読切小説
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泡の向こうに見える夕日は
過去の風俗は男の満たされぬ欲を、女がその身で満たしてあげるという物だった。それはあくまで「お仕事」の関係であり、肉体関係を持つことは禁止であった。それゆえ、本気で風俗嬢に恋するような男は愚かと言えた(それを見透かして詐欺を働くものもいた)。
だが、性欲と愛欲と食欲が一体となった魔物娘の登場が、そんな風俗をガラリと変えてしまった。彼女達は異性を愛し、異性から快楽を得ることを本能から至上の喜びとし、その肢体は愛し愛されるためのものとして完成されており、人外であるというハンディキャップすらも魅力的に映るような容姿であった。彼女達の登場により、満たされぬ男は急激に減少し、世界は少なくとも以前よりが幸福なものとなった。そして風俗は役割を変え、男に出会えぬ女……魔物娘と、なお恋に奥手な男の出会いの場となり、そこで互いの性格と身体を確かめ合い、縁を感じたなら晴れて風俗の関係から恋人の関係になれるようになった。過去の、単なる肉体の奉仕(それも仕事としての)だけの風俗は完全に淘汰されたと言えた。そしてその分、社会の汚れた部分は掃除されたとも言えた。
しかし、それでもなお、汚れたものを求める人間はいつの世にもいるものである。少なくとも、現在、表で見かける風俗店は、18歳未満は厳禁なれど、前述のように随分と健全になった。だがその影で、過去のものと比べて見ても下賤な風俗が行われていた。
まして、もう使われてないプールの更衣室だった所に、汚い書き文字で「ソープ:中出しあり 一発5000円」という看板がかかった所なぞ、まともな風俗であるわけがない。
その中は、シャワーを浴びるところにビニールのマットが敷かれているだけだった。

「ああっ!!!ああうっ!!!いやっ、いやあああああ!!!!」

そこで大きな嬌声があがった。今まさに、中出しが行われた瞬間だった。二人とも立ったままで、出された方の少女の目は座っており、出した方の男は力が抜けて、少女の方にもたれかかっていた。

「はいはーい、終わったら抜いてー」

そこに男が三人現れ、うち2人が行為が終わった男を女から離し、壁に持たれかけさせた。指示を出したリーダーであろう男は細身で黒い短髪で、容姿からすぐに20代前半ぐらいであることがわかる。唇にピアスをつけ、いかにもな「反社会」を誇張したファッションをしていた。残りの2人はそれぞれ坊主、金の長髪で、しっかりとした体つきであった。2人ともTシャツにデニムという簡素な格好だが、腕には大きなタトゥーがあった。
リーダーの男が中出しした男に近寄った。

「どうだ、気持ちよかったか?」

「は、はひ……」

「へへ、そりゃそうだろうなあ、ただの女じゃねえもんなあ」

そう言うと、今度は少女の方に近づいた。少女の呼吸は荒く、目は濁り切っており、体中の痣からマトモな扱いは全くされていなかった事が一目でわかった。さらに右の内腿には陰唇に向かって矢印が描かれ、その上に「せーえきいっぱいください♥︎」と書かれていた。そしてもう片方の内腿には「正正T」と描かれていた。陰唇からは白濁液が漏れていた。そして彼女の周囲は泡にまみれていた。

「いやー、今日も美味しい精液がたっくさんもらえて幸せだなお前は〜」

不快な笑みを浮かべながら、リーダーの男はポケットから油性マジックを取り出して「正正T」の部分に一本書き足した。少女は全くの無抵抗だった。

「しっかし、世の中わけわかんねーよな、こんなキモい生物とヤりたい奴がいるだなんて、な」

そう言って、リーダーの男は2人の方を見ると、2人ともニヤニヤと肩を揺らしていた。リーダーの男は今度は少女の髪を顎を掴み、無理矢理視線を合わせた。

「お前は俺に感謝しろよ、お前みたいなキモい奴でも精液もらえるようにしたんだからな」

少女は何も答えず、小さく頷くだけだった。少女の下腹部から泡が一つ、二つ、吹き出た……それは種族の特徴によるものだ。
少女の頭から下腹部にかけては確かに人間であった。問題は脚の部分だった。そこには脚がなく、巨大な蟹が存在していた。ちょうど、その巨大な蟹にから少女が生えているような姿だった……キャンサー、と呼ばれる種族だった。ハサミには開かないよう、大量の金属板をボルトで固定され、鉄線でぐるぐる巻きにされていた。ご丁寧に、ハサミの手首に当たる部分は工具で壁に固定されていた。

「はいはい、やった人は出てった出てった」

まだ壁にもたれかかっていた男を大柄な2人がつまみ出した。

「おう、ちょっと股開け、お前のご飯がもう来てるからな」

そう言って、リーダーの男はシャワーを片手に無理矢理指で陰唇をこじ開けた。精液がまだ垂れていた。

「きったねーなー、ちゃんと、キレイキレイしてあげないと、な」

「!!?ひっぎいいいいいいいいぃぃぃいい!!!!!!!??!」

リーダーの男はシャワーの詮を全開にし、少女の膣へ至近距離で冷たい水を放った。水圧が強く、その衝撃で少女は悲鳴を上げた。

「あっはははは!!綺麗になるし気持ちいい、一石二鳥だろお!!」

悶える少女を見て、リーダーの男は顔を歪めて嘲笑う。
名ばかりの洗浄は数分間続いた。終わると少女はぐったりと体を垂れた。少しばかり気を失っていた。

「おい、起きろ」

リーダーの男が少女の頬をはって無理矢理起こす。

「お前が倒れたら俺のイメージが悪くなるだろ」

「……」

「おら、笑えよ、客商売なんだよ、おら!!!笑えっつってんだろ!!!」

「……」

「あー、そーいや、お前って表情に乏しいんだったなー、それならそれでいーや」

「……」

「次の客もあわあわでタップリ奉仕しなよ、蟹の化け物」

そう言って、リーダーの男がその場を離れると、誰かが来た音がした。すこし声が聞こえた後、少女のいる所に3人ともう1人が入って来た。

「その子が、今週お相手してくれる子だよ」

「へーえ、キャンサーか、結構珍しいんでない?」

「だろ? 陸地ならこういう機会でしか抱けないぜ?」

客の男は若々しい見た目で、10代のようだった。髪はボサボサのロングで、明るい茶色に染めており、着ているニット帽とダボダボのパーカーとロングパンツは原色ばかりのやたらカラフルな物だった。鼻と耳にはピアスがキラリと光っていた。肩には大きなボストンバッグを下げていた。
客の男は服も脱がずにつかつかと少女の方に近づいた。少女は驚き、思わず身をすくめた。

「おっと、怖がんなくてもだいじょーぶだよっと」

「……」

少女は黙って小さく頷くしかなかった。客の男はそのまま体に触れずにまじまじと少女を見つめていた。

「……結構中出されちゃってんの?」

「おう、残念ながらそいつはヤリマンビッチだ、この3日で13人搾り取ってる、すげえだろ?」

「成る程、名器なんだろうねえ」

「ひゃっひゃ、あんたも今からその名器を5000円ぽっきりで体験できるんだ、安いもんだろ?」

ふむ、と客の男は顎に手をやり、少女とリーダーの男の顔を交互に見た。

「……察するに、今まで中出しは一人一回だと見受けたが」

「ああ、そうだ、その分の料金を払えばいいけどよ、みんな一回で十分らしいんだよな」

客はニヤリと笑みを浮かべた。

「いやー、そいつはもったいないねえ、こんな可愛い子の名器をたった一回しか体験できないなんて、実にもったいない、そして実にせせこましい」

「ん、二回したいのか?それならもう一回分払えよ」

「にゃっはっはっはっは!!!!!もう一回だと?ますますもってせせこましいな!!!」

大仰な喋り方と、妙な高笑いをあげる客をリーダーの男は怪訝そうな顔で見る。

「美少女との関係をたった一回とか二回ですましてしまうなど小市民の考えることよ、俺はそんなちっぽけな考えで来てないのだ!!」

「……どういうことだよ」

「決まってるだろう、この嘉月園潤がその美少女を買いに来たのであるっ」

「……はあ?」

唐突すぎる嘉月園潤という男の発言に、リーダーの男は眉を顰め、少女は目を丸くするばかりだった。

「買う、はちょっと言葉が悪いやもしれんな、つまりはその子を俺の専属の召使い的な者として契約したいのだよ、いいだろ?」

「……」

沈黙がしばしその場を支配した。リーダーが口を歪めた。

「あっはっはっはっは!!!! そんなめちゃくちゃな話があるか!!!出来るわけねえだろそんな事!!!」

潤の唐突な申し出に、リーダーの男は腹を抱えて笑いだした。当たり前である、今の今までこんな「大馬鹿もの」を見たことがなかったから。

「おめっ、そんなこと言うんだったらな、ちゃんと金があるんだろうなっ!!」

「……あるよん」

そう言うと、潤はボストンバッグを下ろし、チャックを開けた。そこ中から万札の束を一つ、二つと取り出し、計500万円をバッグの上に積み上げた。

「…はあ?」

これにはリーダーと側近達も唖然ととするばかりだった。

「500万円、一年間その子を抱きに来た場合は182万5000円、お釣りが来るくらいだ、文句ないだろう?」

そう言って、潤は鼻でわらった。あまりの事に、リーダーの男は

「ば、ば、馬鹿か!!?本当に馬鹿か!!?こっちはこれで商売してんだぞ!!?そんな簡単には…!!」

「確か、一週間ごとにヤレる相手と営業場所が変わるんだろ?なら今週はそっちに置いといて、期間が過ぎたらこっちにって事で」

「……くっ」

飄々と、かつ淡々と条件を述べる潤に対し、リーダーは歯ぎしりを鳴らした。

「だがな、言っとくがこいつらの所有は俺たちじゃねえ、俺たちの上のもんだ、そんな簡単にホイホイと渡せられねえよ」

「ふーん、そっかあ……んじゃ、この後お前らの事、ポリにちくろうかな?」

「んなっ!?」

慌てた様子のリーダーをみて、潤はにやりと笑った。

「当ったり前だろ? こんないたいけな少女を、こんなボロボロにするような風俗が合法なわけないでしょーが、さっきもえらい悲鳴が聴こえたし」

「……お前、こいつ、普通の人間の女とおんなじみたいに思ってんのか?」

「ん?そうは思ってないけどー?」

「魔物娘はお前の思ってる以上の淫乱変態だぞ!!!こいつはそういうプレイが好みなんだよっ!!!男にどんなことされてもハアハア涎垂らすような奴らだぞ!!無茶苦茶されて喜ぶような種族なんだよ!!!」

「だったらなんでその子は苦しそうな目をしてんのん?」

「イキ過ぎて疲れてんだよ!!!」

怒声を上げるリーダーをみて、潤はふーん、と軽く頷き、にへら、と笑った。

「なんでそんなムキになってんのさ?別にやましい事してないんなら焦る必要ないでしょ?」

「……」

歯を食いしばるリーダーの男を尻目に潤はボストンバッグから一冊の本を取り出した。題名は「とてもわかりやすい!!最新法律」

「えーと、ここだねぇ」

パラパラとめくり、潤はあるページを開いて見せた。

「さっすがにさあ、魔物娘が人間女性と同じ権利を有しているぐらいは知ってるよねぇ、あん時随分とフェミニストがバンバカ反発してたからすげーうるさかったし、んで、このページに書いてあんの見えるぅ?」

「……」

「『魔物娘に対し望まぬような過度の性的暴力及び暴力行為を行った場合、三年以上の懲役を課す』……その娘、もし本気で望んでるのなら別にいいけどねぇ、でも俺、知り合いのダークエルフに聞いたけど、相手をボロボロにするまでやることはマジもんの喧嘩じゃなければまずないって事らしーんだよね」

「……個体ごとに趣味があるんだろ」

「まだ言い張るのかい!それだったらポリにチクっても平気だよねー」

「ポリなんか来たらこっちの評判悪くなるだろが!!第一、この化け物を所有してるのは上の方なんだっつってんだろ!!」

「んー、じゃあその上の方と直接交渉したいんだけど、電話番号とか知ってるかい?」

リーダーの男がどう言おうと、潤の飄々とした態度は変わらなかった。

「そんなホイホイと教えられるか、俺を介してじゃねえとダメだ」

「それじゃあ、ちょっと交渉しづらくって具合が悪いなあ……」

「はん、そんなわがまま言うんなら諦めるこったな」

「それじゃ、500万円はまたの機会だねえ」

「……」

「本当、悪い話じゃないんだけどねえ」

リーダーがチラと潤のそばに立つ側近の二人を見やると、二人は同時に嘉月園に襲いかかった。
だが、潤は瞬時に屈むと、片足で長髪の男を転ばし、後ろ手でスキンヘッドの男の手首を掴むとそのまま腕を捻じり上げた。そしてそのまま長髪の男に重なるように倒すと、そのまままとめて肩甲骨の間を踏みつけた。

「にゃっはっはっは!!!暴力で口封じて金だけせしめようなんて小悪党の発想をするからこうなるのだよ!!!」

「ぐっ……」

「こういう事するのはまあ定石よ、弱いと見くびるなんて小物の考えっ!!愚かなり!!!」

二人の屈強な男の上で堂々と胸を張り、けたけたと笑う潤を前にリーダーの男は歯噛みする以外なかった。

「……さて、もう一回条件を提示しよっか、そのカニっ娘ちゃんの代金としてこの500万円を先に払う、んで用がなくなったらこっちに引き渡す、所有権に関してはそっちで努力してくれ、必要があるんなら、この嘉月園に連絡する、電話番号は後で渡すよん」

「……おう」

「大丈夫、大丈夫、その代わり、絶対に警察にはチクらない、この嘉月園、約束を破らないことに定評があるからね」

「……わかったよ、その条件、飲んでやるよ」

「いよっし、その返答、待ってました!!! 締結の証として握手だ!!!」

苦々しい表情のリーダーの男に対し、潤はとびきりの笑顔で手を差し出した。

「……ちっ」

リーダーの男は潤に目を合わせることなく彼の手を握った。潤は嬉しそうにそれに応えた。

「それじゃバッグはそこに置いておくから、後日に〜」

そう言って潤は手を振りながら背を向けた。
その時、キャンサーの少女は彼の方をじっと見つめていた。彼女の目には恨みと悲しみが宿っていた。それに気づかず、潤はその場を去った。

「……ったく、こんな気色悪い化け物にこんなに入れ込むキ○ガイがいるとは」

でも、とつぶやきながらリーダーの男は潤の残したボストンバッグに手を突っ込んだ。

「こんな大金を手にできたんだ……魔物娘サマサマってもんだ!!!」

両手で札束を握りつつ、彼は邪悪な笑みを浮かべた……しかしその顔はすぐに消えた。
バッグの中には札束と法律の本と、何か別の機械が入っていた……小型のレコーダーだった。

「あ、そうだ、ちょっと付け加えるけどさ」

いきなり声をかけられ、顔を上げると、潤が立っていた。

「警察にはチクってはいないけどさ、すでにこの場所のこと、警察に知らせてるんだよね〜」

そう言って潤がニット帽についたバッジを外すと、裏側に小型の発信機が付いていた。
遠くの方から、サイレンの音が聞こえてきた。





この違法風俗店の男たちはすぐに逮捕された。彼らの所属組織のことについてあらいざらい吐かされた。
やり口はこうだ。独り身の、若い魔物娘を甘言で誘い、商品として「本店」に集める。そして商品を一人一人、「支店」に送り、一週間、特定の場所で店を開く。場所はあらかじめ数箇所用意し、一週間過ぎたら場所と「商品」を変える。場所は違法な手口で格安で手に入れた所で、さらにその場所に行くために予約で待ち合わせた場所から行く。広告はゴシップ雑誌や、様々なドメインのメール等を利用していた。
「だから警察も足取りをつかむのが困難を極めた、そこでこの名探偵、嘉月園潤の出番ってわけだ」

日が沈む最中の街中を、男とキャンサーが並んで歩いていた。キャンサーはしっかりと専用の服を着ていた。
警察と潤が話あった結果、身元が判明するまで彼が彼女を預かるという事になった。

「職業柄、ろっくでもない奴と縁があってさあ、それなりに情報網もあるわけよ、それでうまい具合に営業してる所がみつかった。、後は警察と二人三脚よ」

身振り手振りを加えて潤はキャンサーの少女に事のあらましを話す。しかし、彼女はうつむき加減で、何も答えなかった。無表情な顔に影が深く出ていた。
助け出されたとは言え、下劣な商売に利用された心が立ち直るのはそうそう容易いものではない。もちろん、潤はそのことをわかっているが、話しかけるより他なかった。
一旦、話が区切られると、なんとも言えぬ沈黙が二人を包んだ。それでも、潤は打開しようとふんばった。


「………君さあ、どしてあんなとこにいたわけよ?」

突然聞かれて、少女は一瞬、顔を上げた。しかし、少し間をおいて、また元に戻ってしまった。

「ま、言いたくないなら結構よ、騙されてあんな奴らについていってしまったんだろう?」

彼の言葉を少女は耐えるように聞いていた。

「……すまない、貶してるわけじゃない、ただ特殊な地域に暮らす娘って結構引っかかるんでね」

「……ごめんなさい」

少女がか細い声で呟いた。突然の謝罪に潤は驚いた。

「いやいやいやいや!!謝るのはこっちの方さ、君を長い間助けられなかったんだし……」

「……」

またしばらく、二人は会話せずに日の沈む空の下を歩いていた。潤はあれこれ言葉を頭の中で巡らせていたが、ふさわしい言葉が見つからなかった。
魔物娘といえども、乱暴に性を乱されたら、心は傷つく。それを壊さないようにするのは人と同じように難しいものである。
一瞬、強く息を吐いた後、潤は彼女の方を向いた。

「……陸の風景は珍しいかい?」

「……え?」

「君って、海の方ぐらしだろう?違ってたらごめんだけどさ」

「……うん、ずっと、浜辺で……もっと色々見たくって、一人で出て行ったの」

「家出かい?」

「……うん」

「そっか、そんな矢先でか」

「でも……この風景、いい」

向こうも方では、山に囲まれるような形で夕日が町の向こうに沈んでいた。赤い光が窓ガラスに反射し、町はキラキラと光っていた。

「にゃはは、こっちは見慣れたものだけど、君には珍しいか」

「……はい」

そういう彼女の顔にも光が射し込んでいた。それを見ると潤はニンマリと笑った。

「君、この風景、もっと見てみたいかい?」

「……え?」

「んだからさ、この風景、もっと見たくないかって」

「……どういう、事ですか?」

少女は困惑した表情で聞いた。

「にゃっふっふっふ〜、せっかくだから、この嘉月園潤が君を我が事務所の住み込みメイドさんとして雇おうって話さ!!」

「メイ、ド?」

「要するにお手伝いさんだ、どうせ君、家に戻りたくないんだろう?」

急な提案に、少女は動揺した。しかしその提案は彼女には魅力的であった。

「い、いいんです、か?」

「もっちろん、警察と君の家族ともきっちり話はつけとくよ!! だから安心して、うちに来なよ」

「………」

少女は顔を赤らめてうつむいた。

「おりょ、どうしたの?」

「……ありがとう」

また顔を上げた時、少女は一筋の涙とともに、とびきりの笑顔を潤に見せた。
向こうの方では、夕日が今だ赤く燃えていた。
14/07/09 22:34更新 / 長月ヤモリ

■作者メッセージ
……単純に、キャンサー=蟹=泡=ソープって発想が元だったんだけど、色々物語考えてたらこんなんなってしまいました。ちょっと反省。

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