 はい、お粗末様。いつまでもむくれてないでさ。機嫌直してよ。
 占いのことなら謝るからさ……。
 いやでも本当なのよ?姫様の直伝。
 好きな男のアレと同じサイズの腸詰め取るっていう。
 食べ方もぺろぺろ舐めてていやらしくて可愛かったなあ……。
 あ、皿投げるな!危ない!
 わかった、わかったからごめんって!もう言わない!

 で、何があったの?
 独り身の童貞がインキュバスになるって滅多なことじゃないわよ?
 へえ、北東の魔力だまり。一月前に。
……そこって確か魔王様とお館様のデートスポットよ?ああ、知らなかったわけね……。
 誰も教えてくれなかった?じゃあ知ってて止めなかったのね。多分。
 性格いいんだか悪いんだか。

 ほらほら。もっと飲んで。どうせ明日も休みでしょ?
 え?大丈夫大丈夫。魔王城のみんなが「恋の悩み」を無視するもんですか。
 あちらさんの聖都から軍隊でも来たら別でしょうけど。
 ……さあ、何があったか、きっちり話してもらいましょうか。
 まさかアルプになっただけって事はないわよね。
 あんたみたいな仕事の鬼が、さ。
 大丈夫だいじょうぶ。あんたの家族を信用しなさい。
 で、お相手は誰?どんな子?お見通しよ。どれぐらい前からの知り合い?
 去年の年期はじめに来た、ディオニアの留学生ね。神学生?
……へえ、大貴族じゃない。凄いの捕まえたわね。
 そんなんじゃない、か。うん。そう思っとく。
 ほらほら。続き話す。そう簡単にごまかされてあげないわよ?
 腹割って話しちゃいなさいよ。
 せっかく夜が永いんだから、じっくりたっぷり丁寧に。

 うん。街道筋でハーピーとゴブリンに群がられてたのを助けてあげて。
 正式に引き合わされて警護役兼話し相手を仰せつかって、仲良くなって。
 まあ見事に……あ、ごめん。何でもない。
 ほうほう、そりゃまあ周りには内緒になるわよね……。
 ふたりだけの秘密、か。今度宿六に頼むかしら。
 ところで話の腰折って悪いんだけど……仮にも我が魔王領最大の同盟国ディオニアの貴族が、なんでわざわざ留学を?
 一度行ったことあるけど、あそこの王立学院って魔界アカデミアに匹敵するぐらい凄いところよ?
 巡礼?こっち側の神様の?
 恋愛感情が理解できないし性欲もほとんど無い、と……ああ、それはまた、冒涜というか。
 挙句に抗魔力体質?肩身狭かったでしょうね……。
 で、巡礼のつもりで魔力だまりに遭遇しちゃったわけね……くふふ。
 え?何笑ってるんだって?そりゃ勿論。ここからが本番じゃないの、ねえ?
 身体、熱くなったでしょ?我慢できなくなったでしょ?
 その場で押し倒しちゃった?それともケダモノみたいに犯された?
 身体まさぐられて、内側から熱くなって、子宮と膣があるんだって再確認させられて、熱くてどろどろしたのでおなかのなかたぷたぷに……痛い痛い。

 ごめんって……え?何でって……宿六がこういうの好きなのよ。4,5回出したあとにへばってるのを詰られるとまた大きくなって……。
 えー?いいじゃないのー。
 ……はいはい。それよりそっちの話だったわね。
 うふふ。相変わらず墓穴掘るんだから。

 ふんふん。
 抱きすくめられてキスされそうになったところに当て身……当て身ぃ!?
……はー……やっぱり家族だから似るのかしら?
 え?いや、私も宿六に一回。こっちはどうでもいいじゃない。
 まさか逃げたりしてないでしょうね……。
 ああ、うん。自分の部屋に連れて行くあたりがサキュバスよね。……え?
 何びっくりしてるのよ。自覚なかったの?
 いや、だって考えてもみなさいよ。あんた、自分を押し倒そうとした男を自分の部屋まで引っ張り込んでるのよ?
 あーあー、照れちゃってまあ。まさか無防備にそんな顔見せてないでしょうね?男なら誰だってかぶりつきたくなるわよ?
 他には無いの?そういう迂闊というかご褒美みたいなこと。

 ふんふん。着替え中に乱入したりされたりが合わせて八回。
 風呂場に乱入したりされたりが合わせて三回。
……魔女ちゃんたちの実験でベッドが合体して七日ぐらい一緒に過ごして。
 まあ、“魔界酔い”の看病もあるでしょうね……。
 過不足ないわよね?……うん。少なく見積もる分には問題ないわよ。
 オーケイ。
 もうちょっと楽しみにとっておきたかったけど単刀直入にいきましょう。
 したの?寝たの?抱かれたの?……そりゃ、そうなるわよね。で、いつ?
 おととい!?
……大丈夫よ、防音魔法はちゃんとしてるから。

 いや、そっちの旦那様が難儀な体質なのは聞いたけど……一月よね?よりによって魔王様と親方様の残り香浴びて。
 よく押し倒さなかったわね……。
 身体が熱くてそれどころじゃなかった?
 悪酔いした飲んだくれじゃないんだから。
 というか身体どうやって保たせてたのよ……。最初の内は錬金術工房?
 ああ、ゴーレムちゃん用の合成精液もらってたのね。
 不味いっていうけど……?
……ドクダミと古くなったレバーに砂混ぜたような味って……ストップ、もういいわ。その割に顔色いいけど……。

 わかった。口移しで飲ませてもらってたんじゃない?

 なんでわかるの、って……わかるわよ。
 ふんふん、唾で溶いてもらって口の中舐り回されたり垂らされたり……、
 へえ、皮膚にすり込んでもらってもいいの。
 でも、物足りなかったでしょ?これじゃない、これじゃないっておなかの中から声が聞こえてきて……うん。ぞくぞく来るわよね?それでそれで?
 十日ぐらい経ったらケダモノみたいな眼でこっちを睨んでた?
 え、睨んでたわけじゃない?そうよね、視姦されてたんだもんね?
 ズボンの前が膨らんでるの見て……あっちが引きずり降ろしたんじゃなくて、見せて貰ったの?
 やっぱり自分のより大きかった?ああ、やっぱり……。で、どう思った?

 そうよね、これだ、って思うわよね……。
 自分がこのために生まれて、このために生きてきたんだって納得する感じ?

 恥ずかしい?こんな話されて恥ずかしい?でもちょっと気持ちいいでしょ?
……やっぱり旦那様のほうがいいか。違う?そうなりたいけど?
……気づいてる?今のあんた、凄く蕩けた顔してるのよ?
 うん。小細工はしたわよ?ほら、さっきのワイン。
 実はアレ、宰相殿にちょっと無理言って分けてもらったのよね……。うん、“告白の酒”って奴。
 メドゥーサちゃんみたいに素直になれない仲間に素直になってもらうお薬。
 ほらもっと褒めて。

 それで、触ったりして匂い嗅いだりして……透明な方のは出てたの?
 直は無理だった、って勿体ない……へえ、指で触って舐めさせてもらって。
 お返しで自分も股間で濡れてたのを指ですくってあげた……うふふ、こっちも濡れてきちゃった。

 で、食事を本物に切り替えたわけね?味は……言うまでもないわよね。
 幸せなんだか不幸せなんだかわからない顔しちゃって……。
 今飲めないのがそんなに寂しい?
 はいはい、意地悪はここまでにしましょうか。

 朝は自分の手で受けて、晩は旦那様の手で受けたのを舐めて。
……お昼は食堂で人間の食事?虜の果実出してもらった?
……ジュースに旦那様の精液と自分の愛液混ぜて飲んだ?……無自覚にすごいツボ突いてくるわね。
 四姫さま……デルエラ様が「ほどほどにしなさい」って言うぐらいにはキツい組み合わせよ?
 美味しいから仕方ない?うん、仕方ないわね。

 一昨昨日、お返しにジェリ葛の粘液とハニービーちゃんたちの蜜に虜の果実の果汁混ぜたものを……塗った?何に?ああ、そりゃそうよね。
 自分の身体が一番か。
 それで全身キスされて舐り回されて……。
 何か言われたみたいね?よかったら教えてくれる?

 お前を僕だけの女にする、か。……魔物なら一度は言われてみたい台詞ね。
 うちの宿六の次ぐらいにはいい男ね、あんたの旦那さん。
 それで、一昨日は一日かけて身体綺麗にして、待ってたわけだ。

 野暮だけど、どうだった?
 言いたくない?そりゃ残念……あ、やっぱり言う?
……そう、か。これだけでいいって思っちゃったか……。
 これが全部でいい、って。
 もう何もかもをもらって、何もかもをあげた気分になって……。
 優しくて激しくて、甘くて強くて。
 もうこれなしじゃいられなくなって……今でも、まだ旦那様に抱きしめられてる感じが残ってるんじゃない?内側と外側から。
 何回ぐらいしたの?数えてないって……ま、数える余裕もない、か。
 朝までずっと?じゃあ大体わかるわね……。
 うん、おめでとう。
 いい男捕まえたじゃない。うちの宿六の次ぐらいに、だけど。
 
 で。最初の質問に戻るわ。そんな幸せに処女あげておいて……そんな素敵な旦那様捕まえておいて……。
 一体全体、なんでここに逃げ込んでるわけ?

 ほう、左手の薬指。いい指輪ね。ディオニアの永劫石。結婚指輪よね?
 へえ……要はプロポーズされたわけね。了解了解。
 それが何で逃げてるのよ。
 まさか結婚したくないなんて言うわけじゃないわよね?
……オーケーオーケー。何も泣かなくていいから。
 というかナイフ離してよ。腕っ節じゃあんたに勝てないんだから。

 やっぱりそれが何で、逃げるの?何も問題ないじゃない。
 いずれディオニアに行くにせよ、ここで暮らすにせよ、もうちょっと先の話でしょ?
……申し訳ない、ね。あっちは大貴族の世継ぎで、こっちはしがない衛兵……身分違い?

 それは違うわ。あんた、本当はそんなこと考えてない。
 あんたが怖がってるのは旦那様でも身分の差でもない……あんた自身よ。
 好きなんでしょ?好きで好きで、その人無しでは一歩も動けやしない。
 そんな風になるのが、まだ少し怖いだけ……ちょっとしたマリッジブルーね。
……信じられない、って顔してるわね。あんたの家族を信用しなさい。
 私だってそうだったんだから。
 女の先輩として、「お兄ちゃん」が言ってあげる。
 大丈夫。今のあんた、いい女よ。自信を持ちなさい。

……あ、そうそう。最後にひとついいこと教えてあげる。
 つがいを見つけた後でおあずけ食らったインキュバスって、凄く鼻がきくのよ。身体だってずっと強くなってる。
 だから、この家だってすぐ見つかるし、
 見つかったらそりゃもう愛してる、しか口に出せないほど犯されるわよ?
 大丈夫よ、結界組み直していいムードの寝室作っておいてあげたから。

 お幸せに。
12/03/01 01:07更新 / 青井

■作者メッセージ
ごぶさたしております。青井です。趣味に走ってみました。
毎度のことながら後半の息切れは仕様です。
よろしければ感想などいただけると嬉しいです。

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