連載小説
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第1部 (第1章)
 ざくざくと小気味のいい音を響かせながら、少年は雪道を歩いていた。
長すぎない長さに切られた黒髪に、自警団のマント。頭に積もる雪を、時折頭を振って落としている。
 足場の悪さゆえか、それとも腰に提げた長剣の重さゆえか、かちゃかちゃと音を鳴らしつつもしっかりとした足取りで進み続ける。
 それもそのはず、少年にとっては5年間も通り続けた道だ。もしかしたら目を瞑っていても目的地まで辿りつけるかもしれない。
 少年は吐く息を凍らせながら人気のない道を歩き続けた。
 すると、道の先には宿屋とおぼしき建物の影が見えてきた。しかし、相変わらず人の姿はない。
 それでも少年は迷うことなくその建物に入って行った。



「いらっしゃい。って、なんだ。アルか」

 暖炉の火がちらちらと燃える室内。アルと呼ばれた少年は玄関でブーツについた雪を落としながら答える。

「なんだはひどいな、おばさん」

 カウンター奥の、この宿屋の女主人はかっかっか、と豪快に笑う。
 恰幅のいい体にその笑い方はとても似合っている。

「あれにお見舞いかい?アンタも物好きだねぇ」

「幼馴染なんでね。それに警邏の通り道だし」

 雪を落とし終わったアルは、カウンターの前まで歩いてきて言った。歩いてきたアルに女主人は熱いココアを2人分渡す。
 警邏の通り道だから、なんていう理由はお見通しだろうが。

「警邏の通り道、ね」

 そこで言葉を切った女主人の瞳に、悲しみのようなものがよぎる。
 それを見たアルは目をそらして、階段を見つめる。

「ココアが冷めないうちに行くよ」

 アルはそう言い残し、ココアがこぼれない程度に早足で歩いて行った。足音はすぐに階段を上る音へと変わる。
 
「アル、判っているんだろ………」

 女主人のつぶやきは、誰の耳にも入ることはなかった。





 小さなランプ1つ分の明かりしかない部屋の中で、その少女は万華鏡をのぞいていた。
 ベッドから上半身だけ起こし、真っ白な髪の毛を揺らしながら覗き込んだ筒をくるくる回す。
 その肌の色は、病的なまでに真っ白だった。

 ――かちゃり

 ドアの開いた音に、少女は万華鏡を回す手を止めた。同時に、首だけをドアに向ける。

「アル……」

 アルは無言でドアを閉める。そのままつかつかとベッドの傍らまで歩み寄り、近くのテーブルに2つのティーカップを置いた。その中身が熱を持っていることを知らせるように、真っ白な湯気があがる。

「アル……無理して来なくてもいいのですよ。私なら平気です」

 少女は無言で自分を見つめるアルに視線を合わせて言う。落ち着いた、外に降るやわらかい雪のような声だった。

「………平気なもんか」

 アルは憮然として言い返す。
 少女には、そんな真剣な顔をするアルが少し可笑しく感じた。つい、口元がほころんでしまう。
 それに気がついたアルが困惑の表情を浮かべる。

「お、おい、アリサ……」

「ごめんなさい、アル。でも、私は本当に大丈夫です。……アルがくれた万華鏡だってあるのです」
 
 アリサは手元の万華鏡をギュッと握った。寝たきりの生活になって、アルが最初に買ってくれた万華鏡。
 そんなアリサを見ると、いつもアルは何も言えなくなってしまう。
 しかし、アリサの病気のことを知っているアルは、何かをせずにはいられないのだ。

「そ、そうだ、アリサ。これ………」

 アルはそう言って、ずっと左手に持っていた何かをココアのカップの横に置いた。

「うわぁ……かわいいお花ですね……。このお花、どうしたのですか?」

 アルがカップの横に置いたのは、黄色い花が植えられた鉢だった。アリサは目を細めてその花を見る。
 病気のせいで外に出られないアリサは、こういった「外の世界」を感じさせるものが好きだった。
 アリサが気にいってくれたのがわかって、アルもうれしくなる。

「この前、給料が出たんだ。それで買った」

 しかし、アリサの笑みはアルの言葉でしぼんでしまう。無意識のうちに、手元の万華鏡をいじりだす。

「私のために、アルのお給料を使うなんて……。そんなのはダメです。それはアルが働いてもらったお金なのです」

 声のトーンも先ほどより落ちている。万華鏡を渡した時もそうだった、とアルは今更ながらに思い出す。

「いいんだ、これは俺がしたくてやってることなんだから。
 それに、これはただの花じゃないぞ。こいつの根っこを煎じて飲めば大抵の病気は治る、貴重な薬草なんだ」

 根っこを煎じて飲む、という言葉に、アリサは痛みを感じた。体ではなく、心に。しかし、それを顔に出しはしない。
 その代わり、再びぎゅっと万華鏡を握りしめる。
 そんなアリサの様子に、アルが声をかけてくる。

「アリサ………。俺は君に死んでほしくはないんだ………
 ……こんな薬草じゃ、病気は治らないかもしれないけど……」

 アリサの病気は「雪死病」と呼ばれる、非常に珍しい病気だった。髪や体が雪のように真っ白になり、死んでいくのが名前の由来。治療方法も原因も全く分かっていない。
 アリサは5年前にこの病気に罹ってから、奇跡のような生命力で今を生きている。
 ――もう、自力で立つこともできないが。
 さっきのセリフは、病気と闘うアリサを、5年間もの間お見舞いに来ることしかできなかったアルの心からの言葉だった。

「アル………私は、覚悟ならできています」

 アリサは万華鏡をいじるのをやめ、アルの目を見て言った。
 ただ正面からアリサに見つめられただけのアルは、見えない何かに押されたかのように後ずさる。アリサの顔には、言葉以上の「覚悟」が滲み出ていた。
 その目から、涙がこぼれおちる。

「え………?」

「アルや皆に……迷惑をかけたくないのです………」

 アルはうつむいて黙りこむ。もちろんアルは迷惑だなんて思ってはいない。でも、この少女の目を真正面から見て、そう言い切れるだろうか?
 
「でも俺は、君に死んでほしくない。どんな形でもいい、生き続けてほしいんだ………。
 そのためなら、俺は何だってするよ」

 できない。アルには、アリサの覚悟に真正面から見つめられて、「迷惑じゃない」と言い切れる自信がなかった。
 もう行くよ、と言い残し、アルは屋根裏部屋を出て行った。その背中が少し小さく感じたのは、アリサの視界が涙でぼやけていたためだろうか。

「冷たい………」

 アルが持ってきてくれたココアは、冷めきって冷たくなっていた。





「へーえ、カレ、かっこいいじゃない」

 アルが去った屋根裏部屋で、アリサ以外の女の声がした。しかし、声の主の姿はどこにもない。
 その声に、再び万華鏡をのぞいていたアリサは、万華鏡を枕元に置いた。

「のぞき見はやめてください、と言ったはずですよ。イリアさん」

 そう言ったアリサのベッド前、先ほどまでアルが立っていた位置に闇色の霧のようなものが集まる。それらは次第に人の形になってゆき、最後は色もついて完全に人の姿になった。
 ――いや、人のような姿になったというべきか。
 イリアと呼ばれた人物は、豊満な体を必要最小限の服(?)で覆っている。しかしそれは理にかなっていると言えるのかもしれない。腰辺りから生えたコウモリのような翼や鞭のような尻尾、頭から生えた節のある角のせいで普通の服など着ることはできないだろうから。
 一見して人でないと知れるその姿は、魔界の上級悪魔、サキュバスのものだった。
 イリアはかつかつと足音を響かせながらベッドわきまで歩いてくると、どさっと腰を下ろした。アリサの顔の横にきた尻尾がうにうに動いている。

「いやいや、あたしはのぞき見なんてしてないよ。やったとしたら、盗み聞きくらいね」

 そう言いながら、イリアはアルが手をつけなかったココアを一気に喉に流し込んだ。
 猫のようだったつり気味の目が、瞬く間に緩んでいく。

「ここのココアはうまいねー。おかわりないの?」

「自分で取ってきたらどうです?」

 もちろんイリアが自分で取って来られるはずはない。
 そんな回答に、イリアはカップを机に戻しながら言う。

「あっれ〜?カレと対応がちがうなぁ」

 アリサはベッドの上で肩をすくめてみせる。絹のような白髪がにわかに揺れた。

「私も取りに行けませんから」

 なんでもない事のように告げられた一言は、しかしそれ相応の重さを秘めていた。軽口を叩いていたイリアも、目を伏せて押し黙る。
 つまりそれは、アリサを蝕む雪死病が末期に達しているという証明であった。

「ごめん……調子にのったわ」

 イリアが告げる。それにアリサは顔を横に振って答えた。

「別に気にしていませんよ」

 そう言ったアリサに、イリアはありがとうと告げる。その手でイリアの髪をなでながら。そして、でも、と続ける。

「本当に良いの?考え直すなら今よ」

 それが何のことを指すのか、イリアがサキュバスだということを考慮すれば答えは必然的に導き出せる。そもそも、このような問いを発することが稀といえる。
 しかし、アリサはまたも首を振る。

「イリアさんは人間らしいですね……。私は、魔物というものはもっと……」

「欲望に忠実だと思っていた?」

 アリサの言葉尻をとらえたイリアの問いに、アリサはええ、と答える。
 イリアは身を乗り出し、アリサの目の前で人差し指を左右に振る。

「チッチッチ……。そんなのは若い連中だけよ。大事なのはね、愛なのよ愛」

 私も若いころは無茶したわねー、とイリアは笑う。感情を反映してか、尻尾や翼がはたはた動いた。
 アリサはそれを眺めながらしばらく黙っていたが、その後、静かに切り出した。
 
「では、イリアさん………。お願いします」

 アリサの声に、イリアの笑いが止まる。その言葉の意味するところは、

「本当に後悔は無いのね……。今夜が、人として最後の夜だとしても?」

「ええ。アルだってきっとわかってくれます。私はもう誰にも迷惑をかけたくない。それに――」

 アリサはそこで言葉を切って、ベッド脇のテーブルに置かれた鉢植えを見る。鉢植えには、黄色い花が静かに咲いていた。

「――こんな小さな命まで、摘むつもりはありません」

 そう、とイリアは答えた。同時に、その気高く尊いプライドが、堕ちた後も保たれ続ければいいと思った。

「じゃあ、はじめるわよ」

 真っ白な少女が小さくうなずくのを見、イリアは彼女のベッドに上がった。その手はすでに少女の毛布を畳んで足元に置いている。
 続いて、彼女の着ているネグリジェを少しだけはだけさせる。その奥を覗いたイリアの頬に、赤みが差した。

「…………」

 イリアはそのまま無言で顔を近づけ、赤い舌でそれをちろっと舐める。

「っ!!」

 突然の感覚に、目を閉じでいたアリサは声をあげそうになった。しかし、意志の力を総動員して押さえつける。
 そんなアリサを見て、イリアの頬はますます赤くなる。こころなしか、呼吸も乱れてきているように見えた。

「…………」

 アリサは無言。再び目を閉じ、ベッドに静かに横たわっている。
 その無防備ともとれる姿に、イリアの悪戯心が鎌首をもたげた。

 ――少しくらい、遊んでもいいわよね

 イリアはベッドに横たわる少女の秘所を指先でつつっとなぞった。とたん、素直に反応した少女がびくりと白い体を震わせる。
 その時点で、すでにイリアの瞳からは先ほどまでの理性の光は消えていた。そこにいるのは、欲望に支配された一匹のサキュバスだった。
 しかし、当のイリアはすでにそれと気づけない。再び、指先を動かして少女を責める。

「はぁッ!!」

 ついにアリサが声を上げる。耐えがたい快楽に貫かれた体が、がくりと揺れた。同時に、少女の秘所から、透明な蜜が滴った。

「準備完了♪」

 イリアは蜜を指先ですくい、口に含む。ちゅぱ、と水音がした。
 もちろんその最中も、反対の手はアリサを責め続ける。
 
「あ、ああッ!!う、あ……はぁん!」

 そんな少女が愛しくてたまらないイリアは、少女の願いをかなえるべく、先端が矢じりのようになった自らの尻尾をつかんだ。そして、それを少女にあてがう。

「はぁ、はぁ、アリサ……やるわよ……」

 イリアはあてがった尻尾に力を込める。じゅぷりと淫靡な音を立てながら、イリアはアリサに沈んでいった。

「ああああああああぁぁ――むぐッ!」

 尻尾が入ってきたことで、今までの何倍もの快感を与えられたアリサは叫び声をあげてしまう。しかしそれもイリアの口によって途切れさせられた。
 上の口がふさがれても、下の口は尻尾を押しのける勢いで蜜をあふれさせる。ベッドはすでに少女の蜜でべたべただった。
 がくがくと揺れる真っ白な少女を、イリアは抱きしめる。

 ふと、違和感に気がついた。

「はぁ、アリサ、あなた、はぁ、あなた、処女?」

 イリアの問いかけに、アリサは顔を快楽に歪ませながら答える。

「はぁ、はぁ、ぁい。処女れす」

 凄まじい快感に、喋るのもつらそうなアリサ。彼女を抱きしめたイリアの瞳に、急激に理性が戻っていく。

「だ、駄目じゃない!こんなことしちゃ!!」

 イリアの叫びの意味が分からない、という風にアリサは首をかしげる。その瞳は先ほどまでのイリアと同じもので、ひとかけらの理性も宿してはいない。完全に欲望に蕩けている。
 そんなアリサを放し、イリアは急いで自分の尻尾を引っこ抜く。

「ぁ、抜かないで。もっと、もっとください」

 欲望に突き動かされるアリサが、尻尾をつかもうとする。しかしイリアは尻尾をアリサの手の届かない所まで動かしそれを防いだ。
 
「な、なんでそういう意地悪するんですかぁ………」

「このままあなたの初めてを奪っていたかと思うとゾッとするわ………。もう半分奪ったようなものだけど、完全に奪っちゃうよりはマシよね………」

 はぁ、と胸を撫で下ろすイリア。
 しかし、アリサは依然欲望の虜。イリアの尻尾をつかもうと、ベッドから起き上がっている。

「アリサ、聞いて。アリサ!」

 イリアはアリサの肩をつかんで揺さぶった。それでも、アリサは尻尾を追うのをやめない。

「駄目ね………」

 イリアはつぶやくと、人差し指をぴっと立て、アリサの目の前に持って行った。そこに、淡い青色の光が灯る。
 それを見つめていたアリサは、急に脱力して仰向けにベッドに倒れこむ。とめどなく溢れ出ていた蜜も、倒れこむと同時に穏やかになっていった。

「ぁ………」

「いい?アリサ。初めては大切にしなきゃダメよ。今は良くても、後で必ず後悔するわ」

 イリアの言葉にアリサはかすかに頷く。その後、だんだん目蓋を落とし、寝息を立て始めた。イリアはやさしい手つきで彼女のはだけたネグリジェを元に戻す。
 最後に毛布をかけて、イリアはベッドから立ち上がる。そして、そのまま闇に溶けたかのように消えてしまった。上級悪魔たる彼女には、この程度の魔法はお手の物なのだろう。

「明日にでも、効果は表れるわ。お大事に、アリサ」

 声だけが、聞こえた。
 



 ―――かちゃり。
 今日も開きなれたドアを開ける。それはアルにとって毎日のように行ってきた動作だ。取っ手が逆側に付いている特殊なドアも、戸惑うことなくすらりと開けられる。

「アリサ、調子は――」

 アルはそこで言葉を切った。切らざるを得なかった。
 
「あら、こんにちはですね。アル」

 アリサが、立って万華鏡を片手に黄色い花に水をやっていた。
 その光景にアルは時が止まったように立ち尽くす。彼の手に支えられたカップの湯気だけが時が流れていることを示す。

「おま、どうして立ってるんだ」

 本来ならアリサは雪死病に蝕まれて立つことすらままならない。
 それが今、立っている。見れば、アルが昨日贈った花にも手をつけていない。

「大丈夫ですよ、アル。無理をしている訳ではありませんから」

 笑いながらアリサが言う。その笑顔には一片の曇りもなかった。
 
「なら、どうして立っていられる?前立った時は床に倒れこんでたじゃないか」

 そうなのだ。この前、アリサが万華鏡を床に落としてしまった時、彼女は自力で取りに行こうとした。その結果、彼女は半日、床で倒れたまま過ごしたのである。二度とそんなことにならないよう、厳重に注意したはずだが。

「アルも大概鈍いですよ。病気が治ったからに決まっているじゃないですか」

 アルは目を見開く。雪死病が治る?そんなことはありえない。いままで雪死病に罹って助かったものなどいないのだ。
 だが、現に目の前の少女は立っている。咳きこんだり、辛そうな様子もない。

 ならば、どうして――

 目を開いたまま考え込んでいたアルは、水やりを終えたアリサが静かに近づいて来ているのに気がつかなかった。
 後一歩の距離まで接近したアリサは、次の瞬間、アルに猛烈なタックルをかました。

「――ッッ!!」

 アルは不意を突かれたものの、勢いを殺すためにバックステップ。それと同時に自警団で叩き込まれた猛烈な斬撃を、ほぼ条件反射でアリサめがけて放っていた。
 気がついたときにはもう遅く、アルのバックステップで勢いを流されたたらをふんだアリサの首筋に剣閃は吸いこまれていく。

 がきん、と石に当たった時のような音がした。その音とともに剣が弾かれる。アリサの首には傷一つ付かなかった。アルの手から放り出されたカップが二つ、床に落ちて割れる。
 アリサを殺さずに済んだ安堵と、アリサに対する猛烈な違和感が同時にアルの中に生まれる。こちらを見つめているアリサの瞳も、いつもより紅いような………

「アルは、強いのですね」

 その声だけは、いつもと全く変わらなかった。いつものアリサの声だった。
 だから、アルもいつも通り答える。

「ああ、強いさ」

 それを聞いたアリサはにこりと笑う。

「だから、こうするしかなかったのです」

 なんのことだ?
 そう思ったとたん、アリサの言葉の意味を悟った。

「体、動かないでしょう?」

 アルの体は全く動かなくなっていた。部屋に入ってきたときとは違い、動かそうとしても動かない。
 動けないアルにゆっくりと近寄ってきたアリサは、アルの手から剣を抜きとった。それを腰の鞘にぱちりと納める。

「どういうことだ?」

 幸いなことに、口は動いた。語気がいつもより荒いのは隠しようがない。

「みひつですー」

 アリサは笑顔を崩さない。とても楽しそうだ。
 そう言っている間に、彼女はアルのマントを脱がせ、ソードベルトを外し、ついにはズボンにまで手をかけた。
 ここまで来ると嫌でも気づく。

「アリサ!何のつもりだ!?」

 自由な口で問いかける。しかし、アリサの手は止まらない。ズボンを必要最小限、ずり下げる。そして――
 かぷ。
 アルの記憶は、ここから曖昧になる。




 気がつくと、アルは全身を裸に剥かれてベッドに横になっていた。横では、ネグリジェ一枚で真っ白な少女が眠っている。
 激しい行為の代償か、まだぼんやりする頭に活を入れ、アルは立ちあがって服を着た。
 やっぱり、頭の中がショートしている。それでもなんとか全ての装備を着け終え、部屋をドアに向かって歩いて行く。

「アル、さようなら」

 後ろから声をかけられたアルは、そっと振りむく。
 ベッドでは、真っ白な少女が眠っているだけだった。

「寝言………か」

 そうつぶやいたあと、それでもアルは

「さようなら、アリサ」

 そう言って、部屋を出て行った。




 その日の夜。
 誰もが寝静まった真夜中、アリサは喘いでいた。

「ひ、ひぃあ………あっ、ああッ」

 彼女はベッドに寝そべっており、その脇には静かにイリアがたたずんでいた。

「まぁ、あれだけ激しく楽しんだらそりゃあこうなるわよね………」

 そう言うイリアは激しく悶えるアリサとは逆方向を向き、長くとがった耳も手で塞いでいる。
 彼女のような淫魔にとって、アリサの痴態ははっきりと目に毒だからだ。また昨日のようなことになりかねない。
 あたりは夜の帳が降りているが、この程度の闇は意識しなくても普通に見える。

「ひっ、はぁ、く、くああぁぁ………!!」

 聞こえない聞こえない、と心の中で唱えながら、じっとその時を待つイリア。
 彼女の忍耐にも限度と言うものがあるのだが、なかなかその時は訪れない。

「くぅうう………。ひっ、あちゅい……あちゅ、あちゅいぃぃいい!!」

 アリサの目は虚ろで涙をぼろぼろ流して、口からはよだれが頬を伝って流れおちている。下の口から流れ出るよだれは、もはや洪水と言っていいほどで、足や腰はべたべただった。
 手はあそこをかき回したりしないようにイリアによって後ろで封印されているため、彼女は体を反らせて快楽にうち震えている。
 快楽に支配されきった彼女は、もはや言葉すら満足に喋れない有り様だった。

「あ、あ、あああああぁぁぁあぁああぁあッッ!!!」
 
 絶頂。全てを消し飛ばす威力を秘めた快楽に、飲み込まれるアリサ。
 どさ、と倒れる音に混じって、何かが生えてくるようななんとも言えない音がした。
 耳を塞いでいながら、実はしっかり聞こえていたイリアはその音を聞いて振りむいた。その顔は真っ赤に上気し、秘所はべとべとに濡れている。
 振りむいたイリアの目の前にあったのは、粘液に包まれた尻尾や羽根、小さな角を持つ純白の体毛に覆われた、アリサと呼ばれたレッサーサキュバスの姿だった。
 気絶してもなおがくがくと痙攣するアリサを前にして、

「あ、普通にかわいい。てゆうかこのままじゃ絶対襲っちゃうわ私」

 そうつぶやき、再びアリサに背を向けて座り込むイリア。その手は自らの内側に挿しいれられ、

「はぁん………」

 本日三度目の狂演が始まろうとしていた。




 次の日から、町にはアリサという少女は居なくなった。
 幼馴染の少年は町中を捜しまわったけれど、ついに見つけることができなかった。
 町の人たちは、すぐにあきらめた。彼女の病気を知っていたからだ。
 しかし、幼馴染の少年は諦めなかった。そして、一つの決意をする―――

10/12/02 15:20更新 /
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■作者メッセージ
お楽しみいただけたでしょうか?
これからも随時更新していきますので、どうぞよろしくおねがいします。

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