連載小説
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初めての学校
あの手紙から3ヵ月が過ぎた。
明日からはついに学校だ。
実は楽しみで仕方がない。

あの日から、私は学校についての予習をした。
学園物の小説を読み漁り、透視魔術で近隣の学校の様子を覗いた。
自分が開発、改良した操霊術を使って呼び出した霊と会話のトレーニングをした。
シミュレーションでは、私は5年間の学校生活、8回の卒業を経験した。
幸運なことに容姿はそこそこ良い方だ。
血色の悪さは食事を摂ることで改善された。
どうやら上級アンデッドは代謝を行うことが出来るらしい。
「ふふふ……
学校でなら自然と友達ができるはず……完璧だ……!」

いつもは嫌な気分になる朝を、今日は清々しい気分で迎えることができた。
服は気合いを入れ過ぎたものを着ない。
自分が魔術師であることを示すローブを最後に羽織り、出発の準備が整った。
「おう、マイ
いつになく気合いが入ってるな」
「……うん、初めての学校だから」
笑いかけてくるお母さんにぎこちなく笑い返す。
笑い返せてる……よね?
「……なににやけてんだ?」
「…………別に」
ああ……また不安要素ができた……。

大きな門が見えて来た。
奥にはたくさんの校舎がひしめいている。
「ここが……学校……」
思わず立ち止まって見上げてしまう。
そして、さらに私を驚かせたのは人の数だ。
視界の八割ほどは人で埋まっている。
身長があまり高くない……ありていに言えばチビな私は進む方向を確かめるだけで一苦労だ。
引きこもっていたので体力も無く、校舎にたどり着くころにはへとへとになってしまった。

校舎群の中でも一際大きな建物に生徒たちは吸い込まれていく。
……入学式というものだろうか?
中ではさらに多くの人が整然と並んでいた。
私もそれに倣い、列の最後尾についた。

『皆さん、マーリン魔術学校へようこそ!
私は学校長の……』
校長の話はつまらないと書く学園物作品は多かったが、ここまでだとは思わなかった。
学校の歴史とか封筒もらった次の日には暗記したし。
『それでは最後に、本校のために尽力して下さる新しい先生を紹介します』
お、これは新しい情報かも知れない。
リッチになってから知識欲が増えた気がする。
『2年前に新魔術系統を確立なされた、マイ・カタイヤネン先生です』
それまで静かにしていた生徒たちが騒めいている。
当然だ、紹介された人物が演台にいないのだから。
というか……
「私だ……」
生徒じゃなくて教師かよ……。

惨めだ。
実に惨めだ。
私は今、生徒たちの間を歩いている。
視線が私に集中している。
演台が酷く遠く感じる。
生徒の列を抜けた。
少し迷ったが台には乗らない。
それでも十分に全員が見えるからだ。
……少しでも視線を避けたかったというのもあるけど。
「……操霊術師……マイ・カタイヤネン……です
……その…………よろしく……」
『……少し緊張されているようですね
彼女は弱冠15歳という若さで……』
もう、消えてしまいたい……。
13/07/30 23:05更新 / 宇佐見 椎
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