読切小説
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蒼い花に導かれたもの
「・・・死ぬ。」

戦場帰りにつぶやいた第一声がこんな言葉が自分でも情けないと感じつつ、傭兵のヴァーチュは自分の1.25倍はあるであろう剣を引きずりながら撤退する。

シェングラス軍側についたのは良かったが、ナーウィシア解放軍の強襲を喰らい陣地は焼かれ、あっという間に占領されてしまった。まさに「雪崩」の名称にふさわしい部隊だと自分でも褒めてしまう。

「・・・腹減った。」

この際なんでもいい。ヴァーチュは何か口にしたい気分ではあった。2日間ぶっ通しで逃亡しているのだ。

報酬が先払いと聞いて最低限の予算でシェングラス軍陣営まで着てみると予想外の賑わいで前金が足りず食費を出すから終わってから払うと言われ、その結果惨敗で壊走している。

ナーウィシア軍は機動力が高い。だから捕虜にならないためには敗北したと見たときに真っ先に逃げることが大事だ。掃討戦に巻き込まれれば命は無い。

「・・・やむをえないな・・・」

雑草でも引き抜いて食うか。そんな結論に彼はたどり着く。何とか煮込めば殺菌できて食えるはずだ。

そうと決まれば行動は早い。ついでに花も抜いて蜜を舐めればそれなりに疲労は回復する。渇きは途中行く先々の集落で井戸水を飲んでおいたため問題は無い。

「・・・ったく。」

同じ傭兵でも他の奴は正規軍のつてを得て出世したり名は売れている。ヴァーチュも自分で実力が劣っているとはまったく考えることもなかった。

出世したり名の売れてる奴の大半を打ち負かした経験がある。だが正規軍などに親友は無く、それほど他人を近づける性質でもなかったのだが。

今思えば、そういう処世術でも少しくらい見につけておけばよかったんじゃないかと後悔はしているがそういうのを覚える気はまったく無かった。

「・・・こんなもので・・・あとはこいつだ。」

やけに大きい、蒼い花が咲いている。甘い香りも出ているし蜜は甘いだろう。それに根は深そうだが売れる可能性は高い。

深呼吸すると、ヴァーチュは一気に引き抜こうとする。やけに重いがいつもツヴァイハンダーを武器に選んでいる自分なら引き抜ける、そう思ったのだろう。

そして一気に引き抜くと、そこから少女が現れる。大体12歳ほどだろうか・・・だが、2人とも驚いたのか大声で驚いてしまう。

「いやああぁぁぁ!!」

「ぬわあぁぁ!?」

叫んだ瞬間からヴァーチュは理性と言うものが一気に吹っ飛んでしまったらしく、その少女を押し倒す。

唇の中に舌をねじ込み、そのまま胸元を覆っているツルを払いのけて胸を乱暴にもみ始める。

「傭兵やってるんだったらな・・・一度くらい・・・!」

相手の意思など関係ない、ヴァーチュはそのままツルを払い人と同じ部分にある秘所に少々大きめになった自身を挿入する。

無論12歳ほどの少女。肌の色が緑色で頭には花が咲いている、髪の毛も無い緑色の葉だがそんなことは構っていられなかった。

水音が卑猥に響き、何度も奥に突き上げる。少女は声も上げていないがかすかに声がする。無論小さいナカゆえに締め付けもかなり強い。

ましてあまり経験も無いヴァーチュでは、これだけの刺激があれば絶頂に達するなど分けないことでもあった。

「・・・っ、出す・・・!」

奥まで突き上げ、その快感に耐え切れず自分で出してしまう。ふぅと一息ついて起き上がって引き離してみると、気絶している。

そしてようやく状況を理解してしまう。大体こんな幼女がいる分けない。魔物だ。そして自分は気絶している相手を犯したと言うのか。

力は抜けたが、何とか剣を支えにして立ち上がる。今はこんな場所に長居できる状況でもないのだ。

「・・・魔物風情。別にどうってことも無いんだがな。」

自分から招きよせた方が悪い。そう思いながらヴァーチュは立ち去って行く。少々後味が悪いが今は撤退が先決だ。

こんな経験は初めてだが、もう時間も無い。差し迫った状況ならとっとと行く方がいいだろう。

「悪いな。起きたらまた埋まって待ってろ。」

ヴァーチュはそんなことをつぶやいて市街地の方へと向かう。報酬をもらえなかったのだからとりあえず前金つきの依頼で何とか食いつなぐしかないだろう。

この市街地の次にある町が自分の家だ。覚えていたらまた通ってみるかという心境程度で市街地へと向かう。

 

「これが最高額の依頼か。何?」

市街地の酒場に入り、掲示板に張られている依頼をヴァーチュがもぎ取る。内容に目を通すと実戦を想定され、危険度は最大限となっているようだ。ヴァーチュは気になって文面に目を通してみる。

 

――依頼主 シェングラス中央教会 技術開発部

変種のマンドラゴラを確認した。過去の文献を見る限り、そのマンドラゴラの根は媚薬などの効果ではなく病人の治癒などに効果を発揮するという。
特徴は花部分が蒼いことである。おそらく抜いた時に叫び声を聞くだろうからその対策をしておくこと。
すでにナーウィシア特殊部隊「ラヴィーネ」などや複数の部隊が捜索に出ているが領内にあるもの。我々の手になんとしてもおさめたい。報酬は多く出す。引き受けてもらいたい。

 

ヴァーチュは内心ほくそえむと依頼を掲示板に戻しておく。直接教会に引き渡してやればこっちのものだ。

ラヴィーネなども討伐して名を上げるチャンスともいえる。とっとと捕まえて周囲の部隊も狩って、報酬も大量に手に入るなら文句は無い。

「さて、前金つきの依頼もついでにこなしてやるとするか。」

当面の金が必要で食料も必要。後で適当に依頼をこなせばいいとヴァーチュは考え適当に依頼を選ぶ。

来週、出撃するシェングラス軍の護衛任務。これなら来週まで時間を作ればいいとヴァーチュは納得し、カウンターに依頼を受けるため紙を持っていく。

「この依頼を受ける。前金は?」

「ああ、ここに・・・随分と苦しそうだな?」

「人のことを詮索するな。まったく。」

マスターが前金の入った袋を渡すと、ヴァーチュは奪い取るようにしてポーチにねじ込み酒場を後にする。

今はとにかく食事がしたい。そして眠りたい。幸いにも前金はそれらをすべてこなしても有り余るほどなので問題は無いのだが・・・

「ったく、悪い傭兵だな・・・」

手篭めにしておいて、何かうまくやってだまそうとして挙句の果てに教会に売り渡そうなどと考えている。

だが傭兵だ。善悪も何もいらない、報酬が生きる糧だ。ヴァーチュは気にすることでもないなと考え宿場に向かう。

そして食堂に入るが、軍人がやけに多く空いている席が無い。ため息をつくと何故か一角に座っているシスターが自分を見て、いすを空けてくれたようだ。

ひょっとして自分のために?などと考えヴァーチュはあつかましいながらもそこに座る。どちらもまだ10代から20代前半の年齢でやけにかわいらしい。

「・・・何故あけてくれたんだ?」

「困ってる人がいるならせめて私達が何かしなければならない。違います?」

ああそうか、とヴァーチュがうなずく。だが服装がどうも中央教会の連中とは違うしこういう真面目なシスターがいるのも珍しい。

「そうか・・・しかし、教会関係者なのか?服装が微妙に違う。」

「あんな教会の人と違うよ、ソレイユは。威張って何もしない人なんかとさ。」

不機嫌そうにもう片方のシスターが言うが、ソレイユが彼女をたしなめる。

「ルーチェ、愚痴なんか言うものではありません・・・と、失礼。私はソレイユ。近くの修道院の者です。こちらはルーチェ。」

「ヴァーチュ、傭兵だ・・・しかし教会と違う?」

「そうそう。今の教会が単なる利権漁りの組織だから私達だけで変えて行こうとがんばってるの。」

ほう、とヴァーチュがうなずく。一体何なんだと気になったがソレイユが本を取り出す。術で写本を行ったもので、ヴァーチュがページをぱらぱらとめくる。

「・・・聖書?いやなんか違うが。」

「原本を私達が訳したんです。今の聖書ですら教会が勝手な改変を行っていたので。それに今までに判明した事実を書き直したものを。」

「ふむ・・・ああ、俺にはステーキを。」

給仕が来たためヴァーチュは注文し、待ち時間の間本をめくって読んでいく。暇つぶし程度になればいいと思っていたが、意外な内容にびっくりしている。

以前教会のところで見た聖書を待ち時間に読んでみたが、それとはまったく違っている。都合の悪い部分もぼかす気はまったく無い上に排他的な風潮が無い。

「本当にこれが原本なのか?俺が見たのは・・・」

「教会側が都合よく編集したものです。本来聖書は歴史書もかねているものですから判断は第三者に任せるべきでしょう。」

前半部分からですらも冷淡に事実が描かれ、それこそ聖職者の過ちとか細かい点まで描かれているが中盤部分・・・年代などからして魔物に変化が出てきた頃からさらに過激さが増している。

まず何より18歳以上の年齢制限でもかけるべきじゃないのかという文面が多く、この当時現在の教会の元となる宗教を立ち上げた人物の「14教義」も違ったものになっている。

正確には文面は同じだが、解釈の仕方がまったく無い。違ったように見えるのもおそらく教会側の脚色が無いからだろう。

「・・・お前がまとめたのか?」

「ええ。少々長く生きていると暇をもてあましましてね。向こうの大陸からこの前帰ってきて、いろいろ広めてきましたよ。向こうも酷い有様で。」

「酷い、か・・・」

「彼らには責任というものが欠如してるんです。聖書にそう描いて書物になすりつけ、昔の聖人に罪をなすりつけ自分は関係ないと。酷すぎます。聖者や神はそんなことを言ったわけではありません。教会側の言ったとおりなら大罪人もいいところです。」

まぁそうだろうなとヴァーチュはうなずく。しかしシェングラス領内でよくもまぁそんなに言えるなと突っ込みたくなってしまう。

「大丈夫なのか?」

「ソレイユ、無茶苦茶に強いんだよ!こう、術で正規兵何十名を一瞬で記憶喪失にさせたりこの前は・・・」

あぁ、結局実力行使なのねとヴァーチュがため息をつく。やはりウィングルアで言葉と聖書の原本だけで戦うにはすさみすぎている。

「でも、人は殺してません。気絶させたり半死半生の目にあわせたりしたことはありましたが・・・聖書にも「生物に、生き抜くため以外の無益な殺傷は避けろ。」とかかれてました。」

「・・・ウィングルアで誰も殺さずに、そんなルールが貫けるのか?」

「むしろ戦いに慣れすぎてるんです。この世界全体が。本来、人の命を奪うということはそれだけの責任を抱え込まなければならないんです。いや、この際意思のわかる生物なら殺したり、何かを奪ったらそれ相応の責任を取らなくては・・・」

「落ち着いてよ、ルーチェ。相手は傭兵だよ?そんなこと言ったら・・・」

「いえ、傭兵を否定しません。けど生きるために倒す、やむをえないんだとかそんな考えでも持たない限り否定します。」

そこでヴァーチュは目を瞬きさせ、少し考え込むそぶりを見せる。自分でもそれはある程度自覚している。それに倒さなければ倒される世界、やむを得ないのもある。

が・・・今日の行動に行き着いて疑問符を浮かべる。やるだけやってほうり捨てて、あれで責任がないといえるだろうか。魔物だからと言ったが、責任の1つや2つは取らなくてはならないのだろうか。

「お悩みのようですね。」

「何を・・・」

「やれる事は・・・やれる間にするべきです。そうしなければずっと後悔します。」

そうだろうなとヴァーチュはうなずく。だったらどうすればいい。またあいつを埋めなおすか安全な場所まで送り届けてやるくらいはするべきだ。

「さて、夕飯ですね。」

「そうだな・・・って、多すぎるんじゃないのか。いくらなんでも。」

ヴァーチュがびっくりしてソレイユとルーチェの法に出された料理を見る。明らかに異国料理のフルコースを超える量だ。

「大食の罪に当たるんじゃないのか?さすがに。」

「元は無理に国や勢力を併呑する事を罪として、解かりやすいように食事に例えたんですよ。私達が食べる分には問題ありません。むしろこれくらい頼めばここの店も楽になります。」

「・・・つまり他人の迷惑にならなければ欲望に忠実であれといいたいのか。」

「神はそういったのですから。」

おそらく教会を真っ向から信じる連中が見たら卒倒しそうな光景だなとヴァーチュは微笑しながら自分の分のステーキを食べる。あつあつの鉄板の上に置かれた、いかにもおいしそうなものだ。

が、責任を取るといっていたその言葉がずっと引っかかり食事が少し集中できなかったというのもある。そしてやるべきことはやれというのも引っかかっていた。

「・・・さすがにだましてどうするんだろうな。」

少なくとも助けて、他のところ・・・せいぜいナーウィシアの森林地帯だが、そこまでかくまうくらいのことはするべきだ。

ならば先に行くべきかもしれない。ステーキを食べ終えるとヴァーチュは剣を背にかけてそのまま宿場を出る。

 

「よし、捕まえたぞ・・・しかし何も無かったな。叫んだけど。」

「変種だからじゃないか?よし、あとはたっぷり飼育してやるからな・・・」

聖堂騎士団のメンバーが蒼い花を咲かせたマンドラゴラを捕まえる。ラヴィーネより何とか先に確保できたようだ。

「う・・・ぅ、こんなのぉ・・・」

「お、泣いてやがる。」

「帰ったら楽しんでやろうか。せいぜいな。」

聖堂騎士団の数は50名ほど。夜故に白い鎧では目立つなとヴァーチュは微笑する。やはり体裁ばかり気にして、実用性皆無だ。

こちらは黒装束で固めている。ヴァーチュはツヴァイハンダーを構えると街道脇の茂みから出て声も立てずに前衛を切り裂く。

「っ!?」

「敵がいるぞ!」

盾と剣を持ち、重厚な鎧で固めた聖堂騎士団の面々がヴァーチュへと向かってくる。だが重厚な鎧のため動きは鈍い。

そしてツヴァイハンダーの前には無力でもある。勢いに任せ、ヴァーチュは鎧ごと重装歩兵を切り裂く。

「ちっ、こいつ・・・!」

「動きが鈍い、本当に教会の連中か?こんなに弱かったのは初めてだぞ!」

盾ごとツヴァイハンダーで一閃し、面倒になってきたヴァーチュがそのまま剣の柄にカートリッジを装填する。術式を埋め込んだ使い捨てのタイプで武器に装着して使う物だ。銃弾では時々使われるが武器に差し込んで使うタイプはそれほど無い。

「悪いな、俺は面倒が嫌いなんだ・・・!」

ツヴァイハンダーを勢い良く地面に突き刺すと同時に周辺が爆発、重装歩兵をそのまま紙くずのように吹き飛ばしヴァーチュは司令官に近づく。

「反逆者が!」

「で?何を聞きたいんだ?」

カートリッジを廃棄し司令官にヴァーチュが近づいていく。騎兵用の槍を片手で操っているが、こいつは結構固い。

砕けそうに無いと考え、すぐに隙を狙いツヴァイハンダーの柄で殴り飛ばそうとするが司令官はそれを槍でガードする。

「・・・やるな?」

「ふん、貴様はもう終わりだ。」

「な・・・っ!?」

いきなり強い衝撃を受けてヴァーチュは吹き飛ばされる。起き上がろうとするが激痛が走り、そのまま動けなくなってしまう。

「かかったな?まったく、これだから油断すると恐い。」

水平2連散弾銃。大陸の一部で試作されていた、横に2つ銃身の並んだ銃を司令官は握っていた。

それを至近距離から浴びてしまったのだろう。銃弾をいくつも喰らっている。激痛は耐えがたいほどであり、全然動ける気配すらない。

「勝負あったな・・・いや、止めを刺しておくべきか?」

司令官は油断して、後ろを向いている。何か強力な銃弾でも探しているらしい。すると、あのマンドラゴラの少女が近づいてくる。

「・・・これ、食べてよ・・・」

「・・・何?」

「ね?」

そのまま少女は何かを食べさせている。ヴァーチュもそれを食べてしまう。味は特に問題は無い。どこか甘い味がする。

その間にも司令官は近づいてくる。だが痛みは取れたのだから最後の最後まで上手くごまかせる。ヴァーチュは半分だけ目を開き、ツヴァイハンダーを握り締めて相手を待ち受ける。

「さて、とどめだ・・・覚悟しろ。」

銃口が頭に突きつけられる。だが相手は完璧に油断しているらしく胸元に足を置いているようだ。

とっさにヴァーチュが体をひねり、転倒させると銃を打つ前にツヴァイハンダーで胸元を貫く。

「・・・き、貴様・・・!」

「悪いな。」

ツヴァイハンダーを引き抜いてそのままヴァーチュは少女の元へと向かう。おびえた様子で彼女は擦り寄ってくる。

「・・・恐かったよぉ・・・」

「俺も・・・気絶してた間にやって・・・なんと言うか、その・・・悪かったな。」

「う、ううん。あれは臆病なあたしが悪くて・・・」

ぎゅっと少女がヴァーチュを抱きしめる。そういえば単に魔物と読んでいただけでヴァーチュも種族が何かということは気にしてなかった。

「・・・いや、一旦見捨てようなんて考えた俺がダメだった。ナーウィシアまで送るがいいか?」

「ううん、ついてく!」

いきなり少女はヴァーチュに抱きつく。やれやれとため息をついてヴァーチュはちょっと無理に引き剥がす。

「一旦お前をだまそうとした相手を信用するのか?シェングラス領内は魔物の警戒が厳しい。最悪共倒れになるかもしれないぞ。」

「いい!ついてく!」

聞き分けが無いな。ヴァーチュは首を振るが彼女が望んでいることをする必要があるのではないだろうか。

それが一度してしまった自分の責任でもある。ヴァーチュは少女を肩に乗せるとそのまま歩き始める。

「先に言っておくが、人の前では従順な振りをしておけ。飼いならしていると言えば連中もうかつに手出しは出来ない。それと・・・愛し合うことは家の中だけだ。」

「はーい。」

素直でちょっと臆病な少女だ。肌の色が違ってもなんら変わりは無い。そんな奴をだまそうなどと、悪いことをしたなとヴァーチュは思ってしまう。

ただナーウィシアに行くつもりは無い。上手く隠れてシェングラスで傭兵家業を続ける。それに彼女への責任も取らなくてはならないだろう。

 

「増えたな・・・」

「増えたねぇ、うんうん。」

あちこちに赤い花、それも大きめの花が咲いているのを見てヴァーチュはため息をつく。1週間に1輪は増えているんじゃないかというペースだ。

郊外の家、それも自然が多い場所へと引っ越して2人きりで生活しているが、あちこちに赤い花が咲いている。すべてヴァーチュと彼女の娘とも言える存在だ。だがちょっと期待している変種の青は出てこない。

「いくらなんでも増えすぎだな。また植え替えるか?」

全員がマンドラゴラだというのを見て、ヴァーチュはため息をつく。これを抜こうという奴はいるのだろうか。むしろ抜いていって欲しいのだが。

いっそのことどこかに植え替えてしまうのもありだと提案し、最近はナーウィシア領内のあちこちに埋めている。それも城砦を作りそうな場所にだ。

これでナーウィシア軍は引っこ抜くたびに作業が中断される。駐屯地を作るにも誰かが引き抜いてしまうだろう。いわゆる一種の嫌がらせでもある。

「いいね。じゃあ持っていって!それと私のあれは持った?」

「ああ。帰りは遅くなるが待ってろよ。」

少々大きめのプランターにマンドラゴラのまだ小さい幼生、もとい娘を土ごと産めてヴァーチュはあちこちに埋めてくる。彼女いわく「あちこちに植えた方がいい」との事なので問題は無いらしい。

「お前も、元気でな?」

次は教会関係者の建設予定地に植えてやろうかとヴァーチュは悪戯も考えつつ、また依頼のために市街地へと向かっていく。

 

後にヴァーチュは「不死身のヴァーチュ」とも呼ばれるが、彼は戦場で数度の重傷を負っているにもかかわらず平然と戦っていたことに由来する。

そして、彼の運命を偶然に変えた2人のシスター達はウィングルアどころか、隣の大陸にまで聖書の原本を無償で配り教えを広めていったとされる。

 

....fin
09/10/24 00:51更新 / スフィルナ

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