連載小説
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1話
 大学生のテオドールがその少女に出会ったのは、午後の講義を受けるためにアパートを出て、自然公園の中を通り抜けているときだった。落葉樹はすっかり葉を落とした11月、農村の雑木林を再現したその区画は、人の肩より上が幾本にも分かれた独特の形の樹々がその骨組みを晒して風に揺れている。
「おい、君! こんなところにいたら危ないぞ!」
「あは。あにさんこそ、変わった人やねえ。うちが何か知っとるん?」
 奇妙な少女であった。訛りがある喋り方を隠そうとせず、物怖じする様子もない。
「アラクネだろう。その形のいいお腹を見れば判るさ。このあたりは警戒が厳しいんだ。僕が大声を上げるだけで、自警団が来て取り押さえられるぞ。」
 そしてなにより、彼女のつやつやした胴体からは、8本の脚が生えているのだった。
「アラクネ! あんなんと一緒にせんといて。うちらな、女郎蜘蛛いうねん。ずぅっと向こうのほうから引っ越してきてんで。」
「違うのか? 蜘蛛の魔物なんだろう?」
「そりゃあうちらの糸は蜘蛛の糸やもん、男の人を縛るためのもんやけど。あんな力づくのやり方は筋が通ってへん。それにあんなん、自分が男の人に選ばれへんって認めたようなもんやないの。男の人ぐるぐる巻きにしてもうて、きっと切り株と取り替えたって気ぃつかへんねんで。」
 どうやら「狩り」の流儀が違うらしい。アラクネは確かに凶暴な魔物で、人間を強引に攫ってゆく。しかしそれが、より危険であることを示すわけでもない。旧来の魔物退治のノウハウを活かせるからだ。現に自分も、魔法霧の小瓶を常に携帯している。相手の足に絡みつく粘度の高い不思議な霧で、多脚の魔物に特に有効だ。もし襲われても時間稼ぎができると踏んで、声をかけたわけだが…。
「糸ってな、うちらと男の人が繋がるためのもんやねん。なにも身体どうし繋がるばっかりがやり方やない。ってね、かかさまの受け売り。今はうち、こんなちんちくりんやし、織物もまだまだやけど。きっとかかさまみたいな、男の人の気持ちを縛る、素敵な女になんねん。」
 そう誓うように語る少女の目は真剣だ。ああ、質が悪い、と思う。凶暴な魔物なら対処は簡単なのだ。だが彼女は魅了術すら使っていない。そんなものなど必要ない、純粋な人柄だけで人間を篭絡できるのだから。見よ、彼女こそが、現代における本当の魔物だ。
「魔物の中にもそんな考え方があるのか。立派なお母様なんだな。」
「せや、うちの自慢のかかさまや。…あ、でも、会わせたげへんよ。あにさん、絶対惚れてまうもん。」
「そうだな、お父様を困らせるようなことをするつもりはないよ。」
 そうさらっと返せたのは、既に別の娘に惚れてしまったからだろうか?
「あ…。ととさまな、亡うなってもうてん。去年。」
「それは…。無神経なことを言ってしまったな。申し訳ない。」
「ううん、ええんよ。うちらがこっち来たんも、ととさまのお骨をこっちのお墓に納めるためやし。かかさまも、本当はうちに気ぃ使わんと、新しい人見つけなあかんのやけど。あにさんええ人みたいやから、かかさま、に…? そんなんあかん…なんで?」
少女の目がすぅっと見開かれる。じぃっとこちらを見て、
「ふふふっ。くすくすくす。」
夢見るような、蕩けるような、幸せそうな笑顔だった。
「ええなぁ。これ、ほんま気持ちええなぁ。」
彼女が何に気づいたのか、何が幸せなのか、分からないはずがない。彼女は魔物、彼女は狩人なのだから。
「うちらは決して欲張りやない。でも本当に大事なもんには努力を惜しまへんねん。」
今度は挑むように、再びこちらを見据えて。
「1年ちょうだい。きっと、きっとあにさんを満足させてみせるから。」
そう言いながら少女は身に着けていたマフラーを外した。グレーと山吹色の糸で編まれた、絹のマフラーだ。そのまますっと距離を詰めてくる少女に、テオドールは身動きができなかった。少女は背伸びをしながら(蜘蛛がどうやって背伸びをするのかは確認できなかった)腕をまわして、そのマフラーをテオドールの首に巻いた。冷たい風にも流されない少女の香りが届き、テオドールは軽い眩暈を覚えた。だから、その直後に頬を掠めた感触に気付いたのも、身を離した少女が悪戯っぽい笑みを浮かべるのを見てからだった。
「自分用ので申し訳ないけど、とりあえず受け取って。別に、だからどうこうっていうもんやないから。」
普通のアラクネからならば、織物を受け取るのは服従のサインである。だが、
「うちを忘れんでほしいから渡したけど、うちは約束で縛るようなことはせえへん。男の人は、織物《いと》で縛るのが女郎蜘蛛やねん。」
そのまま少女が1、2歩下がることで、どれだけ顔が近づいていたかをテオドールは今更に自覚した。
「ほな、うちは行くな。かかさまこれ以上待たせたらあかんし。来年。この林の葉っぱがみんな落ちた日に。また、会いに来るから。」
それだけ言うと少女は身を翻し、黒に鮮やかな黄色の縞が入った8本の脚をひらめかせて軽やかに走り去った。途中で一度振り返って手を振ってきたが、その後程なくして彼女の姿は枯木の林に消えた。
 テオドールは結局、呆然と立ち尽くすだけだった。頬には少女の唇の感触がはっきりと残っている。一方で少女はテオドールの住所どころか名前すら訊かず、自らも名乗らなかった。見逃されたのだろうか。彼女に今決断を迫られていたら、間違いなく自分はついて行っていた。
 これでもテオドールも、毎週教会へ行く程度には教団の信徒である。魔物趣味が忌まわしい変態性欲だとされていることくらいは知っている。なにしろ安易な誘惑に屈して人間の子孫を残さないばかりか、その妨げになる魔物を殖やすのである。殖えよと命じられた神に背くこと甚だしい。
 教団の教えを鵜呑みにするつもりはない。魔物にも偏見を持たないよう努めている。それでも自分は魔物趣味ではないはずだ、とテオドールは思う。もちろん少女趣味でもない。なぜ自分は彼女に惹かれてしまったのか。彼女の目だ。なりたい自分を正攻法で目指す、純真な目。
 あるいは、テオドールもどこかで魔物に偏見を持っていたのかもしれない。知能の低い野蛮なものと思い込んでいて、彼女がそうでなかったから意表を突かれただけではないだろうか。それを認めてしまうのは悔しいことだったが、魔物趣味の変態だと自覚してしまうよりはましに思える。とりあえず、魔物も個々人を見て判断しなければならない、と無難な教訓を捻り出して、テオドールはそれ以上考えるのをやめた。

 次の秋、公園の木々が葉を落とし始め、1歩ごとにさくさく鳴るようになると、テオドールは前の年に出会った少女のことを意識せざるをえなかった。この際なので、例のマフラーも使っていた。軽いがしっかりと暖かく、肌触りも良い。初めは絹かと思ったが、きっと、虫を殺さずに得られた繊維だったりするのだろう。
 あの異国から来た蜘蛛の少女が本当に現れるかは、半信半疑だ。そもそも彼女とは、1年前にほんの5分ほど話しただけである。再び会えるかどうか判らず、既に顔も思い出せないほどなのに、テオドールはどうしても気になってしまっていた。つまりもう一度会いたいと思っているのだ。その時が、人間としての人生の終わりであるにもかかわらず。
 公園に差し掛かると、木の葉が全て落ちていることに気がついた。昨日の雨によるものだろう。この先の一歩一歩、どれが奈落に通じているとも知れないが、既に逃げる気はない。五感が鋭くなり時間がゆっくり進むような錯覚を感じながら、テオドールは普段どおりの歩調を努めて保ち、歩いてゆく。
 はたして、少女はいた。この時期の林は見通しの悪い場所ではない。だが、テオドールが遊歩道の分岐を曲がると、少女が目の前に立っていた。
「お久しぶりです、お兄様。また会えて、本当に、嬉しい…。」
 見た目はかなり変わっているようだが、間違いない。まっすぐな目の光をそのままに、落ち着いた雰囲気を纏うことを覚えたのだろう。
「それにそのマフラー、使っていてくれたんですね。」
「僕も、会えれば良いと思っていた。これまでの生活に未練がないわけじゃないが、実際に君に再会して、そうだったんだって実感した。どこへでも、連れて行ってくれ。」
「えっと、こんな朝早くから、ですか? お仕事は良いんですか?」
 話がかみ合っていなかった。魔物に魅入られた男は連れ去られて帰ってこないというのが常識である。人間にとって魔物が脅威である一方、魔物にとっても人間社会は無視できない脅威のはずだ。特に彼女のように外見が大きく異なる場合には。
 そう考えながら少女の下半身を見やったテオドールは奇妙な感覚に襲われた。少女の下半身だけが、ピントが合わないというか靄がかかったようというか、なぜか全体のシルエットすら認識できないのだ。テオドールは軽い頭痛を覚えて思わず顔をしかめた。
「あ、ごめんなさい。ちょっとだけ目を瞑ってもらえますか?」
 テオドールが従うと右のまぶたに柔らかいものが触れた。直後に左にも触れて、
「もう良いですよ。どうですか?」
 目を開けると、ちょっと自慢げな蜘蛛の少女がいる。
「私の下半身に意識が向かないように、まじないを掛けてあるんです。お兄様は私の正体を知ってらっしゃるから上手く働きませんけど、普通は何の疑いも持たれません。今お兄様には、まじまいに惑わされないような、まじないを掛けさせていただきました。」
そう言って少女は微笑む。人間社会など何の脅威でもないと言うように。
「それで、ご通勤の途中なんですよね。お帰りはいつくらいですか?」
「いや、大学に通っているんで夕方くらいだが…。」
「学生さんですか! 凄いんですね。」

 結局、テオドールは拍子抜けした気分を味わいながら、普段どおりの一日を過ごした。夕方に喫茶店で少女と待ち合わせ、テオドールの部屋へ向かう。住所くらい調べ上げられているのかと思ったが、そうでもないようだ。訊けばマフラーに位置を知らせるような術が施されていて、いざとなればそれを頼りにするつもりだったと言う。本当はそれもずるなんですけどね、と少女は肩を丸めた。
 少女は昼間のうちに一度家に戻って母親に今日は戻らないと告げたということで、着替えの入った鞄を持って来ていた。玄関で彼女は持参した雑巾を取り出し、裸足で失礼します、と言って脚を拭った。几帳面かつ所帯じみたその行為は、幻覚で街中を欺くしたたかな魔物の側面との落差もあり、テオドールに不思議な安心感を与えた。
 夕食は、少女がぜひ自分にやらせてほしいと言って作った。テオドールの部屋にあった材料を使い、できたのはシンプルなシチューだったが、自分で作ったものとは明らかに違う。火加減なのか塩加減なのか、作り方一つでこれほどおいしくなるのかと、テオドールは驚くやら感心するやらだった。

 洗い物で使った水を井戸から補充して、片付けは終わりである。そして、ここからが本題だ。
「あの、お兄様。改めて、言わせてください。」
 来た。テオドールは少女に向き直った。
「1年前に初めてお会いしたときから、あなたのことをお慕いしています。ただお側に置いていただけないでしょうか。」
「僕は、まだそういう意味で好きかどうかは、言えない。ただ、君のことをもっと知りたいって思う。そう、僕は君のことを何も知らないんだから。」
「はい! そう言っていただけるだけで充分です。ふふふ、くすくす。」
 ころころと笑う何の曇りもない少女の表情に、テオドールは抱き締めたくなる衝動をこらえるのが大変だった。
「それで、まずは君の名前を教えてくれないか。」
「あは。知ってます? 私達の住んでいたところでは、名前を知られることは、支配されることに通じるとされているんですよ。私のこと、末永く支配してくださいますか?」
テオドールはぎょっとすると同時に、これまで少女が名乗らなかったことに納得した。
「冗談です。そういう考え方はありますけれど、家族としか関わらずに暮らせる身分の方だけの話ですよ。私、椿といいます。向こうの家にあった赤い花の咲く木です。こちらではまだ見たことはないですけれど。」
「ツバキ、か。不思議な響きだけれど、花の名前なのか。その花も、ぜひ見てみたいな。」
「ええ。花だけと言わず、あの村をいつかはお兄様にも見ていただけたらと思います。こちらに比べたら不便な部分もあるでしょうけれど、綺麗なところですよ。それで…。」
「僕の名はテオドールだ。テオと呼んでくれ。」
「テオ…お兄様。」
「呼び付けで良い。こっちでは、それこそ兄弟でも、それが普通だから。」
「テオ…テオ。ふふ。」
 そして、どちらからともなく2人は口付けた。すかさず舌を差し込まれテオドールは驚いたものの、それに応えてツバキの咥内を味わった。口付けていた時間はそれほど長くなかったはずだが、テオドールは軽いめまいを感じてよろめいた。ツバキは細い腕ながらしっかりと抱きとめ、テオドールをベッドに座らせた。
「すみません。私の唾液には軽い麻痺毒が含まれているんです。すぐに抜けると思います。その間に、少し早いですけれど、巣を張らせてもらって良いですか?」
 蜘蛛女であるツバキはベッドで眠ることはできない。代わりに夜の間だけの巣を張ってその上で休むのだという。テオドールの了承を受けて、ツバキは糸の端を部屋の柱に取り付けた。糸を引っ張ったり壁を叩いたりして部屋の強度を確かめている。しばらくそうしていてイメージが定まったのか、後の作業は早かった。幾本も同時に引き出される糸を、長い脚で器用に手繰り寄せ、縒り合わせて張り渡してゆく。あっという間に部屋の半分が巨大で頑丈な蜘蛛の巣に占拠されてしまった。
「今日は粘着性の糸は使っていませんから、テオもこちらにどうですか?」
 身体が動くようになったテオドールが巣に上ってみると、糸は適度な弾力があって気持ちが良い。部屋に斜めに張られた巣はかなり急な傾斜があるのだが、不思議としっくりきて不安定な感じはなかった。寝転んだテオドールのそばにツバキが寄り添った。
「ふふ。テオが巣を揺らすのを感じていると、なんだか興奮してしまいます。」
 そう言うツバキの顔が妖しく上気していることにテオドールもまた、少しの恐怖と共に激しい興奮をおぼえた。そして気がつくと、ツバキはテオドールの両手首を頭の上で束ね、糸で結んでしまっていた。
「何でこんなことを!?」
 これには思わず声が裏返ってしまった。
「ハンデです。こういう時って、男性がリードするものらしいですけれど、私は対等でありたいな、って思っていて。お互いが気持ちよくするっていうのが大事なんじゃないかと。なんて言うと生意気ですけれど、私は、テオを気持ちよくしてあげたい、ううん、気持ちよくなって欲しいだけなんよ。」
 さっき抱きとめられたときにも思ったがツバキのほうが力が強いんじゃないかとか、おそらく努力して変えたはずの訛りが戻ってきているとか、言いたいことはあるはずだがテオドールは何も言えなかった。興奮したツバキが怖いからではない。気持ちよくなって欲しい、という言葉は彼女の本心だと感じたからだ。
 脱がすで、とそれでも断って、ツバキはまずシャツのボタンから外してゆく。
「あはぁー。テオの胸板や。よう締まっとうねぇ。あーずっと頬ずりしてたい。冷えてきたしな、乳首が勃ってもうてる。」
「あ、そんなところ、摘むなっ」
「痛かった!? …ちゃうな、ええんやね、これ。せやったら舐めたげるね。」
 ツバキは嬉々としてテオドールの乳首に吸い付いた。左を舌で転がしながら、右は指で摘み、押し込み、軽くつねる。しばらくするとその逆。乳首そのものよりも頭から背筋に抜けるような刺激にテオドールは身悶えた。
「そんな、同時とか、やめてくれ…。うわ、ぁ…。」
「あは。気持ちいいんやね、テオ。魔物に、それもこんなぺったんこの子に責められて気持ちよくて、もっとして欲しいんやね! ええんよ、そのためにうちがおんねん。テオがええってゆうてくれる限り、うちはここにおんで! せやから、なぁ、下も、見んで…。」
 ぞっとするような笑みを浮かべ荒い息をしながらも、ツバキはあっさりとテオドールのズボンを解き、下穿きごと脱がせてしまった。充分に硬くなったテオドールのものが、幼さを残す愛しい少女の、今は興奮に歪んだ顔の前に晒された。
「ああ…! これがテオの、テオの大事なところ! こんなに大きくなるんやぁ。ひゃ、熱、い。今、気持ちよくするからな。ちゃんと解き放ったげるから。」
 ツバキは焦らすことなく素早く扱き始めた。明らかに自分のものと異なる冷たく細い指、緩急をつけた予測できない動きにテオドールはたちまち追い詰められた。
「なん、でこんなに上手い、んだ。」
 問われてツバキは少し冷静になったようだ。
「あ、違うんよ、初めてやよ。なんとなく判んねん。魔王様のご加護やねんて。ちゃんと気持ちいいみたいで良かったわ。ふふ、でもほんまにみっともないねぇ、テオ。こんな洗濯板に一方的に責められて。気づいとう?テオの腰が上下に動いてんの。でもうちの顔も今、多分見られたもんやないやろうし、おあいこやろか?」
 言いながらもテオドールを責める手は全く緩まない。
「もう、限界、ごめん、どいて!」
「え、出んの? うちの手で出してくれんの?」
 それに答える余裕はなかった。急に膨れ上がった快感が、堰を切って吐き出されてゆく。
「わわ、あぁ! 凄い、熱い! うわあはぁ〜凄いよこれ! テオの、テオのー! あははははひゃはは! ふひゅー、ひゅー、ぅ!」
 テオドールの精液を掌に受けて、狂笑しながら痙攣するツバキを見ると、なすがままだったテオドールも流石に心配になった。慌ててもがくと、手首の拘束はあっけなく外れた。美味しい美味しいとうめきながら掌を舐めているツバキを抱き締めて、背中をさすってやる。しばらくすると、ツバキはもぞもぞと腕の中から抜け出した。気まずそうに視線を下げている。
「自分でも言いましたけど、お見苦しいところを見せてしまいました。ごめんなさい。」
 今日再会したときと同じ、都会風の話し方だった。
「テオをちゃんと最後まで導けたことが嬉しくて、あと、初めて受けた精力に酔った、とでもいうんでしょうか、ちょっとはしゃいでしまいました。」
「そっか。意識はしっかりしてるみたいだな。あとは身体、本当になんともないか? 気分が悪くなったりしたら、夜中でも絶対起こすんだよ。」
「なんですかそれ。子供扱いしないでください。」
「良いじゃないか。さっき自分のことを散々子供だって言ってただろ。」
「あれは、体型についてです。その、この1年で全く成長しなかった部分の1つですから。それと、テオが悦んでくれてる気がして。小さい子に責められるのが良いのか、惨めな自分という状況に興奮しているのか…まだよく判らないんですけど。」
「やめて…! そんな冷静に分析しないでくれ。」
「あは。これから実践で確かめれば良いことですからね。それに『私が』悦ばせられないと意味ありませんし。今はスレンダーが趣味だとしても、おいおい変えていかないといけません。私だってあのお母様の娘です。胸を諦めたわけではありませんから。」
 こうして、初めての夜は更けてゆく。幸い、ツバキはこの人とも魔ともつかない生活を続けても良いと言ってくれている。初めから地に落ちたテオドールの体面だが、ゆっくり改善してゆけば良い。テオドールは楽観的にもそう考えていた。
10/06/03 21:55更新 / 県 豊雄
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