連載小説
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第1幕 始まり
テレビがついており、その隣に購入者が一人立っている。
ラミア、アルラウネ(アルラ)、ハーピー(ハーピ)の3人は椅子に座り、テレビを眺めている。
テレビは丁度、ショッピングのCMが流れている。

司会者 皆様、ついにこの時が来ました。我々が地球で過ごしている
    なか、これほどまでに、高度で、知的で、エロスを含んだ相棒が
    いたでしょうか。
    かつて我々がサルだった頃、性欲を満たすためにカエルを使って
    マスを掻いておりました。
    かつて我々が戦争をしていた頃、性欲を満たすためにヤギと
    交わっておりました。
    かって我々が宇宙旅行をしていた頃、性欲を満たすために
    ロボットに穴を付けて遊んでいました。
    しかしそれらも今は時代遅れ。人と変わらぬ柔らかさ。人と変わらぬ喘ぎ声。
    人と変わらぬ知的能力。ただ一つ言えるのは、これらには権利はないこと!
    これに権利はありません。穴という穴にぶち込んでも構いません。
    これに権利はありません。たまには散歩をさせてもいいでしょう。
    これに権利はありません。もちろんリードは尻から差して。
    これに権利はありません。全ては皆様の思うが儘です。
    きっとこれらは、私たちに新たな性欲の可能性を提示してくれるでしょう!
    それもきっと、我々よりも合理的で、納得のいくセックスを!
    お待たせしました!それでは紹介しましょう!
    性欲発散用生命体シリーズ『魔物娘』です!

購入者、テレビを消す。

購入者 ええ、このように。君たちという存在は、我々人類に、産まれたその瞬間から
    隷属してあるということです。理解できますか?

3人、頷く。

購入者 人のために産まれ、人のために尽くし、そして死んでいくのです。それ以上は
    ありません。理解できますか?

3人、これも頷く。

購入者 よろしい。それでは君たちには、それぞれ仕事を割り振ります。君たちはその
    任務のまま、目の前の物事をただ淡々とこなしなさい。よろしいですね?

3人、頷く。

購入者 よろしい。それでは今からそれぞれの説明をします。

購入者、3人に説明をする。
3人はそれを頷きながら聞いている。

数日後、アルラとハーピが椅子に座って連絡を取っている。
そこにラミアが仕事を終えてやってくる。

ラミア こんにちは。
アルラ こんにちは。
ハーピ こんにちは。
ラミア 今日も一日問題なかったです。
アルラ 今日も一日問題なかったです。
ハーピ 今日も一日問題なかったです。
ラミア 今日もいつも通り仕事をしました。
アルラ 私は今日もいっぱい剥きました。
ハーピ 私も今日はいっぱい入れました。
ラミア 私も今日はいっぱい搾りました。
アルラ たくさん働けたと思います。
ハーピ 明日もたくさん働きたいです。

3人が連絡を取っているなか、購入者がやってくる。

購入者 皆さん、お疲れ様です。
ラミア 購入者様、お疲れ様です。
アルラ 購入者様、お疲れ様です。
ハーピ 購入者様、お疲れ様です。
購入者 今日も一日問題はありませんか?
ラミア はい、購入者様。問題ありません。
アルラ はい、購入者様。問題ありません。
ハーピ はい、購入者様。問題ありません。
購入者 …うーん。
ラミア 購入者様、私は今日はいっぱい搾りました。
アルラ 購入者様、私は今日もいっぱい剥きました。
ハーピ 購入者様、私は今日はいっぱい入れました。
購入者 よろしい。3人とも、よく聞いてください。
ラミア はい。
アルラ はい。
ハーピ はい。
購入者 君たちを購入してから私は、毎日毎日しっかりと働いてくれる君たちを
    それでいいと思っていました。なぜなら君たちという存在は。
ラミア 人のために産まれ。
アルラ 人のために尽くし。
ハーピ そして死んでいくのです。
購入者 …そう、そうです。それで、いい。うん。なんですが…。

3人、購入者の方をじっと見つめる。

購入者 …如何せん、真面目過ぎるといいますか。いや、求めているのはそうなんです
    けど…。例えば君たちは、疑問というものを知っていますか?
ラミア …。
アルラ …。
ハーピ …。
購入者 …分からない、それこそが疑問、と言ってしまえば無責任、ですね。
    なるほど、それでは。思い出してみましょう。TVで見たあの映像を覚えて
    いますか?
ラミア はい、購入者様。
アルラ はい、購入者様。
ハーピ はい、購入者様。
ラミア かつて我々がサルだった頃、性欲を満たすためにカエルを使って
    マスを掻いておりました。
アルラ かつて我々が戦争をしていた頃、性欲を満たすためにヤギと
    交わっておりました。
ハーピ かって我々が宇宙旅行をしていた頃、性欲を満たすために
    ロボットに穴を付けて遊んでいました。
ラミア 人と変わらぬ柔らかさ。
アルラ 人と変わらぬ喘ぎ声。
ハーピ 人と変わらぬ知的能力。
購入者 はい、そこまでで、憶えているということはわかりました…聞くも恥ずかしい。
    それでは、今あなたたちは、ここで何をしていますか?
ラミア はい、購入者様。
アルラ はい、購入者様。
ハーピ はい、購入者様。
ラミア 私は毎日、乳を搾ります。
アルラ 私は毎日、野菜を剥きます。
ハーピ 私は毎日、包丁を入れます。
購入者 そうですね。では、映像に映っていたこと。あれが本来の君たちの使用目的
    です。理解できますね?

3人、なんとなく頷く。

購入者 それでは、なぜ君たちはあの映像と違うことをしているのですか?
ラミア …。
アルラ …。
ハーピ …。
購入者 はい、それが。
ラミア はい、購入者様。それが購入者様の命令だからです。
アルラ はい、購入者様。それを購入者様が命令したからです。
ハーピ はい、購入者様。それで購入者様の命令が達成されるからです。
購入者 …なるほど。理解し、思考もし、判断は下せている。が、うーむ。
    試作品だから、かな。まあ、それでも…。それは、何故ですか?
ラミア はい、購入者様。合理的に、考え出された答えです。
アルラ はい、購入者様。合理的に、考え出された答えです。
ハーピ はい、購入者様。合理的に、考え出された答えです。
購入者 あー…なるほど。合理的に、ですか。それだからか、なるほど…。
    分かりました。それでは、3人とも。よく聞いてください。
ラミア はい、購入者様。
アルラ は…
購入者 命令を書き換えます。よろしいですね?
アルラ すいません。
購入者 えっ?
アルラ すいません、購入者様。
購入者 あ、ああ。はい、はいはい。なるほど、いえ、大丈夫ですよ。
    こちらこそ、切ってしまってすいません。
アルラ ありがとうございます、購入者様。
購入者 はい、それでは話していきます。まず初めの「はい、購入者様」は要りません。
    すぐに答えを言ってください。
ラミア …。
アルラ …。
ハーピ …。
購入者 …はい、でいいですよ。
ラミア はい。
アルラ はい。
ハーピ はい。
購入者 次に、私と会話するとき、順番はありません。意識して合わせる必要はありま
    せん。同時でもいいですし、もっと砕けても大丈夫です。

3人、首をかしげる。

購入者 そうですね。もしかしたら、これは君たちにとっても、それは非合理で、よく
    分からないものかもしれません。なのでそのために、君たちにはこれから、いく
    つかのテレビ番組を見てもらいます。そしてそれを、理解し、マネてください。
ラミア はい。
アルラ はい。
ハーピ はい。
購入者 そうですね。そういえば、まだ君たちには名前を付けていませんでしたね。
    君たちでまとめていました。お詫びします。それでは、まず君。
ラミア はい。
購入者 君は、「ラミア」です。
ラミア はい、私はラミアです。
購入者 君は、「アルラ」です。
アルラ はい、私はアルラです。
購入者 そして、君は「ハーピ」です。
ハーピ はい、私はハーピです。
購入者 はい、それでは最後に。私の名前はクレアといいます。どうぞ自由に呼んで
    ください。
ラミア 分かりました、クレア様。
アルラ 分かりました、クレア様。
ハーピ 分かりました、クレア様。
クレア …まあ、テレビを見て学んでくれたらよいでしょう。それでは、今から見ます
    ので、しっかり理解して、マネしてくださいね。

クレア、3人に映像を見せている。

数日後、ラミアとハーピが会話をしている。

ラミア なぁ、ハーピ。今日も乳搾りしてんけど、昨日よりも12Ⅼ多くなったで。
ハーピ よかったね、ラミア。私は、今日は玉ねぎが目に沁みなくなってきたよ。
ラミア ハーピも、よく頑張ったんやね。
ハーピ ラミアも、よく頑張ったんだね。

アルラ、仕事を終えて会話に混ざる。

ラミア アルラ、お疲れさん。
ハーピ アルラ、お疲れ様。
アルラ ラミア、ハーピ、お疲れ。ホンマたいぎぃな。
ラミア アルラは…
ハーピ アルラは…
ラミア あ、すまん。
ハーピ あ、ごめん。
アルラ 今日は野菜剥いとったけど、昨日より玉ねぎが25個増えとったんじゃ。
ハーピ よかったね、アルラ。私は、今日は玉ねぎが目に沁みなくなってきたよ。
ラミア なぁ、アルラ。今日も乳搾りしてんけど、昨日よりも12Ⅼ多くなったで。
アルラ そっか。ラミアも、ハーピも、よぉ頑張ったのぉ。
ラミア 明日も頑張りたいなあ。
アルラ そう…
ハーピ そう…
アルラ あ、わりぃの。
ハーピ あ、ごめん。

3人が会話する中、クレアがやってくる。

クレア ラミア、ハーピ、アルラ。3人ともお疲れ様です。
ラミア クレ…。
アルラ クレ…。
ハーピ クレ…。
3人   あっ…。
クレア …なるほど、前よりもだいぶ柔らかくなった印象ですが、そういうところ
    が、まだ苦手なのですね。
ラミア すまん、クレアさん。
アルラ わりぃの。
ハーピ 難しいよ。
クレア 大丈夫です。そういうのは、会話をしていくうちに慣れていくと思いますから。
アルラ おう。
ハーピ うん。
ラミア あぁ。
クレア さて、実は今日。3人に伝えなきゃいけないことがありまして。
ラミア あぁ。
クレア わたし、この工場から少しの間、離れなきゃいけないことになりまして。
アルラ おう。
クレア その間、3人にこの工場を維持してもらいたいと思っています。よろしいですか?
ハーピ 分かったよ、クレアさん。
ラミア ええで、クレアさん。
アルラ わしら待っとるよ、クレアさん。
クレア ありがとう。ラミアも、アルラも、ハーピも。とてもよく仕事をしてくれるか
    ら、私も気楽に外に出られます。本当にありがとう。それじゃ、行ってきます。
3人   行ってらっしゃい!…あっ。
クレア …ふふ!そう!それでいいの、それでいいのよ。
    みんな!毎日テレビは見るのよ!
ハーピ 大丈夫だよ!クレアさん!
クレア いっぱい考えて理解して、判断するの!
アルラ クレアさん!分かっとるけえの!
クレア そしていっぱい悩むの!悩んで、疑問に思って!頑張って!
ラミア 分かったで!クレアさん!

クレア、出かけていく。
3人はそれをずっと見ている。

ラミア 見えへんようなったなあ。
ハーピ 見えなくなったね。
アルラ 見えんくなったのう。
ラミア じゃあ、いつも通りでええか。
ハーピ いつも通りだね。
アルラ いつも通りかぁ。
ラミア 朝起きて。
ハーピ 働いて。
アルラ 働いて。
ラミア テレビ見て。
ハーピ 寝る。
アルラ んで、起きて。いつも通りじゃ。
ラミア せやな。ほな、テレビ見ようか。

3人とも、テレビを見始める。
そうして、いつも通りの日々を過ごしていく。

ラミア おつかれさんやで。
アルラ 今日もたいぎなわぁ。
ハーピ 今日もいっぱい切ったよ。
ラミア せやなあ、ウチもいっぱい搾ったわあ。
アルラ いっぱい剥いたのう。
ラミア ほなテレビ見るかぁ。

ハーピ、テレビをつけようとする。

ハーピ …あれ、どうしたんだろ。テレビが、ついているのに、映らない。
アルラ 映らないんか。それじゃあ。
ラミア 他のテレビ探そか。
ハーピ そうだね。
アルラ クレアさん、あの扉から出ていったし、あっちにテレビあるんかもな。
ラミア それやな。あっち行こうか。

3人、扉から出ていく。
扉を出ると、真っ暗な回廊になっているが、その向こうに小さく光が見える。

アルラ 真っ暗じゃな。
ハーピ 真っ暗だね。
ラミア 真っ暗やな。
アルラ …向こうに小せぇ明かりがあるのぅ。
ラミア きっとテレビやろ。
ハーピ 行ってみようか。

小さな光までたどり着くと、3人はそれが大きな扉の隙間光であることに気づく。

ラミア また扉やん。
アルラ 重そうじゃの。
ハーピ 3人で押してみようか。
ラミア せやな。
アルラ そうじゃな。
ハーピ そうだね。
3人   せーの!

3人が大きな扉を開けると、眼前に外の世界が広がっていた。

ラミア …これは、外の世界か。
アルラ これが外の世界かぁ。
ハーピ これが、外の世界なんだ。
アルラ 外の世界は、地面がこんなにぐちゃぐちゃなんじゃなぁ。
ハーピ 外の世界は、空がこんなに暗いんだね。
ラミア 外の世界は、それがこんなに向こうまで広がっているんか…。
ハーピ あ、何か聞こえるね。
ラミア ほんまや、何か聞こえとる。
アルラ なんか聞こえるの。



『人類は滅んでしまいました。もうこの地球に、人類はいません。宇宙にも、もうどこ
 にも人類はいません。人類は滅んでしまいました。』



ラミア …聞こえたね。
ハーピ 聞こえたよ。
アルラ 聞こえたな。
ラミア 人類は滅んだんやて。
ハーピ この地球にいないんだって。
アルラ 宇宙にもおらんのじゃって。
ラミア ねえ、ハーピ、アルラ。
    …私たちってさ、今、何で生きているの?
17/10/28 04:35更新 / パッチワーク
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■作者メッセージ
始まりました。
不定期になりますが上げれたらいいなあ。

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