連載小説
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異邦人と蜥蜴娘1
男は光とも闇ともつかぬ、明示し難い何かに満たされた空間を移動していた。
別段男が歩くわけでも、走るわけでも、ましてや泳ぐようでもなく、ただそのまま移動していた。
それが立ちながらなのか横になりながらなのかさえ、曖昧なその空間をひたすらに沈黙を保ち腕を組んだまま移動・・・いや、あたかも移送されるがごとく、どこかへ向かっていた。
ふと、男が目を開ける。ついで微かに独り言を呟いた。
「そろそろ、か」
と、その瞬間まるで男の言葉を待っていたかのように、突如として男の前方に溢れんばかりの光のような、底なしの闇のような形容しがたい何かが『開いた』。
迷わず男はそこへ進む。
「さて、今度の『世界』には何があるかな?」
男はその小さな呟きと共にそこへ消えていった。







「有り金と荷物を全部置いていきやがれ!」
時刻は深夜。野盗の首領らしき男が声高に叫んでいる。
数名の旅人や商人が乗る幌馬車を取り囲み、野盗たちは目をギラギラさせて今日の獲物を今か今かと襲わんばかりである。
幌馬車の車輪のひとつが野盗の奇襲により破壊されていて、既に動けない状態だ。更に言えば御者は矢によって射殺され、動けたとしても既に馬車を操れるものもいない。馬車に乗る誰もが震えていて動けない・・・ようではなかった。
一人の深々とフードを被り、旅装、つまりは丈の長い外装だが、それを羽織った者が一人、ゆっくりと馬車から歩み出てくる。
「すまんが、旅の途中でな。ここで貴様らに私のものを一つ足りとて、くれてやるわけにはいかんのだ」
その声は女性のものだ。しかも凛として響きがよく、遠くでも簡単に届きそうなほどである。
「ナメてんじゃネェぞ、コラァ!!」
野盗の数名が女性の声に反応し、一気に躍り出た。と、次の瞬間。

ブワッ!!

女性は外装を外して翻し、視界を奪うと同時にその背に担いだ大剣を、片手で苦も無く引き抜き、真横に薙いだ。
断末魔の叫びはあえなく外装によって阻まれ、くぐもった声が少しばかり聞こえるだけだった。
そして露わになった女性のシルエットを見た野盗たちは息を呑む。
「テメェ、魔物か!!」
首領らしき男が、若干後ずさりながらそう叫んだ。
そう、彼女の体には【人間】にはありえない尾という部位や、緑色に月明かりを反射して輝く鱗が存在する。リザードマン、一般的にそう呼ばれる魔物である。また、彼女達は誰もが美しい姿をしていて、人間の中には彼女達と接するために腕を磨くものさえ―、ごく僅かだがいるらしい。
「その通りだ。武者修行兼夫探しだが、あいにく貴様らでは役が務まらんようだ」
振りぬいた姿勢のまま、彼女は野盗たちを睨み据えながら応えた。
しかし首領らしき男は何を思ったか、顔を俯かせ先ほどとは逆に今度は一歩あゆみ出てきた。
「へ、へへ。そうか、魔物か。クク、ハハハハ」
まるで人が変わったかのように肩をゆすり、暗い笑いを漏らしている。
リザードマンの女性はいぶかしんで眉をひそめ、しかし注意を怠り無く注いでいる。
と、首領らしき男は唐突に何かを抜き放ち、地面に突き刺した。あまりに一瞬の出来事だった為、リザードマンの女性は反応が遅れてしまう。そして時既に遅し、地面に複雑な魔方陣が光を放ち、浮かび上がった。
「な・・・!?これは・・・・・・・!!」
リザードマンの女性の顔が苦悶のものに変わる。
「ハハハァ!以前奪い取ったモンをいざって時のために持ってたが、まさかこんな形で役立つとはな!そう、《破魔の結界陣》だよ!」
《破魔の結界陣》とは特定空間内の魔力を根こそぎ放出し、同時に魔の力に拠って立つ者を拘束するという、魔物とって最悪の相性といっていい代物である。首領らしき男はそれが封入された呪詛筒を地面に突き刺して発動させたのである。
「く・・・不覚だ・・・・・・・」
これから訪れる自分の未来にリザードマンの女性が惨憺たる思いを口にする。
「まあ?これからは俺様の奴隷として使ってやるから、そんなに落ち込むこたねぇよ」
正逆に首領らしき男は声が弾んでいる。周りの野盗たちからも野次が飛んでいる。リザードマンの女性は項垂れ、それ以外の皆の視線は、それに宿る感情こそ違えどその姿に向けられていた。






だからその場にいる誰もが気付けなかった。
自分達の頭上に異変が起こっていることに。





Qバ$&#☆ギёH%RピΘπG!!!!!




音として形容しがたい音が大音量で辺りに響いた。
堪らずに一斉に全員が目をつむり耳をふさいだ。







・・・・・・・・・・・・・・・・・

やがて辺りが静まり返っていることにその場の誰もが気付き、目を開けるとそこには、一人の男がいた。

「【LUFFY】め、演算をしくじったな。人のいるトコに転送しているじゃないか」

誰も声を口に出来ぬ中、男が一人呟いた。
すると我に返った首領らしき男が声を荒げて叫んだ。
「だ、誰だテメェは!?どうやってココに現れた!?」
当然だが、それはその場に居合わせた全ての者の疑問でもある。
「リュウ。リュウ=リングヴォルトだ」
突如現れた男、リュウはまるで自分の不自然性を歯牙にもかけない様子で応えた。
「どうやってかは、答える事ができない。と、言うより理解できないだろうしな。まあ、それを抜きにしても答えられない事に変わりはないか」
誰もの頭の上に疑問符が浮かび続けている中、リュウは続ける。
「時にこの状況は・・・・説明してもらう必要はないか。無視するか助けるか。さて、どうしよう?」
野盗やリザードマンの女性、動けない馬車を見て本気で考えている様子のリュウ。
リザードマンの女性はハッとして叫んだ。
「手を貸してくれ!その地面に刺さった筒を破壊してくれるか、抜いてくれるだけでもいい!」
全員の視線が筒に向き、慌てて首領らしき男はそれを守るように立ちはだかる。
リュウはゆっくりと視線を皆に遅れて筒に動かし、次いでリザードマンの女性に向けると
「じゃ、聞きたい事があるから、それに答えてくれるなら」
何を聞かれるのか、などという考えなど切羽詰っている状態のリザードマンの女性が浮かぶはずも無く、二つ返事で分かった、と答えた。それに満足気にリュウは頷いて、首領らしき男へと振り向いた。
「て、訳なんで、悪いがこちらの事情を優先させてもらうぞ」
どんな事情だ、そう言いたかったのだろうが、最初の一語を口にする前に首領らしき男の意識はふっつりと途絶えた。
リュウは言葉を告げたあと、風のように一気に間合いを詰め・・・るどころか首領らしき男の裏に回り、首筋に手刀を一閃させていた。
「殺しはしない。それは可能性の消去で、俺に許されている権限に含まれないからな」
言うや首領らしき男は倒れ付し、リュウはゆっくりと筒を地面から引き抜いた。―と、地面の魔方陣が消え、リザードマンの女性は呪縛を解かれる。そして自由を取り戻すや否や、疾風と化し野盗たちを一瞬にして斬り捨てた。
「すまない、お陰で助かった。リュウとやら」
血糊を剣を振って振り払いながら、リザードマンの女性は謝辞を述べた。それにリュウは少々困り顔で
「いいよ。しかし殺す必要があったのか?少なくとも逃げようとし始めていただろうに」
その問いには逆にリザードマンの女性が疑問符を浮かべる。
「放っておけばいずれまた誰かを襲う。何故生かす必要などある?」
「はぁ、そういう世界なのか・・・」
ため息一つ、リュウは呟いた。
「で、聞きたい事とは何なのだ?」
聞いてか聞かずか、リザードマンの女性は先ほどの約束について尋ねてくる。
「あ〜。まぁ、色々とあるからそれは・・・、と今後の予定は?」
「ふむ、取り敢えずは一番近くのセムス、という街に行く予定だ」
「それじゃ、その街で飯でも食べながらでどうだろう?この辺に散らばってる武器だのを換金すれば多少の金にはなるだろうから」
「分かった。その方が私も助かる。正直、この乗合馬車で路銀が尽きかけていたのでな」
「そういや、その馬車。他に誰もいないのか?」
「いや、私以外にも数名いたが・・・」
と、二人が馬車を振り向くとそこには誰もいなかった。
「・・・逃げたようだな」
リザードマンの女性が呆れ半分に続けた。




街道を順で歩けば夜明け頃には到着する、とリザードマンの女性が告げるので二人はその道を歩き出した。
「そういえば、まだ名前も聞いてなかったっけ」
徐にリュウが口にした。
「む、私としたことが失礼した。私は・・・そうだなイリアとでも呼んでくれ」
「?本名じゃまずいのか?」
「すまん、人に聞かれるには些か問題があるのだ」
少し寂しげに、リザードマンの女性、イリアは言う。
「ま、誰しも一つや二つ、秘密はある。・・・・いや、もっとあってもおかしくないか」
わざとおどけたように言うリュウにイリアは少しおかしそうに
「それではいくつの秘密があるのやら、だな」
と応えた。それを見てリュウは少し天を仰ぎながら言った。
「長い付き合いになるか、はたまた短いのか現状では何とも言えないけど、暫くよろしくな、イリア」
対してイリアはやや俯き加減に目を閉じ微笑を湛えながら応えた。
「私としては長い付き合いになって欲しいものだ。将来の旦那候補と出会えたのかも知れないのだから」
リュウは苦笑して頬を掻いた。


10/03/31 06:02更新 / ぱんち
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■作者メッセージ
拙い文を読んでいただき、御礼申し上げます
しかし・・・・エロは・・エロは書けません〜orz
ゆっくり少しづつ書いていこうと思います
設定とかも少しづつお目見えしていくと思いますw
よろしければ感想、御意見等、伺えると嬉しいです^^
では次の機会に〜

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