読切小説
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否定主義VSサバトの皇
―――それは、幼い頃の夢だった

『じゃあ、行ってくるな』

「うん、兄さん!」

兄は俺の頭を撫でてくれた

『必ず魔王を倒して、平和な世界にしてやるからな』

やめてくれ


「兄さんならできるよ、きっと!」

嘘を言わないでくれ

『ハハハ、そしたらまたお前に稽古つけてやるからな』

人間を―――るくせに

「うん、それまでにもっと強くなってるよ!」

『がんばれよ!―――』

人間を、裏切るくせに、そんな風に言うなよ!

・・・

「おきろ」

目が覚めたら、目の前にはクソ野郎が立っていた

「…おはようございます」

俺は機械的に返す
ここで何言っても仕方ないからな

「…任務だ、立て」

「了解」

忌々しいが、こいつの指示に従う
従わなければ、後が面倒だから
それに―――拘束着じゃあ、何もできないからな

と、何が気に食わないのか、いきなり殴ってきやがった

「いいか、貴様は罪人なんだから、それをわきまえろよ」

「…了解」

…ホント、忌々しい

・・・

兄が魔王討伐の勇者のメンバーに選ばれたのは、今から10年前だった

当時俺は7歳
そんな兄が、誇らしかった、尊敬していた
最初の1年は手紙を何通かくれていた
最後に来たときには、魔界に入ると手紙がに載っていただけだった
きっと兄は魔王を倒してくれる、人類を導く救世主になってくれる

そう信じていた
だが、それから手紙は来なかったし、噂でも兄のことを聞かなくなっていた

久しぶりに聞いた兄の噂は、俺には最初理解できなかった

―――西の国家を、軍隊を率いて壊滅させた、と

最初は意味がわからなかった
だってそうだろう?兄は勇者なんだぜ?

なんで、人間を襲うんだよ


出発してから2年後、兄が人類を裏切って魔王軍に協力していた


それから、俺の人生は…
・・・

「スケァルゥ、今回の任務を言い渡す」

いつものお偉いさんが偉そうに言ってきた

「近国にある異教徒、サバトの壊滅だ。できるな」

仮にできなくても、俺に拒否権なんざない

「了解」

それに、任務中なら、この拘束着も着なくて良い

体を好きに動かせる

「具体的な指示は追って連絡する。直ちに現地に向かうように」

そういって拘束着を外すクソ野郎
この場でこいつを殴れたら、どんなに気持ちいいだろうか

「今回のお駄賃、だ。もって行け」

お偉いさんが、袋を投げつけてきた
どうせ、元は俺の家の金の癖に、偉そうに…!?

「早く家の『汚名』を晴らせるといいな」

卑しい顔で、こいつらは俺を見下してきやがる
クソッ!こいつら調子に乗りやがって!

「言っておくが、反逆しても良いんだぞ?お前の処刑はいつでもできるんだからなぁ」

…クソ野郎どもを睨み付けて、俺は部屋から出て行った
とっとと任務に取り掛かろう

精々、任務中は羽を伸ばさせてもらうさ

・・・

元々、俺の家は貴族の家柄だったらしい
らしいってのは、実感がないからだ

そんな家の人間が、魔物に手を貸したとなれば、末路は決まっている

父は処刑され、母は俺を教団に売った

尊敬していた兄は、いつしか憎悪の対称にしかならなくなったし、女性が嫌いになったのも、これが原因だろう

教団に売られてからは、当時9歳だった俺からすれば、毎日が絶望だった

教団では秘密裏に人体実験を行っていた
例えば、筋力強化
例えば、魔力増強
例えば、新兵器の威力調査

上げれば恐らくキリがないだろう

俺みたいな境遇の人間から、犯罪者まで―――

要は世間様からいらない人間扱いされた奴が殆どだった

一部魔物もいたが、性欲処理に使われ、挙句新兵器の生贄にされていたみたいだ

…まぁ、俺にはしったこっちゃないがね

当然俺もその実験を受けた被検体の一人だ
被検体は、ある程度成果を上げないと『処分』される

だから、俺は必死にこなしてきた
どんな理不尽も耐えてきた
どんな苦痛も耐えてきた
どんな障害も乗り越えてきた

全ては、ここから這い上がるために
自由になるために!
生きる為に!

だが―――俺は結局未だに、自由になれていない

・・・

「では、ごゆっくりお休みください」

サバトがある国へ来て、宿を取った
この宿はゴブリンが経営してるらしい

忌々しいが、ここが一番安いし、見晴らしがいい

あの後俺は任務内容について、文書で渡された物を読んだ
内容は至ってシンプル

サバトの首謀者、バフォメットを暗殺しろとの事だ

シンプルすぎて泣けてくるね
期限は今日から1週間以内

正直、ふざけてると普通なら思うんだろうな

こんな上位の魔物、単身で倒せとか、アホじゃねーか、と

俺はそう思う
確かに、俺ならある程度はバフォメットでも対抗できるだろう
だが、あくまである程度だ
普通は…

―――いや、恐らく対抗できるのが俺だけなのだろう

先日聞いた話だと、教団から騎士が脱走して、今も追跡中らしいしな
全く、人手不足過ぎる
こんな事なら、実験で人間つぶさないで、少しでも実践投入しろよ

そう思いながら、俺は街に出ることにした

・・・

街に出てから、俺は後悔していた

情報収集と、観光に来たが、見たくもない光景が目に入ってくる

行き交う人々の笑顔、無邪気な子供、愛し合う恋人たち―――

―――俺が望んでも一生手に入らない物だ

無邪気な子供が、両親の手を引っ張り、店に入っていく

(俺があの位の時は、体中いじくられてたな)

恋人と散歩でもしてるのだろうか?幸せそうに歩いてやがる

(俺が女を抱かされるときは、性欲処理の義務の時。しかも売国奴か魔物かだ)

兄弟だろうか?兄と思われる少年が、弟と思われる少年に食べ物を半分にして一緒に食べている

(お前は良いなぁ、優しい兄貴にきちんと大切にされてよ)

ここには、俺が望んでも手に入らない物が、溢れている


―――ぶっ壊したい


ここにある全てを破壊してやりたい
こいつ等に理不尽を教えてやりたい
コイツラモ、絶望シテシマエば

…って、またかよ
これだから被検体はいやなんだ

―――被検体には、あるリスクが常に付きまとう
体をいじくり回したツケ、だろう

精神に何らかの障害を負う事が多い

ある被検体は異常な性欲に、ある被検体は過度の自虐衝動に

俺は、破壊衝動に…

俺が拘束されている理由の一つがこれだ

任務先ならまだしも、基地でまで暴れられたら、たまったものではないだろう
その為、被検体には、任務以外での自由に行動できる時間は一切ない

だからこそ、任務に対して忠実なのが多いのだが

「あの、大丈夫ですか?」

「あ?」

俺が考え事をしていたら、ガキが話しかけてきた
年は…12、3歳くらいだろう
ロリコンなら、大喜びしそうな、可愛らしいガキだ

「いえ、顔色が悪かったみたいなので…」

「…いえ、大丈夫ですよ」

とりあえずいつも通り『普通の振り』をする
『普通の振り』さえしてれば、人の印象に残りづらいから、任務もやりやすい


「あ、コーヒーお持ちしました」

…こいつ、店員なのかよ?
つか、俺いまカフェいたんだっけ?

「ありがとうございます」

とりあえず、コーヒー飲むか

・・・

カフェを出た俺はサバトの情報を集め始めた
集めたんだが…

「なんだ、この街…」

正直、教団とサバトが入れ替わってる街なんて、始めてきたよ…

―――そう、この街ではサバトがかなり受け入れられている
それこそ、国全体がサバトであるかのように、だ

聞くところによると、サバトがきてからと言うもの、今までの不景気が嘘みたいに立ち直り、外交もうまくいくようになっているとか

さらには―――

「見返りは共存、ねぇ…」

そう、このサバトの主が求めた見返り、それはこの街にサバトを置く許可だけだったらしい

サバトへの強制入会もなく、来たい者だけくればいい、それが条件だったらしい

そんな態度に心撃たれ、この国では魔物との共存を選んだらしい
お陰で国中魔物と人間の夫婦やカップルで溢れてやがる
更には、魔術に関する軍備もかなり整い、下手に反魔物国家でも手を出せない状況になっている

―――合点がいった

確かに、俺以外にはここでまともに戦えないだろう
と、言うか、俺にはもってこいの相手だと思ったのだろう
なんせ俺には―――魔法が効かないのだから

・・・

SkillKiller(スキルキラー)

それが俺が受けた実験だった
コンセプトは純粋な『魔法無効』のみ

元々、魔女やバフォメットといった魔力が高い魔物との戦闘に、人間は中々勝てないでいるところがあった

身体的に勝てる可能性があっても、強力な魔法があれば、それを無効にされてしまう

それを解消する為に行われた実験がSkillKillerだった

魔法が効かない兵士の身体能力、及び戦闘能力を上げれば、よほどの事が無い限り負ける事はない
しかし、欠点として、味方の補助魔法や治癒魔法が受けられないという問題があった
だが、これを実用化するでは、要らない人間で実験する為、コストはそこまで気にしなくて良い
つまり、実験になにも問題はない

―――それが、教団がだした答えだった


・・・

つまりは実験は最終段階なのだろう
俺が勝って生還しても、負けて死んでも、問題はない

だからバフォメットと戦わせて、少しでもデータを取りたいのだろう

俺が死んだとしても、体に埋め込んだ記録媒体用の水晶からデータをとれる

―――この水晶から、戦闘データや、作戦開始時間からの行動記録を、常に教団に送っているらしい
それにより、たとえ脱走しても見つかるし、最悪遠隔操作で水晶の魔力を暴走させ、自爆させられる

―――これが教団のやり方だ

生還しても、殺処分
敗北しても、多分遠隔自爆

どうやら、俺もこの作戦終了までの命らしい
ホント、どうしようもねぇなぁ…

期日以内の作戦行動がない場合も死ぬし…

結局、俺は奴らの思い通りにしか動けない

最後まで、クソみたいな人生なのかよ…

・・・

「バフォ様にご会見ですか?」

「えぇ、出来れば、お願いしたいのですが」

俺は直ぐに行動開始を決めた
どうせ後わずかの命だし、どうやっても俺には救いはないのだ

なら、とっととクソみたいな人生を終わらせよう

「ですが、旅の方をいきなり会わせる事は…」

「無理を承知でお願いしたいのです。サバトに憧れているのと同時に、バフォメット様から直接教義をお聞きするのが、夢でしたから」

自分で言ってて、反吐が出る
俺に、夢も、希望も、生きる意味もないのに…

「でも…」

「どうしたのじゃ?」

奥から少女がこっちにきた

いや、背丈は少女だが…
その頭から生えた角、体から滲み出している高濃度の魔力、小さい体から溢れるその存在感―――

「あ、バフォ様!」

―――バフォメットが、そこにいた

「ん?どうしたのじゃ?」

「じつは「お初お目にかかります、バフォメット様」

魔女がなにか言う前に、俺は先に口を開いた

「私は旅の者で、サバトに強い興味と、貴方に強い憧れを持っております。どうか、直接ご教授願えないでしょうか?」

「と、言うことなんです」

魔女が補足するように言った
ある程度のお膳立ては出来た
後はこのバフォメット次第だが…

「なるほどのぉ〜…ん?おぬし…」

バフォメットが俺を見てきた
何か、不審な所があっただろうか?

「体調は大丈夫なのか?」

「はぁ?」

なんで初対面の俺の体調を気にするんだ?

「さっきカフェで具合を悪そうにしていただろうが。…って、この姿ではわからんか」

と、突然バフォメットが魔方陣を展開した

そして―――

「この姿なら、わかるじゃろ?」

そこには、さっきカフェでコーヒーを運んできたガキがいた

「はぁぁぁ?」

ちょ、なんでサバトの主催者がカフェでウェイトレスしてんだよ!

「バフォ様、また抜け出してそんなことを〜」

魔女がやれやれと言っていた
ってまたってなんだ、またって!

「よいではないか。そのお陰で今度の黒ミサのいいインスピレーションが浮かんだのだから」

「でもですね〜」

と、魔女とバフォメットは雑談モードに入ってやがる

…一応偽ってるが、入会希望者の前でそれは良いのか…?

「っと、おぬしを無視してしまってすまぬな」

「…いえ、問題ありませんよ」

正直かなり呆れてるが、な

「にしてもおぬし、随分と体調悪そうじゃの〜。わしが直々に見てやろうか?」

「いえ、そんな、私如きにそのような…」

「もしおぬしが入会すれば、おぬしは家族同然じゃ!気にする事はない!」

「っ!?」

こいつ―――!
こらえろ、俺!こいつは多分、こんな呑気な奴なんだ!

「…どうかしたのか?険しい顔をして」

「…いえ、大丈夫ですよ」

ただ、てめぇの大切な物を壊したくなっただけだよ―――

そう、心の中で答えた

「…やっぱりおぬしの事を見させてもらう、わしの部屋まで来るのじゃ」

へ?

「バフォ様!」

魔女の奴が驚いてやがる
恐らく、前代未聞なのだろう

「大丈夫じゃ、ちょっとこやつと『お話』してくるだけじゃから」

そう魔女に言って、俺の手を引っ張りながらこいつは自室へ向かった

・・・

そこはまるで王室だった
綺麗な家具や、でかいベット、ない物がなにもない

―――バフォメットの私室は、馬鹿デカかった

「違う違う、こっちじゃこっち」

と、そのでかい部屋からさらに奥に行く

「こっちがわしのプライベートルームじゃ」

と、案内された部屋は―――

「…」

―――本で、部屋が埋もれそうになっていた

「あっちは客人を持て成すのに使うが、あまり落ち着けんからのぉ」

「はぁ…」

…俺は客人じゃないのかよ

「それに、あそこだと人が来るからのぉ、話も出来んじゃろ?―――のう、"穢れた処刑人"」

「っ!?―――知ってんなら、なんで俺をここに連れてきた」

―――"穢れた処刑人"
俺が外で言われている二つ名らしい

「その銀を思わせる白髪に篭手、後うまく隠しているがその武器を仕込んだ足具をみたら、誰だって気づくわい。それに言ったじゃろう?わしは話がしたいと」

「…話なんざねーよ」

俺は篭手に仕込んである刃―――カタールの刃を展開した

「殺気だつでない、わしはおぬしと話をしてみたかったんじゃからのぉ」

呑気にそういっていると思いたいが、恐らく俺自体脅威に感じないのだろう

「それに―――おぬしはもうチェックメイト積みじゃしの」

そういって、突然俺は拘束される
どうやら、魔力で出来た鎖で拘束したのだろう

「お主がいかに暗殺が得意でも、拘束されればなんも出来まい。それにわしは敵では「…これで終わりか?」

こんなので、俺を拘束できると思うとは―――片腹痛いぜ!

「なっ!」

バフォメットが驚愕した
そりゃそうだろう

今拘束したはずの鎖が突然消えて、目の前に刃が迫ってるのだから

と、やつに刃が届くことはなかった
どこからともなく、鎌を取り出してきたのだ

「はっ!んな武器でこの狭い部屋で戦えんのかよ!?」

俺は挑発してやる

「おぬし、その技は…」

「これか?冥土の土産に教えてやっても良いが、どうするよ?」

俺はあくまで挑発する

「おぬし、その技がどれだけ危険なのかわかっておるのか!?今すぐ、その術式を消すんじゃ!」

「あぁ?なんで自分から不利にならなきゃ…」

俺は走りながら言う

「いけねぇんだよ!」

やつは鎌の柄で刃を受け止めている

「その術式は危険じゃ!今すぐ止めないと死んでしまうぞ!」

「忠告どうも!だが、どうせ死ぬのは決定してっからどうでも良いね!」

お互い、武器が軋んでいる
こんななりでも、力はかなりあるらしい

「おぬしは勘違いしておる!その魔術は…」

「良いからくたばれよ!」

俺は足具の刃も展開した

「くっ!」

かろうじて奴は避けたみたいだが、かすり傷は与えた

両手、両つま先、両踵―――
それらから刃が展開されている

これが、俺の本来の戦闘スタイルだ

「てめぇらバフォメットは魔法が得意なんだよな?なら、それを俺は潰してやるよ」

それが、俺の唯一の存在価値なんだから

「おぬしは、勘違いしておる」

鎌を持ち直したバフォメットは言う

「おぬしの『それ』はアンチマジックなどではない。もっと危険な物なのじゃ!」

「SkillKillerがアンチマジックじゃない?ハッ!んな嘘にのるかよ」

「SkillKiller?そんなやさしい物ではない!『それ』は―――」

と、奴が言おうとした時だった


突然、体中が、黒い霧に包まれ―――

「が、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

―――体中に、激痛が走った

「まずい!」

体中が何かに食われていくような、自分がなくなっていく感覚
それだけが、俺を支配していた

・・・

「大丈夫か、おぬし」

気がついたら、黒い空間にやつといた
いや、これは空間なのだろうか?

「空間ではない、完全に『否定世界』に飲み込まれたんじゃ」

「否定世界?」

「そう、おぬしが使っていた魔術式『NOTKILING(ノットキリング)』から生まれた、何もかもをなくす世界じゃ」

は?

「おぬしが使っていたのは、自らの命を削り、あらゆる物を『消し去ってしまう』魔術じゃったんじゃよ」

意味がわからない

「おそらく、その事に気づかず実験されたか、もしくはこれを狙ってか…」

「って、なんでテメェ俺が実験された事を知ってやがる!」

「…アリシアじゃ」

「あ?」

「自己紹介じゃよ。わしの名前はアリシアじゃ」

「…スケァルゥだ」

って何で俺はこいつに自己紹介してんだ?

「それはおぬしの番号名じゃろ?」

「ならテメェも質問に答えろ。なんで俺の名前じゃないことを知ってる?」

簡単じゃよ、と奴は言う

「おぬしの実験で体に書かれた魔術式がSkillKillerなんじゃろ?そこからもじったらそんな風になるからの」

…こいつ、頭良いな

「後なんで俺が実験されてんの知ってんだよ?」

「これも簡単じゃな。まずSkillKillerもNOTKILINGも普通の人間は使えんからじゃよ」

よくわからねぇな

「そんなことより、おぬしの本当の名前を教えるんじゃ。」

質問に答えたんじゃからの、と奴は言う

「…覚えてねぇ」

「は?」

「10年近く使ってない物なんざ、覚えてねーよ」

覚えてないし、思い出したくもない
名前なんて、いらねぇんだよ

「それじゃと、わしがおぬしを呼べんじゃろ?」

呼ばなくていい
どうせ俺は

「いらない人間が、名前持っても仕方ないだろ」

俺は、いらない人間なんだから

「っ!?…いま、なんと言った?」

かなりキレてやがる

「いらない人間って言っ「いらない人間なぞ、この世にはおらんわ!この馬鹿者が!?」

バフォメットがキレて言う

「おぬしは望まれて生まれてきたんじゃ!そんなことを言ってはならん!第一、そんな事を家族が聞いたら悲しむのがわからんのか!?」

「…テメェが言う家族は、もういねぇよ」

俺には、家族はいない
今後出来ることもない
俺は、一生一人なんだ

「だから、んなにキレられる筋合いねーよ。大体、テメェら魔物さえいなければ…」

俺は、もう何も言いたくなかった
もう、何も、したくない

「…おぬし、まさかステイテッドの弟か?」

…懐かしい、聞きたくない名前が出てきた

「あぁ、テメェら魔物にヘコヘコして、家族を見捨てた、魔物の英雄、ステイテッドの弟だよ!あのクソ兄貴さえいなけりゃ!」

俺は感情が抑えられなくなった

「あいつさえ人類を裏切らなきゃ、父さんは処刑されなかった!母さんに捨てられなかった!―――罪人の汚名も、着なかったんだ!あいつさえいなけりゃ、みんな幸せだったんだ!」

俺はまだまだ湧き上がるこの『憎しみ』を抑えきれなくなっていた

「なんでお前ら魔物は俺から大切な物を奪うんだよ!なんでお前らは幸せになれるんだよ!返してくれよ!俺は、幸せにな、っちゃいけ、ないのかよ…」

嗚咽を漏らしながら、俺は続けた
もう、言葉が続けられなくなりそうだった

「…おぬしはいくつか間違ったことを言っておる。訂正させてくれんか?」

「んだと?魔物風情が俺に説教たれ「ステイテッドは、おぬしを見捨ててなどおらぬ」

え?

「ステイテッドは旅の途中、仲間が魔物になっての…それをどうにかしようとして、わし等に挑んできたんじゃ」

は?
確か、僧侶の男と二人旅じゃ…

「おぬしの言いたい事はわかる。じゃが、男でも、極まれに魔物になるんじゃよ。アルプというんじゃが、これがレアでのぉ〜…って話がそれとるわ」

すまぬすまぬと、苦笑してやがる

「結果から言うと治せない事を伝えた。しかし、ステイテッドは仲間を見捨てることが出来なかったんじゃ」

じゃから、自分だけ一旦国へ帰ろうとしたんじゃ、と続ける

「じゃが、あやつが帰った時には、もう仲間が魔物化しておるのが広まってしまっていたのじゃ。家族も異端審問にかけられ、父が死んでいるともその時知ったそうじゃ」

一息おいて、続けた

「そして、おぬしが教団の実験施設に運ばれた情報を聞き、片っ端からその施設を襲い始めたんじゃ」

―――え?

「たった一人の肉親である母親は、『子供を守りたいなら』と脅迫され、慰安婦にまわされ殺されとったからのぉ」

な、んだ、と

「なら、俺が聞かされていたのは…」

「ステイテッドの噂も含め、殆どが嘘じゃろうな」

と、バフォメットが悲痛そうな顔で言う

「なんで、テメェがんな悲しそうなんだよ」

俺は言う
そうだろ?

俺は、ただ―――

「俺が勝手に、あいつらに踊らされてたんだからよ。あー!バッカみてぇ!」

ホントバカみたいだ

勝手に兄さんを恨んで
勝手に母さんを恨んで
勝手に、こいつらを恨んで

「ホント、死んじまった方が良かったんだな、俺は」

「そんな悲しい事を言うな!」

こらえてたのか、そうでないのか、泣き始めた

「おぬしは何も悪くないんじゃ!ただ、懸命に生きようとしてきたんじゃから!それなのに、自分をそんなに責めるな!」

やつは続けて言う

「おぬしの間違いの一つは、そうやって自分は幸せになってはいけない、幸せになれないと思っているところじゃ」

やつが近づいてきて

「おぬしは生きて良いんじゃ、幸せになって良いんじゃ」

抱きしめてくれた

「…なんで、だよ」

「なにがじゃ?」

わかってるくせに、奴は―――アリシアは聞く

「なんで、俺なんかを助けようとするんだよ?兄貴とは面識あるだろうが、俺とは…」

「そのおぬしの兄からの頼みと、わしの単なる趣味じゃよ」

「趣味?」

俺は抱き締められながら、聞き返した

「わしは、傷つくことの辛さも、―――自分を否定される辛さも、自分を否定する辛さも、一応はしっておるからの」

強く、抱き締めてくれた

「わしはバフォメットじゃ。当然恐れられ、崇拝され、頂点であり続けなければならないんじゃ。じゃが、わしは才能も、何もかもが『並』位のバフォメットじゃった。」

軽く震えながら、続ける

「じゃから、自分のサバトが指をさされ笑われたこともある。こんなサバトはいらないと言われた事も、他のバフォメットの方が優秀だと、言われたことがある。辛かった、苦しかった、何もかもを、無くしてしまいたくなった」

震えながら、アリシアは続ける

「じゃが、わしには幸運にも、ついて来てくれた家族たちがいた。あの受付の魔女もその一人じゃし、おぬしの兄もその一人じゃ」

じゃから、と続けて俺の顔を見て言う

「わしは、同じように、辛い者を―――同じ『否定世界』に消えそうな者を、見捨てたくないんじゃ!」

その瞬間、暗闇が晴れていった

・・・

「で、結局『否定世界』と『NOTKILING』ってなんだったんだよ?」

あの暗闇が晴れて、俺はアリシアに聞く

「簡単じゃよ。NOTKILINGは『全てを消し去る』魔術といったろう?代償は、自分自身を抹殺する事だったんじゃ」

続けて言う

「『否定世界』は、NOTKILINGが暴走し、代償が払われる直前に発生する結界型の魔法じゃ。これにより、自身も含め様々な物を巻き込んで『消える』んじゃ」

「なんでんなに詳しいんだ?」

救われてからある疑問
それはアリシアが非常にこの術式に詳しい事だ
これは一応教団の最高機密の一つなのだ
こいつが簡単にわかる訳が

「おぬしは簡単な質問しかしてくれんのぉ〜。わしはちょっと寂しいぞ」

と、さらにくっついてきた

―――そう、晴れてからこいつ、ずっと俺に抱きついて…
…冷静に考えて、俺は恥ずかしくなってきた

「元々、NOTKILINGはわしが作った魔術じゃ。対処方法も、性質も知っていて当然じゃ」

「は?これは教団が作った…」

「恐らく教団でもアンチマジックを作る過程で作り上げたんじゃろう。恐らく奴らも本来の性質には気づいておらんて」

なるほどな、合点がいった

だから、水晶が体に埋め込まれていたのか…
副産物だから、よりデータが欲しくて

「で、この水晶じゃが」

と、アリシアは手に水晶を持っていた
どっかでみたような…

「ってそれは俺の体にあった!」

「『否定世界』から出るついでに体から抜き取ったんじゃ。こんな異物があれば余計体に負担が掛かるというのに」

アリシアはなにやらブツブツ唱えていた

「…よし、これで終わりじゃ」

「…なんかすげぇやな予感がするが、何をしたんだ」

素晴らしくなにかやり遂げた顔で笑っているこいつには、なにか企みがある様にしか見えない

「いや、ちょっとおぬしを実験した施設に―――」

と、外からすさまじい衝撃が伝わってきた
かなりのデカさだ

「ちょっと落石させただけじゃ♪」

…こいつガチで怖えぇな

〜〜〜

ある教団関係者の共同私有地に、隕石が落下した

その跡地を近くの新魔物領で調べていた所、地下に研究施設があった

恐ろしい事に、そこでは人体実験が行われていた

そこの研究員達も、実験の被害者達も、奇跡的に無傷だったらしい

おかげで、教団の一部の人間が行っていた悪事が明るみになったらしい

だが、関係者はみな不思議がる

研究所に落ちた隕石から考えると、どう考えても被害が小さすぎるし、助かった人間が多すぎると

〜〜〜

「って、やっぱかなり緊張するな…」

あの後、俺はアリシアに頼んで、兄さんと会う事にした
実際、兄さんに会っても、何も変わらないと思うが、会ってある種のけじめを付けようと思った

「心配せずとも、兄上は立派じゃぞ♪」

―――そう、俺はこいつの兄上とやらになってしまったから
バフォメット達にとって、自分より強い相手を生涯の伴侶にする考えがあるらしく、アリシアとまともに渡り合える体術の使い手だった俺は、すっかり気に入られたのだ

「だがよ、俺は"穢れた処刑人"だったんだぞ?」

「それでも、今の兄上なら大丈夫じゃ」

真っ直ぐ、言ってくれる

「ところで、兄上?」

少し不安そうに、アリシアは聞いてきた

「兄上の、本当の名前、いい加減教えてくれんかのぉ〜」

「…一回しか言わねぇから、よく聞けよアリシア」

俺の名前は―――

「アリフテッド、アリフッド=ウォーデン、だ」

「わかったのじゃ、アリフ兄上♪」

俺は、扉の向こうにいる兄さんに、アリシアと会いに行った


11/04/22 23:44更新 / ネームレス

■作者メッセージ
どうも、ネームレスです…

さて、バフォ様の戦闘書きたかったんですが…


バトル難しいよぉ〜!?

いやはや、もっとバトルを書きたかったんですが、これ以上は詰め込みすぎかなと思って省略

一応アリフをバフォ様に救わせるのが本来の目的でしたからね

後、隕石描写w


さて、ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

にしても、ステイテッドの話、どーしよ…

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