連載小説
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第一章 流木の町
流れ者、変わり者、好き者。
人間だろうと獣だろうと妖だろうと、普通とズレた者 ズレてしまった者はいる。
とは言え昨今好き者と言う言葉は褒め言葉になりつつある。
稀に群れに種類 種族 種別の違う、所謂異物が紛れ込む事がある、その異物は自然に溶け込む事もあれば即刻排除される事もある。
掃き溜めに鶴、泥中に蓮、アカオニの中にアオオニ。
意味は違えど異物と言う点では同意だ。
アオオニは違うな、アカオニにとっては大事な仲間か。
ともかく異物と言うのは排除される可能性が高い。
「『闇蜘蛛』の調査・・・ですか。」
「ええ、そうですわ。」
『闇蜘蛛』とやらは異物だった。

〜〜〜〜〜

流れ流れて流れ着いたこの流木の町、鯨の様に巨大な流木を土や石で固めてその上に町を作ったらしい。
最近ではさらなる補強の為に色々と苦難しているそうな。
今私はこの町の町長に呼ばれていた。
私と毛娼妓殿とは静かな一室に机を挟んで座っている、私は茶を少し啜った。
「妖だとしても・・・少なくとも私は闇蜘蛛なんて聞いた事がないのだが。」
町長である毛娼妓殿に呼ばれていた、彼女とはそれなりに長い付き合いである。
妖ではあるものの既に夫持ちであるのでこちらとしても気の置けない相手だ。
「闇蜘蛛と言うのは今の所の仮称であります、姿を見た と言う者がおりませんので。」
一つ疑問が出た、見た者はいないと言うのにその存在感を町長である毛娼妓殿に少なからず危惧されている。
「その闇蜘蛛と言う妖についてどの程度分かっているのだ?毛娼妓殿。」
「相変わらず、貴方は名前を覚えてはくれませんね、椿花です。」
そうだそうだ、椿の花と書いて ちか だったな。
こう言うと椿花殿の夫殿に睨まれてしまうが、なんとも字面に似合わない可愛らしい名だ。
私も娘にはこう言った名前を付けてやりたい。
「おおそうだ、椿花殿か、いやはや面目無い。」
私は昔から人の名前を覚えられない。
椿花殿はこうすぐに思い出せるのだが、他の者達だとこうはいかん。
「ふふ、貴方は変わりませんね。」
「雑談したいのは山々だが、私としては本筋である闇蜘蛛が気になる、話を戻さんか?」
椿花殿はにこやかに微笑み、茶を仰いだ。
「そうですね、申し訳ありません。」
途端、椿花殿の髪が蠢き始める、椿花殿の髪は机の上にしばらく這いここら一帯の地図を作り出した。
だが私はその髪による地図より不自然な椿花殿の視線に目を向けていた。
「無理をするな 無理を、素直に差し出せ。」
「バレてしまいましたか、残念です。」
わさりと髪が片付けられた、その代わり一枚の地図が髪によって机の上に上げられた。
そしてどこに隠していたのか硯と筆を取り出した。
「まず旅の者が縦穴に落ちると言う事故がこの三点にて発生した。」
椿花殿は地図上の三点にバツ印を書き込んだ。
「縦穴?どれ位のだ?」
縦穴が突然空いたと言うのならそれはそれで事件だ、いや事件だからこそ私が呼ばれたのだが。
「十尺程です、それぞれ違いはありますもののどれも同行者がすぐに引っ張り上げられる程です。」
「ではその縦穴に問題が?話を聞くと突然穴が空き 落ちた様に聞こえるが・・・。」
こくりと頷いた椿花殿は再び机の下から紙を取り出した。
「穴が落とし穴の様に 突然空いたのですよ、中も虫喰いされたみたいにかなり複雑化している。」
すうっと一呼吸置いて。
「なにより穴の中はあまりにも淀んだ妖力が満ちていて、なおかつ巨大な蜘蛛の巣が張っていたらしいのです。」
先ほども少し思ったのだが蜘蛛と言うとどうしても女郎蜘蛛を想像する。
しかしやはりと言うか違うらしい、それもそうか女郎蜘蛛だったらわざわざ私をここに呼ばないか。
「妖力、と言うと立ち会った者の中に妖が?」
「アオオニの詩華さん一団が救助に携わりました、何でも・・・『睨みつけるみたいな嫌な妖力』だそうです。」
アオオニの詩華、確かあの人だ アオオニながら警備隊を率いてる嬢ちゃん。
オニは妖術は使わない分、妖力には敏感だからそのオニがそこまで言うとなれば確実に何かがいる。
「分かった、私の仕事はその調査だな。」
中々面白そうな仕事だ、それに椿花殿の頼みとあれら断れはできまい。
「それで、おそらくお耳に届いているでしょうが、地盤強化の為に是非とも闇蜘蛛様の力をお借りしたく思っています。」
椿花殿はにっこりと、艶やかな髪をなびかせて。
「それでは、よろしくお願いします藤太郎様。」
と言い放った。
やはり中々面白そうな仕事になってきた。

〜〜〜〜〜

まずは情報収集だな、アオオニ殿を訪ねてみるか。
「ふむ、甘味処へ行ってみるか。」
オニと言えば大体酒場か甘味処か、とにかく飲食店にいるだろうからな。
アオオニ殿がいなくても部下のアカオニ殿はおるだろう。
流木の上を歩く、街道は整えられているし建物だって建っている。
町が丸々川の上に乗っかった流木の上にあるのだ。
この流木は鯨よりも大きく、神樹なのではと言う憶測が絶えない。
「藤太郎さん、どうも。」
「ん?あー青助か、どうした?」
町を歩いていると若者に会った、俺の後輩の様な物だ。
「青助ってなんですか、赤尾ですよ赤尾、色が真逆じゃないですか。」
そうだそうだ、そんな名前だったな。
何だか印象薄くてな、赤と言う感じではないだろう。
赤尾はやたら線が細いが持っている荷物でそうは見えない。
こいつも用心棒だ、誰に習ったか剣技や槍術、更には弓までこなす器用貧乏。
芸達者としていいが兵としてはまだまだ未熟だ。
「そうだ、アオオニの嬢ちゃん見なかったか?」
「アオオニ?と言うと・・・あぁ詩華さんですか、でしたら甘味処だったと思います、先ほど見かけました。
聞くまでもなかったな、確証が得られたと考えるか。
と言うか。
「なんでお前は釣り具なんて持ってんだ?この前工芸に手を出して飽きて諦めたばっかりじゃねぇか。」
いつも担いでいる大荷物に釣竿と網が追加されていた。
すぐ辞める癖に無駄に色々始めて、それだから器用が貧乏してんだよ。
「今回は違いますよ!諸事情により仕方なくです。」
「諸事情ぅ?なんだそりゃ。」
すると赤尾は気持ち悪い、含みのある笑いを浮かべた。
「ふっふふ、残念ながら教えられません、では!」
がっしゃがっしゃと重そうな音立てて赤尾は歩いて行った。
ま、面倒起こさなければいいか。

〜〜〜〜〜

「よう、アオオニの嬢ちゃん、いまいいか?」
甘味処にお目当の人物はいた。
その大きい体躯と名前の通りの青い肌。
そんでもって羊羹を頬張った後、大笑いしながら子供に剣の振り方を指南していたアオオニに私は話しかけた。
「あん?おぉ?藤坊ぉ!どうした?」
座っていても男として身長がそれなりに恵まれた方である、俺の首あたりに丁度頭がくるのがこの嬢ちゃん。
オニは逞しいな、仲間なら頼り甲斐がある事この上無しだ。
「ねーちゃん大人の話があるから、あっちで遊びな、後で遊んでやるから。」
「約束だよー!」
わぁわぁと騒ぎながら子供達は走って行った、聞き分けが良くて助かるぜ。
「ちょっと調べてる事があってな、オヤジ 茶をくれ茶を。」
どっすりと嬢ちゃんの隣に座る、嬢ちゃんがニヤッと笑った。
「菓子は?たまにゃあウチの菓子食ってけよ!藤坊!」
「だーれが藤坊だ、甘いもん苦手なんだよ、いいから茶だ。」
アオオニの嬢ちゃんを見返すと残りの羊羹を全て、付いている串で串刺しにした。
そしてそれを頬張り、少し咀嚼して、飲み込んだ。
「おやっさん!羊羹もう一個!藤坊持ちで!」
「おいこら、何さらっと奢ってもらうつもりなんだ嬢ちゃん。」
嬢ちゃんはいたずら好きな子供の様な笑顔を見せていた。
「情報料に決まってるだろ?あ、おやっさん茶ももう一杯。」
「全く、親父!葛餅くれ!」
「あぁん?藤坊もか?」
「オヤジが頼めって言ったんだろが、一つも二つも同じだ!」
けらけらと笑う嬢ちゃんをため息混じりにもう一度見返した。

〜〜〜〜〜

甘味処の席に頼んだ物が並べられた、すると羊羹を刺しながら嬢ちゃんが質問を仰いだ。
「で、何が聞きたいんだい、藤坊がわざわざ来るなんてさ。」
闇蜘蛛についての事を話す、一応毛娼妓殿の事は言わないでおいた。
「それで嬢ちゃん、この前の救助で妙な奴を見かけたらしいな。」
「詩華だっていつも言ってるだろう?」
詩華の嬢ちゃんは羊羹を一切れ頬張った。
「なんだその事かい、なんか山に穴が増えててな、ウチの奴らを警備に当てているけど、偶に突拍子も無く穴が空くんだよ。」
「なんだ?突拍子も無くっちゃ。」
その言い方だと突然穴が空いて人が落ちた、そう聞こえる。
「多分藤坊の想像通りだね、あれじゃあまるで落とし穴だ。」
「おいおい本当かよ。」
茶を啜る、図った訳ではないが同時に嬢ちゃんも茶を啜った。
「んでその穴はどうだったんだ?」
「はっきりとは分からないけどなんか嫌な気配はしたな睨んでる様な、危なそうだったからすぐ落ちた奴を抱えて登ったんだ。」
それがさっきの睨みつける様な嫌な気配、か。
「じゃあ嬢ちゃんは実際闇蜘蛛を見たわけじゃないんだな。」
「見てないさ、あたしの時には何もいなかった、ただ何かいた形跡があった。」
なるほど、それをアカオニのやんちゃ共に話したから毛娼妓殿の耳に届く程に広まった訳か。
「今あの付近は出来るだけ迂回するように呼びかけてる、通る時はあたしの名前を出しな。」
「そうさせてもらう。」
葛餅を掻き込んで立ち上がる、まだ情報集めた方がいいだろうか。
「確か、赤尾の坊やも穴に落ちてたっけかな。」
「赤尾?」
赤尾って誰だっけな、確か。
「あー青助か。」
「そうそう、青助 青助、あいつも一回事故かなんかで落ちてた気がする。」
となると、青助探すべきか。
面倒臭いな、飛ばしてもいいんだが、闇蜘蛛本体の情報は整ってない。
「探すか・・・。」
「姫によろしくな、旦那だけじゃなくて偶にはこっちも構えってな。」
「分かった、オヤジ勘定だ。」
と言うかやっぱりバレてたか、姫って言うのは多分毛娼妓殿の事だろうな。
流石オニは、勘が鋭いな。
「誰にも言うなよ?あの人にもあの人なりの立場があるんだからよ。」
「分かってるよ、頑張りな。」
俺は勘定を済ませて、甘味処を後にした。
あいつ持ち帰りの羊羹まで頼んでやがった、いつの間に頼んだんだよ。

〜〜〜〜〜

流木の町はその名の通り流木の上に町が作られている。
根っこを削られて作った階段を降りると流木の下に流れる川があり、階段はそこの川岸に繋がっている。
普段は洗濯をしているご婦人とかがいるのだが、昼時だからかほとんど人が居なかった。
「茶飲みすぎたな・・・。」
腹が重い、よくよく考えたら屋敷でも茶を飲んで その後に甘味処でも茶を飲んだ。
これから向かう所も茶屋だ、なんと言う失敗。
「おっと、青助?」
青助が川に釣竿を投げていた、何しているんだあいつ。
この川、魚なんているのだろうか。
「丁度いいや、おい青助。」
「うぉわ!?藤太郎さん!?」
あからさまに何か、やましい事をしていた様な反応だ。
私は単純な好奇心で青助に近づいていった。
「何してんだ?」
「ただの釣りですよ〜あはは!」
「お前さっき特別な事情とか言ってたよな。」
「うっ!?」
私はため息を吐いて、川の水面を見た。
この川は幅も広く深さも相当だ。
そう考えると魚もいるか。
「河童だか鰻女郎だかは分からんが、ここは妖を凶弾する奴はいないさ。」
ちゃぽ、と水面から控えめに顔を出す、皿がないから河童じゃないな。
「半魚人か、どうした?」
じとっとした睨む様な瞳でこちらを水面から見てくる。
半魚人は話すの苦手だからな、私はちらっと青助を見る。
「えぇー・・・と。」
「邪魔したか、と言いたい所だが生憎お前に聞きたい事あってな。」
「邪魔って何がっすかね!?ははは!」
つい苦笑いが顔を覆った、あからさまな照れ隠しだろ。
妖と二人きりとはそう言う事だ。
「彼氏を借りてくぞ、仕事の話があるんでね。」
そうまだ顔の上半分だけ出している半魚人に言う。
半魚人は私の言葉に反応したか移動し始めた。
川から上がり青助にぴったりとくっついた。
「ついてくるとよ、こっちだ。」
素直な奴だ、妖らしいと言えば妖らしいか。
「どこ行くんですか?」
「ちょっと知り合いに会いにな。」
知り合いの所に行くには降りてきた階段とは反対の所にある根っこの階段に行かなくてはならない。
立地が非常に悪い。

〜〜〜〜〜

引き戸をガラッと開ける、ここが目的地の場所だ。
流木の内部、中を削ったり整えたり物持ち込んだりで部屋を作ったのだ。
その中に一人、人が住んでいる。
「いるか?えーと・・・上杉野山太郎!」
「誰だい!?て言うか太郎ってなんだい!女!僕女!」
声が聞こえたからいるな、ならいい。
「邪魔するぞ。」
と言って中に入る、廊下を歩いて行き、妙に低い鳥居をくぐる。
「何ですか?ここ。」
「神社だ、ちょっと特殊なんだがな。」
まっすぐ進むと本堂がある、黒塗りで作った祭壇に本が一冊置いてあった。
「これが御神体?」
「おい!京山乃助!」
「だから誰だ!?京山乃助って!」
奥から着崩れた巫女服をした奴が顔を出す。
青助が巫女を認識する前、ついて来ていた半魚人が青助の目を突いた。
「ぎゃぁぁ!?」
「みちゃ・・・だめ。」
流石に妖は反応が早いな、と言うかなんでそんな中途半端に巫女服着ているんだ。
「着替え中か?」
「いや、君たちがいきなり来るから、急いで巫女服に着替えたのさ、見苦しい所を見せたね。」
巫女としてはいいのか、それは。
さっさっと巫女服の乱れを直した。
「いい加減名前を覚えてほしい 真里だ。」
「そうだそうだ、それだ。」
いや、人物としてはしっかり覚えているんだよ、名前だけが出てこないだけで。
「そうさ・・・ん?君、ちょっといいかい?」
真里は半魚人の事を良く見る。
そして私を見て理解した様に真剣な目を見せた。
「そう言う事。」
「こいつもか?まぁ調べといてくれ。」
用事が終わった、次は仕事か。
「んで青助に聞きたい事あんだよ。」
私は更に奥に行って、適当な場所に座った。
青助にも対面に座る様に促す。
「さりげなく入ったけれど、そこは言わば僕の家なのだけれど。」
「別に構いやしないだろ、茶・・・は要らね。」
「いったい何があった、わざわざ茶を拒否するとは。」
飲みすぎたんだよ、先ほどよりはいくらかマシだが今も腹が重いままだ。
「茶くらいは出そう。」
「この二人に出してくれや、私は話をしたらすぐに出て行く。」
真里は微妙に納得いかない表情をしつつ奥に入った。
俺は姿勢を正して、青助と半魚人の嬢ちゃんに視線をやった。
「それでだな、今私は山の謎の穴について調査してるんだよ。」
「あーあの穴ですかいいっすよ、なんでも聞いてください。」
今までの話のまとめたのを話した。
穴が突然開いた事、変な蜘蛛の噂がある事、それが立地的に交易の障害になりつつある事。
まとめるとこんなものか。
「立地が交易の?」
「麻町街道は山を迂回する形で できただろ?だが勿論山まっすぐ突っ切って来る奴もいる。」
麻町は山挟んで二里程行った町、そこから続いている街道が麻町街道だ。
「だからここの山の中腹にオニ団の事務所置いてる訳だしな。」
麻町とは逆方向にある鷺町からの行商は問題ないが、麻町からの行商が山を通ると危険だ。
「つー事でお前 穴に落ちたらしいじゃねぇか、なんかなかったか。」
青助は腕を組んで、少し考え込んだ。
こいつなら自力で登れるだろう、特に何も見なかったのか。
「うーん・・・視線を感じまし・・・た?」
「なんで疑問形なんだよ。」
「見られてたのは間違いないんですが・・・目しか見えなかったんです。」
「目、だけか。」
話を聞いていると穴の中は相当暗いらしいな、灯りを多めに持って行くか。
「お茶ですよ、どうぞ。」
真里が青助と半魚人の嬢ちゃんの前に茶を置いた。
「あ、これはどうも・・・藤太郎さん本当に茶いらなかったんですか?」
「いらね、散々飲んだし それに。」
ぐいっと茶を飲んだ青助が顔をしかめた。
「真里の淹れる茶、薄いんだよ。」
「・・・水?」
むっと言った風に真里が振り返った、あいつ根本的に貧乏性だから、料理の味付けも嫌になる程薄いんだよな。
「話を戻すが・・・目ってどんな目だ?特徴とかあったか?」
「蜘蛛・・・なのは間違いないと思うんですが、糸で巣とか張っていますし・・・でもなんか何個かの赤い玉が見えてたんですよね。」
何個かの赤い玉、確かに目といえば目にも見えるだろうが。
「目なのか?それ。」
「動いてたんで目だと思いますよ、あと足?も見えましたね。」
「足か、詳しく。」
それはかなり重要な情報だ、是非とも聞きたい。
しれっと半魚人の嬢ちゃんが茶の器を交換した。
「俺もちゃんと見た訳じゃないですが・・・蜘蛛の足を相当禍々しくした、と言った風です。」
良く分からんが、十分注意した方がいいな。
一応刀持って行くか、妖とはまた違った輩かもしれない。
「十分だ、ちなみに妖関連で悩んだら巫女に相談するといいぞ。」
「はい?あ、いえ、まだ、別に!その!?」
半魚人の嬢ちゃんは何か茶を飲んで、ぷるぷると震えていた。
「あ、そう言えば紹介・・・いや名前覚えないしいいか?」
「良い訳あるか、あー嬢ちゃんの事触れなかったな。」
半魚人は話すの苦手な奴が多いからな、名前とか聞き出すのは大変だ。
大変なんだが既に名前の交換まではこの二人は進んでいるらしい、若い奴らめ。
「からん って言うらしいです、身寄りがないらしくて俺がこっそり面倒見てたんですよ。」
やっぱりか、さっき巫女が反応していたしな。
「そう言う事ならここに連れてきて丁度よかった。」
「丁度よかったって?」
「この神社では身寄りのない妖や人に援助をしているのだ、部屋を間借したり、職場を紹介したり、ある程度の資金を寄付したりな。」
誇らしげな顔をして巫女が帰ってきた、何か腹立つ自身ありげな顔で私の隣に座る。
「町でかくなってからはそうそう身寄りない奴なんていないけどな、この神社も全く知られてないし。」
「ぐぬ、まぁ町が豊かになったのは良い事だ!」
だといいんだがね、こいつのいる意味がなくなりつつある。
でもいないと本を制御できないからな。
「じゃあ私は出る、情報助かった。」
「はい、頑張ってください。」
私が立つと青助は茶を啜った、それに半魚人の嬢ちゃんが露骨に反応する。
この嬢ちゃん話さないだけで恐ろしく本能に忠実な奴だな。

〜〜〜〜〜

町を出た私は森を歩いていた、もうすぐアカオニの警備隊が出てくるか。
「待て!」
やっぱりな、こいつらにも話を聞いておくか。
「ここは今立ち入りを控えてもらっている。」
「我々は流木詩華隊だ、ここは危険だから立ち去った方が身の為だぜ?」
しかしでかいな、色んな意味で。
オニと絡んでると男として不安になる時がある。
「その危険の調査に来た藤太郎っつー者だ、そのアオオニの嬢ちゃんに許可は取ったから通してくれ。」
アカオニの二人は顔を合わせる、そして少し離れて、戻って来た。
「申し訳ない詩華隊長から話は聞いている、どうぞ通ってくれ。」
「一応どうなってるか状況教えてくれるか?」
こくりとアカオニは頷いた。
理知的な話し方をするアカオニを非常にらしい性格をしているアカオニが耳打ちをして、理知的な方はお辞儀をしてからどこかへ行った。
「ここら辺一帯突然穴が空いて人やら馬やら妖やらが落ちる事件が計4件起きてんな。」
「被害者に共通点は?」
「こっちが把握してない件もあるかもしれないからなんとも言えねぇけど・・・。」
アカオニはばりばりと頭を掻いて考えを整理している様だ。
「あ!男、男だ!どの件も必ず男が落ちてる。」
「男か・・・。」
男が被害と言うのなら妖関連の事件に聞こえるが、証言が証言だ。
「そうか、時間食わせてすまなかったな、夜まで帰らなかったら捜索してくれ。」
森に歩き始めた、するべき事はしたから陽の高い内に始めちまおう。
陽が落ちると色々と厄介だからな。
陽が沈むまで数時間か、場合によっては撤退だな。
数分、地図を見ながら一番近い現場に歩いて行った。
件の穴は本当に変哲の無い穴だった、上から覗いて見ただけだが、特に珍しい事もない横幅が人二人が入れるほどの大きさだ。
不自然な事に横穴は存在せず単純に穴が空いているだけだ。
四つの内三つ目の現場を調査して、陽が沈みかけていた。
「今日はここまでだな。」
三つ目とも特に特徴の無いただの穴。
だからこそ変だ、話を聞いた所横穴があり、そこから諸々と見えていたり感じていたりしていたはずだが。
「どうだか・・・。」
何かしら穴の中にいると考えるべきだ、縄ばしごの用意を怠ったのは失敗だったな。
遠目から見ただけでは良く分からん。
「えーと、あったあった見張り台。」
地図と光の見えている建物を照らし合わせつつそちらに歩く、一応アカオニの見張り達に報告しなくてはいけないからな。
結果、足元の注意が疎かになった、訳ではなかった。
「うぉう!?」
地面があるはずと錯覚していた脳が、地面が無い事に驚いて筋肉を硬直させた。
油断した、違う、予測できなかった。
そのまま私は土を被りながら穴の中に落ちていった。
「いっ!?」
落ちていく際壁の凹凸に頭を打つ、土の為衝撃はあまりなかったが石だったとしたら致命傷だ。
「うぐ!?」
どうやら底まで落ちたらしい、話通り大した深さもなかった。
「い・・・。」
問題はそこになく、視界の端に映る黒い物体。
先細りの形状で、節があり、微かに赤く光っている箇所がある。
「たい・・・。」
その物体が動いた、足の向きを変え、先端をこちらに向けた。
「痛いわよ!この間抜け!」
その黒い物体が私に襲いかかって来た。
携えた刀で防いだ、力任せの一撃だった。
「ふぬ!?」
飛ばされた拍子に壁にぶつかる。
私はすぐさま刀は目の前に投げ捨てた。
「すまん!」
そして私は頭を地面に擦り付ける、要するに土下座をしたのだ。
話が通じるのなら不敬を働いたのは私の方だ。
だったら謝罪するのは当然だ、紛れもなく私に非がある。
「言い訳をするつもりは無い、気分を害したと言うのなら私なりに償う。」
この事で人に対して敵対的な感情を持たれてしまったら私の責任だ。
しかし。
「ぷっ!?」
私の渾身の謝罪への返答は、可愛らしい声での笑い声だった。
「あっはっはっは!あはは!」
正座を崩さず顔を上げた。
笑い声の主は凛々しい顔立ちとかなり小さい体躯。
そして所々赤く光る、虫の足が彼女を少しばかり照らしていた。
「はー・・・そんで?あんたはなんで突然落ちて来たのよ?人間はあんたみたいな間抜けがこんな何人もいるものなの?」
その細い腕や足や身体を隠そうともせずに、半魚人の嬢ちゃんとはまた違ったじとっとした目で見てきた。
この嬢ちゃんが、『闇蜘蛛』らしい。
17/03/28 22:43更新 / ノエル=ローヒツ
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■作者メッセージ
こんにちはノエル=ローヒツと申します、好きな魔物娘の種族は魔人・妖女型です。
不定期の上展開が遅くヒロインの出番が少なく・・・次回からはもっと出番は増える筈です。
それではお付き合いしていただきありがとうございました。

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